**ティーブレイク**

偵察編 ティーブレイク

 月曜から水曜までの孤立無援の戦いを凌ぎ切り、木曜に情報収集に駆け回ったようちゃん。そこで集めた事実情報を元に、根本から推論を立て直しました。このお話が単なる謎解きなら第十八章でほぼ終わりなんですが、本話はそういう趣旨で書いたわけではありません。そう、このお話はあくまでも『戦記』なんです。ようちゃんの戦いはまだ終わってないんですよ。


 自分がされたことは倍返しするぞ! 言うのは簡単ですが、元々は平和主義者のようちゃんにとって、実際に実行するのはものすごーく大変なんです。不退転の決意を揺るがせないようにするため、姉や友人たちに決戦を宣言して、自ら退路を断ち切ったようちゃん。


 ようちゃんが戦う相手は誰か、何を戦果にするのか。そして、ようちゃんは勝てるのか。生き残れるのか。自分の全てを懸けたようちゃんの天下分け目の戦いが、これから始まります。


◇ ◇ ◇


 さて。ようちゃんが言ってましたよね。自分の武器は論理ロジックしかないって。でも実は、論理で戦うっていうのはとってもしんどいことなんです。なぜか? 論理を組み立てるために欠かせない材料は誰もがそうだねって認めてくれる事実ファクトですが、万人が疑いなく認める事実っていうのはごくごく限られるからなんです。


 例えば、ようちゃんが何野羊っていう人物であるっていうことは、ようちゃんにとっては疑いようのない事実です。でも、ようちゃんを取り巻く人物がどこの誰なのか。たったそれだけのことでも、ようちゃんが自力できちんと証明するのはとても難しくなります。本人確認だけでも難しいのですから、性格や嗜好、癖のような不定形で規定しにくい因子ファクターを事実として論理に組み入れるのは、厳密に言うと不可能。事実だけを積み重ねて結論に導くなんてことは、とんでもなく困難なわけで。


 不可能なことをわざわざする意味あんの? そういう思考停止に陥ってしまわないために、わたしたちは作業仮説というのを立てて論理を組むことが多いんです。

 どういうやり方か。いくつかの事実を組み入れて、ああかもしれないこうかもしれないといろんな仮説シナリオをこさえます。それが正しいかどうかは、こさえた時には深く考えなくてもかまいません。どんなシナリオでもいいんです。

 その後で、シナリオを当てはめたり動かしたりした時に何が起こるか、結果が現実にちゃんと適合フィットするかを検証します。現実と一致するようならシナリオを採択し、合わなければ棄てる、もしくは合うようにシナリオを手直しする、それを繰り返すという方法ですね。


 なんか小難しいと思います? でもわたしたちは、無意識に毎日それを繰り返してるんですよ。だって誰もが間違いないと認める事実なんか、そんなにないんですから。わたしたちは、情報を入手するたびに不変の事実だと思っていることを頭の中で修正し、書き直していきます。それを使って仮説を立てては壊しして、自論をアップデートしているんです。そしてようちゃんも、今回の件ではその作業をずっと繰り返してるっていうことなんですよ。


◇ ◇ ◇


 わたしは『べき論』が嫌いです。自分にとっての真実は、必ずしも他人の真実とイコールではない。なーんにも珍しいことじゃないですよね? そして何が真理か、真実なのかを証明することは誰にも出来ないんですよ。それなのに、○○は正しい、○○が真実であると声高に主張することは、行き過ぎると他者の思想信条を無神経に蹂躙じゅうりんすることになるんです。


 信じる、ただ主張するのはその人の自由です。それは一向に構わないんですが、べき論を好んで展開する人は自分の論の中にたて籠る傾向があり、他者の意見や反論を上手にこなせないように思います。客観的な議論をするならいいんですが、真実だと信じ込んでいることの穴を突かれると、怒りのスイッチが入ってしまいやすいんですよ。冷静さを失い、論拠を示しての反論が出来なくなり、指摘した人を頭から全否定しようとする傾向があるんです。


「おまえのような○○に、偉そうなことを言われたくない」


 ……ってね。そうやって論から逸れた途端に、論者の主張はすぐに価値を失ってしまいます。


 でもね。人間は感情に支配されている生き物です。感情の動きを完全に排除して論を展開することなんか、誰にも出来やしません。もちろんわたしも含めて、です。どんなにピュアな論理に見えても、それが人の口から出て行動を支配する時には、結局感情のノイズでぐにゃぐにゃ曲がっちゃう。それをしっかり意識しておかないといかんなーと。

 だからこそ、わたしはべき論から出来るだけ遠ざかりたい。いつも思考をゆるゆるにしておいて、作業仮説を自由自在に動かせるようにしておきたい。論理の袋小路に落ち込まないようにするには、そういう考え方がいいかなあと思ってます。


◇ ◇ ◇


 第二十章、二十一章は、クライマックスのバトルシーンになります。そして、めちゃめちゃ長いです。ようちゃんがどのような戦いぶりを見せるか、それがみなさんの予想と一致するか。


 どうか、じっくりと観戦してください。


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