3-2:晴笠美織高校進学計画
「学校なんか行ってたら、その間に買取キャンペーンが出来ないじゃない」
美織の主張はこうだ。
一理ある。が、無茶苦茶でもある。
「でも、だからって学校を休んでいいことには……」
「学校なんて将来何をしたいか決まってない人間がとりあえず行くような所よ。私には必要ないわ」
「だ、そうで、高校受験しとらんのよ、この子」
久乃の言葉に事情を知らなかった三人は驚いた。
特に司と葵は、美織もまた自分たちと同じ高校に通うものだとばかり思っていたからなおさらだ。
「あ、なっちゃん、分かっちゃった。漫画とかでよくあるみたいに、もう外国で高校どころか大学まで卒業してたりするんデショ?」
奈保が言いながら、ほえーと尊敬の眼差しで美織を見つめる。
「んー。昔から美織ちゃんの家庭教師をしとるけど、この子、ゲームや商売はともかく、勉強はあまり出来へんで?」
あららと奈保の目つきが途端に可哀相な子を見るものへ変わった。
「うっさいなー。とにかく私はいいの! 私にはやるべきことがあって、学校なんか行っているヒマはないんだからしょうがないの!」
はいはいこれで話はおしまい、と強引に話を打ち切る美織。
それはいつも通りの姿だけれど、司にはどこか無理をしているように思えて仕方なかった。
☆ ☆ ☆
そして。
「ぜーったい、おかしいよっ!」
左右のシニヨンを揺らせて、葵が納得いかないとばかりに言った。
葵の準備でドタバタしたが、充分間に合う時間に出ることが出来たふたりの話題は、自然と美織の話になった。
「やっぱり葵さんも、店長だって学校に行くべきだと思いますよね?」
「当然だよっ!」
葵のシニヨンが激しく揺れる。
「そりゃあ美織ちゃんの言うことも分かるよ。だけど納得できるわけないじゃん」
納得できない……まさしくその通りだった。
美織の主張は、きっと間違ってない。
本人がそれでいいと言うのなら尊重すべきなんだろうなと司も思う。
でも、納得は出来ない。
何故なら……
「だって私たちは朝早くから起きて学校に行っているのに、美織ちゃんだけ遅くまで寝て、起きたらお店でゲームしてるんだよ? それが仕事っておかしいじゃん!」
葵が力説し、司は脱力した。
そうじゃない。いや、葵の中ではそうなのかもしれないが、司は違うことを考えていた。
「あの、僕、考えたんですけど……」
司の同意を得られなくても無視し、ひたすら「美織ちゃんも私たちと同じ時間に起きるべきだ」とか「たまには仕事らしい仕事をしろ!」と熱弁を振るう葵に、司は落ち着かせるように話しかける。
「もっとぱらいそで働く人が増えてくれたら、店長を学校に行かせることも出来ると思うんですよ」
「なるほど、それはつまり大勢の人間で美織ちゃんを拉致する的な意味で?」
葵がワキワキと両手を動かした。
「違いますよっ。店長が学校に行っている間、お店を任せられる人が必要だってことです!」
「冗談だってば。んー、でもさー、本人が学校に行く必要無いって言ってたじゃん。代わりの人を用意しても、行きたくないのなら意味なくない?」
「本当に行きたくない、のでしょうか?」
「へ? どういうこと?」
「だって店長、こう言ったんですよ。『私にはやるべきことがあって、学校なんかに行っているヒマはないんだからしょうがない』って。行きたくないのなら、しょうがないって言葉は使わないと思うんです」
あー、と葵が当時のことを振り返ってみる。
「あ、ホントだ。確かに『しょうがない』って言ってた!」
「でしょ?」
「そうかー、じゃあ代わりの人を用意できれば……」
「店長も学校に通えるはずです!」
まぁ来年受験して、自分たちとは一年違いにはなるが、それこそしょうがないことだろう。
「それに人手が増えたら、店長も休みが取れますよね。いくらゲーム好きでも一年中ずっとお店に出るのは体によくないと思うんです」
どれだけ好きなものでも無茶が続けば疲労は蓄積され、ある日、突然の悲劇が訪れることもある。
それを司は叔父の死で知っていた。
「そうだね。よし、司クン、このプロジェクト絶対成功させるよっ!」
「うん。やりましょう!」
自然と気合が入った。
「ところで司クンさ?」
「はい、なんでしょう?」
「美織ちゃんの代わりが出来るような人って……どこにいるの?」
晴笠美織高校進学計画、前途多難であった。
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