29.溶け合う心

 夕日が地平の彼方へと沈み、辺りに夜の帳が降りてきた頃。

 冒険科の校舎内には既に人気が無く、人知れずそこに響いていた泣き声も、いつの間にか止んでいた。

 辺りには静寂が満ちており、明かりの無い廊下は薄暗い。そこは昼間の活気ある姿とは正反対で、もの悲しさすら感じられた。


 その校舎の医務室で、ヴァイスとアリスは抱き合っていた。

 まるで、この世界に二人しか居ないとでも言うように。お互いを離さぬようしっかりと抱きとめている。

 しばらくの間泣き声を上げていた二人は、その涙も枯れ果てたのか。今では声ひとつ漏らさず、落ち着いたような様子でそこにいた。

 周りに音は無く、二人はただお互いの体温と鼓動のみを感じていた。それが心地よくて、いつまでもそのままでいたい欲求に駆られていたのだが。


「っん……」


 アリスが喉を鳴らし、ヴァイスの腕の中で身じろぐ。

 二人は床に座り込むような形で抱き合っていた。アリスは完全にヴァイスに身を任せる形であったが、どこか負担でもかかっていたのか、まるで寝返りを打つかのように身を捩った。


「あ……、すいません!」


 ヴァイスが慌てた様子で、抱き締めていた腕の力を抜いた。そのまま、両腕を広げアリスを解放する。

 開放されたアリスはと言うと、それでもしばらくヴァイスに抱き付いていたのだが。動かない彼女見て困ったような顔をするヴァイスを、その瞳に写して。少し名残惜しそうにその身を離した。

 明かりをつけていなかった為に薄暗くなっていた医務室で。それでもお互いがはっきりと認識できるくらいの距離で、二人は正面から顔を見合わせた。


 二人とも、酷い顔だった。目は腫れ、頬には涙の跡が残っている。アリスの美しい銀髪もくしゃくしゃに乱れており、とてもじゃないが、そのまま人前には出れないような様子であったが。

 それに険悪感は感じなかった。お互いに情けない姿は既に晒しているし、そんな事で今更思う事など無く。そんな姿の彼女をどこか愛おしいとさえ、ヴァイスは思った。

 そんなヴァイスが、思わずと言った様子でアリスを見つめていると。彼女はが少し恥ずかしそうな様子で、口を開いた。


「なんか、凄い、泣いたね」

「えぇ。……カッコ悪い所を見せました」

「それは、お互い様だと思うよ」

 

 そう話すと、二人はくすっと笑みを浮かべた。

 二人の声は小さく、まるで囁く様な音色であったが。静かな室内で、なおかつ、手を伸ばせばまた抱き締められるほどの距離で寄り添っていた彼らには、お互いの声がしっかりと届いていた。

 二人の表情は、随分と穏やかに見えていた。思い切り泣けたおかげだろうか、その心に立ち込めていた暗雲は、すっかりその姿を消していた。


「さて、と」


 そう呟いて、ヴァイスが立ち上がる。起きてからしばらく時間も経ったせいか、それとも精神的に落ち着いた為か。身体を蝕んでいた倦怠感は、かなり薄れていた。

 よほど治癒魔法の腕が良かったのか、肉体的な痛みもほとんど無かった。全身に怪我を負っていたはずなのに、まるでそれが嘘だったかのような現状に、ヴァイスは驚きつつも感謝の念を抱いていた。

 例えば今すぐ戦えと言われても、これなら問題は無さそうだった。

 そんな事を考えながら、ヴァイスは己の身体の状態を確認していた。両の掌を開閉したり、肩を回したりと、違和感無く動く事を確かめている。

 そして、ヴァイスのそんな様子を見て、アリスも立ち上がり。やはり心配そうに、彼に声を掛ける。


「……大丈夫? 本当は、まだ寝てた方が良いと思うけど」

「いえ、もう大分良さそうです。たしか、シャルロット先生でしたか。後でお礼を言っておかないと」

「そうだね。今は皆と一緒に出てるけど。……そう言えば、何処に行ったんだろう?」


 アリスが、思い出すように首を傾げている。皆とは、ゲイル達の事だろうとヴァイスは予想した。こんな時間まで何処かに行っているのだろうか、と一瞬思ったが。それよりも、これからの事にヴァイスは思考を向けた。


「先輩」


 ヴァイスが、アリスを呼んだ。それに反応して、彼女がヴァイスに目を向けると。ヴァイスは、先程までとは打って変わって、息の詰まる程の真剣さで、彼女を見ていた。

 それに、アリスが少し驚いたように目を見開いたが、ヴァイスは気にせずに言葉を続ける。


「俺は、ブラッドの所に行ってきます。部屋に来いと言われたのなら、それが何処かも聞いてるんでしょう? 教えてください」


 そう言って、ヴァイスはアリスを見つめた。その目には、強い意思が宿っていた。先程のように、考え無しに行こうという様子ではない。まるで何かを決心したような、覚悟したような。そんな様子だった。

 しかし、それでも。アリスは、それを簡単には認められない。

 同じく真剣な眼差しを見せ、アリスは首を振りながら。


「……駄目だよ。行ってもどうしようもないんだから。私達では勝てないし、他に方法も無いんでしょう?」


 方法が無い、と。そこを悲しそうに、それでも問い掛けてくるアリスに、ヴァイスも首を軽く振って。


「いえ。もう、戦おうとかは思っていません。誠心誠意謝って、土下座してでも、先輩の約束は撤回してもらいます」


 そう、ヴァイスは答えた。

 正直な話、ヴァイスにとって、ブラッドに対して頭を下げるなど冗談ではなかったが。今は、そんな事どうでも良い気分だった。

 どれだけ屈辱的な目に遭おうと、たとえどれだけ傷付こうと、アリスの約束は撤回してもらわなければならない。

 土下座しろと言うなら、喜んで地に頭を擦り付けようと。ヴァイスはそう思っていた。

 しかし、アリスの方は納得いかない様子だった。少し目を伏せて、呟くように言う。


「……難しいと思うよ。なんというか、私に興味持ってたみたいだし」


 決闘時の、ブラッドの舐めるような視線を思い出し、アリスは身震いする。しかし、まるでそれをごまかす様に苦笑して、


「こんな身体の、どこが良いんだろうね?」

「そんな事は無いです。先輩は魅力的です。正直、あいつの気持ちは分からなくも無いです」

「ふぇ? あ、ありがとう……」


 ヴァイスは、至極冷静にそのように口にした。

 それに対して、アリスは動揺したようにお礼を言っていた。冗談のように言ったのに、予想外に真正面から褒められた為に、驚いているようだ。その顔は赤く染まり、恥ずかしそうに目を伏せている。

 

 そんなアリスを、ヴァイスは愛おしそうに見つめて。その表情にも柔らかい笑みが浮かんでいたが。

 それは、すぐに消えうせる。代わりに、真剣と言うには鋭すぎる程の表情が浮かび上がった。視線は、何処か遠くを見つめているようだ。


「大丈夫です。何とかします。どうしようもないなら、その時は……」


 ヴァイスが、まるで自分に言い聞かせているように呟いた。

 アリスを守るためなら、なんだってしてやる、と。それが例え、許されざる事だろうと。そう、ヴァイスが思う。彼の眼に、仄暗い闇が宿ったようだった。


 今なら、限界突破リミットブレイクも使えるくらいには回復している。あの時は、決闘だったから蹴り飛ばすだけだった。殺してしまわぬように、念のために剣は使わなかった。

 しかし。限界突破を使って、訓連用でない自分の剣を使えば、例えブラッドでも。

 

 そうだ。ブラッドやつが、どうあっても約束を撤回しないなら。アリスを、例え一日と言えど、好きに扱うと言うのなら。それならば、その時は――


「ヴァイス君」


 アリスの声が、薄暗い室内に響く。その声に、ヴァイスが目を向けると。

 アリスが、射抜くような目をヴァイスに向けていた。その瞳は、全てを見抜いているようで。


「……危ない事、考えてるでしょう」


 呟くように、アリスが口にした。まるでそれを確信しているように、はっきりとした口調で、彼女は言った。

 彼女の手が、ヴァイスの頬にそっと添えられる。


「駄目だよ。そんな事、駄目なんだから」


 アリスが、まるで子供に言い聞かせるような音色で言葉を紡ぐ。その瞳が、不安そうに揺れていた。

 それにヴァイスは動揺する事も無く、彼女の手に己の手を重ねて。


「そんな事、ないですよ。危ない事なんて……」

「嘘。分かるんだから」


 誤魔化す様に言うヴァイスの言葉を、遮るようにアリスが声を上げる。

 彼女は、完全にヴァイスの心を見抜いていた。その考えを、完璧に把握していたのだ。


 そんなアリスの態度に、ヴァイスは、思わず苦笑する。そして、参ったと言った感じで溜め息を漏らした。


 ――先ほど、通じ合えたと思ったばかりではないか。なら、自分程度の考える事など、この人には筒抜けなのだろう。


 ヴァイスはそう思い、さあどうするか、と頭を捻ろうとしたのだが。アリスが続く言葉を口にした。


「大丈夫だよ。明日一日だけだし。いくら彼でも、そんな無茶しないよ。それに、何かあったらすぐ逃げるから」


 そう言って、彼女はヴァイスの瞳を覗き込む。まるでヴァイスを安心させるかのように、正面から彼を見つめている。

 すぐ逃げるなど。気力の無いアリスに、そんな事が出来るのだろうか、と。ヴァイスが不審げな目線を返すが。

 アリスは、それを否定するかのように首を振り、

 

「もう十分、ヴァイス君は頑張ったよ。私の為に、頑張ってくれたもん。だから、わたしだって何かしたい。わたしも、あなたを守りたい」


 アリスが、ヴァイスの頬から手を引いた。そして、両手を胸の前で握り、ガッツポーズを見せている。


「だから、ここは私に任せて。私も頑張るから!」


 そう言って、アリスは笑顔を見せた。


 確かに、ヴァイスはアリスの為に行動していた。彼女を守る為に、行動していた。それは、紛れもない真実だったのだが。

 それだけでは、無いのだ。それだけでは、決して、無いのだ。


 ――本当に、この人は。俺の事を、こんなにも分かっているのに。……どうして、なんにも、分かっちゃいないんだろう。


 唐突に。

 ヴァイスが、アリスを抱き締めた。正面から、勢い良く、有無を言わさず。先程とは違い、乱暴とも言えるような様子で、彼女をその腕に捕まえる。


「うわわ!? ヴァイス君!?」


 突然の行動に、アリスが心底驚いたような声を上げたが。そこに、ヴァイスの搾り出すような声が届く。


「……嫌だ」


 感情を、押し殺したような声で。彼は、呟くように、アリスにだけは聞かせるように、言葉を続ける。


「先輩を、他の男の好きにさせるなんて、絶対に嫌だ。そんなの、許せない」


 それは、ヴァイスの嘘偽り無い気持ちだった。アリスを守りたい。アリスを助けたい。

 それと同時に湧き上がるそれは、独占欲か、それとも支配欲か。つまりは、アリスを、他の奴に渡したくないという、暗い想い。

 

「先輩の為じゃない。俺の為です。本当、かっこ悪い話ですけど。それでも俺は。先輩を、アイツになんか渡したくない」


 この人を、他の男になど触れさせない。ましてや、ブラッドになど。そんな事、絶対に許せない。

 ヴァイスは、アリスを抱き締める。それは、まるで我侭な子供のようで。心底情けないとも思うけども、それでも、ヴァイスはアリスを離さなかった。もう、自分の感情を誤魔化す事は出来なかった。


「ヴァイス、くん」


 先ほどよりも、ずっと力強く、彼はアリスを抱きしめた。

 その全身を優しく締め付けるような力に、アリスが熱っぽい息を吐く。

 ほとんど告白同然のその言葉に、アリスも目が潤み。ヴァイスの情熱的な抱擁に、流されそうになるが。

 

 それでも。

 アリスも本気だった。彼女の、ヴァイスを助けたい、彼をもうこれ以上傷付けたくないという気持ちも、本物なのだった。

 だから、アリスは。彼を振りほどく事は出来そうにないが。それでも、彼に言い聞かせるように、


「……大丈夫だよ。明日、一日だけだから。そうしたら、私は戻ってくるから。ちゃんと、に戻ってくるから……ね?」


 ヴァイスの腕の中で、アリスはそう囁いた。彼の背中に腕を回して、優しく抱き締める。

 それは、彼を説得する為のものだったが。それは、完全に逆効果であって。


 ――本当に、何も分かってない。自分が、どれ程魅力的なのか。そんな事を言われて、俺が、一体、どれ程……!


 ヴァイスが、更に強くアリスを抱き締める。

 二人の身体は、完全に密着していて。先程は暖かく感じていたその身体は、今は熱く燃えるようだった。

 泣いていた時には感じる余裕も無かった、押し付けられるアリスの身体の膨らみが、脳髄を溶かすような興奮と快感をヴァイスに与えてくる。

 心臓は痛いほどに鳴り響き、それをもはや隠す事なくアリスを抱き締めれば。それと同じだけの力で己の身体を抱き締めてくるアリスに、如何しようも無いほどの愛情と、抑えられないほどの劣情が溢れてくる。


「先輩……」


 呟くように、ヴァイスが言った。もう、喉はからからに渇いていて。それは、かすれる様な声だった。

 それに反応するように、アリスが身を捩って。同じく、彼に呟いた。


「ヴァイス君。ねぇ、ヴァイス君も、名前で呼んで。その方が、嬉しいな……」

「……アリ、ス……」

「うん。ヴァイス君……」


 どこかたどたどしくも、ヴァイスが名を呼べば。

 アリスは、幸せそうな微笑を浮かべて、ヴァイスを見上げた。その瞳は潤んで、頬は朱に染まっている。濡れた唇は薄く開かれて、そこから熱い吐息が漏れていた。

 どちらともなく、二人の顔が近づいて。触れそうなくらいに、近づいて。

 ヴァイスの心臓は、張り裂けそうだった。思わず泳ぎそうになる瞳を、必死にアリスに向けると、彼女は、身を任せるように目を瞑っていた。

 

 そのまま、ヴァイスは恐る恐ると言った様子で。アリスの唇に、己の唇を近づけていった。

 ほんの一瞬、唇に柔らかな感触を感じて。それは、直ぐに離れてしまった。たったそれだけで、今まで感じた事も無いほどの熱が、顔中を走り回った。

 興奮で頭はくらくらと眩暈を感じるほどで、身体は暴れ出したいほど猛り狂っていて。

 それでも、その一瞬の感触が忘れられず。二人は、またもゆっくりと、お互いの唇を近づけていった。

 


 二人は探るように、何度も口付けを交わす。啄ばむ様に、お互いの意思を確認するかのように、短く何度も唇を触れ合わせる。

 それは、二人の心が溶け合っていく様で。二人は、段々と遠慮なく、己の口を相手に押し当てるようになっていく。

 すっかりと陽が落ちて、もはやはっきり暗いと言えるほどの室内で。その静寂と暗闇の中、二人の吐息と水音だけが響いていた。


「っはぁ、待って……眼鏡、取る……」


 アリスが顔を離して、大きく息を吸った。そして、邪魔になったのか、眼鏡を外して右手に握る。

 どこかに置きに行くのも億劫なのか、そのまま彼女は、ヴァイスに視線を戻した。眼鏡越しではない直の瞳が、ヴァイスを見つめている。その瞳は蕩けた様に濡れていて、もはやどちらのか分からぬ唾液で光る唇からは、柔らかそうな舌が覗いていた。


「……!」


 ヴァイスが、堪らずに彼女を抱き締める。その唇を自らのそれで塞いで、深く口付けを交わす。それに応えるように、彼女もヴァイスを抱き締めてきた。


 ――誰にも渡さない。渡してなるものか。


 先程から吹き上がってくる劣情が、ヴァイスの理性を溶かそうと燃えている。しかし、ヴァイスはそれに必死に抗っていた。


 ――そうなるくらいなら、いっそここで、彼女を、自分のモノに……!


 心のどこかで、彼は未だに劣等感を抱いていた。弱い自分に、そんな資格があるのかと。そう言う想いが、確かにあったのだ。

 もう今更だと言うのに、その想いが彼を縛り付けている。どんな事をしてでもアリスを守ると決めたのに、その彼女を守れなかったという記憶が、彼が一歩踏み込むことを躊躇させている。


 しかし。そんなもの、彼女が見過ごさない。彼女が、許さない。


「ぷぁっ……はぁ、ヴァイス、君」


 重ねていた唇を開放して、アリスが息を吸う。そして、ヴァイスの名を口にした。


「我慢しないで良いよ……私は、ヴァイス君が、良い。明日、あいつに触られる前に、ヴァイス君に……」


 潤んだ瞳で、アリスが言う。明日を想像したのか、ヴァイスの腕の中で、彼女が震えた。


 本当は、アリスも怖いのだろう。本気で、逃げれるとは思っていないのだろう。それでも、ヴァイスを守る為に、自分を犠牲にするつもりなのだ。

 だったら。明日、ブラッドに汚されるのなら。その前に、ヴァイスと結ばれたい、と。

 それは、退廃的な願いであったが。自暴自棄とも取れそうな考えだったが。

 それでも、ヴァイスと共にいたいと。彼と、もっと深く繋がりたいと。そう思ったのは、彼女の本心であった。

 だから、彼女は。ヴァイスの理性を、壊しにかかる。彼がその胸に抱いた劣等感を、破壊する。


「ヴァイス君。お願い。私を奪って……。あいつなんかに、渡さないで……」

「アリス……!」


 ヴァイスが、アリスを抱き抱えた。そしてそのまま、傍のベットに、彼女を押し倒す。


「きゃっ」

「っと、ごめん!」


 加減が分からず、乱暴にベットへと押し倒した為に、アリスが小さく悲鳴を上げた。反射的に、ヴァイスも謝ってしまうが。


「……ううん、大丈夫。だから、はい」


 そう言って、アリスが両腕をヴァイスに向けて広げた。ベットに仰向けに寝転がった状態で、そんな己を見下ろすヴァイスに向かって、両手を伸ばす。


「……アリス」


 ヴァイスが、そんなアリスへと覆いかぶさるようにその身を下ろす。それに合わせて、アリスの両腕が、彼の首元へと絡みついてゆく。

 そのまま二人は、お互いを抱き締めて。再度の口付けを交わすべく、その顔を近づけていった。



 


 



「ちょっと待ったーーーーー!!」


 医務室の扉が、やかましい音と共に開け放たれ、何者かの声が室内に響き渡った。

 その音と声に、ヴァイス達はびくりと身体を震わせて、その場で動きを固めてしまう。

 そして、そのまま二人して。音の鳴りそうな程の固い動作で、首をそちらへと向けてみれば。


「ってうおい! お前なぁ! ここで邪魔すんのかよ!」

「当たり前です! 流石にこれ以上は見過ごせません!」


 そこには、扉を開け放ち仁王立ちで息巻くリリカと、そんな彼女に、驚愕の表情で全力の突っ込みを入れるゲイルと。


「……まぁ、流石に医務室では、ねぇ」

「やあん、アリスちゃんって、だいたんー」


 その後ろには、こめかみを押さえたマリアと、わざとらしく身を揺するシャルロットという。

 彼らの友人と、よく知る教員達が。それぞれの表情で、ヴァイス達を見据えていた。


「……」


 そんな彼らの姿を見て、ヴァイス達の思考が凍りつく。

 そして、少しの間を空けて。


「わああああああああああああああ!!」

「きゃあああああああああああああ!!」


 二人の絶叫が、校舎内に響き渡ったのだった。

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