九章02:彼女は、只この時を待ちわびて
「――よくやった。エメリア」
「ふふ、ありがとう。ララト」
数刻後、先ほどと打って変わって清々とした表情のエメリアは、細剣スフィルナを床に刺しふぅと息を吐いた。
「――で、どうだった? 私」
答えは分かってるけどね、といった表情でエメリアが問う。彼女の蒼眼には自信が満ち溢れていて、結果は正にその通りだった。
「言うまでも無い。もう
ユリから学んだであろうエルジアの抜刀術。ここにナヴィクの魔法剣が加わった事で、単純な剣撃ですら、神速の致命打に進化を遂げていた。
確かに個々の数値で見れば、未だ各勇者には及ばない。例えば腕力ならサルバシオンに、魔力ならユークトバニアに、素早さならバートレットに。しかしそれらの複合によって決まるのが戦闘力である以上、バランス型のディジョンを超えたエメリアは、事実上
「――ま、当然だけどね」
その言葉を待ってましたと満面の笑みを浮かべるエメリア。やっている事は有史上この上なく偉大な一歩であるのに、こうして語らう
「エメリアなら当然だけどな……それでも凄い事さ」
やっと褒めてもらえる自分自身に納得したのか、エメリアは甘える様に身を委ねてくる。
「これで……これでやっと
汗を滴らせながら言うエメリアの唇は、
「それはこっちのセリフさ……付き合ってくれてありがとう、エメリア」
もしエメリアが、あの灼熱洞でディジョンを殺せと叫んでいたら、今日の大舞台は無かったかも知れない。そういう意味では、こんな茶番に付き合って貰った事自体が、僕にとっては感謝の至りだ。
「ううん……いいの。私も私の手で決着を付けたかったから……あのまま負けっ放しで、死ぬまで惨めを背負っていくなんてまっぴらごめんだもの。――だからありがとうなの。
そう言って微笑むエメリアは、昔から僕が知る、負けず嫌いの彼女だった。見た目はお姫様の様に淑やかなエメリアの心には、いつだって闘志を隠す獅子が宿っている。
「その意気なら心配ないな……午後に備えて休んでおけ」
寄りかかるエメリアの肩を抱いた僕に、静かに彼女は頷く。
「分かってる……見ててねララト。私は美しく、華麗に、圧倒的な力でアイツを倒すわ。もう誰しもが
すっと身を離したエメリアは、そう言って剣を鞘にしまうと、僕に手を差し出した。
「――さ、レイヴリーヒ・エスベルカ皇帝陛下。参りましょう。聖グレースメリア親衛騎士団団長、エメリア・アウレリウス・ ユリシーズがお供させて頂きます」
幼馴染、としてでは無く。僕、すなわちエスベルカ皇帝の一本刀としての表情に戻ったエメリアに、僕もレイヴリーヒとして手を握り返す。
「ああ、行こうか
ギイと開いた扉の先では、敬礼する騎士の面々が、僕たちを待ちわびていた。
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