第67話

 クレンジルグの機関砲が発射される。

 吐き出された弾丸はまっすぐにリョウに向かっていく。

 「……ォォおおおおラああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 リョウは詰まった息を無理矢理押し出して叫ぶ。それと同時に電流が身体の外に迸った。

 弾丸はその電流に触れた瞬間に紙が破れた様な音を出し、勢いが失われ情けなく落ちていった。

 最後に翔子と稽古をした日、飛んでくるモノから電流で何とか防御するという無茶苦茶な事をさせられたのが役に立った。しかし、マシンフレームの弾丸まで失速させることができるとは思わなかった。正直一か八かだった。

 着地。

 もう今ので恐らく半分以上体力を使った。体感だからよくわからんけども、あれをもう2回やれば次はない。

 そろそろ決めないと……。

 だが、クレンジルグは待ってくれない。すぐさま機関砲をこちらに向けた。

 距離はそう離れていない、機関砲を向ける腕に向かって渾身の力で地面を蹴る。

 一瞬遅れてクレンジルグは発砲。一発でも当たれば身体は千切れ飛ぶだろう。

 「!!」

 左脚のアーマーに弾丸が掠った。

 思った以上の衝撃が伝わり身体が揺さぶられる。リョウの軌道はズレて腕ではなく、首のない胴体に。

 そして、左のアーマーは弾丸の衝撃のせいで耐久ゲージが限界に達し、弾けるように解除パージされた。

 思いの外、勢い良く解除パージされた一番大きな縦長のパーツが目に入る。

 その瞬間はすべてスローモーションだった。

 無意識にパーツを両手で掴む。

 熱が残っているそれはとんでもなく熱かった。だが、手放さない。

 首が無くなって色々とあらわになった部分に目が行く。人工筋肉、配線が走っているのが素人目にも分かった。

 ここしかない!

 リョウはそこに思いっきりパーツを突き刺した。有機物とも無機物とも言えないような音がする。

 しかし、しっかりと

 「オオオオォォォォ!!!!!!!!」

 そして、叫びながら最大の放電。

 バリバリと音を発しながら電流が身体を迸り、それが内部に通電していくのがわかった。何秒もしないうちに、千切れた左肩が小さな爆発音を発した。そしてそれは各部の関節へと続いていく。

 「オアアアアアアァァァァァァぁぁぁ!!!!!!ァァァァァアアアアアア!!!!」

 なおもリョウは続ける。

 クレンジルグは痙攣、硬直を繰り返し、最後には各部が爆発し始めた。

 パーツを突き刺した部分がヤバそうな火花を散らし始める。

 「やっばッ!」

 リョウはパーツから手を放し、後方に跳ぶ。

 直後に小さく爆発。あぶなかった……。

 クレンジルグは力なく崩れ落ち、膝立ちになる。

 「はぁ……はぁ……」

 体力のほとんどを使った。もうこれで復活されたら勝ち目はない。

 「……」

 リョウは様子を窺う。

 周囲は焦げ臭く、クレンジルグからはチリチリやらパチパチと音が聞こえるのみ。

 少しの間そうしていると、内部から叩く音がした。それは次第に大きくなっていき、一番大きな音が響くと、腹部のコクピットハッチが空気の抜ける音とともに開いた。

 「……はぁ……」

 思わず深くため息を吐いてしまった。まだ続くのか……。正直限界だ。勝てる気がしない。体感だが残りの体力は15パーセントあるかないか。マシンフレーム相手ではないにしても、何分ライジングモードを維持できるだろうか。

 コクピットハッチが完全に開くとクラウンが無言で現れ、そこから飛び降りた。

 何を言うでもなくこちらに向かってくる。しかし、しっかりと見えていた。右手には大きめのバンドガンらしき物が見えている。

 一気に押し寄せる不安と寒気。

 いつ仕掛けられてもいいように構える。

 クラウンは黙々とこちらに向かってくる。眼鏡をかけているせいでどういう目つきをしているのかが窺えないが、殺意だけはしっかりとこちらに向いているのがわかる。

 クラウンはリョウの2メートル先でピタリと立ち止まった。そして口を開く。

 「クソガキがッ」

 その言葉を合図にクラウンの右腕は動いた。

 「――――――っ!!」

 リョウは咄嗟に横に跳んだ。その瞬間にクラウンの持つ拳銃が二発発砲される。

 一発がリョウの左太ももを掠めた。アーマーが解除パージされた足を躊躇なく狙ってきた。

 「いってぇ!!」

 そう言いつつも一気に距離を詰め、掌底を斜め下から繰り出す。

 「だろっ!!!」

 しかし、クラウンはそれを叩き落とす。

 叩き落とした瞬間に拳銃を向ける。銃口がくっきりと見えた。

 「!!」

 リョウは左に頭を振る。

 発砲。

 耳元で銃声が鳴る。避けなければ頭はぶち抜かれていた。

 

 その一心で身体を動かす。

 右腕の拳を振る。

 クラウンはそれを手で受け、掴む。すぐさま銃を脚に向ける。

 「!!!うぉあああぁ!!!!」

 死を直感したがどうにもできなかったリョウは一瞬放電した。

 しかし、それを見切ったのかクラウンはすぐに手を放し、距離をとった。

 リョウはチャンスと見て、間合いを詰める。

 懐に入った瞬間。

 「〝双天・烈突〟!!」

 連携の最初、掌底を胸に打ち込む。

 だが、そこから次の肘打ちに繋がることはなかった。

 クラウンは身体を軽く捻って避けていた。そしてその状況が分かった瞬間には後頭部を銃床で叩かれていた。

 「っあ!!!かッ」

 完全に決まっていた。次の動きに移ることが出来ず、いつ頭を撃ち抜かれてもおかしくない。しかし、それはなかった。代わりに腹を蹴られ地面に転がされた。

 「クッ……ぐ」

 リョウは見上げる。するとクラウンが銃を向けながら喋り始めた。

 「君の戦闘力は本当に予想外でしたよ。雷帝のアプリエイター」

 「……」

 クラウンの表情はわかりにくかったが、それでもなのは分かった。眉間にしわがくっきりと刻まれている。

 「ですが、どういうものかは知らないが、そのおかしな拳法はには通じませんよ」

 クラウンは静かに言ったが怒気を孕んでいた。冗談でも返そうものならすぐに撃ち殺されそうな。

 「でもあのマシンフレームは倒せた」

 そう言うとクラウンは一瞬顔を歪ませ、力いっぱいの踏みつけが来た。リョウは身体のバネを利用し、それを避けつつ立ち上がる。

 「それは上からの一撃のせいでセンサー系統がいかれたからに過ぎません。それもそのアーマーがあったからこそできた話だ」

 そんなことリョウも分かっている。ゆっくり腰を落として構えなおす。

 「だいたい最初から予想外とか意外とか俺のこと舐めすぎなんだよ」

 クラウンは鼻で笑った。

 「君の評価は予想外から変わることはありませんし、もう上がることもありません」

 クラウンは突然動いた。

 「なッ―――」

 文句を言おうと口を開いた瞬間だった。

 クラウンは姿勢を低くし、距離を詰める。拳銃を持ってない左拳で打ち込んでくる。リョウも加速状態は維持したままだったから、それを右腕で受け止める。思ったよりも重い一撃。

 そして、拳銃を持った右腕が動く。だがそれはリョウも分かっていた。すかさずそれを弾く。

 普通ならここで距離をとるが、とっても動きを読まれて銃を撃たれる。弾を避ける加速も勿体ない。だから。

 「らぁ!」

 その場で飛び後ろ回し蹴り。クラウンは左腕で受ける。しかし、リョウは無理矢理身体を捻り、もう一回転しもう一撃アーマーが着いている右脚でガードしていた腕に蹴りを打ち込む。

 その動きはだったのかクラウンは大きくよろめいた。

 「〝双天・烈突〟」

 隙を突いたリョウの掌底がクラウンの脇腹に入る。そこから肘打ちに連携、最後に一気に腕を伸ばす。

 相手の内臓と骨が軋む音が腕を伝って聞こえると同時にクラウンの身体が面白いように吹っ飛んだ。

 だが終わらない。リョウは地面を蹴る。渾身の追撃。

 「予想外だろっ!」

 リョウはクラウンの顔面を掴む。

 「俺が!」

 その頭部を勢いのままに地面に叩きつけた。

 「お前を倒すのはッ!!!」

 クラウンが小さく呻くのが聞こえた。

 リョウは勝ち誇るでもなくその場で立ち止まり、クラウンの様子を窺う。コイツは生きている限り油断なんてできない。

 終わらせてアモルを探さなければ……。

 じゃあどうする。

 殺せば終わるか?

 「……っ」

 リョウが逡巡したその瞬間。

 クラウンがまた動き出し、予備動作もなく脚を回し、転倒を誘う。

 「うっわッ!」

 さすがにそれに引っかかることなくステップで下がった。

 だがすでにその一瞬でクラウンはしなやかな動きで立ち上がっていた。

 「しつこい!!」

 リョウは距離を詰めようとする。

 が。

 「っえ」

 一瞬目が霞んで、力が入らなかった。

 やばい。これ、限界か。

 あの強制的な眠気が襲う。

 目の前にはクラウン。ここで眠れば必ず死ぬ。

 「……んあァァあああ!!!」

 リョウはそれを吹っ飛ばすように叫んだ。

 ここで死ねない!

 歯を食いしばり目を見開く。そして、クラウンを見定める。

 だがその瞬間、乾いた音が二回し、足に、太ももに激痛が走った。

 熱い。下半身が溶鉱炉に落ちたかのように熱く痛い。

 「あああああああぁあがッ……ぐ……うぅ!!!!!」

 思わず叫んだ。左の太ももを見る。鮮血を噴いて穴が開いていた。足元にも真っ赤な水溜りが出来ようとしている。

 「あ……あぁ……」

 さっきまでの強烈な眠気は消え去ったが、状況を受け入れられない。認められなくて何も考えられない。変な汗がだらだらと流れる。

 するとクラウンは声の調子を変えずに話し始めた。

 「あぁ。銃で撃たれるのは初めてですか」

 クラウンの声は笑っているようですらあった。

 リョウは荒く呼吸をしながら睨みつけるしかできない。左脚に力は無くなり、がくりと血だまりに膝を突く。ぱしゃりと音がした。

 「痛いでしょう?私も初めての時は声を上げました。まぁ何回か経験すれば慣れるんですけど」

 そう言ってクラウンは銃を向けた。

 「でもまぁ、もう経験しないですね。残念」

 クラウンは銃の引き金に指をかけた。

 終わった。悔しさか傷みかわからない、涙が溢れてきた。

 ソラノ……。

 ソラノの顔が浮かんだ。今思えば何もしてあげられなかった気がする。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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