第65話

 クレンジルグに放り投げられ、もみくちゃ回転した後なんとか体勢を立て直した。正直、四肢が全部無茶苦茶な方に曲がりそうになって折れるかと思った。頭もぐるんぐるんと回って混乱していたが何とか現状を確認する。

 「―――――ッ」

 地表がかなり迫って来ていて、全身に鳥肌が立っている。

 次にアモルの方を見るとクレンジルグの左の肘から下が無くなっていた。そして、肝心のアモルは空中に投げ出されていた。

 本来なら手も届かず絶体絶命の状況だ。

 だが、大丈夫だ、そう思った。

 「……アモルっ」

 細かい砂の様なモノがアモルを中心に渦巻いていて、それが背中の方に集まり何かを形作っていく。砂は砂鉄のように見えるのに人工太陽光に反射して黒く輝き、何か神聖なものにも感じた。おぼろげに二本の帯が出来ると、砂を固めるように一気に集束。

 次の瞬間にはアモルの背中に翼が完成されていた。色も先程までの黒から白に移り変わり、最終的なその姿はアモルの長い髪と簡素なワンピースも相俟って、まさに天使だった。

 翼ができると空気の抵抗が生まれたのか、落下速度が減速。アモルが上昇したようにも見えた。

 上手く風を掴んでアモルが斜め上に位置するリョウに近付く。

 「リョウお兄ちゃぁぁぁん!!」

 アモルは両腕をいっぱいに伸ばして叫ぶ。

 「アモル!」

 そのアモルの両腕を上手く掴む。意外とスピードに乗っていたようで、掴んだ瞬間にアモルに連れ去られるような形で二人で風に乗った。

 「やったっ!」

 アモルはそれは嬉しそうに言う。

 「やったな!アモルっ!」

 「やったよ!!僕!やったっ!!!」

 それだけしか言い合えなかったが、リョウとアモルはまるで悪友同士が悪戯を成功させたかのように笑い合った。

 しかし、そう長くも笑っていられず、気持ちを切り替えクレンジルグを見やる。こちらを認識しているようだが、アモルが邪魔で機関砲でこちらを撃ったりすることができないようだ。あっちは普通に落下しているだけあって、だんだんと距離が開いていく。

 「アモル、このまま飛んであれから逃げられるか!?」

 「……やってみるっ!」

 アモルはそう言うものの、掴まっている腕はすでにリョウを掴む力は弱くなっていて、リョウがアモルの腕を掴んでいるだけになっている。このままでは体力がもたず、この翼もいずれ壊れてしまうかもしれない。

 そう考えていると下から小さな爆発音が聞こえた。

 「!?」

 発砲してきたかと驚き、ゾッとしたがクレンジルグが減速の為に黄色いパラシュートを開いただけだった。森の中に一輪、巨大な花が咲いたようにも見えたが呑気にしている場合ではない、あまりにも先に着地されるといくらこちらが滑空して逃げられるとしても、陸上で走って追いかけられたりしたら結局捕まってしまう。

 「アモル、できるだけ遠くに逃げろ!何があっても!!」

 「うんっ!」

 アモルのその力強い返事を聞いて安心した。

 ならばあとは自分が覚悟を決めるだけである。

 「絶対逃げろよ!」

 「……うんッッ!!!」

 アモルの言葉を合図にリョウは、掴んでいた手を放した。

 「え……?」

 アモルの気の抜けた声が聞こえるが、それは一瞬にして彼方へと飛んで行った。

 放した瞬間から吐き気とも落下感とも言えない感覚に襲われた。とんでもなく速い速度で近付く地表。呼吸をするが、吸っているのか吐いているのかすらもわからなかった。それでも真下に黄色の巨花を捉える。

 クレンジルグとの距離はどんどん縮まっていく。

 すると、森の中にある少し開けた場所に着地地点を決めたのか、パラシュートはまさに花が花弁を閉じるように折畳まり一瞬で背中に吸い込まれるように収納された。クレンジルグの背中が見えたのも束の間、今度は逆噴射を開始した。この距離からでも聞こえるブースターの爆音。

 減速した後、ほどなくしてクレンジルグはこの高さを落下してきたとは思えないほど静かに、スマートに着地した。

 そして、リョウも着地地点を見定める。

 もう数秒で地表だ。人は自分が死ぬような高さから落下すると、激突する前に気絶するという話を聞いたことがある。今まさにそれだ、意識が飛びそうなのがわかる。だが、気絶などしない。してたまるか。

 左脚を下に突き出す。銀色に光るサポートアーマーが一層に輝いて見えた。

 リョウは一本ののように落下する。最大の一撃を加えるために。

 着地地点はクレンジルグ。

 「オオオオオおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおああああああああ!!!!」

 リョウは叫ぶ。

 クレンジルグが姿勢を正し、周囲を見渡した瞬間だった。

 杭は、クレンジルグの左肩に撃ち込まれた。

 その音はとても人間が金属にぶつかった音とは思えなかった。大事故の音、そう例えるしかなかった。

 クレンジルグは左肩に衝撃を受け、そのまま片膝を突く。左腕はほぼ千切れていて力無くだらりと垂れていた。

 リョウのサポートアーマーは排熱口から大量の熱気を排出、少し白い煙になっている。ゲージはほぼ最大を示しているがアーマーが解除パージされていないという事はまだいける。

 リョウは軽く飛び、身体を加速。無理矢理に回転する。

 「〝嵐天!!!〟」

 もっと回す。電流が身体の表面を迸る。

 「〝突風!!!!!!〟」

 回転が乗りに乗った右脚でクレンジルグの後頭部に蹴りをぶち込む。

 またも大事故のような衝突音が辺りに響く。

 右脚に痛みなどなく、排熱される。

 クレンジルグの首を見ると、無理矢理に前に折れてパイプなどで辛うじて繋がっている状態だった。

 

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