第45話
※※オーコックス・インダストリー、中庭※※
この日、翔子の稽古は少し早めに終わった。中庭に行ってみるとちょうど帰ろうとしていた。アモルとヤマトに会った。
「やぁこんばんわ、リョウお兄ちゃん」
アモルは元気に歯を見せて笑った。
「こんばんわ、何してたんだ?」
「アモルは最近外で本を読むのが好きなんだよ」
そういってアモルは電子ペーパーの薄い本を取り出した。どうやらあの絵本ではないようだ。ちなみにそっちの薄い本でもない。
「お、いいなぁ」
「ママが買ってくれたんだよ」
「マルナさんが……」
あのマルナが珍しいことをするものだな、と感心しているとヤマトがアモルの隣まで来て頭を撫でる。相変わらず髪は金髪でホストのような格好をしているので、小さな女の子とこいつの組み合わせはとっても不自然だった。
そして、面倒臭そうに口を開いた。腰のホルスターには大きめの拳銃。
「中身は児童書籍だけどな」
「アモルはマンガが買いたいって言ったんだけどママはダメだっていうんだ」
「あはは。だろうね……」
アニメを観せただけであの怒りようだ。マンガなんかもってのほかだろう。
「リョウお兄ちゃんは最近見なかったけど何をしているんだい?アモルは早くガオウバインの続きが観たいんだよ!!」
そういえばアモルの警護が終わってからあまり会っていなかった。ガオウバインもいいところで終わってしまっているし、気になってしょうがないのだろう。
「そうだなぁ…日曜日に俺の予定が入ってなければ観ようか」
「やったー!」
アモルは小さな手足を伸ばし、全身を使って大喜び。
「おい、稲葉」
その隣でヤマトはまた面倒臭そうに声をかける。何?俺のこと嫌いなの?
「一応、俺はマルナ室長からあのアニメは見せるなと言われている」
「……お前もそっち派かよ……」
正直まだヤマトとはそんなに話していないので何を話すにも身構えてしまう。
「別に……。でも気をつけろ。それだけだ」
「ヤマトお兄ちゃんは優しいもんね」
アモルは満面の笑みでヤマトを見る。この数日で仲良くなったのだろう。ヤマトもそれなりに下手な笑顔を作ってアモルを見ていた。
「わかった」
「リョウお兄ちゃん」
アモルはそう言ってリョウの腕を掴んだ。
「ん?どうした?」
「なんかよく見るとあちこち傷があるじゃないか!転んだのかい?」
「あぁ……」
翔子の稽古によるものだろう。何せ避けるべきボールがめちゃくちゃ痛い。それに当たったら翔子から蹴りを貰うのだし、跳んだ時の着地をミスったりするものだから、どうしてもこうなる。
とりあえず軽く胸を張った。そしてドヤ顔で言った。
「今リョウお兄ちゃんは修行してるんだよ」
「しゅぎょう!?」
その言葉を聞いて輝くような目でアモルは言った。
「そっ!修行!」
「凄い!アモルも修行してテファの機体みたいに飛べるようになりたい!!!」
修行と言えばガオウバインという連想までは良かったのだが、大好きなキャラのテファを連想してしまったようで、ぶっ飛んだことになってしまった。
「あっはは……。修行では飛べないかな……」
「え~」
アモルはこれまた全身を使ってがっかり感を表現する。最初会った頃よりはだいぶ年相応な感じになってきた感じだ。だが、よく考えるとアモルは能力を使えば翼くらいは作れるのではないかと思った。ヤマトもそう思ったのだろう、目を向けると首をゆっくりと横に振っていた。余計なことは言うなということだろう。
「俺は強くならないといけないからね」
「強くなってソーラーノーム……じゃなかった、ソラノを護るんだね!」
「そう、今のままだと高岡達に頼りっぱなしだしね」
自分にも言い聞かせるように言った。
「アモルもママを護れるようになりたいな……」
アモルはそう小さく呟いて小さな手をギュッと握りしめた。
本当はそれができる力があるのに、この子はそれを知らない。それを知る資格、権利は十分にある。自分がこの力を知らないまま、ただ護られていくだけだなんて耐えられるだろうか?自分に置き換えれば答えは簡単だった。
だが、アモルにはまだ早過ぎるのかもしれない。自分がマルナや、ここにいるヤマトを傷付けた事にどう折り合いをつける事ができるだろう?それを考えると、ただ教えるだけなのは、とてつもなく残酷なことだ。
「アモルちゃん……。その気持ちがあれば、いつか護れるようになるよ」
リョウはそう言うことしか出来ず、もう一度優しくアモルの頭を撫でてあげた。
「うん!」
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