幻実のアプリエイター
第24話
そこに生まれた二人の天使は、分かたれます。
ソコの天使は、そこの天使の事を知っています。
そこの天使は、ソコの天使の事を知りません。
二人は、自分が天使であることも知りません。
周りが教えることもありません。
神は天使に何も教えません。
悪魔は天使に地獄を教えます。
誰かこの天使たちに教えてください。自分達が天使であることを。
誰かこの天使たちに教えてください。愛を。
誰かこの天使たちに教えてください。天の高さ、降りられることを。
そして、自分達の存在を。
しかし、教えてあげなければ悲しむ事は無いのです。
知らなければ望む事もないのです。
苦しむ事もないのです。
だから私は、このままを望みます。
※北極圏某国・深夜※
「はぁ…はぁ…」
凍てつくような吹雪が吹く中、少女はまともな服も着ずに雪原を走っていた。頭にはベッドのシーツを巻いて。このままなら確実に凍死してしまう。
「はぁ…はぁ…」
息が白くなっているのかも判別すらできない視界。ただ逃げてきたのだ。
「…!」
後ろで施設のサイレンが鳴り響く。逃げ出したのがもう発覚したのか…。予定とは違った。まだ電子障害は続いているはずだった。
もう、いやだ。私はもう戻りたくない。あんな実験と睡眠だけの籠。
「いや…。いや…ママとアモルに…。会いたい…」
そう必死に自分に言いながら走る。雪に足を突っ込む度に凍傷の激痛が襲う。歩きたくもない。けれども走らなければならない。止まれば死しか待っていない。
「!」
吹雪の向こうに微かだが、機械的な、車のような、モーター音が聞こえる。
「いや…。いや!」
少女は必死になって走る。モーター音が確実に近づいてくるのが分かった。もう恐怖と何もかもが一緒になって獣の呻き声のように聞こえる。視界は先ほど以上に狭まれ、まっすぐ歩けているのかさえ分からない。
今回は外からの手引きもあって出ることができた。あの施設のセキュリティは鉄壁だ。本当は逃げ出す事なんて不可能。この機を逃したら絶対に出ることはできない…。捕まったら薬漬けにされて完全なモルモットがいいところ。
いやだ。絶対に嫌だ…。
手引きをしてくれた人物との合流地点はまだ先。どうやって電子障害を起こしたのか、どうやって監視の人間を減らすことができたのか、それはわからない、でも今はその人物の元へ行くしか救いの手はない。
「ハァ…ハァ…」
もう足の痛みも、息も何もかも限界だ。
「ヒッ!」
かなり近くでモーター音…というか、雪を踏みしめる大きな音が聞こえた。これは多分、足音だ。人型の機動兵器…マシンフレームの足音。こんなに近いという事はすでに赤外線や温感センサーで見つけられているだろう。
そんな専門知識は無かったが、近くにいて見つかっている、そう思うと必死になって逃げるのがバカらしくなってきた。
「う…」
少女は膝から崩れ落ちた。
「ごめんね…」
そのまま少女は雪に横たわり、身体を預ける。下半身が生暖かくなる。もう恐怖と諦めでどうでもよくなった。機械の足音が地面を通して響いてくる。死の振動。
一歩一歩と近付いてくる。
「ママ…」
少女は涙ぐんで声を漏らす。マシンフレームはもうすぐそば。あまりの恐怖に気が遠くなる。
「…」
足音が止んだ。
シュルムは少し顔を動かし、その音のする方向を見る。
小さく雪の上に何かが落ちる音が聞こえた。そして、次の瞬間意外な音、声を聞いた。
「シュルム…シュルム・ベールアンヘル!?」
それは少女を呼ぶ声だった。
シュルムは顔を上げる。するとその先にはゴツゴツとしたパイロットスーツを着ている男が立っていた。声で男だと分かった。男は続ける。
「施設の様子を見て、迎えに来ました。怖かったでしょう」
シュルムはまともに開けられない目で、男を見上げた。
「行きましょう」
男は手を差し出した。
あぁ…神様…これで会える…。
シュルムは男の手を握り返した。無機質に見えた手に温もりを感じた。
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