04 帰り道
「邑咲さんは、強くなるでしょうね」
道場を出て、いつものように新宿駅へと歩を進めながら、瓜子がそのように話を振ってみると、ユーリは無邪気に「そうだねぃ」と応じてきた。
「ていうか、現時点でも十分強いと思うけど! あれで十六歳だっていうんだから、末恐ろしいよねぇ。ユーリなんて、十六歳の頃はまだ女子格闘技の存在すら知らなかったのに!」
「そのあたりは、個人差の激しい競技っすからね。邑咲さんみたいに子どもの頃からの経験者もいれば、中には二十歳を過ぎてから初めてジムに通いだした、なんていう人もいるんすから」
そして、どんなルートを通っていようとも、ただ強くさえあれば、認められる世界なのだ。年齢はともかくとして、グラビアアイドルあがりという異色の経歴を持つユーリなどは、その最たる存在であろう。
その他にも、歯科衛生士、ホステス、塾講師、ベビーシッター、プロダンサー、などという本業を有する選手や、三人の子どもを育てるママさんファイター、女子高生のムエタイ世界チャンピオン、などという選手だっている。プロとアマチュアの境目が曖昧だ、とも言えるし、どんな人間にだって野望を抱くことや、気軽にプロ活動を楽しむことができる競技だ、とも言える。
まだまだ歴史が浅いゆえに、地場が整っていない、ということなのだろうが――そういう混沌とした状況は、わりあい面白いものなのじゃないかと、最近の瓜子はそんな風に考えられるようになっていた。
「まあ、あんまり早熟な選手は燃えつきるのも早いって言われ方もしてますから、そうならないように上手く導いてあげたいっすね」
「ううむ。うり坊ちゃんって、オトナだにゃあ。ユーリは自分のことでいっぱいいっぱいだから、そこまで他人の世話なんて焼いてられないかもぉ」
「そんなことないっすよ。自分に寝技の基礎を教えてくれたのは、ユーリさんじゃないっすか。ユーリさんは自分で思ってるより、きちんと他人と関われてるんだと思うっすよ」
たまには持ち上げてやろうとそんな風に言ってみたのだが、ユーリは「そんなことにゃいっすよ」と少しさびしげな顔をするばかりだった。
「そりゃあユーリだって、うり坊ちゃんやサキたんみたいに大事な相手だったら、どんな苦労もいといはしませぬけども。初対面の相手にそこまでの熱情は持てないものぉ」
「いや、ユーリさんが自分に稽古をつけてくれたのは、出会って二日目のことっすよ。あの頃は初対面同然の間柄で、おまけにおたがい相手のことを苦手だなあって思ってたぐらいじゃないっすか」
「ふみゅ。ならばきっと、ユーリの本能が告げていたのでありましょう。このちっちゃくて不機嫌そうなお顔をしたかわゆらしい女の子は、のちのちおぬしにとって何よりもかけがえのない存在になるのだから、優しくしておいて損はないぞよ、てな感じに」
「……そんな気恥ずかしいセリフを、さらりと口にしないでほしいっすね。酔ってるんすか、ユーリさん?」
「にゅっふっふ。ユーリはいつでも二十四時間、うり坊ちゃんの存在に酔いどれておりますわよ」
ふざけたことを言いながら、ユーリは変装用の黒ぶちメガネの向こうで幸福そうに目を細めている。
そのとき、周波数の高い声音がふいに背後からあびせかけられた。
「待ってくださいです、ユーリ様! 駅に向かわれるのなら、愛音もご一緒させてくださいませんかっ!」
瓜子にとっては、想定内の出来事だった。
が、ユーリにとってはそうではなかったのだろうか。急に疲れた顔つきになって、がっくりと肩まで落としている。
「ありゃりゃ、ムラサキちゃん、おつかれさまぁ。……ムラサキちゃんも、JRなにょ?」
「はい! 日暮里まで山手線です!」
「へえ。日暮里に住んでるんすか」
瓜子が口をはさむと、とたんに少女の顔から輝かんばかりの笑みが消え失せた。
「……日暮里から、さらに快速です。愛音のおうちは、稲毛ですから」
「ああ、武魂会稲毛支部って言ってましたっけ。……稲毛ってどこっすか?」
「千葉ですよ。どうせ知らないでしょうけど」
確かに知らないが。それにしても、ここまで内心が露骨に出てしまうというのはいっそすがすがしいぐらいだな、と瓜子は思わず苦笑してしまった。
「何をお笑いになっているのですか? 愛音をKOした記憶でも反芻して悦に入っておられるのですか?」
「そんな悪趣味な人間じゃないっすよ。……ねえ、邑咲さん。ユーリさんに憧れてっていうのは了承したっすけど、それにしても、あんまり道場で横柄にふるまうのはよくないっすよ。プレスマンの人たちはみんなおおらかだから何も言わないっすけど、この先もずっとお世話になっていくわけですし……」
「愛音のどこが横柄なのですか! 愛音はただ……猪狩センパイを個人的に敵視しているだけなのです!」
これには瓜子も、呆気に取られてしまった。
ユーリはまた困り果てた面相で、無口になってしまっている。
「……どうしてっすか? 自分がキックとMMAの両方に手を出してるのが、そんなに気に食わないんすか?」
「そんなのは、後付けの理由です! みなさん事情やお考えがあって自分の選んだ道を突き進んでおられるのでしょうから、愛音が口を出すようなお話じゃないですよ! 愛音だって、そこまでお馬鹿ではないつもりです!」
「それじゃあ、どうして初対面の自分を敵視してるんすか?」
邑咲愛音はぎゅっと唇を噛み、肉食のウサギみたいな目つきで瓜子をにらみつけてくる。
「……そのご質問にお答えする前に、愛音のほうからもご質問させていただいてよろしいですか?」
「どうぞ。何なりと」
「……猪狩センパイは、ユーリ様とどういう関係なのでありますか?」
やっぱり、そうきたか。
それも瓜子には、想定内だった。
「自分は、ユーリさんがマネージメント業務を委託しているスターゲイトっていう会社の契約社員なんすよ。わかりやすく言うと、芸能人としてのユーリさんのマネージャーみたいなもんなんです。プレスマンでご一緒するようになったのは、本当にたまたまの巡り合わせだったんすけどね」
「……そのマネージャーさんが、どうしてモデルとしてユーリ様と一緒にグラビアを飾っているのですか?」
「そ、それはカメラマンの方の陰謀です。自分だって、あんな目にあうのはもうこりごりっすよ」
瓜子は何とかトラウマを乗りこえてそのように答えてみせたが、愛音はまだまだまったく納得していないようだった。
「それじゃあどうして、マネージャーさんとユーリ様が熱いヴェーゼを交わしているのですか?」
「は? ヴェーゼ?」
「よもや忘れたとは言わせませぬよ! ユーリ様が沙羅選手に勝利なされたとき、リング上でヴェーゼを交わしていたではないですか! 愛音はスポーツチャンネルの放送でばっちり目撃しましたし、そもそもその痴態は格闘技マガジンの表紙を飾っていたのですからね!」
これは、想定外だった。
瓜子も、しどろもどろになってしまう。
「ち、痴態っていうのはどういう言い草っすか。それに、熱いヴェーゼとかいう言い回しも勘弁してほしいっす。あれはただ……ユーリさんに、ほっぺを舐められただけの話じゃないっすか」
「ほっぺを舐めるなど、ヴェーゼも同様の所業ではないですか! 《G・フォース》の六月大会では、ユーリ様に頬ずりをされておりましたしね!」
それはどちらもユーリの一方的な蛮行であったのに、どうして瓜子がそんな風に責めたてられなければならないのだろうか。
「よくそんな、こまかい日取りまで覚えてられるもんすね。……言っておきますけど、自分らは同性愛者とかじゃないっすよ?」
「そ、そこまでカンぐってたわけじゃありませんです! けど! 勢いあまってほっぺにチューなんてありえますか? 愛音はそんなこと、したこともされたこともありません! 二人はそんなに仲良しさんなんですか? いったい何年来のおつきあいなのですか?」
「何年来って……ちょうどもうすぐ、一年っすね」
「一年! わずか一年で、熱いヴェーゼを……! いや、もうすぐ一年ってことは、あの頃はまだ出会って数ヶ月ってことじゃないですか!」
「だから、その言い方はやめてくださいって。……いったい何が言いたいんすか? まさか、自分とユーリさんの仲に嫉妬してるってわけじゃないんでしょう?」
「……愛音の心がせまいとおっしゃりたいのですね?」
と、いっそう唇を噛みしめて、邑崎愛音はわなわなと肩を震わせ始める。
「去年の無差別級王座決定トーナメントの準決勝戦において、リングの下に猪狩センパイが駆けつけるなり、ユーリ様は奇跡の大逆転KOをお決めになりましたです。あの映像を目にして以来……いったい何なのだ? という疑念が消えないのです! お二人は、どういう関係なのですか? ど、同性愛者でないのだとしたら、いったい何なのですか? どうしてそんな風に、二人がひとりバロロームみたいなオーラをかもしだしておられるのですか?」
「そ、そんなオーラは発散させてないっすよ」
「させてますです! 他の誰には見えなくても、愛音には見えるのです!」
他の誰にも見えないのなら、幸いだ。瓜子は頭をかき回しつつ、何とか思考のまとめにかかった。
「……別に、そんな風に騒がれるような仲じゃないっすよ。道場仲間で、仕事仲間の、同居人っす。これだけ四六時中一緒にいるんだから、気心が知れるのも当然でしょう? 嫉妬なんて、的外れっすよ」
とはいえ、出会った当初は瓜子もユーリとサキの仲の良さに胸をざわつかせたものだ。ただ仲が良いだけならまだしも、アイドルくずれのインチキファイターなんかとサキが気安い仲である……ということに、瓜子は何だか裏切られたような気持ちになってしまったのである。
しかしそう考えると、結果的に二足のわらじを履いている瓜子のことを、愛音が快く思っていないのなら、あの頃の瓜子と同じぐらい狭量になってしまってもしかたがないのかもしれない。
キックとMMA、どちらもあきらめたくはないと願う瓜子と、MMAのために八年間続けた空手道場を辞めたという愛音。どちらが正しいという話ではないのだろうが――おたがいに、相手の心情はなかなか理解し難いだろう。そんな人間が、自分の憧れた選手と妙に仲が良かったら、面白くないのが当然だ。
だから瓜子は、愛音を責める気にはなれなかった。
だけど愛音は、瓜子を責める気ではちきれんばかりになっていた。
「ど……同居人と、おっしゃいましたか?」
「え? 何すか?」
「猪狩センパイは、ユーリ様とご一緒に暮らしておられるのですか?」
ああ……そこがひっかかってしまったか。
そういえば、瓜子もユーリとサキの同居を知ったときは、子どものように怒ってしまったものなのである。
「そうっすよ。会社の命令で始まったことっすけど、なかなか快適な暮らしだってことは否定しないっす。……これはもう、口でどうこう言ってもしかたないっすね。自分のことを敵視したいなら、そうすればいいっすよ。もちろん、道場のみなさんには迷惑をかけないっていう大前提でね」
「そんなの当たり前のことなのです! あんまり愛音を馬鹿にしないでいただきたいのです!」
馬鹿にしているつもりはないが。今日一日の行動を見て、心配するなというほうが無理だろう。十六歳という年齢を差し引いても、愛音にはトラブルメーカーの資質が満ちあふれてしまっていたのだから。
「何を道端でぎゃあぎゃあ騒いでんだよ。……って、おんなじセリフを二度も言わせんなよ、タコスケども」
と、ようやく新宿駅が見えてきたところで、サキにまで追いつかれてしまった。ユーリがほっとしたように息をつくのも、数時間前の再現だ。
「サキたん、あんよをケガしてるのに歩くのが早いねぇ。ダムダムさんとの密談は終わったにょ?」
「ああ。くっだらねー用事だったわ。こんなことなら、あんなタコスケの呼び出しなんざシカトしちまえば良かったぜ」
「あれ?」と、瓜子はサキの細面を凝視することになった。
何だか――サキがその言葉以上に、本当に怒っているように見えてしまったのである。サイトー選手と、仲たがいでもしてしまったのだろうか?
「どうしたんすか、サキさん? ……その、自分なんかが聞いて良ければっすけど」
「そう思うんなら、聞くんじゃねーよ。サイトーの代わりにブン殴られてーのか?」
駄目だ。これは相当に機嫌を損ねてしまっている。
瓜子は是が非でもその理由を知りたかったが、闖入者が一名まぎれこんでいることだし、今宵は自重することにした。
「サキセンパイ、猪狩センパイ、それにユーリ様……本日は、ご指導ありがとうございました!」
と、まだまだ人通りの絶えない新宿駅に到着するなり、いきなり愛音が深々と頭を下げてきた。
「若輩者ゆえ、今後もご迷惑をおかけしてしまうでしょうが、フンコツサイシン頑張らせていただきますので、明日からもよろしくお願いいたします! それでは、おやすみなさいませ!」
瓜子とサキにはきつい視線を、ユーリには熱い視線を最後にそれぞれぶつけてから、愛音は小走りで改札口に向かっていった。
それをてくてくと追いながら、「ありゃあ筋金入りの大タコだな」とサキがつぶやく。
「ま、あれぐらいの負けん気がなきゃ面白くねーし、無礼がありゃあひっぱたきゃ済むことだしな。せいぜい痛い目にあわせてやろーぜ。……それじゃあ、またな」
左足を少しだけひきずりながら、サキも消えていく。サキは現在、虐待問題で閉鎖寸前まで追い込まれた「あけぼの愛児園」に寝泊まりして、妹分たる牧瀬理央の面倒を見ているのである。
サキ自身、もともとの仕事は無断で辞めてしまったし、左膝を痛めているために新しい仕事を探すことも難しい。それで、副園長たる加賀見老婦人の取り計らいで、施設の事務や雑用を手伝っているという話であった。
(道場のお人らとは、きっちり和解できたって話だったけど……まだ何か、しこりが残っちゃってるのかな……)
雑踏に消え行くサキの後ろ姿を見送ってから、瓜子はユーリとともに改札口をくぐった。
「なんていうか……ふだん以上に騒がしい一日でしたね。ユーリさん、大丈夫っすか?」
「うにゃ? ユーリはいつでも元気だよぉ」
ユーリは、うたた寝から目覚めたように、ふにゃりと笑う。
その、ふだんより少しだけ活力のない笑顔に、瓜子も少しだけ心配になってしまった。
「なんだか疲れてるみたいっすね。ずっと聞きそびれてましたけど、ユーリさんは邑咲さんのどういう部分が苦手なんすか?」
「うみゅ。……それはたぶんねぇ、ユーリのことを好いてくれてるところじゃないかにゃあ。あんまり最初っから好印象を持っちゃってるお人って、ほぼ百パーセント、そのうちユーリを見損なうことになるんだよぉ」
「何すか、それ。ずいぶん悲観的な考え方っすね」
「だって、今までがそうだったんですもにょ。子どもの頃から、学生、アイドル、プロファイターと流転しつつ、その経験則は決して覆されることはなかったのだよ」
そんなユーリの言い様に、瓜子はちょっとドキリとする。
こんな些細なことでも、ユーリがアイドル以前の過去を口にするのは珍しいことなのだ。
「ユーリのことをよく知らないのにユーリのことを好きになっちゃう人は、たいてい何かを誤解しちゃっているのだろうねぃ。こんなに冷たい人間だとは思わなかった! とか、お前には人の気持ちがわからないのか! とか、そりゃもう罵倒されまくりの半生だったのじゃよ。どちらかというと、ユーリのことを警戒したり嫌ったりしてたお人のほうが、のちのちユーリにとって大事な存在になる傾向が強いしのう。千さんとか、荒本さんとか、サキたんとか、うり坊ちゃんとか」
「ああ……まあ、そういう面はあるかもしれないっすね」
何にせよユーリはアクが強すぎるから、普通以上に人から見損なわれたり見直されたりすることが多いのだろう。
「ファンとかだったら、いいんだけどさ。試合やテレビで観るユーリの姿がすべてなのだから、誤解もへったくれもないだろうし。だけど、それが同じ道場に通う門下生ってなると……何だか、どう扱っていいのかわからなくなってしまうのじゃ」
「普通にしてればいいんすよ。道場仲間は仲間であり、友達じゃないんすから。邑咲さんのことは嫌いじゃないっすけど、あんな風にファン心理を道場に持ち込むのは、やっぱりほめられたことではないと思います」
瓜子がそんな風に答えると、中央線のホームを目指して階段を昇っていたユーリの足が、ぴたりと止まった。
長い睫毛に彩られた眠たげな瞳が、迷うように瓜子を見る。
「あの……恥をしのんで、うり坊ちゃんにお尋ねしたいのでしゅけれども……」
「はい。何すか?」
瓜子は静かに、ユーリの不安げな表情を見返す。
ユーリはボアコートのすそをもじもじといじりながら、消え入りそうな声で言った。
「ユーリとうり坊ちゃんは、道場仲間で、仕事仲間で、同居人、なんだよね……?」
「ああ」
それだけで瓜子は、すべてを察することができた。
そんなことは、瓜子だってこれまでになんべんも考えてきたことだ。
たぶん、ユーリよりもずっと昔から。
「これだけ関係性が入り混じってると、たまにわけがわからなくなるっすよね。普通の友達とは言えないような間柄だし。かといって、ただの道場仲間って感じでもないし」
「あう……」
「正直、自分もよくわかんないっす。だけど、わかってることもあるっすよ」
こんな道端で話すような話ではない。
だけど瓜子は、一秒でも早く伝えるべきなんだろうな、と思った。
あのときのような失敗を繰り返さないために。
「ユーリさんとは、道場仲間で、仕事仲間で、同居人っすけど。道場が別になって、仕事が別になって、住むところが別になっても、ハイサヨウナラってことにはならないっすよ。……そのときは、新しい肩書きを考えましょうよ。ケンカ友達でも茶飲み友達でも、何でもいいっすから」
ユーリの表情が、揺れまくった。
笑いたいのか、泣きたいのか、それともひょっとして怒りたいのか、予測不能だ。たぶん本人にもわからないのだろう。けっきょくユーリは、泣き笑いのような表情で、唇をとがらせた。
「うり坊ちゃんさあ、そんな不吉な未来を提示しないでよぉ。道場もお仕事も住むところも別々になるなんて、そんなの、ユーリに死ねって言ってるようなもんじゃん」
「はいはい。そいつは申し訳なかったっすね」
「本当だよ。おおいに猛省していただきたい! ……しかも、ユーリのハートを破城槌のごとく撃ち抜きおってからに。甘美な飴玉を口いっぱいに詰めこまれながら、背中を革ムチでしばかれたような気分じゃわい」
すねたような口調で言い、また階段を昇り始める。
瓜子は少し足を速めて、そんなユーリの隣に並んだ。
「……ねえ。おうちに帰ったら、ぎゅーってしてよい?」
「やめたほうがいいんじゃないっすか。この前だって、鳥肌まみれの嘔吐寸前だったじゃないっすか」
「ううう。ほんじゃあ、ほっぺにチューは?」
「それは断固としてお断りさせていただきます」
「けちんぼー。ほんじゃあ、カラダが触れあわないように気をつけつつ、一緒におフロするってのは、いかが?」
「……もはや何をしたいのかもわかんないっす」
「ユーリは、心臓を撃ち抜かれた報復がしたいだけだよん」
ふだんの気安い感じで笑い、そしてユーリはぽつりとつぶやいた。
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