第37話 準備完了

 二人の結婚式に向けて、本格的にみんなの作業がスタートした。とは言っても、清と堀川は、いつも通り絵画の作成なのだが。村人たちは、次のイベントの目標ができたせいだろうか。嬉々として生活している。

「こりゃあ大変だな。彼らを活気づかせるためには、次から次と新しい刺激を与えてあげなきゃいけないんだもんな・・・」

 清の実感だ。しかし、百合はそんな気はさらさらないようだ。要は今この時を楽しんでいる。そう、常に新しい刺激を楽しんでいるのだ。彼女を見ていると清も、それで良いかと思うのだが、やはり村には常に活気が有った方が魅力的だと思うのだ。

 しかし、古民家が改修されている限り、村の活気は保たれるのかも知れない。そう、村人たちは古い建物が生まれ変わっていくのが、嬉しくもあり、楽しくもあったのだ。

「百合ちゃん、古民家の改修は画像に撮りこんでるんだよね」

「うん、当然よ」

 百合は、ニッコリと笑い「でも、どうしてですか?」と彼に聞いてきた。

「ああ、この村全体を古い農民文化のテーマパークにできないかなあ・・・て」

「テーマパーク・・・ですか?」

「そう、テーマパーク。滞在型のね。ま、これは飽くまでも、古民家の改修工事がもっと進んでからの話だけどね」

「面白いですね。楽しみがまた増えそう」

 いろんな形の古民家を見て回りながら、古き良き時代を懐かしむ。そのようなノスタルジーに浸りたい。現代の無機質な社会には、そんな人もいるに違いない。そのような人々の癒しの空間を作れば、きっと訪れる人もいるはず。滞在型にしてゆったりと田舎ライフを味わって貰うのも面白いかもしれない。

 そんなことを思いながら彼は作業を行った。百合も清の構想が気に入ったのか、毎日が楽しそうで、ウキウキしている。そんな明るい家庭で育っているからかもしれない、小百合もいつもニコニコと周りに愛想よく振舞っている。

 そんな毎日の生活が楽しいせいもあるのだろう、気が付けばイベントホール用の古民家は完成間近になっていた。

「いよいよ完成だね。今回もお披露目式するの?」

「ああ、今回は完成の前に内覧式だよ。だって、完成したら、こけら落としは二人の結婚式なんだから」

「そうか、そうだよね。でもこけら落としが結婚式なんて縁起がいいよね」

 そんな話をしていると、望月がやって来た。

「おはようございます。今日は出来上がった絵を頂きに来ました」

「おお、そうか」

 清は出来上がった絵を二枚、アトリエから持ってきた。

「今回も、良い絵ができましたね。あのギャラリーも、これでかなり見栄えが良くなりますよ」

「相変わらず、望月さんはほめ上手ですね」

 そんな会話を交わしながら、望月は堀川の家も尋ねると言って出ていった。

「さて、百合ちゃんたちの作品も見に行くか」

「え、作品って」

「お姫様の乗る機会の馬車をね」

 親子三人で手を繋ぎながら、トラクターの所までやって来て、清はびっくりした。本当にこれがトラクターなのかと思えるようなデコレーション、そして、リアカーもその面影は全く感じられない。

「よくもまあ、こんなデザインを考え出したね」

「実は、美咲さんの持っていた絵本を元にデザインしたんです。気に入って貰えましたか?」

「僕が気に入るというよりも、二人が感激するよ、間違いなく」

 その言葉を聞いて、百合の顔が綻んだ。折角だからといって小百合を座らせてみた。大きなソファーの上にチョコンと座らされて、最初はキョトンとしていたが、百合が「可愛い!」と感嘆の声を上げると、嬉しいのかニッコリと笑った。

 間もなくして、堀川夫妻がやって来た。ソファーに座っている小百合を見て、美咲も「可愛い!」と言いながら写メを撮り始めた。

「東さん、この絵は私に描かせてくださいね。後で彼女が撮った写メを引き延ばして、構図を決めて描きますので」

 清は、小百合の可愛さに見とれて、絵の事が完全に頭から離れていた。

「まいったなあ・・・。絵にすることを忘れてたなんて、完全に親バカですよね」

 清は、小百合を抱上げ、四人で歓談しながらイベントホールに向かうことにした。到着すると、秋山が村人たちに作業の指示を出している。

「間もなく完成ですね」

「あ、東さん。はい、明後日に内覧会を開く予定です」

「じゃあ、この次の休日はお二人の祝言ですね」

 秋山は照れ臭そうに頭を掻いた。

「祝言が終わって、新婚旅行から帰ったら話がありますので、よろしく」

 百合は、あの事だと思い、話したそうな顔をしたが、清が笑顔で制止した。そうだ、センセーショナルな発表は、みんなが集まった時にする方が良いに決まってる。先ずは内覧会と祝言を終わらせることが先決なのだ。


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