千百三十一話 ポー・ムラムと夢蔵右衛門(ムクラウエモン)との契約

 ポーさんは眉の片方を下げながら、

 

「先の長剣<kaph>と短剣<pe>を得て、魔界四九三書を扱う魔族たちの主で、自身も魔界四九三書を持ちながら……黒魔幻大蛙把系統との契約のやり方を知らぬとは……」


 呪いの長剣<kaph>と短剣<pe>は、何かの言語だと思うが<翻訳即是>では解読できず。

 

「すいません、魔力を送るだけで契約できるのかと思っていました」

「……ふむ? 小童も【極門覇魔大塔グリべサル】の学生か卒業生だと思うが……最近の魔公の学生共は、エレメンタルの天宮霊のなんたるかを、しっかりと学んでいるのか?」


 と聞いてきた。微かに頭部を下に傾けて、


「えっと、【極門覇魔大塔グリべサル】とは? 学生でも卒業生でもないです。ちなみに名はシュウヤといいます」

「……【極門覇魔大塔グリべサル】を知らぬのか!?」

「はい」

「では、神界セウロスの知恵の神イリアスが絡む【ミスラン塔】や【イリアスの大神塔】は知っているか?」

「【ミスラン塔】や【輪の真理】は聞いたことがあります」

「……それでいて、【極門覇魔大塔グリべサル】を知らぬのか」

「はい」

「大骨魔平原グンドールに、骨魔大公アブランボッチ様も知らぬのか?」

「大骨魔平原グンドールなら、キストレンスという魔族から聞いたことがありますね。グンドールの深い谷が並ぶゲンジーダの沼地に棲むモンスターが透魔大竜ゲンジーダだということも知っています。アイテムボックスとなる胃袋は、俺の<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人が持っている」

「ほぉ……随分とバラバラだが……」

「げろげろ、げろげーろ、いっさむ」


 と、ポーさんの真下にいるヒキガエルに似た魔蛙の夢蔵右衛門ムクラウエモンが鳴いた。


 ポーさんは、そのムクラの言葉が理解できるのか、


「……真実か。ふむ、たしかに、これも一つの時代の流れよな……」

「げろげろ、げろげーろ」

「ふはは、なるほど、無疆むきょうの魔界セブドラの一塵法界いちじんほっかいと言いたいのだな」

「げろげろ、げろげろ、げろーげろー、いっさむ、げろ」


 とムクラが何かを語り、納得した感じで『げろ』と鳴いた。

 ポーさんも、最後の『げろ』のイントネーションで顔色が変化、深く納得したような表情を浮かべてから、俺を見て頷く。


 そして、納得したように、


「……ワカッタ」


 と言った瞬間、煙でできていた椅子が霧散して消えた。

 ヒキガエルに似た魔蛙の夢蔵右衛門ムクラウエモンの頭部がぶるぶると震動し、


「げろげろ、げろげろーん、げろげーろ」


 と鳴いた。

 ポーさんも、そのムクラウエモンの動きに合わせて揺れる。


「契約を急げか? 黒髪の小童もそれなりに心の準備が必要だと思うが……」

「げろげろ、げろげーろ、げろげろ、げろげろ、いっさむ――」

「ワカッタワカッタ」


 ポーさんはムクラウエモンに急かされた?

 ポーさんは、



「では、契約の準備を整えるとしよう」


 と言って右腕を俺に向けた。

 その右手にまたも煙管を生み出すと、掌の上で羅宇ラオを回転させて吸口を咥え、その煙管に魔力を通す。


 と、ポーさんは息を吸う。

 火口に入っていた刻みタバコらしきモノが燃えた。


 ポッと可愛い音が火口から響く。


 そして、羅宇ラオに刻まれている魔印が光り輝いた。

 ルーン文字的な魔法の文字の意味は分からないが、ポーさんが煙を吸い込むたびに、煙管自体の魔力が膨れ上がっていた。


 煙管から煙を吸っているだろうポーさんの胸が膨らむ。

 ポーさんは鳩胸らしい。


「――げろげろ、げろげーろ」


 と下の魔蛙ムクラウエモンがまた鳴いた。

 ポーさんの煙を吸う動きに合わせて、ムクラウエモンも胸を膨らませる。


 ムクラウエモンとポーさんは、呼吸のリズムを感じさせるように胸の動きが同期した。


 胸を膨らませ萎ませる。


 ヒキガエルなだけにガマガエルってか。


 ポーさんは煙を吸い続けながら浮かぶ。

 魔蛙ムクラウエモンの頭部から離れて俺に近付いた。

 下いる魔蛙ムクラウエモンは少し口を拡げて、口から舌を伸ばしたまま固定している。その舌の上には巻物がのっていた。と、その巻物が自動的に浮かびながら開かれ自然とめくられていく。

 

 巻物の内容は、魔界セブドラの神絵巻的な内容か?

 その開かれた横開きの巻物は白紙になって動きを止めた。


「「おお」」

「にゃ」


 皆と一緒に相棒も少し驚く。


 ポーさんは煙管を口から離し、スゥと口と鼻から煙を吐き出していた。吐き出された煙はもくもくとした動きで俺の手前に来ると、小さい羊皮紙に変化。

 

 小さい羊皮紙には……。

 〝魔法紋・ポー・ムラム・キティアルマンの契約書〟と書かれてあった。他にも色々と魔法文字が記されている。


 その小さい羊皮紙と開かれている巻物が融合し、煌めきながらめきめきと巨大化。


 巨人が読むような巨大な羊皮紙となった。

 

 〝魔法紋・ポー・ムラム・キティアルマンの契約書〟は……。

 〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に変化した。


 巨大な羊皮紙だが、端は切れ切れで、古代の書物から切り取った紙にも見える。


 ポーさんは、


「……そこの魔法真紋の証書の端に白い空きがあるだろう。そこにシュウヤが魔力を込めた手を押し当てろ。それで、私、ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンとシュウヤとの契約が完了となる」


 意見を聞くように黒猫ロロとキサラとヘルメを見てから、イスラさんとミューラー隊長にロズコたちを見ていく。


「にゃ」


 黒猫ロロは片足を上げて肉球を見せてきた。

 肉球判子を、この〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に押したいらしい。


「「……」」

「閣下、契約書には禍々しさは感じません」

「はい、しかし、魔界セブドラの魔法契約書は大きいですね……」

「あぁ」

「にゃ~」


 黒猫ロロは俺の肩に乗ってきた。

 そのまま、一歩、二歩と前に出て〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に近付き、


「この黒猫は相棒でロロというんですが、この相棒も、肉球判子を押してこの〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に魔力を込めたいようですが、いいですか?」

「……どちらかとしか契約はできないはずだが……」

「げろげろ、げろげろ、いっさむ」

「……いいのか、ワカッタ。その黒猫も一緒に魔力を込めればいい」

「分かりました」

「にゃ~」


 〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に向け右腕を伸ばす。

 

 相棒は俺の右腕の上を駆けた。

 そして、手の甲に乗った黒猫ロロは、俺の人差し指に合わせ己の右前足を〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に押し当てた。


 刹那――。


 〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に魔力を盛大に吸われた。


 相棒も「にゃおぉぉ~」と鳴いた。

 魔力を吸われたようだ。


 と、〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟に俺の名とロロディーヌの名に肉球のマークが刻まれる。


 可愛い。


 すると、〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟は自然に発火。


 バッと音を立てて塵になった。

 塵の一部は大気に混じるように消え、一部はポーさんと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンに吸収されて、残りは俺と相棒に降りかかる。


 と、降りかかってきた〝魔法真紋・ポー・ムラム・キティアルマンと魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンの契約書〟の塵は、俺と相棒の体の中に染み入るように消えた。


 その直後、ポーさんと、魔蛙夢蔵右衛門ムクラウエモンは、


「契約は成った!」

「げろげーろ!」


 と言って宝箱から離れて俺の足下に来ると、


「このポー・ムラム、主に従います。今後ともよろしく」

「げろげろ、げろげーろ、げろげろ、いっさむ、げろげろげーろ」


 と頭を下げてきた。


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