千百二十七話 魔界の金の話と魔式・九連環


 〝金〟か。


 パムロールの蜘蛛籠は、クナとかも欲しがるかも知れないが、【グラナダの道】の方々が欲しがれば譲るかな。〝死導のツルハシ〟は、結構髑髏の装飾がゴツいから、体格的にテパ・ウゴさんやヴァイスンさんとトクルさんに合いそうだ。


 さて、次の知恵の輪のようなアイテムの鑑定結果を聞くか。


 その前に、宝箱の中には魔コインの束もあるから、魔界セブドラの金に付いて話を聞いておくか。

 魔界セブドラを放浪していた【グラナダの道】なら、金の調達は当然しているだろう。

 源左とデラバイン族と同じなら魔石が金代わりだと思うが、ミューラー隊長から金の流れを聞いておこうか。


「ミューラー隊長に皆、他の鑑定結果の前に、少しいいか?」

「どうぞ」

「「「はい」」」


 皆の言葉の後、ミューラー隊長に、


「源左の交易は主に魔石と物々交換だったが、各地の金は、魔石の物々交換が主流なんだろうか」

「そうですね、地方によりますが、大抵は魔石です。魔力が内包された物が金になる」


 と教えてくれた。

 黒猫ロロを胸に抱いているキサラは数回頷く。黒猫ロロの動きとおっぱいの動きに釣られそうになるが、硬い意思で釣られない――。


 ロズコとミジャイにも視線を向けて話を促した。


 ロズコは、


「魔コインや紙幣が流通しているところもありました。度量衡もまちまちで異なるなど。ですが、それは限られた地域のみでしょう。ですから基本はミューラー隊長が語る通り、魔石が主軸の物々交換が主流です。しかし、俺が囚われている期間は十年前後のはずですから、その間の娑婆のことは分かりません」


 と語りつつミューラー隊長に目を向ける。

 しかし、娑婆か。俺の<翻訳即是>がそう翻訳しただけだが……。

 

 ま、無理矢理とはいえ刑務所にいたんだから、その通りとも言えるか。

 ミューラー隊長は頷いて、


「外は変わらないから安心していい。否、安心していいと言えるほど甘くはないか。まあとにかく、魔界大戦がどこで起きようが、魔石、極大魔石の価値は普遍的に高いままだ。魔コインも高い」

「なるほど、だとしたら物々交換が基本のままか」

「はい」


 元囚人の魔族と【グラナダの道】の面々が頷いた。

 その間に、ミジャイはキサラとヘルメに視線を巡らせていく。


 キサラとヘルメが微笑むと、ミジャイは俺を見てから頷いた。

 キサラとヘルメに対するミジャイの視線と表情での確認の意味は……。

 【ケーゼンベルスの魔樹海】での極大魔石の件だろう。

 リスクはそれなりにあるが、極大魔石は採取し放題だからな。


 あの大量のモンスターを屠れるだけの強さが必要だが。

 だが、ここではまだロズコに極大魔石の採取の件は言うつもりはないだろう。


 そのミジャイは、


「……はい、魔石も魔コインも魔力源。魔コインは神々や諸侯の支配する地域に流通しています。が、ミューラー隊長やロズコが語ったように、魔石が主力です。しかし、傷場を有した神々や諸侯の領土付近の街や村ではセラの白金貨などが流通しています。それが元で争いになることが多いとも」

「へぇ」


 ミジャイの魔傭兵ラジャガ戦団は、傷場がある地域も渡り歩いたんだろうか。すると、ミューラー隊長が、

 

「はい、俺もミジャイ殿と同じ見解です」


 と発言。俺は頷いてから、


「セラの白金貨が魔界セブドラで流通しているのか……」


 と言うと、ミューラー隊長とミジャイたちは頷き合い、


「「「「「はい」」」」」


 とハモってきた。

 そのハモった元囚人の魔族たちにも視線を向け、


「他の地域も魔石に物々交換が主力なのかな」

「はい。故郷は物々交換でした。そして、魔コインもありましたが、魔石があれば大抵の飯は食えましたよ」

「そっか」

「はい、ミジャイ団長やミューラー隊長が言ったように、基本は魔力を内包した物との交換です」


 頷いた。

 ロズコは、


「あ、団長の話の続きってわけじゃありませんが、共に旅をした魔商人サヘイジからは、『セラの白金貨と金貨を扱う魔商人には信用できない者も多い。特に【サブ&ヨヘイジの肉蒲団にくぶとん商団】に気を付けろ』と警告を受けたことがありますぜ」


 と発言。


「ほぉ、覚えておこう」


 すると、テパ・ウゴさんが、


「俺の故郷チタゾンでは――魔石の物々交換だったぞ!!」


 と気合いを込めて発言してくれた。


「分かったが、そんな大声で言わんでいいぞ、そして、近付いて来ないでいい」

「「……ワカッタ」」


 テパ・ウゴさんは、二つの頭部で少し残念そうな表情となる。

 喋りと態度は面白いが……決して二人きりにはなりたくない方だ。


 と、皆に視線を向け、発言を促した。


「――俺の故郷アンデビや【ペールマウント魔街】も、魔石類による物々交換が主でした」

「俺のところも魔石が主。レブラの高級魔コインやボーフーンの魔コインは高級品扱いだった」

「私のところは、レンシサの魔白金コインが流通していました」

「ボクのところも、レンシサの魔白金コインでしゅ!」


 最後はエトアさん。

 皆から金のことを聞いたからか……。


 ふと、フォルトナの冒険者ギルドの地味な受付嬢との会話を思い出した。

 

『この金貨はここで使える? 国によって価値が変わったりするのかな……』

『その金貨はオセベリアの金貨、オセール金貨ですね。ここでも流通してますです。このヘスリファートで流通しているヘス金貨と同価値なので価格は変わりません。【オセベリア王国】内でもヘス金貨は同価値なはずです』


 オセべリアの金貨が北マハハイム地方のフォルトナの街に流通していた。


 フォルトナの街は宗教国家ヘスリファートの領土だ。

 そこにオセべリア王国の金貨が流通していたことに疑問を抱いたっけ。


 更にゴルディクス大砂漠には【アーメフ教主国】という国があるらしい。

 その国が各オアシス都市を支配していると聞いている。


 そのゴルディクス大砂漠のアーメフ教主国にも自国の通貨は流通していると思うが、オーセル金貨を主軸通貨にしていたんだろうか。

 

 金と白金の価値基準はそれなりにあると思うが……。

 金の含有量などもスキルや魔道具で分かるんだろうと予測していたな。

 オセべリア王国の金貨には付加価値があるんだろうか。


 また、金貨や貨幣制度と言えば【聖魔中央銀行】の話もある。

 秩序の神オリミール様と連動しているから絶対的な付加価値が付く?

 しかし、【聖魔中央銀行】の本部は遠い自由都市ハイロスンにある。


 オセべリア王国とはあまり関係がないようにも思えるが、シャルドネの話には【聖魔中央銀行】の役員バミグラスなどが登場していた。

 更に【聖魔中央銀行】の執行役員【グレート・ファイブ】の一人、リン・ジェファーソンとは魔塔エセルハードで会っている。


 リン・ジェファーソンは【白鯨の血長耳】の緊急幹部会に血長耳側として集まっていたVIPの中にいた。

 俺に注目していたことは確実、【白鯨の血長耳】の最高幹部と親しくしている皆からも、リン・ジェファーソンのことは聞いていた。護衛も強力な存在だと。


 さて、脱線した、金のことはもういいだろう。

 ラムーさんに、


「金属製の環と環が∞のような文字風に繋がっているアイテムの鑑定結果を教えてくれ」

「はい、伝説レジェンド級、名は魔式・九連環。キィルストルの魔鋼樹と白皇鋼ホワイトタングーンと未知の魔鋼が使われているようです。製作者は魔界八賢師タリマラ」


 ただの知恵の環ではなかったか。


「「「おぉ」」」

「魔界八賢師の作品とは、豪華だ」

「「あぁ」」

「が、聞いたことのない魔界八賢師だ」

「あぁ、俺もだ。魔界八賢師セデルグオ・セイルや魔界八賢師ランウェンなら知っているが……」

「俺も聞いたことがない」

「私もないです」

「あぁ、俺もだ。というか、その二人しか知らねぇ」


 と、【グラナダの道】と元囚人の魔族たちが語り合う。

 ヘルメとキサラに、


「武器なら<鎖>のように使えるか」

「はい、鞭か鎖ですね。先端の環が歪んでいて鋭いです」

「あぁ、振り回すハンマーフレイルのような運用もできそうだ」

「「はい」」


 さて、次はラムーさんに、魔コインの束は飛ばし、


「次は金床を頼む」

「はい、神話ミソロジー級、名はボシアドの恩讐。魔黒檀の金床で、勿論ですが、暴虐の王ボシアドの祝福が籠った金床です。触っても呪いなどはないです。しかし、魔力を通して契約となったら、その本人がどうなるかは分かりません。勿論、暴虐の王ボシアド様に知られることになるでしょうから、ここで魔力を通すのは止めてほしいですね」


 とラムーさんが少し緊張気味に語る。

 興味本位で魔力を注いでみたいなと思う俺がいるが、止めとくか。

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