千百五話 カリィとレンショウ<従者長>となる

 <従者長>を意識して<光魔の王笏>を発動した瞬間――。


 全身から大量の光魔ルシヴァルの血が迸った。

 大量の血は大波となってカリィと俺を飲む込むように周囲に拡がる。

 一瞬で血の視界となった。


 近くのテーブルとチェストと小物類と飾りが浮く。


 俺たちの四方を囲っている《水幕ウォータースクリーン》の液体の壁とペントハウスの窓と血が衝突。俺たちの周囲が血で満たされた。


 同時に激しく全身が痛む。

 毎度の<大真祖の宗系譜者>を内包した<光魔の王笏>を行う度の痛みだが……慣れないな。


 カリィは血の液体の中を立ち泳ぎ。


 そんなカリィと魔線で繋がっている怪士ノあやかしの短剣が魔力を周囲に放ちながらカリィのことを守るように浮いていた。


 カリィは、その怪士ノあやかしを掴み腰に差した。

 そのカリィを見ながら<血道第五・開門>を意識し発動。


 血の錫杖が真上に出現。

 錫杖からカンの音色が響き渡った。


 すると、カリィは全身で光魔ルシヴァルの血を吸い込み始める。

 その数秒後、カリィは体を反る。胸元から光が迸った。

 口からも大量の空気の泡を出し、胸から迸っている光は血の世界を駆け抜けながら彼方此方に渦を発生させる。その渦は一瞬で陰陽太極図のような模様に変化し消えていく。


 全身で光魔ルシヴァルの血を吸い込み始めたか。

 衣装の表面にルシヴァルの紋章樹の幻影が見え隠れしていく。

 ルマルディと同じだが、少し色合いが薄いか?

 <従者長>だからだろうか。


 カリィの衣服が透けた。

 ルシヴァルの紋章樹の根っこのような模様が、月虹の色合いで素肌の表面に走っていく。


 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>的だ。

 月虹を帯びたカリィは反っていた体勢をゆっくりと元に戻しつつ、口から空気の泡と銀色の泡のような魔力粒子を漏らしていく。


 その銀色っぽい魔力粒子は他の眷属たちと同じようにカリィの周囲を巡りつつ子宮を模ってカリィを囲う。


 カリィは苦しそうに眉間に皺を寄せた。

 ヴェロニカのような余裕はない。

 また口から大量の銀色の魔力粒子を泡ぶかせた。

 が、直ぐに俺を見て悪態笑顔カーススマイルを浮かべた。


 この辺りはカリィらしい。


 そして、今の俺たちを外や俯瞰から見たら……このペントハウスの右の一角だけに血色で透明な壁が存在しているように見えているかもな。


 皆、《水幕ウォータースクリーン》越しに俺たちを見ている。

 と、血の液体世界の一部の層が黄金と白銀に輝く。


 夕陽がさしたのか。

 その液体の層の輝きは上下の血の層に模様を作るように展開される。

 それは垂れた稲穂が風に揺らいでいるようにも見えた。


 層層とした美しい夕焼けが光魔ルシヴァルの血を様々な色合いに輝かせる。

 その間にもカンの音色は強まった。

 カリィは口から空気を吐き出しつつ血を吸い込み続けていく。

 すると、周囲の血の液体世界の中に宿曜師すくようしの格好の血妖精ルッシーが出現。続いて、血霊衛士と宝船に乗っている血妖精ルッシーが現れる。

 七福神の格好をした血妖精も出現。

 闇蒼霊手ヴェニューと似た存在に水鴉と龍も現れた。

 黄金の鴉や蜂はいない。一部の血妖精ルッシーは水鴉と飛翔するように泳ぐと、カリィの中に吸い込まれて消えるものもいた。

 龍に乗っている血妖精ルッシーの数は少ない。水鴉が消え始めると、血妖精ルッシーたちは盆踊りと田楽踊りのようなダンスを始めた。

 そのダンスに血霊衛士も交じる。

 クオリティの高いダンスは見ていて面白い。

 血妖精ルッシーたちは血の流れに乗ったまま集団体操に移行。

 血霊衛士たちの足音と、血の錫杖が奏でるカンの音色はマッチしている。更に、カリィが吸い込んでいる血の音とも合う。


 ――アドゥムブラリの時と同じく踊りたくなった。


 集団のダンスの中心には一際大きい血妖精ルッシーがいた。

 否、血妖精ルッシーではないのか?

 腰に注連縄を巻いている子精霊デボンチッチか。

 その子精霊デボンチッチの周りにだけ、極めて小さい水鴉と仗が浮いていた。子精霊デボンチッチと血霊衛士に血妖精ルッシーたちの集団体操的な楽しげなダンスは佳境に移る。


 と、中心にいる腰に注連縄を巻いている子精霊デボンチッチの動きが止まった。周囲の血妖精ルッシーたちは連鎖し、腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチのほうを見ながら動きを止めた。


 数秒後、腰に注連縄を巻いている子精霊デボンチッチは右のほうを向く。少し遅れて左のほうに頭部を向けた――。


 周囲の血妖精ルッシーたちは一斉に腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチの真似をする。


 面白い。

 どこかの劇団が行うダンス劇を観ている気分だ。


 ロボットダンス的でもある。


 腰に注連縄を巻いている子精霊デボンチッチはまた動きを止めた。数秒後、頭部を前に出して、左手と右手を上と下に動かす。それは歌舞伎役者的な動きで、田楽返しのポーズにも似ていた。


 すると、周囲の血妖精ルッシーと血霊衛士たちの色合いが血の液体世界に混じるように一気に薄まった。


 ただでさえ幻影的で小さい血妖精ルッシーと血霊衛士たちだったが、見えなくなったと思ったら、陰陽太極図の幻影を血の液体世界に発してから消えた。


 その直後、銀色の子宮の一部がルシヴァルの紋章樹の幻影へと変化を遂げて、カリィの体と重なった。ルシヴァルの紋章樹の一部は本物に見えた。

 銀色の葉と花の万朶は美しい。

 樹の屋根を構成している銀色の葉と花から銀色の魔力の波と魔線が太陽の紅炎のように宙空へと迸っていた。


 樹の上部と枝葉は、太陽を思わせる明るさだ。まさに陽。

 樹の下部と根は、月を思わせる暗さ。まさに陰。


 その太陽を彷彿とさせる樹の幹と枝から出た一部の魔線はカリィとも繋がっていた。


 ルシヴァルの紋章樹の万朶にカリィがぶら下がっているように見えるのは他の眷属と同じ流れか。


 幹の表面には眷属たちやカバラ数秘の意味が秘められていそうな積層魔法陣が刻まれている。


 と、その中心の円から榊のような棒がニュルッと出て俺の手元にまで飛来してきた。


 その榊を掴む。自然と棒が俺の掌にフィットするのを感じながらカリィに近付いた。


 この榊のような不思議な棒が出現するようになったのは、キサラからだったかな。

 そして、榊のような棒で、光を帯びているカリィの体を祓い撫でていく――祓われる度、カリィの服にルシヴァルの紋章樹の幻影が出現、透過してはカリィの体に無数の血の線と筋が入り消える。


 その線と筋から数字と文字が出て、カリィの衣服を越えて血の液体世界の中へと消えていく。


 すると、お祓い棒のような銀色の葉と万緑の葉が付いた榊のような棒が俺の魔力を吸うと、自動的に手から離れてカリィに向かう。


 カリィの服を通り抜けて体に入り込んだ。更に、ルシヴァルの紋章樹の幹と万朶の輝きが強まって、ルシヴァルの紋章樹に光魔ルシヴァル一門の類縁関係が樹木状に模式化された系統樹が刻まれた。<筆頭従者長選ばれし眷属>と<従者長>に光魔騎士などの名が刻まれている円が出現していく。


 大きな円には、第一のヴィーネ――。

 第二のレベッカ――。

 第三のエヴァ――。

 第四のミスティ――。

 第五のユイ――。

 第六のヴェロニカ――。

 第七のキッシュ――。

 第八のキサラ――。

 第九のキッカ――。

 第十のクレイン――。

 第十一ビーサ――。

 第十二のビュシエ――。

 第十三のサシィ――。

 第十四のアドゥムブラリ――。

 第十五のルマルディ――。


 第六の<筆頭従者長>のヴェロニカの名を刻んでいる円の縁からは別の線が系統樹として小さい円へと繋がっていた。その小さい円の中には<筆頭従者>メルと<筆頭従者>ベネットの名が刻まれてあった。


 女帝ヴェロニカの証拠だ。

 カリィの眷属化には文句を言われるだろうが、我慢してもらおう。


 小さい円には<従者長>カルード――。

 <従者長>ピレ・ママニ――。

 <従者長>フー・ディード――。

 <従者長>ビア――。

 <従者長>ソロボ――。

 <従者長>クエマ――。

 <従者長>サザー・デイル――。

 <従者長>サラ――。

 <従者長>ベリーズ・マフォン――。

 <従者長>ブッチ――。

 <従者長>ルシェル――。

 <従者長>カットマギー――。

 <従者長>マージュ・ペレランドラ――。


 などが刻まれている。


 そこに新たな小さい円が生成された。

 その円の中にカリィの名が刻まれた。

 カリィは周囲の光魔ルシヴァルの血をすべて吸い込む。

 と、ルシヴァルの紋章樹も消える。そうしてカリィは床に倒れたが、直ぐに起き上がって片膝をつき、俺に頭を垂れた姿勢となった。


「盟主……ボクは<従者長>に成れたよ!」


 と言ったカリィに近付いて、


「おめでとう、<従者長>カリィ。これでお前も俺の家族だ。そして、戦いの螺旋とはいえ……血文字が使えるようになったんだから、副長メルには優しくしろよ?」


 と笑顔で片手を伸ばした。

 カリィもニコッと笑顔を見せると俺の手を握った。


 カリィは、「イヒ♪ フフ――」と笑う。

 そのカリィを引っ張り起こしてあげた。


「――痛いところを突くナァ……」

「気にしていたか」

「当然♪ 当時戦ったヴェロニカは、今は<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人。更に、そのヴェロニカの<筆頭従者>の一人が副長メルだからねぇ……」

「あぁ、一応、俺が受け入れたことを強調した血文字をヴェロニカとメルとベネットに送っとく」

「……ありがとう。ボクも血文字が使えるようになったら、【天凛の月】の副長に血文字を送るさ……そして、改めて、ボクは【天凛の月】と盟主で総長の槍使いシュウヤに忠誠を誓うヨ!!」


 カリィは胸元に手を当ててそう発言。


「――了解した。受け入れよう」

「ヤッタ♪」


 ヘルメが《水幕ウォータースクリーン》を消した。

 皆がペントハウスの窓際にいる俺たちの傍に寄ってくる。


「「「――カリィ、おめでとう」」」


 レベッカとルマルディとミスティがカリィを祝福。


「カリィ、光魔ルシヴァル入りおめでとう!」

「おめでとうカリィ! 今からわたしとも家族です。そして、宗主のシュウヤ閣下のために活動するんですよ!」


 キッカが母のように発言。

 カリィは笑顔のまま頷いた。

 ヘルメも、


「<従者長>のカリィ! 閣下のためにがんばってくださいね」

「はい♪ 精霊様」


 と頭を丁寧に下げるカリィ。

 意外だが、律儀なところもある。


「頼もしい家族のカリィ。今後ともよろしくお願いする」

「おめでと、セナアプアは任せたけど、ルマルディの敵を仕留めることに協力してね」

「ふふ♪ おめでとう」

「光魔ルシヴァルの血の家族入り、おめでとう」


 皆が祝福していく。

 ミスティとクナがカリィとハイタッチ。


「ウン、ボクもこれで不死系。血の盟約を結んでいるクナと同じ眷属さ」

「まだわたしは<筆頭従者長選ばれし眷属>や<従者長>ではないですが、はい♪」


 カリィとクナはウィンクし合う。

 悪態笑顔カーススマイル的な笑顔も素敵なクナだ。

 カリィとは気が合うかも知れない。


「わぁ~カリィ兄ちゃんはシュウヤ兄ちゃんの弟になったの?」

「ふふ、シウちゃん、そうですよ。シュウヤさんと血が繋がった、新しい家族となったのです」


 ディアがシウにそう説明。

 ドロシーも、


「うん、お母さんと同じ<従者長>となったカリィさん」


 シウは、


「お兄ちゃんと家族になれるなんて、いいなぁ~」


 と言うが、子供のままの眷属化はさすがにな。

 子供の姿のままのヴェロニカは、長い時間をかけて克服したようだが、将来コンプレックスを抱くかも知れないリスクはしたくない。


 と、クナが、


「ふふ、正直羨ましさがあります」

「クナなら<筆頭従者長選ばれし眷属>確定だと思うけど、ハンカイさんの後かな?」

「え? わたしが! <筆頭従者長選ばれし眷属>♪」


 喜んでいるクナに向け頷くと、クナは体を震わせ白眼を剥きながら倒れかかり、ルシェルに支えられていた。


 ハンカイは、


「俺が<筆頭従者長選ばれし眷属>か……ふむ。それよりも今は、カリィの眷属化を祝おう、おめでとうだ、カリィ。俺も【天凛の月】の一員として活動する予定だから、よろしく頼むぞ」


 と発言。

 カリィは腰を捻り、


「ふふ、当然、あのハンカイなら背中を預けられるよ。そして、皆、ありがとう♪」


 とポーズを決めながらお礼を言っていた。

 悪態笑顔カーススマイルではない、いい笑顔だ。皆は拍手。

 なんかほっこりとした空気に包まれた。こういうのも良い。さて、


「……次はレンショウを<従者長>に誘う」

「ご主人様――」

「ん、シュウヤ――」

「うん」

「シュウヤ様――」

「わたしも――」

「あ、わたしもあげる」


 と、ヴィーネとエヴァとレベッカとキサラが抱きついてくる。

 少し遅れてユイとミスティが俺に手を当ててきた。

 その皆は体から血を流して、<血魔力>をプレゼントしてくれたから受け取る。皆は更に、順番に俺の体を強く抱きしめてくれた。


 血を得て活力を得ると、心も温まった。


「……皆、ありがとう」

「「「はい」」」

「ん」

「「「ふふ」」」

「ロンバージュも飲んで」


 と、レベッカから高い魔酒が入ったコップを受け取る。

 一気に飲んでから少し談笑。


 その後、レンショウを見て、


「レンショウ、<従者長>にしよう。ヘルメ、頼む」

「ハッ」

「はい!」


 ヘルメは両腕を広げながらペントハウスを飛翔。


「ピュゥ~」


 ヒューイも水を撒くヘルメと一緒に飛行していく。

 先ほどと同じく《水幕ウォータースクリーン》が四方を囲う。


 素早く<光魔の王笏>を発動。

 全身から出た大量の血が俺とレンショウを飲み込む――。



 ◇◇◇◇ 


 次の日、<従者長>となったレンショウとカリィの処女刃を終えた。二人は無事に<血道第一・開門>を獲得。


 血文字を覚えたレンショウとカリィは、早速ペルネーテのメルたちに連絡していた。メルとベネットはあっさりと受け入れる。


 歓迎の血文字メッセージだったようだが、ヴェロニカは……。


『へ? 知らない。会ったら殺すから、一度、ううん、二度、首を刎ねる』


 と冷静に語る血文字を寄越してきたようで、カリィは青ざめた表情を浮かべていた。

 そのカリィに気にするな、冗談だろうと告げると、カリィは落ち着いていた。


 カリィとレンショウが下界に出てから少しして、ヴェロニカが血文字で、


『ふふ、カリィを脅かしちゃった。あれは冗談だからね。カリィのフォローを頼むわね』

『了解したが、カリィは顔を青ざめさせていたぞ』

『ふふ、いいじゃない、メルは死ぬところだったんだから。でもまぁ、戦いだからね……昨日の暗殺者が今日の友ということも理解しているから安心していいわよ。それに、黒猫海賊団を殺したベニーたちも受け入れているわたしたちだからね。ふふ、だから、後で毒々しいカリィに、冗談よって報告してから、吸血鬼ヴァンパイアにしないと助からない毒の成分とか聞いておく~♪』


 ヴェロニカらしいテンションで安心した。

 血霊衛士のことはまだ言っていないが、まぁなんとかなるだろう。


『……よかった、安心した。ビュシエ繋がりでも報告したが、セラ側の吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>たちの仲の悪さを知っていたからな』


 俺がそう血文字を送ると、間が空いた。

 ビュシエの名はちょいと不味かったか?


『……光魔ルシヴァルの宗主はシュウヤなんだから気にしすぎ。それよりも、ペルネーテに来るのは魔界帰りなの? 宿り月と武術街のシュウヤの家にはクナが用意した転移陣があるから、一瞬でこられるのに……』

『あぁ、そうなる。悪いな』

『ううん。そう言ったわたしだけど、今は宿り月でも武術街でもなく、アメリが活動している宗教街の広間にいるから』

『そっか。そのアメリだが、お父さんもいるし、ゴルディクス大砂漠を越えた先にある宗教国家ヘスリファートには行かないと思うが』

『わたしもそう思う。けど、聖鎖騎士団と教皇庁八課の魔族殲滅機関ディスオルテの一桁と仲間は、結構理性的なのよ……数年間尽くされて、聖女、聖女と持ち上げ続けられたら、アメリも、もしかしたら……と不安になっちゃうんだ。聖鎖騎士団と教皇庁八課の魔族殲滅機関ディスオルテの一桁とその仲間が、邪神の使徒や眷属、魔界の眷属に魔族の関係者を順調に倒し続けているのもあるし……』


 三つ巴が可愛く見えるほどのカオスな迷宮都市ペルネーテで活動し続けている聖鎖騎士団と教皇庁八課の魔族殲滅機関ディスオルテの一桁は、当然、結構な強さだな。


 冒険者ならAランク以上の集団かも知れない。

 そう考えてから、アメリのことを考えつつ、


『……あぁ、善い人の場合はあるかもな……アメリは光神ルロディス様に祝福されているとはいえ普通の人族だ。しかも聖女と言われるぐらいだから、善いことをしたいという気持ちは強いと思うし……一桁とその仲間が善い人々なら、仲間として信じてしまうかもだ』


 俺もアメリと同じ立場なら信じてしまうだろう。


『うん……だから心配。他にも過去のシュウヤの話にもあったけど、光神ルロディス様とアメリの神秘的な繋がりが強まる可能性もあるから、その関係で、宗教国家ヘスリファートに向かってしまう可能性もある』


 あぁ、その可能性が一番高いか?


『……たしかに。まぁ、そうなったら俺がアメリを送ろう。宗教国家ヘスリファートには、いずれ向かう予定だったこともある。聖槍アロステをアロステの丘に刺し戻さないとだめだからな』

『あ、うん、その依頼があったわね。なら、もしそうなったらだけど、わたしも旅に同行したいな……』

『別に構わないが、メルたちと相談するんだぞ……』

『うん、勿論。【天凛の月】の幹部として、副長さんの言うことはそれなりに守るわ♪ あ、それから、聞いていると思うけど、ベニーはもう復帰しているからね? ベニーの配下だった元暗殺チームの仲間たちも【天凛の月】に編入して、皆喜んでいた』

『おう、だが、セブンフォリア王国の【七戒】のメンバー辺りが絡んでくるかもだ。そしてセブンフォリア王国の他の部隊の監視網がペルネーテを注視しているかも知れない』

『うん、けど【天凛の月】も大きくなった分、外から監視している連中が多すぎて、すべての把握は無理。千里眼のようなスキルに魔法もあるし。そのベニーだけど、トロイア家の連中と軍罰特殊群を倒すと息巻いて大変だった。ラファエルとエマサッドとも『セヴェレルスを返せ、クソ野郎が!』と派手に喧嘩していたし……』

『……あぁ、ベニーの妹と妻と子供は人質で幽閉されている状況のようだからな』

『うん。【七戒】のベニーの消息が途絶えたことは、他の【七戒】の関係者も消えている以上、本国のトロイア家も知った可能性があるから、ベニーが家族の安否を心配するのは当然』


 俺の前で自殺しようとしたベニーだ。


『……家族が生きているにしろ死んでいるにしろ、現状は【七戒】として活動し続けたベニーたちの実績を信じるしかないだろう』

『あ、うん、凄い。メルとマジマーンもそんな感じで、べらぼうに高い賞金額やミホザの騎士団を信奉する【七戒】のベニー・ストレインの暗殺チームが過去に行ってきた仕事の内容を伝えてベニーを説得していた。そして【七戒】は、クナが造ったような転移陣や古代の転移陣などの利用経験は皆無で、普通に聖櫃アークの魔銃セヴェレルスと似た〝エセルジャッジメント魔貝噴射〟的なアイテムや馬などを利用して遠い南のセブンフォリア王国に移動しているから、多少時間が掛かる。メルは、『<千里眼>のようなスキルがある以上は絶対ではないけど、他の【七戒】が、わたしたちを監視していてベニーの状況を本国に報告しているのなら、第二王子ファルスの秘密部隊の噂も知って報告しているはずよ』と言ってた。あと、『それにより、オセべリア王国の内情を知れる立場となったベニーの利用価値が上がるから、当然、家族は生かされることになる。更に破壊工作の期間は最低でも数年単位は見積もっていたはずだから、ベニーの家族を早々殺すようなことはしないはずよ』とも重ねて話していた』

『……なるほど、さすがは副長メルだ』

『うん。ほんっと頭がいい』


 と、その後も血文字で色々と話をしていく。

 そして、少し遅れたが、カリィにフォローしておいた。


 その後、カリィとレンショウはカットマギーとハンカイを連れて外周りに出た。


『盟主、クレインとペレランドラから連絡を受けたヨ、ルマルディではなく、評議員殺しの作戦行動に参加するけど、いいかな』

『あぁ、構わない』

『了解♪』


 カリィと血文字を交換している間にシウたちは下の階層に戻る。


「シュウヤ、魔界に行く前に……」

「おう」

「ん、先生が、わたしも参加したいが、次にとっとくさねって言ってた」

「あぁ」


 とエヴァたちと会話しつつ、ユイに手を握られてペントハウスの階段を上がる。

 二階の渡り廊下を歩いた。皆も続く。

 ユイの掌は汗ばんでいる。

 汗の匂いからして、ユイの気持ちは理解できた。


 そのユイに引っ張られるように二階の簡素な部屋に突入。

 ユイに寝台に押し倒された。


 積極的なユイの温もりがタマラナイ。


 そんな寝台の上で、ユイを抱きつつ転がってユイの肩甲骨をマッサージ。


「ふふ、転がってると皆が寝台に入ってこられないわよ?」

「あぁ、では――」


 ユイを抱き上げながら、寝台にスペースを作る。

 そうして、吸霊胃無アングストラとの戦いの内容をセラ組に語りながら色々な体位のエッチに挑戦――。


 が、バーソロンとキッカは処女だったこともあり、皆遠慮したのか、布服一枚を着て素早く離れていくのは助かったが面白かった。


 そのままバーソロンとキッカを丁寧に一人ずつ抱いた後は皆も交ざる。そうしてハッスルしまくるが――。


 バーソロンが先に倒れると、地続き的にクナ、ピュリン、ビーサ、ミスティ、エヴァ、キスマリ、キサラ、キッカと寝台に倒れるようにダウンしていく。


 ヴィーネとヘルメとグィヴァは粘ったが、


「あぁぁぁ~」


 と甲高い喘ぎ声を連続的に響かせてついにダウンした。

 尻をこちらに突き出したままの悩ましい闇雷精霊グィヴァは、その体の至るところから稲妻を放出させている。


 その姿は魅惑的だったが、もう触ることはしない。

 休ませてあげるように、寝台から離れた。


 ……クナの新しい精力剤の秘薬を飲んだ効果が凄かったようだ。


 眷属たちがダウンしている間にペントハウスの一階のリビングに戻った。


 片方のゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡を戦闘型デバイスに回収。


 すると、黒猫ロロが来て、


「にゃ~にゃおぉぉ~」


 いつもより鳴き声が長い。

 ごはんかな。


「どうした? ごはんか?」


 と聞くと、黒猫ロロは「ンンン」と喉声を鳴らしつつ素早くキッチンに向かう。


 やはりごはんか。

「「「ンンン」」」

「ワンワンワンッ!」

「グモゥ~」

「ピュゥ~」


 直ぐに銀灰猫のメトと黄黒猫のアーレイと白黒猫のヒュレミと|銀白狼のシルバと子鹿のハウレッツと荒鷹ヒューイも来て、黒猫ロロと同じようにキッチンに向かう。


 皆ご飯タイムか。


 急ぎ、俺もアギトナリラとナリラフリラの管理人たちがいるキッチンに向かう――。


「よ、アギト、ナリラ、フリラの管理人たち」

「「「はい~♪」」」


 戦闘型デバイスから食料が入った袋と相棒の餌が入ったタッパーを取り出しつつ、それぞれ台に乗せた。


「ン、にゃ~」

「……にゃァ」

「ニャア」

「ニャオ」

「ワン!」

「グモゥ!」


 と、黒猫ロロを筆頭に動物トレインとなって俺の頭部に甘えまくってくる。「分かったから、少し待ってろ――」と言いながら巨大な冷蔵庫もチェック。


 巨大な冷蔵庫の中に保管されている食材は豊富だ。

 良し――。


 マグロと似た大きいカソジックは……あった!

 鳥肉の塊らしき肉も発見、肉の種類は色々とあるようだが……精進料理っぽい大豆を使った肉らしき食材もある。


 こおろぎはない。良かった。


 添加物塗れの食材もないようだ。


 俺の知る日本は酷かった。

 世界では禁止されている農薬が使われた調味料に食品が流通していたからな……。


 サッカリン、アスパルテーム、ネオテーム、スクラロース、アセスルファムKなどなど、俗に『スイートポイズン』と呼ばれ、砂糖の数百倍の甘み成分は体に毒だった。

 そんな毒を金で操作可能な安全基準で認可し、金のために販売していたんだからな。


 モンサントのような多国籍の遺伝子組み換え企業とそれに倣えの腐った企業の群れといったら……ほんとうに真実を知れば知るほど……呆れてものが言えなかった。


 ま、あのままではいずれ天罰が下るだろう。

 そんなクズ連中のことを思い出しながら食材を取り出した。


 台の上に大きい三十キログラムぐらいのカソジックを置く。

 冷蔵庫から鳥肉の塊も幾つか取り出し、台に置いた。

 義遊暗行師ミルヴァの短剣を右手に召喚し、台に置く。


 そのまま、大きいカソジックを<生活魔法>の水で洗い、調理用のたわしで鱗を梳く――。

 鱗が取れまくり――こんなもんでいいだろう。


 次は義遊暗行師ミルヴァの短剣で、ヒレの横辺りから頭部へと、背の骨に刃が当たるぐらいまで切れ込みを入れていく――。


 義遊暗行師ミルヴァの短剣は切れ味がいいから骨も切断してしまうかもだが――。


 続けて、大きいカソジックをひっくり返す。

 先ほどと同じくヒレを切り、腹を一気に切断。

 背の骨を叩くように五枚おろし。

 続けて、分けたカソジックの身を更に細かく切る。

 その身にオリーブオイルと塩にペソトの実を細かくまぶして火を通し、オリーブオイルを混ぜてサクッと完成。


 できたカソジックの料理を小分けにして皿に盛る。

 続いて、塩を付けた鳥肉を切って、少し焼いた。


 その焼いた鳥肉を近くで興奮しまくりな相棒軍団にプレゼント――。


「にゃおぉぉ」

「にゃ」

「にゃァ」

「ニャア~」

「ニャオ~」

「ワンワン!」

「グモゥ~」

「皆、その肉はオマケだからな~、今皿に分けるカソジックの料理が本命だ」

「「「ンンン――」」」

「ガルルゥ」

「グモウ!」


 黒猫ロロ軍団は一心不乱に焼いた鳥肉を食べまくる。


 そんな興奮状態にも見える皆の近くに、カソジック料理を盛った皿を置いていくと、直ぐに黒猫ロロが飛びつくようにカソジックの料理を食べていく。

 その後、アギトナリラとナリラフリラの管理人たちと料理教室の流れとなったところで、ヴィーネとレベッカが起きてきたから、その二人にも料理を作ってあげる流れとなった。


 そうして数時間後――。


 復帰した皆とペントハウスの二階に上がる。

 転移陣ルームではない、エッチを重ねた部屋も避けて、他の大きな部屋に移動した。


 壁には調度品が飾られて、天井には星座が飾られている。

 床は臙脂色で少し他の部屋より高級さがある。

 大きな机に大きいソファ。

 十人は余裕で寝られる巨大な寝台が二つ。


 クリスマスツリーのような植木もいいアクセントとなっていた。


 更に段差がある先には塔烈中立都市セナアプアの上界の絶景が見渡せる望遠鏡が設置されている展望台があった。


 そこにある寝台的な巨大ソファで、皆と魔酒を飲みながらまったりとイチャイチャ会話を楽しんだ。


 そこで〝闇烙あんかく・竜龍種々秘叢ひそう〟や、仙大筆と仙魔硯箱を用いて<風獣戯画>と<海獣戯画>を披露。


 闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスにも驚いていたが、黒髪美人ナギサの登場には特に皆が驚愕。


「聞いてはいたけど、ドラゴンや龍を住まわせることが可能で、重量や魔力などの制約があまりないアイテムボックスの役割もできるなんて凄すぎる……美人のナギサさんも眷属化しているし!」


 レベッカの語りに皆頷く。

 続いて披露した墨の魔力と風獣仙千面筆帖と風獣墨法仙帖仙の筆の使い方にも驚いていた。更に仙大筆と墨の魔力を使い、新しいエッチの開拓に挑戦すると――。


 その開拓が成功し、ナギサを交えて、皆、リズミカルに喘ぎ声を連発して体を何回も震わせ、オーガズムを感じてくれた。


 同時に激しく血を求めてくれた。

 俺も求めて<血魔力>を交換しあう。


「ん、シュウヤのキスは愛がいっぱい……」


 エヴァの言葉と紫色の眼は可愛い。

 が、照れてしまう。それを誤魔化すように――。


 その後、賢者タイムとなって普通の会話に移行。


 宵闇の指輪をビュシエに使用したこと。

 秘宝の水神ノ血封書と<始祖ファウンダーノ古血魔法・オールドブラッドマジック>などの恒久スキルとスキルのことを報告していく。


 さすがに<始祖古血魔法・血文王雷鬼槍刃>は威力がありすぎて、ペントハウス内では使えない。

 その流れからルマルディが<筆頭従者長選ばれし眷属>の<血魔力>を活かす<魔闘術>と<七ノ魔眼>を披露。


 浮遊しながら魔導札・雷神ラ・ドオラも使う。

 俺が預けていた魔導札・雷神ラ・ドオラと<血魔力>は相性がよかったのか、新しい攻撃のスキル<魔導札・血雷刃>と防御のスキル<魔導札・血雷剛>を獲得していたようで、そのスキルも見せてくれた。


 アルルカンの把神書は魔導札・雷神ラ・ドオラを使うとショックを受けるからあまり練習できないとぼやいていたが、ルマルディが強化されたんだから、アルルカンの把神書もその内受け入れてくれるだろうとフォロー。


 更に、魔界で得た様々な品物を思い出し、


「クナの<筆頭従者長選ばれし眷属>化だが、帰ってからとなる。そして、魔界で得た物だが、これとこれを――」


 試験管のような瓶が詰まっている箱の〝ネミルアの実験箱〟。

 古文書のような書物の〝エゾィイディック魔造書〟をプレゼント。


「まぁ! 二つも! ありがとうございます。<筆頭従者長選ばれし眷属>化は後回しで結構ですわ。そして、〝ネミルアの実験箱〟と〝エゾィイディック魔造書〟は……名前と見た目からある程度推察できますが、鑑定してもらいにスロザの古魔術屋アンティークに向かいます」

「了解、優秀なアイテム鑑定士のあの店主なら可能か」

「はい、たぶんですが」


 続いて、巨大な二つのオベリスクを出す。


「これは、マーマインの親玉ハザルハードが扱っていたオベリスクだ。ミスティとクナにエヴァとアクセルマギナ、有効活用できるかな」

「色々と流用は可能。ビームライフルやビームガンの強度を高めることが可能と推測。フォド・ワン・ユニオンAFVの装甲、エンジンオイルなどの潤滑油に使える素材にもなると思います」


 アクセルマギナがそう言うと、クナが、


「転移陣や魔法の杖の素材に使えるかもですね……召喚などの儀式にも使えるかもです。この品も、スロザに鑑定を頼みますか?」

「あぁ、そうだな」


 同意するとミスティが、


「溶かせたら魔導人形ウォーガノフのゼクスの装甲や武器に使えるかも」

「ん、オベリスクは、わたしの足やトンファーにも使えるかも知れない。でも、わたしは魔界セブドラに行くから、クナかミスティが持つべき」

「そうね、オベリスクの素材は興味深いけど、ゼクスに使う素材の実験はまだまだ多い、試作型魔白滅皇高炉を使いまくり、あ、魔術総武会たちの結果も気になるし、マスターも、もしかしたら魔界の【幻瞑暗黒回廊】を通じて、セラの魔塔ゲルハットの【幻瞑暗黒回廊】から現れるかも知れないからね、だからそのオベリスクの素材はクナに託すわ」


 ミスティがそう言うと、クナは頷いて「了解」


「なら巨大なオベリスクは、クナに渡しておこう。〝ネミルアの実験箱〟と〝エゾィイディック魔造書〟と同じく鑑定も頼む。アイテムボックスから外に出す時に気を付けてな」

「はい」


 クナは巨大なオベリスクをアイテムボックスに仕舞った。

 続いて、


「これはミスティが使うといい」


 〝魔宝石が入った箱〟はミスティにプレゼント。


「ありがとう! 魔法が詰まった魔宝石、風、火、土、雷、闇、光……属性が分からない魔宝石、無属性かも知れないけど貴重な魔宝石なはず、それも十数個……どんな魔法か気になるわ……あ、これもクナに鑑定を頼もうかしら」

「そうだな」

「うん、じゃあクナ、この〝魔宝石が入った箱〟も頼むわね」

「ふふ、はい」


 続いて、


「この〝拳用武器〟のタン・ブロメアの拳はレベッカに」

「――わぁ、ありがとう! クルブル流拳術が活きる!」


 レベッカは早速装備。


「おう、良かった」

「ふふ――」


 と喜んだレベッカから頬にキスを受けた。

 何回もキスはしているが、これはこれで嬉しい。

 シトラスの香りを漂わせるレベッカは、


「ムーちゃんに〝闇速ベルトボックス〟をプレゼントしたって聞いていたから、わたしたちにも何かプレゼントを用意してくれているのかなって期待してたんだぁ~」


 と言いながら体から蒼炎を発し――正拳突きを行った。

 拳から複数の蒼炎の粒子が迸る。

 細い体付きだが、腰が据わっているし、両腕の動きも渋い。

 両足も前よりも細く見えるぐらいに筋肉が引き締まっていてスレンダーさが増している。成長しているレベッカだ。右拳と左拳が突き出されていく。

 腰のレムランの竜杖が揺れていた。

 そのレベッカに拍手しながら、


「レベッカも蒼炎と渾名が付くわけだな。セナアプアを頼むぞ」

「うん! 任せなさい!」

 その後は魔酒を飲みながらたわいもない会話をしていく。

 闇属性の紋章魔法闇烈連破ダーク・ドイパドード闇猪大炎輪ダーク・キュボバーの魔法書はバーソロンの部下にプレゼントする予定だとも告げる。

 そこから、アドゥムブラリのイケメンぶりから――。

 セラの【魔術総武会】の動向に――。

 光魔騎士のバーソロンもアドゥムブラリと同じく<筆頭従者長選ばれし眷属>に引き上げるつもりだということについても話をしていく。

 光魔騎士グラドが捕虜にした百足高魔族ハイデアンホザーにエヴァが触れて尋問を行ってくれると言ってくれた。そして、


「……今こうして話をしている間にも悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力がバーヴァイ城やバーヴァイ平原の近隣に軍を進めている可能性が高いことを覚えておいてくれ。その場合は、セラに戻るのは遅れると思う」

「「うん」」

「「「はい!」」」

「……了解。恐王ノクターの勢力が魔傭兵に手こずっている情報は気になるわね」

 レベッカがそう発言。ヴィーネが、

「はい、恐蒼将軍マドヴァはともかく、その背後にいる恐王ノクターは上級神ですからね。その巨大な勢力が、魔傭兵の小集団に負け続けているのは、いささか現実味が薄い。大本は、恐王ノクターと悪神ギュラゼルバンが衝突していた可能性も? または悪神ギュラゼルバンもその魔傭兵集団に手こずっている可能性もあります」


 ヴィーネの予想に皆が頷いた。

 バーソロンは、


「はい、恐王ノクターと悪神ギュラゼルバンは隣接している地域があります。恐王ノクターの勢力が魔界王子テーバロンテの残党に手こずっている間に悪神ギュラゼルバンの別働隊が恐王ノクターの領地を狙う展開は十分あるかと思います。魔界王子テーバロンテの残党、魔傭兵が【マセグド大平原】でゲリラ戦を繰り広げていたら両勢力とも即座に大軍は動かしにくい状況など、様々に考えられる」


 そう予想して答えていた。

 皆が頷く。


「マセグド城城主ヘゲルマッハ・ローランドだが、実はバビロアの蠱物で死なず、恐蒼将軍マドヴァ相手に【マセグド大平原】でゲリラ戦を展開している可能性もあるか?」


 と聞くとバーソロンが、


「はい、事実、わたしは陛下に救われた。その可能性もあるかと」


 と発言。バビロアの蠱物の排除には難しい魔手術が必要。神々や諸侯なら己の能力で解除が可能か。

 または魔手術を得意とする存在を見つけて勢力に加えているかな。すると、レベッカが、


「ねぇ、バーヴァイ城の近隣への侵攻が遅い理由だけど、マセグド大平原でゲリラ戦を行う優秀な魔傭兵たちに協力している豪族的な勢力がいるのかも?」

「はい。その近辺には無限魔峰、デェインの隠陽大鉱山、魔賢ホメイス大滝、魔皇ペジト大古墳迷宮、右拳緑命岩などがあります。そこには有力な魔族がいる」


 バーソロンがレベッカの予想を後押しした。

 支配していた魔界王子テーバロンテも、現地で働く労働者のような勢力は必要だったと思うからな。

 レベッカの鋭い意見に自然と頷いていた。

 俺の知る地球もそうだった。すると、キサラが、


「侵攻が遅い理由には、〝魔神殺しの蒼き連柱〟の影響もありそうです」


 と発言。皆頷く。ミスティが、


「……でも、その現象って、神界セウロスの神々や戦士たちの勝利宣言的な印象を覚える。だから、魔界セブドラの神々に対しての宣戦布告になっているかも知れない。だとすると、バーヴァイ城の近隣地帯に魔界セブドラの神々や諸侯が連携して攻めてくる可能性があるってことになる? 恐王ノクターと悪神ギュラゼルバンは連携を取るためにバーヴァイ平原への侵攻が遅れているとか?」


 たしかに……。

 ミスティの意見にも皆頷く。

 エヴァは、


「ん、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力がバーヴァイ平原に侵攻していない理由は複数あるかもしれないと理解した」


 と神妙な顔つきで発言。

 レベッカは、


「魔界の神々や諸侯が手を組むって、あまり考えにくいかも。バーヴァイ城の近辺にセラに移動ができてセラの魂や魔力が入手できる傷場があればその可能性は高いと思うけど……ないんでしょう?」

「あぁ、傷場はないが、バーヴァイ城の地下と【源左サシィの槍斧ヶ丘】の近くに冥界シャロアルの出入り口がある」

「「「……」」」

「ご主人様は、アメンディの魔法布を得て<魔布伸縮>を獲得している」


 そのヴィーネの語りに頷いた。

 エッチの最中に、素っ裸のヴィーネとユイにアメンディの魔法布を巻き付かせた。皆思い出したのか、顔が少し赤い。

 わざとらしく咳をしたレベッカは、


「……魔裁縫の女神アメンディ様の話もあったわね……メルは、血銀昆虫と血銀昆虫が生産する銀の糸を紡績貿易に利用できれば、と考えていたわ。そして、魔界の魔裁縫の女神アメンディ様を助けるにしても、時間が稼げているからこそ、今ここにバーソロンとシュウヤがいるってことだし……そして、時間が経てば経つほど、デラバイン族とケーゼンベルスの黒い狼たちと源左の大同盟は強まっていく。ローグバント山脈に多いと聞く小勢力も皆の味方に付くと思うし、魔裁縫の女神アメンディ様の恩寵を得られたら、バーヴァイ城を中心とした近隣地帯は盤石に近い体制になると思う。後、エヴァたちも魔界入りするから、シュウヤたちもそんなに苦労しないと思うわよ」


 と元気に発言。

 レベッカの語りを聞いた皆が安心したように笑顔となった。


「あぁ、そうだな」


 と言うと、レベッカは微笑んで、


「がんばってね。そして、早く戻ってきて……」


 期待が込められた言葉を聞いて嬉しくなった。


「おう、がんばるさ」

「魔界に行ったら、極大魔石を大量に持って帰ってきてくださいね♪」


 クナがそう発言。頷いた。

 ミスティも期待している表情を浮かべて、


「エヴァもだけど、魔界の鉱石に鋼鉄などがあったら持ってきて」

「分かった」

「ん、任せて」


 後は、皆に、


「先ほども言ったが、魔界に着いたら、魔傭兵ラジャガ戦団の仲間の救出を行うつもりだ。その際だが、魔界王子テーバロンテの支配力が強かった地域の偵察も行うかも知れない」

「ん、捕虜となっている百足高魔族ハイデアンホザーがいるように、中には話ができるタイプがいるかも知れない?」


 エヴァの言葉に頷いた。

 そして、アクセルマギナに視線を向けて、

「アクセルマギナは戻ってくれ」

「はい」

 アクセルマギナが戦闘型デバイスに戻ると同時に、魔杖バーソロンを出して、

「んじゃ、魔の扉を使いに下界に戻るとしよう。相棒、頼む」

「ンン、にゃおぉ」

「にゃァ」

 黒猫ロロは走りながら黒豹に変身しペントハウスから庭に出ると、一気に神獣ロロディーヌに変身を遂げる。

 銀灰猫メトは肩に乗ってきた。そのまま皆とペントハウスから庭に向かう。庭に出たところで相棒の触手が飛来してきた。

 触手を掴むと、触手が腕に絡み付き、一気に収斂されて神獣ロロディーヌの頭部に運ばれる、その神獣ロロの頭部に着地、足下の黒い毛はモフモフで、少し堅い皆も次々と神獣ロロの頭部に着地。ヴィーネ、キサラ、バーソロン、エヴァ、キスマリ、ピュリン、キッカ、蜘蛛娘アキと配下たちは俺の斜め後ろと相棒の背中に着地。


 彼女たちは楽しそうに神獣ロロの大きい耳に手を当てていた。 神獣ロロの耳裏の産毛が大きい呼吸音に合わせて震動しているのが面白い。


 ユイ、クナ、ルマルディ、ミスティ、レベッカ、ビーサは庭にいる。シルバーフィタンアスとハウレッツはミスティの横にいた。


 そのユイが、


「魔の扉があるバルミュグの魔塔の地下にも【天凛の月】の人員を配置したからね」

「了解」

「それと、さっきも話したけど、バルミュグの魔塔の地下はトンネル網にも繋がっているから、あまり探索はしてないからね」

「あぁ、分かっている。それじゃ、ユイ、レベッカ、ミスティ、皆も、またな」

「「「うん!」」」

「はい!」

「師匠、お元気で!」

「シュウヤさん……」

「シュウヤ様、また♪」


 クナの言葉の後、相棒は駆けた。

 一気に塔烈中立都市セナアプアの上界の上空に出る。

 そのまま下界に向かうロロディーヌは速い――。

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