千九十二話 ムーたちにシュリ師匠を紹介
ムーは笑顔のまま、サナとヒナに腰に嵌まっている闇速ベルトボックスを見せていた。
鑑定していなかったこともあるが、自動的に大きさが調整されるのは知らなかった。
「よかったね、ムーちゃん」
「……っ!」
笑顔満面のムーは早速闇速ベルトボックスを使用していた。
ムーの腰の前後左右に幻影的な闇炎が浮き上がる。
魔界で調べた時に中身はすべて取り出したから、中身は表示されない。
〝闇速ベルトボックス〟は空だ。
ムーの前後左右に浮かんだ小さく薄い闇炎は、ムーが持っていた樹槍と共に消える。
バックルが少しだけ輝いた。
樹槍を闇速ベルトボックスに格納したようだ。
シュヘリアが、
「格納したのですね。そして、その闇速ベルトボックスですが、最初からムーちゃん用に作られているように見えます」
「はい、わたしもそう思いました」
「わたしも」
ヒナとサナもそう発言。
俺もだが、ハンカイたちも頷く。
そして、ヒナとサナが喋る言葉は、南マハハイム共通語だ。
かなり学んだようだな。
ムーに、
「樹槍をアイテムボックスに仕舞えたか。そのアイテムボックスの名は〝闇速ベルトボックス〟だからな」
「……っ!」
コクコクと頷くムー。
そのムーは右手に樹槍を出現させる。
そして、ベルトから闇炎を出すと、義手と共に闇炎が消えた。
と、義手を再び装着していた。
サナは、
「ムーちゃんのパワーアップ! あ、シュウヤさん、ムーちゃんが装備しているベルトは、魔王ザウバから入手したという?」
「その通り、【源左サシィの槍斧ヶ丘】の北の【闇雷の森】を占拠していた魔王ザウバが持っていた代物」
眼鏡が似合うヒナが、
「マーマインとの戦が終わった後に戦った魔王ザウバと地大竜ラアンたちですね。【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷にある闇神アーディン様の神像が切っ掛けだったと。そして、シュウヤさんが【闇雷の森】にいくことになって……闇雷精霊グィヴァ様と契約し、闇神アーディン様と稽古をしたと……凄い話です」
「もう皆から色々と聞いているか」
「はい」
「女王キッシュさんとママニさんに、ビアさんは早口過ぎて分からなかったですが、皆さん興奮していました」
「……」
ムーは俺の魔界セブドラの話は聞いていないのか、分からないようで、首を傾げていた。
サナは、
「【闇雷の森】は、ネーブ村のような知る人ぞ知る秘境だったようですね」
「そのようだ。【源左サシィの槍斧ヶ丘】から近い【闇雷の森】だが、源左の頭領のサシィも知らなかった。勿論、闇神アーディン様を信奉する魔雷教の方々は【闇雷の森】と【闇の古寺】という名で知っていたが、その【闇雷の森】は長い間、魔王ザウバに占拠されていたようだからな」
「はい」
「後、その時地大竜ラアンから手に入れたアイテムも見せておこう」
「「おぉ」」
「っ!」
ムーは息を荒くして感動したような表情を浮かべる。
ハンカイは、
「……闇烙龍イトスと闇烙竜ベントラーか。俺はそのことよりも、闇神アーディン様の神像の片目に実際の闇神アーディン様の片目の力が宿っていた話を聞いた時、興奮したぞ。デルハウトは特にな……あいつは感動で打ち震えて泣いていた……そのことでデルハウトもシュウヤと話がしたいだろうと思っていたんだが、ルマルディとシュウヤがハッスルをしている間に、ログキャビンの方角を細い目で長く見つめてから、『陛下……』と呟き頷いて、樹海の任務を優先していた。エブエと異獣ドミネーターと約束をしていたようだがな? やはり武人の極みのデルハウトだ」
そう嬉しそうに語る。
最初の頃のデルハウトとハンカイの様子を思い出して、俺も嬉しくなった。
「そっか。デルハウトとはよく訓練を?」
そう聞くと、ハンカイはニヤリとして金剛樹の斧を掲げて、
「あぁ、あいつは強い。今のところ負け越しているが……環境次第では斧も化けるからな。大地の魔宝石も一発一発の効果は大きいが、継戦能力に欠けるという弱点がある――」
と語ると、右手の掌で金剛樹の斧を回しながら、左手にも金剛樹の斧を出現させると、訓練場を歩くように前進し、両手の斧を振るう。
右、左、右、左と、金剛樹の斧が振るわれるたびに、黄色の魔力の軌跡が生まれていた。
ムーが「っ!」とハンカイの後に続いて樹槍を振るう。
ハンカイは「ん? ふっ」と、ムーの行動が分かっているのか、速度を落として、斧をゆっくりと振るい回しながら前進、「――!」とムーも真似をして、樹槍を振るい回してハンカイに付いていく。
あはは、面白い。
と笑いつつ、その様子を笑顔で見ていたシュヘリアに視線を向け、
「冥界シャロアルの出入り口の詳細も聞いたかな」
と聞いた。
「はい。【闇神寺院シャロアルの蓋】を守っていた闇神アーディン様の眷属たちは、魔王ザウバに負けて押されている状況だったと。そして、
「そっか」
「はい、デルハウトも【闇雷ルグィの森】の出来事を語ってくれました。【闇雷の森】の名は魔界セブドラには多いですから」
デルハウトが〝列強魔軍地図〟に魔力を送って、〝列強魔軍地図〟に地名を刻んでくれた時を思い出しつつ、
「だろうな。魔雷教の方々が【闇神寺院シャロアルの蓋】を【闇の古寺】と呼んでいたように、魔界セブドラの世界各地に点在する【闇雷の森】も、そこに棲まう力を持つ闇雷精霊の名で様々に変化しているのかな」
「はい。【闇雷の森】は闇神アーディン様の力の源泉かも知れません。そして、ハンカイさんが言っていましたが、デルハウトは陛下と闇神アーディン様の話を聞いて凄く興奮して、頭部の長い二つの器官の先端が光り輝いていましたよ。ふふ」
と、シュヘリアも思い出したように笑顔を見せる。
俺も、厳ついデルハウトのことを想像して笑った。
皆に、
「冥界シャロアルの様子も聞いたかな」
「聞きました。冥界シャロアル……液体的な世界だったと。そこで、獅子冥王ラハグカーンという冥界の神の一柱と遭遇し、闇神アーディン様の片目から照射された光を浴びて、その神は退散したと……そんな冥界シャロアルから帰還できた陛下……凄すぎですが、今こうして目の前にいる陛下と会話ができていて本当に良かった……」
と、シュヘリアが安堵感を出して語る。
「心配をかけて悪かったが、まぁ、冒険譚ってのはそんなもんだろ?」
「がはは、まぁ、それはそうだが、シュウヤのは桁がな?」
「はい……冥界にある闇神アーディン様の闘柱大宝庫での戦いの話もドキドキです」
「サラとサザーとママニが吼える様に語るのは面白かった。が、ベリーズの乳の揺れが激しくて、俺は話に集中できんかった」
ハンカイの気持ちは分かる。
「ふふ、闇神アーディン様の大眷属レンブリアと魔魁三王のブカシュナとの戦いに乱入し、その戦いに勝利した陛下は、魔軍夜行ノ槍業のシュリ師匠の頭部と両腕を取り戻したと聞きました」
「おう、そうだ。見せよう」
魔軍夜行ノ槍業を意識して、大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を出す。
素早くシュリ師匠を意識しつつ、その大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>も意識して<血魔力>を込めた。
刹那、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と魔軍夜行ノ槍業の魔線が環状に拡大し、その環状の魔力の間からシュリ師匠の頭部と両腕が出現――。
頭部と両腕は魔線で繋がって半透明なシュリ師匠が現れる。
シュリ師匠の腕に渡すように雷炎槍エフィルマゾルを意識――。
シュリ師匠の右手に雷炎槍エフィルマゾルが召喚された。
シュリ師匠は、俺たちを見て雷炎槍エフィルマゾルを振るう。
「――ふふ、セラの空気感も良いわ、八大墳墓は――」
と一回転したシュリ師匠は雷炎槍エフィルマゾルの穂先を遠くに向ける。
そして、俺を見て、
「こっちの方か……いつになったら行くのかな~?」
「……今はまだ……」
「ふふ、分かってる、冗談よ。そして、弟子に弟子の一族たち……か。わたしが、魔軍夜行ノ槍業の第一人者で八槍卿、否、もう魔界九槍卿の一人なのかな? ま、いっか。とにかく魔界で一番、素敵で可愛い? 雷炎槍のシュリよ♪ 皆、よろしくね~」
「「「おぉぉ」」」
「おぉ……驚き桃の木、なんの木だったか……」
ハンカイの驚きの語りが面白い。
「……っ」
ムーはシュリ師匠に向けて、ラ・ケラーダをしていた。
「ふふ、ムーちゃん、魔軍夜行ノ槍業越しに見ていたわよ~♪ 風槍流を学んでいるようね。弟子の弟子だから、わたしの孫弟子ってことよ? ムーちゃん、雷炎槍流歩法の<雷炎縮地>を学ぶ?」
と言った途端、半透明な体がブレた。
シュリ師匠は、稲妻が走ったような音が響くと、一瞬で訓練場の端に移動していた。そこで雷炎槍エフィルマゾルを振るうと加速して、また俺たちの傍に戻ってくる。
「「「おぉ」」」
アキとアキの部下も吼えた。
「わっ……半透明な体だから?」
「……驚きだ!」
「速すぎて分からないけど、凄い歩法……」
「な、一瞬で……」
クエマ&ソロボ、サナ&ヒナ、ヴェハノとシュヘリアは驚く。
「……っ」
ムーは怖がってソロボの背後に移動していた。
シュヘリアは、
「素早い……今のが、雷炎槍流歩法の<雷炎縮地>……」
「ふふ、貴女も素早そうね。えっと、シュヘリアか。昔は魔蛾王ゼバルの配下で、光魔騎士になった」
「ハイッ! 廃れた魔城ルグファントの名は聞いたことがありました!」
「ふふ、そっか。弟子は魔城ルグファントを最終的に目指すつもりなのよ? ね?」
「……そうなると思います」
シュリ師匠の壮絶な歴史にルマルディの壮絶な歴史が重なって、胃が重くなった。
シュヘリアは満足そうに頷いていた。
そのシュリ師匠に、
「とりあえず、今は戻ってもらいます」
「了解、いつでも呼んでよ?」
「はい」
雷炎槍エフィルマゾルが飛んでくる。
それを掴むと、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と魔軍夜行ノ槍業へとシュリ師匠が戻るように消えた。
「消え方も速い。戦いの新たなる戦術として使えると皆で話をしていた通りなのですね」
「おう、強敵との戦いで出てもらおうと思っている」
「なるほど」
「シュリ師匠か。そのことも驚きだが、アドゥムブラリが魔王級に進化したと聞いて驚いたんだぞ……しかもシュウヤが……」
ハンカイが俺の生命力を犠牲にしたことを指摘しようとしたが――。
『それは今言わんでいい』という意味を込めて腕を上げて制止させた。
ハンカイは、頷く。
そして、塔烈中立都市セナアプアに戻る前にクエマとソロボに報告がある。
クエマの支族トトクヌ支族が鬼神キサラメ様を信奉していたことは忘れていない。
「【鬼神の一党】のことは二人から聞いている範囲でしか分からないが、俺は、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼と関係している鬼神キサラメ様と関連したスキルを得たんだ」
「なんと!」
「おぉ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます