千八十四話 チャーガフルスロットルの魔酒と談話

 

 リツとナミを見ていると、バーソロンがキスマリを見て少し驚いていた。

 そのバーソロンにエヴァが何かを語る。バーソロンは頷いていた。


 その会話に興味を持ったが、


「色々とエヴァが羨ましい~。精霊様にピュリン、あ、シュウヤでもいいけど、魔界王子テーバロンテ戦の詳しい状況が聞きたいかな」


 ユイがそう言ってきた。


「あ、わたしも聞きたい、竜と龍の不思議アイテムとかも気になる」

「わたしもお願いします。戦闘内容と、デラバイン族と源左の者たちの生活様式と内容も知りたいぞ!」


 レベッカとヴィーネもそう発言。

 ナミも、


「……シュウヤ様の活躍と、魔界セブドラの事象も詳しく知りたいです」


 と発言。


「シュウヤ様も此方側の情報が気になると思いますが、わたしも魔界セブドラの話は気になります」


 リツもそう発言。

 ヘルメとピュリンを見ると、


「閣下、わたしが説明を!」

「はい、わたしも!」

「了解、任せた」


 ソファに座っているクレインの横に移動して座る。

 クレインに「ふ、盟主も一杯どうだ?」と魔酒入りのワイングラスを渡された。

 

「お、気が利くな、ありがとう」


 と受け取った。

 縁が炎で燃えている。


「サーグのグラスさ。ユニーク級のアイテム。熱はあるが火傷はしない。魔酒の効能を変化させる効果がある」

「へぇ、グラスにそんな効果が、了解」


 ソファの背もたれに体重を預けているクレインの笑顔に魅了された。

 そのクレインは魔酒が入ったワイングラスを傾けて魔酒を飲んでいく。 

 ワイングラスの縁の炎が唇と触れているがクレインは気にしていない。

 魔酒は蜜柑と茶褐色の色合いで、酒の表面からも不思議な炎が発せられていた。


 メタンハイドレート的な炎に見える。

 そして、メタンハイドレートから、前世の日本が気になった。

 

 メタンハイドレートなどの日本の海洋資源は日本人が経営する会社が手にして、外資に流れず日本人にちゃんと利益が還元される資源となったのだろうか。


 あの時の日本政府と与党と野党は、日本を憎む在日などを含めた外国勢力に呑まれていたからな……外資系企業献金は問題ありだった。

 

 そして、日本国民を無視して、外国勢力に呑まれている内閣が独自に判断し、日本人の大事な血税を外国に垂れ流し続けていた。

 その当時の閣僚や高級官僚はキックバックを得てウハウハだったんだろう。

 戦争に負けて、3S政策が続いた戦後だ。

 日米外交委員会が日本を仕切って流したTVのプロパガンダの威力も凄まじかった。

 選挙も不正まみれ、民意が大規模に政治に反映されない以上は、時の為政者も、ちゃんとした独立国ではないと知ったことで、国際勢力に靡くしか生きる道はなかったのかも知れないが……。

 正真正銘の日本人の首相や大臣だった者は、命が脅かされていたのだろうか。

 と考えていたなぁ。

 一部の官僚に騙されたか不明だが、酩酊会見を行った、日本人と日本国を想っていただろうとある大臣を思い出した。

 すると、横にいるクレインが、


「ふふ、その魔酒の名はチャーガフルスロットル。表面が空気に触れて燃えているが、その炎にも甘さと香りがある。酒としての美味しさがあるから飲んでみるといいさ」

「へぇ」


 俄然魔酒に興味を抱いた。

 チャーガティーなら俺の地球でも、健康にいいお茶として有名だったな。

 白樺などのカンバ類の幹に寄生し樹液を吸って成長する茸。

 と、そんな事を思い出しつつ魔酒を見ると、濃厚な魔力を感じられた。

 見た目の炎といい、相当レアな魔酒がチャーガフルスロットルだろう――。

 と思いながら、ワイングラスを傾けて口に含む。

 ――おぉ、炎は少し熱いが、仄かな熱で、味も匂いもいい!

 サイカのような果実系の味か。美味い――。

 

「ふふ、どうだい?」

「これは美味な魔酒だ――」

「よかったよかった――」


 また飲む。と、クレインもそのチャーガフルスロットルの魔酒を飲んでいた。


 細い唇が魅惑的。

 細い喉も美しいクレインが魔酒を飲む姿はいい。


 そのクレインは、窓の外にいるカットマギーを見つめていた。

 カットマギーは植物園から飛んできている様々な蝶々と虫たちを放置しながら〝黒呪咒剣仙譜〟の幻想修業に入っている。


 さて……ヘルメは宙空に浮遊しつつピュリンに視線を向けていた。

 そのヘルメとピュリンは頷いてから、


「ピュリンもフォローをお願いします」

「はい! 精霊様! わたしも久しぶりに皆さんとお話がしたい。使者様は皆さんのことを時々思い出すような表情を浮かべていましたよ。でも、魔界王子テーバロンテに苦しめられていたデラバイン族、魔皇獣咆ケーゼンベルスたち、源左の者と……マーマインの親玉ハザルハードに苦しめられていた吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>のビュシエさんがいましたからね。ですから使者様はセラに帰還せず、苦しんでいた皆のために魔界セブドラで活動していたのです」


 暫しシーンとなった。

 レベッカは俺をチラッと見て「えっと……」と発言。

 ビュシエのことだろう。

 ビュシエの説明はしていなかったからな。


 源左の奥座敷にあった【マーマイン冥道】と【源左サシィの槍斧ヶ丘】と地続きの【ローグバント山脈】にあった【マーマイン冥道】のことも省いていた。

 

「「……」」

「ん、ビュシエのことも重要。でも、皆には少しずつ説明したほうがいいと思う」


 頼りになるエヴァの言葉に頷いた。

 レベッカは、


「そ、そうね。吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>は、ものすごーく気になるけど、うん、<光邪ノ使徒>はイモリザとツアンばかりだからね。わたしもピュリンちゃんの透き通った青い目には親近感を抱くから、ピュリンちゃんの話も聞きたいな!」


 と快活に発言。ピュリンは嬉しそうにはにかんだ。

 プラチナブロンドのレベッカと同じ金髪のピュリンだから、姉妹的と言えるか?


 ま、それは言い過ぎか。

 ピュリンは骨の尻尾を持つから結構異なるしな。


「はい!」


 ピュリンはヘルメと皆に向けて丁寧に敬礼。

 その度に骨の尻尾の動きが変化している。


 と、ヘルメが、


「では、先ほど、皆が驚いていたバーソロンと魔杖バーソロンの話の続きから説明致しましょう! 閣下が魔の扉からバーヴァイ城の城主の間へと転移した直後、バーソロンたちもセナアプアに攻め込むつもりだったのか、魔の扉の鏡から突然出現した閣下とバーソロンは衝突し、吹き飛んでいました。その後、少ししてから、バーソロンの護衛部隊の隊長フアタンタが襲い掛かってきたのです。バーソロンは、そのフアタンタを止めようと叫びましたが、フアタンタは敢えて閣下と戦い続けた。閣下も、フアタンタに攻撃をあまりしなかった。バーソロンとフアタンタの様子がオカシイと気付いた閣下は、避けることを優先していたのです。わたしはその時、どうして? と考えていました。後から知りましたが、フアタンタはバーソロンのことを想って閣下と戦い続けたようですね。ですから閣下は、あの瞬間、バーソロンとフアタンタの背景を悟ったのです。なんという高い洞察力と判断力か。<脳脊魔速>は用いていなかったと思いますし、やはり武芸者として戦い続けたことで思考能力が研ぎ澄まされているのですね。その閣下は白蛇竜小神ゲン様のグローブで魔杖バーソロンを握っていた。そのグローブの神界パワーのお陰で、魔杖バーソロンの中にいた魔界王子テーバロンテとバーソロンの一部の意識が蒸発するように消え掛かっていたのです」

「「おぉぉぉ……」」

 とペグワースを中心に皆が歓声を発していた。

「へぇ、光属性に耐性があるようだけど、魔界の神の弱点は、やはり光属性ってことなのね」

 ユイがそう発言。

「一概には言えないが、まぁそうだろうな。闇属性が強い傾向にある」

 すると、バーソロンはエヴァとの会話を止めて此方を見る。

 そのバーソロンは瞳を震わせていた。

 片方の瞳から涙を零す。その頬を伝う一粒の涙に気付いていないバーソロン……哀愁を感じた。そのバーソロンが、

「その通り……陛下とフアタンタのお陰。我の護衛隊隊長のフアタンタは、己が犠牲になることで魔界王子テーバロンテの疑念が我に向かうまいとしてくれたのです。実際、それが成功したから今があります。魔杖バーソロンの内部にいた魔界王子テーバロンテの意識は、急に現れた陛下に注目し続けたのでしょう。だからあの時、我の胸に仕込まれていたバビロアの蠱物は爆発しなかったのだと思います。もしくは魔界王子テーバロンテに苦しめられて散っていったデラバイン族の魂たち、父の魂が、我に協力してくれたのかも知れません……」

 最後のバーソロンの言葉は少し震えていた。

 俺も胸にきた。バーソロンの辛そうな表情を察したエヴァはバーソロンに寄り添う。

 俺も寄り添いたくなったが、クレインが俺の腕を押さえて耳に息を吹きかけながら「盟主……わたしを見て」と小声で囁く。クレインは頬を朱に染めていた。

 嬉しさを覚えながら、

「あぁ、クレイン」


 と真顔のままクレインを凝視、


「きゃ」


 と可愛い反応を示すクレイン。

 そんなクレインの脇腹を擽りながら首から肩に手を回して――左肩にクレインの頭部を寄せさせた。


「ぁ……盟主……」

 

 とクレインは俺の首に唇を当ててきた。

 温かい唇の感触が心地良かった。


「あぁ――油断ならない! シュウヤ、そのワイングラスを貸しなさい!」

「お、おう」


 レベッカは、まだ飲みかけだったチャーガフルスロットルを一気に飲む。

 と、俺の横にストンと座ってきた。

 そのまま俺の右腕を体全体で掴むように寄りかかってきた――。


 レベッカの美乳と言えるおっぱいの乳首と、腹の肉感をじかに受けられて非常に嬉しかった。

 続いてヴィーネが、


「では、わたしは――」


 と俺の膝の上に乗ってきた。

 お尻と背中に、長い銀色の髪が魅力的なヴィーネ。

 その細い腰に手を運びたくなったが、レベッカに右腕を、左腕はクレインに押さえられているから見るだけに留めた。


 ユイとミスティとエヴァも来るかと思ったが、来ない。

 ヘルメは頷いて、


「ふふ、続きの話をします~」

「はい~」

「ちゃんと聞いているさ♪」

「ふふ、ご主人様の一物が、わたしのお尻に……あぁぁ」


 ヴィーネの腰の動きがヤラシイから興奮してしまうがな。

 

「ちょ、ヴィーネ、猫たちと遊んでいるシウたちもいるんだからね――」


 と語るレベッカさんが、ヴィーネの細い腰と膨よかなお尻を両手で押し返そうとしているのが面白い。


 お陰でフリーとなった右手でレベッカの脇腹を擽りたくなったが、しなかった。

 代わりにソファの背もたれの天辺を歩きながら寄ってきた黒猫ロロの頭部と背中を撫でていく。


 黒猫ロロはゴロゴロと喉声を鳴らしてくれた。


 その黒猫ロロは、ヴィーネを押し出すことを諦めたレベッカの首筋に鼻キスをしていた。

「きゃっ」と小声を発したレベッカは振り返って、俺をキッと何故か睨むと、笑ってから、


「もう! 黒猫ロロちゃん~!」


 と相棒はレベッカに捕まっていた。

 そのレベッカとヴィーネとクレインを見ながら、浮遊しながら俺の視界に入る場所に移動してきたヘルメに頷いた。


 宙空にいるヘルメは俺に会釈してから、


「…… 閣下が降伏するか聞くと、バーソロンはあっさり降伏しました。しかしその瞬間、城主の間にいた百足魔族デアンホザーの兵士がそのバーソロンに襲い掛かりました。それをバーソロンは迅速に倒した後、降伏した理由を説明しました。そして、バーソロンの胸元に仕込まれていたバビロアの蠱物を閣下が<血鎖の饗宴>を用いて除去し、閣下の<血魔力>がバーソロンの心臓部に触れたことで眷属になった流れから、バーソロンは光魔騎士へと至りました。その光魔騎士バーソロンたちと、暫し城を制圧する作戦を練ることとなりました。幸い、下の大ホールにいた百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの兵士は、城主の間にいるバーソロンとデラバイン族の兵士とわたしたちの行動を察知できなかった。魔界王子テーバロンテが瞬時に思念を飛ばせる優秀な部下をバーソロン以外に置いておかなかったことも幸いしました。いえ、いたのかも知れないですね……その間に、閣下は二十四面体トラペゾヘドロンを試しましたが、どの面も反応はナシ。惑星セラにあるパレデスの鏡は開かず。血文字も機能しない。他の宇宙次元にいる皆には狭間ヴェイルの影響で送れなかったのです」


 ヘルメの語りを聞いていた皆が唖然とした。

 

 レベッカとクレインも同じ。

 ヴィーネは一度立ち上がって俺と対面座位を行うような姿勢で座り直していた。


 そのヘルメの言葉を聞いていたヴィーネも驚いていた。


「「……」」


 少し沈黙が続いた。


 ユイが、


「……なるほど、わたしたちに血文字が来なかった理由ね。シュウヤなら直ぐにわたしたちに送るはずだし。そして、デラバイン族には時間がなかったと分かる。さっきエヴァも言ってたけど、シュウヤがデラバイン族を助けるため迅速に動いた結果、そのデラバイン族の新たな希望となって、魔皇帝と呼ばれるようになったという英雄譚にも納得できる」


 ユイの言葉に皆が頷く。

 猫たちと遊びながら話を聞いていたシウはドロシーのスカートの裾をひっぱっていた。シウはあまり理解していないようだ。


「はい、凄く納得できます。シュウヤ様は魔英雄で、闇と光の運び手ダモアヌンブリンガーですからね……」


 そう語るキサラもソファに座る俺に寄ってきた。

 ヴィーネは俺の太股から退いてクレインが退いた隣に座る。


 その太股にキサラが座ってきた。


 クレインはソファから離れて窓硝子に向かう。


 そして、「ふふ、皆の気持ちがよく分かる……」と言いながらチャーガフルスロットルの魔酒を飲み、外で〝黒呪咒剣仙譜〟を読んで学んでいるカットマギーへ窓硝子越しに手を振っていた。


 一方、大胆に俺に跨がったキサラは、人差し指で、俺の胸元をツンツクツンと小突いてくる。


「ふふ、シュウヤ様……次元が異なるから血文字は無理だったのですね……」


 と言ってきた。

 そのキサラの蒼い瞳を見ながら、


「そうだ」


 と答えると、直ぐ隣にいるヴィーネが、


「わたしもご主人様に血文字を送れなかったから、凄く動揺したのだぞ……」


 と発言し、巨乳を左肩と二の腕に押し付けてくれた。

 ヴィーネとキサラの愛を感じて嬉しい。


 ミスティは紙にメモりつつ、


「……魔界からセラ、セラから魔界に血文字を送ることは不可能。でも、時空属性の光魔ルシヴァル一門がわたしたち。血道も進化するから、いつかは異なる次元世界へ血文字通信が行えるようになる可能性はあるわね」


 と真面目に語りながら……。

 スラスラとスペシャルな筆記体の文字を羊皮紙のような紙に書いていた。

 そのミスティは手首に前に見せてくれた暗器械を装備している。

 手の甲と手首に嵌まっている暗器械を見ると……。


 暗器から掌を越えるように出た刃を活かすような、ステルスしながらの暗殺業務をこなすアサシンな方を想像してしまう。

 そんなミスティに、動物たちとじゃれ合いをしていた子鹿ハウレッツが寄った。

 

「グモゥ」


 とミスティの紙を食べたそうに鳴く。


 可愛い。

 すると、右隣に座るレベッカがギュッと右腕を掴んで、硬くなっている乳首を押し付けてきた。

 そんな乳首をツンツクと小突いて弾きたくなったが、両腕が拘束されているからできない。


 だからレベッカを見るだけにした。

 レベッカは微笑んでから、俺の気持ちを理解していているように胸を上下させる。

 結構スケベなレベッカだ。


 そのレベッカは、


「……で、魔の扉は傷場と同じなの? といっても傷場から実際に魔界セブドラに行ったことがないからアレなんだけど」


 と聞いてくる。頷いて、


「俺もセラからの傷場の移動を体感していないから魔の扉のことだけしか語れないが、狭間ヴェイルを越えられる転移だけなら傷場と同じだと思う。傷場を利用したことのあるビュシエなら色々と語れると思うが、そのビュシエは魔界セブドラのバーヴァイ城にいる。そして、魔の扉の鏡は傷場と違うんだ。傷場を占有することによる、セラ側から膨大な魔素や魂を得られるというメリットはない」

「へぇ! 傷場の占有のメリットかぁ、チュッ」


 と興奮が抑えられなかったレベッカから頬にキスを受けた。

 嬉しい。可愛いレベッカにお返しのキスがしたかったが、話の途中だから自重して、


「……ま、俺には不要のメリットで、デメリットとも言えるからな」

「デメリット?」

「そうだ。神格を得るような強さを得たら、セラに戻る度ダメージを浴びたりして大変なことになるだろう」

「あぁ、うん、そのようね。狭間ヴェイルの障壁で阻まれる。ゼメタスとアドモスも語っていた」


 レベッカの言葉に、ヴィーネとキサラも頷いた。

 そのキサラは、俺の左右にいるヴィーネとレベッカと俺の間に両足を差し入れるようにしながら腰を前に押し出してきた。

 キサラの両足で俺の腰が挟まれる形の対面座位となった。


 キサラの蒼い瞳はうるうるとしている。

 そのキサラはチラチラと俺の唇を見てくるからキスしたくなったが、自重して、皆に、

 

「……神格が肥大したら強くなるが、セラへ移動できなくなってしまう可能性も否定できないからな。そして、その魔の扉の利用には、傷場で狭間ヴェイルを越えるために必要とされている〝魔王の楽譜〟と〝ハイセルコーンの角笛〟が要らないんだ。極大魔石と魔杖バーソロンがあれば魔の扉は利用できる。魔界セブドラ側の魔の扉の利用には、バーソロンの魔力が込められた魔杖バーソロンを魔の扉の鏡の下にある孔に入れて、その鏡の下にあるパネルのボタンを押すだけだ。極大魔石もチャージが可能。そうして、俺たちは塔烈中立都市セナアプアの地下祭壇に戻ってこられたんだ」

「へぇ、魔の扉は便利。あ、セナアプアの地下の魔の扉は持ち運びはできないの?」

「できない。魔界側の魔の扉の鏡は持ち運びができる」

「わ、魔界側からいつでも惑星セラのセナアプアに帰還できるなら、やはり便利よ!」

「おう。魔の扉を獲得できてよかった」


 レベッカは頷いて、二の腕に頬を当ててきた。

 ヴィーネとキサラも体を押し当ててくる。その三人が満足するまで自由にさせた。


 三人は少し体を引く。そこでヘルメに、


「ヘルメ、先ほどの続きを頼む」

「はい、話を戻します。護衛部隊のリューリュ、ツィクハル、パパス、キョウカなどに水をピュッとかけてあげました。その皆と共に城主の間から続く階段を下りて、大ホールにいる百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサン部隊へと奇襲を開始したのです。その大ホールの戦いは熾烈を極めました。ゼメタスとアドモスを召喚した閣下。その閣下の個の強さを活かした戦いで圧倒、ロロ様とイモリザも活躍。大ホールの外の広場での戦いも激戦、閣下を数十秒止めてくる強者の蜘蛛魔族ベサンもいました」

「たしかに、広場の強者は……千人長とかの役職だったかな」


 俺がそうフォローすると、ピュリンも、


「大ホールと広場の序盤の戦いはイモリザが活躍したんです」


 と補足。

 右隣にいるレベッカが「へぇ」と言いながら俺の右腕を離して身を翻し、ソファの右へ移動。

 そして、ソファの背もたれに両腕の肘を当てながら、ピュリンとヘルメに、


「千人長の強者で数十秒って、十~二十合ぐらいは打ち合えたってこと?」


 と質問していた。

 すると、俺の真正面にいるキサラが、


「シュウヤ様と真剣勝負ができる蜘蛛魔族ベサンの強者は相当な練度ですね」


 と発言してきた。

 頷くと、そのキサラに唇を奪われた――。

 悩ましく唇が動くたびに、舌と唾液を吸い取られていく。

 熱烈なディープキスだ。


 口内に入ってきたキサラの舌を、己の舌で味わった。 

 キサラの舌の感触が愛おしい。


 と、キサラの舌に舌を絡めつつ、<血魔力>を送った。

 途端にキサラは体を震わせる。

 

 唇を離して「ぁ……ん……」と頭部を反らしつつ、感じ入っていた。

 

 そのキサラの背中を支えていた左手でキサラの背を軽く叩く。

 恍惚とした表情を浮かべていたキサラは、ハッとした表情を浮かべてから、腰を少し引いて俺の太股から降り、右隣に座る。


 ヴィーネも左腕を離してくれたから、俺も――。

 ソファの背もたれに胸を当てながらピュリンとヘルメを見た。


 ピュリンは骨の尻尾を左右に揺らしている。


 そのピュリンが、


「蜘蛛魔族ベサンの強者は城の門番、小隊長のような存在だと思います」


 と語る。

 頷いた。すると、闇雷精霊グィヴァが、


「皆様と同じ気持ちだと思いますが、わたしも御使い様に貢献したかった」


 と発言して片腕から稲妻を放出させていた。

 ヘルメは、


「話を続けます。大ホールの戦いを制した後、魔界王子テーバロンテと将軍らしき存在に親衛隊の百足高魔族ハイデアンホザーの大軍勢が、バーヴァイ城に大挙して押し寄せてきた。転移してきた親衛隊長も強そうに見えました。ですが閣下は素早く対応し、<獄魔破豪>でその親衛隊長を撃破。その親衛隊長とバーソロンは顔見知りでした。そこから閣下は、魔界王子テーバロンテと戦うことになり、アクセルマギナを召喚。一方、空軍的な百足高魔族ハイデアンホザーの大軍勢と敵将軍は、わたしたちが対応する展開となった。翅を擁した百足高魔族ハイデアンホザーの空軍に対して、わたしは<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>を用いました。その時、ピュリンが大活躍したのです!」

「はい! セレレの骨筒が進化した<光邪ノ尖骨筒>で、空飛ぶ百足軍団を撃ち落としまくった。二人の将軍には、<魔骨魚>を連動させた<光邪ノ雷連徹甲骨弾>を用いて、一気に大ダメージを与えて墜落させてやりました!」


 ピュリンがそう発言しつつ、片腕の骨筒を伸ばす。


「「おぉ」」

「城を巡る戦いはシュウヤたちならでは、ね」


 ペグワースたちが歓声を発し、ユイがそう発言。

 ヴィーネは、


「城の内側から崩す戦いは珍しいです」


 と言うと、キサラも、


「たしかに、転移からいきなりの攻撃の話を聞きますと、暁の墓碑の密使が一人、ゲ・ゲラ・トーを思い出します。その〝泡の浮遊岩〟にいたゲ・ゲラ・トーに強烈な打撃を与えたセンティアの部屋は凄かった」


 と発言し、右肩に頬を寄せてくれた。

 キサラの〝チャンダナの香水〟の匂いがいい!


 続いて、ビーサが、


選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの戦いを近くで見たかった」


 と発言、ソファには遠慮しているのか座ってこなかった。


 レベッカとユイとキサラはそのまま会話を行っていく。

 ミスティは会話に参加せず、議事録を残すように皆の発言をメモって注釈をつけていた。


 更に、闇雷精霊グィヴァの観察を強め、その闇雷精霊グィヴァの体の構成を予想するようにメモを書いていた。


 グィヴァは、ミスティに向けて不思議なポージングを決めている。

 が、ヘルメとピュリンの話には知らないことが多いため、ヘルメたちの魔界セブドラの説明を聞く側に回っていた。


 すると、ミスティが、


「グィヴァ様、見てください」


 と言って背中を見せる。

 ジェット・パックの〝エセルジャッジメント魔貝噴射〟が装着されていた。


 そのエセルジャッジメント魔貝噴射の下部にある精巧そうな孔から炎と風の魔力を噴出させると、ミスティは上昇。

 飛空術がなくてもアレで空を飛べるらしい。


 〝エセルジャッジメント魔貝噴射〟を装備して賞金稼ぎになるのも一つの道か。

 グィヴァは〝エセルジャッジメント魔貝噴射〟の機構に驚きつつ、


「わぁ~その魔道具で浮遊が可能なのですね」


 と発言。

 その体から雷模様の魔力を放出させていた。


 ミナルザンはアギトナリラとナリラフリラの管理人たちと共にペレランドラの近くに移動すると、ペレランドラの近くにいた女性とジェスチャーを交えながら会話を始めている。

 

 ノエルさんかな。

 キスマリは唸るような声を発して、


「……我の、トゥヴァン族の失われた故郷を思い出すぞ……ノードアドレスも故郷だが、魔界セブドラの故郷の光景が目の前に浮かんでくる……」


 と発言。

 最初は俺の武勇伝を聞きたがっていたキスマリだが、そのキスマリの故郷は数千年前の魔界セブドラだからな。

 キスマリが魔界セブドラに来たいなら、歓迎したいところだ。


 すると、黒猫ロロ銀灰猫メト銀白狼シルバ黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミとハウレッツがキスマリに寄る。


 キスマリの両足の脛に、動物たちは頭部と体を当てて甘え始めた。


「にゃ~」

「にゃァ」

「ワン!」

「ニャァァ」

「ニャォォ」

「グモゥ!」

「おぉ、おまえたち……」


 キスマリを慰めている。


 そうしてピュリンとヘルメは魔界王子テーバロンテ戦と――。

 【ケーゼンベルスの魔樹海】から流入してきたモンスターとの戦いから魔皇獣咆ケーゼンベルスとの邂逅と契約に、【源左サシィの槍斧ヶ丘】への流れと――。


 デラバイン族が暮らす【バーヴァイ平原】と【バーヴァイ城】の説明をしていった。


 その説明の最中にピュリンは片腕を少し伸ばし、骨の銃のような形へと変化させていた。

 すると、皆の会話に合わせていたバーソロンがエヴァに、


「はい、遠慮は要りません。気にせず見てください。そして、我を知って欲しい」

「ん、ありがと」


 エヴァはそう言って微笑むとバーソロンの手を握る。


 俺の記憶を体感したエヴァは既にバーソロンと魔界セブドラのことをそれなりに知っているが、本人の記憶を体感したほうが、バーソロンと魔界セブドラのことをより知れるだろう。


 バーソロンの意識の一部が宿っていた魔杖バーソロンの記憶も本人から読み取れるなら、バルミュグが持っていた【テーバロンテの償い】の様々な情報も得られるはず。


 数千年以上の歴史を持ちそうなデラバイン族。

 バーヴァイ城とバーヴァイ平原の周囲を見る限り……。

 出生率は低く寿命は長い種族と予想する。


 バーソロンは過去、


『はい。バビロアの蠱物がすべてを物語っています。過去、魔界王子テーバロンテに倒されて領土が蹂躙された魔王リュグラン・デラバインから密かに受け継いでいた深い洗脳スキルに耐えられるスキルを持つ我を、魔界王子テーバロンテは、心服させることが不可能だった。しかし、魔杖バーソロンの言動に表れていたように、バビロアの蠱物の毒、魔界王子テーバロンテの魔力が、わたしの心臓部の<魔心ノ紅焔核>を徐々に侵食していたことは事実。それ故の大眷属。その結果、性格の変化があったかもしれない。しかし……元々の我の力、素早さ、体力、魔力、精神力、運は高かった。<魔炎神ルクスの加護>と<愚皇・精神耐性>のスキルもある。ですから、魔界王子テーバロンテに内心で抗い続けられたのだと思います』


 と語っていた。


 エヴァはデラバイン族の王族の家系の記憶と、バーソロンが胸にバビロアの蠱物が嵌められた瞬間のトラウマに近いだろう苦い記憶も体感することになる。

 

 心配だ。


 バビロアの蠱物と魔杖バーソロンの内で縛られていたバーソロンだったが、一部のデラバイン族たちからは裏切り者扱いされていた。

 バーヴァイ城の城主のバーソロンは魔界王子テーバロンテに近い百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの兵士たちが多い中、味方だったデラバイン族の一部からも責められていた。そのバーソロンの苦悩は相当なモノだったはず。


 が、エヴァなら、その苦悩を体感しても、理解しようと試みるか。


 魔界王子テーバロンテが支配していた有力な魔族たちの体にバビロアの蠱物などが仕込まれていたことと、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの土地や文化などの情報も知れるか。


 優しくて強いエヴァは頼りになる。

 が、いくらメンタルが強いエヴァでも心配は心配だ。


 そう考えていると、そのエヴァが、


「ん、シュウヤ、わたしは大丈夫。それよりも、ゼメタスとアドモスのような驚きではないけど、塔烈中立都市セナアプアも色々とあったの。皆、そろそろシュウヤに教えてあげて。後、ルシエンヌさんたちもいるからね」


 と発言してくれた。

 はは、手は触れていないのに気持ちが読まれている。


 そして、ルシエンヌたちか。

 ルシエンヌたちは【天凛の月】に加入の流れかな。


 すると、左隣に座っているヴィーネが、


「では、その説明はわたしがしよう。いいかな」

 

 と皆に聞いていた。皆が頷くと、ヴィーネは、


「ご主人様、イフアンとトギアにルシエンヌと【剣団ガルオム】は、助けた子供たちと共に魔塔ゲルハットで数日過ごした後、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】のホアル側との戦いよりも、今の繋がりを大事にしたいと、ルシエンヌから正式に【天凛の月】に入りたいとの申し出がありました。わたしたちは大歓迎。イフアンからも【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】に関する情報を得ています。しかし、ご主人様の意見もあるかと思い、一応保留のままです」

「入りたいなら自由に入ればいい。ルシエンヌの聖剣の剣術は勉強になる」

「はい。そう言われると思い、既に【天凛の月】の制服を身に纏い活動に加わってもらっています。ルシエンヌたちには【髪結い床・幽銀門】たちと共に、上界の宿屋〝宿り月〟と、魔塔ゲルハットの通り沿いと七草ハピオン通り、天狼一刀塔、帰命頂礼通り、荒神アズラ通りに、各浮遊岩の守りについてもらっている状況です。お陰でトロコンと【狂騒のカプリッチオ】のコンビの仕事に余裕が出ました。が、今は下界の案件に出ています」


 下界の案件とは、【テーバロンテの償い】と関連した事件だろうか。


 ヴィーネは最後のほうでリツに視線を向けている。

 俺もリツとナミに視線を向け直した。

 

 リツは紅色の髪が美しい。

 皆と同じく【天凛の月】の衣装が似合う。

 が、衣装の形はヴィーネたちの【天凛の月】の最高幹部の衣装と異なるところがある。


 【髪結い床・幽銀門】の紋章風の布製の飾りが胸元にあった。

 帯ベルトと複数のポケットを擁した前掛けには髷棒と櫛と挟みが納まっている。


 鬢盥は出現させていない。

 ナミも【天凛の月】の制服を着ている。

 胸元に【夢取りタンモール】の紋章風の布製の飾りがあった。

 夢に関する魔道具は出していない。


 ナミの<夢送り>のスキルがあったから、今の俺がある。

 戦闘職業は<夢取鏡師>だったかな。

 過去には、評議員ペレランドラの悪夢を祓ったとも聞いている。


 とにかく感謝だ。


「ナミ、ゲンガサたちはまだ地下探索かな」

「はい。一度帰還した際に話をしましたが、獄界ゴドローンの神々を信奉する地下都市だと思われる地下通路の探索途中で、盟主がゲンガサたちにプレゼントした大きな勾玉が反応を示したようです。ゲンガザは『この地下の先には、獄界ゴドローンとも関わりがあるタンモールの遺跡があるはずだ、盟主が持つ小型飛空戦船ラングバドルでの旅も楽しみではあるが……今は、この地下探索のほうを優先したい』と言っていました」


 おぉ、地下も地下で冒険したい場所が沢山ある。

 

「ぬぬ……我は結構楽しみにしているのだがな」


 キスマリがそう発言。

 六眼の瞳が俺を見つめてきた。

 傷が目立つ二眼は塞がっているが、眼筋の一部は動いている。

 一部は健在のようだ。


「小型飛空戦船ラングバドルでの旅は、まだ後だ。魔界セブドラに安全に行けるルートが地下にあるし、デラバイン族たちの守りがある。先ほども同じようなことを言ったが、そのため、皆を魔界セブドラに呼ぼうと戻ってきたところだったんだ」


 六眼キスマリは頷きつつ、四本の腕の内二つの腕を胸元に組んで、両下腕の掌を腰に当てていた。


「分かっている。主に従うことに変わりはない。そして、バーヴァイ城の周辺地域か。魔界王子テーバロンテが倒れたのならば、魔界の神々と諸侯も動く……周囲は魔界大戦に近い神々や諸侯たちの戦国乱世に繋がっていると予想できる」

「そうだ。その隙を利用し、小勢力を神聖ルシヴァル大帝国の勢力に加えている最中でもあった」

「なるほど」


 キスマリから視線をナミに向け直し、そのナミに、


「夢魔の杖についてルシエンヌから聞いたかな」

「はい、【剣団ガルオム】たち、秘剣集団、東方の秘境剣団と。そして、〝戦いの連続で故郷を追われた【神聖なる乙女】、ついには夢魔の杖をも失い倒れる。ガルオムの名を継ぐ【神聖なる乙女】たちには至難の時代となろう〟、〝我ら人族が中心の【神聖なる乙女】は西も東も敵だらけ、己と仲間の剣術、東方聖剣術ガルオムでしか活路を見いだせない茨の道を進むのだ〟などの伝承を聞いています。ゲンガザからも、夢魔世界の夢魔の杖を扱う<神聖なる乙女>の名は聞いたことがありました。そのゲンガザは、八人の者たちの意味があるアブ・ソルンの一人であったと考えているようですね。夢魔の杖がどこにあるのかは不明です。帰ってきた際にゲンガザたちはルシエンヌたち【剣団ガルオム】と面談し、そのことを伝えてから、再び地下探索に出ました」


 地下探索もモンスターとかはいると思うが、ゲンガザたちは強いんだな。


「分かった」


 ソファから離れて立ち上がり、リツと元【髪結い床・幽銀門】組のアジンとヒムタアにジョー、ウビナンの近くに移動。

 そして、


「――リツたち、【白鯨の血長耳】と【魔塔アッセルバインド】と連携を取りつつ【血銀昆虫の街】を中心に繰り広げられていた【テーバロンテの償い】の【魔の扉】などとの戦いによく貢献してくれた。ありがとう」

「「「「「ハッ」」」」」


 皆、胸元に手を当てて返事をしてくれた。

 気合い充実な元【髪結い床・幽銀門】組と、皆に、ヴィーネに視線を向け、


「俺が魔の扉の鏡から魔界セブドラに移動した後だが……」

「はい、全員がセナアプアを一時離脱。その影響で【テーバロンテの償い】の残党は巧妙に散りました」

「やはりそうなったか」

「はい」

「続きを」

「ハッ、ご主人様が失踪したことは【塔烈中立都市セナアプア】に伝わっています。その影響は多岐に渡ります……」

「あぁ、覚悟している。ヴィーネたちも魔界セブドラのことがもっと知りたいと思うが、先にそれを教えてくれ」

「はい。【闇の教団ハデス】と【血印の使徒】に【セブドラ信仰】が活発化。ケルソネス・ネドー大商会の関係者たちも暗躍し、過去に雇い入れていた闇ギルド、十二大海賊団や他の海賊の連中と、ハイゼンベルク商会の魔調合師連中に、他国のスパイ組織などとの戦いが日夜続きました」


 【白鯨の血長耳】がいてもそうなるか。


「結構な事象か。では、改めて【天凛の月】の盟主として礼を言う。ありがとう皆!」

「「「はい!」」」

「ふふ、まだ色々とあるんだが……」


 クレインがそう指摘。


「ん、大丈夫」


 エヴァがそう発言。

 その色々が気になるが、リツに、

 

「俺がいない間のことと関係していると分かるが、パムカレは<幽銀門・壱龍パルパ>の仕事かな。それとも、セナアプアの役人と評議宿の調整で忙しいのか?」


 と聞くと、

 リツは皆を見る。


 ヴィーネとエヴァは頷いて、リツに任せたようだ。

 そのリツは、


「……はい、暗殺案件ではなく、死蝕天壌の浮遊岩の案件で、外に出ています」

「死蝕天壌の浮遊岩か。俺たちが手に入れた浮遊岩だよな?」


 リツは頷いた。


「はい。【天凛の月】が所有している死蝕天壌の浮遊岩。そこに闇ギルドの者、冒険者クラン、傭兵集団、海賊集団が多数現れたのです。大半は死蝕天壌の浮遊岩の中で自滅しましたが……」

「生き残りがいた?」

「はい、その通り。問題は生き残った者たち。その最たる者の名はケアン。冒険者クラン名はランザミック。ケアンは、未知の毒を死蝕天壌の浮遊岩の何処かで浴びていたらしく……その影響で、下層の宿屋の中でモンスターと化してしまった。そのケアンモンスターは客たちを喰らいながら宿屋と融合を果たし、未知の毒霧を放つと、その毒霧を浴びた客たちは火傷のような傷を受けて、一部がモンスターに変化してしまった。そのモンスターの叫び声から〝死蝕のベギアル〟と名付けられています。その死蝕のベギアルたちは宿屋の外に出て、下層の民たちに襲い掛かり、多数の被害が出てしまいました。人型で氷を扱うベギアルは中々にタフで強かった。一時港が封鎖されるまでの出来事になりましたが、我らと【白鯨の血長耳】の最高幹部たちと冒険者ギルドから派遣されてきた多数の冒険者と海賊が対応し、その外に出たベギアルたちを倒しきりました。魔剣ルギヌンフを持つレザライサさんとギルドマスターのキッカさんは、やはり強いです。更にファスさんも手から繰り出した封印術で宿屋の周囲を隔離してくれた。ファスさんは、宿屋自体の破壊を狙ったようですが、宿屋は異常な城のような見た目に変化を遂げて硬かった」


 そんな事件が……。


「しかし、死蝕天壌の浮遊岩に忍び込むとか……盗人か? 冒険者ギルドにも依頼は出ていないよな?」


 と聞くと、キッカは頷いて、


「はい、死蝕天壌の浮遊岩は【天凛の月】の所有物。同時にわたしの盟主であり、宗主の所有物。当然そんな依頼は出ていませんし、出させません」


 と、冒険者ギルド長らしく力強く語ってくれた。


「その冒険者クランはどうなった?」


 キッカは頷いて、


「ランザミックは解散処分。ランザミックの生き残った冒険者たちも追放処分を受け入れました。賞金稼ぎに追われるよりはマシですからね。そして、宿屋と一体化したケアンモンスターの討伐依頼はあちこちから上がってきたので、その依頼をギルドとして受け入れました。現在提示板にSランク依頼として貼ってあります。そして、現状、その宿屋と化したケアンモンスター、ケアンモンスターの塊の討伐は成し遂げられていない。その宿屋であり、塊のケアンモンスターの内部はどんなことになっているのか……幸い外には、ファスの封印術のお陰で被害は出ていませんが、いつ被害が出るのか懸念されている状況です。更に、その件でペレランドラとクナと副長メルと相談後、パムカレ、トロコン、【狂騒のカプリッチオ】のコンビと、ビロユアンが率いる【天凛の月】の手勢が対応に出ている状況です」


 と報告してくれた。

 ペレランドラも頷いて、


「はい、副長のメルさん以外にも、この場にいる皆さんと、ヴェロニカさんとベネットさんにカルードさんに相談をしました」

「そっか。ナイスな判断だ」

「はい、ありがとうございます」


 ペレランドラは評議員として丁寧に頭を下げた。 

 リツはキッカをチラッと見て会釈していた。

 皆も頷いている。そのキッカに、


「キッカたちも、【テーバロンテの償い】の残党などの敵以外に、それらの対応に追われたんだな」

「はい」

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