千八十三話 皆と相談にカリィとレンショウ

 シウがペグワースの背後に隠れながら、チラチラと俺たちを見ていた。

 少し派手にキスをして抱きしめていたからな。

 ペレランドラ的には、親と上院議員の立場もあるのか、ドロシーとディアとシウには、男女のふれあいはあまり見せたくないようだった。ま、その辺りにツッコミを入れるつもりはない。


 そして、隻眼のマルアと閃光のミレイヴァルも元気そうで良かった。

 

「マルアとミレイヴァルもただいまだ。【テーバロンテの償い】の残党狩りなど、色々と活動してくれたと思うが、元気そうで良かった」

「――はい! 陛下、激動の魔界から、よく帰ってきてくださった!」

「デュラート・シュウヤ様、お帰りなさいませ!」


 ミレイヴァルは片膝で床を突く。

 黒髪は変わらず。

 マルアはそう発言してから頭を下げる。


「ミレイヴァル、立ってくれ。そしてマルアとミレイヴァルも魔界セブドラに来てくれるか?」

「ハッ、陛下のご命令とあれば! 破迅団団長ミレイヴァルの力を魔界セブドラでも見せたい思いです」


 聖槍シャルマッハを右手に召喚したミレイヴァルは素早く聖槍シャルマッハを構えた。

 ふと、<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>状態のミレイヴァルと魔界騎士だった光魔騎士グラドが槍勝負をしたらどうなるかなと考えてしまった。


「了解。魔界セブドラでは光属性が有効な場合が多い。期待しているぞ」

「はい!」

「わたしも<光魔ノ秘剣・マルア>としてでも、どちらでも構わないです~」

「分かった。アイテム状態で頼む」

「「はい――」」


 閃光のミレイヴァルは輝きを放ちながら粒子状態となって俺の腰に飛来。 

 マルアはデュラートの秘剣になったので戦闘型デバイスに仕舞う。

 腰ベルトに銀チェーンが絡まって、その銀チェーンにぶら下がっている十字架と小さい銀杭に戻る。

 お洒落装備に見えるところがまたいい。

 フィナプルスの夜会や魔軍夜行ノ槍業と衝突は起きない。


 近くにいたリサナも「シュウヤ様!」と言いながら波群瓢箪から離れて近付いてきた。


「よう、リサナ。ただいまだ」

「お帰りなさいです」


 リサナの体から放出されている半透明の細い桃色魔線は綺麗だ。

 半透明色の三角帽子も似合う。


「にゃ~」


 銀灰猫メトたちと遊んでいた黒猫ロロもリサナに挨拶していた。


「ふふ、ロロちゃん様にヘルメ様もお帰りなさい。そして!」


 と言いながら闇雷精霊グィヴァの前に移動した。

 リサナの周囲に浮かぶカタツムリたちが奏でるバロック風の音律はいつ聞いても不思議。


 小さい金色と錆色が混じった耳元の瓢箪の髪飾りから微かな金属音も響く。


「初めまして、闇雷精霊グィヴァさん! わたしは波群瓢箪に棲まうリサナです」

「初めまして、よろしくお願いします!」

「よろしく~、わたしも精霊なのです」

「はい!」


 リサナと闇雷精霊グィヴァは握手。

 グィヴァの手から雷属性のバチバチとした魔力が少し放出されていた。

 リサナは、そのグィヴァの手を握ったままニコニコしている。

 

 その笑顔が可愛いリサナの半身は半透明。

 グィヴァが放った稲妻のような魔力を得て体が震えるが、下半身の一部に植物の葉が次々に形成されていく。

 新しいタセットとなった。

 模様がどことなく、闇雷精霊グィヴァの姿に似ていた。


 グィヴァは、ハッとした表情を浮かべて魔力の放出を止めて手を離した。


「すみません」

「ううん、大丈夫!」


 リサナは扇子を片手に出して少し浮遊。

 そのまま半身の骨と血管たちを輝かせて踊った。

 そこにヘルメが向かって、


「グィヴァちゃん、リサナはタフですから大丈夫ですよ」

「あ、はい」

「そうなのです。あ、波群瓢箪のことを説明しておきます。元々時獏が持っていた波群瓢箪の中で熟成され続けていた雲錆・天花がわたしの大元。勿論、当時の記憶なんてありませんが……」


 リサナは波群瓢箪から蔓のようなモノを伸ばす。

 それを腕に巻き付けるように融合させると一瞬で波群瓢箪を手元に引き寄せた。

 その波群瓢箪と共に回転しながら上昇、降下し、着地。

 

 床が凹むような印象だが、魔塔ゲルハットは頑丈だからびくともしない。

 グィヴァはリサナを見て、


「波群瓢箪と雲錆・天花……」


 グィヴァは分からないといった様子で俺を見てくる。


「時漠からもらった波群瓢箪は重い武器でもある。巨大な鐘的で巨大なハンマーフレイル的な扱いも可能。一時期、俺も背負うように使っていた。そして、リサナとなる前の波群瓢箪の中身の雲錆・天花は……一種の生命の種で源だったんだ。波群瓢箪は素材を取り込めて、それらを中身の雲錆・天花は取り込むことが可能だった。波群瓢箪は生命体を育てることが可能な錬金窯のようなモノと言えたのかも?」


 グィヴァは頷きながら……。

 リサナの不思議な半身の体と波群瓢箪を見比べるように視線を向けていた。


 そのリサナは、俺を見て、


「シュウヤ様は、ずっと波群瓢箪の中にいたわたしになる前のモノに……<血魔力>を送り続けて、育ててくださった。更にアーゼン朝異文明の大ナメクジの精霊と樹怪王の兵士たちの大量の血も吸収させてくださった。そうして、波群瓢箪からわたしは創生されたのです」

「……精霊のリサナお姉様を創生するなんて、御使い様のシュウヤ様は凄い!」


 と発言。

 ヘルメとリサナは、


「ふふ、わたしがお姉様に……」

「はい、お姉様……嬉しい」

「はい、ヘルメお姉様とリサナお姉様はわたしの家族です!」

「ふふ、嬉しい! 可愛い妹のグィヴァちゃんにリサナも、共に、閣下をもり立てていきましょう」

「「はい!」」

「リサナ、戦闘に関することも教えておくといい」

「はい! わたしは波群瓢箪を活かした戦い方が得意です。見ててください!」


 リサナは闇雷精霊グィヴァに向けてそう言うと――。

 半透明な体から無数の骨と血管を束状に纏めたモノを幾つか伸ばし、それを波群瓢箪に巻き付けた。


 それら巻き付いた骨と血管が波群瓢箪と融合しつつ一対の巨大な腕へと変化を遂げる。


 <魔鹿フーガの手>か。


「わぁぁ、大きくて太い腕です! 黒い腕で攻撃が可能なのですね!」

「その通り。これもあって、シュウヤ様は戦場でわたしを使ってくださっていました」

「おう。波群瓢箪と巨大な<魔鹿フーガの手>で簡易的な砦となるからな。戦場で橋頭堡を作る印象だ」

「なるほど~」

「それでリサナ。魔塔ゲルハットで生活したいなら、ここにずっといるのもいいと思うが、どうする?」

「あ、法魔ルピナスと皆とも仲良くさせて頂いてとても楽しかったですが、シュウヤ様と冒険をしたいです。シュウヤ様のお役に立てる自信もあります」

「了解。では、いつでも波群瓢箪を出せるように戦闘型デバイスにしまうとしよう」

「はい! お願いします! 波群瓢箪に入ります!」

「おう」


 リサナは波群瓢箪の真上に着地。

 その波群瓢箪の中に吸い込まれた。

 その波群瓢箪を触って戦闘型デバイスに仕舞う。

 すると、


「にゃァ」

「にゃお~」


 と鳴いた銀灰猫メト黒猫ロロ

 鼻キスをしてから互いに寄り添う。

 ロシアンブルーと似た銀灰猫メト黒猫ロロは体を合わせたまま歩き出した。

 いっちに、さんし、という前足と後ろ脚を揃えた歩き方が可愛い。

 その両者の尻尾が絡む。

 新しい猫同士のスキンシップに見えて、楽しそう。


「ん、わたしとシュウヤの踊りに影響された?」

「あ、はは、そうかも知れない」

「にゃァ」

「ンン」


 その両者の尻尾の形がハートマークとなっていた、これまた可愛い。

 銀灰猫メト黒猫ロロはグィヴァに近付く。


 グィヴァは両膝を片手で抱える姿勢となって、


「――ふふ、メトちゃんもよろしくお願いします」


 銀灰猫メト黒猫ロロの頭部を撫でていた。

 頭を撫でられた黒猫ロロはグィヴァから離れて黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミと戯れていく。


 更に、


「ワンッ!」

「グモゥ」


 銀白狼シルバ子鹿ハウレッツ黒猫ロロの傍に寄ってじゃれ合った。


「パキュゥ」


 法魔ルピナスも嬉しそうだ。

 動物たちの近くをゆったりと浮遊しつつ、水のような魔法を動物たちに振りかけていた。

 

「ふふ、法魔ルピナスもアーレイやメトに慣れたようですね」

「あぁ」


 法魔ルピナスの水の振りかけ行為を楽しそうに見ているヘルメ。ヘルメも水をピュッとかけてあげたいのかな。


 すると、シウが、


「わぁ~、シュウヤ兄ちゃん、お帰り。あと、わたしもロロちゃんに触っていい?」

「あ、あの、シュウヤ様、お帰りなさい。あと、わたしも! 動物たちを触りたいです~」

「シュウヤお兄様、わたしもロロ様たちと遊びたい~」

「あぁ、自由に触ったらいい。あ、ルピナスの尻尾には気を付けるように」


 俺が注意すると、


「パキュ!」


 法魔ルピナスが、少し怒ったように鳴いて宙返り。

 俺に尻尾を向けて、棘を出し入れしていた。

 法魔ルピナスから『そんなことは分かっています!』というような言葉が聞こえたような気がしたが、たぶん、そういうニュアンスだろう。


「「わーい!」」


 シウとディアとドロシーは、腹を見せて転がって乳首を見せている動物たちのところに走りよる。


 俺に怒っていたルピナスも、皆に近付いて寝転がって遊ぶ動物たちの真似を宙空で行う。

 逆さまのまま、頭鰭とうき部分をクルクルと回していた。

 面白い。

 

 すると、カットマギーが、


「……ふふ、異界の軍事貴族たちも、盟主と神獣様の帰還でとても喜んでいるねぇ。チキチキバンバン、チキチキバンバン♪ と歌いたくなる」

「戦闘以外でも歌うのね」

「あ、わたしも地下トンネルで【テーバロンテの償い】の残党と戦っている時に聞いたことがある……」

「ふふ、はい。語気が変化すると、一気に可愛らしいリズムになりますね」


 すると、ペレランドラが、


「カットマギーちゃんが、植物園の手前で、異界の軍事貴族たちと管理人たちと共に遊びながら歌っているところを見たことがありますよ」


 と発言。

 へぇ、カットマギーの知らない一面だ。


 そのカットマギーは少し照れた表情を浮かべて、


「で、盟主、命令とあらばわたしも魔界セブドラに行くが、どうするんだい?」

「さすがに、すべての戦力は魔界には送れない。悪いが、【天凛の月】の守人になってくれ」

「フフ、【天凛の月】の守人か、気に入った。了解したよ」

「宗主、前言撤回、わたしも残ることにするよ」


 クレインがそう発言。


「あぁ、【テーバロンテの償い】の残党狩りか」

「そうさね。勢いでエヴァと一緒に、愛する男と一緒に魔界に行くと発言してしまったが……下層のドブ沼掃除はまだ終わっていない……。そして、わたしを長いこと追い立て苦しめてきた【テーバロンテの償い】の連中には、似合いの金死銀死の報いを与えてやるさ……」


 頷いて、


「了解した。が、【テーバロンテの償い】は自然と瓦解していくと思うが」

「あぁ、そうだろうねぇ。が、【闇の枢軸会議】の範疇に入る【テーバロンテの償い】は巨大組織だ。まだ幹部も多い。南マハハイム地方には多くの支部もあるからねぇ、叩きがいがあるはずさ。そして、宗主のお陰で、奴らが信奉していた魔界王子テーバロンテが消滅した。その力の源泉を失った【テーバロンテの償い】は他の闇ギルドからも狙われるだろうからね、楽な残党狩りを優先させてもらうとするよ。更には、セラ側での皆との連絡係も兼ねようか。クナ&ルシェルの転移陣ルームも構築されたことだしねぇ」

「あぁぁ、クレイン! 黙っててと言ったのに!」


 クナが叫ぶ。

 クレインは、両手で謝るようなジェスチャーをしつつ、俺たちから離れてソファに座る。


 そのクナとルシェルに、


「転移陣ルームはできていたか、極星大魔石が必須だと思っていたが」

「ふふ、はい。サイデイルと南マハハイム地方の各地域のセーフハウスを魔塔ゲルハットに転移陣で結びました。セキュリティも備えてあります。現状使う際には、本人の大量の魔力に大魔石が必須。しかし、シュウヤ様が持つ極星大魔石が最後のピース。それを嵌めて頂ければ、今後、転移陣を使用する際には、多少の魔力消費だけで済みます」

「おぉ」

「まぁ! 転移陣ができていたなんて、素晴らしい朗報です! クナは天才ですね!」

「ふふ♪ ヘルメ様、ありがとうございます♪ でも、ルシェルが第六天霊魂ゲルハットと接触したお陰でもある。協力的な魔女っ子ちゃんでした」

「へぇ、第六天霊魂ゲルハットと接触か」


 ルシェルを見ると、頷いて、


「はい、接触だけです。各地域を結ぶための転移魔法陣の構築には、時空属性に加えて方陣というもう一つの魔法と魔術の技術が必要ですからね、師匠の腕でなければ、とてもとても、わたしには無理です」

「それはそうだと思うが、ルシェルもできるようになりそうだ。で、その転移陣ルームはどこに作ったんだろう」

「ペントハウスの二階です。たまたまそこに魔線が集結していたのですが、そこに入ると、第六天霊魂ゲルハットが現れて、ここに転移陣ルームを作るといいでしょうって教えてくれたのです」


 ルシェルがそう発言。


「そうか、そりゃ便利だ――」


 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。

 〝黒呪咒剣仙譜〟を取り出してから、戦闘型デバイスから極星大魔石を出した。


「極星大魔石をその転移陣に嵌めようか。そして――」


 カットマギーに〝黒呪咒剣仙譜〟を放る。

 カットマギーは〝黒呪咒剣仙譜〟を受け取った。


「狂言教の十二長老の襲撃はどうなっている?」


〝黒呪咒剣仙譜〟の表紙を見ていたカットマギーは、


「お? あぁ、他の長老からの襲撃はまだない。が、城郭都市レフハーゲンの豪商五指の【ミリオン会】と【不滅タークマリア】の雑魚たちを手駒にして、上界と下界に刺客を送り込んできているが、そのすべてを返り討ちさ。わたしが出る時もあるが、【天凛の月】は手練れだらけだからねぇ」


 カットマギーは〝黒呪咒剣仙譜〟を一瞬浮かせてから、魔剣アガヌリスを格納している片腕を上げつつ、<筆頭従者長選ばれし眷属>たちを見て、〝黒呪咒剣仙譜〟を反対の手で掴み直した。


「ふふ、当然だろう。わたしたちがいるんだからな」

「うん」

「然もありなん。リズとカリィとレンショウもいるからねぇ」 


 ヴィーネ、ユイ、クレインが頷き合いながらそう返事をしていた。そのカリィとレンショウと目が合うと、カリィが手を上げて、


「イヒ、ボクの盟主♪ 魔界のお勤めご苦労様♪」

「盟主、帰還を嬉しく思います」

「おう、二人ともひさしぶりだ。下層の争いと地下トンネルの戦いなどは激しかったと思うが、よく戦ってくれた。そして、カットマギー、その〝黒呪咒剣仙譜〟を読んで、体感しておくといい」

「あぁ、ユイたちが使っていた<黒呪強瞑>の剣術の奥義書だね! ありがとうございます!」

「いいさ、<従者長>としてこれからも頼む。そして、俺たちを狙う狂言教の長老たち次第だと思うが、いずれは魔界に来てもらうかもしれない」

「承知! では、ちょいと庭で読ませてもらうよ――」


 カットマギーはペントハウスの出入り口付近に向かう。

 俺はカリィたちを見て、


「カリィたちも読めたら……が、だめか、〝黒呪咒剣仙譜〟を学ぶと体に傷を受けるからな」

「盟主、俺も光魔ルシヴァルの一門の末席に加えてくれないだろうか……」

「ボクも♪ 光魔ルシヴァル一門に加えてくれると嬉しイな~。後、一緒にアルフォードの救出を兼ねたサーマリア王国荒らしに挑戦したイカナ、イヒ♪」

「構わないが、俺に忠誠を誓うことになる。永遠の命は結構なことだと思うが……カリィとレンショウ的にいいのか? 負の螺旋も増えまくるぞ? ……ま、いまさらか」

「ふふ、当然♪ あ、本音は宗主とサシで戦えるってのもある♪」

「あぁ、これも何かの縁、盟主に忠誠を誓い、【天凛の月】に命を預けた時と変わらない」


 カリィとレンショウがそう発言。


「分かった。この後、サイデイルに行ってルマルディを<筆頭従者長選ばれし眷属>に迎えるから、その後<従者長>に迎えるとしよう」

「「おぉ~」」


 そこで、ナミとリツを見る。


「ナミとリツも、ひさしぶり」

「はい!」

「盟主!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る