千三十話 魔皇獣咆ケーゼンベルス対超大型巨人ハザルハード
魔皇獣咆ケーゼンベルスのタックルを食らった超大型巨人ハザルハードは四本の腕となっていた。
その四腕で山を押さえて衝撃を殺そうとしているが、無理だろう。
その間にも、俺の掌にジャストフィットしている触手手綱の先端が、人差し指と親指の間から伸びた。
先端は平たくなって俺の首にピタッと付着。
裏の肉球の温度は冷たい。
しかし直ぐに温まる。
同時に<神獣止水・翔>で相棒の優しい気持ちを感じられた。
こんな状況でもゴロゴロと優しい喉声を鳴らしてくれる。
超大型巨人ハザルハードは、鱗皮膚と防具を身に着けた両上腕に斬馬刀と大きな魔斧を握っている。
それを振り下げ、山や突兀とした岩に衝突させる。
続けて、両下腕も左右に広げて下げて、山を削っていく。
ハザルハードは指と掌で山の樹と岩を掴もうとするが、両側の山の斜面を滑らかにしていくだけ。
速度は弱まらない。
魔皇獣咆ケーゼンベルスの頭突きは強力だったようだ。
体重のせいもあるか。
左右の山と連続的に衝突を繰り返す超大型巨人ハザルハードは、転げながら後退し、山の斜面を削り、山を破壊していく。
大小様々な鳥に翼竜のようなモンスターが飛び立ち、それらの動物とモンスターの悲鳴が
動物とモンスターは逃げようとしているが、転がる超大型巨人ハザルハードの体長は五十メートルは有に超えている。
その体と衝突すれば、潰れるのは一瞬だ。
弱肉強食は森羅万象だが、儚い。
超大型巨人ハザルハードは、そのまま【ローグバント山脈】の地形を大きく変えて山間の溝に背中から豪快に嵌まり込む。
ドドドッという重低音を轟かせた。
粉塵も凄まじい。
噴火が起きたような印象だ。
その山の樹木や岩に土が超大型巨人ハザルハードに
一瞬棺桶に見えた。
見事なタックルを決めた魔皇獣咆ケーゼンベルスは荒々しい魔息を吐いて、
「『ウォォォン! 名の知らぬ魔神、動きが鈍いぞ!!!』」
と叫んでから駆ける。
山間に嵌まっている超大型巨人ハザルハードに向かった。
超大型巨人ハザルハードが山間に
かなりぶっ飛んだ超大型巨人ハザルハード。
胴体辺りから蒸気のような魔力が噴き上がっている。
左右の山は、ハザルハードの体と両腕がぶつかった影響で禿げまくり。
同時に掌握察で皆の位置を把握。
フィナプルス、アドゥムブラリ、
そのアドゥムブラリとフィナプルスと沙・羅・貂が飛行しながら近付いてくる。
「――あの巨人が、敵の大将首、マーマインの首魁なのか?」
「シュウヤ様、マーマインが<古代魔法>のような巨大魔法陣を利用したのですか!」
「巨大なマーマイン戦士の幻影が突如消えたと思ったら、今度は四腕の魔神か!」
「器様、交渉は決裂したようですね」
「魔皇獣咆ケーゼンベルス様が突っ込みましたが、私たちも行きますか?」
と聞いてきた。
「突っ込む前に説明しておこう。あの巨人の前にバシュウは倒したからな」
「「おぉ」」
「源左の裏切り者を!」
「主のことだ、源左の話を聞いたんだろう?」
「あぁ、深くは聞いていないが、数十年前から源左の者になりすましていたらしい。タチバナに関する情報も得た」
「ほぉ」
「が、それは後回しだ。皆も気になっていると思うが、あの超大型巨人は、ハザルハード・マーマインと呼ばれていた。マーマインの
と語り、超大型巨人ハザルハードと魔皇獣咆ケーゼンベルスのいる方角を見る。
「戦略だが、今は魔皇獣咆ケーゼンベルスが戦っているから、その魔皇獣咆ケーゼンベルスの戦いの邪魔にならない範囲でフォローを頼む。俺と相棒も後から参戦する」
「ンン、にゃ、にゃお~」
「「承知!」」
「了解した――」
「はい、援護しつつ互いにフォローしましょう」
「はい、行きましょう――」
アドゥムブラリとフィナプルスと沙・羅・貂は魔皇獣咆ケーゼンベルスと超大型巨人ハザルハードの下へ飛翔していく。
アクセルマギナも山間の枝を蹴って高々と跳ぶように移動していた。
サシィ、ツアン、リューリュと黒い狼ケン、パパスと黒い狼コテツ、ツィクハルと黒い狼ヨモギの魔素反応は、右後方の丈の高い樹が手前に多く繁って背後に分厚い岩が並ぶ地形の場所、上手く避難していた。
ちゃんと地形を考えている。
予め、魔皇獣咆ケーゼンベルスが退くように指示を出したかな。
一方、ゼメタスとアドモスの魔素は俺たちと近い距離にある。
潰れた灰色の砦に近い位置――。
その近くの要害に建つ砦柵の大半は潰れている。
マーマイン兵士たちの死体の量が凄まじい。
相棒は「ンン」と微かな喉声を鳴らし、俺と同じ気持ちになったのか、姿勢を傾け、旋回機動に移行し黒い翼の片方を下げた。
一緒に、その光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの魔素を追った。
見つけた。
陽を意味する旭日。
陰を意味する月虹。
その光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは二人の強者と戦っていた。
背後に洞と坂道がある櫓門の下にある坂で、共に一対一の状況。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスと互角に戦う強者の武者マーマインは、魔獣に乗っている。
得物は魔槍だ。三日月状の戟を持つ。
魔法攻撃を繰り出していたマーマインはここからでは見えない。
たぶん、
そんな予想をしている間にも、ゼメタスとアドモスと二人の戟を持つ武者マーマインは、三十合と打ち合い、またも互いの得物同士を衝突させた。
フォローしようにも難しい。
またも激しく打ち合う。
戟の柄と骨剣と骨盾がぶつかり合う度に衝撃波が発生し、不思議な魔力火花が散っていた。周囲にはマーマインたちの死体が積み重なっていたが、四人と二体の魔獣が戦う度にマーマインたちの死体が斬り刻まれて空間が拡がっていく。
ゼメタスとアドモスは覚えたばかりの<月虹斬り>や<暗紅ノ盾打突>を使いながら魔槍使いの武者マーマインと戦っていくと、押し始めた。
更にゼメタスとアドモスは<黒南風もののふ>と<赤北風もののふ>を使う。
武者マーマインの戟の一閃を避けた二人は――。
血の滴る骨剣の柄巻を体の内側へ引き込むような迅速な袈裟懸けを仕掛けた。
武者マーマインは半身の姿勢になって避けようとしたが、避けきれない。
血色に輝く骨剣の斬撃を腹に浴びる。
仰け反った武者マーマインに、続けざまの斜め左下から斜め右上に向かう逆袈裟斬りが決まる。武者マーマインの上半身を斜めに斬った。続けて、<夜叉ノ衝き>が武者マーマインの首に決まる。アドモスも同じタイミングで<暗紅ノ盾打突>のシールドの突き技で武者マーマインの首ごと頭部を潰して、強者の武者マーマイン二人を倒した。
そのゼメタスとアドモスは武者マーマインを乗せていた魔獣に跳び乗った。
が、振り落とされていた。
魔獣はゼメタスとアドモスが乗ることが可能なぐらいに大きい。
山間でも軽快に走れそうな印象の魔獣で、頭部はアルパカやラマ風。
胴体は馬っぽい。ゼメタスとアドモスは再びその魔獣に跳び乗ってロデオのように踊る。
が、また振り落とされていた。
「ンンン、にゃは」
相棒が笑った?
俺も、笑ってはいけないかもしれないが、ゼメタスとアドモスの魔獣を乗りこなそうとしている一生懸命な挙動を見て笑ってしまう。
が、戦場だ。気合いを入れる。
「ロロ、超大型巨人ハザルハードの所に向かうぞ。突撃をかます」
「ンン」
大きい
崖と崖に嵌まり込んでいるように見えた超大型巨人ハザルハードはもう立ち上がって、魔皇獣咆ケーゼンベルスと戦っている。
魔杖は儀式に用いて消えている。
俺たちに衝撃波を発した魔槍も消えたか仕舞ったか、持っていない。
武器は両上腕が持つ、巨大なマーマイン戦士の幻影が持っていた斬馬刀と大きな魔斧だ。
両下腕の太い腕は無手。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは、四肢の爪を活かすように飛び掛かった。
超大型巨人ハザルハードは
迅速な動きで魔皇獣咆ケーゼンベルスの前足の爪攻撃を避けた。
が、魔皇獣咆ケーゼンベルスは、
「『動きが鈍いぞ、魔愚皇ハザルハードとやら!!』」
と神意力を混ぜた咆哮を発して、超大型巨人ハザルハードに突進。
超大型巨人ハザルハードは怯む。
と、その超大型巨人ハザルハードの左前足に爪を突き刺す。
続けて、ハザルハードの右足に噛み付く。
更に首を横に捻るように超大型巨人ハザルハードの右足を噛みちぎりながら右側へと駆けていた。
超大型巨人ハザルハードは右足の脛が骨ごとごっそり失われた。
「グアァァァァ――」
ハザルハードは悲鳴のような声を発して転倒。
此方まで地響きが響き渡る。
その倒れたハザルハードに、アクセルマギナの魔銃から放たれた魔弾が豆粒の如く衝突していた。
あまり効いていないか。
更に魔王アドゥムブラリの<魔矢魔霊・レームル>の複数の魔矢もハザルハードの体に突き刺さった。
「ゲァァ!?」
超大型巨人ハザルハードは痛みの声を発した。
効いたようだ。
アドゥムブラリは虹色の魔力を靡く金色の髪から発している。
渋すぎる。
超大型巨人ハザルハードは蒸気のような魔力を体から噴出させて煙幕を張る。
体の回復に掛かった。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは山を蹴り後方宙返りを行っている。
霧にも見える魔力に覆われている超大型巨人ハザルハードに飛び掛かった。
ハザルハードの体を覆っている霧や粉塵にも見えた魔力が消えると、超大型巨人ハザルハードの上に魔皇獣咆ケーゼンベルスがのしかかっているところが見えた。
超大型巨人ハザルハードの胸と首を派手に喰らっている。
が、ハザルハードは再生能力を上げているのか、胸と首の傷を再生させながら右手に持つ斬馬刀の柄頭を上げ、魔皇獣咆ケーゼンベルスの腹に衝突させた。
「ぐぉ――」
腹に打撃を受けた魔皇獣咆ケーゼンベルスは後退。
すると、起き上がった超大型巨人ハザルハードが、
「「『魔皇獣咆ケーゼンベルス! 我をここまで、クソが!! そして、お前に【ローグバント山脈】への侵入を許した覚えはない!』」」
そう叫ぶと突進を開始。
巨人らしい膂力の影響で川の稜線の地形が爆ぜるように散った。
超大型巨人ハザルハードの顔をよく見たら四眼になっている。
更に、額の中央に八つの目?
否、額に八つのオベリスクが刺さって、八角形の魔法陣が生成されているのか。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは、
「『ガルルゥ――! 領域に縛られた哀れな大柄魔神よ! 自由とはなんなのか、教えてやろう!!』」
痺れる言葉だ。実際に神意力が混じる声は渋い。
その魔皇獣咆ケーゼンベルスは超大型巨人ハザルハードに合わせるように突進していく。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは身を低くして、超大型巨人ハザルハードの斬馬刀と大きな魔斧の斬撃を避けた。
そのまま直進しながら迅速に左前足を振るう。
その左前足から伸びた爪が超大型巨人ハザルハードの右脛を半分切断――。
超大型巨人ハザルハードは体勢を崩す。
「「『ガァァ』」」
超大型巨人ハザルハードは左膝で地面を突いた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは超大型巨人ハザルハードから少し離れるように左奥の山の上を駆けていく。
その山を後ろ脚で潰すように蹴って、先ほどと同じ後方宙返りの跳躍。
超大型巨人ハザルハードの左側の背中と肩に飛び掛かった。
魔皇獣咆ケーゼンベルスの両前足の爪が、超大型巨人ハザルハードに突き刺さると、超大型巨人ハザルハードは前のめりに倒れた。
「『ガルルゥ――』」
その超大型巨人ハザルハードの首筋に魔皇獣咆ケーゼンベルスは牙を立てた。
超大型巨人ハザルハードは体を震動させるように「「『離れろ、この獣めが!!』」」と左右に振るい、<魔闘気>を強めて迅速に立ち上がる。
右脛の傷は回復していた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは超大型巨人ハザルハードの背中に爪を立てながら後退するように離れた。
超大型巨人ハザルハードは身を捻って、
「「『【愚王バンサント様と魔皇ローグバント様の力を得た我には効かぬ――』」」
と言いながら、背後にいる魔皇獣咆ケーゼンベルスに突進していく。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは、
「『ウォォォン、嘘をついても無駄だ、効いている!!』」
そう神意力を有した言葉と衝撃波を放つ。
超大型巨人ハザルハードは衝撃波を受けて突進速度が落ちた。
その超大型巨人ハザルハードに魔皇獣咆ケーゼンベルスが飛び掛かって、左肩と左胸を喰らった。
が、超大型巨人ハザルハードは左肩と左胸を喰われながらも魔皇獣咆ケーゼンベルスの腹を膝で蹴り上げた。
「グォ――」
魔皇獣咆ケーゼンベルスを吹き飛ばした。
膝蹴りを腹に喰らった魔皇獣咆ケーゼンベルスは宙空で身を数回捻って後方の【ローグバント山脈】の山の天辺を跨ぐように豪快に着地した。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは口から血を吐く。
周囲の山間部は血の雨となった。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは直ぐに「ウォォォン!」と気合い声を発した。
ダメージはありそうだが、大丈夫だろう。
超大型巨人ハザルハード。
左半身の裂傷以外の傷は輝く
しかし、最初の体長は五十メートルを超えていたように見えたが……。
今では、四十メートルよりも小さくなっていた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスが喰らった左肩と左胸の大きな裂傷の回復は遅れている。そこから夥しい量の紫色が混じる血が流れていた。
超大型巨人ハザルハードは、退いた魔皇獣咆ケーゼンベルスを追わず、体中の
すると、体の鱗皮膚の一部にマーマイン文字を浮かばせる。
更に
しかし、体長が三十メートルぐらいにまで縮んだ。
そのハザルハードは四眼を光らせると、
「「『我は尽く、この地を平定する!!!』」」
そう宣言した刹那、四眼から光線を繰り出してきた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは退いたが、「グアァァ――」と悲鳴をあげたように左前足が切断されて後退するように転がってきた。
皆も避難を優先――。
太い螺旋状の怪光線攻撃とか――相棒は斜め上へ急上昇――。
「ンンン――」
避けたが、熱波を感じた。
荷電粒子砲やビーム砲のような攻撃は、俺たちがいた背後の山と激突。
その山は爆発したように一部が消し飛んで燃焼していた。
「反撃しながら、ケーゼンベルスの左前足を回収しようか――」
「ンンン、にゃご――」
大きい
左前足を失った魔皇獣咆ケーゼンベルスを越えて紅蓮の炎を超大型巨人ハザルハードに吐いた。
超大型巨人ハザルハードは魔斧と斬馬刀をクロスさせる。
無手の両手と額から前方にかけて魔法陣を発生させた。
超大型巨人ハザルハードは紅蓮の炎を防ぐ。
その間に、相棒が切断された魔皇獣咆ケーゼンベルスの左前足に触手を絡ませ、魔皇獣咆ケーゼンベルスの下に運ぶ。俺は相棒の頭部から離れて魔皇獣咆ケーゼンベルスに近付いた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスの左前足を<
「すまぬ、我の左前足はもう生えた!」
驚いたが、顔には出さず、
「よかった! 一応、《
回復ポーションも投げていく。
「おぉ……ありがとう。我の主……」
魔皇獣咆ケーゼンベルスは結構消耗していたようだ。
他にも傷があったようで、血濡れた体毛から滴り落ちていた血は止まり、乾いた。傷は回復したようだ。
「いいさ、超大型巨人ハザルハードを倒そうか!」
「うむ!」
「にゃごぁぁ――」
相棒が紅蓮の炎を防いだ超大型巨人ハザルハードに飛び掛かっていると分かる。
その間に怪光線が通った俺たちの背後を見た。
サシィにツアンたちは左側の奥……。
幸い被害はないが、怪光線が通り抜けたところは、巨大包丁に斬られたような傷跡となって地形を変えていた。ヤヴァい威力だ。
この近くで、この超大型巨人ハザルハードを暴れさせるのは危険すぎる――魔皇獣咆ケーゼンベルスを見て、ってケーゼンベルスはもう駆けていた。
その魔皇獣咆ケーゼンベルスと、巨大な
フィナプルスとアドゥムブラリと沙・羅・貂も超大型巨人ハザルハードに向かって遠距離攻撃を放っている。
「――にゃごぁぁ」
相棒が再び紅蓮の炎を吐いた。
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