千二十八話 灰色の砦の不意打ちと天守閣にオベリスク
相棒はカラカルや魔獣っぽさがある黒豹に変身。
そのロロディーヌは床の板の匂いを嗅ぎながら慎重に前に歩く。
「砦の内部の構造は、いまいち把握し難いが、上と下にもマーマインたちの魔素はあるからな……多門櫓の長屋的な積み重なった感じだろうか」
「ンン」
匂いを嗅ぐ
その相棒が匂いを嗅いでいる焦げ茶色の板には
この床がいきなり窪んで落とし穴?
あるいはズレて、下の階層が持ち上がりながらマーマインたちが奇襲?
槍衾、魔銃のぶっ放しとか……ありえる。
四方の壁にはマーマインの軍旗に漆黒の鋼の棚があった。
壁から槍やら魔銃をぶっ放すとかもあるかもだ……。
天井の光源は動いていた。
体に眼球を複数擁しているイソギンチャクのような魔蟲が光源なのか?
体に眼球が複数とか、普通に気色悪い――。
あんな気色悪いモノ、ぐにょぐにょは、『汚物は消毒だ』の対象だろう。
外の明るさと合う魔蟲の光源は濃厚な青色。
そして、【ローグバント山脈】の空には太陽はなく暗がりだが、【マーマイン瞑道】よりも明るいように、不思議な明るさで保たれている。
天井を這うように移動している青い光を灯している魔蟲の数は多い。
実は、マーマインたちの中に潜入している他の魔界の神の使いかもしれない。
四方の壁にはマーマインの軍旗と不気味なドリームキャッチャーが飾られてあった。
漆黒と緑の和風箪笥に鋼の箱の上には、スズ竹の網代編みの竹
下の鋼の箱は洋風だが、上のこうりは、まさに和風の入れ物、源左の品か。
左奥には多葉形アーチのような出入り口があり、アーチには源左の者のなめし革が掛かっていた。
その出入り口の先は歩廊だろう。
相棒は床の匂いを嗅ぎながら広間から地続きの階段の前まで歩いたところで動きを止めた。
振り返り『この階段を上がらないにゃいの?』と言うような顔付きで、俺を見つめてきた。
黒豹ロロディーヌだが首下の毛はモフモフだし、魔獣と呼べるが、ま、
……そのロロディーヌの黒い瞳は少し真ん丸い。
触手の先端から僅かに出ていた骨剣を触手に収納。
その触手を首の両端に収斂させていた。
その
「今行く」
と言いながら広間を歩いて奥に向かった。
刹那――板の間の一部が割れた。下の魔素たちか――。
その床下に潜んでいたマーマインは、源左の装具を身に纏っている。
魔槍の戟を突き上げながら現れるのを見ながら――退いた。
同時に止めていた<血魔力>の<血道第三・開門>――。
<
「にゃごぉ――」
奥にいた相棒が唸り声を発しながら走り寄ってくる。
首と胴体から無数の触手を出している
戦士風の小豆色と金色の飾りを擁したメイルが一瞬で暗緑色のハルホンクの防護服に変化を遂げた。
すると、目の前の板の床も割れて跳ね上がる。
俄にバックステップ――広間に侵入してきた廊下に戻った。
<
<生活魔法>の水を足下にばら撒く。
《
<水神の呼び声>も発動――。
そのまま半身の姿勢で広間を凝視。
視界の端に見えている廊下の右側は<光穿・雷不>が突き抜けた後で、派手に破壊されている。
灰色の砦を覆っているはずの、巨大なマーマイン戦士の幻影は見ない。
と、広間の床下にいた武者マーマインが、魔銃を撃った。
天井を複数の弾丸が突き抜ける。
その床下から三人の武者マーマインが跳躍して広間にあがってきた。
両手の武器も消し、左手に神槍ガンジスを召喚――。
「ンンン――」
広間の奥にいる
その
連続的に骨剣を衝突させていく。
相棒の触手骨剣の攻撃を、長柄の魔槍で防ぎ続けている二人の武者マーマインは強者だろう。
二人の武者マーマインは相棒に任せるとしよう。
まずは目の前の三人のマーマインだ。
三人のマーマインは、背後の凄まじい打撃音と金属音が気になったのか、半身の姿勢となって
二人の魔槍使いが何もできず押されている状況を見て、三人は動きを止めていた。
その三人の武者マーマインに、
「お前らの相手は俺だろう?」
「……<血魔力>を有した黒髪の男……槍使いか」
「……お前がトロイス様が脅威だと語っていた槍使いだな」
「お前、魔皇獣咆ケーゼンベルスを使役したという話は本当なのか?」
三人のマーマインがそう聞いてきた。
右手前のマーマインは魔銃を持つ、その短筒はソードオフ・ショットガンと似ている。
俺は頷いて、両腕をゆったりと上げた。
そして、
「そうだ。トロイスは源左に潜入していたバシュウで良いんだな?」
右手前のマーマインは、短筒を動かしながら、
「……なぜ腕を上げた」
「気にするな、その魔銃などのお前の装備も、バシュウの手の者が、このマーマイン砦に輸送していたんだな?」
「……さあな――」
その武者マーマインはニヒルに嗤い、銃口を俺に向けてきた。
最初は、その魔銃持ちを潰す――。
<鎖の因子>マークを晒すように上げていた両手首から<鎖>を射出する。
両手首から一直線に伸びた二つの<鎖>のティアドロップの先端は魔銃持ちのマーマインの頭部と胴体をあっさりと穿つ。
頭部が穿たれたマーマインは「びゅ――」と変な声を発して項垂れるように倒れた。
そのまま体から出している<血魔力>から<血鎖の饗宴>をいつでも出せる雰囲気で低空を飛翔するように広間へと再び突入――。
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
「<イブルの魔闘気>! こなくそが!」
「<東方・連闘纏>――速いが対応できる!」
二人の魔槍使いは独自の<魔闘術>をそれぞれ纏うと前進を始める。
相手の歩幅と速度を即座に分析、間合いを調整しながら板の間に着地。
腰を沈めて<刺突>のモーションを取る。
二人の魔槍持ちは構わず突進を続けた。
武者マーマインは強者だと思うが、甘い。
――敢えて、待ちの姿勢でゼロコンマ数秒、一、二秒と待つ。
マーマインの筋肉と体を巡る<魔闘術>系統の魔力の勢いは相当なもんだが、過信しているのか?
魔槍杖バルドークに魔力を込めて<柔鬼紅刃>を実行――。
嵐雲に似た穂先が、紅矛とでかい紅斧刃に変化を遂げた。その紅斧刃を寝かした。
魔槍杖バルドークの螻蛄首から金属音と重低音の嗤い声が響く。
二人のマーマインは<刺突>系統のモーションに入った。
二人の魔槍の穂先は、戟。
横への避けは間合い的に厳しい。素直に突っ込んでくるなら対処は楽だが、
「喰らえや――<蛮王・雷酷穿>――」
「<愚王・闇穿破>――」
――予想通り、過信しているようだ、<刺突>系統のモーションのまま突っ込んでくる。
<血霊兵装隊杖>の血の錫杖を視界に納めつつ<滔天神働術>を意識、発動――。
<闘気玄装>を強める――。
足下の水飛沫と血が一斉に持ち上がった。
二人の槍を突き出す動きに合わせて――。
左手の神槍ガンジスに魔力を込めながら<豪閃>を繰り出した。
――蒼い纓の毛が刃と成る。
刃となった蒼い槍纓を有した螻蛄首と方天画戟と似た双月刃が――。
<蛮王・雷酷穿>と<愚王・闇穿破>の
<血魔力>を得たような神槍ガンジスを強引に左側へと振り抜く。
――二人の魔槍を弾いた。
刹那、<滔天魔瞳術>を発動。
「――ぐぉ」
「――な!?」
二人は俺の
腰を下げたまま前進しながら――。
魔槍杖バルドークで<血龍仙閃>を繰り出した。
※血龍仙閃※
※血龍仙流系統:極位薙ぎ払い系※
※龍豪流技術系統:上位薙ぎ払い系※
※高能力の下地に、魔界、神界、獄界の多次元世界の神々と通じる戦闘職業の<霊槍・水仙白炎獄師>と豪槍流と龍豪流の槍技術が必須※
※魔界セブドラに向かうことなく、地獄龍山に住まう〝災禍を超えし血龍魔仙族〟血龍魔仙族ホツラマの極位薙ぎ払い系スキルを秘密裏に獲得した者はいない※
血の龍を纏う紅斧刃が二人の武者マーマインの首を捉え、斬る――。
魔槍杖バルドークを振り抜くがまま前進――。
素早く両手の武器を消去――。
回転する勢いのまま右拳を振るい<血仙拳>を繰り出す。
その<血魔力>を纏う<血仙拳>が右の頭部を失った武者マーマインの体を貫く。
ほぼ同時に左の頭部を失った武者マーマインの体に<血仙掌打>をぶち当て、吹き飛ばした。
掌底をぶち当てた武者マーマインの死体は相棒が戦っている奥に向かう。
横回転を続けて右腕に嵌まっていた死体を投げ飛ばした。
同時に周囲の血飛沫をすべて吸い取った。
「にゃごぁぁ」
床下にいる二体の武者マーマインは一気に燃焼。
その床下に飛び込んでいく<血仙掌打>をぶち当てた死体も
燃えゆく板の間を跳び越えて相棒の隣に着地――。
直ぐに<生活魔法>の水を背後の燃えている床下にぶっかけて消火。
が、もう他にも燃え広がっている。
この【マーマインの砦】は炎上して落ちるかな。
交渉は無理そうだ。ま、いまさらか。
その
「ロロ、よく戦ったな」
「にゃ」
相棒のモフモフの毛と地肌を
胴体にまで続いている黒い毛を指と指の間と掌で
と、俺の左の耳朶と首筋をぺろぺろと舐めては、耳朶にがぶがぶと甘噛みしてきた。
痛いが、幸せの痛み……我慢した。
その
「――さ、耳朶は餃子ではないからな? 上に行こうか。バシュウか、マーマインの親玉は上だ」
「ンン」
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
そのまま相棒と一緒に広間を駆けた。
階段をホップステップハイジャンプ――。
【マーマインの砦】の天守閣に到達。
「――あいつです!」
そう叫びながら
<投擲>してきた
巨大な物見やぐらと宮殿や祭壇を融合させたような内装だった。
俯瞰で見たら、黄金分割の魔法陣の要所に四角柱のオベリスクが設置されているかもしれない。
そんな巨大なオベリスクの先端には神々しく輝いている魔宝石が嵌まっていた。
四角柱のオベリスクの見えている面には光り輝く象形文字と似た文字と図像が無数に刻まれていた。
象形文字と似た文字は、マーマイン文字だろうか?
生皮を剥ぐような文化でありながら識字率は高いようだ。
いかん、この考えは一方的な見地か。
そういう文化なんだろう。
巨大なオベリスクの近くには、俺に匕首を飛ばしてきたバシュウがいた。
バシュウの身なりは、黒髪に具足帷子と上具足のままだが……。
頭部と両肩から二の腕にかけて大きい
その
変身スキル持ちということか。
ここには武者マーマインが十数人いる。
オベリスク近くの壇の上に横陣で陣形を組んでいた。
中央奥にいる大柄なマーマインが親玉で大将だろう。
そのマーマインは右手に魔槍を持つ。左手には魔杖を持っていた。
その魔杖と体から放出されている膨大な魔力は、祭壇の周りの巨大なオベリスクと、砦の外に展開されているマーマイン戦士の幻影へと注がれている。
すると、大将のマーマインの前の横長い壇に横陣を組んでいた武者マーマインたちが一斉に殺気を強めた。
武者マーマインは皆、魔刀持ち。
各自、示現流風の八相の構えや、切っ先を俺に向けた下段構えに、正眼の構えなどで、得物の角度を変えながらジリジリとにじり寄ってきた。
そして、その高まった殺気が頂点に達したのか、殺気が弾けるように、
「「ウォォォ!!!」」
「仕留めろ――!」
「ウガァァ――!」
と、裂帛の声を発して突進してくる。
即座に<
武者マーマインたちを吹き飛ばす。
一瞬で宙空にいる数人のマーマインは体の内側にミニブラックホールでも出来たかの如く内臓に吸引されるように潰れた。他の吹き飛ぶマーマインたちも、それぞれがなんらかの巨大な質量を持った物体と衝突したように体が凹む。続けざま内側に窪むと、肉の塊となって左側の壁に激突し、擬宝珠の石柱とも激突して床に転がった。
その武者マーマインだった肉の塊に――。
数十の《
<
武者マーマインたちを一瞬で屠る。
バシュウは、仲間たちが倒されたのを見て顔色を悪くしてから、「ハザルハード様の護衛兵を……」
と呟き、隣の大柄なマーマインを見て、
「……すみません、ハザルハード・マーマイン様……私の失態です」
そう発言。大柄なマーマインは笑う。
「ハッ、気にするな。十分に源左からは物資と情報を得ている。そして、話に聞く源左サシィを取り込んだこやつをここで仕留めれば、【源左サシィの槍斧ヶ丘】と周辺地域も我らの物となる……」
大柄なマーマインはそう言いながら巨大なオベリスクの一つを浮かせて、数歩歩く。
このマーマインが親玉、ハザルハード・マーマインが名か。
彫りが深く、瞳の色は紺碧。魔眼の能力もありそうだ。
鼻は高く、装備は魔力を備えた甲冑装備で、マントは自然と風を帯びているのか靡いていた……見えている範囲では、鰭と鰓よりも、鱗のトゲトゲのほうが多い。
右手の魔槍の穂先は魔槍グドルルを彷彿とさせる。
関羽が持っていたとされる青龍偃月刀と似た武器か。
左手の魔杖は膨大な魔力を有している。
小さいが、周囲の巨大なオベリスクと連動していた。
魔杖バーソロンタイプとか? ありそうだから困る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます