千七話 今ここに、神聖ルシヴァル大帝国の建国を宣言します!

 

 手を握っていたヘルメと一緒に着地した。

 続いて、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが後方に着地した音が響いた。


 そんな俺たちに城内にいたデラバイン族の兵士たちが集まってくる。


 数千人はいる。


「――黒髪の魔英雄と水の女神がきたぁぁ!」

「骸骨の騎士様がいるぞぉぉ!」

「あぁ、水の女神様ァァ!」

「バーソロン様は駆けていったが……」

「俺たちを助けてくれた女神様ぁぁ!」

「イモちゃん様がいないのはなぜだぁぁ!」

「水の女神様ァァァァァ!」

「金髪の射手もいない~」


 ヘルメはデラバイン族の兵士たちの期待に応えるように片手を泳がせ、俺の手を、ボクシングの勝者の片手を持ち上げる審判のように持ち上げてから、俺の手を離し、「ふふ」と微笑むと、胸を前に出しながら両手を広げてゆっくりと歩く。

 

 歩く度に足先に水面が生成される。

 その足下に発生した水面の階段をゆっくりと上がりながら蒼と黝の水飛沫を羽衣の節々から発生させる姿は神秘的。


 まさに常闇の水精霊ヘルメだからこそ可能な水歩法。

 ヘルメは横回転を行いながら俺の周りを旋回――。

 全身からキラキラと輝く水飛沫を発し、美しい水の軌跡を幾つも周囲に発生させる。


 回るヘルメは細長い右手を俺に伸ばしてきた。

 反対の細長い左手はヘルメの背中のほうに伸びて、手と前腕で、鶴の頭部と首を表現しているような仕種を取る。

 白鳥の湖を踊るダンサーのようになったヘルメは、蒼い双眸で俺をジッと見て、震えた唇から水気が濃い霜の息を吐いていく。


 悩ましい表情には、何かの物語を感じた。

 同時に《水幕ウォータースクリーン》に近い水飛沫を俺の周囲だけに展開させる。


「「おぉ」」

「わぁ……」


 デラバイン族の兵士たちはヘルメの美しい舞を見て、感嘆の声を発していく。

 デラバイン族は、ヘルメの展開した《水幕ウォータースクリーン》と似た水飛沫のカーテンを越えてこない。

 ヘルメが展開していた《水幕ウォータースクリーン》の近くにいるデラバイン族の兵士が、


「――黒髪の英雄! 魔界王子テーバロンテを倒してくれてありがとうございます!!」

「「ありがとうございます!」」


 と、礼を言いながら片膝を地面に突けて頭を垂れてきた。

 すると、後方で騒いでいた他のデラバイン族の兵士たちも、前列の兵士たちに釣られるようにザザッと音を響かせながらウェーブを起こすように片膝を地面に突いて頭を下げていく。


 ヘルメは、そのデラバイン族の兵士たちに向け、


「――デラバイン族の皆さん、魔界王子テーバロンテの百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンたちと善く戦い、良く生き残ってくれました!」

「「「ハイッ!」」」


 一部のデラバイン族の兵士たちが気合いを込めて返事を行う。

 ヘルメは一呼吸後、


「私の左後方にいる閣下のことは、もう皆が知っていると思います。城主だったバーソロンを救った方が閣下。その閣下は、貴方たち角鬼デラバイン族の多くを助け、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの大部隊を屠り、大ホールと広場の戦いを勝利に導いた存在! そして、魔界の上級神の一柱でもあった魔界王子テーバロンテを滅した! そんな閣下の正式な名を知りたい方も多いと思いますが、どうでしょう、知りたいですか?」

「「はい!!」」

「「「「知りたいです!!」」」」

「「俺たちの閣下の名が知りたい~」」

「「魔英雄様~」」

「「魔君主様~」」

「水の女神様の名も知りたいぜぇ」


 デラバイン族の兵士たちが静まるのを待ったヘルメは俺を見る。

 『あぁ、ヘルメに任せる』と表情で気持ちを伝えた。


 ヘルメは微笑んでから、デラバイン族を見て、


「――黒髪の魔英雄や魔君主と呼ばれている閣下の名は、シュウヤ・カガリと言います! 種族は光魔ルシヴァル、その宗主で在らせられる!」

「「「オォォ!」」」

「「シュウヤ様!!」」

「俺たちの魔君主はシュウヤ様か!」

「魔英雄シュウヤ様、ありがとうございます!!!」


 またまた兵士たちが静まるのを水飛沫を発しながら待ったヘルメは、


「バーソロンが城内にいる仲間たちを広場に集めていますが、そのバーソロンのことも報告しておきましょう。護衛部隊たちは知っていますが、バーソロンを救った際にバーソロンは光魔ルシヴァルの眷属となりました。そして、閣下と魔界騎士の儀式を行なったのです。バーヴァイ城の城主バーソロンは閣下の光魔騎士の一人となりました」

「「おぉ」」

「バーソロン様が……」

「バーソロン様を救って、シュウヤ様の魔界騎士に……」


 ヘルメは数回頷いて、天に向け水飛沫を発して、兵士たちのざわめきを止める。

 そして、


「魔界王子テーバロンテを倒した閣下とわたしたちは、狭間ヴェイルの穴の出現事象を乗り越えた後、【ケーゼンベルスの魔樹海】から突如として現れたモンスターを倒しきった。そのまま【ケーゼンベルスの魔樹海】に侵入し、モンスターを倒し続けました……」


 少し間を空けたヘルメはデラバイン族たちを見据え、


「その森の中で、魔皇獣咆ケーゼンベルスと邂逅したのです! そして、そのケーゼンベルスと交渉を行った閣下は見事な話術で交渉を成功に導いた。内容は、【ケーゼンベルスの魔樹海】とバーヴァイ城の自由。その瞬間、デラバイン族とケーゼンベルスの自由を保障する同盟が結ばれたのです。不可侵条約に近いでしょう。その同盟には条件がありました。条件とは、魔皇獣咆ケーゼンベルスの使役に成功すること。それに閣下が応え、使役にも成功! それは同時にケーゼンベルスたちという仲間を私たちが得たということです。見ての通り、ケーゼンベルスの黒い狼たちに騎乗しているバーソロンの護衛部隊は、騎兵部隊に進化を遂げました!」

「ウォォォォォン!! その通り、我はシュウヤに使役を受けた。主がシュウヤだ。が、我らは自由である! デラバイン族はもう仲間で家族! これからも宜しく頼むぞ!」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスがフォローしてくれた。


「「「「「おぉぉ」」」」」

「魔皇獣咆ケーゼンベルス様!」

「ケーゼンベルス様たちと仲間で家族」

「俺たちは……許されたのか」

「何度も戦ってきた相手だが、同盟、家族に……こんな奇跡が連続で……シュウヤ様と皆様は凄すぎる……」

「歴史が動いたのか……」

「歴史が動きすぎだ。しかし、魔皇獣咆ケーゼンベルス様をこんな近くで見ることになるとはな」

「あぁ……神獣様と似ていて、迫力がある……」


 デラバイン族たちは魔皇獣咆ケーゼンベルスを見ては、そんな話を繰り返していた。

 ケーゼンベルスは、俺とヘルメの回りを、ゆっくりと回る。

 皆の前で、仲間だと宣言しているようにも見えた。


 ヘルメは、


「他にも、壊槍グラドパルスを得た閣下は、狭間ヴェイルの穴に捕らわれていた魔界騎士グラドを救い、その魔界騎士を光魔騎士として眷属に迎え入れられた。ですから、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力と対抗するためにも、他の周辺勢力に赴き、探索を強めるはずです! 更に重要なことがあります。閣下の下には<筆頭従者長選ばれし眷属>と<従者長>と呼ばれている光魔ルシヴァルの眷属たちが存在します。その眷属たちは、魔界王子テーバロンテを滅した閣下並みに強い存在たちです!!」

「「「おぉ」」」

「イモちゃん様のような存在だろうか」

「金髪の狙撃手は綺麗だったが……あの方も<筆頭従者長選ばれし眷属>?」

「たぶんそうだと思うぜ」

「グラドという名の魔界騎士も眷属か。聞いたことはないが、強いんだろうな」

「シュウヤ様たちは、バーヴァイ城を基点に新たな勢力圏を作ったということか……」

「……<筆頭従者長選ばれし眷属>と<従者長>……吸血神ルグナド様のような……」

「あぁ。血の支配体系を持つのか、光魔ルシヴァルとは……」

「俺たちは光魔ルシヴァルに?」

「どうだろう……選ばれし存在だけのような印象だが……」

「バーソロン様は血を心臓部に得ていたの。だから、選ばれし者だけが光魔ルシヴァルになれるんだと思う。私もシュウヤ様と一つになりたい」


 最後に熱く語ったのはバーソロンの護衛部隊の女性だ。黒い狼に騎乗している。

 名は覚えていないが、可愛い子だ。

 眼鏡のような魔道具を目元にかけていて小鼻は小さい。

 唇も小さい。頬にはソバカスがある。

 胸はなかなかの大きさ。熱い眼差しといい、好みだ。イモリザが守っていた女性かな。

 ヘルメは、その女性に向け、


「そうなります。閣下は<筆頭従者長選ばれし眷属>や<従者長>の眷属を作る時は慎重になる。それに、痛みも伴います。詳しくは説明しませんが、強い存在でないと認めることはないでしょう」


 騎兵の女性はヘルメの答えに少し驚いた表情を浮かべて、


「は、はい! 精霊様、ありがとうございます!」


 と返事をしていた。

 まさか返ってくるとは思わなかったのか。と、ヘルメは俺を見る。何か言いたげだ。

 今の可愛い女性兵士のことではないだろう。

 ジッと俺を見て瞳を震わせる。ヘルメは皆に宣言したいことがあるようだ。


 ――頷いた。ヘルメは嬉しそうに笑顔を見せてから頷く。もう一度頷いた。

 そのヘルメはキッと厳しい表情を浮かべると、皆を見てから、


「閣下が角鬼デラバイン族の王族バーソロンを眷属に迎え入れたということは、角鬼デラバイン族たちを見捨てるつもりはないということになります」

「「はい!」」


 少し間を空けたヘルメは、また俺をチラッと見てからデラバイン族を見つめ直し、


「……閣下は、このバーヴァイ城を基点にするかはまだ不明ですが、デラバイン族を率いる立場になったことは理解していますね?」

「「はい、当然です」」

「はい!」

「うん、私たちにはできないことができる存在がシュウヤ様。そして、精霊様ですから」


 ヘルメは皆の言葉に鷹揚に頷いてから、体から後光のような魔力を発した。マントのような水飛沫を発して浮き上がる。そこから、


「では、今ここに、神聖ルシヴァル大帝国の建国を宣言します! 閣下は、いずれ、周囲の勢力から魔皇帝と呼ばれるようになるでしょう!」


 ヘルメは宣言してしまったか……デラバイン族の兵士たちは一瞬、静まり返った。

 状況、空気感から宣言すると思っていたが……気が重い。ヘルメの野望はヘルメの願望だったから、喜ぶべきか。

 ま、受け入れよう。前のように美人さんが多い帝国と思えば気が楽だ。と、デラバイン族は角を輝かせながら、


「「「「ウォォォォォ!!!」」」」


 凄まじい歓声を発した。声は野太い魔力的な波動となって城内に響き渡る。


「「神聖ルシヴァル大帝国!!!」」

「「魔皇帝シュウヤ様!」」


 デラバイン族たちは叫ぶ。

 同時に武器防具に酒樽が頭上を舞う。

 笑顔に笑顔の乱舞。

 参ったな、とは言えない空気だ。皆がこんなに喜ぶとは。

 しかし、デラバイン族の歓声には驚いた。神意力を持つんじゃないか、という迫力だった。

 先のケーゼンベルスの黒い狼たちの鳴き声を彷彿とさせる。

 

 デラバイン族の波動的な声は一種の皆の心を結ぶ紐帯で、民族精神のスキルだろうか……。

 意識の力は凄い。


「ふふ、皆さん、気持ちは分かりますが、お静かに! 閣下にお言葉を承りましょう!」

「「「ハッ」」」


 シーンと静まる。ヘルメは満足気な表情だ。

 ま、今は多少はヘルメの野望に乗っかるが、それは俺なりにだ。


 視線を強めて、


「……よう、デラバイン族の兵士の皆、頭を上げてくれ」

「「「「ハッ」」」」


 城内のデラバイン族たちは膝を床につけながら次々に頭を上げていく。


「皆、テーバロンテ親衛隊の翅持ち百足高魔族ハイ・デアンホザーなどと良く戦ってくれた!」

「「「はい!」」」

「シュウヤ様こそですよ!」

「はい、俺たちのために……」


 一人のデラバイン族の言葉を聞いて、違う、セラの民にクレインたちのためだと言いたかったが……まぁ、皆のためか。


「……おう! 皆のため、魔界王子テーバロンテは俺が倒した。魔皇獣咆ケーゼンベルスと同盟を結んで、使役もできた。黒い狼たちも、もうお前たちの仲間で家族ということになる。ケーゼンベルスの魔樹海とバーヴァイ平原とバーヴァイ城の領土の境目はなくなったと考えていいだろう。これからは皆で共有して守り抜くか、土地に拘りがなければ、皆で何処かに移動するのもいいだろう。ま、悪神ギュラゼルバンや恐王ノクターの勢力に他の小勢力もいるようだから、なんとも言えないが……その辺りの行動指針について、俺自身の考えを述べると、源左サシィの勢力と接触を試みようと考えている。俺が先に動いたら、その結果を、後ほど一部のデラバイン族は知ることになると思う。ま、その辺りの委細はデラバイン族の王族と呼べるバーソロン本人か、護衛部隊から話を聞くといいだろう。これからの軍規、軍の再編についても基本はバーソロンやデラバイン族の意見を聞くつもりなんだ。五人一組か、三人一組で戦うとか、戦いの決まりはあまり弄らないつもりだ。で、城主のバーソロンだが、今、バーヴァイ城の内外に散っている仲間の角鬼デラバイン族を広場に集めてもらっているところなんだ。詳しくは、そのバーソロンから聞けるタイミングが来たら聞くといい。仲間となったケーゼンベルスにも相談するといいだろう」

「「「「はい!」」」」

「「「シュウヤ陛下、ありがとうございます~」」」


 陛下になってしまったが……ま、いっか。

 と、傷を負っている者、治療が途中の者が無理に立ち上がろうとしていた。

 

 直ぐに思い浮かんでいた言葉は消し飛ぶ。

 ――戦闘型デバイスを意識しつつ、


「足が悪い者たちは無理をしないでくれ。隣の者が支えてやってくれ、頼む――」


 戦闘型デバイスから回復ポーションを取り出しながら――。

 ヘルメの《水幕ウォータースクリーン》を越えて、傷を負っている者たちが多い場所に向かった。


 そして、「これを使ってくれ、回復ポーションだ――」と片手を失っている兵士に差し出したが、「え、えっと……」手が震えて、ポーションを取ろうとしない。

 兵士からしたら、そうなるか。


 俺の独りよがりだったかもしれないが、回復ポーションは直ぐに足下に置いて――。


「そのポーションは他の傷ついている兵士か、自分で飲めばいい――」


 と言いながら上級の《水癒ウォーター・キュア》を発動。

 透き通る水球が数人の傷が酷い兵士たちの頭上に生まれ出ると同時に弾け散った。

 兵士たちはみるみるうちに傷が回復していく。

 欠損は無理だが、良かった。

 《水浄化ピュリファイウォーター》も皆に振り撒くように連続的に発動。

 続けて上級の《水癒ウォーター・キュア》も連続発動――。


「「「おぉぉ」」」

「「シュウヤ様は水属性の回復魔法を無詠唱で……」」

「傷が癒えた、優しい陛下……俺は、俺は……ありがとうございます……陛下……」

「毒消しバルアンの効果が高まったのか一気に毒が消えた……」

「シュウヤ様……このご恩は忘れません……」

「テーバロンテを倒し、ケーゼンベルスを帰順させて、命を救ってくれるなんて、陛下は私の救世主です……この命、体を自由に使ってください……」


 傷が回復した兵士たちがそう礼を言ってきた。

 女子兵士にそう言われると鼻の下が伸びる。


「元気になれば俺も嬉しい。そして、ヘルメの宣言だが、本筋の俺は風槍流と自由を愛する槍使いで冒険者。それが俺だってことを皆には、分かってほしいんだ……」


 と、黒猫ロロを見てから魔皇獣咆ケーゼンベルスを見上げた。


「ン、にゃお」


 黒猫ロロは頷くように返事をしてくれた。

 足下に頭部を突けてくれる。


 ケーゼンベルスは頷いて、


「ふはは、分かっているとも。シュウヤと神獣ロロは、我と同じく自由を好む。同時に光魔ルシヴァルの宗主で、皆の首魁である! 渾名や称号なぞは気にするな!」

「「「ウォォォォォン!」」」


 デラバイン族を乗せている黒い狼たちが魔皇獣咆ケーゼンベルスの下に集まってそう一斉に吼えていた。


 ケーゼンベルスの心は分かる。

 <魔皇獣の心>はありがたい。


「ははは、そうだな。ということで、角鬼デラバイン族たち、これからもよろしく頼む!」

「「「はい!」」」

「「こちらこそ、陛下!!」」

「「素敵な陛下に命を捧げます!!」」

「ふふ、閣下の名に似合う熱い兵士たちです。これからも期待していますよ。あ、私の名はヘルメと言います」

「「ヘルメ様も宜しくお願いします!」」


 すると、


「閣下ァ、皆に戦果を報告しましたぞ!」

「閣下、魔の扉の鏡の回収は行ったのですか」


 星屑のマントが似合う魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが寄ってきた。

 周囲のデラバイン族の兵士はサッと横に避ける。


 ゼメタスとアドモスは俺の左右に立った。

 迫力ある二人に、


「まだだ、これから大ホールに戻るところだ。行こうか、ヘルメと相棒も戻ろう」

「にゃ~」

「「ハッ」」


 ツアンとグラドはまだ戻ってこないが、ま、いっか――。

 大ホールに向けて駆けた。

 広場に集結しているデラバイン族たちは一斉に敬礼してくる。

 一々応えてはいられない、大ホールに駆け足で突入。

 大ホールの床と、内部の壁の傷は、イモリザ無双の結果か。

 

 あ、俺の<光穿・雷不>の跡の方が凄まじいか……。

 ――城の大ホールを、済まぬ、皆。

 ――だが、バーソロンが城主だったが、元々テーバロンテの所領の城だ。愛着はないか。地下も見たいが、階段を上って――。


 バーソロンと初対面した場所に帰還――。

 魔の扉の鏡は無事だ。


「ンン――」


 鏡の前にある孔に触手を嵌め込む黒猫ロロさんは悪戯好きだ。


「閣下、魔杖バーソロンに魔力を込めれば、魔の扉の鏡は使えると思いますが」

「あ、私たちもグルガンヌ地方に一旦戻れるか試しますか?」


 ゼメタスの言葉に頷いた。


「そうだな。俺と闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトとグルガンヌ地方が基点だと思うから、大丈夫だとは思うが、一旦戻ってくれ」

「はい――では閣下――」

「――閣下ァァ、また直ぐに呼んでくだされ!!」


 頭突きから骨剣を突き刺しあってからまた頭突き。

 同時に全身から蒸気のような魔力が噴出。

 その魔力といい消え方がイリュージョンだった。

 思わず拍手。


 と、蒸気的な魔力が、魔の扉の鏡に掛かる。

 鏡に、ヴィーネ、ユイ、レベッカ、エヴァ、キッシュ、ミスティ、キサラ、キッカ、クレイン、ビーサ、ヴェロニカ……カルード、メル、ベネット、ママニ、ビア、サザー、フー、クエマ、ソロボ、サラ、ルシェル、ベリーズ、ブッチ、ペレランドラ、カットマギー、ムー、アキレス師匠、レファ、ルマルディ、アルルカンの把神書が映ったような気がした。


 皆と話がしたい。

 次元が異なると血文字通信ができないのは、結構不便だ。今までが便利過ぎたか。


 一旦戻って、連絡してからここに戻るか?

 否、今は魔の扉の鏡を仕舞う――。

 

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