九百八十七話 【魔の扉】の情報と灰色の二剣使いと戦い


「ハルホンク、下に転がっている極大魔石をすべて回収。食うのは禁止」

「ングゥゥィィ!」


 腰と太股を覆うハルホンクの防護服から繊維状の青白い炎が極大魔石へと伸びて、絡む。

 その青白い炎の繊維には玄智宝珠札と棒手裏剣がさし通されている。

 そのまま一瞬で肩の竜頭装甲の口まで運ぶと、極大魔石はハルホンクに格納された。

 すると、


「閣下、その魔杖バーソロンからの思念は精神攻撃に近い。神意力を有した魔杖は危険です!」

「ンンン、にゃ~、にゃおぉぉ」


 常闇の水精霊ヘルメが警告しながら飛来。成猫の黒猫ロロも何かを言うように走ってきた。

 黒猫ロロは俺の肩には乗らず。

 足下を滑らせながら体勢を屈めると、魔杖バーソロンを見上げて睨む。


 浮いているヘルメは体と魔法の上衣から水飛沫を発している。

 両手の指からは蒼色と黒色に輝いている<珠瑠の花>の紐を宙空に展開させている。

 魔杖バーソロンの攻撃に備えて、黒猫ロロを守るつもりなんだろう。

 

 そのヘルメと黒猫ロロに、


「危険は承知。が、まだ魔杖バーソロンは壊さない」

「交渉して、魔杖バーソロンから情報を得るのですね」


 ヘルメは不安そうな表情を浮かべつつそう語る。

 〝列強魔軍地図〟に魔杖バーソロンが触れて魔力を送ってもらえば……。

 魔界王子テーバロンテと大眷属バーソロンの魔界セブドラでの位置が分かるんだが……。


「近くでコレを見るか?」

「あ、はい」


 少しキョトンとしたヘルメに向け、<破邪霊樹ノ尾>の樹で固めた魔杖バーソロンを近づけた。


 魔杖バーソロンを固めた<破邪霊樹ノ尾>の樹の表面は樹皮というよりも、ドラゴンの鱗を思わせる見た目。


 黒猫ロロは、その魔杖バーソロンを見ながら毛を逆立て「シャァァ」と怒ったように鳴いた。


 その鳴き声を翻訳すると『たおしてやるにゃぁぁ』といった気持ちの表れだろう。


 更に、ウィスカーパッドのひげ袋を膨らませながら、口から小さい炎を吐く。ひげ袋から生えた白髭がボボァと小さい炎の影響で揺れている。


 前足から爪が伸びて、地面にめり込ませていた。


 今にも飛び掛かろうとしている黒猫ロロに、


「相棒、落ち着け。今こいつを燃やすのはナシだ」

「にゃごぉ……」


 納得いかない鳴き声だ。ま、当然か、魔界王子テーバロンテの大眷属のバーソロンは邪教そのものだ。神獣として『汚物は消毒だ』の出番と考えたんだろう。そんな黒猫ロロに向け目力を強めた。


 黒猫ロロはリンクスティップの耳の先端に生えた毛を揺らしつつイカ耳を作ると直ぐに、


「ンン」


 と喉声を鳴らしつつ尻尾を左右に数回振る。

 相棒的には『不満にゃお』という気持ちだと思うが、黒色の瞳の散大さ加減で了承したと分かる。


 ヘルメは、魔杖バーソロンを見て、


「魔杖バーソロンの唇の形は奇妙です」

「あぁ、喋るつもりがあるからだと思う」


 そう言いながら、負担の大きい<超能力精神サイキックマインド>を解除――。

 代わりに、左手首の<鎖の因子>から<鎖>をじゃらじゃらと魔杖バーソロンに向けて伸ばし、樹で固めた魔杖バーソロンを<鎖>で雁字搦めにして拘束した。

 

「閣下」

「ん?」

「広場の中央……」


 と、ヘルメの双眸に釣られた。

 広場の中央にまだ残っている魔神具の残骸に視線を向ける。

 魔神具の残骸に残る魔力が石畳の溝へと煙が吸い込まれるように消えていく。

 

「あの魔神具が置かれてあった位置の地下に狭間ヴェイルが極端に薄い場所があるかも知れません。その場合は……」


 頷いた。


「地下は罠があるとして、狭間ヴェイルが薄いなら、ホルカーの大樹の神域力を吸い取っていた血印臓樹ガドセルのようなモノが地下にはあるかもだ……」


 無垢な女性たちの体で造った邪悪なモノが……。


「地下には罠の魔神具が設置されているかもしれません。バルミュグの死と連動しているのなら、既に作動している可能性も……」


 それは怖いな。


「罠の魔神具か……【血印の使徒】や【闇の教団ハデス】などもいるから罠も色々とあるかもしれない」

「はい。クレイン、キッカ、ヴィーネ、ユイと元【髪結い床・幽銀門】たちが下界の地下街アンダーシティで争った【血印の使徒】たち。その【血印の使徒】も【テーバロンテの償い】と同じく信徒の数が多い印象です。ルアルの血魔塔の前では吸血鬼ヴァンパイアとはまた違う独自の<血魔力>を扱う【血印の使徒】が多かった」


 頷きつつ足下を見回す。


「<血魔力>をブラッドマジックと呼ぶ時があるが、血魔術や血魔法という系統のスキルもあるかもだ」

「はい」


 ヘルメは双眸を刃を作るように鋭くさせながら魔杖バーソロンを見る。

 魔杖バーソロンは常闇の水精霊ヘルメを感知できるのか、唇の形が震えて、


「『……膨大な魔力を有した……精霊か?』」


 とヘルメのことを指摘。


「神意力を有した思念を寄越すバーソロン……わたしは常闇の水精霊ヘルメですよ。そして、閣下に怯えて従順なフリをしていると分かります。閣下の情報を得る以外に何を狙っているのですか?」


 ヘルメがそう指摘しつつ魔法の衣を消す。

 ヘルメの体から放出されていた清い泡沫が、魔法の衣が消えた影響で、ダイヤモンドダストのような現象を起こしていた。


 同時に広場に点在している魔法の光源に反射した細氷がキラキラと煌めく。

 その煌めきが、ヘルメの水滴の形が可愛い髪留めと肉体美を見事に照らす。


 岩群青色のコスチュームと張った大きい乳房といい、まさにグラマラス。


 その美しい常闇の水精霊ヘルメはキューティクルを保った綺麗な眉毛を逆立てるように厳しい表情を浮かべて魔杖バーソロンを睨む。

 

 ヘルメは、一気に水の女王、氷の女王の雰囲気を醸し出していた。


 魔杖バーソロンは、


「『アハハ、お前、この槍使いの大眷属か。不安ならば、さっさと我の魔杖バーソロンを破壊すればいいではないか。その破壊によって何が起きてもしらないがな……フッ』」


 思念を強めて脅してきた。

 魔杖を破壊したら爆発のようなことが起きる?

 

 それともハッタリか? 

 ま、それは置いておいて、意識と魂の区別は難しいが……ネドーの事件を思い出しつつ、


「この状況で俺を脅すとは、いい度胸だ。が、それよりも、お前の魔杖バーソロンが気になる。意識の一部が宿っていると語ったが、魔杖バーソロンは分霊秘奥箱のような物か?」

「『魂を利用した部分は共通している。が、否だ。我、魔杖バーソロンは、分霊秘奥箱のような秘宝の類いではない』」


 そう発言しつつ思念も放つ。

 しかし、思念は精神が圧迫されるようで不愉快だ。


 <血魔力>を外に飛ばしつつ、


「思念を外に飛ばすな、普通に会話をしろ。本当に壊すぞコラ」


 そう脅すと魔杖バーソロンは上部の唇の形をした部分を震わせ、


「分かった……」


 と発言。

 魔杖バーソロンは破壊されたくないようだが、演技ってことも考えられる。

 エヴァがいれば……<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>で心が読み取れるかもしれない。


 しかし、エヴァは魔塔ゲルハットにいる。この場にはいない。

 

「ネドーが大規模儀式に利用した分霊秘奥箱とお前の魔杖バーソロンは異なるか」

「……当たり前だ。バルミュグが防御と召喚に使っていたように、魔杖バーソロンは武器として運用されるものだ」


 頷いた。

 ユイが先程破壊した魔神具のほうが分霊秘奥箱に近いかな。

 そのバルミュグについて、


「バーソロン、お前はバルミュグに指示を出していたのか?」

「出す時もあった……我も質問がある」

「なんだ?」

「ネドー派についたケルヴェルたちを倒したのは、お前たちか?」

「血長耳の魔塔エセルハードに乱入してきた百足を使う蟲使いか。黄金魔虫を使う存在なら俺が倒した」


 そう言うと魔杖バーソロンは唇を震わせる。


「……やはり……」


 と発言。

 構わず、魔界セブドラのことを、


「魔界セブドラにいる魔界王子テーバロンテは、お前の本体の傍にいないのか?」

「……いない」


 ならば大眷属バーソロンの立場は予想できる。


「では、本体のお前がいる場所は、魔界のテーバロンテの領域を守る支城の一つだな?」


 魔杖バーソロンは唇の形を震わせ、


「……」

「沈黙は肯定と受け取る。が、次からの質問には沈黙するな」

「お前の読み通りだ。我は魔界王子テーバロンテ様の居城バードインを支える四大支城の一つバーヴァイ城にいる」


 予想は正解。


「話を変える。ネドーに協力したのはバルミュグの判断か?」

「そうだ。我も賛成した。ネドーはケルソネス・ネドー大商会を持っていたからな」

「その辺りの理由を教えてもらおうか」

「……ケルソネス・ネドー大商会が飼育していた血銀昆虫と、その血銀昆虫が紡ぐ銀の糸と、その銀の糸を活かした紡績製品は大金を生む。更に、紡績の貿易や薬品の貿易を隠れ蓑にした違法奴隷の人身売買を行うテンペスト大海賊団、ビヨルッド大海賊団、グレデナス大海賊団などは独自の人身売買のルートを持つから我らには好都合だった」


 たしかに俺たちが通ってきた【血銀昆虫の街】にはネドーが所有していた土地があった。路地と路地の間と大通りの近辺しか把握はしてないが、商店街などもあり、かなりの広さだった。


「……ネドーの権益を利用か」


 魔杖バーソロンは、


「……そうだ。評議院議長の権力者に貸しを作れば上界管理委員会も副議長共も【テーバロンテの償い】の人員を雇いやすくなる。我らの数は多いからな。更に、我も得が多い。ネドーが有していた無数の浮遊岩も利用可能となる。上院と下院の評議員共が所有する空戦魔導師を有した空魔法士隊も我らをそう簡単には排除できなくなる。更にネドー派に与する闇ギルドと同盟を組むことで、魔界を信奉するセナアプアに多い【闇の教団ハデス】と【血印の使徒】に【セブドラ信仰】など【闇の枢軸会議】の各諸勢力に対して牽制が可能となった。あやつらは我らの取り引きにも何かと介入しようとしてくるからな。しかし、下界管理委員会と【義遊暗行師会】に【白鯨の血長耳】や【魔塔アッセルバインド】などの諸勢力は邪魔だった。我らの権益を何十と阻害し、我らに多大な損害を齎した……」

「最後は今さらだな」

「分かっている。ネドーが死に、その一派もほぼ壊滅、更に今回の事件で眷族のバルミュグも死んだ。【テーバロンテの償い】の塔烈中立都市セナアプアの下界の権益は消えたと言っていいだろう」

「他のネドー絡みの説明を頼む」

「ネドーが持つケルソネス・ネドー大商会と【テーバロンテの償い】の【魔の扉】が組むことにより、セナアプアの役人、評議宿、他宗教組織、闇ギルド、大海賊、ハイゼンベルク商会と他国の権力者と官僚組織にも【テーバロンテの償い】の融通が利くようになったのだ……ピラタド大商会連合組織とカミホハド魔薬カルテルなどの連合相手にも余裕で対抗できる商売規模となった」


 納得だ。間を空けた魔杖バーソロンは、


「お陰で、世界各地から強引に獲得してきた生贄用奴隷の確保と管理がし易くなった。その捕まえた奴隷たちの体を活かした人魔薬レムヒン・シリーズの製作と、〝死蝕天壌の浮遊岩〟で採れる植物のアクイド、ベアドヌイ、レクィネ、ヒギモリィン等を活かした魔薬作りもスムーズに行えるようになり、我ら【テーバロンテの償い】の【魔の扉】は、アクイド魔薬とベアドヌイ魔薬にレクィネ魔薬、ヒギモリィン魔薬の供給元として、下界における魔薬の流通網を独占できた。更に、それらの魔薬を融合させた特殊魔薬レムヒンマリオンは我ら独自の魔薬として市場を完全に独占、我らに多大な利益を齎したのだ。が、各評議員の商会が独自に販売転売する合成魔薬クリスタルメス系統の魔薬を買う連中の客を奪ったことになった故、一時は、その各評議員が持つ闇ギルドと争いになったが、軍産複合体と繋がりが深いネドー派のお陰で事なきを得ていたのだ」


 合成魔薬クリスタルメスの争いか。

 地球でもコカインなどの麻薬の争いは酷い。

 そして、ネドー派といっても上院と下院の評議員は多い。

 それらの評議員が独自に持つ商会と闇ギルドも無数で、評議員ごとに魔薬や違法の奴隷商売をやっていたのなら、【白鯨の血長耳】も早々に手が出せないわけだな。


 それにしても……〝死蝕天壌の浮遊岩〟? 

 特殊魔薬レムヒンマリオンとかも聞いたことがない。

 

 キサラやユイにクレインたちからも聞いていない。

 とりあえず、


「〝死蝕天壌の浮遊岩〟とやらは聞いたことがない。詳しく説明してもらおうか」

「ネドーが隠し持っていた〝死蝕天壌の浮遊岩〟は、長らく情報統制されていた。下界の【血銀昆虫の街】でも『劣悪な環境で資産価値の低い浮遊岩の一つ』と言われていたのだ。上界の者なら知らないのも無理はない。が、実はその〝死蝕天壌の浮遊岩〟の価値は高い。自然豊かな環境と劣悪な環境を併せ持つ浮遊岩で、その環境でしか育たない特殊な植物と魔微生物にレアな幻獣とS級モンスターが多く棲息しているのだ。そして、我は知らぬが迷宮と古代遺跡もあるとされている」

「へぇ……」


 レアな植物に幻獣とS級モンスターが棲息している〝死蝕天壌の浮遊岩〟か……。

 更に迷宮と古代遺跡があるとか、驚きだ。

 

「ネドーが有していた資産価値の高い〝死蝕天壌の浮遊岩〟か。それは下界の空に浮いている浮遊岩なんだよな」

「そうだ。【血銀昆虫の街】の上空に浮いている浮遊岩の一つが〝死蝕天壌の浮遊岩〟。今は、我らが所有している!」


 魔杖バーソロンは自慢そうに語る。

 

「我ら?」


 と呟きながら魔杖バーソロンを相棒の傍に動かす。

 

「ンン、にゃお~」


 魔杖バーソロンの唇の形をした上部に、黒猫ロロが爪を当てていた。


「……そ、そうだな。我らは敗北した。だから、〝死蝕天壌の浮遊岩〟はお前たちの物になるだろう」


 その〝死蝕天壌の浮遊岩〟を見ようと見上げた。

 下界の空は赤茶色の雨が分かる程度に暗い。

 上界の巨大浮遊岩の下部から下に伸びている縦長の魔塔も多いし、浮遊岩も多いから〝死蝕天壌の浮遊岩〟がどの浮遊岩なのか分からない。

 

 ヘルメが、


「上院評議員議長だったネドーは【白鯨の血長耳】のエセル界の権益に負けないほどの資産価値の高い浮遊岩を有していたのですね」


 頷いた。

 魔杖バーソロンは、


「そうだ! 対外的に塔烈中立都市セナアプアを支配していると呼ばれている【白鯨の血長耳】も、この下界では一部の領域を確保しているに過ぎなかったのだ!」


 と、偉そうに発言。

 レザライサがいたら魔剣ルギヌンフで斬られていたかもしれない。


 そんな魔杖バーソロンに、


「……知っているかもしれないが、そのネドーは欲の権化。バルミュグや邪教の者を含め【塔烈中立都市セナアプア】の大量の民たちを生贄に利用して、その魂を糧に、己の死をも利用して、魔人転生を試みた老人だ。実際、三つの浮遊岩に暮らしていた民が犠牲になった。そんな存在に魔界王子テーバロンテの眷属が手を貸していたとはな?」

「……不愉快だが、その通りだ。ネドーめが……彼奴のせいで、魔界の魔元帥級のラ・ディウスマントルが復活し、【血印の使徒】が大いに活性化した。あの時は【テーバロンテの償い】も歯がゆい思いだった」


 魔杖バーソロンがそう発言。

 魔界王子テーバロンテの大眷属にそう言わしめたネドー……。


 ネドーは、部下の空戦魔導師か、秘宝のアイテムを用いたのか不明だが、己の魂を分割し、その分割した己の魂を分霊秘奥箱に入れることが可能だった。

 

 その分霊秘奥箱には己の分割した魂の他にも暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーと魔元帥級のラ・ディスマントルと鬼婦ゲンタールの魂も入っていたことになる。

 それらの魂と己の死をも贄にした大規模儀式で魔人転生を謀ったネドーはとんでもない爺だ。

 

 ソルフェナトスも……。


『ネドーの狙いは強力な魔人へ転生しての復活。それも尋常ではない〝魔王錬成〟と呼ぶべきとんでもない儀式だったんだよ』


 と語っていた。


 さて、その件ではなく……。

 ユイが聞いておいてと言っていたことを聞くか。


「……話を変えるが、お前が魔神具の破壊を防ごうとした理由は?」

「魔界王子テーバロンテ様の眷属バルミュグの〝魔の扉・陰大妖魂吸霊の儀式〟は、まだ実行中だったからだ……」


 中断されていなかったのか。


「戦い死んだ戦闘奴隷たち以外にも、【白鯨の血長耳】の兵士たちや、バルミュグを含めた【テーバロンテの償い】の【魔の扉】の連中の魂をも、お前らは得ていたんだな」

「そうだ! 魔界セブドラにいる魔界王子テーバロンテ様と我は負の感情を抱いて死んだ者たちの魂と魔素を〝陰大妖魂吸霊具〟を通して得ていたのである!」


 癪に障る喋りだが、我慢。


「お前の魔杖と〝陰大妖魂吸霊具〟は、狭間ヴェイルを越えるための楔の機能も有している?」

「その通り……」


 魔神具の残骸を見ながら、


「……あの広場に設置されていた魔神具の〝陰大妖魂吸霊具〟の真下の地下空間には、何があるんだ?」

「……」


 沈黙する魔杖バーソロン。

 拘束している<鎖>の締め付けを強めた。

 <破邪霊樹ノ尾>の樹に亀裂が入って少し削れた。

 魔杖バーソロンの一部からピシッとまた破裂音が響く。


「……沈黙は止めろと言ったはずだが?」

「わ、分かった。お前たちの言う通り、地下には……【魔の扉】と呼ばれている地下祭壇がある……」

「支部の名が付く地下祭壇か……狭間ヴェイルが極端に薄い場所で、その地下には、〝陰大妖魂吸霊具〟とお前が連動している大切な物があるのか?」

「……そうだ」


 ヘルメが心配していたが、罠だとしても、地下にも行くべきか。

 また話を変えて、


「バルミュグが俺たちに繰り出そうとしていた奥の手の必殺技は、バーソロンか魔界王子テーバロンテの力を利用したスキルか?」

「当たり前だろう……バルミュグは魔界王子テーバロンテ様の末端の眷族で輩……が、お前と、あそこの魔界騎士級の戦闘能力を持つ骨騎士の能力の高さを侮った……」


 魔杖バーソロンの言葉を聞いた魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは嬉しそうに鎧の節々から魔力を噴出させる。


「……バルミュグの奥の手は百足に変身とか?」

「……その通り、<百足魔人・第二形態>、<百足魔人・第三形態>などのスキルを持ち、分岐したスキルは豊富にあった」


 バルミュグの体の内部には不思議な百足がいたからな。


「へぇ」


 すると、レベッカも寄ってきた。

 そのレベッカが、


「バルミュグの討伐おめでとう。エヴァたちに血文字で連絡したから。あと、その拘束している魔杖バーソロンは破壊しないでも大丈夫なのよね? 邪神ヒュリオクスの使徒だったパクスのような蟲が……どばぁっと一気に出現してきたら嫌なんだけど……ゴキちゃんとか大っ嫌いだし……」


 そう発言しながら虫の死骸に小さい蒼炎弾を放って燃やしていた。

 レベッカ的に、魔界王子テーバロンテの大眷属バーソロンを虫の怪物と認識しているようだ。


「今は大丈夫、だと思う。しかし、地下祭壇には何か秘密がありそうだし、その地下祭壇で、奇怪な虫が大量にどばぁっと出てくる可能性は否定できない」

「う……」


 レベッカは渋面となるが両腕でスペシウム光線を出すようなポージングを作る。

 リアクションが面白い。その細い両腕の表面に蒼炎が走った。

 

 少し驚いていると、ニコッと微笑んだレベッカはそんなポーズのまま、


「魔塔がいっぱい備えられた重厚な城のような施設で、【血銀昆虫の街】だからね……ありえる」

「あぁ」


 レベッカも頷き、両腕のポーズを解いて、視線を上げていた。

 

「あと、ここは監獄施設にも見えてくる……」

「たしかに、張り出し櫓と張り出し狭間が庭、広場側にもあるからな」

「うん」


 四方の壁と壁の上の歩廊もそんな印象だ。

 俺も周囲を見渡した。


 中央の奥には、漆黒のローブを着た者はまだ多い。

 が、広場の左右にいた漆黒のローブを着た者の数はかなり減った。

 すると、左右の壁際にいたアクセルマギナと魔界沸騎士長ゼメタス&アドモスとユイが中央奥の戦いに参加しようと、駆けているのが見えた。

 

 ユイたちは、左右の壁と壁の間にあるだろう通路と、通路を進んだ先にある施設内部の敵を倒したのかな。それともある程度倒して戻ってきたのか。

 

 その広場の奥の中央ではクレイン、レザライサ、カリィ、レンショウ、カットマギーと【白鯨の血長耳】の兵士たちが【テーバロンテの償い】の漆黒色のローブを着た者たちと争っている。


 レベッカは、再び背後の門長屋から次々と【白鯨の血長耳】の兵士たちが入ってくるのを見てから、


「門長屋の周囲はほぼ制圧したとして、前と左右の歩廊にはまだまだ敵が多いようだけど……」

「あぁ、【魔の扉】の殲滅を続けよう」

「うん」


 皆と一緒に周囲を見ながら、中央奥に再び視線を向けた。

 その最奥の魔塔を守る漆黒のローブを着た連中を倒しまくっているクレインとレザライサが頼もしい。


「クレインとレザライサさんと時々打ち合っている漆黒のローブを着た強者もいるけど、一階の領域のすべてを占拠できるのは時間の問題かな」

「あぁ、にしても、退かない連中だ……」


 バルミュグを討ち取った報告は響きまくっているが……。

 【テーバロンテの償い】の連中は退かず。


 レベッカも頷きながら憂い顔となって、


「うん。闇ギルドの場合は逃げる者も多少は現れるけど、【テーバロンテの償い】の漆黒のローブを着た者たちは逃げることがない。目も怖いし、虫好きだし、狂信的に向かってくるから、ちょっと怖いわ」


 そう発言。

 蒼い瞳も少し震えて見えた。

 すると、右斜め前の歩廊から、【白鯨の血長耳】の人員と漆黒のローブを着た者が縺れながら落下したのを把握。


 庭を囲う壁の上に続く歩廊と魔塔のような隅部城塔の数は多い。


 クレインが一つの隅部城塔を落とし、歩廊を【白鯨の血長耳】の兵士たちが占拠したようだが……。


 今でも他の歩廊と隅部城塔では戦いが続いている。

 歩廊と隅部城塔の戦いを見ていたレベッカが城隍神レムランの先端を上げて、


「シュウヤ、わたしも歩廊の上に行くべきかな?」

「歩廊と隅部城塔を守る部隊はクレインも苦戦した存在がいる。他にもいるかもだから、レベッカは無理しないでいい。どうせならヘルメに向かってもらうとしよう。レベッカは助けた戦闘奴隷の守りを頼む」

「……うん」

 

 レベッカは四方の歩廊の戦いを見て不安そうな表情を浮かべていたが、直ぐに表情を切り替えて、助けた方々を見る。


 そんなレベッカに歩み寄った。

 細い手を握って、レベッカの腰に反対の手を回し体を抱き寄せる。


「あっ」


 レベッカをハグ。

 細い体を優しく抱きながら……。

 シホと呼ばれていた女性剣士などの助けた戦闘奴隷を見た。

 

「ふふ、温かいシュウヤ……」

「レベッカ――」


 長耳にキスしてから頬にも素早くキスを行う。

 そうしてから身を退いた。

 

「ぁぅ……」


 レベッカは嬉しそうな声を発し、指で頬を触る。

 少しボウッとしてから、潤んだ瞳で俺を見た。

 頬と首に長耳を朱に染めていく。


 が、突如、キリッとした表情を浮かべて、


「……もう! キスをやり返したいのに!」


 そう発言。

 可愛いレベッカの反応だ。

 自然と笑顔を浮かべつつシホと戦闘奴隷の方々を見ながら、


「なぁ、戦闘奴隷たちをパレデスの鏡を使い、魔塔ゲルハットかサイデイルに送るか?」

「あ、それはいいかも」

「戦闘奴隷たちは味方だと思いたいです。しかし、まだ不透明です」


 ヘルメがそう発言。


「それはそうだな」


 シホと呼ばれていた女剣士には首輪も痣もない。

 実は【白鯨の血長耳】と【天凛の月】の敵側の闇ギルドの人員とか? 大海賊の人員や盗賊ギルドの特殊工作員を兼ねたサーマリア王国の関係者かもしれない。


 サセルエル夏終闘技祭にも隻眼の店主センチネル・ヴァルキュリアがいた。

 どことなく懐かしさを覚える緊張感は忘れられない。

 

 そのセンチネル・ヴァルキュリアは、ただのランターユ焼き売りの商人ではない。

 そんな俺と黒猫ロロを知っていた謎の存在もいたからな……と思考していると、レベッカが、


「その可能性は否定できない。けど、互いの命を奪うように仕向けられた方々が大半で、【剣団ガルオム】と似た過去を持つ戦闘奴隷たちだと思うわよ。無害だと思う」

「はい。無害だとしても現状は不明なことが多い。そして、ゲルハットに送る場合、わたしも一緒に戻りましょう」


 ゲルハットには、シウたちもいるからな。


「今送るのは止めておこう。今は【テーバロンテの償い】の【魔の扉】を潰すことが先決だ」

「はい」

「そうね。フランさんのような工作員の可能性はだれにでもありえる。ここを完全に落として、状況を把握してからでも遅くはない」


 レベッカもヘルメの意見に乗った。


「ン、にゃ」


 相棒も賛成したようだ。

 と思ったが、レベッカの細い足に頭部をぶつけて甘えただけかな。


「それじゃ、俺は……」


 中央の奥の戦いをチラッと見た。


 <筆頭従者長選ばれし眷属>のユイとクレインが圧倒的な強さで敵を薙ぎ倒している。

 

 レザライサと魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスも目立つか。

 次点でカットマギーかな。


 カリィとレンショウと元【髪結い床・幽銀門】も強いことは強い。が、ユイとクレインと対峙した漆黒のローブを着た者の散り方のほうが凄まじい。


 さて、その中央の奥の戦いはバルミュグのようなモノがでない限り大丈夫なはず。


 歩廊の戦いが激しい場所を探す……。

 左斜め上の歩廊の【白鯨の血長耳】のメンバーが手薄かな。

 歩廊の要所に設けた櫓的なモスクにも見える各魔塔には【魔の扉】の幹部と部隊が大量に控えていたようだ。

 

 そして、港と通じている船渠を有した地下施設の占領は完了しているのだろうか。


 大海賊と【テーバロンテの償い】の船の一部は【白鯨の血長耳】の幹部の部隊が占領したようだが……。


「それじゃ、レベッカとヘルメ、俺は相棒を連れて、歩廊と櫓の敵を倒してくるとしよう。あとで血文字で連絡するからユイとクレインにも知らせておいてくれ。魔界沸騎士長たちには頃合いを見て魔界に帰ってもらうか、地下の途中で合流しよう。と伝えておいてくれ」

「まかせて、伝える。奥の敵を倒したら【白鯨の血長耳】の各隊長さんたちも集まってくると思うから、そしたら、わたしがゼメタスとアドモスに伝えて、一緒に地下に向かうかも」

「分かった。その辺りの判断は任せよう」

「閣下、わたしも出撃します。閣下とは逆の歩廊を進出し、櫓と隅部城塔を潰します」

「おう、任せた」


 ヘルメは飛翔――。

 <鎖>を引いて、魔杖バーソロンを持ち上げた。


「魔杖バーソロン。歩廊と隅部城塔へ通じる地下に誘導してもらうぞ」

「……ワカッタ」


 魔杖バーソロンの発音が少し変化した。

 地下祭壇は罠があるとは思うが……。

 

 どんな罠があろうと、この施設を完全に把握しなければ【塔烈中立都市セナアプア】に平和は訪れない。


 そう思考しつつ相棒とアイコンタクト。

 【白鯨の血長耳】が手を焼いている歩廊に視線を向けた。


「ンン」


 と返事を寄越す黒猫ロロに視線を戻す。


 黒猫っぽさが残る黒豹で、体格を大きくさせた。

 ゴルディーバの里の頃に見せていた頃の魔獣の姿に近いか。


 昔、大牙狼グレートエストと頬を擦り合わせていた。


 頭部の鼻骨と切歯骨に下顎骨は、犬か狼に近い形だ。 

 ま、神獣と言えばそれまでだが。


 魔獣の狼に近い頭に、首の毛はグリフォン的。

 そんな神獣ロロディーヌは凜々しくて渋くて格好良い。


 その神獣ロロとタイミングを合わせるように、俺から見て正面の歩廊へと共に跳躍を行った。


 上空で足下に<導想魔手>を生成し、それを蹴る。

 斜め横に方向転換しつつ歩廊に向かう。

 <導想魔手>をまた足下に生成。

 その<導想魔手>を蹴って、更に高く跳ぶ。

 <鎖>で拘束したままの<破邪霊樹ノ尾>で囲う魔杖バーソロンは揺れている。その<鎖>を収斂させて、右手に魔杖バーソロンを掴んだ。

 すると、ジュッと蒸発したような音が<破邪霊樹ノ尾>の樹が削れている箇所から響く。


「……なんだ、その右手のグローブは……」

「気にするな。光属性をもっと浴びたいのか?」

「チッ」


 気にせず、歩廊を見る。

 【白鯨の血長耳】の兵士と争う漆黒色のローブを着た連中の中心にいる重厚な灰色の鎧を着た魔界騎士風の存在は強そうだ。


 灰色の鎧を着た者が前進しながら振るった幅広な大剣と片手半剣の連続斬りが、【白鯨の血長耳】の兵士の三人の頭部と腹に決まる。

 

 三人の体が四方に飛んで歩廊の壁に火花のように散った。

 灰色の鎧を着た者は、片手半剣の血を払いながら、大剣を盾にしつつ半身の姿勢で後退。

 複数の短剣と矢が大剣と衝突しているが、ほぼ無傷だろう。

 灰色の鎧が渋い二剣を扱う剣師は櫓の内部に戻った。


 そして、櫓の内部で待機していた漆黒色のローブを着た盾持ちと射手連隊たちが前に出た。

 盾を構えた隙間から複数の矢が歩廊側に射出される。


 歩廊側の【白鯨の血長耳】の数人の兵士たちの体に、その矢が突き刺さりまくった。

 その櫓の屋根に向け――右手首から<鎖>を射出――。 


 先端を屋根に刺してから<鎖>をぐわりと回し、屋根を一周させて<鎖>を絡ませてから<鎖>を収斂させた。

 一気に櫓の屋根に両足を乗せて着地――。


 櫓の中にいる何人かは俺に気付いただろう。


 しかし、


「ンンン、にゃごお~」


 分かりやすく空から叫ぶロロディーヌがいた。


 俺から見て斜め下の歩廊に向かう神獣ロロは――。

 櫓から歩廊側にいる漆黒色のローブを着た者たちを狙う。

 

 一人の漆黒色のローブを着た者の頭部を踏みつけてから宙を跳ぶ。

 神獣ロロは宙空で反転しながら体から無数の触手を繰り出した。

 

 無数の触手から出た骨剣が、櫓から歩廊側に出ていた漆黒色のローブを着た者たちの体に突き刺さった。


「「「ぐぁぁ」」」


 神獣ロロは複数の漆黒色のローブを着た者を倒すと歩廊に着地。


 己の体に風を孕むような勢いで無数の触手を収斂させていく。


 同時に体からオーラのような橙色の魔力を噴出させていた。


 渋い。

 ロロディーヌを見ながら掌握察でしっかりと櫓の内部を把握。


 ここらで<血道第四・開門>の<霊血の泉>を使うかどうか考えたが、まぁ、まだ止めておこう。

 無駄に吸血鬼ヴァンパイアを呼ぶようなことはしないほうがいいだろうからな。


 すると、櫓側から、


「「新手は獣だと……」」

「……黒い魔獣」

「クモラギ隊が倒された……」

「クソが……」

「構うな、【テーバロンテの償い】のために!」

「テーバロンテ様に、あの黒い肉と魂を捧げよう!!」

「おう!」

「「あの神界セウロスを思わせる異質な魔力を発している黒い獣をやれぇぇ!」」

「「「おおぅ!」」」


 櫓の中から歩廊側に出た漆黒色のローブを着た者たちは、黒虎にも見えるロロディーヌに向かう。


 漆黒色のローブを着た者たちの先頭部隊は盾持ちが並ぶ。


 そんな部隊を待ち受ける神獣ロロディーヌ。


「ガルルゥ――」


 唸り声を発して、魔雅大剣を持つ触手を直進させた。

 魔雅大剣は盾持ちの漆黒のローブを着た者の盾を貫き、その盾を持っていた腕をねじ曲げながら脇腹を貫通し、背後の魔術師の腹と剣士の腹を貫いて三人を倒し、周囲の者を吹き飛ばした。


「この獣がぁぁ――」


 神獣ロロを狙う射手に向け魔法のフォローを考えたが、神獣ロロは素早く右斜め前に駆けた。

 横の低い壁を蹴って斜め上に跳び複数の矢を躱す。

 そして、宙空で身を捻り翼を生成し飛翔速度を上げて歩廊を旋回した直後、歩廊側へと直進し、低い壁を四肢で捕らえ、その壁を蹴って翼を格納しつつ体を小さい黒猫に変化させると、慣性のまま着地して一気に体を黒豹の大きさに戻していた。


 黒豹ロロディーヌは狩りの姿勢となった。

 獲物目掛けて、しなやかな速度で歩廊を駆ける。


 近くにいた漆黒色のローブを着た者に向かう。

 爪を出した両前足を見せるように、漆黒色のローブを着た者に飛び掛かった。


「ひゃぁぁ」


 悲鳴を発する気持ちは分かる。

 その悲鳴を発した魔術師の頭部に喰らいついたロロディーヌは、魔術師の体を蹴り上げ後転。

 そのまま魔術師の頭部ごと脊髄をぶっこ抜いて倒すと、その頭部を炎で溶かすように燃やしつつ歩廊を駆けた。


 【白鯨の血長耳】側に走り戻った。

 

「くそがぁぁ!」

「あの黒い獣を追えぇぇ!」

「「「おう!!!」」」


 櫓の内部にいた漆黒色のローブを着た者たちが、一斉に歩廊側に出て、逃げたようにも見える神獣ロロを追う。


 ――相棒、ナイスだ。


 その間に櫓の中に突入しよう。


 白蛇竜小神ゲン様のグローブで握っている魔杖バーソロンを左手から出ている<鎖>で拘束し直しながら、櫓の屋根から跳んだ。


 宙空で<闘気玄装>を強める。

 そして、<導想魔手>を足下に生成。

 その<導想魔手>を蹴って櫓の二階に突入した。

 

 櫓の二階の天井はそんな高くない。

 【魔の扉】の幹部と目される灰色の鎧を着た二剣使いは奥にいる。大剣と片手半剣持ちだ。

 が、まずは手前の漆黒色のローブを着た魔剣師を狙う。

 ――<水神の呼び声>を発動。

 ――血魔力<血道第三・開門>。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動。


「――うな!?」


 <血魔力>と<闘気玄装>と<龍神・魔力纏>の加速はかなりの速さだ、相手は反応はしているが、動けていない。


 瞬時に、右手の白蛇竜小神ゲン様のグローブを短槍に変化させる。

 と同時に右足の踏み込みから左手に召喚した雷式ラ・ドオラで魔剣師の胸を狙った。

 ――<血穿>を繰り出す。

 輝く血が覆う雷式ラ・ドオラの杭刃が魔剣師の胸を貫く。

 魔剣師は「うがぁ!」と叫び前のめりに倒れながら絶命。


 その貫いた魔剣師の背から血飛沫が迸った。

 すると、倒れた魔剣師の右斜め後方から短剣が血飛沫を抜けるように二つ、三つ飛来。


 白蛇竜小神ゲン様の短槍を微かに上下させて、三つの短剣を柄で弾く。


 刹那、濃厚な殺気を感知――。


「<魔功灰大突剣>――」


 灰色の鎧を着た二剣使いが、短剣使いの前に出ながら大剣を突き出してきた――。


 ――疾い。


 <仙魔・暈繝うんげん飛動ひどう>を実行――。


 分身を発生させるように加速しながら右斜め前に出て<魔功灰大突剣>を避けた。


 そこに短剣使いが俺の首を狙うように短剣の刃を突き出してきた。


 斜め前に出した雷式ラ・ドオラの柄でその刃を受け流しつつ、右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍で迅速に反撃――短剣使いの腹を狙う。

 右腕が切っ先になったが如く<白蛇穿>を繰り出した。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍から白蛇竜の幻影が発生。

 更に、白蛇竜の頭部の幻影が杭刃を覆うと、そのまま杭刃は短剣使いの革鎧ごと腹をぶち抜いた。


「ぐあぁぁ」


 吹き飛ぶ短剣使い。が、左から、


「<魔功灰大回斬>――」

 

 とスキル名が谺した。

 同時に大剣の刃が左から迫る。


 俄に白蛇竜小神ゲン様の短槍をグローブに戻しながら、左手が握る雷式ラ・ドオラを横に構えて<魔甲灰大回斬>を受けた――。


 雷式ラ・ドオラの柄から火花が散る。


 衝撃で右に飛ばされたが、白蛇竜小神ゲン様のグローブを着けた右手で床を叩く――。


 強引な反動力を得た俺は斜め上へ跳び、そのまま低空で体を捻り、横回転させながら――。


 灰色の二剣使いに低空から近付いた。


 魔杖バーソロンを拘束している<鎖>の一部が体に絡むが構わない――。


「くっ、なんて機動力――」


 二剣使いの獅子冑から声が響く。冑の庇から覗かせる赤い光芒を見ながら――。

 白蛇竜小神ゲン様のグローブを短槍に変化させ、その白蛇竜小神ゲン様の短槍で<白蛇竜異穿>を繰り出した。


 灰色の二剣使いは、大剣を手放した。

 両手持ちに移行させた片手半剣を斜めに掲げて、白蛇竜小神ゲン様の短槍の<白蛇竜異穿>を防ごうとしてくる。

 

 その直後――。


 白蛇竜小神ゲン様の短槍から白蛇竜の魂魄を宿す魔刃が放出。

 その幾つかの魔刃は片手半剣と衝突するが、片手半剣を抜けて灰色の獅子冑と灰色の獅子鎧と連続衝突していく。

 

 白蛇竜の魂魄を宿す魔刃が獅子冑と獅子鎧を貫いて破壊。

 血濡れた白銀の髪と頭部が露出。

 前頭部に小さい角が生えていた魔族は、額から血を流した。


「ぐっ」


 くぐもった声を発し、苦悶の表情を浮かべながら体勢を屈めた。


 その魔族の右肩に白蛇竜小神ゲン様の短槍の<白蛇竜異穿>の穂先が突き刺さる。


 魔族は、


「ぐあぁ」


 と悲鳴を発しながらも肩を引く。

 赤い双眸と体の刺青から獅子の顔を持つ魔力を噴出させた。

 魔族は肩が抉れたが、迅速に片手半剣を片手で振るい上げてきた。

 俺の着地際を狙うかのような、その振り上げられた刃に、雷式ラ・ドオラの穂先を当て――片手半剣の攻撃を防ぎながら――魔族の肩を貫いた白蛇竜小神ゲン様の短槍を瞬時にグローブに変化させる。


「!?」


 驚愕顔の魔族。

 右足で着地、左手が持つ雷式ラ・ドオラを引き、鋼の柄巻のムラサメブレード・改をグローブを着けた右手に召喚――。

 そのムラサメブレード・改に魔力を通しつつ引いた雷式ラ・ドオラで<刺突>を繰り出した。


 左腕ごと真っ直ぐ突き出た雷式ラ・ドオラから水を帯びた<血魔力>が散る。


「まだだッ<魔功灰・亜力>――」


 と雷式ラ・ドオラの<刺突>に反応した魔族は、雷式ラ・ドオラの<刺突>を右腕に残っていた籠手で受け止めて防御。


 赤い双眸をギラつかせた魔族は、


「<魔功灰・斬肢>――」


 片手半剣を迅速に振り下ろしてくる。

 

 <戦神グンダルンの昂揚>を発動した。

 頬のアタッチメントが熱を帯びるのを感じつつ――。

 右手のムラサメブレード・改で<超翼剣・間燕>を繰り出した。


 <銀河騎士の絆>を感じると、幽体の銀河騎士の幻影が俺から出現。


 その幽体の剣の動きを追うように――。


 ブゥンと音を響かせた青緑色のブレードが、魔族が振るい下げた<魔功灰・斬肢>の片手半剣の刃を弾く――。


 と、青緑の色のブレードが魔族の体の表面に次元翼を描くように魔族の体を一瞬で斬り刻んだ。


 刹那、


『超翼ヲ、延バシ、間断ナク、銀河騎士ヲ、斬ル』


 と思念の声が聞こえた。


 切断された魔族の体は散る。

 肉片が二階の櫓の内部と衝突。


 ――よし!


 灰色の鎧が渋かった魔族を倒した。


「ハルホンク、大剣と片手半剣を回収するぞ――」


 床を転がるように片手半剣を掴みハルホンクの防護服に片手半剣を当てた。


「ングゥゥィィ――」


 大剣も掴むと同時にハルホンクが仕舞う。


 歩廊側の戦いも、神獣ロロディーヌの活躍で、勝利した【白鯨の血長耳】の兵士たちが掛け声を発していた。


 櫓の二階から飛び降りて、歩廊に着地。


「「おぉぉ」」

「【血月布武】!!」

「【天凜の月】の盟主は強い!」

「にゃお~」


 鳴きながら相棒も俺の足下にくると頭部を寄せてくるが、「にゃご!」と鳴いて<鎖>にぶら下がっている魔杖バーソロンに前足を当てていた。


 魔杖バーソロンは、


「……魔人ガエソを倒すか……」


 そう呟くと、


「……地下祭壇は、そこの櫓の地下階段からも行ける」


 と発言。


「聞いたなロロ、地下に向かうぞ」

「にゃ」


 そして、


『皆、庭から右側の歩廊と櫓を落とした。この櫓と壁の内部には階段があるようだから、このまま地下祭壇に向かう。進みながら<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を行うから、各自突破次第、俺の匂いを辿れ』

『『『了解』』』

 

 そう血文字を送ってから、


「【白鯨の血長耳】の皆、俺は地下に向かいます。では――」


 と、歩廊と地続きの櫓の内部に突入。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る