九百八十三話 押し通る【血月布武】の槍使い

 

 正面の門長屋を擁した大きな門は開いたまま。内部に落とし格子があると分かる。

 屋上は奥にあるだろう魔塔の外壁と地続きで、俺たちのいる通路と正面口を見渡せる狭間胸壁と歩廊と繋がっていた。内部には城のホールのような場所と城壁のような壁に囲まれた中庭もありそうだ。

 正門の左右の壁の上のほうには、鉛で補強された雨水を排出させる雨樋が下のほうの埋み門のところにまで続いて、隅部城塔のような魔塔が端のほうにある。

 

「門が開いた状態、屋根と左右の桟座敷も怪しい。港に向かう通路には敵はいないようですが、少し下がりますか? 射手と魔術師or魔法使いの一斉挟撃の可能性もあります」


 魔弓ソリアードがそう発言。

 魔塔と地続きの門長屋があるから十字路と呼べる。

 後方から兵が来たら十字砲火も可能。


 レザライサは余裕顔だ。

 そんなことは理解しているといった顔付き。

 まぁ、当然か。

 数百年~千年の間ずっと戦場を駆けていたんだ。

 こういった状況は数百と経験済みだろう。


 そのレザライサが、


「横と背後はたしかに我らを突ける位置、が、下界兵長ベベサッサ隊などが【魔の扉】と【テーバロンテの償い】の連中の船を押さえたのだ。そして、我らには推進力が異常に高い猛将と呼べる槍使いがいる」

「「はい!」」

「「「ハッ」」」


 レザライサは俺をチラッと見てから頷く。

 と、ソリアードとエキュサルさんに、


「槍使いたちの突破力を活かす。我らは慌てず横と背後を気にしていればいい」

「「ハッ」」


 エキュサルさんの隊とソリアードの隊は左右に移動する。

 レザライサは、


「……槍使いと【天凛の月】の皆は【魔の扉】の根城の魔塔の正門を突破し広場に先に突入しろ。そのままバルミュグを潰すのだ!」

「了解した」

「「「「了解」」」」

「うん」

「……了解♪」


 カリィは愛用の短剣をくるくると掌で回しながら、殺気を込めて承知していた。


 怖いぞカリィ。


 すると、大きな門の門長屋にあった内扉が開く。

 そこから魔剣師と魔法使いたちが現れた。


 狭間胸壁と歩廊からも射手が現れる。

 クロスボウとロングボウ持ちだ。

 魔法使い&魔術師もいるようだ。


 やはり、城門と同じように大きな門と地続きの門長屋は兵士の詰め所でもあったか。

 地下には貯蔵庫などもありそうだ。

 更に門の奥の広場から無数の足音が響く。

 ドラのような魔音と甲高い笛のような魔音も不思議なエコーがかかって轟いてきた。


 大きな門の先に拡がる広場から、門長屋の通路を通ってきた黒のローブを着た連中は、魔剣師と魔法使いたちと門の外で合流すると、俺たちの前で動きを止めた。


 兵法三十六計の空城の計ではないようだな。


 三方ヶ原の戦いで武田信玄に敗れた徳川家康が浜松城の門を開けて用いたような心理戦を想像していたが……。


 まぁ、飛行術などの魔法が発展しているセナアプアや、この惑星セラでは、その戦術もあまり意味がないか。


 正面に集結した魔剣師と魔法使いたちは揃いの衣装が多い。【テーバロンテの償い】の支部組織か不明な【魔の扉】の精鋭部隊かな。手練れが多くいる印象だ。


 その手練れの中央にいる白い帽子を被った魔剣師は数歩前に出て俺たちを睨むと、


「【白鯨の血長耳】と【天凛の月】だな……」


 と呟くように聞いてきた。素直に、


「そうだ」


 そう答えると――。

 敵側の魔剣師と魔法使いたちは魔剣と魔杖を俺に差し向ける。


 正門の真上、俺たちの位置から斜め上の狭間胸壁と歩廊にいる射手と魔法使いと魔術師たちからの攻撃はない。


 白い帽子を被っている野郎の虹彩が煌めいた。


 その双眸から黄緑色の魔法陣が発生。


 怪光線とか放つ?

 その白い帽子の男が漆黒ローブを脱ぎ捨てた。


 裸族? 違った、軽装か。その白い帽子を被る魔剣師は、


「ここを通るつもりか」


 と聞いてきた。

 余裕か、時間稼ぎのつもりか?


 左右の桟座敷にも兵はいるだろう。


 ま、空気を読んで頷きつつ、


「あぁ、押し通る。お前たち【テーバロンテの償い】の【魔の扉】を潰すために【血銀昆虫の街】を進んできたんだからな」

「はっ、俺たちを潰すため? アハハ」

「「ふはは」」


 白い帽子を被る魔剣師と他の魔剣師に魔法使いたちは、俺たちを嘲笑するように嗤う。


 やや遅れて、斜め上の狭間胸壁と歩廊にいる射手と魔法使いと魔術師たちからも嗤い声が響いてきた。


 まぁ、状況的に俺たちは不利の立場だ。笑って余裕を見せて相手に動揺を促すのは分かる。


 白い帽子の魔剣師は、


「お前たちはここで終わりだ」


 ありがちな言葉だ。


「……それは戦ってみないと分からないだろう? 伏兵がいるならさっさと出せよ、上の連中は見ているだけか?」

「あぁ?」


 白い帽子の魔剣師は、勿体ぶるように周囲をぐるりと見渡し、


「この状況が読めない? 噂で聞いていた槍使いは、もう少し切れ者のはずだが……」

「……なに偉そうに語ってんの? あの白いの、馬鹿なの?」


 レベッカの言葉に思わず笑う。

 ユイも笑顔を見せる。


「なんだと!」

「まぁ、おこんなよ、白い帽子のイケメン魔剣師さんよ、名は?」

「ミイベーだ!」


 その様子を見たレザライサも少し笑ってから


「ミイベーか。魔眼と魔剣、強者だとは思うが、ただの扇動者、否、それ以下か。貝殻で海を測るような小さい男にしか見えない。気にするなよ、槍使い」

「あぁ」


 正面のミイベーは怒り顔。

 抜き身の魔剣の剣身から黄緑色の魔力と紫色の魔力を発していた。

 改めて、その白い帽子を被る魔剣師ミイベーを凝視。剽悍な面で整った怒り顔だ。若そうに見えるが、三十くらいの男盛りという印象だ。


 立ち襟の防護襟がナルシストな感じで、嫌みを感じるが、本人は気付いていないタイプか。


 心臓を守る胸甲は硬そうだ。

 が、筋骨隆々でマッチョな体の露出部分は多い。


 野郎の筋肉を見ても萎えるのみだ。


 下半身の象さんを露出しているような変態ではなく、もっこりもしてないことが救いだ。


 急所を守る鎖帷子と手甲脚絆が融合したような軽装か。


 ほぼ裸に近い左腕の表面には独特な魔力を有した刺青が施されてあった。


 胸元には、扉のようなマークが記されていた。


 この白い帽子を被った魔剣師ミイベーは【魔の扉】の幹部なのは確実か。


 すると、ミイベーは魔眼を輝かせた。


 その魔眼を見て警戒した黒豹ロロは俄にバックステップを行い――足下に戻った。


 俺の右足に頭部をぶつけながら胴体を寄せて甘えてくる。

 と、左足に尻尾を絡めつつ、左足の甲に前足を乗せて見上げてきた。


「にゃ」


 可愛い。が、俺に何かを言った?

 つぶらな瞳とアイコンタクト。

 少し桃色かかった鼻の孔が拡がり窄む。


 ωに生えている白髭はピンッと横に伸びている。


 機嫌は良さそうだ。


 その黒豹ロロさんは、瞼を閉じて開く。


 親愛のコミュニケーションを行った。


 同時に「ンン」と喉音を響かせながら触手を俺に伸ばしてきた。


 平たい触手の先端が俺の首筋に付着。


 『あいぼう』――。

 『しろい』――。

 『てき』――。

 『みべー』――。

 『たたかい』――。

 『たおす』――。

 『おく』――。

 『いっぱい』――。


 と黒豹ロロは気持ちを聞かせてくれた。


 その黒豹ロロは前方を見やる。


 と、足に絡ませていた尻尾で、俺の足を数回叩いてから、少し前に出た。


「ふふ」

「ロロちゃんとシュウヤのやりとりを見ているとほっこりする」


 そう語るユイとレベッカのいる背後から笑い声が響いた。そんな皆は、俺の直ぐ後ろだ。


 レザライサたちは、その左右の後方にいる。

 レザライサは、


「ミイベーたちは【天凜の月】に任せよう。我らは、このまま左右の敵に備えるのみ」

「「はい」」


 レザライサとソリアードとエキュサルさんの隊は左右に展開している。


 すると、門長屋から黒と赤の狼煙が昇った。他の場所からも黒と赤の煙が昇る。


 周囲の魔素の動きが活発化。


 左右の桟座敷の二階から漆黒ローブを着た者たちが次々と跳躍し大通りに着地してきた。


 桟座敷の一階からも手斧を持った海賊たちがぞろぞろと現れた。


 海賊たちは戦士系が多い。

 身なりはバラバラ。


 腰にはストームグラスのような魔道具をぶら下げている者もいた。


 ストームグラスの表面には煌びやかな葉状の模様が輝いている。


 その海賊らしき者たちは、


「もしや、船が取られたのか?」

「船にはテンサルたちがいるが……」

「船が取られても出港準備は早々できるもんじゃねぇ。この連中を潰すことが先決だ」

「この連中と言うが、相手は【白鯨の血長耳】だぞ?」

「なぁ、今まで【魔の扉】の中枢にかちこみをしてきた連中がいたか?」

「いねぇな……さすがは【白鯨の血長耳】か……」

「あ! あの短剣持ち、ボサボサ頭は……【邪道流峰牙門】の一派を殺した【天凛の月】のカリィか?」

「間違いねぇ、デルル、ジャガンを殺した男だ……あの野郎……ここで会ったが百年目だ」

「……【天凛の月】の槍使いもいる……」


 そう発言。

 カリィをチラッと見た。


 そのカリィは悪態笑顔カーススマイルを発動――。


「イヒ♪ ボクのことが好きなビヨルッド大海賊団のメンバーがイるヨうだネ。グレデナス大海賊団もイるのかナ?」


 そう発言。

 漆黒ローブを着た者たちは、


「裏切り者だ!」

「カットマギー! 元長老……」

「同じネドー派だったくせに裏切りやがって」

「……狂言教の面汚し……」


 そう発言。

 【不滅タークマリア】と狂言教の連中か。

 全員が<魔闘術>系統が巧みで強者か。


 カットマギーは俺を見て、


「狂言教の十二長老はあの中にいないよ。狂言教の雑魚と【不滅タークマリア】に雇われた傭兵か、ネドー派だった評議員の私兵が落ちぶれて【魔の扉】に入ったんだろうね」

「了解、その横の連中は血長耳とお前たちに任せるぞ」

「分かってる」

「了解♪」


 すると、正面の白い帽子を被る魔剣師が嗤いつつ、


「ハッ! 【天凜の月】と【白鯨の血長耳】は地の利を理解していない愚兵集団だ! このまま数で劣る奴等を押し潰せ!!!」


 そう発言しながら二振りの魔剣を振るう――。


 黄緑色の魔刃を飛ばしてきた。


 斜め上の狭間胸壁と歩廊にいる射手と魔法使いと魔術師たちからも、俺たちに向けて一斉に――。


 矢――。

 礫――。

 火球――。

 風弾――。

 風のハンマー――。

 雷球――。

 稲妻――。


 などの飛び道具、魔法が飛来してくる。


 更に、白い魔剣師は体から黄緑色の霧のような魔力を噴出させながら低空飛行で近付いてきた。


 皆が上下左右に散った動きを掌握察で把握しながら――。


 <血道第四・開門>――。


 相棒と一緒に前に出ながら――<霊血装・ルシヴァル>を発動。


 一瞬で、口と顎を覆うルシヴァルの宗主専用の首当てが装着された。


 同時に前方に突き出した魔槍杖バルドークの<刺突>でスパッと黄緑色の魔刃を貫き切断。


 切断した魔刃の片方が左足に衝突したが、ダメージはない。

 ハルホンクの防護服のズボンは頑丈だ。


 右にいる黒豹ロロも触手の先端から出した骨剣で黄緑色の魔刃を粉砕していた。


 黒豹ロロは「ンン」と鳴いて少し後退。状況を読める神獣ロロディーヌはさすがだ。


 <龍神・魔力纏>を実行――。


 加速しながら後退した相棒の位置と――。

 低空飛行で俺に近付くミイベーとの間合いと――。

 その背後の魔剣師と魔法使いの位置を把握――。

 白い帽子を被る魔剣師ミイベーは、


「<緑刃崩剣>――」


 魔剣のスキルを繰り出してきた。

 上段からの袈裟斬りの一撃か。

 白い帽子を被る魔剣師ミイベーには悪いが――剣術を研鑽する場ではない――。


 即座に<血魔力>を発しながら魔槍杖バルドークに<血魔力>を吸わせた瞬間――。


 <紅蓮嵐穿>を発動――。


 丹田を意識した魔槍杖バルドークを打ち出すモーションの右腕が前に出た構えのまま、秘奥が宿る魔槍杖バルドークごと俺も次元速度で直進――。


 ――魔槍杖バルドークから魑魅魍魎の魔力嵐が吹き荒れる。

 俺の体から出た龍の形をした<血魔力>もその魔力嵐の中に混じるや否や推進力が増した。


「ひぁぁぁ」


 魔槍杖バルドークがミイベーが持つ黄緑色の魔剣を弾くと、そのミイベーの体を穿った。

 白い帽子を被ったミイベーの心臓を守る胸甲は溶けるように消えて見えた。


 <紅蓮嵐穿>の魔槍杖バルドークと俺は、そのまま他の魔剣師と魔法使いたち数十人を屠りつつ大きな門を通り抜け、広場に設置されていた髑髏硝子をぶち壊して何かを連鎖爆発させながら突き進んだところで止まった。


 土煙が発生し、地面に足が少し埋まっていたが、<闘気玄装>を強めると、足下の土が弾け飛んだ。


 土煙が舞う中の背後をチラッと見たら、俺が通ったところが凄まじいことになっていた……。


「「――な!?」」

「「正門が突破されたァァ!」」


 左右には【魔の扉】の連中が多いが、


「新手?」

「いや、新手の槍使いは魔の扉に見えないぞ。正門の内側に、ああぁ、吸髑髏硝子が破壊されて結界が消えたぞぉ――」

「<魔の扉・陰大妖魂吸霊>が消えたのか?」

「そうだと思う」

「皆、逃げろ、戦いは止めだ――」

「あ、抜けた、抜けたぞ――」

「「うぁぁぁぁ――」」


 広場で戦いが起きていたのか。

 半身の姿勢を維持しながら爪先回転を行い、状況を把握。


 逃げる者たちが、俺が通り抜けてきた正門に集まっていく。


 石畳の一部は溶けて通り難くなってしまっているが、


「逃がしません! トウカク、オミア、パミネ、侵入者共々始末を――」

「「「ハッ」」」


 強者たちに指示を出した奴がバルミュグか?

 頭上で魔杖を回している。

 手には鉄扇を持っていた。


 そして、広場の中央の、歪な髑髏と人族などの内臓が詰まったような水晶の塊が怪しい。

 濃密な魔力が集結しているから魔道具か魔神具か?


『閣下、中央の怪しい魔道具は魔神具でしょう。ここで儀式を行っていたようです』

『禍々しい魔界の品だ。先ほど<紅蓮嵐穿>を用いた器が破壊した魔道具と関係していることは明白!』


 ヘルメと沙がそう教えてくれた。

 すると、広場の中にいた血塗れの魔剣師が、女性の剣士の前に立つ。女性の剣士を守っている?


「あぁぁ、ネフティスが!」

「シホは出るな――」

「「ぐあぁぁ」」


 女魔術師が両手に火球を生み出しながら、逃げている方々に特攻しつつ火球を放っていた。

 更に、火炎剣を目の前に発生させると、その火炎剣を<導魔術>系統で操作し逃げている方々を斬っている。ネフティスと呼ばれた血塗れの魔剣師はその火炎剣で斬られていた。

 両断された体は一瞬で炭化。

 更に、近くにいた槍使いと魔剣士が女魔術師の火球を浴びて吹き飛ばされていた。剣を震えながら持つ女性が一人残る。

 その女性に女魔術師が火炎剣を――刹那。

 <魔闘術の心得>を意識、<仙魔・桂馬歩法>を実行――。


 飛ぶような機動で前進、左手首の<鎖の因子>から<鎖>を前方に出しつつ前進しながら、


「お前の敵は俺だ――」


 そう発言。

 <鎖>で、女魔術師が宙空で操る火炎剣を弾きながら魔槍杖バルドークで<塔魂魔突>を繰り出した。


「げ――」


 女魔術師は後退するが遅い。


 <鎖>で盾を生成しながら右腕ごと突き出す魔槍杖バルドークの<塔魂魔突>が女魔術師の右腕を穿った。


「げぇぇ――」


 女魔術師は悲鳴を発したが、一瞬で止血しながら右側に飛翔。


 背後にいる助けた女性を<鎖>の盾で守りながら――。


 逃がすかよ――。

 半身の姿勢で、<超能力精神サイキックマインド>を実行――宙空にいる女魔術師を掴む。

 素早く、<星想フォズニック潰力魔導クラッシュ>を発動した。


 女魔術師を宙空で押し潰す。


 女魔術師は悲鳴も出せず、胸に手足が吸い込まれたように体が潰れて肉塊と化した。


「パミネがぁぁぁ!!」


 もう一人の女魔術師が特攻してくる。

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