九百八十二話 【血銀獣鬼】との激戦
◇◆◇◆
シュウヤたちが【血銀昆虫の街】を駆けているとき、港と連結している【魔の扉】が支配する魔塔でも動きがあった。
広場の北の壇上には【魔の扉】の勢力の幹部が勢揃いしている。
ドラを持つ音楽隊と【魔の扉】の一般兵士と精鋭たちも並ぶ。
広場の中央には灯籠のような魔神具の〝陰大妖魂吸霊具〟が設置されていた。
広場の四方には魔界セブドラの魔界王子テーバロンテの居城バードインを支える四大支城が一つ、バーヴァイ城の結界に用いられていた〝バーヴァイの死吸髑髏硝子〟が置かれてあった。
すると、その広場に、【魔の扉】の関係者に誘導された多数の首輪と手首に枷が嵌められている戦闘奴隷たちが現れ、〝陰大妖魂吸霊具〟の周囲に並ばされていく。
と、その戦闘奴隷たちの前に彼らの装備品が入った荷物が置かれた。
枷を嵌められている戦闘奴隷たちは、
『荷物? 俺たちの装備品だと? どういうことだ?』
そう考えながら壇上にいる【魔の扉】の者たちを見た。
壇の中央にいる漆黒の鎧を着た人物は、片腕を上げ、魔力が籠もる鉄扇を振るう。
「――ふふ、強者の戦闘奴隷たちよ、船旅ご苦労。装備を身に着けろ」
「このままではどうしようもない。先に枷を外せ」
「あぁ、拘束されたままどうやって装備を取れというのだ!」
「「そうだ!」」
刹那、漆黒の鎧を着た人物は鉄扇を拡げた。
両腕から膨大な魔力を放つ。魔杖が頭上に浮いていた。
「<魔の扉・陰大妖魂吸霊>――」
スキルを発動。
魔力は一瞬で広場に浸透する。
と、戦闘奴隷たちの首輪と枷の拘束具のすべてが溶けて消える。
広場の縁から魔力の網が四方八方に展開された。
そして、広場の中央にある〝陰大妖魂吸霊具〟が強く輝く。
漆黒の鎧を着た人物と魔線が繋がった。
鉄扇と頭上に浮かぶ魔杖とも繋がる。
「「「おぉ」」」
「本当に消えた!」
「解放してくれるのか……」
「おぉ~」
「やった、ブホン兄者、家に……」
「あぁ……」
戦闘奴隷たちは己の両手を見ながら喜び合う。
漆黒の鎧を着た人物は、その広場にいる戦闘奴隷たちに向け、
「さぁ、各自荷物を調べろ。お前たちが捕まった当時のそのままだ。体力と魔力を回復させるポーションも入っている。飲んで回復するのだ」
そう発言。
戦闘奴隷たちは急ぎ荷物を調べて装備を身に着けていく。
ポーションを飲んだ戦闘奴隷たちは明らかに体力が回復し魔力も回復していた。
それを見た、漆黒の鎧を着た人物は、
「元気になったようだな。そうでなくては<魔の扉・陰大妖魂吸霊>も意味がない。では強者の戦闘奴隷たちよ、殺し合え! 最後の五名になったら戦いを止めよう」
「「「なんだと!」」」
「ふざけるな! 仲間と戦えるかよ、異質な邪教共!」
「あぁ、お前を倒す!」
「そうだ。俺たちを捕まえ、こんなところまで連れてきて、友と戦えだと、ふざけるな!」
「俺は故郷に帰る――」
「あぁ、俺もだ、逃げろ――」
と、戦闘奴隷たちが叫びながら駆け出し、広場から出ようとする。
刹那、四方に設置されていた〝バーヴァイの死吸髑髏硝子〟から次々と光線が放たれる。
広場の縁に足を踏み入れた戦闘奴隷たちに光線が衝突すると、一気に炭化した。
炭化した塵と魂は、中央の〝陰大妖魂吸霊具〟に吸い込まれていく。
その場にその戦闘奴隷たちが身に着けていた装備が落ちた。
壇上にいる【魔の扉】の幹部たちは「「あはははは」」と呵々大笑。
更に、漆黒の鎧を着た人物は、
「ははは、お前たち、もう魔の扉・陰大妖魂吸霊の儀式は始まっているのだ。残った者も殺し合え――」
背後の音楽隊からドラが響き渡る。
その様子を眺めている広場の北側にいる【魔の扉】の幹部たちが、
「見ていないで、バルミュグの指示通り、戦うのよ!」
「広場の結界を越えた者は俺たちが相手をすることになる」
そう発言したのは【魔の扉】の幹部オミアとトウカク。
オミアの背後にはもう一人女性幹部がいる。
オミアは隣のトウカクに向け、
「へぇ、結界を越えてわたしたちに向かってくる者が、この中にいるの?」
「あぁ、可能性は零ではないだろう」
「……わたしが遠くの都市を巡って戦闘奴隷たちを仕入れた手前、あの中にそれほどの強者がいるのなら、魂も価値が高いから嬉しいけど……魔界王子テーバロンテ様も認めたバルミュグの<魔の扉・陰大妖魂吸霊>のスキルを破る存在がいるとは思えないわ。だいたい、それほどの強者なら戦闘奴隷になっていないでしょう」
「……成長すればありえる。戦闘奴隷として過ごしている間に潜在能力が覚醒したとかな。戦闘奴隷となってから神界セウロスの神々と通じた、或いは、生まれ持って通じていた戦闘奴隷もいるかもだ」
トウカクはそう喋ると、バルミュグと呼ばれている漆黒の鎧を着た人物を見た。
漆黒の鎧を着たバルミュグは、深く頭巾をかぶっており、顔の表情は分からない。
「……」
トウカクは頭部を下げる。
すると、オミアという名の【魔の扉】の幹部が、
「バルミュグが沈黙するなんて、少し驚き」
「可能性があるだけのこと。そして、お前たちも魔界王子テーバロンテ様に認められた存在。お前たちが倒せば、その魂は魔界王子テーバロンテ様への生贄になるのだから、戦闘奴隷を自由に殺せばいい」
バルミュグはそう発言。
オミアは頷いて、背後にいる、もう一人の【魔の扉】の幹部に、
「了解したわ。パミネも聞いたわね」
そう聞いていた。
パミネと呼ばれた【魔の扉】の幹部は頷く。
「うん、結界が破られるとは思えないけど、もし戦いとなったらがんばる」
「我は警戒を促したが、広場の四方には〝バーヴァイの死吸髑髏硝子〟がある。今のように、外に出ようとして何もできずに、全員が勝手に死ぬかもだ」
「それもそうねぇ」
【魔の扉】の幹部たちがそう話をしている間に、広場では戦闘奴隷たちが戦いを始める。
「「「うあぁぁぁぁ――」」」
多数の戦闘奴隷が得物で斬り合い突き合う。
腹を突き合い相打ちで倒れる者、戦っている者たちの隙をついたつもりが、更に他の者に背中を斬られて倒れていく者などが続出。
すると、長い船旅の間に仲良くなった戦闘奴隷たちが組み始めた。
死傷者が急激に減る。
その中で反撃をあまり繰り出さず、敵対者の命を取らない優しい強者たちがいた。
「ブハン兄とコウコン、このままだと……」
「耐えろシホ。今は俺たち以外は敵と思うしかない」
「でも、ネフティスとアビアルはわたしたちを助けてくれた……」
「だが、あ、シホ! 退け――」
シホと呼ばれた女性の前に出たブハン兄と呼ばれた黒髪の槍使いが前進。
同じ槍使いの長柄を、槍の穂先で上から叩くように弾く。
更にブハンは、槍の柄を返すように下から槍を振り上げた。
石突を槍使いの腹に喰らわせて、その槍使いを倒した。
そのブハンに他の戦闘奴隷たちが襲い掛かるが、コウコンという名の魔剣師が魔剣を振るい、ブハンを救った。ブハンはコウコンと組みながらシホを守りつつ広場を移動していく。
戦闘奴隷たちの戦いは熾烈を極めるが、壇上にいる【魔の扉】の幹部たちは笑い合う。
バルミュグの頭上に浮かぶ魔界王子テーバロンテから授かった魔杖バーソロンが回り始めた。
そして、戦闘奴隷が倒れる度に、広場の中央にある〝陰大妖魂吸霊具〟は強く輝いた。
魔杖バーソロンも輝く。
すると、バルミュグの横に【テーバロンテの償い】の漆黒ローブを着て帽子を被るミイベーという人物が立つ。
ミイベーは、
「【白鯨の血長耳】と【天凜の月】が……」
とバルミュグに報告。
【血銀昆虫の街】の異変を聞いたバルミュグは顔色を変えた。
◇◆◇◆
ライカンスロープの頭髪は黒色が多い。
体毛は焦げ茶色が殆ど。
大柄獣人のセンシバルのような毛の量はない。
そして、ライカンの武闘派と呼ばれているように、個人としての強さはあったが、軍としての統率はなかった。
傭兵商会で愚連隊の範疇だろう。
下界で知名度の高い【血銀獣鬼】はもう倒したのか?
すると、右前に出た黒豹となったロロディーヌが、
「にゃご」
と鳴きながら触手を前方に伸ばす。
ライカンスロープは屋敷の柱を盾にした。
が、相棒の触手骨剣は柱を貫きライカンスロープの体に突き刺さった。相棒は直ぐに触手を収斂させる。
そのライカンスロープは柱を失って崩壊した軒灯に巻きこまれて見えなくなった。
すると、
「「「ウゴァァァ」」」
今度は西と東、左右の倉庫の屋根から大柄のライカンスロープの一隊が現れた。
屋根のライカンスロープが飛び下りてくる。
その屋根から襲撃してきたライカンスロープの動きを見ながら――。
「皆、陣形は自由! 左のライカンは俺が受け持とう」
そう言いながら<闘気玄装>と<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>と<魔闘術の仙極>を意識し実行。
続けて<血道第三・開門>。
<
「ンン――」
相棒は後退。
「「「「了解――」」」」
「「「「はい!」」」」
「「「分かった」」」
「「うん」」
「敵も必死か、雲霞の如く現れる……まぁ、倒そうか! 後三、横五、十五間――」
「「「ハッ」」」
皆と背後のレザライサたちも迅速に動く。
暗がりだが、五本の爪の軌道は読める。
右手に持つ魔槍杖バルドークに魔力を通した。
<柔鬼紅刃>を発動――。
嵐雲の穂先を巨大な紅斧刃と紅矛へと変化させる。
――その魔槍杖バルドークを上げて、ライカンスロープが振り下げてきた五本の爪を紅斧刃で受け止めた――。
衝突した紅斧刃の刃と爪から不協和音と火花が散る。
構わず魔槍杖バルドークを右へと振り抜く――。
魔槍杖バルドークの紅斧刃はライカンスロープの爪を破壊しながらライカンスロープの右手首をも斬る。
「グォ!?」
宙空の位置で右手首を斬られたライカンスロープは体勢を崩し、胴体を晒すように吹き飛ぶ。
俄に<戦神グンダルンの昂揚>を発動――。
地面を蹴り、低空飛行でライカンスロープを追う――。
瞬く間に槍圏内となった直後――。
迅速な右足の踏み込みから神槍ガンジスの<血穿>を繰り出した。
左腕ごと一本の槍と化すような神槍ガンジスの方天画戟と似た穂先がライカンスロープの鎧と体を貫いた。
「――グアァァ」
血を吐きつつ悲鳴を発したライカンスロープ。
まだ生きているライカンスロープがぶら下がっている神槍ガンジスを消す。
左足を前に出した構えの半身の姿勢から、正中線を維持しつつ滔々と流れる川を意識した足捌きで前進し、魔槍杖バルドークの<龍豪閃>を繰り出した。
下から上へ駆ける
二つのライカンスロープの肉塊から臓腑と肋骨と血飛沫が散った。
その血飛沫を吸収しつつ爪先半回転を行う。
歪な曲剣のような投げ斧を魔槍杖バルドークの柄で弾く。
正面から駆け寄ってきたライカンスロープ目掛けて――。
魔槍杖バルドークを迅速に振るう<龍豪閃>を再び繰り出した。
正面のライカンスロープの首と胸元を<龍豪閃>でざっくりと斬り下げ吹き飛ばし倒す。
斜め横から爪が迫るが、柄を横に動かし、その柄で爪を弾きつつ横回転を実行――。
下段の<牙衝>の突きをライカンスロープに繰り出す。
しかし、キィィンと甲高い音が響いたように――紅斧刃と紅矛の<牙衝>は十本の爪で防がれた。
が、強引に魔槍杖バルドークを振り上げた。
十本の爪ごと両腕が持ち上がったライカンスロープを上空へ運ぶ。
「ヌァァァ」
空は飛べないようだ。
魔槍杖バルドークを消し、右手に魔槍グドルルを召喚。
左手に魔槍杖バルドークを再召喚――。
その間に、右から迫ってきたライカンスロープが爪を振るう。
足下に迫った爪を、斜め下に下げた魔槍グドルルの青龍偃月刀と似たオレンジ色の穂先で弾く。
反撃に左足で前蹴りを敢行――。
前方のライカンスロープは前蹴りを防ぐ。
と、右手の五本の爪を振り下ろしてきた。
その五本の爪の斬撃を――。
左腕を上げ、傾けた魔槍杖バルドークの柄で防ぐ。
同時に、右手が握る魔槍グドルルで<刺突>を繰り出した。
魔槍グドルルのオレンジ色の穂先がカウンター気味にライカンスロープの腹をぶち抜いた。
「げぇぁ――」
同時に跳躍――<双豪閃>を発動。
縦と斜めに、己ごと回転する魔槍杖バルドークと魔槍グドルルの穂先の<双豪閃>が、落下中のライカンスロープの両腕と胴体を捉えて両断――。
その<双豪閃>の後、宙空で足下に<導想魔手>を生成。
それを蹴って宙を飛翔――。
ユイたちの動きを見ながら低空飛行するように着地。
ユイは前転しながら<舞斬>を繰り出す。
ライカンスロープの両腕と体を両断していた。
そのユイは着地と同時に二つの魔刀を消し、重心を下げつつ神鬼・霊風の刀身を鞘に戻した。
抜刀術のモーションを取った。
ユイの双眸は白銀色の光芒だ。
その双眸から銀色の魔力が溢れている。
双眸の魔力は<ベイカラの瞳>の能力の証し。
そして、【天凜の月】の衣装の節々からは、<黒呪強瞑>の魔力を発していた。
周囲のライカンスロープたちは、
「女魔剣師が動きを止めたぞ! 仕留めろ――」
「ウゴァァァ!」
「行けェァ――」
ユイの実力はセナアプアでそれなりに知れ渡っていると思うが、猪突猛進のライカンスロープたちは、神鬼・霊風の鯉口に右手を当てているユイを囲みながら走り寄っていく。
ユイは双眸を見せるように微笑むと、
「<銀靭・二>――」
スキルを発動して跳躍を行った。
白銀の魔力が覆う神鬼・霊風を鞘から紫電の如く抜いた。
神鬼・霊風の刀身は半円を描く。
と、二体のライカンスロープの頭部を輪切りに切断――。
更にユイは身を捻りつつ神鬼・霊風を下段に振るう。
横にいたライカンスロープの足を切断。
更に、片足で着地、そのまま足下から風を起こすような踏み込みから神鬼・霊風を迅速に振り上げた。
ユイの体の斜め上に死神ベイカラの幻影が見えた。
が、直ぐにその死神ベイカラの幻影はユイの中に入るように消えた。
ユイは、足を斬ったライカンスロープの胴体を斜めに両断すると、神鬼・霊風の刃を返すように鞘へ納刀しながら横回転――。
フォローは必要ないと分かるが、一応――。
左手首から<鎖>を発動。
ユイの背中を狙うライカンスロープの背を<鎖>でぶち抜いた。
「ぐぁ――」
同時にレベッカも蒼炎弾を放つ――。
ユイの側面を狙っていたライカンスロープの腹を蒼炎弾が貫いた。そのライカンスロープの上半身は溶けるように消える。
一部の脊髄と下半身は残っていたが、その体は横に倒れた。
その強力な蒼炎弾を放ったレベッカは蒼炎を纏いつつ、
「――良かった。さっきの巨大な虫と違って地味に蒼炎が効く! このままフォローに徹するから」
「うん」
レベッカは自信を取り戻したような仕種と言葉だ。
続いてクレインが、
「ひゅ~、さすが<
クレインはそう言いながら<魔闘術>系統を強め、
「右の敵の一部をもらうよ――」
そう宣言したクレインは、ユイが新たに斬り捨てたライカンスロープの横を駆け抜けて、斜め前に出ると、新手のライカンスロープが繰り出した爪の攻撃を滑るように避けながら、ライカンスロープの懐に滑り込む。
と、クレインの両手と金火鳥天刺と銀火鳥覇刺がブレた。
<血魔力>を纏った<銀刺・金刺>の突き技か――。
ライカンスロープの胸と腹が振動するとドッと重低音が轟いた。
両腕と背中から湯気のような魔力を放出させているクレインは、目の前のライカンスロープを『倒した』と確信したのか、走り右斜め前へと出た。右斜め前にいたライカンスロープの爪を金火鳥天刺で弾くと同時に銀火鳥覇刺のトンファーを突き出し、ライカンスロープの胸を貫いて倒す。さすがのクレイン、圧倒的だ。
強烈な<銀刺・金刺>を胸と腹に喰らっていたライカンスロープの上半身は穴だらけのまま、その穴から大量の血を噴出させていたが、何も言うことなく背後に倒れた。
カリィも短剣を<投擲>。短剣を<投擲>した方向にいるのは後方のライカンスロープか。カリィはライカンスロープの額に突き刺さった短剣を<導魔術>で手元に引き戻していた。
そのカリィは、
「――ボクは路地から出現しているライカンスロープを頂くヨ♪」
「俺も担当しよう――」
「ハッ、戯けている場合かい――」
カットマギーとカリィとレンショウもクレインの横から付いていく。
カットマギーはカリィとレンショウを越え、駆けながら魔剣アガヌリスを振るい、ライカンスロープの爪ごと腕を斬り捨て、下段蹴りをそのライカンスロープに喰らわせて転倒させていた。
その転倒したライカンスロープの頭部にしっかりとカリィの短剣が突き刺さるところは見事だ。その短剣を走りながら引き戻したカリィは、
「――でも、流剣リズちゃんが傍にいないのは少し寂しいかな~」
「ハッ、リズが聞いたら斬られるぞ。お、後方からもライカンスロープか、カリィ、あれもやるぞ――」
「――了解♪」
「俺たちも元盗賊ギルドなだけの実力ではないことを盟主に示そう!」
「「はい」」
頼もしい皆だ。元【髪結い床・幽銀門】のメンバーたちも皆の後に続く。
元【髪結い床・幽銀門】のメンバーの戦闘能力は詳しくは知らない。
が、【血銀昆虫の街】を駆け抜けている間に対峙してきた敵はしっかりと倒していたから大丈夫だろう。
「ウゴアァッ! 敵だ! 敵ダァ」
「ウゴァァ!!」
「同胞を殺しやがって!!!」
左側の路地と中央の通りに現れたライカンスロープたちを凝視。
そのライカンスロープたちは突っ込んでこない。
――今までと違う?
太い両腕でファイティングポーズを取るライカンスロープ。
両手首には小型の連弩のような装備を装着していた。
今までのライカンスロープは十本の太い爪を活かした接近戦を好んでいたが、こいつらは違うのか?
その爪の剣越しに鋭い眼で俺たちを睨んできた。
刹那、ライカンスロープは両手首の連弩に魔力を通す。
その連弩から石矢の連射攻撃が飛来――。
俄に《
飛来する複数の矢目掛けて――。
《
《
を無数に発動。飛来した矢を、それらの魔法ですべて迎撃した。
よっしゃ――。
更に《
小型の連弩を装備していたライカンスロープの体を――その《
ライカンスロープが魔法防御のアイテムやスキルを持っていなかったこともあると思うが、《
水属性の魔法は強化される。
水属性の魔法使いでもある俺には《
「ひゅ~、魔法も強力になったようだねぇ」
クレインの口笛が気持ち良い。
「おう。ただ寝ているだけではなかったのさ――」
「ふふ、<魔闘術>系統の質も、リスクの高い夢を選んだだけあって、今までと異なって見える。ナミの<夢送り>がシュウヤに凄まじい強さを齎したと分かるよ!」
クレインが嬉しそうに俺を評した。
まぁ、邯鄲の夢どころか本物の夢体験だったからな。そして、この場には味方が多いから――。
急ぎ《
気温の差で足下の空気の流れが変化した。
すると、大通りと路地から現れ続けていたライカンスロープの連中の出現が止まる。
早速、クリドススが自分の隊を集めてから皆に向け、
「ライカンの愚連隊は、先ほど総長も仰っていましたが、【魔の扉】の連中と本格的に合流したかもですね」
「どちらにせよ、右側の路地に向かう!」
レザライサがそう発言。
「「「ハッ」」」
「はい! シュウヤさん、バルミュグの魔塔はまだもう少し先。右の路地を進みます――」
「了解、案内は任せる」
「うん」
「【天凜の月】の皆も付いていくから」
レベッカの発言に笑顔で応えるクリドスス。
クリドススは魔双剣レッパゴルを振るい、血を払う。
と、通りの路地を進む。
レザライサたちも続いた。
路地の左右の屋根や壁の背後に伏せている魔素は感じた。
が、不思議と襲ってこない。
すると、レザライサが、
「この辺りはケルソネス・ネドー大商会が持っていた土地。その勢力と通じていた店と倉庫ばかり。だから、中小の闇ギルドの伏兵が、わたしたちの動きに乗じて襲い掛かってくるかもしれない。気を付けろ」
「分かった」
レザライサの忠告があったが、何事もなく路地を抜け大通りに出た。
クリドススとファスたちは足を止める。
大通りの幅は数百メートルはあってかなり広い。
大通りの左右には魔虫を売る店と露天商たちが並ぶ。
甲虫か芋虫か、多種多様な魔虫を籠に入れて売っている連中か。
通りの左側を見張るように鉄鎖使いエキュサルさんと、エキュサルさんの隊が出た。
数は五十~百名ぐらいか。
ルアルの血魔塔を制したのは、あの鉄鎖使いエキュサルさんだ。
かなりの強者だと歩法で分かる。
すると、右の路地と店並みを眺めていたクリドススが、
「ここの大通りは【オプシディアン・魔虫街】と呼ばれていて、【魔の扉】の勢力範囲のど真ん中です。ですから、バルミュグの魔塔まであと少しですが……」
「あぁ、怪しい通りだし、襲撃はありそうだ」
「はい」
クリドススの顔色からは余裕が消えている。
【オプシディアン・魔虫街】は広いからこそ大軍の運用も可能。
通りの端を通る者の中には漆黒色のローブを着ている者もいた。
店の窓枠からクロスボウらしき先端が幾つか出ている。
クロスボウ持ちは店主か?
定員か客か不明だが、俺たちを待ち伏せ攻撃?
「左右の店の中には、俺たちと敵対関係の店もいるってことか」
「あぁ、それなりにいるはず。矢の攻撃があり次第、潰すとしよう」
が、矢の攻撃はないから、警戒を強めているだけかな。
【血銀昆虫の街】に住まう者たちのすべてが【テーバロンテの償い】、【ライランの縁】、【血印の使徒】、【闇の教団ハデス】、【セブドラ信仰】、【魔の扉】などの邪教に染まりきっているわけではないってことか。
邪教を信奉していたとしても、命知らずの無鉄砲はそうはいないだろう。
だから下界掃除に乗り出した【白鯨の血長耳】と【天凜の月】と敵対したくないだけか。
すると、大量の魔素の反応を察知。
大通りの奥と左右の通りからか。
俺たちが通ってきた大通りの背後にも魔素の動きがある。
前方の大通りの奥から現れたのはライカンスロープ。
数は百名を超えている。
その新手のライカンスロープたちは、先ほどのライカンたちとは異なる動きで魚鱗の陣を作り並ぶ。
「あの新手は……」
「槍使い、新手のライカンスロープは、髪と胸の〝銀と血の爪マーク〟からして【血銀獣鬼】だろう」
「了解」
【血銀獣鬼】の連中のライカンスロープの髪と体毛は銀色と血色が混じっていた。
皆、太い四肢で七つある爪も長い。
爪はブロードソードかフランベルジュの剣にも見えた。
先ほどのライカンスロープは五本指で爪も五つで、七本指はいなかった。
五本指のライカンスロープの体毛は、殆どが焦げ茶色だった。
七本指と五本指があるように、ライカンスロープの種族にも色々とDNAとRNAのような違いがあるようだ。
身に着けている軍服の色合いは銀色と血色に統一されている。
先頭に立つライカンスロープの三人も個性的。
当然、先ほどまでのライカンスロープよりも大柄だ。
その先頭の一人が、
「不倶戴天の敵! 血長耳のレザライサたちがいるぞ! 潰せ!!」
「「「ウゴァァ!」」」
【血銀獣鬼】のライカンスロープたちは襲い掛かってきた。
軍隊としての動きか。
大柄のライカンスロープの先頭の三人は後退。
代わりに左右のライカンスロープが突撃してくる。
その動きを見ながら素早く前に出た。
<黒呪強瞑>を強めつつ――。
右のライカンスロープに向け――。
魔槍杖バルドークの<血穿>を繰り出した。
「グアァ」
胴体を貫く。
魔槍杖バルドークを消しながら左から俺に近付くライカンスロープの位置を把握――。
迅速な爪の突き攻撃を――斜に構えた魔槍グドルルの穂先で防ぐのと同時に左へ横回転を行った。
回りながらライカンスロープの側面に出たところで、左手に魔槍杖バルドークを再召喚し、その魔槍杖バルドークで<豪閃>を発動――紅斧刃をライカンスロープの首に滑り込ませて太い首を刎ねた。
今の俺の動きを見たライカンスロープたちは後退。
長い横陣となった直後、いきなり、数名のライカンスロープが、
「喰らえ」
「しねぇ」
「我らの<狼爪斬>を浴びろ――」
と特攻してくる。
無数の槍衾を仰け反って避けると、前から二名のライカンスロープが――。
「そこだぁぁぁ!」
「死ねェ――」
と飛翔するように突っ込んでくる。
両手の十四本の爪で、俺を貫くつもりか。
爪の突きの間合いを見ながら、両手の武器を消す。
更に、ライカンスロープの槍衾に飛び込むように前転を行った。
「「え?」」
驚く二名のライカンスロープと交差しながら爪の突き技を避けたところで素早く後転を行う。
「「――な!?」」
二人のライカンスロープの両足を両手で掴む。
そのまま二人のライカンスロープを地に投げた。
ライカンスロープは地面と衝突。
刹那、右手に仙王槍スーウィンを召喚。
左手に霊槍ハヴィスを召喚しながら着地し、立ち上がる二人のライカンスロープに向け前進――。
間合いを詰めた直後――。
両腕ごと仙王槍スーウィンと霊槍ハヴィスを突き出す<光穿>を繰り出した。
二人のライカンスロープの腹を<光穿>で穿った。
二人のライカンスロープの下腹部は爆発したように散った。
その頭部を霊槍ハヴィスと仙王槍スーウィンの<刺突>で潰し、断末魔の悲鳴もあげさせずに倒した。
レザライサが、
「槍使い! 見事だ」
「おう。しかし、【血銀獣鬼】か……軍隊のような動きだな」
「はい、統率された動き。後方に下がった大柄ライカンスロープが、隊長格のバッパでしょう」
ソリアードがそう発言。頷いて、
「あいつがバッパか。隊員も多いが、そのバッパを含めた隊長格は、俺たちが倒したい」
レザライサは頬を朱色に染めつつ微笑む。
と、魔剣ルギヌンフの切っ先をライカンスロープの【血銀獣鬼】たちに向け、
「了解した――皆聞いたな? 【血月布武】の隊長、槍使いのお言葉だ! 指示に従え!」
「「「ハッ!」」」
「「はい!」」
「「承知!」」
「「「イエッサー」」」
クリドスス、ファス、エキュサルさん、ソリアードたちは素早く隊列を組む。
当然、配下の【白鯨の血長耳】の動きも速い。
七本指の【血銀獣鬼】たちと【白鯨の血長耳】の戦いが横と背後で展開された。
正面の【血銀獣鬼】のライカンスロープたちを凝視。
まだまだ数は多い。
正面の【血銀獣鬼】の連中は、俺たちの様子を窺い間合いを詰めてこない。とりあえず――。
ユイとレベッカと【天凜の月】の隊員たちに向け、
「皆、相手は【血銀獣鬼】だ。大柄の三人が隊長格のようだ」
「うん。シュウヤはバッパって奴ね。わたしも大柄のライカンスロープの隊長格の一人を担当したいところ」
ユイがそう発言。
頷きつつ、クレインを見た。
「状況次第ってところだけどねぇ。左の端にいる大柄も隊長格かい? ま、左側にいる連中ごと、わたしが倒そう」
「わたしも出るよ」
「わたしは後方で、皆の援護に徹するから」
「では、俺も後方の敵に備えよう」
「ボクは神出鬼没でいこうかナ」
「――にゃご!」
相棒はカリィの言葉のあとに、強い鳴き声を発して黒豹に変身。カリィは驚いたのか、背筋を伸ばし、
「し、神獣ちゃん、ボクがナにかしたァ?」
「ンン」
そのままレベッカの横に移動し、足に尻尾を絡ませながら胴体を寄せていた。
「ふふ、ロロちゃん、守ってね!」
「ンン」
長い尻尾をピンッと立たせて菊門を晒してきた。
すると、正面の【血銀獣鬼】のライカンスロープたちが、
「「ガルオォォォォ!」」
「「ゴルァァァ!」」
と次々に咆哮を発する。
刹那、俺たちと【血銀獣鬼】の間の地面が爆ぜた――。
煙が爆発した地面から発生し、異常な音も響きまくる。
「皆、奇襲に備えろ――」
「「うん」」
「上等、正面から来るようだよ」
「あの咆哮は、魔素の気配を消す効果もある? ま、ボクたちには通用しないネ」
「あぁ」
クレインとカリィが言うように、【血銀獣鬼】たちの咆哮では、魔素の気配を完全に消せない。
【血銀獣鬼】のライカンスロープたちが近付いてきた。
正面も多いが、左右と後方に移動している【血銀獣鬼】のライカンスロープもいる。【白鯨の血長耳】たちとの激戦を抜けてきたってことだ。
右手の武器を聖槍ラマドシュラーに変更。
左手の武器は霊槍ハヴィスのまま。
<
<水神の呼び声>を発動。
<血魔力>と<生活魔法>を足下に散らす。そして、徐々に加速を強める歩法を行う。
前進しつつ――構えを取って動きを止めた。
【血銀獣鬼】のライカンスロープたちも、俺の行動を見て止まった。
刹那、<
宙を劈く勢いで突き進む<
「グアァァ」
「グァッ――」
「ゲェッ」
「グフォァ――」
「なんじゃぁこりゃあ――」
五体のライカンスロープは悲鳴を発して後退する。
と、
「ぬぁ」
「急に戻るな」
「ぬぁ、邪魔だ」
「くっ」
背後の【血銀獣鬼】のライカンスロープたちは、前衛のライカンスロープたちの行動を受けて背後へと押し戻されていく。
正面の【血銀獣鬼】の魚鱗の陣が崩れる。
そして、五体のライカンスロープの体に突き刺さっていた<
その体が賽の目状態になったライカンスロープは血飛沫を発生させて倒れていく。
すると、バッパらしき大柄のライカンスロープが仲間の死体を押しのけ前進してきた。
顔の毛の量は少ないから鉤鼻がよく見える。
分厚い頬骨と唇。凶暴さが顔に表れていた。
バッパは、長い爪の切っ先を見せながら、
「うぬが【天凜の月】の総長か!」
「そうだ」
「にゃごぉ」
バッパは、俺と
「良い面構え……お前が噂に聞く〝槍使いと、黒猫〟か! が、同胞を殺したお前らは今日から不倶戴天の敵! 【白鯨の血長耳】と共に、俺が倒してやろう――」
バッパは前進、俺も前進――。
<魔闘術>と<闘気玄装>を強めて弱めて間合いを計りながら加速と減速を続けた。
視線でフェイクの後――。
いきなり――聖槍ラマドシュラーで<攻燕赫穿>を繰り出した――。
聖槍ラマドシュラーの穂先から赫く燕の形をした魔力が迸る。
バッパは驚愕顔を浮かべ、
「なっ、眩しい――」
そう発言。
暗い大通りが一気に光り輝く。
敵のライカンスロープたちの軍服がよく分かる。
聖槍の穂先と重なった赫く燕から不知火的な燕が無数に発生しながらバッパに向かう。
バッパは防御反応。
七つの爪と七つの爪を活かすようにクロスさせる。
その十四本の爪に燕の魔力が触れた直後、爆発。
不知火のような炎が周囲に拡がった。
バッパのすべての爪と両手が溶けるように消えるや否や、暁闇ごとバッパの体を聖槍ラマドシュラーが貫いた。
「「おぉ」」
「お頭ガァァァ!」
「ひぇぇ」
聖槍ラマドシュラーを消した。
そして、驚き動揺している【血銀獣鬼】のライカンスロープたちに向け、
「逃げるなら自由、この場では追わない。が、戦うならこい」
「「こなくそがぁぁ!」」
「調子にのってんじゃねぇ」
「お頭の仇だぁぁぁ!」
「「「ウゴァァァ!」」」
【血銀獣鬼】のライカンスロープたちが前進してきた。
『閣下、わたしを出してください、数が多い』
『大丈夫だ。見ていろ』
『……では、<精霊珠想>の準備をしています』
『妾も使うのじゃ!』
『はは、
『なんだ、もーもーたいたいとは!』
<神剣・三叉法具サラテン>の沙のツッコミボケを華麗にスルー。
まずは正面の爪野郎――。
軍服が似合うライカンスロープは速度が速い。
右腕ごと七つの爪が伸びてきた突き攻撃を凝視――。
徐に左手が持つ霊槍ハヴィスを上げた――。
霊槍ハヴィスの柄の上部で、七つの爪の攻撃を受ける。
柄が振動し、七つの爪と柄の衝突面から激しい火花が散った。
振動が続く霊槍ハヴィスを斜め上に動かし、七本の爪を横へ弾きつつ横斜め前に出た俺は、ゼロコンマ数秒も経たせず霊槍ハヴィスの持ち手を右手に移す――。
ライカンスロープの側面から右腕ごと一本の槍と化すような<刺突>を放つ。
が、その<刺突>は左手の七つの爪で防がれた。その七つの爪は罅割れる。
構わず、即座に<豪閃>――。
右手から左手に移すように霊槍ハヴィスを振るう――。
霊槍ハヴィスの石突がライカンスロープの右腕と衝突、ゴキッと腕の骨が折れる音が響く。ぶらりとその折れた腕が垂れた。
「グアァァ」
続けて、再び<豪閃>――。
霊槍ハヴィスの穂先をライカンスロープのもう片方の片腕にぶち当てた。
「グェ――」
またも骨が折れる音が響く。
霊槍ハヴィスを消し、無手に移行。
怯むライカンスロープに――。
<玄智・八卦練翔>を繰り出した。
刹那、両腕に霧が集結しつつ陰陽太極図の水の武具となって両腕に装着された。その水の武具と呼ぶべきか分からない水の陰陽太極図を装着した左右の肘で連続した打撃をライカンスロープの胴体に喰らわせる。
「グボァァ――」
ライカンスロープは水飛沫を発しながら、血を吐いて吹き飛ぶ。
他の【血銀獣鬼】のライカンスロープたちと衝突。
が、周囲にいたライカンスロープが一斉に俺に迫る。
即座に<仙魔・
更に<水月血闘法・鴉読>を発動した。
右と左に踊るように移動し、斜め右に後退しては前転――。
無数の爪の攻撃を避けまくる。
側転から右回し蹴りでライカンスロープの首を刈る――。
続けてライカンスロープの一人に近付き右腕を取り、ねじ曲げる<魔人武術・光魔擒拿>を実行し、そのライカンスロープを投げ捨て、左から迫っていたライカンスロープにぶつけた。
「「ぐぁぁ」」
低空飛行を行うような機動を実行。
左右の手に無名無礼の魔槍と夜王の傘セイヴァルトを召喚。
夜王の傘セイヴァルトの中棒に魔力を送り傘を開く。
傘で複数の爪の<刺突>のような攻撃を受け流し、軸を変える横移動から無名無礼の魔槍で<光穿>を実行――。
俺の動きを捉えきれない二人のライカンスロープは爪の動きが鈍い、その両者の腹を一度に<光穿>でぶち抜いた。
掌握察で、敵の攻撃を把握――。
前転、側転で、三人のライカンスロープの攻撃を往なす。
即座に両手の武器を消し、跳躍――。
『ふふ、見事な機動です!』
左目に棲まう常闇の水精霊ヘルメが褒めてくれた。
宙空で、血魔剣を両手持ちで召喚――。
右斜め前から迫る三人のライカンスロープに向け――。
血魔剣で<黒呪鸞鳥剣>を実行――。
袈裟斬りから逆袈裟斬りが決まり――更に続く剣舞――。
血魔剣から血魔力の血が周囲にまき散らすように剣閃を、血魔剣が再吸収していく。
三人のライカンスロープを一瞬で斬り刻んだ。
大通りの横にある店の軒を蹴って宙を回転しつつ周囲を把握しながら着地――。
速やかに血魔剣を消して魔槍杖バルドークを召喚。
無手の左手をまだ生きているライカンスロープたちに向けた。魔槍杖バルドークの柄を右腕と脇で抱え持つ。
――【血銀獣鬼】の一部は恐慌し、体が動かないようだ。
俺の左手の動きをジッと見ている。戦場が静まった。
「「「おぉ」」」
「……圧巻だな。槍使いは剣術も……武王と呼びたくなったぞ! よし、このまま槍使いに続け、仕留めるぞ!」
「「「ハッ」」」
レザライサの号令の下――。
一気に【白鯨の血長耳】のメンバーたちが【血銀獣鬼】のライカンスロープたちを仕留めていった。
ユイとクレインも大柄の【血銀獣鬼】の隊長格を仕留めたようだ。
寄ってくる。
「シュウヤ、隊長格を倒したから」
「にゃお~」
「おう」
「この大通りの戦いも勝利ね」
「あぁ、あとはバルミュグの魔塔のみ」
レザライサたちが後退してくる。
「槍使い、クリドススとファスの隊をこの辺りに残して、【血銀獣鬼】の残党を潰すことにする。わたしと残りの隊は、このままバルミュグの魔塔に向かうぞ」
「分かった、行こうか」
「おう、皆、行くぞ――」
レザライサたちが先を走る。
魔通貝で他の【白鯨の血長耳】の隊と連絡していたエキュサルさんが、自分の隊のメンバーに掛け声を発して前進。
ソリアード隊も続いた。
路地を通り大通りに出て、また路地に入ると急激に海の匂いが濃くなってきた。
同時に、大きな門を手前に擁した長細い魔塔と建物に港と広場のような場所も見えてくる。
「あれが、【魔の扉】のバルミュグの魔塔だ――」
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