九百七十二話 サセルエル夏終闘技祭決勝の激戦

 【テーバロンテの償い】の連中には脅しのみか。

 

 ま、今はサセルエル夏終闘技祭の開催途中だ。

 

 地下オークションを【迷宮都市ペルネーテ】で毎年利用している【白鯨の血長耳】だから主催者のフクロラウドに気をつかったのかな。


 そのレザライサに、


「今、俺が倒したリグという名の魔剣師テイマーは【テーバロンテの償い】の幹部か」

「あぁ、反応からして急に雇われた殺し屋ではない――」


 中央の剣戟音が響く中央を皆で注視。

 相棒の頭部と尻尾が、逃げる射手の動きと連動して左右に動く。

 接近戦と中距離戦の激しい乱戦模様だ。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を、その乱戦にぶち込んでみた。

 

 中央で戦う連中は、宙を劈く勢いの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を見ようと一斉に振り返ったが、巨大魔法陣の影響を受けた<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は途中で消える。


 スキルだが、魔法と同じように消えるとは……。

 殆ど魔法と同じだからなのか?

 

 レザライサは、その中央部を見て、


「中央の巨大魔法陣を生み出したのは、炎の魔法と炎のスキルと結界術が得意な黒髪の大魔術師アークメイジか」

「たぶんな。俺の<星槍・無天双極>を弾いた野郎だ」


 レザライサは俺を凝視。

 が、直ぐに大舞台の中央部に視線を向け、


「上位魔法のキャンセル、アンチマジック系統の巨大魔法陣か。高度な紋章魔法……しかもスクロールではないと分かる」


 頷いた。

 すると、俺の左目にいる常闇の水精霊ヘルメが、


『<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は消えてしまいましたが……閣下の魔法が、あの巨大魔法陣の影響でどの程度抑え込まれるのか、まだ不透明です。……しかし、トフカとナイアの魔法は魔力を失っていましたから、かなり強力なアンチマジックですね』

『あぁ、トフカが持つ<顧法ノ大鐘タルヴァ>があれば違ってくると思うが、ま、あの巨大魔法陣の上で戦う時は素直に武術に頼るとしよう』

『はい!』


 そう思念会話をしながら、目の前のレザライサに、


「結界魔法が得意なように見える黒髪は一見大魔術師アークメイジっぽいが、接近戦もかなり得意と分かる」


 そう発言すると、レザライサも頷いた。


「そのようだ。魔法剣を両手に発生させながら<組手>系スキルをも使用している。後退しながらの火属性の矢か槍のような魔法攻撃も見事」

「あぁ。接近戦だけなら魔槍を扱う猫獣人アンムルの二人の動きが断トツかな」

「短剣と爆弾ポーションを扱う赤髪とトフカも中々だ」

「皆、無尽蔵のスタミナの持ち主。そして、中距離は聖櫃アークの魔銃持ちが得意そうだ」


 頷いたレザライサは、


「魔銃使いは中距離と遠距離を保ち続けられる加速術に<魔闘術>系統も巧み。聖櫃アークの弾は魔力以外にもあるようで厄介だ。二人の猫獣人アンムルもあの女には近づけない」


 頷いた。風の女精霊を指輪に格納しているトフカも強いが……。

 黒髪の大魔術師アークメイジっぽい相手もかなりの強敵か。


 【十刻アンデファレウ】の猫獣人アンムルの二人も強い……。


 あの中央部の強者たちと相対したら<魔闘術の仙極>と<龍神・魔力纏>が必須かな。<シュレゴス・ロードの魔印>からシュレを出して防御を頼みつつ、ヘルメを外に出すか? イモリザの第三の腕と<神剣・三叉法具サラテン>もフェイク代わりに使えるだろう。


 ……隙を見るか初っぱなに熟練度の高い<脳脊魔速>から<闇穿・魔壊槍>への必殺パターン……その前後に瞳術の<滔天魔瞳術>を合わせるか?


 二対一の場合は<四神相応>系統か……。

 もしくは氷皇アモダルガの召喚、その氷皇アモダルガを活かす<氷皇・五剣槍烈把>の激しい攻めで一気に片を付ける方法が有効かな。

 

 今、大舞台に残っている者はエクストラスキルから派生した<脳脊魔速>的なスキルを持つかもしれない。


 魔法もスキルも中距離or遠距離攻撃は弾かれ消される可能性も考慮して、速度も絶対的なモノではないと仮定。そうなると、基本の風槍流が大切。

 ミスディレクションを狙う『枝預け』などの<槍組手>を用いた近々距離の格闘術が胆となるかもだ……。


 ま、臨機応変。

 戦いは、その場その場の判断力と思考力がすべて。


 すると、レザライサが、


「あのトフカは風の女精霊の幻影を飛ばす衝撃波スキルも持つのか」

「あぁ、射手の幻影と猫獣人アンムルが吹き飛んだスキルか。が、指輪から風の女精霊ナイアを外に出していないから、接近戦用のスキルの一つに過ぎないだろう」

「床に展開されている巨大魔法陣がトフカのネックになっている」


 頷いた。


「時折使う<顧法ノ大鐘タルヴァ>の大きな鐘があれば、アンチマジックも無効化できるようだから、あの巨大な鐘を見せた時が飛び道具を警戒するべき瞬間だとも言える」

「それにしても……黒髪の大魔術師アークメイジとトフカの飛翔機動を見ていると、迷想不敗ペイオーグのような空戦魔導師を思い出してしまう」


 【白鯨の血長耳】は何人かの評議員と戦ってきた。

 その評議員が持つ魔法学院に空戦魔導師と空魔法士隊は一大戦力だ。


 レザライサも空を飛べる魔道具は持っていると思うが、空戦は苦手なんだろうか。

 そのことは聞かず、ペイオーグのことを、


「迷想不敗ペイオーグ。何回か耳にしたが、あまり知らない」

「武闘派評議員ヒュリコ・ソルベルッシの懐刀で、空極。最近は表立った派閥争いに参加はしていないと聞いている。だから槍使いが断片的な情報しか得ていないのは当然だろう」


 過去、ルマルディを追った人物の一人が迷想不敗ペイオーグ。


 が、塔烈中立都市セナアプアの上院評議員の議長だったネドーは消えた。


 ネドー対ペレランドラの派閥争いはペレランドラの勝利。


 その上院評議員ペレランドラは俺の<従者長>で光魔ルシヴァルの家族。


 今後永らく塔烈中立都市セナアプアで権力を握ることになるはずだ。


 更に、ネドー派を潰した光魔ルシヴァルの組織と呼べる闇ギルド【天凜の月】は、そのネドー絡みの評議会の上界管理委員会が支配していた〝泡の浮遊岩〟、〝網の浮遊岩〟、〝烈戒の浮遊岩〟の問題を解決した。


 今にして思えば……。


 魔人ソルフェナトスは除外するとして、魔界の魔元帥ラ・ディウスマントルと暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはヤヴァすぎな相手だった。


 その案件を片付けた俺たちは【塔烈中立都市セナアプア】で名を高めることに成功した。


 冒険者ギルド長のキッカが<筆頭従者長選ばれし眷属>となったことも大きいかな。


 だから、ルマルディがもう俺たちと仲間だと武闘派評議員ヒュリコ・ソルベルッシが知れば、迷想不敗ペイオーグに追うような指示は出さないはず。

 

 器量が小さく、恨みがあったとしても、評議員としての立場がある。


 アホではないだろうからな。


 中央の戦いを見ながらそう思考していると、


「……フクロラウドの仲間か部下か不明だが……【魔術総武会】の大魔術師アークメイジが付いていた。だから武闘派評議員ヒュリコ・ソルベルッシなどにもフクロラウドは通じているかもしれない」

「あぁ」


 と言った瞬間――。

 大舞台で動きがあった。

 トフカが両手に持った魔法の杭で接近戦から槍舞のようなスキルを使い二人の強者を撃破した。レザライサは口笛を吹く。


 一瞬、<筆頭従者長選ばれし眷属>のクレインを思い出す。

 そのレザライサは、


「……トフカの口を最初の接近できた時に斬ったが……あの瞬間がトフカを倒せる絶好のタイミングだったかもしれない。惜しいことをした」


 戦いは紙一重。たしかにそうかもだ。


 レザライサは魔剣ルギヌンフの切っ先を床に当て、柄頭に両手を当てながら、


「――ま、わたしたちにも言えるが、油断大敵だ」

「おう。『兵強ければ即ち滅ぶ』だな」


 そう発言した俺を凝視したレザライサは、


「……ふっ」


 笑顔を見せる。


「どうした?」

「いや、父と同じ言葉を聞くとは思わなかったからな……」

「あぁ……」


 ガルファさんか。

 ベファリッツ大帝国の陸軍特殊部隊白鯨の隊長。

 

 昔の南マハハイム地方は、そのベファリッツ大帝国の領土だったが、各地方の種族たちが圧政に耐えかねて民族蜂起、戦国時代となった。

 その戦国時代を元ベファリッツ大帝国の陸軍特殊部隊白鯨を率いて駆け抜けたガルファさん。


 当然、手練手管を操る知謀に武力が無ければ無理だっただろう。


 勿論、娘のレザライサとメリチェグやクリドススなどの超絶優秀な分隊長がいたからこそだと思うが、隊長のガルファさんが指揮していたからこそ、隊を維持しながら北マハハイムから南マハハイム地方へと移動ができたんだと思う。


 血で血を洗う以上の戦場……。

 差別どころではなかったはずだ。

 そんな亡国の特殊部隊を傭兵にし、大手の闇ギルドになるまで【白鯨の血長耳】を存続させたガルファさんは、血長耳の最大の功労者だろう。


 そして、現在のオセべリア王国、レフテン王国、サーマリア王国の元となる人族系統の王族が一つの豪族だった頃から、【白鯨の血長耳】はそこに深く関わっていると予想できる。

 エヴァの師匠のクレインもその時代を駆け抜けたんだよな……。

 ベファリッツ大帝国の最後の皇帝の庶子というとんでもない血筋。


 アキレス師匠もその時代を駆け抜けた。


「しかし、中央の連中は背後を見せられない戦いだからこそだが、わたしたちに寄ってこなくなった」


 俺とレザライサと相棒への警戒を強めた結果だと思うが……。

 逆に中央の連中が連合した場合はヤヴァいかな。

 

 そのことは言わず、笑顔で、


「魔剣ルギヌンフの威力と【白鯨の血長耳】の総長の名が大きいんだろう」


 レザライサは、ニヤリと笑みを見せて、


「……【天凜の月】の盟主、総長殿の実力だと思うが? ふふ……さて、来ないなら……今のうちに仲間に連絡するとしようか。この魔通貝についても、フクロラウドは特になにも言っていなかったからな?」

「了解、さすがにな」

 

 笑顔が良いレザライサだったが、【テーバロンテの償い】がいる関係者席をチラッと見ると、形相が変化。


 怖い表情を浮かべながら耳元に片手を当て、


「――軍曹、そうだ、その類い、下衆げすまた使いどもだ。バルミュグ様と言っていた。〝下界兵長〟を動かせ、追跡と狩りの時間だ」


 血長耳式の魔通貝でメリチェグに指示を出す……その喋りと強面を見て寒気が走った。

 

 【白鯨の血長耳】の関係者席を見ると――。

 

 クリドススとファスも耳に手を当ててからレザライサを見つつ誰かと会話をしている。


 ファスはクリドススに負けず劣らずの美人エルフさんで最高幹部の一人。

 彼女も西のラドフォード帝国で行っていた破壊工作の任務に貢献したんだろう。


 先ほどまで同じ席にいた軍曹メリチェグはいなかった。

 追跡と狩りの時間か。


 しかし、ここはフクロラウド・サセルエルの領域と呼べる場所……。


「……【テーバロンテの償い】とフクロラウドが深く繋がっていれば、あの円盤に乗っているフクロラウド本人とその部下たちと、俺たちは争いになるかも知れないぞ」


 レザライサはジロッと円盤に乗っているフクロラウドを見てから、


「フクロラウドが裏で絵を描いていようと構わないが、【闇の枢軸会議】の範疇の【闇の八巨星】と呼ばれている一角を担うのがフクロラウド大商会。更にドラアフル商会などの関連組織を持つ以上は、当然下界の【血銀昆虫の街】の連中とも繋がりはあるだろう。しかし、そのフクロラウド本人が魔界王子テーバロンテや魔界王子ライランと個別に契約をしているとは思えない。部下にはいるかもしれないが……互いの組織にとって好都合な部分だけの、単に互いを利用し合う間柄と予測する」


 この魔塔にいる【テーバロンテの償い】の連中をそう分析していた。

 俺もそう思う。大半の組織がそんな繋がりだろう。


 その前提で、

 

「フクロラウド側の主催者も【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】とは深い関係ではなかったようだ」

 

 そう語った俺を、レザライサは睨んできた。


「その件も含めて、まったく……『情けは人の為ならず』の行動だと思うが、お前たちはやることがいきなりすぎる。当初は胆を冷やしたぞ……」


 レザライサはそう語る。

 俺は、中央部の激戦から、ルシエンヌたちがいる関係者席をチラッと見てから、


「事前に知れた以上は動くさ。しかし、俺もフクロラウドの魔塔に来るまで、【闇の八巨星】の一角と全面戦争をするとは思ってもいなかった」


 レザライサは片方の眉を震わせて「……一角どころではないだろうが……」と言ってから溜め息を吐いて、


「まぁ、その件はあとから聞くとして、もう事は進んでいる。【血銀昆虫の街】の連中が【闇の枢軸会議】の傘を利用しようとも……〝標的〟という言葉を聞いた以上は、な? たとえフクロラウドが敵となっても、とことんやってやるつもりだ」


 今度は俺の胆が冷える。

 レザライサは、体から銀色の濃密な魔力を放つ。

 その魔力は風を起こした。


「ははは、どうした槍使い、今さら怖じ気づいたのか?」


 レザライサのマントと金色の長い髪が自然と舞っていた。

 肌にひしひしとしたプレッシャーを感じる。


「あぁ、が、やる時はるさ。とことんな」

「ふっ、はは……良い。その顔は天凛堂の戦いの時と同じ……【血月布武】の名を掲げるに相応しい面だ!」

「ンン、にゃお~」

 

 相棒も同意するように鳴くと、俺とレザライサの前で立った。

 大きい黒猫の姿だから迫力がある。

 触手が持つ魔雅大剣をゆっくりと振るいながら、俺たちを守る仕種を取ってくれた。レザライサは傘の尾の如くピンと立っている尻尾を見て「ふっ」と笑う。


 太股の毛と菊門が可愛い。

 

 が、直ぐにキリッとした表情に戻し、耳元に片手を当てつつ仲間に指示を飛ばしていた。そのレザライサに、


「既に聞いていると思うが、【天凜の月】も冒険者ギルドと連合して、下界の地下連中と争っている状況だ」

「……あぁ、聞いている。ネドー派のグリーン下院評議員の邸宅とヒメリア大商会とピサード大商会の倉庫と店舗の地下だな」

「そうだ。下界はもろにディープステートだ」


 レザライサは眉をピクッと動かし、


「……魔法学院を持つ評議員には怪しい者が多い。捨て駒の中小の闇ギルドの幾つかへ大金を流し、優秀な魔調合師料理人を抱えさせ、合成魔薬クリスタルメス系統の魔薬を作り、評議員の正規の薬品商会が持つルートで売るポーションの中に合成魔薬クリスタルメス系統の魔薬を違法に交ぜて売るとかな……更には、違法奴隷の人身売買と関連した人肉ビジネスと、人の内臓やモンスターの内臓を利用した魔薬の取り引きなど……軍産複合体と通じた貿易を行う評議員が多いのだ」

「権力と資本が結びつくと倫理はなくなるからな」

「あぁ、【塔烈中立都市セナアプア】の沼は深い、世界の闇は深いと言ったほうが良いか……」


 合成魔薬クリスタルメスには大海賊や他の都市も関係するからな。


「……」


 レザライサは咳払いをしてから、


「クソな評議員の話は長くなるから今度にしようか。で、その地下連中だが……四階で【天凜の月】が名目八封破りを行ったときも下界の連中は騒いでいたように見えた」


 頷きつつ、


「観客席側から【テーバロンテの償い】と【闇の教団ハデス】の集団が乱入してきた。そいつらもバルミュグの名を発していたな」

「バルミュグ、【魔の扉】の【血銀昆虫の街】の連中か。【セブドラ信仰】などの組織もいるからこそだと思うが……わたしたちを標的と言うとはな……【血月布武】も舐められたものだ……」

「あぁ……」

「しかし、槍使い。四階廊下の名目八封破りには【闇の八巨星】の多数の幹部が張っていたと思うが……そのすべてを?」

「【十刻アンデファレウ】と【龍双ハボ・リゾン】の最高幹部は退いた。【御九星集団】は誰もいなかった」


 レザライサはホッとした表情を浮かべる。そのレザライサに、


「他の【闇の八巨星】の幹部たちからは襲撃されて、倒した。更に【闇の教団ハデス】の幹部ブレジンスキーと戦った。足を掴まれて傷を受けたが、そいつも倒した」

「……ほぉ、あの闇のブレジンスキーを殺し滅したか。古代から生き続けている闇精霊の類いという噂は聞いていたが、倒せる存在だとは……素晴らしい! 同時に【闇の教団ハデス】には大打撃のはずだ」


 興奮したレザライサ。

 【テーバロンテの償い】の関係者がいる席を見て睨むと、自然と銀色の魔力が体から放出されて、ゆらゆらと湯気のようにその銀色の魔力が揺れていた。

 

 表情といい、その雰囲気だけで、周囲に恐怖を与える。


 魔装天狗の衣装変換魔道具が少し変化していた。


 今すぐに【テーバロンテの償い】の連中に突っ込みそうな印象だ。


 そのレザライサと大舞台の中央部の激戦を交互に見て、


「レザライサとロロ、そろそろ八名以下になりそうだ」

「フクロラウドたちが戦いを止めに一旦動くか?」

「あぁ、動くはず……」

「ンン、にゃお~」


 相棒も見上げる。


「では、わたしは離脱しよう」

「いいのか?」


 俺がそう聞くと、レザライサは少し俺を睨んで、


「既にわたしの気持ちは受け取っただろう」

「〝輝けるサセルエル〟か」


 頷くレザライサ。

 と、中央の戦いで射手が魔斧使いに倒されたのを見て驚きつつ、


「このままわたしとお前と神獣となるまで共闘を続けても良い。が……お前たちの行動は癪に障る……仲間が見ていると言うのに……」


 レザライサは少し嬉しそうな悔しそうななんとも言えない表情を浮かべながら話をして、語尾の辺りはボソッと語っていた。

 

 そのレザライサは【白鯨の血長耳】の仲間に指示を出しつつ、中央の戦いとフクロラウドたちが乗る円盤を見上げ、


「――槍使い、このサセルエル夏終闘技祭に勝利した後、勝手に帰るなよ?」

「了解、待ち合わせは?」

「この大舞台か巨人が守る正門にしよう」

「巨大石灯籠の辺りか」

「そうだ。そして、血月布武の名は絶対だということを内外に示せ! 優勝を勝ち取るのだぞ!」


 と、レザライサは魔剣ルギヌンフを傾ける。俺も合わせて魔槍杖バルドークの穂先を斜め下に傾けた。


 その魔槍杖バルドークに魔剣ルギヌンフを優しくコツンと当てて微笑むレザライサは可愛い。


「ふふ、ではな!」

「おう――」

 

 レザライサは厳しい総長としての表情を取り戻すと大舞台の端から颯爽(さっそう)と飛び下りた。


 【テーバロンテの償い】の連中は武器を構える。

 

 レザライサは、


「はは、お前たちは本当にわたしたちと戦うつもりのようだな、愉快愉快――」


 笑いながらも【テーバロンテの償い】の連中たちの所には向かわない。


 観客席の横にある通路に突入――。 


 【白鯨の血長耳】の仲間の下に合流はしないのか?

 ――とクリドススたちがいた関係者席を見たら、全員消えていた。


 もう【白鯨の血長耳】は動いたか。


 先の言葉通りフクロラウド・サセルエルがどう出ようと、【テーバロンテの償い】と【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】の幹部か信者連中を、この魔塔の内部で仕留めるつもりか。


 それとも、ここでは仕留めず関係者のマークのみか?


 下界の【血銀昆虫の街】の連中の本拠は割れているだろうから、他の拠点と隠れ家の洗い出し、地下は広いから無理として……。


 【血銀昆虫の街】の連中と通じた商会と船商会の所在地と所有する船などが分かるまで尾行を続ける?


 が、他の【闇の八巨星】はまだ健在。


 【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】は除外するとして、【ラゼルフェン革命派】、【御九星集団】、【五重塔ヴォルチノネガ】、【十刻アンデファレウ】、【天衣の御劔】、【龍双ハボ・リゾン】の幹部と組織員はまだ豊富だと思うからな。


 【龍双ハボ・リゾン】は戦いを放棄する側に回った印象があるから大丈夫だとは思うが、これからの戦い次第か。


 すると、中央の戦いが止まった。


 中央に残るのは、トフカ。

 黒髪の大魔術師アークメイジの男。

 猫獣人アンムルの魔槍使いの二人。

 魔銃使いの女性。

 銀色の瞳の魔剣師。

 キマイラを操る魔剣師テイマー。

 赤髪の男。


 八人は距離を取る。

 俺と合わせて九名。


 二人の猫獣人アンムルは……。

 【十刻アンデファレウ】の盟主と百人隊長のはず。


 その片方の猫獣人アンムルが魔槍を傾けながら振るい、もう片方の猫獣人アンムルが持つ鋼の魔槍に衝突させる。


 その二人の猫獣人アンムルは頷き合う。


 三つの双眸に星型と正多角形の魔法陣を浮かばせている猫獣人アンムルは、何かをもう一人の猫獣人アンムルに告げていた。


 その猫獣人アンムルは頷くと身を翻す。


 大舞台を走り、端から〝輝けるサセルエル〟をフクロラウドたちが乗る円盤に放りながら関係者席へと戻った。


 関係者席には同じ猫獣人アンムルのズマコイがいた。

 最後の共闘はしないようだ。


 最初に偵察用ドローンで見た魔族を倒していた猫獣人アンムルが残った。

 

 刹那、斜め上の空からフクロラウドたちを乗せた円盤が降りてきた。


 総合上闘役キルヒスが先に大舞台に降りようとしていたが、フクロラウドが前に浮き上がりながら、そのキルヒスの行動を止める。


 フクロラウドは円盤から離れると、俺たちに向け、


「――皆様、お見事な戦いっぷり。先ほど倒れた【五重塔ヴォルチノネガ】の【八指】べサモンさん、個人の魔槍ドケアさん、名の知らぬ斧使いと射手が倒れたことで合計九名になりました。一人抜けたようですから八名ですね。その八名の方、決勝進出となります。今からは回復をしてもらって構いません。関係者からの支援は回復なら認めましょう。しかし、それはわたしたちが上に移動するまでの間のみ。わたしたちを乗せた浮遊魔機械グーテンバーグの移動後、再び関係者からの支援を禁止し、決勝として、戦いを開始してください。その決勝も、先ほどと同じくバトルロイヤル形式で戦ってもらいます!」


 フクロラウドのエコーが掛かった魔声が会場に響く。

 そして、フクロラウドが体から濃密な魔力を放出するたびに、


「「「おぉぉ~」」」


 観客が歓声で応えていた。

 同時に優勝賞品の〝紅孔雀の攻防霊玉〟と〝法魔ルピナス〟が、フクロラウドの斜め上の空に召喚された。


 その二つの品が浮かびながら大舞台の周囲を回っていく。

 二つの品物が近付いた観客たちは興奮して立ち上がる。

 二つの品は、その立ち上がった観客の上を巡っていく。

 

 観客たちは、目の前を通る二つの品物を掴もうとするように手を伸ばすから、ウェーブが始まった。


 三階の席から勢い余って落下している客もいる。

 

 すると、優勝商品の二つの品の解説をするような幻影の映像が宙空に展開。


 アクセルマギナやガードナーマリオルスが宙に作るようなホログラム映像ではなく、湾曲した幻影映像だが、面白い。

 


 〝紅孔雀の攻防霊玉〟は……。

 

 剣、槍、弓、鎧、籠手など、本当に思念で様々な装備品へと変化が可能なようだ。

 時折、霊獣四神朱雀と似た幻影が浮かぶ。


 その度に炎の魔力を装備品が帯びていた。


 もう一つの〝法魔ルピナス〟は――。


 前部からユニコーンのような突起した長い角が伸びる。


 その角から稲妻が前方へ迸った。


 尻尾の突起物からも稲妻が出た。

 速度は速い。

 翼を傾けた旋回速度もまぁまぁだ。

 腹の部分に穴がある。一瞬、爆撃機に見えた。


 と、幻影を発してパッと消えて斜め横に再出現。

 

 近くなら転移的な移動も可能なようだ。

 両翼から魔力の網が放たれた。


 属性は不明だが、防御も可能か。


 半透明なモデルが乗った。

 すると、〝法魔ルピナス〟が拡がる。

 縁際の肌が銀と漆黒の色合いに変化。


 渋い。

 自動的に〝法魔ルピナス〟の上に乗っている半透明なモデルが増えていく。合計、八人ぐらい乗ることが可能なようだ。


「「「おぉぉぉ」」」

「「すげぇぇぇ」」

「あの魔造超生物は格好良い!!」

「契約が必須だから大魔術師と魔物使いなどのテイマー系の戦闘職業が必須だ……」

「……俺では契約できず、魂を吸われて終わるだろうな」

「あぁ、俺は思念で装備品となる〝紅孔雀の攻防霊玉〟が欲しい……」

「俺も出場したかった!!!」


 観客たちの声が至る所で響きまくる。


「ロロ、腹は大丈夫か? ごはんを食べるか?」

「ンンン、にゃ、にゃお~」


 大きい黒猫のロロさんは勢い良く振り返る。

 魔雅大剣を床に下ろし触手を仕舞う。

 

 鼻息を荒くしながら頭部を寄せてきた。

 大きい頭部に体全体が撫でられていくが、相棒の頭部の短い黒毛の感触が非常に気持ち良い。ほど良い硬さを維持した芝生の上を転がっている感じだろうか。


 温かい気持ちになれた。

 

「はは、相棒、今あげるから、少し頭部をあげてくれ」

「にゃおおお~」



 ははは、大きい舌に舐められた――。

 唾液が……ま、いっか。


 アイテムボックスからカソジックとササミが入ったタッパーを出す。

 と、瞬時にいつもの黒猫の姿に戻ったロロディーヌ。

 そのタッパーの蓋を開けてから、黒猫ロロの足下に置いてあげた。


「ンンン」


 タッパーごと食べるようにカソジックとササミの調理品をむしゃむしゃと食べていく黒猫ロロ


 俺はこれでも食べるかな。

 胸ベルトの丸い膨らみをボシュッと押す――。

 そう、クナからもらった魔狂厳靱丸丸だ。

 その魔狂厳靱丸丸を食べた。


 カリカリッとして硬いが、歯ごたえが良い。

 同時に水分が口の中で無くなる感じ……米粉?

 あぁ、せんべいを思い出す……。

 懐かしい……。

 お爺ちゃんと縁側で猫と戯れながら美味しい海苔せんべいを食べたことを思い出した。


 お茶がほしくなる……。

 と、体内魔力が活性化。


 俺の魔力回復は元々速いが、元々の魔力が強まった感があるから嬉しい。

 そして、美味しい海苔せんべいを思い出し非常にテンションが上がる。同時に、少し股間辺りがムズムズしてきた。

 副作用の興奮か……。


『器……妾にも興奮が伝わってきた……』

『すまん。脳内を駆け巡るアドレナリンが増えたかもだ』

『ふふ、閣下を興奮させるとは! 皆が喜びます』

『貴重でなければ、ハッスルの時にも使えるか』

『はい』


 すると、会場を巡っていた〝紅孔雀の攻防霊玉〟と〝法魔ルピナス〟が消えた。

 

 フクロラウドを乗せた円盤がゆっくりと斜め上に上昇を始めた。


 名は浮遊魔機械グーテンバーグだったか。その浮遊魔機械が離れた直後――。

 

 いきなり魔銃使いが魔銃を俺に向け撃つ。


『閣下――』

『大丈夫だ』

 

 ――魔弾は風の弾丸以上の加速力。

 左目の視界がヘルメの液体世界の<精霊珠想>となる。

 同時に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒を左側に傾けて複数の銃撃を防いだ。


 魔弾を受ける度に大きな駒から硬質な音が連続して響く。

 その大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>が光って魔力を少し得た。


 回復機能もある?

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は使える。


 駒の表面に刻まれている複数の梵字と風槍流に魔界九槍卿などにも意味があり、他にも感覚で何かがあるとは分かる。 


 その大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を活かして無数の弾丸を防ぎながら――。


 相棒と共に右斜め前方に歩く。


「ガルルゥ」


 乱戦に備えて珍しく慎重な相棒が魔銃使いの女性に向け吼えていた。


 同時に右手に魔槍杖バルドークを召喚――。


 左前方にいる魔銃使いの女性は聖櫃アークの魔銃から魔弾を撃ち続けてくる。弾は魔力が大半だと思うが……。


 その銃撃を防御しつつ――。

 中央の乱戦も見ていく。


 乱戦は――。

 魔槍使いの猫獣人アンムルVSトフカVS黒髪の大魔術師VS赤髪の男VS銀色の瞳の魔剣師VSキマイラを操る魔剣師テイマーだ。


 詳しく見ると――。

 大きいキマイラVS魔槍使いの猫獣人アンムル、トフカ、黒髪の大魔術師、赤髪の男か。


 と、魔剣師テイマーVS銀色の瞳の魔剣師。


 皆、攻防が一流――。


 すると、トフカがキマイラの頭部の一つの口から飛ばされた歯牙の群れを<顧法ノ大鐘タルヴァ>で弾き、黒髪の大魔術師アークメイジ目掛けて前進――。


 近距離から魔法の杭と似た武器の刃を手首から射出。


 黒髪の大魔術師アークメイジに杭刃を飛ばす。

 

 更にキマイラの頭部の一つに爆発ポーションを複数当てていた赤髪が、黒髪の大魔術師アークメイジに短剣を<投擲>。

 

 黒髪の大魔術師アークメイジは掌の幅を越えている円の魔法陣を回転させながら魔法の杭と短剣を弾く。


 と、少し後退――。


 追撃のトフカが繰り出した下段蹴りをバックステップで避けた。

 

 そこへ――キマイラのもう一つの頭部の口が吐いた唾液が、黒髪の大魔術師アークメイジと衝突する。

 かと思ったが、小さい円の魔法陣が複数個回転しながら黒髪の大魔術師アークメイジの前に出現し、唾液と衝突――。


 唾液は一気に圧縮されたように消えた。

 魔杖から魔刃を発しながら黒髪の大魔術師アークメイジに近付いていたトフカは、後退しながら魔杖を振るい下げて、飛来していた赤髪の短剣を魔刃で両断していた。

 

 と、黒髪の大魔術師アークメイジは床を両手で突く。


 キマイラは硬直。


 刹那、巨大魔法陣が更に拡がった。

 同時に何かが破裂したような音とキィィィン――という金属が擦れたような音が周囲と脳内に谺した。


 スタングレネードを喰らったような感覚。


 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を放って干渉できるか?


 否、止めといた――。


 黒髪の大魔術師アークメイジは怯んだトフカに炎の矢を飛ばす。

 

 あまり見てばかりいられない――。

 魔銃使いの女性が放つ魔弾連射が激しくなった。

 

 <血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動しながら、相棒と一緒に前に出た。

 巨大魔法陣は<血魔力>にも干渉するのか、感覚がいつもと違う。


 が、加速はそれなりにある――。


 と、魔銃使いの女も加速。


 横から斜めに移動しながら聖櫃アークの魔銃を撃ちまくってくる。

 弾丸の連射速度は速い――。


 移動しながら撃っているが射線のブレがなく正確。


 ――弾丸に弱い追尾機能でもあるのか? 

 ――魔銃使いの女性は俺の背後に回ってきた。相棒が俺から離れて、その魔銃使いの女性の背後へと向かう。


 半身の姿勢で魔槍杖バルドークを振るい魔弾を柄で防ぐと同時に――。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒を魔銃使いの女性に向かわせた。

 

 相棒の動きを警戒したのか、魔銃使いの女性からの攻撃は止まった。


 しかし、アクセルマギナと対決しているような印象だ。


 と、左から黒髪の大魔術師アークメイジに押されていたトフカ、右から赤髪の男が寄ってきた。


 左手に神槍ガンジスを召喚。

 

「槍使い――」

「ははっ、セリン、そのまま槍使いを撃ちまくれよ――」

「無理――」


 そう叫んだ魔銃使いの女性は<魔闘術>系統を強めつつ――。

 左手に短剣を持ちながら聖櫃アークの魔銃から射撃を行い、相棒と<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に魔弾を当ててきた。


 セリンという名の魔銃使いの女性は右に移動。

 大きい飛び道具と化した<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を避けた。


 そこで魔銃使いの女性が視界から消えた。

 大きい黒猫ロロに魔銃使いの女性との立ち回りは任せよう――。

 同時に掌握察の感覚が若干鈍っているが、俺に近付いてくる魔素との距離は把握済み――。


 ――<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消しながら――。

 魔素が近付いてきた方角に向け、左手が握る神槍ガンジスの柄を左斜め前方へと傾けた。


 方天画戟と似た穂先で、ビンゴッと言葉が響くように――左からトフカが振るった魔杖のムラサメブレード・改と似た魔刃を防ぐ――神槍ガンジスの穂先と魔刃が擦れジュッという音と火が散った。


 蒼い毛の槍纓が火に触れて少し燃えたようだ。

 続けて、右から飛来した短剣と炎の矢のような遠距離攻撃を魔槍杖バルドークの柄を上下に動かして連続的に弾く。


 短剣を<投擲>してきたのは赤髪の男で、再び短剣を<投擲>してくる。

 その短剣を魔槍杖バルドークの竜魔石で叩き落とした。


 赤髪の男の斜め後方には、炎の矢のような魔法攻撃を寄越してきた黒髪の大魔術師アークメイジがいる。


 <生活魔法>の水を意識――。

 が、水はあまり出ない。


 足下に敷かれた巨大魔法陣の影響は結構厄介だ。


 《スノー命体鋼・コア・フルボディ》の効果が消えていた。


 構わず<水神の呼び声>を意識。


 <黒呪強瞑>を強める。

 <魔闘術の仙極>を実行――。

 <瞑道・霊闘法被>を発動――。


 魔竜王の素材を活かした薄着のハルホンク防護服に変化させた。

 その刹那――。

 足下の巨大魔法陣の影響で、魔法系統が弱まっているとハルホンクの防護服から感じた。


 関係者席から、


「――闇と光の運び手ダモアヌンブリンガーのシュウヤ様ァァァ」


 キサラのハスキーボイスの魔声が響いた。会場は静まりかえる。

 

 ダモアヌンの魔槍をギターにして歌うキサラの歌声が聞きたくなったが――。

 構わず<血液加速ブラッディアクセル>と合わせた加速で――。


 魔槍杖バルドークで<刺突>のモーションを見せつつ後退したトフカに突進すると見せかけた。

 

 左手の武器を神槍ガンジスから夜王の傘セイヴァルトに変更しつつ――横に跳ぶように移動、爪先半回転の横移動を行う。足下からキュッと音が響いた。

 そして、掌握察で察知していた赤髪の男の位置へとノーモーションで前傾姿勢で向かう。

 迅速に赤髪の男との間合いを詰めた。その赤髪の男の両手がブレた。


「なんて加速だよ!」


 心でお前もな!


 と言いたくなるぐらいの速度で腕を振るう赤髪の男は――。


 その両手付近からポーション瓶を大量に出現させ、そのポーション類を飛来させてくる。


 無数の手榴弾と同じ――。


 更に一つ一つの瓶の中に鉄屑が詰まっていたらクレイモア地雷と同じ。


 素肌に喰らえば重傷は確実。


 ハルホンクは信頼できるが――。

 <血魔力>を濃密に込めた<仙玄樹・紅霞月>を無数に放つ――。


 <仙玄樹・紅霞月>の、樹の月の形をした魔刃と――。


 樹の血濡れた三日月状の魔刃が――。


 床の巨大魔法陣の影響で、点滅し形が変化していくが、まだ<仙玄樹・紅霞月>は消えず。


 だいぶ弱ったと思われる<仙玄樹・紅霞月>は飛来してきた複数のポーション瓶を貫きドッと重低音を響かせながら大爆発――。


 俺と赤髪の男の間で宙空が烈火の如く燃えまくる。


 その爆風と業火が迫った。

 ――相棒の炎かよ。


『ヘルメ、相性が悪そうだが、俺の魔力を利用しろ。左目から完全には出ず<仙丹法・鯰想>を使え――』


 ヘルメは返事はせず――。


 左目からヘルメが出る。

 俺の魔力を吸い取った液体ヘルメは瞬く間に流体の巨大なナマズへと変化を遂げる。


 巨大な<仙丹法・鯰想>のナマズの後部は俺の左目と繋がっているお陰で、足下の巨大魔法陣の影響は僅かだ。


 <仙丹法・鯰想>のナマズと化しているヘルメは大きな口を拡げて大爆発の爆風ごと業火を吸い込む――。


 その左目から出ている巨大な<仙丹法・鯰想>のヘルメナマズを従えるように加速しながら前進。


 遅れて飛来してきた無数のポーション瓶をも飲み込む<仙丹法・鯰想>のナマズ。

 その神秘世界越しに赤髪の男を凝視。


 赤髪の男は怯んでいる。

 無精髭を生やす精悍な男だ。

 

 その赤髪の男を見ながら、<仙丹法・鯰想>のヘルメを左目に格納しつつ――。

 赤髪の男との距離を詰めたところで<超能力精神サイキックマインド>を実行。

 

 ヘルメの格納をゼロコンマ数秒も掛けずに終了させたところで、<仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>を発動しつつ俺の後方に<白炎仙手>を実行――。


「ぐぁ――」


 <超能力精神サイキックマインド>で赤髪の男を拘束――。


 そのまま加速しつつ右手の魔槍杖バルドークで<紅蓮嵐穿>を繰り出した。


 右腕が伸びた構えのまま秘奥が宿る魔槍杖バルドークごと俺も次元速度で直進――。


 ――魑魅魍魎とした魔力嵐が吹き荒れる魔槍杖バルドークが赤髪の男を穿った――。


 赤髪の男は一瞬で消し飛ぶ。

 魑魅魍魎とした魔力嵐を従えるが如く直進し続ける俺と魔槍杖バルドーク。


 周囲に吹き荒れた髑髏模様の魔力は黒髪の大魔術師が寄越したであろう炎の槍や矢を寄せ付けず――。


 背後に念の為展開していた<白炎仙手>をも吹き飛ばしていた。

 

 まぁ、相性が悪いから当然か。


 大舞台の表面を削りながら足を止めて、直ぐに振り返った。


 俺が通り抜けた大舞台の箇所は一直線にレールが敷かれたような痕となって、巨大魔法陣を斜めに斬った形となった。


 右手が握る魔槍杖バルドークの螺旋している刃が集積し嵐雲の形となっている穂先から髑髏模様の魔力が噴き上がっていた。


 ――凄まじい威力。


 魔竜王槍流技術系統:魔槍奥義小〜不明。

 奥義小〜不明とはいえ、奥義に部類される<魔槍技>。


 小だからこそ、隙がないと言える?


 同時に吹き荒れていた魔力嵐が魔槍杖バルドークに吸い込まれて消えた。

 振動している魔槍杖バルドークから咆哮のようなモノが轟く。


 赤髪の男の魂を得たか。

 

 今の俺から見て、右の端にいるトフカは銀の瞳の魔剣師とテイマーと戦っていた。

 そのテイマーの背後から黒髪の大魔術師アークメイジが向かう。


 大きい黒猫ロロは、左で魔銃使いの女性と激突中。


 俯瞰で大舞台を見れば右側か。

 

 大きい黒豹ロロは、猫まっしぐらとなって、体から出している触手骨剣と口に咥えていた魔雅大剣を振るいながら、聖櫃アークの魔銃から射出されている弾丸を弾きつつ前進している。


 相棒が近付く度に退き撃ちを繰り返す魔銃使いの女性は銃撃速度を強める。


 ――相棒は腹に傷を受けていた。


 魔弾には実弾タイプも混ざっているようで、傷口から血を発した黒猫ロロはその傷口から複数の実弾を体から排出しながら、「ンン」と鳴き、突進。体は一瞬で回復しているが、正直イラッとする。


 良くも相棒に傷を――。

 その魔銃使いの女は後退――。


「にゃごお~~」


 相棒も体から橙色の魔力を発して神獣としての加速で追い掛けるが、魔銃使いの女も合わせて加速――。


 ――かなり速い。

 ここまで生き残るわけだ。


 が、さすがの相棒――。

 魔雅大剣を魔銃使いの女に<投擲>して複数の触手を囮に利用し、魔銃使いの女との距離を詰めた。

 口から少しだけ炎を出しつつ、後ろ脚の爪で巨大魔法陣を削りながら前進し、複数の触手を魔銃使いの女に繰り出した。

 触手から骨剣が伸びる。


 魔銃使いの女は片手で聖櫃アークの魔銃から魔弾を放ちつつ、もう片方の手に持つ短剣で、相棒の触手骨剣を弾く。

 すべての触手骨剣は防げない。

 胸の装甲と触手骨剣が衝突。

 装甲が外れながら爆発し、衝撃を得た魔銃使いの女は後退――。

 

 相棒の触手骨剣が絡む前に離脱に成功。


 続けて聖櫃アークの魔銃で片手撃ちを行いながら短剣を片手に召喚し直す。


 追い掛けた黒猫ロロの触手から出た骨剣を短剣と魔弾で防ぎ続けていく。


 その間に魔銃使いの女の背後に移動していた俺は――。


「ロロ、やるぞ」

「にゃお~」

「チッ――」


 振り返ってきた魔銃使いの女のアヒル口が見えた。

 その魔銃使いの女は身を捻って斜め後方へ跳躍して逃げる。


 <闘気玄装>を強めた。

 相棒と俺はその逃げた魔銃使いの女を挟むように跳躍――。

 

 足下に<導想魔手>を生成し、蹴って高く跳び、魔銃使いの女へと宙空から近付いた。


 魔銃使いの女は唇を尖らせつつ聖櫃アークの魔銃を俺に向ける。

 魔弾を無数に寄越す。

 と、相棒の触手骨剣が魔銃使いの女の背中に向かうのが見えた。


 聖櫃アークの魔銃から放たれた魔弾を召喚した<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防ぎつつ――。


 宙空から魔銃使いの女に近付く。

 魔銃使いの女は短剣で相棒の触手骨剣を防いでいた。


 槍圏内となったところで、相棒の位置を確認しつつ――。

 魔軍夜行ノ槍業に血を送るように<血道第一・開門>を意識。


 体から大量の<血魔力>を放出させた。


「ひぃっ」


 <血穿>のモーションを取りつつ。


 驚く魔銃使いの女に向け必殺技に近い<女帝衝城>を繰り出した。

 

 ゼロコンマ数秒も経たず――。

 周囲の俺の血を触媒にした女帝槍レプイレスさんが出現。


 血の茨と魔槍を連れて纏っている。


 レプイレスさんは、嬉しそうに体を震わせつつ――。

 

『弟子よ、女子を殺すつもりか! 素晴らしい!!!』


 そう思念を寄越すと、レプイレスさんは、

 二振りの魔槍を抱えて魔銃使いの女に突進。


 血濡れた魔槍の群れを従えつつ、足下に茨道を生成して、茨と魔槍の群れが小さい城を形成していた。


 魔銃使いの女は、聖櫃アークの魔銃から無数の弾丸を、そのレプイレスさんに射出するが――。


 濠の底に槍の罠を備えた小さい城を有したレプイレスさんは喜ぶだけ。


 その濠を前面に出したように突進する

レプイレスさんは加速した。


 魔銃使いの女の体は一瞬で<刺突>系統の槍衾に呑まれて木っ端微塵。


 聖櫃アークの魔銃も魔槍の連続した<血穿>のような槍衾を受け続けて爆発して散った。


 凄まじい広範囲攻撃。

 その女帝槍レプイレスさんが振り返ると、


『弟子よ、良い贄であった。うふ♪』


 と、俺の魔槍杖バルドークを跨ぐ。

 

 跨ぎながら、『アァァ』と思念で喘ぎ声を発したレプイレスさんはエロティシズム溢れる腰の動きでスカートとストッキングを裂く。


「「「「「オォォ」」」」」

「「女神かぁ――」」

「おら、ここで死んでもいい――」


 観客たちの声援が、今日一番高まった。


 股間と太股と尻の一部を顕わにしつつ、長細い足も血色に悩ましく濡らしながら俺を抱くように体を寄せてから、額にキスを寄越してきた。

 

 熱した鉄のような強烈な熱さを額に感じた。実際に額が焼ける。


 同時に、気持ちよさと強烈な唇の感触を体に得て、額ごと魔力が吸われる。

 ドクンと心臓が高鳴り、血の吸引を受けた。


『閣下とレプイレス師匠が……』

『ぐぬぬ……』


 ヘルメと<神剣・三叉法具サラテン>の沙が嫉妬してきた。


 キスを終えたレプイレスさんは、俺の血に感じ入り過ぎたのか、


『アァン』


 と喘ぎ声を発して、体が痺れたように震えると、一瞬で泡状の魔力粒子となって魔軍夜行ノ槍業へと戻る。


「「おぉ」」


 その魔軍夜行ノ槍業からハートの形をした魔力粒子が迸った。


 前と同じく、魔界八槍卿の他の師匠の方々がそのハートの魔力を打ち消す。

 怒号が魔軍夜行ノ槍業から響く。

 

 が、まだ大舞台の上では戦いは続いている。


 相棒は下に着地して見上げていた。


 ロロディーヌが呆れる情事とまではいかないが、レプイレスさんは、会場の男たちを虜にしたかもしれないな……。


 ――少し気恥ずかしい。

 が、観客たちは直ぐに乱戦模様に視線が向かう。


 その乱戦模様を見ながら――。

 相棒の傍に着地した。


「ロロ、傷は大丈夫か?」

「にゃ~」


 ごろにゃんこ、腹を見せてくれた。

 薄らピンクの地肌と乳首を見せてくれた。大丈夫らしい。

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