九百五十九話 【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の盟主の意地
神槍ガンジスの柄を短く持ちながら爪先半回転――。
半身で改めて部屋の中を見回す。
魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは二人の斧使いを倒し、ヴィーネとキサラとルシエンヌも左右にいた射手を倒していた。
同時に引かせていた<導想魔手>と聖槍アロステを消した。
ハディマルスの肉塊がぐにょぐにょと蠢きながら革の束を取り込み始めて積層型魔法陣の中に浮き始めている。
粘菌のようなモノも出ては引き込む。
粘液もぶしゅぶしゅと飛ばしていてキモい。
そのハディマルスの肉塊から七つの魔腕が時々浮かんでは消えていく。
その出現しては消える七つの魔腕は<導想魔手>のようにも見える。
不思議だ……。
偶然?
それとも魔界八槍卿の何かのアイテム?
ルグファントの八怪卿や八槍卿と呼ばれている八人の師匠たちが言っていたように……。
雷炎槍のシュリ師匠。
塔魂魔槍のセイオクス師匠。
悪愚槍のトースン師匠。
妙神槍のソー師匠。
女帝槍のレプイレス師匠。
獄魔槍のグルド師匠。
断罪槍のイルヴェーヌ師匠。
飛怪槍のグラド師匠。
師匠の誰かの肉体の部位だったりするんだろうか……。
すると、キルアスヒの腰ベルトの一部と指輪が点滅していく。
ハディマルスの肉塊か革のようなモノと積層型魔法陣と関係する?
そのキルアスヒは俺の視線に気付くと、
「【天凜の月】――」
闇属性の炎を発している魔剣を飛ばしてきた――。
闇属性の炎ごと魔剣を斬るように神槍ガンジスで魔剣を払う。
「チッ――」
<導魔術>で操っているだろう魔剣の弾かれ具合を見ないキルアスヒは舌打ち。
キルアスヒは己の体の内と外の<魔闘術>系統を強めて加速。
<黒呪強瞑>系だと思われる魔印のようなモノが左腕に記される。
その煌めく左腕の手に赤黒い魔剣を召喚。さらに召喚した短槍は、その赤黒い魔剣と融合した。腕に走る<黒呪強瞑>の怪しい明かりが、その赤黒い魔剣の剣身に反射。
赤黒い魔剣自体も紫色の魔力を放ち始めた。
「ここだ――<明星・九風九牙>!」
その短槍と融合した赤黒い魔剣を左の掌の中でクルクルと回しながら左腕を振るってきた。
小さな風車の如く回転した魔剣の刃の機動を読みながら神槍ガンジスに魔力を通す。
戦ぎ舞う蒼い毛の槍纓を刃に変えた。
俺の首に迫る赤黒い魔剣の刃を、その槍纓の蒼い刃でブレーキを掛けるように連続的に弾きつつ爪先半回転を実行。
俺を追うキルアスヒ。
<導魔術>系統もあるのか――。
斜め上から飛来してきた闇属性の炎の魔力を発している魔剣を神槍ガンジスで払い弾く。
キルアスヒは、体から魔力を発して槍纓の蒼い刃を吹き飛ばしながら前進し、赤黒い魔剣で袈裟懸け――。
俺は石突を突き出しながら半身を退く。
袈裟斬り機動の赤黒い魔剣を途中で弾く。
両手剣か槍の大きさとなった赤黒い魔剣だから当て易い――。
キルアスヒは悔しそうな表情を浮かべながら横移動――。
ゼロコンマ数秒もない間に、闇属性の炎を発している魔剣が再び飛来。
その魔剣を神槍ガンジスで横に弾きながら、爪先半回転で、赤黒い魔剣の突きを避けた。
<導魔術>で操るのは闇属性の炎を発している魔剣一本のみ。
キルアスヒ本人の体から発せられる魔力は、闇属性以外にも水属性っぽい魔力があった。
足下に<生活魔法>で水を撒いている?
床が濡れるたび加速力を高めていた。
キルアスヒは、俺の速度に付いてこれている。
俺は速度を上昇させる効果の高いスキルの<魔闘術の心得>と<闘気玄装>と――<仙魔・
その強者のキルアスヒの魔力が膨れた直後、
「――カッ」
突如三つの魔剣が飛来。
『シークレットウェポンか!』
沙が反応――。
同時に神槍ガンジスを左右に動かした。
しなる神槍ガンジスの柄が左右にぶれて、その三つの魔剣を螻蛄首や柄で弾く。
否、一つの魔剣の刃先が、ハルホンクの防護服を削って胸元を浅く斬られた。
直ぐさま、神槍ガンジスの柄を左手の掌で押すように石突側をキルアスヒに向ける。
キルアスヒは左腕で円を描くように赤黒い魔剣を扱い、下からの神槍ガンジスの石突を防ぐと、赤黒い魔剣で神槍ガンジスの柄を叩いて弾きながら右手を脇に引く。
キルアスヒは独特な剣の構えを取ると、嗤い、右手から刃、礫、指弾のようなモノを飛ばしてきた。
神槍ガンジスの穂先を斜め上に運び槍纓を上に展開させて、その複数の指弾を防ぎながら後退――。
「そこだ――」
キルアスヒは闇属性の炎を発している魔剣を操作していたのか、退いた俺の肩を狙う。
構わず<血想槍>――。
血を纏う雷式ラ・ドオラ。
血を纏う聖槍アロステ。
血を纏う霊槍ハヴィス。
血を吸う魔槍杖バルドーク。
血を纏う仙王槍スーウィン。
血を纏う霊槍ハヴィスの石突で俺の肩に迫る闇属性の炎を発している魔剣を弾き。
血を纏う雷式ラ・ドオラと血を纏う聖槍アロステで――。
闇属性の炎を発している魔剣を挟むように捕まえつつ天井に動かした。
天井に突き刺さる闇属性の炎を発している魔剣を血を纏う雷式ラ・ドオラと血を纏う聖槍アロステで封じた。
「え――」
キルアスヒは、ここで初めて焦ったような表情を見せる。
その双眸と胸と腰ベルトから<導魔術>の魔力の線が初めて露見。
そのキルアスヒに血を纏う霊槍ハヴィスで<血穿>――。
<血想槍>で操作した霊槍ハヴィスが、キルアスヒの左腕を穿つ。
血を纏う仙王槍スーウィンで赤黒い魔剣を外に弾き、血を吸う魔槍杖バルドークで、逃げるように動くキルアスヒを追うように<龍豪閃>――。
<血想槍>の魔槍杖バルドークは血の龍にも見える――。
その<血想槍>の魔槍杖バルドークは、キルアスヒの左足の膝を捉え、膝から下をザバッと切断。
「――うぎゃぁぁ」
キルアスヒは悲鳴を発して壁際に移動。
片足で立ちながら、<導魔術>で操作している二つの魔剣を失った左足に付けて立っていた。
止血? 否、柄から融合しているのか。
<血想槍>を解除し、神槍ガンジス以外を消去。
片足が魔剣と化したキルアスヒは充血した双眸を見せて、
「……まだまだこれからが本番だ、【天凛の月】の盟主。闇の明星剣を見せてやる……」
強がっているようには見えない。
息も荒くないし、魔力も衰えていない。
すると、
「シュウヤ様、そいつはわたしが!」
ルシエンヌがそう叫びながら、まだ生きて戦っていた強者の短剣使いを袈裟斬りで倒して前進。
そのルシエンヌに寄ってきた分厚いナックルダスターを装備した【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部が右拳を繰り出す。
「――<魔豪吸>」
ルシエンヌは、姿勢を屈めたダッキングから斜め上に飛ぶような機動を見せた。
【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部の懐に潜るような剣筋の、下から振り上げた魔剣で分厚いナックルダスターを装備した【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部の首を刎ねた。
そのルシエンヌは、ヴィーネと魔界沸騎士長アドモスとゼメタスの間を走り、
「キルアスヒ!」
「ルシエンヌ――」
片足に魔剣を融合させているキルアスヒが叫ぶと、更なる<導魔術>系統のスキルを見せて闇の炎を発している魔剣を上空に発生させ、その魔剣をルシエンヌに突貫させていた。
俄に<鎖>を伸ばす。
キルアスヒの右腕を穿った<鎖>を壁に突き刺す――。
キルアスヒは、<鎖>と己の右腕を見て、
「……クソ……こんな鎖など……がぁッ……【天凜の月】め、俺を倒しても、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】が潰れることはない……ホアルがお前を必ず……」
「望むところ。と言いたいが、それは俺たちが動くまでもないかもな?」
「なに?」
「そうです、わたしが倒します!」
そう叫ぶルシエンヌは横に転がっていた。
逸早く前に出ていたヴィーネが特大剣を掲げて闇の炎を発している魔剣を防いでいた。
ルシエンヌは、キサラに片手を差し出され、
「あ、お二人ともすみません」
「いえ、大丈夫」
「気にせず、残りは二人」
「はい!」
キサラとヴィーネがそう発言。
ヴィーネは、俺にアイコンタクト。
残る【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部は射手のみ。
その幹部らしくない射手は戦意を喪失しているのか、魔矢を放っていない。
キルアスヒは、
「――【天凜の月】ぃ!!!」
そう叫びながら魔剣を宙空に生み出すが、キサラが発動した血の鴉たちに攻撃を受けて、その魔剣は壁際に運ばれていく。
その間にヴィーネとエヴァとキサラが俺に寄る。
「ん、あの人がキルアスヒ……」
「あぁ」
【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部の射手が、魔矢を持ちながら壁に、キルアスヒの傍に寄る。
ルシエンヌはキルアスヒに近付いて、
「キルアスヒ、お前はわたしが殺す……エイヒルの仇……それに……」
「ハッ、死ぬ前に女の楽しみを味わったんだから良かっただろう?」
「くっ、死ぬのはお前だ」
「そうだとも。が、俺も【闇の八巨星】の盟主の片割れだ。このままタダで命はくれてやらんさ、お前らにも似合いの死を送ってやる――<贄・千魔厖婦眼>!! 地獄で会おう! うひゃひゃひゃ!! ぎゃぁ――」
刹那、キルアスヒの胸が裂けた。
裂けた胸から膨大な魔力が噴き上がる。
キルアスヒの肋骨と臓器を吸い寄せる巨大な眼球――?
「下がれルシエンヌ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます