九百五十七話 <星槍・無天双極>と談笑と突入

 傍に来た皆は周囲を見回しながら、


「ん、廊下の戦いは勝利!」

「はい、わたしたちもサセルエル夏終闘技祭に参加している気分でした」


 ヴィーネとエヴァたちも廊下で激しい戦いがあったようだ。

 傍に来たルシエンヌさんと【剣団ガルオム】の方々は、息を飲む。


 皆、圧倒的存在感の魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを凝視。


 恐怖していると分かるが、まだフォローはしない。


 一方、【剣団ガルオム】のヒウガルさんたちは気を取り直し――。


 俺に対して、


「一先ずの勝利、おめでとうございます」


 と敬礼を行った。

 そのヒウガルさんにラ・ケラーダを返すと、ヒウガルさんたちは笑顔となった。

 そのヒウガルさんたちは、


「「団長!」」


 と呼びながら、ルシエンヌさんの近くに移動した。ルシエンヌさんは鷹揚おうように頷きつつ、


「ヒウガル、シュウヤ様たちのフォローをちゃんと行ったのだな?」

「あ、それが、その……」

「ルシエンヌさん、ヒウガルさんたちはちゃんと務めてくれました」

「あ……」


 フォローを行う。ヒウガルさんたちは表情で『ありがとうございます』と伝えてくる。俺も表情だけで、『気にすんな』と気持ちを送った。ルシエンヌさんはヒウガル組を見て数回頷くと、


「そうなのか、よくやった、ヒウガルと皆!!」


 ルシエンヌさんに褒められたヒウガルさんたちはヴィーネとエヴァ組のルシエンヌさんたちに温かく迎えられて和気藹々となった。


 が、直ぐにアクセルマギナとヘルメが、


「そこの部屋の中に【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】が居ます!」

「はい、出入り口の正面には立たないように!」


 と注意しながら前に出た。

 ヘルメは、


「が、一先ずの勝利。しかし、観客席も安全とは言えないので注意しましょう」

「「はい」」

「ん」


 ヘルメとアクセルマギナはリサナとキサラに寄る。

 ミレイヴァルとヴィーネとエヴァも、皆に近寄って次々にハイタッチをして喜び合っていた。


 そのまま美女軍団は暫しの談笑タイムとなる。

 キサラとヴィーネは【剣団ガルオム】の副長たちを救った時と逃げた【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の魔剣師の追跡時のことを語る。


 そのキサラが、一歩前に出て俺を見て、


「時間にして数十分前後だと思いますが、かなりの激しい戦闘が行われていたようですね――」

「おう」


 頷いたキサラは【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の部屋の向かい側を凝視。


「部屋の中からの迎撃の痕……」

「あぁ、ヘルメが注意したように、出入り口の正面に立てば魔刃や遠距離攻撃の嵐だ」


 【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の連中が俺たちに向けて色々放った結果、向かいの低い壁の殆どが消失し、傷付き、崩れ掛かっている。

 しかも宙空が歪んで、その宙に火の筋のようなモノが多数走っていた。


 観客席と四階を守る結界が崩壊し掛かっている?

 それとも空間が変異し、次元に傷?


 部屋の中にいる【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部が放った攻撃の中には空間に作用するほどの威力を持つものがあったということだ。


 しかし、観客席の周囲の空間が変なことになっているが、客たちは平気な様子。


 逃げていない。

 むしろ、武器を構えて此方の様子を窺っている。


「あの観客たち……【闇の八巨星】の関係者なら敵でしょうか」

「ん、場慣れした手練れ。普通の客ではない……」


 アクセルマギナとエヴァは低い壁の近くに少し移動していた。


「賞金稼ぎや傭兵の線もありますね。【天凜の月】に賞金でも賭けられたのかもしれないです」


 ヴィーネは翡翠の蛇弓バジュラを構えている。


 その皆に向け、


「……敵かもな。ま、敵だとしても、【テーバロンテの償い】のメンバーがあっさりと死んだから、様子見だろう。そして、俺たちに戦いを挑まないなら、無視だ」

「はい……攻めてきたら先ほどと同じく……」

「ん」

「わたしたちも戦いましょう」

「「「はい、団長!」」」


 【剣団ガルオム】の方々はそう言いながら、観客席からこちらの様子を窺う多数の武芸者に対して得物を向けていた。


 剣呑な雰囲気だ。


「で、廊下で起きた戦いだが、説明しておく」

「「「「はい」」」」

「ん、聞きたい」


 キサラとヴィーネとエヴァにミレイヴァルとリサナに向け、


「【五重塔ヴォルチノネガ】の幹部ヒルと【ラゼルフェン革命派】の幹部ギュララは強かった。中でも、ギュララは恐らく<導魔術>系統で操作する四つの十文字槍と己の両手に十文字槍を装備した槍使いで、遠距離と近接戦闘を熟す強者。ヘルメとアクセルマギナがいたから勝てたようなもんだ」

「ふふ、ご謙遜を。閣下の強さあっての勝利ですよ」

「マスターの戦闘と分析の能力が高い故の結果ですね」

「ありがとう。その戦いの最中に<星槍・無天双極>のスキルを獲得した」

「<星槍・無天双極>? <召喚魔槍・無名無礼>と似たようなスキルでしょうか」

「ギュララが召喚しようとしていた輝く十文字槍と関係が?」


 俺とギュララの戦いを間近で見ていたヘルメとアクセルマギナがそう発言。


「その通り、あの時だ」

「魔槍杖バルドークを蹴って、召喚途中の輝く十文字槍に紅矛を衝突させていた際ですね」

「その時、魔槍杖バルドークは得体の知れない魔力を外に放出していましたが、その上昇していく魔槍杖バルドークは、まさに紅の一閃……または紅き龍が天に昇るが如くに見えました」


 ヘルメにはそんな風に見えたか。

 竜魔石を足の甲で蹴り上げた時だな。


「はい、ギュララの体から放たれていた魔力量と間合いと速度から、必殺技の武器召喚。それを魔槍杖バルドークが防ぎ、尚且つ干渉する形で輝く十文字槍の召喚を狂わせ、その空間を歪ませた直後、閣下は、その歪んだ空間から出ていた輝く十文字槍にハルホンクを衝突させるタックルを行った。その時、ハルホンクは輝く十文字槍を食べたというよりも、輝く十文字槍の術式ごと歪んだ空間のすべてを吸収したように見えました」

「ングゥゥィィ」


 肩の竜頭装甲ハルホンクが同意するように声を発した。


「……この肩の竜頭装甲ハルホンクは、一度ギュララの十文字槍を喰った反動で凄まじい衝撃波を発生させていた。だから、もしかしたら……とひらめいたんだ」

「ングゥゥィィ、アレハ、ウマカッチャン、ゾォイ……」

「あぁ、あの時、わたしたちだけを避けたような指向性を持った衝撃波……なるほど、素晴らしい! あの時からの閃きがスキル獲得に繋がるとは!」


 汎用戦闘型アクセルマギナも興奮していた。

 ヘルメも嬉しそうにヘルメ立ちを宙空で行いながら、


「――はい。その閃きも閣下の強さです」


 と発言。

 仙女が着るような水の羽衣を羽織うヘルメ。

 下は競泳水着のような肌と密着したコスチュームのインナーだ。


 ムチムチに張った巨乳はヘルメがポーズを変えるたびダイナミックに揺れていた。


「ふふ~」


 ヘルメ立ちが魅惑的すぎる。

 キサラが、そのヘルメ立ちを封じるように俺の目の前に立ち、笑みを見せて、


「……<星槍・無天双極>……強力そうなスキル獲得おめでとうございます。が、しかし、まだまだ一ずの勝利かと」


 キサラの発言に頷く。


「あぁ……」


 皆も気を引き締めるように視線を合わせていた。


「が、一先ずの勝利も勝利。ってことで勝利を祝うついでに、<星槍・無天双極>を披露しよう」

「「「はい!」」」

「ん、気になる!」


 右手に神槍ガンジスを召喚しながら廊下を走る。

 左足の踏み込みから<刺突>を繰り出す刹那――。


 <星槍・無天双極>を繰り出した。

 <刺突>中の神槍ガンジスの真上に銀色に輝く十文字槍が出現。

 十文字槍は凄まじい勢いで螺旋回転しながら直進し、神槍ガンジスの穂先を越えた。


 十文字槍は、前方の空間を十字に穿つが如く穂先から十字架の閃光を発していた。

 その閃光は十文字槍の穂先一点に集約。

 すると、十文字槍からパパッと閃光のような巨大な花が咲いたような魔力の花弁が拡がり、十文字槍を中心とした巨大な花曼荼羅のような形へと変化した。


 十文字槍は巨大な花曼荼羅を吸収。

 花々の魔力を散らしつつ回転しながら直進する――。

 真下の廊下には無数の花弁の欠片のような魔力を受けて無数の傷跡が発生していた。


 <闇穿・魔壊槍>とは違うが似た印象で凄い光景だ。


 このまま<星槍・無天双極>の十文字槍が直進したら突き当たりの壁と部屋に柱や観客席などに、フクロラウドの魔塔の構造を支える骨組みまでをもぶち抜いてしまうかもしれない――。


 俄に『<星槍・無天双極>よ、消えろ』と意識すると輝く十文字槍は空間の中に吸い込まれるように消えた。

 <星槍・無天双極>は消え方も<闇穿・魔壊槍>の巨大な闇のランスと似ている。


「……これが<星槍・無天双極>!」


「「「「おぉ」」」」


 皆、驚く。


「<闇穿・魔壊槍>のような新しい必殺技ですね!」

「<召喚魔槍・無名無礼>とは異なるようですが、武器召喚にも近い印象を受けました」

「あぁ、<闇穿・魔壊槍>と同じく槍として掴めるとは思う。が、それは今度だ……」

「はい」

「さて……」


 俺は【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の部屋を見る。

 と、キサラはダモアヌンの魔槍に魔力を込めながら穂先を【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の部屋に向けた。


 キサラは重心を少し落とす。

 <補陀落ポータラカ>の構えを取った。


 そのキサラは、


「大きい部屋があるほうの壁には魔印が刻まれている。防御は頑丈そうですが……」


 そう喋ったキサラは『ハッ』とした表情を浮かべてからダモアヌンの魔槍を降ろして体勢を元に戻す。


「すみません、キルアスヒと交渉を行うのでした。そして、施設の破壊はできるだけ無いほうが良い……失礼しました」

「気にするな。俺も<神剣・三叉法具サラテン>で踊り場の斜め横の壁をぶち抜いてしまったし、今も<星槍・無天双極>を使い廊下に傷を作ってしまった。そして、ここはフクロラウドの魔塔。派手な破壊行為は、フクロラウド・サセルエルやフクロラウド側の幹部が敵に回ってしまうかもしれない」

「はい。だからこそ、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを召喚されたのですね」


 頷いた。

 皆、再び、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを見る。


 【剣団ガルオム】の方々は、眉毛が下がり不安そうな顔色となった。


「「……」」

「やはり……魔導人形ウォーガノフや傀儡兵ではない……」

「魔界沸騎士長ゼメタス様とアドモス様……」

「シュウヤ様は、鋼鉄の骸骨騎士、魔界騎士を召喚した?」

「【天凛の月】はそこまでの戦力を持つのか……」

「……魔界騎士のような髑髏騎士がシュウヤ様の部下……」


 【剣団ガルオム】の方々は畏怖している。

 威風堂々たる姿のゼメタスとアドモスを見たら、こうなるのは当然か。


 今はゼメ&アドのことは説明せず、キサラたちに向け、


「盾を活かし、正攻法の物理で行く」


 キサラと<筆頭従者長選ばれし眷属>たちは頷く。

 キサラが、


「要人が利用する部屋と壁は、踊り場と防御構造が異なるかもです」


 ヴィーネも、


「そうですね。ここはフクロラウドの魔塔です。そのフクロラウドが大魔術師ケンダーヴァルならば、【白鯨の血長耳】の最高幹部ファスが繰り出していたような遠距離攻撃を防ぐ魔法などが部屋に施されてある可能性は高い」


 そう語ると、大きな部屋の出入り口を凝視して、


「中にいる【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部の反応は十名程。魔素の探知を鈍らせる、または察知を防ぐ魔道具が展開されていると仮定すれば……数は倍と考えても良さそうですね」


 皆、頷いた。

 キサラとミレイヴァルとリサナに向け、


「キサラが追ったであろう魔剣師は廊下に出た際、そこの出入り口で倒した。で、三階からの急襲はなかったようだな」

「はい」

「波群瓢箪を下に転がす準備はしていましたが、何もナシです!」


 リサナはそんな罠を考えていたのか。

 リサナの三角帽子から突き出た鹿角は可愛い。

 そのリサナの半透明な半身と巨乳さんに自然と目が行くが、ミレイヴァルに視線を移した。ミレイヴァルは頷いて、


「下から上がってくる者は皆無でした」


 そのミレイヴァルの言葉に頷いて、踊り場付近を見てから、


「四階は特別な部屋と観客席ってことかな」


 そう発言。皆が頷いた。


 観客席側を警戒していたエヴァは振り向く。

 大きな部屋の出入り口と魔界沸騎士長たちを見て、


「ん、立派になった魔界沸騎士長たち格好良い! もうシュウヤから状況を聞いた?」

「「――聞きましたぞ!」」


 ゼメタスとアドモスは脇腹から魔力を噴出させて喜びをアピール。

 渋いが可愛く見える。ゼメタスは、


「我らの敵は【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】のキルアスヒ!」

「ん、〝輝けるサセルエル〟のことも?」

「「ハイッ、聞きましたぞ!」」

「にゃお~」


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスがゴツい声音で派手に語る。

 その間にも相棒の触手に兜を撫でられていく。

 その様子は、渋い魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスなだけに、シュールだ。


「ん、ロロちゃん、ゼメタスとアドモスと会えて嬉しそう」

「にゃあ~」


 黒猫ロロはゼメタスとアドモスを弄るのを止めると、トコトコと歩いて魔導車椅子に座るエヴァの足下に移動し、エヴァをジッと見て、


「にゃお」


 と鳴いていた。

 優しそうに微笑んだエヴァは己の太股を掌で叩き、


「少しの間、ここに来る?」


 黒猫ロロは、


「ンンン」


 そう鳴いてエヴァの太股の上に跳躍していた。

 戦闘装束の太股の上に乗った黒猫ロロは体を捻り回る。

 寝床を作ろうとしているが、エヴァの新衣装の上だから上手く寝床を作れないでいた。

 エヴァは微笑むと、両太股を少し広げて、溝を作って上げていた。


 その股の溝に体を嵌めた黒猫ロロさんは、満足そうだ。

 エヴァも嬉しそうに微笑みながら、黒猫ロロの頭部を撫でていた。


 もう、二人を見ているだけで癒やされる。


 一方、ルシエンヌさんと【剣団ガルオム】の方々は相棒とエヴァのことよりも、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスに首ったけ。


 ゼメタスとアドモスの体から噴き上がる魔力のような蒸気を見て、それぞれが反応。

 すると、ヴィーネがゼメタスとアドモスと【剣団ガルオム】の方々をチラッと見てから、俺に、


「……ご主人様、室内戦なら魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの活躍は間違いないですね」


 盾使いのゼメタスとアドモスを紹介するように話す。

 頷いて、


「あぁ、大きな部屋だが、出入り口は一つだからな」

「「――我らにお任せあれ!」」

「ゼメタスとアドモス、まだ進まなくていい」

「「――ハッ」」


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの動きに釣られて前進していたヴィーネは、


「ふふ、ゼメタスとアドモス、ご主人様から魔界セブドラのことは聞いたか?」

「閣下から、それは後に回すと言われました」


 ゼメタスとアドモスとヴィーネは俺を見てきた。

 頷きを返し、ヴィーネとアイコンタクト。


 ヴィーネへのアイコンタクトに『〝列強魔軍地図〟とミトリ・ミトンに鬼魔人と仙妖魔たちの軍のことは、後だ』


 という意味を込めた。ヴィーネは頷く。


「そうでしたか、分かりました。ゼメタスとアドモス、よろしくお願いしますよ」

「「ハッ」」


 そのヴィーネに、


「四階に上がった際に襲撃は?」

「ありました。左右の廊下から攻撃を受けました」

「ん、結界のようなモノがあった」

「ありましたが、エヴァ様とヴィーネ様が倒してくれました!」

「ヴィーネ様とエヴァ様は強かったです」

「「はい」」

「ルルゥ」


 ルシエンヌさんと【剣団ガルオム】の方々がそう発言。

 イフアンと黒き獣トギアも返事を寄越してきた。


 ヴィーネに、


「襲撃してきた連中には【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】がいたか? それとも他の【闇の八巨星】の幹部?」

「強者の二名は組織名は告げず、バルミュグの名を告げていました。襲ってきた大半の者が『名目八封破りだ! 死ね!』、『お前たちは、バルミュグ様の敵!』と叫びながら襲い掛かってきました。その全員が漆黒のローブを着ていた。そのことから、殆どが【テーバロンテの償い】か【闇の教団ハデス】のメンバーでしょう」


 漆黒のローブか。

 ルシエンヌさんたちもヴィーネの言葉を聞いて一斉に頷く。


 頷いてから、


「バルミュグの名が出たのなら確実に【テーバロンテの償い】のメンバーだな」

「はい。あ、ご主人様、もしや他の【闇の八巨星】の幹部と話を?」


 ヴィーネはそう聞いてきた。

 俺の物言いから察したか、勘が鋭い。


「おう、話をした。強者ギュララとヘルメたちが戦っている間の【闇の八巨星】連中の会話を聞いていた際……【十刻アンデファレウ】と【龍双ハボ・リゾン】の幹部が俺に話しかけてきた。中でも【龍双ハボ・リゾン】の一殺槍ザトクさんは話が分かる方で、カザネが俺に向けて語っていた〝盲目なる血祭りから始まる混沌なる槍使い〟の言葉を知っていた。更に【剣団ガルオム】と【天凛の月】と争いたくないと語ってから、盟主のリゾン様とココノ・トウドウという名の幹部に、俺たちのことを知らせると告げて去った」

「そうでしたか……」

「ん」


 エヴァとヴィーネは気まずい顔色となるが、【龍双ハボ・リゾン】の方を倒してしまった?

 が、たぶん、大丈夫だと思うが……。


「ヴィーネたちの廊下側にも、【闇の八巨星】のいる大きな部屋があったんだろう?」

「はい。わたしたちが【テーバロンテの償い】の連中と戦っている間、【闇の八巨星】がいる部屋の出入り口から、わたしたちと漆黒のローブの者たちが戦う様子を見ているだけで、争いに加わろうとはしなかった。このことからも、【闇の八巨星】も一枚岩ではないことは確実です」


 自然と頷いた。

 【天衣の御劔】のミクライと【五重塔ヴォルチノネガ】のヒルは、互いに殺してやると言い合っていたからな。


 【ラゼルフェン革命派】の幹部ギュララも武闘派だった。

 ヴィーネは話を続けて、


「しかし、正確なメンバーの判別はできなかった。ご主人様と会話をした【十刻アンデファレウ】と【龍双ハボ・リゾン】のメンバーとも争って倒してしまったかもです」

「この状況だ。気にするな」

「ん、皆武闘派、強者と戦って死ぬことも厭わない者が多い印象だった」

「もし【十刻アンデファレウ】と【龍双ハボ・リゾン】のメンバーと争いになっても仕方がない。【剣団ガルオム】以外の闇ギルド、賞金稼ぎ、客も、すべてが敵だと思って行動しよう」

「「「はいっ」」」

「にゃお~」

「ピピピッ」


 皆が返事を寄越す。


「俺たちの方も説明しとく。階段の踊り場にキサラとミレイヴァルとリサナを残してから四階に上がって直ぐに争いとなった。その四階には〝名目八封〟という名の結界が展開されていたようだ。相棒の肉球マークが宙空に浮かぶ反応を示していた。最初に攻撃してきたのは【天衣の御劔】と【ラゼルフェン革命派】と【闇の教団ハデス】の幹部たちだと思う。その後、そこの観客席から漆黒のローブを着た【テーバロンテの償い】のメンバーが乱入してきた。それは黒豹ロロが倒した」

「ンン」


 エヴァの太股の上にいた黒猫ロロがそう鳴いてヴィーネにドヤ顔をアピール。

 黒猫ロロはエヴァの太股から離れて、ヴィーネに向かう。


「あ、はい、ふふ」

「ンン――」


 黒猫ロロはヴィーネの脛に頭部をぶつけていく。

 すると、ルシエンヌさんが、


「いつもフクロラウドの魔塔の至る所で争いが起きていますが、【闇の八巨星】以外の組織員が四階に侵入したら排除される仕組みがあったのですね」

「【剣団ガルオム】は、この四階に来るのは初めてなのか」

「はい。サセルエル夏終闘技祭の見学は何回かありますが、初めてです。更に、〝輝けるサセルエル〟は奪われましたが、〝輝けるサセルエル〟の入手も初めてだったのです」


 だろうな……。

 頷いてから、ヴィーネとエヴァに視線を向けた。


「戦った【テーバロンテの償い】の面や皮膚や表情は見えたかな」

「ん、漆黒のローブを着た者たちは皆、魔族か魔人、角が生えている存在もいた。皮膚の色は赤黒い者と焦げ茶色の者、白っぽいエルフのような者もいた」


 魔族は魔族だが、肌の色は様々か。

 そのヴィーネたちが戦った【テーバロンテの償い】の連中のことを、もう少し聞くか。


「漆黒のローブを着た連中の人数は、どの程度?」

「最初は四人組の魔剣師、二人の盾持ちの手斧使い、二人組の斧槍使い、四人の射手でした。後から観客席側から乱入してきた連中もいました」


 結構な数だと思うが、ヴィーネとエヴァがいれば大丈夫だったか。


「――ピピピッ」


 音を鳴らすガードナーマリオルスは俺の周囲を回り続けている。

 そのガードナーマリオルスに、


「どうした」

「ピッ――」


 ガードナーマリオルスは円盤の頭部が俺を見るように止まる。

 小さいパラボナアンテナが棒となって角度も変化。


 その棒の意味は敬礼か。

 アクセルマギナたちが思わず微笑む。


 そのガードナーマリオルスの球体胴体の小さい一部の表面だけが窪むと、その窪みから片眼鏡のようなカメラレンズが真上にニョキッと伸びてきた。


 カメラレンズの先端からホログラム映像の投影が始まる。

 ホログラム映像には、ヴィーネとエヴァ組が映った。


 第六の踊り場で皆が話し合う。

 俺の『四階に上がって来い』の血文字も映った。


 ヴィーネたちは声を掛け合い気合いを入れると階段を上がった。


 ガードナーマリオルスのカメラワークには迫力がある。


 四階に上がった直後、ヴィーネから報告があった通り、左の廊下の奥から短剣や魔刃が飛来。


 その短剣や魔刃を繰り出してくる連中は、全員が漆黒のローブを着ていた。


 魔導車椅子へ移行したエヴァはヴィーネに何かを語る。


 思わず、隣で見ているエヴァに視線を向けた。


 エヴァは微笑んで、


「ん、この時、左はわたしが対処するってヴィーネに告げたの」

「はい、このように、わたしは右に出た」


 目の前のエヴァとヴィーネは視線を合わせると互いに頷いた。


 銀色の眼と紫色の瞳は真剣だ。

 そんな二人の<筆頭従者長選ばれし眷属>からホログラム映像を一時的にストップさせているガードナーマリオルスに視線を向ける。


「ピッ」


 パラボラアンテナを拡げて返事をするガードナーマリオルス。

 可愛い。


 ガードナーマリオルスはホログラム映像に筋模様を作るとホログラム映像を再生した。


 そのホログラム映像を再び注視。


 エヴァとヴィーネは互いに声を掛ける。

 エヴァは<念導力>を体から放出させながら左斜め前方に出た。


 左右の車輪を、右、左と交互に出す。

 車輪と床からキュッキュッと音が聞こえてきそうな機動で格好良い。

 魔導車椅子に座りながら横回転を行うと、車輪の外面の中心に薄い溝が発生、その溝から円盤の金属刃が回転しながら飛び出た。


 その回転力の高い円盤の金属刃は飛来中の短剣と魔弾を縦に両断し、廊下を直進――。


 二人の魔剣師と盾持ちの手斧使いと二人の射手の武器と防具と体を両断して倒していた。


 凄まじい威力だ。


 しかし、新たな魔刃を横に受けた円盤の金属刃は方向がズレた。


 円盤の金属刃を覆っていた<念導力>の紫色の魔力も薄まって天井へ向かう。


 エヴァの円盤の金属刃の<念導力>を、強力な魔刃で削いだのは……。

 【テーバロンテの償い】だと思われる強者の魔剣師。


 すると、ガードナーマリオルスが、そのカットマギー的な強力な魔刃を繰り出してきた魔剣師に向け、体から針のようなエネルギー弾を飛ばした。


 が、そのエネルギー弾の針は、魔剣師に届く前に魔剣師が発した<念導力>のような魔力を浴びて溶けながら宙空で消失。


 魔剣師は前進し、ガードナーマリオルスとエヴァに向かう。

 体から<念導力>を発していたエヴァは前進。


 周囲に金属の粒を無数に出していた。

 その金属の粒を溶かして扇状に展開させると、魔剣師が繰り出した魔刃を、その扇状の金属の盾で防いで、ガードナーマリオルスを守る。


 同時にエヴァは怒ったような表情を浮かべてガードナーマリオルスを叱る?


 珍しい。いや、それだけ真剣なんだろう。

 背後には【剣団ガルオム】の方々がいるからな。


 そんなエヴァを見ていると、心が熱くなった。


 エヴァが操作していた円盤の金属刃は天井のリブヴォールトに突き刺さり止まっている。


 エヴァは退いた魔剣師を追わず、紫色の魔力の<念導力>を強めると、天井に突き刺さっていた円盤の金属刃を引き寄せる。


 腕で掴める位置に戻ってきた円盤の金属刃を、瞬時に魔導車椅子の車輪の中へと吸い込ませていた。


 魔導車椅子武術と言える位に魔導車椅子の扱いが上手いエヴァは、背後のヴィーネの声に応えるように体を浮かせると、魔導車椅子をパッと分解させて溶かす。


 魔導車椅子の金属類だった液体金属は、エヴァの骨の足に吸着されて金属の足へと変化を遂げると、エヴァは、その金属の足の爪先から優しく床に着地を行う。


 両手の袖の中から新しいトンファーを伸ばす。


 トンファーの八角の面から刃が出る。


 更に、龍の形をした魔力が、トンファーの刃と八角の面に絡むように飛翔していく。


 エヴァは新しいトンファーを構える。

 素敵で格好良い。


 ガードナーマリオルスも素晴らしい映像を録画してくれた。ホログラム映像のエヴァは<黒呪強瞑>を発動したと分かる。


 一緒にホログラム映像を見ている現実のエヴァに、


「この時、<黒呪強瞑>を使用した?」

「ん、使った。見た目は分からないと思うけど、どうして分かったの?」

「エヴァの表情と体の使い方は、なんとなく」

「ん、エッチング大魔王?」

「おうよ。それより、円盤の金属刃の速度と威力が向上しているし、新しいトンファーも似合う」

「ん、ありがとう! 魔剣師は強かった。後、円盤の金属刃は白皇鉱物ホワイトタングーンと極めて珍しい金属の〝光闇の奔流〟を使ったこともあると思う」


 俺のスキル名と同じ名前の〝光闇の奔流〟という光と闇の金属か。


 何気に光魔ルシヴァル専用金属と呼べるか?

 ミスティの試作型魔白滅皇高炉を用いた際の研究の賜物。

 そのミスティは、今ごろは玄智の森産と呼べる黄金遊郭の金属を溶かし、新型魔導人形ウォーガノフのゼクスの内部に組み込んでいるのかな。


 色々と実験を重ねている頃だろうか。


 そして、レベッカ&ユイたちは〝黒呪咒剣仙譜〟から<黒呪強瞑>などを得ての訓練だろう。


 ミナルザンも〝黒呪咒剣仙譜〟を学んで強まった。


 異界軍事貴族の銀灰猫のメトと銀白狼のシルバーフィタンアスと一緒だと思うディアとドロシーも眷属化すれば〝黒呪咒剣仙譜〟で強化できると思うが、今は後回しだ。


 そう考えながら、一端ホログラム映像を見るのを止めると、ヴィーネが、


「魔剣師は中々強かった。が、エヴァの敵ではなかったようですね」

「ん、ヴィーネのほうも敵ではなかった」

「はい」


 ヴィーネとエヴァは微笑む。


 そのホログラム映像ではない、目の前にいるエヴァはチラッと【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の連中がいる大きな部屋と廊下を見てから、


「名目八封破りは結構頻繁に起きていたようだから、相手は油断したのかも」


 そう語るエヴァの表情は厳しくなった。


 俺はガードナーマリオルスのホログラム映像を再び注視。


 エヴァと魔剣師は暫し拮抗状態となったが、エヴァが勝つ。


 今度はヴィーネのほうを見た。


 右側の廊下側にいる敵にはヴィーネが向かう。

 翡翠の蛇弓バジュラを使わず。

 右手に古代邪竜剣ガドリセスを握る。

 左手には新しい長剣を握っていた。

 その新しい長剣を片手半剣の大きさに変更しながら前進を開始。


 後の先を行うが如く、先に袈裟懸けを仕掛けてきた魔剣師の剣を古代邪竜ガドリセスで防ぐと、新しい剣を突き出し、その魔剣師の胸を突く。


 怯んだ魔剣師に、肩を畳ませる機動から振るった赤鱗の鞘が目立つ古代邪竜ガドリセスで、魔剣師の体を斜めに殴りつけて倒していた。


 そこからエヴァとヴィーネの活躍を交互に見た。


 <筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネとエヴァは実力を隠すことなく、襲撃を続ける漆黒のローブを着た連中を倒しまくる。


 まさに無双劇。

 戦闘の短編映画を鑑賞している気分となった。


 四階踊り場の確保はルシエンヌさんたちに任せたようだな。

 【剣団ガルオム】の方々も、そのホログラム映像を見ながら感心。

 ガードナーマリオルスの便利な機能に驚き、


「先ほどの戦闘をこうして見ることが可能な魔道具とは、意識を持つ魔道具。エセル界の意識を備えた魔機械か、特別な聖櫃アーク……」


 【剣団ガルオム】の方々に、宇宙文明のナ・パーム統合軍惑星同盟や、ナ・パーム星系の端の【辺境】と【深宇宙の領域】の話をしても理解は難しいかな。


「魔機械は魔機械だが、ま、ガードナーマリオルスは優秀なんだ」

「はい、ふふ」

「ガードナーマリオルスが居れば戦いが有利に運ぶ、素晴らしい」


 ルシエンヌさんがそう発言してくれた。

 頷く。女性の団員の中にはガードナーマリオルスに近付いて触ろうとしている方もいる。


 幸運をもたらすマスコットの縫いぐるみに見えている?


 ルシエンヌさんもガードナーマリオルスを凝視中。


 そのガードナーマリオルスに向け、


「ガードナーマリオルス、映像をありがとう」

「ピピッ」


 ガードナーマリオルスは片眼鏡のようなレンズと小さいパラボラアンテナを回し畳む。


 レンズとパラボラアンテナで感情を表していた。

 その返事の仕方が可愛い。


 そのガードナーマリオルスは精細なコヒーレントのホログラムを消去すると――。


「ピピッ」


 音を鳴らしてアクセルマギナに近付くと、体からプラグのようなモノを伸ばし、そのプラグの先端をアクセルマギナの脇腹の小さい穴に挿して繋がった。


 あんな機能があったのか。

 有線だから情報伝達速度が速いとか?


 一瞬でアクセルマギナとガードナーマリオルスは情報を共有?

 とりあえず、ヴィーネとエヴァにも、


「ヴィーネとエヴァも報告をありがとう」

「はい」

「ん」


 ミレイヴァルとキサラとリサナとヒウガルさんを見る。

 ヒウガルさんは素早く敬礼をしてくれた。


 そのヒウガルさんたちにも被害がなくて良かった。

 キサラとミレイヴァルとリサナ組の【剣団ガルオム】の方々が一斉に敬礼。ヒウガルさんの視線は熱い。


 ヴィーネたちと行動を共にしていたルシエンヌさんと副長テアルビさんたち団員は、少し、そのヒウガルさんの様子を見て驚いていた。


 エヴァの横にいるイフアンも無事。

 ルシエンヌさんたちに、


「ルシエンヌさんと、【剣団ガルオム】の方々。そこが【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の連中が屯する部屋だ。これから入る予定だが、中からの攻撃は激しい。その対策に、この二人を魔界セブドラから召喚した」


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを見たルシエンヌさんは怯えながら、「魔界から召喚、はい……」と微かな声で発言。

 怖がる気持ちは分かるが説明はしとこうか。


「名は、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモス。俺の眷属だ」

「眷属……【天凛の月】の盟主は……」

「おう、魔界セブドラにも通じている。が、魔界の神々の使いっ走りではない。そして、人族ではない。光魔ルシヴァルという種族。光属性を有した新種の吸血鬼ヴァンパイアだと思ってくれていい。【天凛の月】の幹部はほぼ光魔ルシヴァルだ」


 俺の言葉を聞いた【剣団ガルオム】の方々は表情を強張らせる。

 ルシエンヌさんに笑みを送るが逆効果かな。

 ここで光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を使ったら、皆、更に恐怖してしまうだろう。


 ルシエンヌさんは、


「……分かりました」

「恐ろしくなったら、退いてくれていい」

「驚きましたが退きません。命の恩人のシュウヤさんと皆さん。【天凛の月】は【剣団ガルオム】のために動いてくれている。大恩です」

「「「はいっ」」」


 剣団ガルオムの方々の気合いの入った声だ。

 皆の熱い気持ちは先ほども聞いているから納得できる。


 正直、魔族も人族も関係ない。


 何事も心次第。


 頷いて、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを凝視しながら右手に夜王の傘セイヴァルトを召喚。


「夜王の傘セイヴァルト……」


 そう発言したヴィーネはチラッとルシエンヌさんを見る。

 それは嫉妬が混じった印象だ。


 本当にヴィーネは勘が鋭い……。

 さすがは偕老同穴かいろうどうけつの誓いをしただけはあるってことか?


 少し笑いながら<血魔力>を意識――。

 <血道第四・開門>――。

 <霊血装・ルシヴァル>を発動。


 一瞬でルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を装着。

 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼はまだ使用せず。


 戦闘型デバイスから獄星の枷ゴドローン・シャックルズを左手で取り出し、


「タルナタム、出ろ――」


 自動的に左手の掌の上に浮かぶ獄星の枷ゴドローン・シャックルズからタルナタムが現れる。

 同時にコントロールユニット的な半透明の魔法陣が出現――。


 戦闘型デバイスを意識して武器を出し、タルナタムに装備させた。

 狂言教のシンパがフクロラウドの魔塔にいる可能性はあるが、まぁ、その時はその時だ。


 タルナタムの一腕に紺鈍鋼の鉄槌。

 タルナタムの二腕に魔槍グドルル。

 タルナタムの三腕に魔剣ビートゥ。

 タルナタムの四腕は、掌から八支剣。


「「「「――ひぃあぁ」」」」

「「おぉ~」」


 大柄のタルナタムの出現に【剣団ガルオム】の方々は悲鳴を発した。

 が、観客席の連中は喜ぶように歓声を発していた。


 得物で拍手を行う小柄の槍使いと大柄のメイス使いは魔族か?

 四階席の特等席だし、あの連中は、一人一人が強者……。


 タルナタムは、【剣団ガルオム】の方々に目を向け、


「――主! 敵はこいつら!?」


 気にせず、<血鎖の饗宴>の準備はしとこう。


「タルナタム待て。エヴァとヴィーネの背後の方々は味方だ。組織の名は【剣団ガルオム】。お前は、その【剣団ガルオム】に所属している方々を守ることが仕事。この幅広い廊下が戦場になるかもしれない。天井も高いから、タルナタムも余裕で動けるだろう。で、詳しい指示はミレイヴァルや<筆頭従者長選ばれし眷属>たちに聞け」

「ワカッタ! 一杯の子分を得たタルナタム! 光魔のgeneral!!」


 発音がちょいと面白い、ジェネラル、将軍か。


「――ということで、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の部屋に乗り込む! 先鋒はゼメタスとアドモス。中堅に俺と相棒とヘルメが行く」

「ん、わたしたちは?」

「背後の大将はエヴァ、キサラ、ヴィーネ。後詰めで残るか、部屋に突入するかは自由だ。その判断は各々に任せる」

「分かりました。状況次第ですね」

「袋小路となりえる左右の廊下と観客席は要注意です。わたしはここで後詰めたちと残ります」


 キサラとヴィーネの言葉に頷いた。

 エヴァは、


「ん、わたしも、ここでシュウヤたちを見ながら判断する」


 頷く。


「おう。廊下に残ってもらう後詰めは、ミレイヴァル、タルナタム、アクセルマギナ、リサナ、ガードナーマリオルスだ。【剣団ガルオム】の方々も後詰めをよろしくお願いします」

「「「「はい」」」」

「ミレイヴァルは、<筆頭従者長選ばれし眷属>たちの動き次第だが、基本、タルナタムとリサナへの指示を頼む」

「ハッ、任せてください!」


 薄桃色の瞳が鋭く光った。


「おう! 元破迅団団長の指揮官としての統率にも期待している」


 ミレイヴァルはハッとした表情を浮かべる。

 熱い眼差しを寄越す。

 小鼻と唇に、顎のEラインが美しい。


 唇の襞に女性としての魅力を感じた。


 そのミレイヴァルの背中には、赤色の十字架が集結していた。更に左手の甲の上には、紫色と黄土色の炎が浮かんでいる。


 <霊珠魔印十字架>もある。


 左手は暴神ローグンの力をミレイヴァルが取り込んでいる証拠。


 聖槍シャルマッハも輝きを強めていた。

 <召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>は発動している。

 隠天魔の聖秘録で成長したミレイヴァルは元々が強い。

 元破迅団団長で破迅槍流開祖であり、十字聖槍流や閃皇槍流なども学んでいる強者の槍使い。


 <星槍・無天双極>なら、十字聖槍流を学べたりするかもしれない。

 そのことは言わず、



 そこで【剣団ガルオム】の方々とルシエンヌさんに視線を向けた。


「ルシエンヌさん、粗方指示を出したが、俺と一緒に乗り込むか?」

「……足手纏いになるかもしれませんが、良いのですか?」

「キルアスヒの面を見たいだろう?」

「……はい。この手で復讐を果たしたい……」

「なら、俺の傍に来い」

「……ぁ、はい。ありがとう……あの、わたしのことはルシエンヌと呼び捨ててください」


 頬を朱に染めているルシエンヌが可愛い。


「分かった、ルシエンヌ。俺が守るから傍に寄れ」

「ぁ……」


 体をビクッとさせるルシエンヌ。

 俺の左手を見て、微かに頷くと、小走りに寄ってきて、左手を掴む。

 ぎゅっと握ってから腰を寄せた。

 ルシエンヌから汗の臭いが漂う。

 その顔は真っ赤だ。


 ルシエンヌの好意は分かる、素直に嬉しい。


 が、今は警戒を促すように、


「ルシエンヌ、覚悟は良いな?」

「わ、分かっています」

「良し」


 笑顔から厳しい表情をルシエンヌに送る。


 ルシエンヌも武の心を理解。


 直ぐに【剣団ガルオム】の団長の顔となった。

 真剣な表情を浮かべて魔剣の握りを強めたルシエンヌは振り向いて、


「――副長テアルビ、皆を頼むぞ。【天凛の月】の幹部の皆様の邪魔にならないよう最適解の行動を取るのだ!」

「「はい!」」

「任せてください!」


 【剣団ガルオム】の方々は元気が良い。

 振り返ったルシエンヌの眼差しには火が宿る。


 レベッカの蒼炎を思い出すぐらいの熱さがあった。


 そして、元気と言えば、前にいる魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが、


「――アドモス、私たちを召喚してくださった閣下の期待に応えるぞ!!」

「分かっている! 我らは閣下の盾――」

「――閣下の盾! それは最高の誉れ!!」


 魔法の骨盾と名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙で叩き合ってから、


「「――おおぉッ!!」」


 互いの頭部を衝突させる。

 頭突きだけでもかなりの衝撃波が生み出されていた。


 二人の鍬形の兜は傷がつかないどころか魔力が強まる。

 甲冑全体が黒光りして星屑のマントが揺らぐと、少しだけその星屑のマントが分裂して戦ぎ、二人の兜が槍烏賊のように変化。


「任せたぞ、俺の格好良いゼメタスとアドモス!」

「「――ハイ! 先鋒は魔界沸騎士長にお任せあれぇ!!!」」


 凄まじい気合い声をハモらせる魔界沸騎士長ゼメタスとアドモス。


「ふふ、勇ましく頼もしい魔界沸騎士長ゼメタスとアドモス。今の時点で<精霊珠想>の加護を超えた防御能力の高まりを感じます」


 ヘルメは真面目に真剣な表情で語る。

 そのヘルメは、俺にウィンクを繰り出して、唇から水飛沫のハートマークを寄越してきた。


 素直に可愛い。


 その間に魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが持つ大きい骨盾からフォースフィールドのような虹色の魔力が出る。

 虹色の魔力と共に骨盾自体も分厚くなる。


 ゼメタスとアドモスは、その大きい骨盾を掲げながら前進。


「にゃご~」

「ん、がんばって、ゼメとアド!」


 エヴァの声を聞いている魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスはゆっくりと歩きながら、体から魔力を噴出させていた。


 黒猫ロロは一瞬で黒豹に変化。

 俺も少し遅れて前進し、ヘルメを見ながらアイコンタクト、


「ンン――」

「――ヘルメ、<精霊珠想>の用意を頼む」

「はい――」


 ヘルメを左目に格納――。

 俺の傍にいるルシエンヌは、


「え!? 左目に!? 凄い!」


 そのルシエンヌを守るように夜王の傘セイヴァルトを拡げた。


「行くぞ」

「はい――」


 腰に鋼の柄巻ことムラサメブレード・改を装着しておく。

 そのまま【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の部屋に突入。

 刹那、滑りの感覚を得た、ここにも結界が――。

 すると、槍の奥義書でもある腰の魔軍夜行ノ槍業が震える。

 悪魔模様の珠玉を争う魔族騎士たちの装丁が煌めいた。


『使い手、左奥に魔人武王の弟子がいるぞ!!』

『おいぃ、ここでこの反応か』

『……我が弟子、心を強くもて』

『妾の出番かえ』

『……チッ、こうもレプイレスやグルドに嫉妬を覚えるとは……魔人武王の弟子、ハディマルスの反応をここで得るとは思わなかった。使い手、魔界騎士グレナダも模倣した秘技を学びたいだろう。早く断罪槍の槍譜を何処かで見つけるか、さっさと八大墳墓を目指してほしいものだぞ……』

『カカッ、イルヴェーヌが、珍しい。が、左奥の魔人武王の弟子に気を付けるのじゃ。ハディマルスは七魔七槍の怪魔人と呼ばれておる』


 と、魔軍夜行ノ槍業の方々が思念で告げてくる。

 たしかに、左奥には、四眼で大柄の漆黒鎧と真っ赤な魔槍を持つ存在がいた。


「――敵が入ってきた!」

「「「押し出せ、進ませるな! 殺せ!」」」

「げぇ!? なんだ? 魔界騎士か?」

「二体の鉄骨騎士? 上等戦士ではない!」

「魔界の髑髏騎士かよ! 魔将級か魔侯爵級か!?」


 凄まじい数の魔弾、魔矢、短剣、長剣、投げ槍が飛来して、ゼメタスとアドモスの大きい骨盾と衝突を繰り返していた。


 火炎のような火花がゼメタスとアドモスが持つ骨盾と槍烏賊のような頭部から迸る。

 大きな部屋は右側に階段が備わる。

 二階もあるのかよ、道理で、幅広い廊下は天井が高かったわけだ――。

 一階は広間、寝台とかはない。奥にあるのは玉座か? そこの壇にいる【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部連中が遠距離攻撃を繰り出している。


「「【闇の教団ハデス】と【テーバロンテの償い】の連中はなにをしてやがる!」」

「<キジルの刃>が効かねぇ!!」

「<ボシアドの魔弾>が!!」

「<クシュアルの魔刃>が効かねぇ、なんだぁ、あの虹の盾はァ――」

「まだまだ撃て、放ち続けろ!!」

「……闇のブレジンスキーは倒れたか……何者だ?」


 左奥の四眼の槍使いがそう呟く。

 あの四眼が、ハディマルスか?


「おい、背後には大きな傘を持つ野郎もいるぞ、あぁ、あの女は、【剣団ガルオム】の!!!」

「なんだ、と……ルシエンヌか?」

「はい、あれは確かに【剣団ガルオム】の……しかし、神聖なる乙女と関係した連中が、魔界セブドラで力を持つ存在と契約を結べるとは到底思えませんが……」

「……【闇の八巨星】のどこに雇われたのかは不明だが、【剣団ガルオム】に肩入れした武闘派集団がいるってことだろう。サセルエル夏終闘技祭を逆に利用した【豹雷都市トトラキラ】への侵入目的かもしれん」

「では、【剣団ガルオム】は、〝ガルオムの剣譜〟などの秘密を譲渡した可能性が?」

「ふんっ、状況的にそうだろう。【剣団ガルオム】も大人しくしていれば良いものを……ハディマルス、俺の背後は任せる……」


 あの短槍使いが、キルアスヒか。

 闇剣とあるように剣を召喚するタイプかもしれない。

 短い金髪で見た目は人族っぽいが……魔人系かな。

 そのキルアスヒは歩いてきた。衣服は黒を基調とした戦闘装束。


 キルアスヒとハディマルスが断トツで<魔闘術>系統が巧みと分かるが、敵は皆が強者か。


「閣下――前に出ないでください――<エイルアル魔封防御>」

「「「閣下を守れ――」」」

「――この牙豚前将軍ホドカンズが、キルアスヒ様を守る!! 骸骨騎士は俺が倒そう――」

「右剣の鬼殺ギュレイス――左剣の星殺エイグル――」

「ふっ、私にお任せを――」

「はい、キルアスヒ様! アヤツラはすべて私が仕留めて見せましょう――」


 筋肉隆々でオークと人族のハーフだと思われる斧使いが先頭だ。

 そのオーク系の斧使いは、蠍のような形の魔力を体から発している。


 オーク系の斧使いは魔界セブドラの神か諸侯を信奉しているようだ。

 背後の魔剣師か魔術師も強そうだ。


 ゼメタスとアドモスは凄まじい数の魔弾、魔矢、短剣、長剣、投げ槍を弾き続けながら直進を続けていた。


 さすがの魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスだ。


 すべての遠距離攻撃を骨盾と骨盾から放出されている虹色の魔力で防いでいる。


 前進してきたオーク系の斧使いは、両手に持つ魔斧を掲げながら歩きに変え、ゼメタスとアドモスの骨盾から放たれている虹色の魔力を防いでいた。


 虹色魔力は衝撃波的な波動攻撃となっている?



「――チッ、厄介な盾だ、前に進めねぇ――仲間の攻撃の威力がありすぎるからか!?」


 斧使いが叫ぶ。


 ゼメタスとアドモスも、歩く速度が鈍くなった。


 正面は大丈夫として、右側から飛来してくる魔刃と魔矢は強烈だ。


 部屋の右の射手と魔弾を放つ存在を先に潰すか――。


「ゼメタスとアドモスとルシエンヌにロロ、俺は右に出るぞ」

「はい――」

「「ハッ、正面はお任せを!」」

「にゃご」

「皆、部屋の中は二階もある、入るなら上と左奥の槍使いに気を付けろ――」

「「「はい!」」」


 <筆頭従者長選ばれし眷属>たちなら各自攻撃には対処できるだろう。

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