九百五十五話 風槍流『案山子通し・突き』と【ラゼルフェン革命派】のギュララ

 

 飛来してくる四つの十文字槍か。

 <導魔術>系統と予測する十文字槍の扱いは巧み。

 <闘気玄装>を強めた。


 <血想槍>は使わず。

 最初は四槍流で対抗しよう――。

 <血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動――。


 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。


 己の防護服に魔竜王の素材を活かす。

 右肘に孔を空けた七分袖に近い防護服に変化させる。


 ――<導想魔手>も再発動。


『イモリザ、第三の腕に――』


 右肘のイモリザの小さい肢が第三の腕として瞬間的に伸びた。


 そして、右手が握るのは神槍ガンジス。

 左手が握るのは仙王槍スーウィン。

 第三の腕が握るのは聖槍アロステ。

 <導想魔手>の歪な魔力の手が握るのは聖槍ラマドシュラー。


「――四槍だと!?」


 ギュララは驚いたが、両手が握る二つの十文字槍の柄を上げて前進。


 ギュララの動きに合わせ、神槍、仙王槍、聖槍、聖槍の穂先の角度を変える。


 左右と真上から、急所を狙ってきた四つの十文字槍の攻撃を神槍ガンジスの螻蛄首と仙王槍スーウィンの柄と聖槍アロステの穂先と聖槍ラマドシュラーの柄で受け弾き続けながら前進し、ギュララとの間合いを詰めた。


 背後の四つの十文字槍とは距離が出来た。

 三つ目のギュララは得物の穂先越しにわらい、


「――速くて強い!」


 と発言しながら<黒呪強瞑>系統か別の<魔闘術>系統を強めてきた。


 ギュララが持つ二つの十文字槍から闇色の魔力が膨れ上がる――。


 と、


「<極穿・冥々双突>――」


 両腕ごと槍と化すように十文字槍を突き出してきた。


 俄に――。

 第三の腕が握る聖槍アロステで<光穿>。

 <導想魔手>が握る聖槍ラマドシュラーで<光穿>を繰り出す。


 聖槍のダブルの<光穿>が十文字槍の<極穿・冥々双突>と衝突。


 穂先と穂先が互いの力を示すように、衝突した箇所から凄まじい火花が散った。


 そのまま両腕を押し込む。

 ギュララも槍使いらしく俺と同じ動きで前進。


 重低音と金属音が連続的に響く。


 二つの聖槍と二つの十文字槍の穂先と螻蛄首が連続的に衝突を繰り返す。


 第三の腕と<導想魔手>の魔力の腕が上がる。

 ギュララの両腕も上がった。


 ギュララの<黒呪強瞑>系統の印が目立つ胴体が空く。


 同時に両足付近に<生活魔法>の水を撒く。

 そこから<水神の呼び声>と<水月血闘法>を連続発動――。


 加速状態から――。


 右手の神槍ガンジスと――。

 左手の仙王槍スーウィンで――。


 <水雅・魔連穿>を繰り出した。


 ギュララのガラ空きとなった胴体を神槍ガンジスと仙王槍スーウィンの穂先が連続的に穿った。


 ギュララの胸に無数の風穴が空く。


「ぐぁぁ――」


 ギュララは体を仰け反らせ吹き飛ぶ。

 胸の風穴から間欠泉の如く血が噴き上がった。


 が、ギュララは両手の十文字槍を離していない。


 三つ目も鋭い。

 両足で床を削り衝撃を殺すと、


「まだまだァ――」


 と横に移動。胸元の傷が回復。

 やはり回復スキルを持つ。


 壁に八つ当たりをするギュララ。


 それを見ながら、俺の背後から迫る四本の十文字槍を察知。


 <黒呪強瞑>を発動――。

 続けて――。


『羅、力を貸してもらう』

『はい』


 ――<瞑道・瞑水>。

 水の魔法衣で加速を得ながら前進――。

 ギュララの表情に怯えが見えた。


 背後から迫る四本の十文字槍の相手はしない――。


『――イモリザ、戻っていい』


 同時に<導想魔手>と第三の腕が握る二つの聖槍を消去した。


 両手の武器も消す。


 無手となった俺を見たギュララは血を吐き捨て、


「――舐めるな!」



 と発言。

 紫色の魔力を体から発し、加速を強めた。

 ――<縮地>のようなスキルか?


 俺の加速速度と同じか。 

 先の怯え顔はフェイク。


 俺をやや上回る加速で迅速に間合いを詰めてきたギュララは強い。


 その思いで、


「なめてねぇ、常に本気だ――」


 そう発言。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚。


 背後に<導想魔手>を送る。

 ギュララが操る四つの十文字槍を<導想魔手>のパーで防ぐ。

 その<導想魔手>は一瞬で四つの十文字槍により幾重にも切断され貫かれて消えた。


 が、素早く生成し直した<導想魔手>に茨の凍迅魔槍ハヴァギイを握らせた直後――。


 <攻燕赫穿>――。


 爆発ゾーンはわざと少しズラすイメージだ。

 背後からドッという音が聞こえた。


 <導想魔手>ごと、茨の凍迅魔槍ハヴァギイを消す。


「――お見事! あ、まだ四つの十文字槍はあります!」

「にゃお~」

「はい、四つの十文字槍と距離を取っただけでしょう。マスターの狙い通りですよ。あの十文字槍は自由に召喚可能なようですが、消すことは自由ではないようですからね」

「あ、それは気付きませんでした。さすがアクセルマギナ!」


 三つ目のギュララは足を止めた。

 そして、今のヘルメとアクセルマギナの会話を聞いて、


「……チッ、しかし、槍使いのシュウヤ。お前は背後に目でもあるのか? <魔眼・獨網>――」


 不意打ちのつもりか、魔眼を発動するギュララ、更に片腕が握る十文字槍で、


「<極穿・逸衝>――」


 突きスキルを繰り出してきた。


 一瞬、視界がぐらついたが、構わず<柔鬼紅刃>を発動――魔槍杖バルドークの穂先の形を紅斧刃に変化させた。


 ギュララの一つの目が魔槍杖バルドークの変化に気付く。


 が、遅い。


 その紅斧刃を活かすように魔槍杖バルドークで<龍豪閃>を発動――下から振り上げた<龍豪閃>と突きの<極穿・逸衝>が衝突。


「――ぐっ」


 ギュララの片腕ごと持ち上げるように十文字槍を真上へ弾いた。


 ――ギュララは後転を行う。


 更に、もう片方の腕が持つ十文字槍を斜め下に振るったのか、下から上に回転する<龍豪閃>の魔槍杖バルドークの穂先に衝撃を与えていた。


 ――構わずアーゼンのブーツの底で床を強く蹴ってギュララを追う。


 前に出ながら<血龍仙閃>を繰り出した。


 魔槍杖バルドークが血を纏うが如き回転斬りがギュララの頭部に向かう。


 ギュララは仰け反る。


 同時に右手が握る十文字槍を斜めに上げ――。

 紅斧刃の<血龍仙閃>を避けながら十文字槍の柄を紅斧刃に衝突させて、<血龍仙閃>を受け流すことに成功していた。


 <血龍仙閃>を往なすとはやるな。


 ギュララは反撃の石突を寄越す――。


 その石突の攻撃を、引き回転させていた、元の穂先に戻った魔槍杖バルドークの柄で弾いて防ぐ。


 直ぐに竜魔石の石突を返した。

 ギュララは屈んで、竜魔石の攻撃を避けた。


 そのギュララの足を狙う下段技の<牙衝>を繰り出したがギュララは跳躍――。


 <牙衝>を避け上段から十文字槍を振り下ろしてきた。


 俺は半身の姿勢に移行。

 魔槍杖バルドークを少し上げて、螻蛄首で振り下ろされた十文字槍の矛を受けた。


 ギュララは着地。

 そこを狙う――。


 両手握りの魔槍杖バルドークでギュララの首を突くフェイクから、横へとチョンッと紅斧刃を動かし左からギュララの首を狙う。


 が、ギュララの左手が握る十文字槍の柄で防がれた。


 続けて両手握りの魔槍杖バルドークを活かすように右から魔槍杖バルドークを振るう。


 紅斧刃でギュララの胴体を撫で斬ろうと狙ったが、これまたギュララの右手が握る十文字槍の柄で防がれた。


 ギュララは反撃の回転機動へ移行。

 十文字槍を斜め下に振るい回す。


 二つの十文字槍で半円を描くような連続した下段斬りを繰り出してきた。

 俄に左足を上げ、下段斬りの初撃を避けた。


 ――イメージは一本足打法!


 右足だけで立つ俺の足を刈ろうと二撃目の十文字槍が足に迫った。


 その十文字槍目掛けて――。

 魔槍杖バルドークを下へ九十度回転させた紅斧刃を十文字槍へと衝突させて弾く。


 その両手が握る魔槍杖バルドークをぐわり、ぐわりと、風車の車輪形の羽根の如く――回し続けながら、足下に迫った連続の下段斬りを魔槍杖バルドークで弾き続けた。


 火花がパッパッと足下に散る。


 同時に変形風槍流『案山子通し』に移行――。


 両手握りの魔槍杖バルドークを肩で担ぐ。


 ギュララに対し体の側面を見せる機動の風槍流『案山子通し・突き』を実行――。


 肩で支えた魔槍杖バルドークを前方に伸ばし紅矛で<刺突>――。


 続けて、普通の突き。


 ギュララの上段と下段に中段へと<魔闘術>の配分を変化させながらスキルの<刺突>を織り交ぜた突き技を繰り出し続けた。


 ギュララに防御を意識させる。

 迅速に突いていく。


「チッ、小刻みに――」


 風槍流の『案山子通し』は畑に立つ案山子と似たスタイルで、応用度が高い。


 この両肩に乗せた魔槍杖バルドークは端から見たら砲台に見えるかもしれない。


 そして、この両肩に乗せた魔槍杖バルドークの紅斧刃で――防御重視のギュララの片手が握る十文字槍を引っ掛け、ぐるっと回し、ギュララの反対の手が握る十文字槍の上に載せてやった。


 十文字槍の柄と柄が衝突し僅かな金属音が響く。


「――ぐ、これは人族の風槍流か!?」

「――そうだ」


 ギュララは二つの十文字槍で重量挙げを行うようなポーズで魔槍杖バルドークの螻蛄首に押さえ込まれている。

 そのギュララは両手の十文字槍を消して体勢を整えたいと分かるが、消したら消したで、魔槍杖バルドークの柄か紅斧刃が当たるから無理だろう。


 そして――それをさせるつもりはない。

 その二つの十文字槍の柄が鎖骨辺りに密着して窮屈そうな体勢のギュララに向け――。

 両肩に乗せた魔槍杖バルドークを少し引いて、再び<刺突>を繰り出した。


「ングゥゥィィ、熱イ――」


 魔槍杖バルドークの柄で肩の竜頭装甲ハルホンクが擦れたか。


「――ぐぁ」


 二つの十文字槍の柄を叩くように衝突した紅矛の<刺突>。


 衝撃を殺せないギュララは体勢が崩れた。


「肩に斧槍ふそうを載せたまま穿ってくる槍武術……風槍流にそんな技があったのか……」


 ギュララは動揺――。

 そこを突く。

 至近距離で無数の<仙羅・絲刀>を繰り出した。


 ギュララの鎧のような傷だらけの皮膚に<仙羅・絲刀>の糸のような魔刃が突き刺さりまくる。


「――ぬがぁ、なんだ、この糸は!」

「閣下、背後――」

「にゃご!」


 俺の不意を討とうとした背後から迫った四つの十文字槍――。


 <超能力精神サイキックマインド>でその四つの十文字槍を吹き飛ばす。


 が、傷だらけで魔槍杖バルドークに押さえ込まれていた目の前のギュララから爆発的な魔力が発生。


「またかよ、勘が良すぎだ! が、そこだアァ――<召喚星槍・無天双極>――」


 新しい十文字槍の召喚か――。

 真上の歪んだ空間から出ようとする輝く十文字槍は十字架に見える。 


 <火焔光背>を実行――。

 ギュララの体から放出されている魔力と真上の歪んだ空間ごと周囲の魔力を吸い寄せながら――。


 王級:水属性の《スノー命体鋼・コア・フルボディ》――を発動。

 同時に肩に載せていた魔槍杖バルドークを下ろしながら、その魔槍杖バルドークの紅斧刃と柄をギュララに押し付け、あわよくばギュララの体を縦に紅斧刃で斬ろうと狙う――。

 一瞬で、《スノー命体鋼・コア・フルボディ》の冷気が、魔槍杖バルドークと十文字槍を越えてギュララの体に伝わり凍り付いた。


 驚いたギュララ。


「ひぁ――」


 と悲鳴。

 更にギュララの二つの十文字槍を押し付けている縦方向の魔槍杖バルドークを少し持ち上げ――。


 <魔闘術の仙極>――。

 <仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>を連続的に発動。


 俺の体近くに発生した霧の内部に白銀色の鱗模様が行き交うのを見ながら、魔槍杖バルドークを持ち上げるように、石突の竜魔石を右足の甲で真上に蹴った。


『グォォ』


 魑魅魍魎ちみもうりょうの魔力と思念を飛ばしてきた魔槍杖バルドークが一気に持ち上がる。


 紅斧刃の一部がギュララの体の表面を少し縦に削った――。


 真上に移動した魔槍杖バルドークは歪んだ空間から出かかっている輝く十文字槍と衝突――。


 輝く十文字槍は勢いを失う。

 空間ごと消滅しそうだ。


「――マジか、召喚に干渉!?」


 ギュララは驚天動地か?

 が、ギュララは一転。

 魔槍杖バルドークの圧力が無くなったことで、二つの十文字槍の握り手を解放させるように両腕を弛緩しかんさせつつ、独特な笑みを浮かべていた。


 油断はいかん――。


 と、アキレス師匠やホウシン師匠の言葉を思い出しながら素早く<玄智・陰陽流槌>を発動。


 ※玄智・陰陽流槌※

 ※玄智武王院技術系統:上位肘打撃※


 水飛沫を発する肘の連続打撃がギュララの十文字槍の柄を握る指と腕と体を潰すように入る。


 打撃を繰り出す両腕から水の陰陽魚が発生し、その水の陰陽魚が踊っていた。

 ギュララは血を吐きつつ吹き飛んだ。


「げぁぁ――」


 衝撃波のような陰陽太極図の水飛沫も両腕の周囲に拡がり散る。


 その幻想的な水の景色を強引に消すように真上へ跳躍――。

 蒸発するような音を立てている慣性で落下中の魔槍杖バルドーク目掛けて前転から体を捻り――。


 魔槍杖バルドークに回し蹴りを浴びせた。


 蹴られた魔槍杖バルドークはギュララに直進――吹き飛んでいたギュララの胴体に魔槍杖バルドークが突き刺さった。


「ぐぇあぁ」


 ギュララに刺さった魔槍杖バルドークを<超能力精神サイキックマインド>で引き寄せる。


 戻ってきた魔槍杖バルドークを掴んで消去。

 胸から血が噴出しているギュララは床に倒れた。


 一応――。


 <仙玄樹・紅霞月>。

 <闇の千手掌>。


 倒れたギュララに<仙玄樹・紅霞月>の月の魔刃が突き刺さっていく。


 間髪を入れず――。


 発動した<闇の千手掌>の挙動は見ない。


 召喚途中で魔槍杖バルドークと<火焔光背>で干渉を受けた輝く槍が変な方向に出現しているのを確認。


 <導想魔手>を蹴って、その輝く槍に右肩でタックルするように近付く――。


「「え?」」

「ンン、にゃ?」


 皆の驚く声と床からギュララの体が潰れた異音が交じる重低音が響く中――。


「ハルホンク、喰え――」

「ングゥゥィィ――」


 輝く槍に触れた肩の竜頭装甲ハルホンクと輝く槍から雷鳴がとどろいた。

 紫電のような放電を起こした輝く槍は肩の竜頭装甲ハルホンクの口の中に消えていく。


 肩の竜頭装甲ハルホンクの魔竜王の蒼眼が、これでもかと強く輝いた。


 ――そのまま両足で着地。

 肩の竜頭装甲ハルホンクが銀色の光を放つと、


「ふふ、ハルちゃんの魔力が、あ、閣下、お見事です!」

「おう」

「あの三つ目を! マスターの槍武術は凄まじい!」

「にゃお~」


 黒豹ロロが触手で掴んでいる魔雅大剣を振るう。


 触手骨剣と魔雅大剣はどっちのほうが良いんだろう。


 と思った直後――。


 ピコーン※<星槍・無天双極>※スキル獲得※


「……ウ、ウマカッチャン! ゾォイ!!」


 おぉ、スキルを獲得!

 すると、背後と左の廊下の奥から皆の気配を察知。


「ヴィーネたちが来たか」

「はい」

「少し遅かったので、【天衣の御劔】などの【闇の八巨星】の幹部と戦闘があったかもですね」

「あぁ」


 うなづきつつ闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを意識。


 <魔界沸騎士長・召喚術>を実行。


「あ、魔界沸騎士長たちを……」


 頷いて、


「フクロラウドは俺たちを見ていると思うが、いいさ。室内戦はゼメタスとアドモスが得意だからな」

「はい、頼もしい存在です」


 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトから、いつものように魔力の糸のような魔線がほとばしり、床に付着。


 床から沸騰音が響く。

 と、その床から魔力の煙か蒸気のようなモノが大量に噴出した。


 デデデン、デンッ、デデン。


 と音がなるように出現した魔界沸騎士長ゼメタスとアドモス。


 片膝を突けて頭を垂れている。 

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