九百五十三話 『「――ウマカッチャン!!」』


 銀光を発する十文字槍は速い――。

 <投擲>スキルと魔法を合わせたような遠距離攻撃だ。

 

 十文字槍の機動を見ながら急ぎ魔槍杖バルドークを右手に召喚。


 黒猫ロロとヘルメは横に出た。

 

 アクセルマギナは階段を素直に下がったと把握。

 最初に飛来した銀光を発する十文字槍は、ヘルメが斜め上に伸ばした液体で包んで止めると、手元に引き寄せ自分の槍にしてしまった。

 凄い。


 棒手裏剣は、黒猫ロロが対処。

 首から伸びた触手骨剣が上下に動き、棒手裏剣を跳ね返す。棒手裏剣は縦に回転しながら、<投擲>してきた野郎の元へと逆に飛来していく。


 その男は長剣を盾代わりに戻ってきた棒手裏剣を防ぐと、廊下の奥に退く。


 俺は右側に出ながら二つの魔刃を魔槍杖バルドークの柄で弾いた。

 

 魔刃はなかなか重い。

 そして、


「臨機応変に対応――」

「「はい!」」

「にゃごっ!」

 

 魔刃を寄越したローブを着た男との間合いを詰めようとした。

 が、既にローブを着た男は壁際へと退いていた。


 その僅かの間に天井に両足を付けて重力に逆らっている槍使いが、


「ほぉ、変わった水の使い手がいるな。<極穿・十文字星槍>――」


 両手の真上に目映い銀光が目立つ十文字槍を四つ生み出す。

 その槍使いの男は黒髪で小麦色の双眸。

 が、額に第三の目を持つ。


 魔族か人族のハーフか、亜人系。

 

 その四つの内三つの十文字槍を一度に<投擲>してきた。

 三つの<投擲>された十文字槍の狙いは俺。


 ――<血道第三・開門>。

 ――<血道第四・開門>。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>。

 ――<霊血装・ルシヴァル>。

 <闘気玄装>を発動――。

 飛来してくる三つの十文字槍を凝視。

 

「――閣下!」

「心配は要らん」

「はい!」


 ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を活かすように――。

 一つの十文字槍の穂先を噛み付いて防いだ。


 同時に右斜めに前進し、二つの十文字槍を魔槍杖バルドークの柄で上下に弾きつつ右斜め前方に魔槍杖バルドークを出す。

 右の壁際に退いたローブを着た男が再度飛ばしてきた三つの魔刃を穂先と螻蛄首で弾いた。


 噛み付いて止めた十文字槍の穂先は噛み砕かず、柄を左手で掴んで引く。

 肩の竜頭装甲ハルホンクに、その十文字槍の穂先を当て、


「ハルホンク、喰え――」

「ングゥゥィィ――」


 銀光を発している魔力がたんまりと宿る十文字槍を喰った肩の竜頭装甲ハルホンクからゲップ音が響いた。

 

 右肩から左肩へと肩の竜頭装甲ハルホンクが移り変わる。


 左右両方の肩に竜頭装甲の幻影が召喚されたような印象を覚えた直後、


『「――ウマカッチャン!!」』


 銀色と紫色の竜の頭部を模したよう形の衝撃波が両肩から飛んだ。


「「「な!?」」」

「「え?」」

「にゃご!?」

「「ぐぁ――」」


 指向性の高い衝撃波が周囲の驚く敵を弾き飛ばしていた。

 驚いた。


 魔竜王っぽい幻影だが、魔界の竜の幻影か? 


 というかヘルメと黒猫ロロに背後のアクセルマギナも驚いている。しかも、ハルホンクが繰り出した特異な衝撃波は、ヘルメと黒猫ロロがいる空間だけに干渉したように風の波紋のようなモノを起こしていた。

 

 天井を歩いていた魔族系の槍使いと廊下にいた男と右側にいた魔刃を寄越してきた男は、ハルホンクが繰り出した衝撃波を喰らってダメージを受けていた。


 同時にアクセルマギナの魔銃が火を噴く。

 炎の線にも見えるエネルギーの弾丸が、天井に両足を付けていた魔族系の槍使いと衝突、衝撃波を体に喰らって動きを止めていた魔族系の槍使いは、アクセルマギナの魔銃が放つエネルギー弾をもろに喰らった。


 魔族系の槍使いは宙に浮かせている十文字槍を動かし、エネルギーの弾丸の一部を防ぐが、すべての弾丸は防げない。


 幾筋もの血飛沫が、その魔族系の槍使いの体から発生。

 血の色は赤いが、黒色と紫色が混じる。

 見た目は人族の部分が多いから魔族ではないのかもしれない。


 その魔族系か分からない槍使いは、己の血飛沫を吸い寄せつつ、両手に十文字槍を再召喚。

 

 濃密な魔力を己の体から発していた。

 <魔闘術>系統、<黒呪強瞑>か、を強めたようだ。


 三つ目の邪族にも見える魔族らしき存在は、防御用の魔法陣を目の前に発生させる。

 

 十文字槍を振るいながらエネルギーの弾丸を弾くことが増えていく。


 が、さすがにエネルギーの弾丸の数に押されて天井を両足の裏で削りつつ後退した。


「アクセルマギナ、ナイスだ。そのままヘルメと相棒のフォローを続けろ。と、先に【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の部屋の場所を教えてくれ」

「――二つ先の大きな部屋です。十文字槍を扱う魔族系の真下辺りです。魔剣使いと槍使いの二人、あ、射手と長剣使い、四人、の新手が、その部屋から出てきています。あの場所に魔術師は逃げ込んだ。あそこが【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】が屯している部屋です」

「了解――」


 そう応えている間にもアクセルマギナの魔銃が火を噴く。

 ジャムらない近未来の魔銃で良かった。


 右側の魔刃を寄越してきたローブを着る男は立ち上がっている。そのローブを着る男はローブを叩き、頭部を左右に振って、肩の竜頭装甲ハルホンクが発した衝撃波の影響を治そうとしていた。


 そのローブを着る男に、


「お前らも【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の者か?」

「その見分けもつかねぇから攻撃を受けるんだよ――」


 と魔刃を寄越す。

 その魔刃目掛けて前進――。

 突き出した魔槍杖バルドークの穂先で、魔刃を貫き、ローブを着た男との間合いを詰める。


 槍圏内から左足で踏み込み――。

 <刺突>と見せかけた――。

『<神剣・三叉法具サラテン>、出ろ――』


『承知――』


 左手の運命線のような傷から飛び出た<神剣・三叉法具サラテン>の沙の神剣が、ローブを着た男の胸ごと四階の壁を突き抜ける。


 その<神剣・三叉法具サラテン>の沙の神剣は柄頭を見せるように飛来。


 神剣状態の沙は、柄頭で俺の顔を突くように、眼前で止まる。


『器、あいからず戦闘センスが極めて高い。このまま思念で妾を操ってみせよ』

『お、おう』


 古風で真面目な雰囲気の沙に少し戸惑いを覚えた。

 素早く<神剣・三叉法具サラテン>を意識し、廊下を走る。

 

 三つ目の魔族か亜人の槍使いはかなり強い。


 それに加えて、魔剣使い、槍使い、射手、長剣使いの二人、斧使いが、相棒とヘルメとアクセルマギナと戦っていた。


 その廊下の戦いに<神剣・三叉法具サラテン>の神剣の沙を連れて乱入――。

 思念で操作する<神剣・三叉法具サラテン>を扱う技術は、完全に<導魔術>系統に見えるだろうな。

 そして、射手は厄介――。

 この<神剣・三叉法具サラテン>の神剣状態の沙と意識を共有する感覚、その思念操作を強めた。


 刹那、神剣の沙からギュンッ――と音が聞こえた瞬間、その神剣が直進――。


 射手の体を穿っていた。

 ――よっしゃ。

 その様子を見ながら床の上を滑るように<仙魔・桂馬歩法>を実行。

 飛び跳ねるイメージの歩法で相棒の横から飛び出た。


 触手が縦横無尽に振るわれている間を、敵さんは見事な機動で、突いて、払い、避け、相棒の触手の動きに対応できていた。


 が、隙は逃さない。

 触手から出た骨剣を斧で弾き、体勢が崩れた斧使いとの間合いを零とした瞬間――。

 斧使いの寸胴な胴体に向けて――<闇穿>を繰り出す。

 斧使いの斧の刃を削るように斧使いの心の臓を魔槍杖バルドークの穂先が穿った。


「ぐぇぇ――」


 倒れる斧使い。回復能力は低い。

 死んだだろう。


 斧使いの心臓を貫いた魔槍杖バルドークを消しながら肩の竜頭装甲ハルホンクを意識――右手に白蛇竜小神ゲン様のグローブを装着した。


 直ぐにグローブから白蛇竜小神ゲン様の短槍に変化させる。



「ンン――」


 相棒の声に合わせて前に出ながら、その白蛇竜小神ゲン様の短槍を左手に移し、右手に神槍ガンジスを召喚。


 伸縮自在の触手を迅速に振るいながら黒猫ロロは黒豹に変化を遂げると、右側の壁を走る。


 相棒を狙う長剣使いに<神剣・三叉法具サラテン>を向かわせて、その長剣使いの腹を穿つ。


 同時に、ヘルメが十文字槍を空中に縫わせて止めているのを視界に納めつつ、「喰らえや――」と気合い声を発しながら近付いてきた槍使いが繰り出した<刺突>を凝視。


 神槍ガンジスの穂先と螻蛄首で――。

 その<刺突>を受けるがまま、左手の白蛇竜小神ゲン様の短槍で<白蛇竜異穿>を実行。

 左腕が一つの槍となったが如くの、前に出る白蛇竜小神ゲン様の短槍から、白蛇竜の魂魄を宿した複数の魔刃が飛び出ていく。


「ぐぇ――」


 槍使いの腹を白蛇竜小神ゲン様の短槍が突き抜けた。

 槍使いの下半身が消し飛ぶように大量の血飛沫が床に拡がった。


 その血飛沫を吸い寄せる。

 同時に白蛇竜小神ゲン様の短槍をグローブに戻した。


 絶命している槍使いの上半身が、床に落ちていく。

 

 死体は戦いの邪魔になる――。


 素早く神槍ガンジスに魔力を通し、槍纓を蒼い刃に変化させた。

 その蒼い刃は光を帯びたピアノ線、もとい、フィラメントのように煌めきながら靡く。


 一瞬で、槍使いの上半身を斬り刻んだ。

 血飛沫が周囲に散り、血の視界となるが――時間を戻すように俺の周りに絡み付く血飛沫を吸い取った。


 常闇の水精霊ヘルメと互角に戦う十文字槍を出し続けている強者の魔族か亜人を見ながら、新手を倒し続ける相棒とアクセルマギナを見た。


 ――刹那。


「――ケケケッ」

 

 足下から異臭と不気味な嗤い声が響くと、床から魔素が膨れ上がる。

 その床から、プシュァ――というガスの噴出音のような音が響くと、ドロドロとした闇の液体が現れた。

 ヘルメのような精霊か?

 床からドロドロとした闇の手がにゅるっと伸びて、足を掴まれた。

 

 更に、床からドロドロとした塊が持ち上がる。

 それは一瞬で大きな頭部となった。


 眼窩から半分融けかかったような眼球が見えた。

 ドロドロとした闇の巨人は口から気持ち悪い粘液のようなモノを吐き出し、更に、口を蠢かせると、


「これ以上好きにはさせねぇ――」


 そう人族の言葉を喋り――。

 闇の液体のようなモノに覆われた巨人が床から這い上がる。


 俺の片足は掴まれたままだ。

 闇の液体か粘土のようなモノが形成する闇の巨人は、俺の片足を潰しつつ持ち上げてきた。


「閣下――」

「皆、構うな、その十文字槍野郎を頼む」


 ――足が潰れて激しい痛みを覚える。

 逆さまの体勢となった。


 が、冷静に武器を雷式ラ・ドオラに変更した。


「にゃご~」


 相棒の心配する声に応えるように――。

 腕を上げながら『大丈夫だ』と意思表示を行う。


 同時に<水神の呼び声>と<仙魔奇道の心得>と<凍迅>を発動――。


 一瞬で周囲が凍る。

 俺の足を握る闇の腕も凍り付くとパサついて崩壊。

 

 その闇の腕から解放された瞬間に俺の片足は再生。


 ――良しッ。


「な、腕がぁ――」


 慣性落下中に、身を捻りつつ――。

 <滔天魔瞳術>を発動――。


 俺は、


「そのくせぇ息をそれ以上吐くな」


 と言いながら脊柱起立筋の魔力を強めた。


 さらに雷式ラ・ドオラを持つ腕と、その雷式ラ・ドオラへ魔力を送るように全身に力を溜めた。


「――!?」


 半身が凍り付いていく闇の液体に覆われた人型は<滔天魔瞳術>を喰らい動けず。


 <滔天仙正理大綱>――。

 <黒呪強瞑>――。

 <四神相応>――。

 <青龍ノ心得>――。

 雷式ラ・ドオラを持つ右腕に<青龍蒼雷腕>――。

 

 ゼロコンマ数秒も経たない間に――。

 スキルと恒久スキルを連続発動、意識――。


「どろどろ巨人、痛かった分だけ、お返しだ――」


 雷式ラ・ドオラを豪快に下から振り上げる。

 <雷水豪閃>を実行――。


 雷式ラ・ドオラの黄色の杭刃から水の雷が迸る――。

 水のチューブの中を電撃が走るようにも見える<雷水豪閃>が闇の液体に覆われた人型を真っ二つに両断。


 断面から内臓類だった肉塊が落ちていく。


 闇の液体の中身は人系の生物だったようだ。

 両足で着地――。


 闇のドロドロ巨人のようなモノが、まだ床に潜んでいるかもしれないと、床を警戒。


「闇のブレジンスキーが!」


 十文字槍を扱う魔族か亜人が、今倒した闇のドロドロを扱う巨人の名を告げていた。

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