九百四十二話 ロロのンン語の猫語とクナの笑顔
クナの持つ月霊樹の大杖が少し震えている。
そのクナは、眼前に幻想的な魔線が描く小型の魔法陣を幾つか発生させるが、一瞬でパンッと音を立てて弾けて消えた。
クナは、その魔法陣が消えた様子を見て、納得した表情を浮かべて、
「セナアプア……本当に上界の魔塔ゲルハット……魔術総武会の大魔法研究魔塔……」
そう語る。
少し感慨に浸る?
思い出に浸ると言ったほうがいいかもしれない。そんな印象を抱かせる。
そんなクナと目が合った。
<星惑の魔眼>を発動しているのか、目の彩りに黄色が増えている。
妖艶さが増したか。
そのクナが、
「シュウヤ様はヤヴァすぎる……グフフフ。そして、上界の、神の魔法力〝式識〟が薄いのは……変わらずですね」
ワザとらしく、俺にそう発言。
「あぁ、黄金の冒険者カードを入手してから、その式識の薄さは減ったように思えるがな」
「知恵の焔を吸収した黄金の冒険者カードの効果ですね。職の神レフォト様の他にも神界セウロスの神々がシュウヤ様を注視している証拠かもしれませんよ?」
「加護の一端か」
「はい」
クナは頷いた。
ルシェルはキョロキョロとペントハウス内を見ていた。
俺は硝子越しに、外の植物園と、その周りを飛翔しているアギトナリラ、ナリラフリラの管理人たちと、その管理人と戯れるアドゥムブラリを見てから、
「クナ、フクロラウドの魔塔に向かうが、どうする?」
「はい。ここはルシェルに任せて一緒に行きます。そして、闘技祭の戦いはお任せします」
「勿論戦いは俺が担当だ。そのフクロラウド・サセルエルは、破壊工作を行う組織に金を流す闇の大商人で、フクロラウド大商会とドラアフル商会のことも、少し前にキサラたちから聞いた。更に【ドジャック傭兵空魔団】も雇われることが多いと聞いた」
大魔術師スプリージオが雇ったドジャック傭兵空魔団から小型飛空艇デラッカーをもらっているが……。
「はい。フクロラウドは様々な闇の組織とコネを持つ」
「あぁ」
クナとルシェルは頷いた。
そのフクロラウドは八巨星の一人とも言われているし、クナが知る闇のリスト以上の大物。
クレインや俺たちの敵でもある邪教の【テーバロンテの償い】とも通じているなら、敵対する確率は非常に高い。
そのクナは、ルシェルを見て、
「ルシェル、手筈通り魔塔ゲルハットの転移陣設置に相応しい場所を探しておいてくださいね」
「え、あ、はい。この〝探雲精霊集ミヴァス〟と〝偽駕属破ハヴァオス〟に魔力を使い……<時探光厖>を使うのですね」
「はい、頼みますよ」
「師匠のように<時空の目>はないですから、自信はまだありませんが、はい」
「シュウヤ様の眷属様ですが、わたしの弟子のルシェルなら見つけられるはず」
「は、はい、お任せください師匠!」
「ふふ、その意気です。アドキンス家の娘、任せましたよ」
「はい!」
「転移ルームの場所か。ペントハウスにあれば便利そう。中層のバルコニーでも良いかな。あ、地下にも【幻瞑暗黒回廊】があるか」
そう発言している間にもクナは頷きつつ、ペントハウス内の背骨と頭蓋骨が囲う硝子のシャワールームとタンダール式のサウナに風呂釜を見る。
特に硝子張りのシャワールームを凝視。
ノズルも頭蓋骨だしな。
魔界セブドラの品なのは確実。
クナは怪しく微笑みつつ、
「骨ワンドで作られたシャワールーム。狂気の王シャキダオスの印がありますね」
「お、アドゥムブラリと同じことを。ヴィーネは、大魔術師が魔道具として利用していたと予想していたが」
過去、このシャワールームを見たツアンは、
「はい、たぶんそうでしょう」
「クナでも初見ではさすがに分からないか」
「そうですね、ある程度の予想はできます。魔力を奪うモノか与えるモノか。変性を促すモノか……内臓類が飛び出るような悪趣味なほうの予想もありますが、語りますか?」
「……語らなくていい」
「ふふ♪ はい♪」
「んじゃ、下に行くぞ」
「ン、にゃお~」
「にゃァ」
「はい♪」
「にゃ」
「メトちゃんという名ですね?」
「にゃ~」
「ふふ、よろしくです、シュウヤ様の眷属で、クナです。サイデイルの魔術師長という役職ですよ。【天凛の月】の魔術師長といったほうが良いのでしょうか」
「あぁ、どっちでもいい」
クナを連れて相棒を追う。
ルシェルはキッチンルームに移動していた。
歩きながら、そのルシェルに、
「ルシェル、レベッカから聞いていると思うが、サイデイルのフルーティミックスジュースを幾つか冷蔵庫に詰めといてくれ」
「はい、たくさん持ってきたので大丈夫です。一階の【アグアリッツの宿屋】にも運びますから」
「了解した。ラタ・ナリ、ラピス、クトアンなどの【天凛の月】の幹部もいると思う」
「はい、ご挨拶したいです」
離れた位置からルシェルと会話をしながらペントハウスの出入り口に移動。
クナと一緒に外に出た。
「ンン」
花々と蝶々と蜂のような虫に向けて、太股の毛をふるふると震わせている。
尻尾も立てているから、フェロモンを撒いているんだろう。
黒豹型なら、オシッコをブシャーッて噴出させることもあるが……。
「ロロ、ふみふみ体操は良いから、下に行くぞ」
「ンンン、にゃ、にゃ、にゃおぉ~、ンン、ンンン、ハハ、ハゲェ――」
な? はげぇ?
驚いて見ると、
虫が絡んできたから混乱しているようだ。
そのまま虫や蝶々から逃げるように庭を走り、小型飛空戦船ラングバドルを跳び越えながら黒馬ロロディーヌに変身を遂げていた。
「ロロ様は新しい言葉を学ばれた? そして機動が一段と早く……」
「あぁ、相棒のンン語は結構発展している」
「え?」
歩きながら笑って、
「冗談だ」
「ふふ」
そんな笑うクナの手を握り、魔塔ゲルハットの庭を駆けた――。
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