八百九十話 驚き桃の木山椒の木

 少し遅れて、白炎のメグ、メグ師範も跳躍してきた。


 その皆に向けて、


「大豊御酒と四神柱の魔力は無事に取り込みましたが、この短槍は、それとは別です」


 クレハさんは驚きつつ、「別……」と小声で呟く。

 シガラさんはクレハさんと目配せしてから、俺を見て、


「四神柱から槍を取り出しているようにも見えたが……」


 と発言。クレハさんは頷いてから、直ぐにエンビヤとイゾルデに挨拶していた。


 その間にダンが周囲を見回し、


「注連縄を腰に巻くデボンチッチと玄樹の珠智鐘の能力か?」


 俺は頭部を振るって、


「違う」

「……」


 メグ師範はエンビヤとイゾルデにノラキ師兄に軽く挨拶をしていたが、俺には無言。

 <白炎仙手>のことをしつこく聞いてくるかと思ったが、意外だ。

 シガラ師範と蓮の上で話をしていたようだった。その場で<白炎仙手>のことを聞いたのかもしれない。


 すると、エンビヤが、


「シュウヤの持つ秘宝クラスのアイテムが四神柱に反応したんです!」

「シュウヤ様が持つ王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードだ」


 イゾルデが皆に教えていた。


「……書物のような物を持っていたが、あれが王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードか」

「……あのアイテムですね」

「武王院会議では、そのアイテムについては語られていなかったが……」


 ダンがそう発言。

 

「シュウヤもすべてを説明しているわけではありませんから」


 エンビヤの言葉に頷いてから、


肩の竜頭装甲ハルホンクが吸収せずに体内に格納していた王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードは惑星セラで入手しました。最初は魔法書として買った品。そういった多次元や夢魔世界に惑星セラのことを説明しても、中々理解はできないかと思いましたから、武王院会議では説明はしなかった。しかし、ホウシン師匠とエンビヤには、夢魔世界の話はしています。イゾルデにも少し説明は行いました」

「うむ、惑星セラのことは聞いている。そして、シュウヤ様を水神アクレシス様は頼りにしているのだ。細かなアイテムのことなど放っておけ」

「了解した。いずれはシュウヤの知る世界のことを教えてくれるとありがたい」


 ダンがそう発言。


「分かった、いつか余裕があれば。俺も、ダンの墨色の魔力と大きな筆を槍のように扱う武術には興味がある」

「ほぉ、俺の風獣仙千面筆流に興味を持ったか。いつか風獣墨法仙帖と仙魔硯箱も見せてやろう。シュウヤが<風獣戯画>や<仙魔・風獣秘筆画>などを学べるかは分からんが」


 へぇ……風獣仙千面筆流は面白そう。

 大きな筆以外にも、ダンの腰には書物に道具がぶら下がっている。

 肘当てとかもあるようだ。


「そりゃ楽しみだ」

「……」


 シガラさんは無言。俺の言葉を待つようだ。

 俺と目が合ったシガラさんは黙って頷いた。


 俺も合わせてうなずく。

 

 顎髭といい、かなり渋い方だ。

 カルードを彷彿とさせる。

 そのシガラさんに白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄ごと拱手。


 挨拶をしてから――皆に分かるように――。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍を掌で再び回し始めた。


 すると、ダンが前に出て、


「槍使いとして新しい得物の確認を急ぐのは分かるが、得物の変化を見ている手前、気になって仕方がない! シュウヤ、もっと詳しくその短槍について説明を頼む! 今度風獣仙千面筆流に合う仙大筆を選んでやるから! なんだったら仙工大芸師を紹介してやってもいい!」


 ダンは結構必死だ。

 両目が俺の短槍を回す動きに合わせてぐるぐる回っていた。

 

 時折、十字と梵字の魔印が瞳に浮かぶ時がある。

 何かしらの鑑定眼、魔察眼系の能力か。クレハさんと戦う時に使用していたのかな。気付かなかった。


 大きな筆の扱いは一の槍の風槍流と似ていた部分があった。毛の質感を変化させる魔力の扱いも気になっている。


 その戦法に水墨画も学びたい。


 そして、習うには、毛先の材質を変化させるような特殊で大きな筆の入手が先か。ダンが言うには、仙大筆という名らしいが……。

 俺がそう考えていると、クレハさんが、


「槍も槍で気になりますが、エンビヤとイゾルデさんが語った王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードが気になります。そして、四神柱の反応のことも」

「わたしも、反応のことを少し詳しく聞きたい」


 クレハさんとメグ師範がそう発言。

 人差し指と中指の間で、短槍の柄を引っ掛けて止めてから、皆に、


「元々、この短槍は四神柱に象眼されていた白蛇竜小神ゲン様と似た硝子の欠片だった」

「凄い、白蛇竜小神ゲン様!」

「硝子が短槍に変化だと!?」

「おぉ、アイテム創造を可能とするアイテムが王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード。……玄樹の珠智鐘とも関係が?」

「玄樹の珠智鐘も多少は関係すると思いますが、大本は王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの能力かと……あ、俺自身の能力なども関係があるとは思います」

「……なるほど。神々の欠片が四神柱に眠っていたのか。それが王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードと反応したという流れか……」


 シガラさんがそう発言。


「はい。硝子の欠片が俺の持つ王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの書物、秘宝の神遺物と反応した結果……この短槍へと変化を遂げた」


 皆、白蛇竜小神ゲン様の短槍を凝視。


「四神柱に白蛇竜小神ゲン様のアイテムが埋まっていたなんてね」


 メグ師範は四神柱に視線を向けて、


「四神柱に白蛇竜小神ゲン様のアイテムが埋まっていたなんて……そしてそれは、昔から白蛇竜小神ゲン様の魂や魔力の欠片が宿っていたってことか……気付かなかった」

「わたしも知らなかった」

「はい、お師匠様も白蛇竜小神ゲン様が関係していたのは知らなかったはずですから」

「学院長が知らないのなら、皆知らないのも当然か」

「更に言えば、四神柱は〝玄智の森闘技杯〟予選の優勝者に反応しない場合もある」

「ふむ。優勝者が大豊御酒を飲むだけの時だな」

「そうね。四神柱に触れて魔力を得られて、特別なスキルが得られる場合もあるけど」


 皆がそう発言。

 イゾルデと俺以外は頷いた。


 ダンは、


「シュウヤが持つ秘宝、神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードが必須ってことか」

「とにかく、シュウヤ殿以外は、だれも発見できなかったってことだ。そして、神界セウロスの神々の意思を武器化、創造が可能な存在がシュウヤ殿。真の武王院の代表者と言えるだろう……」

「あぁ、シガラ師範とクレハを破っての優勝だ。それでいて四神柱に認められて神々の武器を獲得……まさに武王院の代表に相応しい。仙鼬籬せんゆりの森に戻るための三つのアイテムがなくても、〝鬼魔人傷場〟をぶっ壊すことが可能かもな?」

「うん」

「はい」


 メグ師範とエンビヤは即答しているが、傷場をぶっ壊すとか……。

 できるわけがないだろう。

 ……が、<闇穿・魔壊槍>ならいける?

 <戦神震戈・零>と<龍異仙穿>などもぶち込めば、傷場が壊れる?


 いや、傷場が拡大する場合もありえるか。

 狭間ヴェイルの中に吸い込まれるとかもありそうだ。

 【幻瞑暗黒回廊】のようなモノを造り上げてしまうかもしれない。

 危険なことはしない。


「……思えば仙値魔力の〝武王院〟の位には、こういった結果になるという意味も含まれていたのかもしれんな?」


 シガラさんの言葉に皆頷く。

 

 竜頭金属甲ハルホンクのポケットから王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを取り出した。


「書物だが、秘宝であり、神遺物か」

「はい――」


 王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの神遺物を再び仕舞う。

 そして、白蛇竜小神ゲン様の短槍を腰の竜頭金属甲ハルホンクのベルトに差そうとした瞬間――。


 白蛇竜小神ゲン様の短槍は蛇が脱皮するような動きで穂先と柄が溶けて、俺の掌に合う指貫グローブに変化した。


「「「「え!?」」」」


 皆、驚き桃の木|山椒(さんしょ)の木。勿論、俺もだ。


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