八百五十四話 <夢取鏡師>の実力と<霊鉢リバルアルの儀>

「シュウヤ艦長! 我も夢を見る!」


 キスマリだ。

 扉の横からぴょこっと頭部だけを出していた。


「器用な体勢だな? パムカレたちと挨拶していたが、いいのか?」

「――いい、途中で切り上げた」


 側転を実行したキスマリは背中を見せて動きを止める。

 と、その後ろ向きの姿勢で部屋側へと跳躍し、一回転しながら部屋の中に入ってきた。


 忍者的な機動力が凄い。

 正面に向いたキスマリはニコッとした。


 そのキスマリに、


「戦髪結い師のパムカレたちは何を?」

「<髪式・魔襲北斗>、<髪式・筋肉百倍>の施術の話だ」


 ウビナンのスキルは聞いたが……。

 <髪式・魔襲北斗>はだれが使えるスキルなんだろう。

 そのことは聞かず、


「髪形で能力が上がるって話か」


 と聞いた。


「そうだ。戦髪結い師たち、【髪結い床・幽銀門】の連中か。ごちゃごちゃと同時に質問してきてうるさかったのだ。ジョーと呼んでくれと名乗った坊主には、『戦闘用の髪形と髪薬で、トゥヴァン族の能力がどう変化するのか見たい』と言われたが、我に指示を出せるのは艦長のみ! と言って逃げてきたのだ!」


 キスマリは真剣な表情で発言。

 ジョーは三十ぐらいに見えたが、小僧か。キスマリも魔界を含めれば長く生きている長命種族、何歳なんだろう。

 人族なら三千歳~とか?

 そう考えると、キスマリ様と呼びたくなる……。


 そのキスマリ様、いやキスマリの四眼の瞳が部屋を巡る。

 四腕も、その瞳と連動するように上下左右に動くから面白い。

 観察する仕種はトゥヴァン族特有なんだろうか。


 そして、二眼の傷が可哀想に見えてくる。


 余計な世話かも知れないが……。

 後で、眷属化での治療と……。

 マコトに頼めば魔眼を得られてパワーアップが可能かも知れないことを告げるか。


 すると、


「ンン――」


 銀灰猫メトは喉声を鳴らして寝台に乗って小さく跳ねた。

 相棒の真似か。子猫だから跳躍力は低い。

 が、その低いジャンプの仕方が妙に可愛い。


 レベッカが萌えて、


「めちゃかわいいんだけど!」

「ん、可愛い~」


 レベッカもその場で少し跳躍している。

 ミニスカートが少しふわっと浮かんで、生の太股さんが見え隠れ。


 エヴァも興奮。

 金属の足のまま体が浮いていた。

 浮いたエヴァは体に薄らと紫色の魔力の<念動力>を纏っている。

 その紫色の魔力は、ゆらゆらとプロミネンス的に揺れながら体の外に放出されていた。

 <導魔術>的に揺れる紫色の魔力<念動力>には血色の魔力が混じっている。


 <念動力>はレベッカの蒼炎とは異なるが、エヴァの<血魔力>も順調に進化中と分かる光景だ。 

 こういったエヴァのさり気ない超能力姿もまた魅力的なんだよなぁ。


 キサラも体に<血魔力>を纏うと――。

 黒猫ロロ銀灰猫メトに指を伸ばす。


「にゃ~」


 黒猫ロロはつぶらな瞳でキサラの人差し指を凝視。

 そのキサラの指の匂いを嗅ぐ。


 キサラは、


「ふふ、小鼻タッチです!」


 と発言しては、人差し指で黒猫ロロの小鼻をツンツクしていた。


 黒猫ロロはそんなキサラの人差し指をジッと見る。

 と、自身の頬を、そのキサラの人差し指へとぶつけるように頬を擦り付ける。

 そのまま頭部を連続的に前後させて、頬、耳、頭部を擦りつけた。


 しまいには歯磨き的に、自らの歯茎をキサラの指で擦る勢いで頭部を動かす黒猫ロロ


 面白い黒猫ロロさんだ。

 そんな黒猫ロロさんはキサラの人差し指の根元をガブッと甘噛み。


 キサラは、


「ふふ、食べちゃだめです」


 そう楽し気に発言。

 痛くはなかったようだ。


 黒猫ロロの好きなようにさせた。


「ロロちゃん、キサラの指の匂いが好きなの?」

「ンン」

「ふふ、喉音とゴロゴロ音が萌えますね!」

「「はい!」」


 相棒たちと遊ぶ笑顔が美しい<筆頭従者長選ばれし眷属>たちには悪いが、


「ロロとメト。これからナミが行う夢の儀式が始まる。静かにしていてくれ」

「ンン――」

「にゃァ~」


 黒猫ロロ銀灰猫メトは動きを止めた。

 耳をピクピクと動かして振り向いてきた。


 二匹のつぶらな瞳がタマラナイ。


 黒猫ロロ銀灰猫メトは俺の顔をジッと見て、


「「ンンァァ」」


 と独特な喉声を鳴らすと、互いを見合う。

 そのまま少し桃色が混じる鼻同士をつけて『ちゅっ』と鼻キス。


「今、ちゅっとした!」

「可愛い~」


 皆、また興奮したように笑顔となる。


 鼻キスをした二匹は寝台の端から床に降りて俺の足下に来た。


 俺の脛に頭部をぶつけてくる。


 頭部と耳の毛の感触もタマラナイ。


 黒猫ロロ銀灰猫メトの頭部を撫でてから――。


 それぞれの背骨を伸ばすように――。

 二匹の背中から尻尾までを撫でて、尻尾を伸ばし、相棒の長いふさふさな尻尾をぎゅっと掴む。


「にゃご」

「にゃァ」


 相棒は――。

 俺の手に『なにすんにゃ』的な肉球パンチを寄越した。


 銀灰猫メトは俺の手を追い掛けるように横に回転を行う。


 そのまま二匹は俺の傍でエジプト座り。


 大人しくなった。

 ナミは、


「ふふ、盟主の言うことをちゃんと聞くロロ様とメト様は可愛いです」


 そう笑顔で語った。

 ニコニコ顔のナミも相棒たちに萌え萌えジャンケンだ――。


 楽しそうなナミは小型の卓を部屋の隅に移動させる。

 更に寝台の横に魔力を内包した鏡を設置した。


 ナミはルンルン♪ とイモリザ的に腰を悩ましく動かす。

 同時に、その魔力を内包した鏡へと肌色の魔力を込めた。


「その鏡も特別そう。そして、肌色の魔力はナミさんの<夢取鏡師>の能力、スキルね?」


 とレベッカが質問。


「はい。夢魔世界にアクセス可能な魔道具の〝夢魔の曙鏡〟です」

「へぇ、夢魔の曙鏡……」

「ん、高級そう」


 エヴァの言葉に頷いた。

 地下オークションで見かけるような代物ならばかなりの高級品だろう。


「はい、夢魔の曙鏡は夢魔の水鏡のような超がつくほどの高級品ではないですが、この夢魔の曙鏡も大事な鏡の一つ。ですので、よほどのことがないかぎり売りはしません」

「にゃ?」

「ンン――」


 夢魔の曙鏡に黒猫ロロ銀灰猫メトが近付いて鼻を寄せた。

 二匹は夢魔の曙鏡の匂いをフガフガと嗅ぐ。


「ロロとメト、匂いを嗅ぐのは禁止。危ないかも知れない」

「ンン」

「にゃァ」


 二匹は緊張感を得たのか、イカ耳になった。

 鏡から離れて皆の下に向かう。


「ふふ」

「ロロちゃん~」


 銀灰猫のメトが一回転。

 あの一回転は甘える仕種のくせなのか、キサラの足の甲に自身の背中を当てていた。


「あ、メトちゃん」


 キサラは慌てて、人差し指と親指で後頭部を摘まむようにメトを持ちあげる。

 胸元で抱っこしてあげていた。


 赤ん坊に乳をあげるような格好だ。


「ふふ」


 キサラの掌に頭部を撫でられたメトは目を瞑る。

 嬉しそうにゴロゴロと喉音を発した。


 偉大な絵画を見ているようで、癒やされる。

 その母性あるキサラと銀灰猫メトをずっと見ていたくなったが……。


 ここには、夢をもらうためにきたんだ。

 今はナミを見る。

 と、そのナミはローブを拡げるように両手を左右に広げた。


 ローブで隠れていたノースリーブ衣装!


 豊かな乳房が『プルルンパ』と物申すように揺れていた。


 素晴らしいおっぱい――。

 敬礼したくなった。


 すると、ナミの着るローブの両袖が魔力を発して魔線を宙に放つ。

 その両袖と夢魔の曙鏡から出た魔力の魔線が宙空で繋がった。


 その直後――。

 ナミの両袖は撓みつつ両肘まで捲れ上がる。

 ナミの細い前腕が露出した。細い腕に嵌まる腕輪はセンスがいい。

 しかし、その腕輪の表面に亀裂模様が走る。


 と両肘まで捲れているローブにも腕輪と同じような亀裂が発生した。

 そのローブ素材は両腕に沿いつつ展開されるや、腕の防具へと変化した。


「わぁ~」

「へぇ、ローブ素材が硬くなるのね」

「肩付近と二の腕付近の柔らかいローブ素材と硬い防具の境目が不思議」


 たしかに、境目は不思議。

 硬いのか柔らかいのか、触りたい。

 腕輪と前腕部はシースルー気味で魅力度が高い。

 螺旋模様がすこぶる綺麗だった。


「ナミ、そのローブが両腕に展開した衣装防具はスキルの効果? それとも夢魔の曙鏡と腕輪などが連動したアイテムの効果?」


 ナミは俺の言葉を聞いて頷くと、


「両方です。わたしの夢魔の曙鏡、ネックレス、ブローチ、腕輪、衣服、ローブなどは古代タンモールの品ばかり。このローブの名はラプサスの戎衣鏡、腕輪の名はラプサスの腕輪。更に恒久スキル<夢魔・鏡装具>の効果でもあります」


 アイテムとスキルか。

 レベッカが、


「一見はローブだけど、ラプサスの戎衣鏡と腕輪は素敵な衣装に変化が可能なのね」

「はい」


 お洒落に敏感なレベッカとの会話を聞いている皆は感心したような表情を浮かべている。


 俺もだ。

 夢魔の曙鏡といい、ラプサスの戎衣鏡とラプサスの腕輪は優秀そうだ。


 【夢取りタンモール】の一員だから装備可能なのかな。


「ん、古代狼族の能力と少しだけ似てる」


 たしかに。

 見た目は似ていないが……。


 古代狼族こだいおおかみぞくの爪がうごめいてよろいへと変化を遂げる際の不思議な機動と似ていた。

 その言葉を聞いたナミは、


「古代狼族……伝説の獣人たち。盟主の神姫ハイグリアさんとの経緯は聞きましたが、まだ見たことがありません」


 と発言。


「古代狼族を見たことはないか」

「はい。ライカンスロープよりも凶暴で、樹海地域を荒らしている存在と昔から聞いていましたので、クレインとマージュと皆様のサイデイルの状況を少し聞いて驚きました」


 頷いた。

 すると、夢魔の曙鏡の中に神秘的な丘のような光景が映った。


 少し呆気にとられたが、ナミを見て、


「準備の邪魔をしてすまない。準備を進めてくれ」

「あ、はい」


 同時にナミのネックレスとブローチが光り、魔線の糸が出た。

 その魔線の糸の先から焦げ茶色の机が出現。


 錬金術に使うような足のない魔法の机だ。


「クナのマハ・ティカルの魔机っぽい」

「マコトと召し使いたちが使っていた須弥壇のような机にも少し似ています」


 ナミは、


「これはラプサスの魔細工机です」

「ん、ラプサスの魔細工机もタンモールの品?」

「はい」

「ん、ナミと【夢取りタンモール】の組織は、古代のタンモール語に詳しいし凄い! なにか手伝うことはある?」


 エヴァとヴィーネはタンモール語を少し知っているからな。

 ナミとナミの組織に興味があるようだ。


 そのナミは、


「大丈夫です。ラプサスの魔細工机を出したように、まだ<夢送り>の準備が続きます。そして、盟主の後となりますが、皆さんにも夢を選んでもらう予定です」

「先ほどの……」


 ヴィーネがそう呟く。


「はい。ギンガサから預かった夢がありますから」


 水晶玉が複数入った半透明な袋か。

 すると、皆が、


「やったぁ!」

「ん、施術は楽しみ!」

「はい、わたしたちも夢の施術を体感できるとは! ギンガサさんとナミに感謝します」


 キサラがそう発言。

 続いて、ヴィーネが、


「優秀な魔法使い集団の【夢取りタンモール】に感謝。縁を引き寄せたご主人様にも感謝」


 そう発言。

 そのヴィーネは熱い眼差しを寄越す。


 ヴィーネらしい言葉だ。

 ナミは腰ベルトと連結したアイテムボックスのポーチに指を当てた。

 そのポーチから丸い香具と着火用の細長い魔道具を取り出す。


 魔法のネックレスとブローチと同じようにポーチも優秀なアイテムボックスだろう。


 その丸い香具とラプサスの魔細工机と夢魔の曙鏡から火花のような魔線が迸る。

 宙でアイテム同士が放つ魔線が繋がった。


 ――同時にナミは魔力を体に纏う。

 頭部に魔力を集中したナミは眉間に皺が寄った。

 両手にも強い魔力を留めた。<魔闘術>とは少し異なる。


 魔力を強めたナミは――。


 水晶玉が複数入った半透明な袋を数個と――。

 魔法の液体が入った瓶と――。

 金属製の深い鉢――。


 などのアイテムを続けざまに出現させる。

 ラプサスの魔細工机の上に金属の鉢と瓶を置いた。


 金属の鉢に色々な水晶玉を入れては、瓶から魔法の液体を注いでいた。


 魔法の液体は鉢の中をぐるぐると回る。

 液体が鉢の中を回るたびに鉢の内側が燃えるように輝いた。


 ルビジウム的なナノ粒子が含まれているのか?

 金属製の鉢の中を回り燃えるように輝く液体は蒸発するように消えるが、代わりに、エアロゲル的なゼラチン物質が出現していった。


 ナミは、それらの不思議な物質が入っている金属製の鉢の中に――ギンガサからもらった特殊そうな水晶玉を入れていった。


 ボッポァ――。


 と、ゼラチン的なモノに触れた特殊そうな水晶玉から変な音が鳴る。

 不思議で面白い。


 ナミは深呼吸を行う。


 そして、着火用の魔道具で香具に火を付けた。

 香具に魔力の炎が灯る。


 ナミは、


「<夢観・ビュアメアルの煙>……」


 そう呟くと――。

 魔力の濃い煙を発した香具は内部が燃える。


 内部が燃えた香具は自然と浮かんだ。

 浮いた香具から魔力の濃い煙が周囲に展開。


 展開した魔力の濃い煙はラプサスの魔細工机と夢魔の曙鏡から出ていた火花の魔線を取り込みつつ燃焼している香具へと引き込む。

 その香具から淡い光と魔力の濃い煙が逆噴射し、また周囲に展開された。淡い光と魔力の濃い煙が寝台を包むとナミの体も包む。


 ナミは淡い光と魔力の濃い煙を吸収。

 すると、ナミの体から魔力の濃い煙が発生しつつナミの体の表面をうように展開される。


 <夢観・ビュアメアルの煙>の一環いっかんか。


 そのナミが纏った<夢観・ビュアメアルの煙>は一瞬フクロウ的な鳥の姿をかたどる。


 が、すぐに魔力の濃い煙状態の<夢観・ビュアメアルの煙>に戻った。そのまま<夢観・ビュアメアルの煙>はナミの背中を覆う。


 <夢観・ビュアメアルの煙>はマントのような形となる。


「ングゥゥィィ、マリョク、マリョク、マリョク~」


 ハルホンクが<夢観・ビュアメアルの煙>に大反応。


「ハルホンクが興奮するほどだから、<夢観・ビュアメアルの煙>はよほどのスキルなのかな?」

「そうかも知れません。そして、ハルホンク様、ふふ、わたしの魔力と装備はさしあげることはできませんよ――」


 そう楽し気に発言したナミだったが、ポーションを飲む。

 魔力をかなり消費したのか。


「ハルホンク、今は我慢だ」

「……ングゥゥィィ」

「その魔力のマントにもなる<夢観・ビュアメアルの煙>は、ラプサスの戎衣鏡とラプサスの腕輪の能力や恒久スキル<夢魔・鏡装具>の効果とは、別効果のようね」

「そうとも言えますが、別効果ではなく、盟主と皆様にプレゼントするための、夢魔の曙鏡と連動した能力の一つでもあるんです」

「「へぇ」」


『色々とスキルと魔法が巧みで面白いですね!』

『あぁ』


 ヘルメと皆も感心。

 すると、ビーサが、


「あの、わたしも夢を頂いて良いのでしょうか」


 ビーサが遠慮がちに聞いてきた。 


 彼女はラロル星系出身の種族ファネルファガルだ。


 『夢を見ること』が可能な脳の機能が人族や人間と異なる可能性もある?


 他の星系出身だからビーサは不安に感じている?


「勿論いいさ。が、ナミの夢に関するスキルを不安に思うなら止めとくか?」


 と聞いた。

 ビーサは、


「不安はありません。多少プロセスが異なるとは思いますが、故郷にも神界セウロスの神々と似た……ラロル星ならではの神々に通じる精神魔法がありますし、装備とスキルを扱う族長とシャーマンたちがいましたから。勿論、精神魔法は、攻撃、防御、回復、能力向上、色々と効能別にあります」


 そう発言。

 ラロル星ならではの神々と通じた精神魔法か。


 興味深い。

 ビーサは口元をブリーザー装備で覆うが、すぐそのブリーザー装備を仕舞った。


 そして、ラービアンソードの柄を触る。

 後頭部の三つの器官は使っていない。


 そのビーサから、ラプサスの魔細工机に置かれた水晶玉を調べているナミに向けて、


「で、ナミ。あえて聞くが、ビーサはラロル星系出身だ。そんなビーサが夢の施術を受けても平気なんだろうか」

「魔族の方も施術は受けたことがあります。だから大丈夫でしょう」


 ナミの言葉を聞いたビーサは頷いた。

 惑星セラと同じ次元宇宙に存在するラロル星系。


 そしてビーサは人型。

 職の神レフォト様も祝福するだろう。


 更に言えば……魔界セブドラなどは他の次元宇宙。


 その宇宙その物が異なる魔界セブドラから、〝傷場〟を通って惑星セラが存在する宇宙次元に入ってきた魔族は……言わば異星人と同じだと思う。


 その魔族の血が混じっているのが惑星セラの人々でもある。

 次元が異なる種族の遺伝子を持つ魔族がナミの夢の施術を受けても平気なら、ビーサも余裕で大丈夫だろう。


 そのビーサは種族ファネルファガルの証拠としての後頭部の三つの器官から桃色の魔力粒子を出す。先っぽから桃色粒子が出ている三つの器官の見た目は髪の毛の房か、お下げ髪のように見えるから可愛い。


 デルハウトの顔から連なる特殊器官とは、まったく異なる。

 そんな可愛い器官の名は、オウル器官、ファガル器官、レッド器官。


 ビーサはそれらの三つの器官と脳の機能を活かすドパルアーニューシステムという名の宇宙船の操縦システムの運用が可能だ。


 そのビーサは、俺の弟子。

 選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの弟子としての銀河戦士カリームの超戦士の一人であると同時に優秀な操縦士だ。


 そう考えると、三つの器官を有したビーサは、聴覚・味覚・運動感覚・海馬と連動した脳機能も人族とは異なるか。


 よりスペシャルな夢効果に変化するかも知れない?


 あ、ビーサよりも俺か。

 そもそも最初。


 転生したての頃。



 ◇◇◇◇


『はい』 or 『いいえ』 タッチをすれば選択されます。


 『はい』を選択した転生後の世界は貴方が過ごした世界とは違う世界です。

 違う宇宙、違う次元、遠い銀河、物理法則が少し違う世界。 


 そこは〝神々〟と〝多次元世界〟が存在し世に影響を与えている世界。 


 現地の生命体を含めて貴方とは違う〝転移者〟、〝転生者〟が存在し、〝異形なモノ〟たちが徘徊する世界。

 言語は未知の言語体系になります。

 ですが、貴方が人型へ転生する際、今の記憶を保持した状態で〝脳や体〟が改めて異世界に合わせて再構築されます。ある程度の文化圏言語と文字理解ができるようにはなっているはずです。

 しかし、人以外の言語と文字は、まったくの未知の言語と文字となります。理解はできないでしょう。



 ◇◇◇◇


 と、あったからな。

 それでいてエクストラスキルの<脳魔脊髄革命>を持つ俺だ。


 そんな風に分析していると……ビーサは俺の右頬を見る。


 『カレウドスコープ』のことを考えている?


 そのビーサの視線に合わせて金属素子を触りつつ、


「カレウドスコープでビーサの頭部をスキャンした時のことを聞くか?」

「はい」


 あの時。

 すると――。

 戦闘型デバイスの真上にビーサをスキャンした時のホログラム映像が展開された。


 そのホログラムを活かすように――プレゼンテーション。

 皆にホログラムを見せつつ、


「このように大脳辺縁系は人の大脳と異なるが、俺たちと脳の構造は似ている部分が多い。たぶん、夢のスキルは上手くいくと思う」

「はい。それにしても、師匠と連動できる人工知能アクセルマギナを有した戦闘型デバイスは素晴らしいアイテムですね」


 ビーサの言葉に皆が頷いた。

 その戦闘型デバイスの真上に展開していた小さいホログラム映像は消えた。


 アクセルマギナとガードナーマリオルスのホログラムは出現していない。

 ビーサは、戦闘型デバイスから俺の右頬を注視。


 十字の形をした金属のアタッチメントか。

 気になるとは思うが、カレウドスコープの起動はしない。


 あ、そのカレウドスコープのことで……。


 パムカレ、ギンガサ、ナミ、ペイジ、サーモ、マベベ、パトク、リツ、アジン、ヒムタア、ジョー、ウビナンの頭部や体をチェックするのを忘れていた。


 左腕にガラサスが棲むエルザがいる以上……。

 邪神ヒュリオクスの眷属は惑星セラのあらゆるところに散らばっていることは確実。


 一応チェックするべきだった。

 だが、邪神の眷属けんぞくむしを片腕で押さえたエルザは半幽鬼族で古い血脈。

 だから、幽鬼族系の多い【髪結い床・幽銀門】のメンバーの中には邪神ヒュリオクスの眷属がみついているかも知れない?


 これは考えすぎかな。

 一応、血文字で――。


『ユイ、クレイン、ペレランドラ、挨拶と怪物との戦いでカレウドスコープの使用を忘れていたから、ナミの施術が終わり次第、皆の体をカレウドスコープで確認しようと思う。皆に、それとなく俺から用があると伝えておいてくれ』

『了解。邪神ヒュリオクスの蟲は怖いからね。人魚の歌手のシャナさんはここにはいないし、でも心配は要らないと思う』


 ユイの血文字が浮かぶ。

 続いてペレランドラが、


『わたしも同意します。今、【夢取りタンモール】と【髪結い床・幽銀門】の新しい仲間とお話をしていますが、この中に邪神の使徒や魔界セブドラの使徒が潜むとは考えにくいです』

『わたしもそう思う』


 クレインの血文字も来た。


『そうだな。仮に邪神の蟲が付いていたとしても、幽鬼族の【髪結い床・幽銀門】のメンバーは、エルザのように血脈のスキルか種族特性で、その眷属の蟲を手懐けて取り込んでいる可能性もある』


 そう血文字を返した。

 他にもイモリザという前例がある。


 続いて、クレインの血文字が、


『ま、仲間は大丈夫と仮定しよう。しかし、盟主が語るように、邪神の使徒たちがここに流れ付いていてもおかしくはない』

『うん。ペルネーテはどもえの争いが激しいし』

『光魔ルシヴァルのメルたちが活躍する都市でもあるさね』


 だからこそ外に出る邪神の使徒たちは意外に多いかも知れないって話か。


 ペレランドラは、


『下界の【血銀昆虫の街】には、【魔獣追跡ギルド】、【幻獣ハンター協会】、【ミシカルファクトリー】などといった非合法の大手巨大組織と関係した拠点が多いですから、邪神の使徒が潜伏している可能性はあります』


 皆の予想を交えた血文字を見たエヴァ、レベッカ、ヴィーネは頷いた。

 顔色は微妙だ。


 この場にいる<筆頭従者長選ばれし眷属>たちはパクスと戦った。


 邪神ヒュリオクスの眷属の強さは体感済み。


 眷属のフーとクナも知るから当然だろう。


 ……ふと、Sランククラン【蒼海の氷廟】の双子を思い出した。


 魔竜王の蒼眼の片方を売ってやった双子は、ペルネーテの迷宮に挑み続けているんだろうか。


 ひょっとしたら、イモリザの前身、邪神ニクルスの使徒リリザや【クラブアイス】が活動していた十五階層のニューワールド?

 あの双子は十天邪像の鍵を持っているだろうし……。


 二十階層の邪界じゃかいヘルローネの地表に進出しているかもな。


 そう考えつつ血文字で、


『船と転移魔法陣にスクロール、飛空戦船、飛空艇がある以上は、あらゆる可能性を考慮するべきか』

『そうですね。その邪神に関連しているか不明ですが、カルタサーカス団という組織が〝カルタ〟の魔導札などのカード系の秘宝を使うと聞きます。怪しいかも知れません』


 ペレランドラが新情報を寄越した。


『〝カルタ〟の魔導札?』

『はい。噂では異界の文字が刻まれた魔導札。その〝カルタ〟を使う〝異相のマゴハチ〟という時空属性持ちの魔術師の方が率いる【カルタサーカス団】がエセル大広場で興業を行う時があるんです』


 カルタサーカス団か。

 世界を巡る旅芸人集団か?


 旅芸人やサーカスと言えば……。


 レフテン王国のネレイスカリ姫を守った際に一緒に助けた【旅一座・稀人まれびと】のような存在もサーカス団の範疇はんちゅうかな。


 塔烈中立都市セナアプアなど、世界各地の都市を巡るように活動を続ける旅一座の姿を想像すると……色々と面白い。


 演歌の歌ではないが……。

 まさに『人生いろいろ』だ。前にも同じようなことを考えたっけ。


 そんな感想を持ちつつ、


『……エセル大広場は世界のように広い』


 そうペントハウスにいる皆に血文字を送る。


『はい。色々な方々が集まる傾向にある』

『上界も下界も浮遊岩の周囲には大道芸人などが多いが、エセル大広場は……ちょいと違う規模だねぇ。ま、広いからあまり混雑しているようには見えないが』


 クレインの血文字に頷く。


『エセル大広場の手前の大通りには商店も多いから人口が多い』

『密度なら、エセル繁華街などのほうが上回る』

『うん』


 ペレランドラ、クレイン、ユイの血文字にヴィーネは頷いている。


 エセル大広場はセントラルパーク的に森林と公園が大半を占めているが、お洒落なカフェ店も多い。

 組み立て式住居のテントも幾つかあった。


 黒猫ロロもエセル大広場の芝生を滑って堪能していたなぁ。


 準備を整えるナミの後ろ姿を見ながら、


『巨大都市だ、組織も色々か。クレインを追っているだろう【スィドラ精霊の抜け殻】もいる』

『そうさねぇ……レベッカの蒼炎とレムランの竜杖を見たら、どんなことになるのやらだ』


 傍にいるレベッカを見る。クレインの血文字を見ているそのレベッカは、


「わたしはわたし。気にしない、しない……のよ!」


 と面白顔で発言。思わず笑う。

 と、ペレランドラの血文字が浮かぶ。


『他にも魚人たちの【ミスダットサーカス旅団】の名は聞いたことがあります』


 大海賊系か?


『闘技者が多く所属する【テンセプリオン傭兵大商会】が主催する興業闘技場も上界では有名さ。最近では戦争で数が減ったらしく、【一角の誓い】の【ハイペリオン大商会】も参加を表明したと聞いたさ』


 キャネラスのとこじゃないか。

 今のクレインの血文字を見ていた皆の視線が鋭くなった。


 ヴィーネも頷く。


 すると、レベッカが、


「【一角の誓い】に傭兵? 闘技者のような存在が護衛ってことは知らなかった」

「キャネラスが所属する大商会は規模が大きいですから」


 ヴィーネはその大商会をよく知る。


「ん、キャネラスさんは仲間のテイマーのことを話していた」


 あぁ、言ってたな。


「ま、大商会だ。優秀な用心棒を雇っているだろう。小型飛空戦船ラングバドルのような移動装置は持っていないようだがな」


 皆、頷き合う。

 キャネラスが移動に用いていたのは長細い馬車だった。


 あ、まさか、迷宮戦車のような機能がある?


 飛翔が可能な馬車?

 さすがにそれはないか。


 そんな予想をしていると、ペレランドラの血文字が再度浮かぶ。


『エセル大広場で行われている【テンセプリオン傭兵】を持つ【テンセプリオン大商会】が主催する興業闘技場の大会〝エセルセナアプア杯〟には、烈火魔塔街を拠点としていたカットマギーの報告にもあったように、天下覇塔闘技場を利用する闘技者たちも臨時参加をすることがあると聞いています』


 上界の烈火魔塔街にある闘技場が天下覇塔闘技場か。


 カットマギーが連れてきたザフバン・アグアリッツ、フクラン・アグアリッツ、ラタ・ナリ、ラピス・セヤルカ・テラメイ、クトアン・アブラセルの地元の街の名が烈火魔塔街。


 そして、異常に足が速い子供がいる地域が烈火魔塔街でもある。


 烈火魔塔街は、神獣ロロディーヌの空の移動中に見たことがある。

 天下覇塔闘技場も空から見たことがあるが……。


 一度は足を踏み入れるべきか?


 が、すべて一度に行うことは無理。


 一石二鳥やら三鳥は好きな言葉だが、『虻蜂取らず』って言葉もある。


 いつかだな。


『街、商店街ごとに密かに闘技場があるんだな』


 そう血文字を送る。


『そうさね。【髪結い床・幽銀門】の総長パムカレが話をしていたように盗賊ギルドが運営する地下闘技場を兼ねた賭博場もあったりするからねぇ』


 店の地下か。

 隠れた闘技場を含めれば、かなりありそうだ。


『パムカレの暗殺仕事関連で向かうかも知れないが、ついでに、そんな街の観光をしたいところではある』

『はは、宗主らしい。そして、賛成さ。相棒のロロちゃんを連れて世直しを兼ねた観光をしてきたらいいさ』


 クレインの陽気な血文字の内容を見た周囲の皆も笑顔で頷いた。


 相棒のロロディーヌは頭部をかしげる。

 神獣といえど血文字の内容は理解しがたいか。

 ナミは準備の作業を止めて俺たちのコミュニケーションを見て頷いていた。


 思わず苦笑。

 ナミに、


「俺たちの血文字は気になると思うが、準備を頼む」


「あ、はい。皆さんの嬉しそうな表情と会話を見て、盟主の笑顔を見ると、つい……」


 そう発言したナミは微笑みつつ――。

 ラプサスの魔細工机の上に魔法の液体をいていた。

 机の色合いが少し輝く。コーティングされた?


「にゃ」


 相棒が魔法の液体と机の変化に反応している。

 戯れたいようだ。

 が、すぐにレベッカが動く。


「ロロちゃん、今はナミの仕事を邪魔しちゃだめ」


 と相棒の尻尾を握って少し尻尾をひっぱる。

 相棒の気をらしていた。

 銀灰猫メトのほうは、キサラとキスマリの指でたわむれている。


「あっ」


 と指を甘噛みされたキスマリだったが、笑顔満面だ。

 キスマリは結構可愛い。


 そして、そんな周りを見つつ上の皆に血文字で、


『ま、いつかはそうなるだろ』


 と送る。

 ペレランドラも、


『ふふ、気晴らしを兼ねた観光には賛成です。独立不羈どくりつふきなシュウヤさんの醍醐味だいごみですね』


 そう血文字をすと、近くのヴィーネが、


「ご主人様らしく!」

「だが、貴重な冒険を逃すことになるぞ?」

「……あ、ご主人様のそばにはわたしが必要です!」


 ヴィーネの意見がコロッと変化した。

 可愛い一面でもある。

 この間も、少し離れたことを後悔する発言を繰り返していた。


 そして、魔塔ゲルハットの庭に備わる魔法の実験場で標的に向けて新魔法の実験を激しく行っていたことは聞いている。


「わたしもできるだけ一緒がいい~」


 相棒から離れたレベッカだ。

 軽快な移動で、俺の左腕をゲット。


 シトラスの香りが漂う。

 イイ匂いだ。

 細いレベッカは魅力的。


 突起した乳首さんの感触もいい。


 感触がかなりエロいから凄く嬉しい行動だったりする。


「俺も可愛い皆と一緒のほうが嬉しいさ」


 と言いながらレベッカを抱きしめた。

 レベッカはビクッと体を揺らして「ぁぅ」と甘い声を発してから蒼炎を纏うとぎゅっと抱きしめを強くしてくれた。


「ん!」


 エヴァも嫉妬したような微かな不満声を発したが態度には出さない。

 そのままレベッカの好きなようにさせた。


 そのレベッカの背中を撫でながらペントハウスの皆に、


『最近聞いたベネットの裏・特攻隊長の通称は俺が掻っ攫うか!』


 とボケてみた。


『裏でも表でもなく正真正銘の特攻隊長でしょ?』


 ユイに血文字で突っ込まれた。


「はは、わたしもユイと同じことを思った」


 興奮しているレベッカの言葉だ。

 そのレベッカだが、俺の左腕にキスを繰り返していたせいか、頬は既に真っ赤だ。

 続いて、ヴィーネが、


「わたしもそう思いました」

「はい」


 キサラも同意。


「ん、シュウヤは正義感が強い。悪者を許さない」

「うん。だからこそ正義の神シャファ様もシュウヤを祝福しているんだと思うし」


 そう発言したレベッカはエヴァとアイコンタクトしてから位置を交代。


 エヴァは俺の左腕を遠慮勝ちにぎゅっと握ってきた。


 遠慮せんでいいんだが。


 すると、ペレランドラの血文字が、


『先ほども話をしましたが、今後はユイさんとメルさんの【天凛の月】の内務の仕事の一部をわたしに回して頂けたら幸いです』

『うん、喜んでお願いする。多国間の協定が関わる商売の関税は難しいし……専門家に任せる』

『ふふ、そうでしょうか? ユイさんには使うほうの才能も大いにお有りに見えましたが』

『え、そうかな?』

『はい。お父様にもそう報告しましたわ』


 暫し間が空く。


『ユイ、照れた?』

『そりゃそうよ! 目の前にいるペレランドラだし、ペントハウスには【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の面々に、ディアと銀白狼のシルバーフィタンアスと黄黒猫のアーレイと白黒猫のヒュレミもいるのよ?』


 と、ユイが血文字を寄越す。


 魔造虎の二匹は関係ないと思うが。


 上のペントハウスで笑い合うペレランドラとユイとクレインの表情が見えた気がした。


 そのユイから、


『サーマリア王国の儀礼なら分かるけど……やはり、わたしは素直に〝使われる〟ほうが性に合う』


 ユイらしい血文字だ。


 まさに『餅は餅屋』だな。


「上は上で楽しそう」

「あぁ」

「血文字の便利さを、新しい面々は見て学んでいるでしょう」


 キサラがそう発言。

 すると、レベッカが、ユイたちに向けた血文字で、


『クレインは【魔塔アッセルバインド】の仕事で、それらの闘技場や賭博とばく場の用心棒をしたことが?』

勿論もちろんあるさ。闘技場の賭博とばくはカード以上にもうかるし、客の呼び水になるからねぇ。そして、店の用心棒は【魔塔アッセルバインド】の仕事では楽な仕事の一つだったのさ』

『ん、先生、魔酒目的?』

『……そ、そうでもある。ま、張り合いのない退屈な仕事の面が大きいが、ないよりはマシ』

『塔雷岩場のような強者とアイテムと金が目的のほうが張り合いはあるか』

『……耳が痛いが、そうさね』


 少し間が空いた。

 しまった。


 【魔塔アッセルバインド】の流剣のリズさんの相方のテツさんは、塔雷岩場の地下のカリィを含めたバトルロイヤルの戦いで死んでしまっているんだった。


 が、俺の顔色を見たエヴァは微笑んで、


「ん、大丈夫。先生は気にしてない」


 と言ってくれた。

 優しいエヴァを抱きしめたくなったが、握る手に魔力を込めて送ってあげた。


「ぁ……」


 とエヴァの感じた可愛い声と恍惚こうこつとした表情を見ることができた。


 すると、クレインから血文字が、


『評議員連中が権利を持つ浮遊岩を巡る争いには、それらの闘技場で活躍する闘技者たちと闇ギルドと傭兵ギルドが繋がるのさ。総じて厄介なできごとに繋がることが多い』


 だからカリィたちも苦戦しているのか?


 単に別の争いに巻きこまれただけかも知れないが。


『クレインの血文字の通り、自分で言うのもアレですが、評議員は上院も下院も金がすべてな面がありますから……そして、エセル大広場に話を戻しますが、異相のマゴハチは近くの【フィンレディンの魔法店】の知り合いという噂を聞きました』


 ペレランドラの血文字情報だ。


 【フィンレディンの魔法店】は初耳。


 レベッカとエヴァとキサラは思い出したような表情を浮かべていたが、【フィンレディンの魔法店】には行ったことがないようだ。


 しかし、さすがは上院評議員ペレランドラと【魔塔アッセルバインド】のクレイン。


 当たり前だが、塔烈中立都市セナアプアに詳しい。


 カルタは歌留多?

 マゴハチは孫八?


 邪神と関わる転生者か転移者のマナブはペルネーテにいた。


 だから日本人っぽい名からそんな発想が浮かぶが……。


 と、予想したところで、儀式の準備を進めるナミの背中を見て、


「ナミ、準備中に悪いが、儀式で魔力を消費するのなら、これを飲んでくれ。中級魔力回復ポーションと、中級回復ポーションを置いておく」


 小型の卓にポーションを複数個置いた。


 ナミは「あ」と小声を発して須弥壇しゅみだんのようなラプサスの魔細工机を斜め上にずらす。


 ナミは、俺が置いたポーションをチラッと見てから笑顔を見せると、


「ありがとうございます。施術中、施術後に飲ませてもらいます」

「ん、シュウヤは気が利く」


 そう言ったエヴァが俺の手をぎゅっと強く握る。


 頷いたナミは片手で自らの胸元を押さえつつ、「はい、優しい盟主様です」と語ってくれた。


 照れる。

 ナミの手から余る乳房の大きさがローブ越しでもくっきりと分かった。


 すぐにエヴァが俺の左手を少し引っ張った。


 ナミに向ける俺の視線が気に食わないようだ。


 嫉妬したエヴァの表情が可愛い。

 そのエヴァは恋人握りにすると胸を寄せてくれた。


 柔らかい感触を得られて嬉しかった。

 心臓の鼓動音と女としてのフェロモンを感じることができた。


 嬉しい。


 エヴァは小鼻を膨らませて、


「ん、シュウヤ、魔力のプレゼントは嬉しかった……感じちゃった」


 と色っぽい声を……俺も感じちゃうがな。

 俺の心を読んだエヴァは「ん、シュウヤ大好き」と小声で呟く。


 エヴァは俺の腕と体を強く抱くように力を強める。


 薄着の衣装だからエヴァの大きい巨乳の感触と体の柔らかさがダイレクトに伝わってきた。


 煩悩が刺激される。 

 自然とエヴァの腰に手を回していた。


 エヴァは首筋を晒しつつ、「シュウヤの好きにしていい……」と自らの腰を俺の脇腹に当てながら、俺のたぎる股間にてのひらを当てる。


 紫の瞳は上目使いで俺を見続けてきた。


 とろんとした表情のエヴァ。

 その愛しいエヴァの首筋にキスをしてあげた。


「ん……」


 俺の唇の感触を受けたエヴァは、くすぐったさと快感を覚えたのか体を震わせて反らす。


 周囲の皆はナミの用意しているラプサスの魔細工机に並ぶアイテムを注視中。


 皆、俺とエヴァのことはあえて気にしていない素振りだ。


 エヴァの手は温かいし、このまま……エヴァ……。


 いや、自重しようか。


 俺の気持ちを読んだエヴァはコクと短くうなずく。


 と、掌で俺の一物を優しく撫でてから離れる。

 離れゆくエヴァの表情は少し淋しそう。


 同時に欲情していると分かる。

 すると相棒と遊んでいたレベッカが、


『そっちにハウレッツはいるの?』


 と上のペントハウス組に血文字を送っているのが見えた。


『そう言えば見ないわね』


 とユイの返事がすぐに来る。


 するとミスティの血文字が浮かぶ。


『ハウレッツなら、地下でわたしのそばよ』

『ミスティの羊皮紙目当てのハウちゃん。ミスティは試作型魔白滅皇高炉でゼクスの実験中?』


 レベッカがミスティに血文字を返した。


『ううん。ゼクスは使っているけど、漆黒の悪魔の司令室にあった魔機械の中身を取り出し中~。ハウも手伝ってくれている。意外だけど、異界の軍事貴族のハウレッツはわたしの能力と合うかも知れない』


 へぇ。

 しかし、ハウレッツはいつの間にか合流していたのか。


 同じ部屋にいるレベッカが、


『ハウの能力は戦闘以外にも使えるのね。そして、十層地獄の血鍵は魔界セブドラの十層地獄と関連するだろう重要アイテム』


 とミスティに再度血文字を送る。

 ミスティも、


『そう、何気にね。他にも、魔神ノガスの傷風腱、魔牛馬ラナディスの黒毛皮、潮大王烏賊いかメピゼンホムーの髄液、ゴウルボウルの魔鋼樹、トゥヴァン族の眼球、魔王エンヴァートの眼球絞り汁、呪神ドアン・サソアルアの胆、アードの葉、聖鳥クンクルドの羽根などの重要素材を抽出できると思う』

『『凄い!』』


 ミスティの血文字の報告にエヴァは少し興奮。

 俺に抱きついてきた。


 また興奮が再燃してしまうがな。

 エヴァは俺の心を自然と読む。


「シュウヤ、我慢しないでいい」


 と言うが、


「今は、夢のほうを優先しよう」

「ん、シュウヤは偉い」


 と褒めてくれた。

 レベッカがジッと俺とエヴァを見る。


「あえて言わなかったけど、エヴァ、調子にのりすぎ」

「ん、ごめん。でも、シュウヤの気持ちは分かる。わたしも感じてるし、シュウヤをどうにかしてあげたくなる」


 欲情しているエヴァは真剣な表情だ。

 切なさがあるから、なんとも。


 レベッカもジッと俺を見ると首が怪しく斑に朱に染まる。

 激しく抱いたことを思い出したのだろう。


「それは……うん、分かるけど。今は今」


 そう語るレベッカだが、視線は俺の股間をチラチラと見ていた。


「はい、昨日たっぷりとご主人様から愛を頂きましたから……しかし、その気持ちは重に分かります」

「そうですね……シュウヤ様はわたしを何度も何度も気持ちよくしてくれて……あぁ」


 キサラは一人感じている。

 ヴィーネも連動したように頬を朱に染める。

 目が合うと、くびれた腰がビクッと揺れていた。


 ヴィーネの感じた顔がいやらしくてタマラナイ。


「ふふ……」


 ビーサも微笑む。

 エヴァ、キサラ、レベッカ、ヴィーネ、ビーサは俺の股間と体をチラチラと見ながら頬を朱に染めていた。


 すると、ナミが、


「ふふ、皆さん、熱い気持ちは分かります。そして、お待たせしましたが、<夢送り>の準備が完了しました」

「お、ついにか」


 ナミは頷いて、


「はい、盟主からとなります。夢魔ノ水晶に詰まった夢を選んでください」

「了解」


 ラプサスの魔細工机を凝視。

 金属製の鉢の中にある水晶は多い。


「ん、夢を選べるのは楽しみ。けどシュウヤが一番先。シュウヤとナミ、がんばって」


 と手の握りを強めたエヴァ。そのエヴァの手を握り返す。


「ん……」


 エヴァはキスを求めるような表情となる。

 アヒル口が可愛い。


 が、すぐにレベッカとヴィーネとキサラの指が、そんなエヴァの頬に指を当てる。


 ツッコミが入った。

 皆の指が刺さる頬。

 それがまた、可愛く面白い姿だ。


 幸せな一瞬でもあるな。


 エヴァの頬に指を当てていたキサラと目が合うと、


「ふふ、シュウヤ様とナミの行為を見守ります!」

「師匠がどんな夢を選択するのか興味があります」


 ビーサがそう発言。


 皆、ワクワクしていると分かる。

 ナミは真剣な表情だ。


 そのナミに向けて、


「リスクのある新しいスキル自体を獲得する夢ってのは、どれなんだろう」


 ナミはジッと俺の表情を読む。

 微笑んでからラプサスの魔細工机の左端を差した。


 細い腕に合う腕輪と近くにある夢魔の曙鏡が怪しく輝く。


「左の鉢に多い虹と赤の水晶です。真ん中の鉢の中に多い黄色い水晶は、眠った才能を開花させる夢が入っています。右側の鉢に多い黄緑色の水晶が魔力、精神、筋力が増す効果の夢です」

「それじゃ、左の鉢に多い虹と赤の水晶の新しいスキルを獲得する夢を選ぶ。で、リスクとはどんなリスクなんだろう。それと覚えることができるスキルとはどんなスキルになるんだろう」

「リスクとは、最初に魔力を盛大に消費します。覚えることが可能なスキルは、本人の資質か……これは分からない。そして、武芸系ならば、それに見合う内容の夢となるはずです。更に、夢の中で死ねば眠ったままの状態となる」


 眠ったままとか。

 暫し、間が空いた。


『……閣下、リスクが大きすぎるような……』

「ん、シュウヤ、その夢は止めて素直に体の強化を選ぼう」

「はい。眠ったままとか怖すぎます」

「ご主人様……」

「師匠ならば……リスクを取る……」


 弟子のビーサは冷静だ。


「リスクは当然だろう。左の鉢に多い虹と赤い水晶の新しいスキル獲得が可能な夢を選ぶ」


 俺は<天賦の魔才>があるからスキルを獲得できることが多いが、本来スキル獲得の難易度は高い。だから<脳魔脊髄革命>と<天賦の魔才>を用いても難しいスキルの獲得が可能となるなら……挑戦したい思いだ。


 俺の瞳を凝視するナミは頷いた。


「盟主、決意は固いようですね。分かりました。<夢観・ビュアメアルの煙>で囲う金属製の鉢に入っている水晶を選んでくださいな」


 ナミの言葉に頷いた。

 左の鉢から直感で一つの水晶を選んだ。


 一番小さい水晶。


「その選んだ水晶を、こちらの金属の鉢、霊鉢リバルアルの中に入れてください」

「了解」


 選んだ水晶を、その霊鉢リバルアルに入れた。


 刹那、霊鉢リバルアルの器が<夢観・ビュアメアルの煙>の魔力が濃い煙の一部を吸い寄せる。


 更に俺が選んだ水晶が溶けて液体となる。


 霊鉢リバルアルの器の中で酒が満ちたようにも見えた。


 夢魔の曙鏡が光を強める。


 神秘的な丘のような光景が俺を誘うように、俺の体に重なってきた。


 不思議だ。


「す、素晴らしい」


 ナミは声を震わせる。


 感動している表情だ。


 溶けた液体の表面にホログラム的な幻影風景が浮かぶ。


 それは山荘と仙人?

 水墨画にあるような幻想的な世界だ。


 夢魔の曙鏡に映っていた世界もその山荘と仙人の姿に変化した。



「「おぉ」」

「にゃお~」

「ンン」


 皆も驚いた。


 が、俺は不思議と少しの緊張を覚える。


 同時に体が痛む。


 <仙魔術>を超えるような魔力消費が少し遅れてやってきた。


「……ふふ、さすがは盟主。常人離れした精神力と魔力。夢魔の曙鏡と<夢観・ビュアメアルの煙>を用いた<霊鉢リバルアルの儀>は無事にあっさりと済みました」

「まだ続きがあるんだろう」

「はい。緊張せず、リラックスして寝台で横に……」


 ナミは女王様のような雰囲気を醸し出す。


 そのナミは額に汗の珠を生み出していた。


 ナミも魔力を消費したか。


 そのナミは俺が用意していた魔力回復ポーションを飲んでいた。


 俺もポーションを飲んでから、


「了解」


 と横になる。

 ナミを見上げる形だ。


 下から見る豊かな乳房が魅力的すぎる。


「ふふ、目をおつむりになってください」

「あ、はい」


 ナミは女王様のような雰囲気を醸し出すから敬語になってしまった。


「ふふ、可愛い盟主様……キスしたくなります」


 そのナミの興奮した口調を聞いてパッと目を開けた。


 ナミの顔が近付いてくる。


 ナミの桃色の唇が……。


「バッチこい」


 と思わず発言。


「ちょっと? <夢送り>のスキル、その儀式を優先してね」

「ん!」

「そうですよ、おっぱいさんどいっちは危険です」

「はは」


 ヴィーネの冗談に笑った。


「皆さんも落ち着いて、もう<夢送り>は始まっているのです。盟主も目を瞑ってくださいな……」

「あ、はい」


 ナミの「ふふ」という声と同時に唇にナミの唇の感触を味わう。


「「あぁぁぁ」」


 と皆の悲鳴がこだまするように遠のく。


 思わず目を開けたが、目の前が一変していた。


 幽玄な景色。

 先ほど映っていた山荘が目の前だ。


 夢魔世界に転移したようだな。

 すると、その山荘から仙人、老人が現れた。

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