八百三十一話 異界の軍事貴族の進化と紙片集の変化
古い紙片集、隠天魔の聖秘録か。
第六天魔塔ゲルハットとの繋がりは……。
〝【光ノ使徒】聖魔術師ネヴィル、死するとも生きる〟
〝二十の仮面がそろえし時〟
〝光と魔、揃う、逢魔時〟
〝黄金の夜の縁となりて閃光と霊珠魔印となる〟
〝それは暁の灯火であり暴神ローグンの慧思者〟
〝神玉の灯りと光と闇の奔流ヲ、赤肉団と光韻ヲ持つ〟
〝【
古い紙片集の素材は、竹か? 竹簡のような印象。
そして、スプリージオが読んだ部分は判別できた。
試しに、この隠天魔の聖秘録に魔力を込めるか。
「レベッカ、ユイ、隠天魔の聖秘録に素の魔力と<血魔力>を込めてみる」
「うん」
「どうなるか見物ね」
頷いた。
早速、紙片集の隠天魔の聖秘録に魔力を込めた。
紙片集は俺の魔力を吸収――。
文字に光が宿ると、光る文字が浮いた。紙片集も浮く。
浮いた光る文字と紙片集は真上に集結しつつ融合してパッと消えた――。
が、すぐに半透明な球体が出現。
球体の中にはミニチュアの樹木? ルシヴァルの紋章樹と似た魔力の樹木が存在する。
その球体と樹木は回転を始めた。
球体と樹木から枝のような無数の魔線が発生。
魔霊魂トールンがある地下ルームに向かう廊下から迸っていた放電と似ていた。
その枝の魔線は蛇の如く球体の内の表面を目まぐるしく這う。
更に球体の外の表面に薄い膜を幾重にも作りつつ、球体の外の模様を変化させながら球体の表面を厚くするや否や、球体は目映い光を放ってから、球体の表面から太陽の紅炎のような魔力の線が迸った。
その魔力の線は、宙空でブレにブレて様々に形を変えていく。
「わ! 球体に樹木が凄く綺麗!」
「あぁ、魔線がこうも入り乱れるとアートだな」
「隠天魔の聖秘録が起動したってことなの?」
「たぶん、そうだ」
レベッカが急いで皆に血文字で外は安全と知らせていた。
『おう、来い。隠天魔の聖秘録をもらったんだ』
と血文字を皆に送る。その直後、庭園の端にキサラの姿を確認。
キサラは走り寄ってくる。
「――スプリージオたちは去ったようですね、あ、それが、隠天魔の聖秘録?」
「そうだ。スプリージオから聖魔術師ネヴィルの資料集的な、隠天魔の聖秘録の紙片集をもらった。竹簡にも似ている。で、魔力を込めたら、こうなった」
そうキサラに説明、レベッカが、
「もらったっていうより、なんか、やけくそだった?」
「スプリージオは悔しそうで、なにか吹っ切れたような表情でもあったわね」
レベッカとユイはそう言うと頷き合う。
俺も頷いた。三人は、隠天魔の聖秘録の魔線の輝きを凝視。
キサラの蒼い双眸に向けて、
「そんな大魔術師スプリージオに金は返した。で、【ドジャック傭兵空魔団】から上の飛空艇をゲット。鍵はコレだ」
「それは凄い! セナアプアの外でも運用が可能な小型飛空挺ならば相当レアな乗り物魔道具だと思います!」
「セナアプアの外での運用は要確認だな」
「ペルネーテでは一回も飛空艇とか飛行船を見たことがないから無理かもね。竜魔騎兵団が攻撃を加えて近付かせていないだけかも知れないけど」
「マジマーンが語っていた言葉もある。なんらかの要因で空のモンスターが大量に寄ってくるだけかも知れないぞ?」
「うん」
「シュウヤ、その小型飛空艇デラッカーは置いといて目の前よ。球体の回転が増しているし、魔線は眩しくないの?」
「眩しい」
頷きつつそう語る。
ユイは、目の前の隠天魔の聖秘録だった回転している球体へと指先を当てていた。
ユイの指先は回転する魔力の球体を通り抜ける。
「魔力は魔力ですが、ただの回転する光源?」
魔力の球体はブレつつ魔線が周囲に伸びる。
球体と球体の中の樹と枝の魔線模様も変化中。それは原子核の模様と似ていた。
外を迸る魔線はテスラコイルから迸る放電にも見える。
「雷のダメージはないのよね」
「ない」
「凄い光……無属性魔法のライトボールの変化バージョン?」
レベッカがそう呟くと、惑星と恒星の意味があるような放電模様がさらに変化。
「隠天魔の聖秘録の紙片集が、極彩色豊かな球体の光源になるとは……」
そう語るキサラの瞳にネオンが反射していた。
魔線の群れの一部は芸術性が高く、一種のキネティックアート的で美しい。
キネティックアートのような魔線の数は全部で十九個ある。
十九個の魔線は、他の聖魔術師の仮面がある方角かな。
魔線の一部は宙に弧を描いてペントハウスに向かっている。
「球体の中の小さい樹的なモノは、ルシヴァルの紋章樹なのよね?」
「たぶんな」
「ゆらゆらと宙に薄く伸びている魔線は、他の聖魔術師の仮面がある方向ってこと?」
「あ、そう言う意味もあるのね。なんか宝の地図的。アクセルマギナちゃんも頷いているし、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから出ている魔線的な印象」
レベッカの言葉にキサラとユイは頷いた。
すると、皆がペントハウスから出てきた。
「ンン」
「にゃァ」
「ワンッ、ヴァッ、ヴァ! ヴァン! ワォォ――」
「――シュウヤノ敵ハ、我ノ敵ダ!」
「グモゥ、プボゥゥゥ――」
「ん、光が綺麗~」
「ングゥゥィィ、ピカピカ、ゾォイ」
「閣下ァァ、光がいっぱい――」
「――マスター、ヴィーネが開けた中に魔道具、金属がって、なにそれー」
「ご主人様! それが新しいアイテム!?」
「そうなの。隠天魔の聖秘録が、って魔線花火!」
目の前で変化が続く魔線の一つが――。
俺の顔面、装着中の聖魔術師ネヴィルの仮面に付着。
すると、魔線の一部が収斂して隠天魔の聖秘録の紙片集に戻る。
しかも、その紙片集は真新しい血色の紙片。その紙片の表の文字は――。
〝【光ノ使徒】聖魔術師ネヴィル、死するとも生きる〟
〝二十の仮面がそろえし時〟
〝光と魔、揃う、逢魔時〟
〝黄金の夜の縁となりて閃光と霊珠魔印となる〟
〝それは暁の灯火であり暴神ローグンの慧思者〟
〝神玉の灯りと光と闇の奔流ヲ、赤肉団と光韻ヲ持つ〟
〝【
それらの文字から光の魔線が一つ、俺の二の腕に付着した。
「光る文字は、<霊珠魔印>とも繋がりがあるのですね!」
「ヌォォォ、光ガ……天蓋ニッ、光ノ蟲ガァァァァ」
「うん、シュウヤは聖魔術師ネヴィルについての資料集的な、隠天魔の聖秘録の紙片集をスプリージオからもらったの。そして、その紙片集に魔力を込めたら、こうなった。今も変化している」
「ミナルザン、うるさい。では、球体の中の樹木はルシヴァルの紋章樹でしょうか」
「たぶん、そうだと思う」
「ん、シュウヤの<光の授印>とも関係がある?」
「ンン、にゃおお」
「にゃァ」
「ワンッ」
「グモゥ」
隠天魔の聖秘録だった魔力の球体に向けて鳴く三匹。
その刹那、銀灰色の猫のメトに魔線が衝突。雷撃を受けたような印象だが、大丈夫。
シベリアンハスキーと似た子犬のシルバーフィタンアスにも魔線が付着。
子鹿のハウレッツにも魔線が付着した。
三匹の異界の軍事貴族たちは魔線を取り込んだ。
その直後、大きな姿に変化を遂げた。
三匹は、
「ニャゴアアァ」
「ガォオガァァ」
「ブボヴァァァ」
咆哮――。
同時に薄い光の炎を纏う魔法の鎧も身に纏う。
「「おぉ」」
皆が、三匹の進化に驚く。俺は幻影でたっぷりと戦う姿を見ている。
皆は初めてだから当然か。
「にゃごおお~」
相棒も大きい黒虎に変化を遂げた。
同時に球体から迸る数本の魔線が消失した。
文字の光も幾つか失われると、文字の光と繋がっていた魔線が血を帯びた竹簡的な紙片に戻る。
「三匹がパワーアップ!」
「隠天魔の聖秘録がいきなり作用するってことは……」
レベッカの言葉に皆が頷いた。
その皆は、俺が装着している聖魔術師の仮面を見てくる。
――試すか。
聖魔術師の仮面を意識しつつ衣装を吸い込ませるイメージを思念。
白銀の衣装は、一瞬で白銀色の魔粒子を放出して消えた。
「――わ」
「閣下!」
「ん、おっきい」
「ふふ、一物さん!」
一瞬、素っ裸。
右肩の
が、皆は<
動体視力が並ではないから一物をバッチリ見られた。
今の下半身は<血鎖の饗宴>を用いた衣装ではない。
暗緑色の基調が渋い初期ハルホンクversionのズボンだ。
そして、エヴァが指摘したように乳首さん、もとい<光の授印>も輝きを放っていた。
「ん、胸が綺麗! <光の授印>も関係する? 隠天魔の聖秘録に<霊血の泉>は使った?」
「いや、隠天魔の聖秘録に込めたのは、素の魔力と<血魔力>だけだ」
「隠天魔の聖秘録と聖魔術師の仮面……宙に漂う十九の魔線に、でも、マスターの<光の授印>が輝いて、乳首が……」
「はい、立派な<光の乳首>。いえ、<光の授印>と<ルシヴァルの紋章樹>が連携している証拠の入れ墨も薄く輝いています。目の前の球体の中の模様とそっくりです!」
「ふふ、真面目なキサラから冗談を、って、うん、やっぱりシュウヤは、おっぱい教なだけはあるわね」
「裸族として踊ったほうがいいか?」
「ボケてもツッコまないからね」
レベッカは少し笑いつつそう発言。
ミナルザン以外の皆も、
「「ふふ」」
と笑う。
「閣下のおっぱい教の効果が、隠天魔の聖秘録に天恵を与えたのですね」
「精霊様、レベッカとシュウヤの漫才を真剣に考えてはだめよ」
「はぅ……」
水飛沫を発するヘルメは球体から迸る魔線の一つを追うように黒虎ロロディーヌの真上に移動した。
「精霊様は、お尻ちゃんが好きだからね」
「ん、ふふ。でも、あながち間違ってない」
「あはは、たしかに」
「はは、面白い!」
俺も笑った。
<光の授印>は胸にあるからな。
「ん、笑顔が可愛いシュウヤ、腰のミレイヴァルも輝いてる」
そう言うエヴァこそ笑顔が可愛い。
そのエヴァの俺の腰を見ての指摘だ。
エヴァたちは球体と樹の放電模様と文字列から出た魔線と繋がる二の腕の<霊珠魔印>も見ている。
「閃光のミレイヴァルさんにも何か起きている?」
「腰の銀チェーンの閃光のミレイヴァルも輝きを放っている」
「ミレイヴァルの銀チェーンが輝いて、横の魔軍夜行ノ槍業が少し震えています……」
「魔軍夜行ノ槍業はもろに魔界セブドラだからな」
「マスター、この輝く文字の列と血の文字の紙片が隠天魔の聖秘録の内容?」
「そうだ」
「……ご主人様は聖魔術師ネヴィルの後継者ですね」
「ん、〝【光ノ使徒】聖魔術師ネヴィル、死するとも生きる〟。【光ノ使徒】は光神教徒?」
「たぶん、そうなるか」
「これも
「はい。救世主様がシュウヤ様。
「称号とかは得てないからなんとも」
「そこは文字の〝二十の仮面がそろえし時〟にあるように、仮面を揃えてからってことかな?」
「聖魔術師の仮面ですから、すべて揃えることに意味があり、ご主人様に力を齎す可能性は高い。しかし、先ほども語りましたが、ご主人様は戦闘職業の<霊槍獄剣師>と<光魔ノ奇想使い>を有している。白銀衣装と連動した<魔装天狗・聖盗>と称号の覇槍ノ魔雄もある。ですから、ご主人様は既に【光の使徒】の範疇でしょう」
「それもそうね。魔力と<血魔力>で隠天魔の聖秘録が起動したことも証拠」
「ん、<光の授印>もそう。既に【光の使徒】&光神教徒? ツアンとミレイヴァルも、そんなことを語ってた」
「あ、神印って語ってたわね」
「はい、ご主人様には<光神の導き>もあります」
皆の言葉に頷いてから、閃光のミレイヴァルを意識。
そして、銀チェーンを触り閃光のミレイヴァルに魔力を込めた。
その刹那、聖魔術師ネヴィルの仮面が――。
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