八百十七話 <光魔ノ奇想札>とエヴァの投げキッス

 

 <光魔ノ魔術師>。

 銀色の愚者。

 真っ赤な衣を羽織り杖を持つ者。


 三人の幻想的な魔術師たちはカードの中に吸収される形で戻ると、魔力を漂わせつつ宙返りを行い、俺の右手が握る夜王の傘セイヴァルトに飛来。

 その三種のカードは生地の中に突入して帰還してきた。


 夜王の傘セイヴァルトの中棒越しに僅かな振動を得る。

 近くに来た黒猫ロロが「ンン」と小さい喉声を発し、夜王の傘セイヴァルトの石突に頭部を寄せると小鼻をフガフガと広げ窄めながら、石突の匂いを嗅いでいく。

 更に、その石突に頬を当て擦り、首を捻りながら頭部と片耳を擦り始めた。

 そして、髭袋の髭を石突に当て擦りながら頭部を前後させていく。

 その黒猫ロロの頭部の勢い的に、


『さっきのカードは、にゃんだ~』


 と夜王の傘セイヴァルトに聞くような印象に覚えた。


 単に、夜王の傘セイヴァルトと見知らぬカードと魔術師たちに、自分の匂いを付けたいだけかも知れないが。


「相棒、擦りすぎて髭を落とすなよ?」

「ンン」


 聞いていないようでちゃんと喉声で返事をする相棒ちゃん。

 そして、皆に向けて、


「現状一度に出せるのは、今戻った三種のカードのみ。三種のカードは思念で操作可能だ。が、操作だけなら黄金の冒険者カードのほうが利く印象だ。その三つのカードから出現した三体の魔術師は、各自の戦闘職業に合う判断力があると分かる」


 と発言。皆は、夜王の傘セイヴァルトと俺を交互に見ながら近寄ってきた。


「へぇ、カードの魔術師たちは、シュウヤが使役している存在たち? ある種の幻獣?」

「その感覚で合っているが、ちょいと違う」

「ん、シュウヤは元々魔獣使い系でもある」

「はい、ロロ様とバルミントを使役しています」

「ンン、にゃお、にゃ~」


 黒猫ロロは夜王の傘セイヴァルトで頬を擦るのを止めた。

 名を呼んだヴィーネに頭部を寄せる。

 すると、戦闘型デバイスの真上に浮かぶアクセルマギナが、


「未知の魔術師たちは、独自の知能を有しているようです」


 機械音声で発言してくれた。

 ミスティが興味深そうにアクセルマギナを観察。

 同時に観察結果を羊皮紙にメモっている。


「おう。俺の思念操作があまり効かない理由かな」

「面白い! そして驚きの連続。黄金の冒険者カードを戦闘用の飛び道具にできることも驚きだけど、三種のカードに幻想的な魔術師を召喚できるなんて」


 ユイがそう発言。ヴィーネも、


「血魔剣と魔杖を持った人型魔術師は、ご主人様と少し似ていました」

「はい。他の二人の魔術師も少しだけシュウヤ様に似ていました」

「ん、<光魔ノ奇想使い>の能力は、夜王の傘セイヴァルトを通じて、魔界セブドラと神界セウロスの神々の眷属たちをカードとして<英雄召喚>することが可能?」

 

 皆の言葉に頷いて、


「エヴァの予想は何気ないが、この夜王の傘セイヴァルトの未来の姿かも知れない」

「「え!」」


 皆、またも驚く。笑みを見せつつ、


「まだ仮の段階だ。<光魔ノ奇想札>とは、皆が語るように、一種の召喚系スキルと考えていいだろう。そして、新しい戦闘職業の<光魔ノ奇想使い>は、俺が今まで獲得してきた〝戦闘職業〟を<光魔ノ奇想札>のスキルで、カードに集約して具現化する能力があるようだ。俺の〝性格〟なども関係するかも知れない」

「「凄い!」」

「お兄様の進化が止まらない!」

「〝戦闘職業〟がカードとして具現化可能なスキルが<光魔ノ奇想札>なのですね。驚きです!」

「「はい!」」

「ん、興奮!」

「ンン、にゃおお~」


 エヴァの興奮した顔が面白く可愛い。

 新しく獲得した<光魔ノ奇想使い>のことを考えながら、


「<光魔ノ奇想使い>は<光魔ノ魔術師>と<光魔ノ奇術師>が融合して獲得できた。だから、その獲得済みの<光魔ノ魔術師>が、カードの一つとして血魔剣的な魔剣と魔杖を持つ装備で具現化したんだと思う」


 皆、更に驚いて、


「「おぉ」」


 と声を発した。


「……シュウヤ様の<霊槍獄剣師>が<光魔ノ奇想使い>と融合していない理由の一つ」

「そうなる。<光魔ノ奇想使い>は一種の光魔ルシヴァルの種族特性かも知れない」

「戦闘職業とスキルにも、わたしたちの種族名と同じ光魔が付いてるからね」

「ん、光魔ルシヴァル宗主専用スキル<光魔ノ奇想札>!」

「<光魔ノ魔術師>が振るった血の魔剣は強そうに見えた」

「ん、魔杖も」

「うん。あの魔杖は<光魔の王笏>の意味もある?」

「あるだろう」

「「へぇ」」

「それでは、銀色の魔術師衣装を着た者は<光魔ノ奇術師>の戦闘職業が具現化した存在なのですか?」

「そうだろう。タロット=カードで喩えるならば愚者」

「愚者? そうでしょうか? わたしが持つ銀仮面を装着した偉大な魔術師に見えました。そして、ご主人様が今まで獲得してこられた戦闘職業をカードとして召喚することが可能なスキルが、<光魔ノ奇想札>なのですね!」


 頷く。


「素晴らしい能力です!」


 興奮したヴィーネとキサラに笑顔を送る。

 

「カードから出現した三人の人物が、お兄様と少し似ていた理由ですね」


 ディアの言葉に頷いた。

 人差し指を小さい顎に置いているレベッカが、


「それじゃ、赤い衣装に魔杖を持つ<魔導師>系の姿は、<血外魔の魔導師>か、<血獄道の魔術師>ってこと?」


 と聞いてきた。

 頷いて、


「たぶんだが、そうだろう。が、俺が獲得していた他の魔法使い系の戦闘職業の可能性もある」

「へぇ、<白炎の仙手使い>の可能性も?」

「あるだろう」

「ご主人様は様々な戦闘職業を獲得しては、融合し、ランクアップを行って、現在の<霊槍獄剣師>となった。当然、今まで獲得した戦闘職業の中には魔法使い系も多い」

 

 ヴィーネの言葉に頷いた。


 俺の獲得済みの戦闘職業をツリー状で見たら、結構な数の戦闘職業が表示されるかも知れない。

 

 すると、キサラが傍に来た。


「では、知恵の焔を吸収していた黄金の冒険者カードを取り込んだ夜王の傘セイヴァルトですが、秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様以外にも、職の神レフォト様からの祝福があったのでしょうか」


 そう聞いてきた。

 キサラの魅力的な唇を見ながら、


「職の神レフォト様の念話のような天寵てんちょうは響いてこなかったが、光魔ルシヴァルも人型の種族の範疇だからな。職の神レフォト様の恩恵も多少はあるはず」


 レベッカが、


「そうね。人族も魔族も虎獣人ラゼールもスキル次第」

「にゃ」


 相棒も同意するように鳴いた。

 キサラは「ふふ」と笑みを見せてから、


「夜王の傘セイヴァルトは<ルシヴァルの紋章樹>、<夜王鴉旗槍ウィセス>、<瞑道・霊闘法被>などにも影響を受けています……模様の戦旗といい、光魔ルシヴァルを象徴する武器が夜王の傘セイヴァルト?」

「そうだな、光と闇……光魔ルシヴァルに合う武器だ」


 キサラは夜王の傘セイヴァルトを凝視。

 細い指で、その漆黒の生地の表面を撫でていた。

 ユイも近付いて、夜王の傘セイヴァルトの生地を指で撫でつつ、


「うん、象徴は分かる気がする。皆から、夜王の傘セイヴァルトを試した時に、魔力の円に<光魔の王笏>が浮かんで、その中にルシヴァルの紋章樹の洞の中にいる不思議な黒猫ロロちゃんが見えたって血文字で聞いている」


 あの時か。

 不思議な眼力を持つ黒猫ロロディーヌだった。

 

 無我を超越した心が、俺たちを凝視しているような……。


「うん、そうなのよ。あの時は不思議だった」

「ん」

「にゃ?」


 黒猫ロロは首を傾げる。

 可愛い。


「生地の鴉と戦旗の模様も綺麗……これが遠距離攻撃&目眩ましに使える<夜王鴉旗槍ウィセス>。鴉として放出が可能なんでしょ?」

「おう。途中で漆黒の槍にも変化が可能だ」

「それでいて接近戦も可能。石突の先端から銀の槍の穂先を出したり、生地を硬くしたり、柔らかい生地を展開して傘となったりする。更に、戦闘職業を内包したカードを召喚し、そのカードから魔術師系の戦闘職業の存在を出して、戦わせることができるんだから……非常に多彩な能力を持つのが夜王の傘セイヴァルトだと思う」


 ユイがそう言ってくれた。

 ヴィーネも、


「はい、戦場で冷静な指示を出せるご主人様らしい武器です。そして、夜王の傘セイヴァルトを持ち戦場で駆けるご主人様の戦旗は我らの御旗となりましょう」


 すると、キサラが、


「黒馬ロロ様に跨がったシュウヤ様が敵陣目掛けて一騎駆けを行うところが想像できますね」

「ふふ、そうだ。キサラはまだいなかったが、ご主人様は邪界ヘルローネで一度魅せているからな」


 二人は微笑み合う。

 キサラは夜王の傘セイヴァルトを見て、


「では、その夜王の傘セイヴァルトの生地に描かれたカードの模様が、今までシュウヤ様が獲得した多くの戦闘職業を絵柄として表しているのですね」


 頷いてから、


「スキルステータスで確認していない&数えていないから、すべてではないと思うが、たぶんな」

「ん、二十二個の大きな絵柄があった」


 エヴァは覚えてくれていたのか。


「ならば、現時点で、夜王の傘セイヴァルトから放出可能な戦闘職業のカードは二十二種類あるってことだろう」


 皆、夜王の傘セイヴァルトを見て俺を見る。


「ご主人様は、戦闘職業<霊槍獄剣師>を獲得するに至るまで多くの魔法使い系の戦闘職業を獲得して融合し、内包している。その今まで獲得されてきた称号と戦闘職業とスキルを活かす能力が<光魔ノ奇想札>でもあるのですね」

「おう」

「素晴らしい。そして、生地の絵柄は魔術師のような方々が多かった。夜王の傘セイヴァルトに描かれてあるカードには、ご主人様の槍系以外の魔法を扱う戦闘職業が優先されている?」


 ヴィーネがそう発言。


「たぶんな。他にも光魔ノ仁智印バスターの称号、俺の性格、<血魔力>、<光闇の奔流>、<大真祖の宗系譜者>、<光魔の王笏>などのスキルも、二十二の大きなカードの絵柄や装備類と能力に関係しているかも知れない」


 俺がそう発言すると、皆頷いた。


「二十二個の戦闘職業の絵柄や能力には、<大真祖の宗系譜者>の元のスキルである<真祖の力>と<真祖の系譜>と<眷属の宗主>の意味も含まれていると……」

「そして、その<大真祖の宗系譜者>は、<従者開発>と<光闇ノ奔流>と<光邪ノ使徒>が融合して、<光魔の王笏>へと進化した。だからこそ、先の三種のカードの中で<光魔ノ魔術師>が魔杖を持って先頭に立っていたのだろう!」


 キサラとヴィーネの言葉は力強い。

 自然と頷いた。


「ん、夜王の傘セイヴァルトが取り込んだ黄金の冒険者カードも重要だと分かる。あの時、シュウヤは<光魔ノ魔術師>と<光魔ノ奇術師>を獲得した」

「キッカが<聖刻星印・ギルド長>を行ったから、夜王の傘セイヴァルトが進化した」

「そうですね。キッカさんのデイ・ウォーカー伝説を聞いていたから尚のことです」

「はい」

「そう考えますと……夜王の傘セイヴァルトと<光魔ノ奇想札>が凄い武器とスキルだと分かります」

「たしかに、そう考えると、鳥肌が立ってきた……」


 レベッカは細い腕を見せてくる。

 魅力的な腋も見えた。


「ん、シュウヤに撫でてもらう?」

「うん、あとでね。でも、シュウヤが余計に格好良くなっちゃった」


 レベッカは残念そうに語るが、にこやかだ。

 皆、また俺と夜王の傘セイヴァルトを交互に見る。


「素晴らしい武器の夜王の傘セイヴァルト。神界と魔界の力を受け継ぐ闇と光の運び手ダモアヌンブリンガーの新しい武器と言えましょう」


 キサラらしい言葉だが、たしかにそうだな。


「ん、シュウヤの新しい戦闘職業<光魔ノ奇想使い>は凄い! <光魔ノ奇想札>を使うマジシャン!」


 エヴァの元気の出る喋り方を聞くと嬉しくなる。


 そのエヴァは身を寄せてきた。


「ん――」


 微かな声を洩らしつつ、俺の片腕を両手で抱きしめてくれた。


 ワンピ越しの豊かな乳房の柔らかさがタマラナイ。


 微笑むエヴァは、


「シュウヤ……」


 と小声を洩らして、頬を俺の右肩に当ててきた。


 そのエヴァの黒髪から良い匂いが漂う。


 リツさんの髪薬は効いている。

 そのエヴァの鼓動は速い。


 エヴァが興奮するのも分かる気がする。

 

 惑星セラの中には似たような戦闘職業を持つ存在はいるかも知れないが、戦闘職業をカードで具現化させて、ある程度の知能を持たせて戦わせる能力は、かなり珍しいと思う。


 エヴァの髪の毛に頬を寄せた。

 エヴァの息遣いが近い。

 その息にさえ彼女の優しさが宿っていると思うと自然と胸が高鳴った。が、すぐに優しさに満ちた感情となる。エヴァの温もりで一気に癒やされた。


 そのエヴァは上目遣いで紫色の瞳を揺らしつつ、


「ん、色々とがんばって成長したから、今日はお休みする?」

「エヴァが休むなら、寝台にレッツゴーしようか」

「ん」

「はーい、ストップ。ここにはまだ若い学生のディアもいるんですからね」

「ん、レベッカも一緒」

「って、そ、それなら、レッツゴー?」

「ふふ」


 エヴァとレベッカのコンビ会話が面白い。

 すると、ユイが、


「二人とも、気持ちは分かるけど、えっちなことは後回し」

「うん」

「ん」


 ユイは真面目モードだ。

 そのユイは、夜王の傘セイヴァルトをチラッと見て、


「シュウヤ、その夜王の傘セイヴァルトのことだけど、最初は怪夜魔族の王セイヴァルトの位牌だったのよね」

「そうだ。怪魔王ヴァルアンの勾玉のほうは、キッカにあげた」

「……」

「……」


 ユイ以外はあまりいい顔をしない。

 

「そ、そうなのね。聞いていたけど、夫婦の想いがあるから、皆も複雑ってことか。大事な<筆頭従者長選ばれし眷属>となる瞬間に夫婦の絆の怪魔王ヴァルアンの勾玉だもんね」

「その通り、あの時は……」


 ヴィーネがそう発言しつつキサラを見る。

 キサラは微笑んで、


「はい。思わず、シュウヤ様の胸元を小突いてしまいました」


 頷いた。

 俺はエヴァの肩をぽんぽんと押してから、「ん」と頷いたエヴァから離れた。


 そして、人差し指で、乳首さんを差す。


「あの時か」


 と、真面目な顔で言いつつ――。


 同時に漆黒の衣装を素早く意識。

 乳首さんを片方だけ露出させた。


 <血魔力>で夜王の傘セイヴァルトを浮かせてから両手の人差し指と中指を揃えて自らの乳首さんを差した。


「ふふ、シュウヤ、乳首は出さないでいいから」

「ん、ぷぷ」


 乳首アピールのポーズをチェンジ。


「もう、面白乳首ダンス!」

「はは、お兄様、面白い!」

「ふふふ、マスターは芸人さん!」


 皆の笑いに合わせて乳首アピールを更に実行。


「ご、ご主人様……」

「あはは、お腹が痛い。あ、ほら、ヴィーネが笑いを堪えて変な顔を浮かべてしまっているわよ? もうアホなことは止めて」

「「ふふ」」


 ヴィーネの変顔も面白いが、


「すまん、が、笑顔を見られて嬉しい」


 そのまま衣装を操作して、乳首を仕舞う。


 変な顔だったヴィーネは普通の笑顔に戻った。

 なにか母性がある。


 すると、傍にいるユイが抱きついてきて、


「――でも、わたしも、仕舞っちゃったけど、その乳首、じゃない、その場にいたら嫉妬したと思う。でも、眷属化に反対ではないのよ。わたしもキッカさんの<筆頭従者長選ばれし眷属>となる瞬間を見たかったし、ヴィーネと同じく魔剣・月華忌憚の血を活かす剣術をキッカさんから学びたい。魔剣と魔刀は微妙に異なるけど、同じ剣士として参考になると思うから」


 と俺の胸元辺りを指で小突きつつ語る。

 頷いた。


 すると、ヴィーネが、


「ユイ、今度、冒険者ランクの昇級ついでに、キッカのところに行きましょう。裏仕事人の依頼を一緒にこなしつつ訓練を行えるはず」

「うん」


 ユイはヴィーネに向けていた視線を俺に戻して、


「さっきエヴァが語った神々の眷属をカードとして召喚って話だけど、将来的に怪夜王セイヴァルトさんか、怪魔王ヴァルアンさんをカードとして召喚することが可能になるかも知れない?」


 間近でユイは頭部を傾けた。

 その仕種は可愛い。


 耳の裏に通している黒髪がさらりと頬に落ちて流れていた。


「……可能性はあるとは思うが、現時点ではなんとも言えないな」


 すると、ミスティが、


「神界セウロスと魔界セブドラの神々に認められたマスターなら可能性は高いと思うわよ」


 そう発言しては、俺に近付いて、


「夜王の傘セイヴァルトの角度を少し上げてくれる?」

「了解」


 夜王の傘セイヴァルトを持ち上げた。

 ミスティは、


「ありがとう――。光魔の長柄傘と呼ぶべきかな? ふふ」


 と微笑みながらメモを加速させる。

 夜王の傘セイヴァルトの考察リポートが長いことになりそうだな。


 すると、ビーサが、


「師匠が獲得された戦闘職業の方々と模擬戦は可能なのでしょうか」


 銀河戦士カリームらしい質問だ。


 ま、俺も模擬戦の訓練相手になるかなと密かに考えていたが、


「模擬戦か。できるかも知れない。斬られても、たぶん絵柄に戻るだけだろうし、いい訓練相手かもな。が、一瞬でカードに戻るタイプが殆どだと思うから、カード状態と相対することが殆どだと思う。あ、これはまだ分からない」

「はい、分かりました」

「三人の人型魔術師は強そうに見えました」

「はい、硬そうな床を斬り刻みつつ精霊様の《水幕ウォータースクリーン》を消し飛ばしていましたから」

「おう。いい飛び道具だ」


 ヴィーネとキサラの言葉に頷きつつ――。

 ばらし場に視線を向けた。


 そのばらし場には、管理人たちが集まっている。

 ヘルメも周囲に水を撒いていた。


 床の傷跡は管理人たちの能力で元に戻る最中だ。

 修復中か。


「ん、管理人たちが床を直し中」

「アギト、ナリラ、ナリラ、フリラの不思議ちゃんたちね、メンテナンスが早い」

「ンン」


 相棒も尻尾を立てながら管理人たちのほうにトコトコと歩む。

 

「ん、ロロちゃん、お尻ちゃんを見せて可愛い!」

「ふふ」

「ンン――」


 エヴァとレベッカは相棒と一緒にばらし場に向かう。

 すると、ユイは俺の右腕を抱いて、


「ねね、この夜王の傘セイヴァルトに合う、その漆黒の衣装は即興で考えたの?」


 ユイの温もりを地肌に感じながら、


「そうだ。ユイの黒装束系衣装に合うかな~って」

「ふふ、上手いこと言って! でも、お揃いか。あ、胸元の勲章は……」

「ペルネーテ領竜鷲勲章だ」

「懐かしい。勲章もハルホンクに食べさせていたんだったわね……」

「ングゥゥィィ」


 竜頭金属甲ハルホンクが誇らし気にアピール。


「わ、魔竜王バルドークの蒼眼が剥いて回った」

「ハルホンクはユイにアピールしているんだろう」

「ふふ、わたしの<血魔力>を食べる?」

「マリョク、タベル、ゾォイ」

「分かった」


 ユイは人差し指を竜頭金属甲ハルホンクの口当たりに当てて、その指から<血魔力>を出した。


 竜頭金属甲ハルホンクは、一瞬でユイの<血魔力>を吸い取ると輝く。


「ユイ、ノ、ウマカッチャン、ゾォイ!」

「ぶは」


 吹いた。またウマカッチャンか。

 どこで覚えたんだか。


「ふふ、これでお仕舞い」


 ユイは竜頭金属甲ハルホンクを人差し指で小突くと離れた。


 そして、


「でも、ハルホンクの衣装チェンジは羨ましいかも」

「はい、取り込んだ様々な素材をシュウヤ様のイメージに合う衣装防具として、体に展開することが可能なのは凄い」

「そう語るキサラさんの姫魔鬼武装も羨ましい装備」

「ハルホンクのような素材の取り込み機能はありませんが――」


 キサラは胸元にふりふりが付いたノースリーブ衣装に変化させる。

 

「キサラの姫魔鬼武装も便利。研究ばっかりで根を詰めている時とか、気分転換になりそうだし」


 ミスティがそう発言。

 そんな皆に向けて、


「しかし、ハルホンクと同じ能力だと、一瞬裸になるんだぞ?」

「う……」


 なぜか、ユイは両手で胸とあそこを押さえる。

 そのユイは笑顔を作って体勢を直すと、


「あ、シュウヤ、まだ言ってなかったけど、Aランク昇級おめでとう」

「ありがとう」

「ふふ、何気に嬉しかったでしょ? アキレス師匠と同じAランクになりたいんだって前に語っていたし」


 ユイの言葉に頷いた。


「あぁ、感動した」

「うん……【魔霧の渦森】で色々と語りあったことを思い出す」


 ユイの表情には哀愁がある。

 たしかに色々とあった。

 少ししんみりとしたところで、


「アクセルマギナはどのように分析した?」


 そう聞くと、軍服が似合うアクセルマギナは敬礼。


 アクセルマギナのホログラム映像は小さいが、極めてリアリティ溢れる姿だ。そのアクセルマギナが、


「<光魔ノ奇想札>はマスターの具現化超能力の一端かと」

「師匠の夜王の傘セイヴァルトは宇宙でも通じる武具かと」


 ビーサも会話に参加。


「はい、遺産高神経レガシーハイナーブに対応した選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスマスターは、『サイキックエナジー』など、エレニウム粒子、バイコマイル胞子、メリトニック系粒子を大量に持ちますから」


 アクセルマギナとビーサがそう語る。


「アクセルマギナちゃんとビーサらしい会話ね」

「はい」

「ナ・パーム統合軍惑星同盟の文明力を知る者のスキル分析は面白いわ……でも、アクセルマギナちゃんの人工知能と腕輪型戦闘型デバイスは、どうやって造ったのかしら? 実はハルホンクや機械の神デウス・エクス・マーキナ様のような存在がアクセルマギナちゃん以外にも戦闘型デバイスの内部に住む? ガードナーマリオルスもいるし、魔機械妖精などと本契約を果たしたのかしら……前に、マスターは砂粒の中に巨大惑星の質量を有した超コンピューターがあれば、なんでも可能だろうと話をしていたけど……」


 そう喋りつつ手が動く。

 俺がブラックホールのことで血文字を送った時の内容か。そのミスティは考察しつつ話をしながらも筆記を止めていない。器用だ。

 

 すると、ユイが、


「これからどうする? 魔塔ゲルハットの見学を続けて、皆とえっち&クナ&ルシェルとペレランドラ待ちのまったりモード? それともセンティアの部屋で一旦ペルネーテに帰還?」

「ディア次第だが」

「それはお兄様次第です!」


 なんか、そのフレーズ、都市伝説っぽい。


「ま、急ぐことはない。数日まったりとしてから、センティアの部屋でペルネーテに帰還しようか。魔法上級顧問サケルナートが回収した魔法書が気になるからな」


 夜王の傘セイヴァルトを仕舞う。


「そうね。じゃ、先に上にいく。ディア、行きましょう。最上階に向かう浮遊岩はこっち、階段でもいいけど」

「あ、はい」

 

 ミスティはディアを連れて先を歩く。

 試作型魔白滅皇高炉のある地下工房は広い。

 二人は鋼の扉の前に移動すると、一瞬で、目の前の鋼の扉が分解される。扉が開いた。

 

 金属が分解していく機構はカザネの占館を思い出す。


「ん、シュウヤ、魔塔ゲルハットの内部を見学するなら一緒に行こ。休むなら最上階!」

「ンン、にゃ~」

「おう」


 皆と歩き出す。

 傍にきたビーサが、


「シュウヤ師匠、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの習わしを、ベッドで?」

「習わしではないが、休むならベッドだ」


 ビーサは微笑む。

 心臓の鼓動を表現するように、後頭部の先端から桃色の粒子が大量に迸る。


 可愛い反応だ。

 すると、先を歩くユイとヴィーネが、


「隻眼のビロユアンにペレランドラたちが戻ってくればいいんだけど」

「はい、処女刃の件を進めてほしいところです」


 そんな会話を行う。

 ユイに向けて、

 

「カットマギーの知り合いの新メンバーは見回りだったかな」

「うん、ラタ・ナリ、ラピス、クトアンたちは見回り。あ、ドワーフのザフバンとフクランの料理人夫婦だけど、【天凛の月】の料理番として【アグアリッツの宿屋】の再現をお願いした」

「あのドワーフの夫婦は【天凛の月】の一員としてやる気に満ちていたが」

「そうなの。戦闘も得意だと言い張るから見回りに加わってもらったけど、魔塔ゲルハットの一階もそうとう広いから」

「はい。空きスペースばかり。ペグワースたちやペレランドラたちがくれば、多少は埋まると思いますが」

「だから【アグアリッツの宿屋】を再開するようにお勧めしといた」

「分かった。ありがとう」

「ううん、シュウヤならドワーフの夫婦が作る料理にも興味を持つと思って」

「その通り。戦闘職業も料理が得意そうな名だったからな。しかし、テキパキと采配を振るユイの話を聞くと、【天凛の月】の副長の一人としての姿も似合いそうだ」

「え、副長かぁ。最高幹部の名で十分よ。父さんの闇ギルド創りを手伝うように【天凛の月】を手伝っているだけなんだから」

「嬉しくないのか?」

「嬉しいけど、シュウヤの傍にいるほうが嬉しいから」

「それは俺もだ」

「うん」


 俺の手を握るユイと恋人握りとなった。


 少し先を歩いているレベッカがチラッチラッと数回俺とユイを見てムッとしていた。


 そのレベッカの蒼い目と合う。


「う、な、なによ! ユイは、お留守番がんばったから、イチャイチャは許す!」

「ん、今、本当はユイとシュウヤがイチャイチャして――」

「ちょ――」


 レベッカがエヴァの口を塞ぐ。

 そして、レベッカは、


「ふん! 先に行くから!」

「ん」

「なにシュウヤに投げキッスをプレゼントしてんの! エヴァもよ!」

「――わわわ」


 蒼炎を纏うレベッカに腰を押さえられたエヴァ。そのエヴァを連れたレベッカは強引に先に歩く。

 

 エヴァはこちら側に体を向けながら引きずられていた。

 金属の両足の踝に付いた両輪が三輪車の車輪のように床の上で回っている。

 

 少しシュールだ。


「ふふ、面白いレベッカとエヴァ。エヴァのなんとも言えない表情も面白かった」

「はは、たしかに」


 そう笑いながら言うと、傍にヴィーネとキサラが来る。


 速やかにユイと位置を交換。


 ユイは先に歩いた。

 右隣のヴィーネに向けて、


「ヴィーネ、新しく覚えた烈級:雷属性の《雷魔外塔ライジングタワー》をちょい休んだ後に見せてくれ」

「はい、喜んで」


 ヴィーネに笑顔を送ると、キサラが俺の左手を握り引っ張る。


「シュウヤ様、魔塔ゲルハットはそれなりに見回りましたので、少し案内できます」

「ありがとう」


 先を歩くユイに向けて、


「ユイ、血文字でカリィとレンショウが向かったと知っているが、浮遊岩の発着場を巡る争いの連絡はないのか?」


 ユイは背中を見せた状態で頷いてから、顔を横に向けて、


「まだ戻ってないわ。邪教にも強者が多いからね」

「苦戦している姿は想像できないが、そこに乱入するのもありか」

「ふふ、シュウヤらしいけど」

「シュウヤ様、休憩後に戦に向かうならばお供を」

「おう。ま、地下を見学しつつ魔塔ゲルハットの一階に向かうとしようか」

「はい」


 バルコニーの中層もいいが、最上階かな。

 が、まずはこの試作型魔白滅皇高炉を有した地下工房をもっと見るかぁ。

 天井のクレーンと床の模様も気になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る