八百十六話 ユイとハイタッチ&<光魔ノ奇想札>の試し


 作業台の端に移動して見上げているユイに向け、


「ユイ、ただいまだ」

「お帰り、皆も。あ、カボルは上よ。魔力豪商オプティマスとの交渉はどうする?」

「交渉はまだだ」

「センティアの部屋は?」


 頭部を右の奥に向けて、


「下、向こう側の扉だ。鋼と錆びた鉄と銅で作られてあるような通路を通った先の部屋に隣接する形で転移してきた。俺たちを侵入者と勘違いした地下の防衛機構も一瞬出現したが、それはすぐに消えた。そして、管理人たちから、それらの地下防衛機構について教えてもらった」

「へぇ、地下防衛機構? 魔塔ゲルハットは知らないことが多すぎる」

「あぁ、管理人たちの話によると、大魔術師アキエ・エニグマも知らない可能性が高い。秘められた歴史を持つ魔塔ゲルハットだ。で、地下防衛機構は三人いるんだが、主な存在が魔結界主のヒカツチ。そして、残り二人は怪しい魔礼婆アダン・ボウと魔霊魂トールンの分身だ」

「へぇ、魔塔ゲルハットの地下を守る=【幻瞑暗黒回廊】からの守りも兼ねているってことね」

「そうらしい。そして、アギトナリラとナリラフリラの管理人から、この試作型魔白滅皇高炉の近くに、地下のコア、魔霊魂トールンがあるとも聞いた」

「うん、コアは三つあると聞いているわ」

「おう――」


 傍にいる皆の顔を見てから作業台から飛び下りた。

 すぐにユイとハイタッチ――。


「ふふ――」


 ユイの笑顔を間近で見て活力を得た。自然と笑みが浮かぶ。そのユイの小さい唇が、


「今更だけど、【塔烈中立都市セナアプア】で大活躍ね」

「おう。センティアの部屋は便利だ」

「うん。この【塔烈中立都市セナアプア】は魔法学院以外にも謎の魔塔が多い。他の遠い都市にも【幻瞑暗黒回廊】はあると思うし、センティアの部屋の移動は、リスクがあるけど、超が付くほど便利ね」

「あぁ」

「にゃお~」


 黒猫ロロがユイの足に頭部を寄せる。

 ゴロゴロと喉音を鳴らしている。


「ロロちゃんもお帰り。がんばったようね」

「にゃ」


 触手と拳をコツンと合わせる。二人は可愛く面白い。

 皆も、


「ユイ、ただいま」

「あ、うん、皆もお疲れ様。連続で奮闘したわね。ディアなんてまだ学生なのに」

「大丈夫です。いい経験でした。冒険者Bランクになりましたし、泡の浮遊岩では戦闘にも貢献できました」

「冒険者ギルドマスターの眷属化は本当のようね」

「キッカ・マヨハルトとは血文字で挨拶はしたんだろ?」

「うん。した。けど実際に会っていないから、まだなんとも」

「それもそうだな。そのキッカは忙しい。この魔塔ゲルハットに来るのは、少し遅れるかも知れない。聞いていると思うが、ユイの冒険者ランクもAに昇級をしてくれるらしい」

「うん。父さんもだけど、光魔ルシヴァルに関係する者たちは、全員昇級してくれるって。それはそれでどうなの? と思ったけど、それほどまでに、三つの浮遊岩の乱を鎮めたシュウヤの偉業は凄いようね」

「あぁ、そのようだ。ユイも見てみるといい――」


 頷いて、ユイと少し間合いを取る。

 ユイは『ん?』と頭部を傾げた。

 構わず、夜王の傘セイヴァルトを出して傘を開く。


「わぁ、素敵な漆黒の長柄傘。それが夜王の傘セイヴァルト!」

「おう」

「カードと鴉に戦旗が素敵。露先のアクセサリーにも小さい鴉と戦旗がある。そして、生地には、それぞれに意味がありそうなカードの模様もあるのね。あと、漆黒の槍と化す鴉の飛び道具も出せるって、血文字で報告は受けているけど」

「そうだ。あと、冒険者カードもな」


 夜王の傘セイヴァルトの中棒、柄を握りつつ――。

 黄金の冒険者カードを出すように意識。


「わ、黄金の冒険者カードが出た。へぇ、<血魔力>を纏っているの? これはこれで武器になるかも知れないってことのようだけど、本当に黄金なのね……」

「おう、キッカを<筆頭従者長選ばれし眷属>にする際に、血の中で魔剣・月華忌憚と黄金の冒険者カードが戦った。まぁ衝突したって印象で、争いはすぐに収まったんだが」

「うん」

 

 ユイの頷きからズームアウトするように夜王の傘セイヴァルトを閉じた。

 <血魔力>を纏う黄金の冒険者カードは俺の周囲を回る。


「不思議、冒険者カードが二十四面体トラペゾヘドロン的な動き。あ、他にも、夜王の傘セイヴァルトの生地のカード模様と関係した新スキルも獲得したのよね」

「そうだ。スキルは<光魔ノ奇想札>。戦闘職業も<光魔ノ奇想使い>を獲得」

「夜王の傘セイヴァルトの新能力。カードの模様は不思議な魔術師が多いようだけど、神界セウロスと関係が?」

「一部はあるかもな、ちょい試す――」


 黄金の冒険者カードを夜王の傘セイヴァルトに仕舞う。

 そして、爪先回転で後退――。

 ついでに竜頭金属甲ハルホンクを意識。


 ギュノスモロンとミスランの法衣を意識。

 アクセントに、オセべリア王国ペルネーテ領竜鷲勲章を胸元に付けるか――。


「ん、シュウヤ、演武?」

「夜王の傘セイヴァルトを試すのね」

「ご主人様の衣装が、漆黒に合わせたシックな戦闘服に」

「関連したスキルを獲得していましたからね」

「戦闘職業の<光魔ノ奇想使い>って、たぶん、この世にただ一人よ?」

「カード使いの戦闘職業はそれなりに見たことがあるけど、光魔って名前付きなのはシュウヤのみ」

「はい、カード使い系に限定するならば、賭博場のボディガードや賞金稼ぎ、闇ギルドの手練れに多い印象です」

「お兄様は槍使いですが、マジシャンに?」

「そうなるのかな」

「冒険者カードを武器にした新しい戦闘を模索するの?」


 と好き勝手に予想しまくる皆だ。

 気にせず、夜王の傘セイヴァルトを開いた。

 漆黒色の生地を拡げた。


 ダボと受け骨がパッと拡がる仕組みは気持ちいい。 

 さて、念のため、移動だ。


 ここの地下工房は空きスペースが多い、ばらし場に移動。

 クレーンは端に移動して空いている。ここなら大丈夫だ。

 

『閣下、獲得したスキルを使うのですね』

『おう』

『念のため、わたしが外に出て《水幕ウォータースクリーン》を周囲に展開しますか?』

『頼む』

『はい――』


 ヘルメが左目から迸る。

 俺は夜王の傘セイヴァルトを右側に回しつつヘルメの軌道を確保しながら身を捻って右足の爪先で床を蹴り跳躍を行う――。


 ヘルメが右斜め前に飛翔する姿を見ながら――。

 右手が握る開いた夜王の傘セイヴァルトで広い地下工房を飛翔――。

 夜王の傘セイヴァルトから魔力粒子が散る。

 ヘルメは地下工房のばらし場の広い範囲に《水幕ウォータースクリーン》を展開した。


 ヘルメが退くのを確認。

 着地してから夜王の傘セイヴァルトの中棒を下げて、角度を傾けた。

 視界は夜王の傘セイヴァルトの内側だ。

 生地の模様を活かす場合、有視界で狙いをつけるのは無理となる。

 魔察眼と掌握察が必須。

 

 または、<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>。


 ヘルメが左目にいれば精霊眼か、<血鎖の饗宴>で作った血鎖の兜、血鎖のバイザーとカレウドスコープを使用すれば視界は大丈夫か。


 偵察用ドローンって手もある。

 が、今は、このまま<光魔ノ奇想札>を試す――。

 

 <光魔ノ奇想札>――。

 一瞬で生地から数種類のカードが出たと分かる。


 同時に漆黒の長柄傘の内側にカード模様が浮かんだ。


 光と闇を扱う魔術師の格好か?

 血魔剣と似た魔剣と魔杖を持ったローブ姿。


 あ、俺が獲得して融合した戦闘職業の<光魔ノ魔術師>か!


 更にもうひとつのカードは遊び人って感じのピエロに近い格好だが、ピエロとは違う。

 銀色の衣装、あ、愚者、THE FOOLか。


「なにかカードが出た!」

「わぁ~」

「面白い~」

「にゃごおお」


 相棒も来たか。

 

 もう一つからは秩序の神オリミール様の強い加護を感じた。

 

 真っ赤な衣を羽織る杖を持つ者の絵柄。


 <光魔ノ魔術師>。

 愚者。

 真っ赤な衣を羽織る杖を持つ者。


 合計三つのカードか。


 それらの三つのカードを意識。

 すると、前方にカードが突進。

 感覚で理解。


 更に衝撃音と破裂音に衝撃波が響いた。

 カードが前方の床に魔法の攻撃を繰り出したようだ。


「「「おぉ」」」

「きゃ」

「にゃお~」


 漆黒の長柄傘を閉じた。三つのカードから飛び出た幻影たちは、<光魔ノ魔術師>、愚者、真っ赤な衣と魔杖か。その幻影たちが攻撃を繰り出したようだ。

 一定の範囲の床は斬り刻まれて積まれてあった瓦礫が塵と化していた。

 見た目は紋章魔法の《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》に近いか。

 さすがに王級の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードなどのような威力はない。《氷竜列フリーズドラゴネス》とも違う系統かな。


 ヘルメの《水幕ウォータースクリーン》が消えているから、結構威力があったようだ。


「凄い!」

「シュウヤ、今のカードが行った攻撃は思念操作?」

「ん、速度も速い」

「はい、カードも目まぐるしく回転しつつ宙を移動していました!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る