八百十三話 相棒の肉球のラ・ケラーダと到着した先は……
「ディア、何かぼうっとしていたが……」
「あ、はい。何か頭の中に刻まれた感覚が……」
「センティアの部屋と通じた何かか。衝撃が走った瞬間かな?」
「はい、お兄様の<覚式ノ理>でも感じましたか」
「閃光のような光は一瞬見えたが、ま、黄金と銀の扉に行こうか」
「はい」
「今度は違う魔法学院だったりして」
「到着した先……」
「気になるわね」
「魔塔ゲルハットにはそもそも通じていないとか?」
俺がそう発言すると、エヴァが急に俺の腕を引っ張り、
「ん、シュウヤとディアのコントロールなんだから、変なこと考えちゃだめ!」
怒りながらも恋人握りをしてくれた。
エヴァの掌と指はやっこくて好きだ。
俺がそう考えるとエヴァは体をピクッと揺らす。
怒った顔を止めてニコッと微笑んでくれた。
「ん、わたしもシュウヤの手はゴツゴツしているけど大好き」
「おう」
「はいはい、手は離してね~。黄金と銀の扉を開けるんでしょう?」
レベッカがエヴァと俺の手を引き離してエヴァの腕を掴むと、二人は黄金と銀の扉に先に向かう。続いて、ミスティとキサラとヴィーネとビーサが前に出た。
その彼女たちが、
「もし敵対する存在がいる場所だったら」
「はい、状況を把握しつつ前に出ようかと」
そう語るのはビーサ。
後頭部の器官を三つ編み状に変化させつつ先端を、その器官を肩にかけていた。器官の先端から桃色の粒子が放出する具合が、ポニョッとした感じで可愛い。
可愛さと強さを兼ね備えたビーサは、ラービアンソードの柄巻を触る。
毎回だが、種族ファネル・ファガルの後頭部の器官は面白いなぁ。
「ビーサ、わたしも前に出たい。古代邪竜ガドリセスの剣を活かす」
「ではヴィーネとビーサとシュウヤ様に前衛はお任せしましょう。わたしは<光魔ノ紙人形>を活かして後衛を意識します」
キサラはダモアヌンの魔槍を仕舞う。
口調はどことなく<魔謳>の旋律風で美しい声だ。
そして、両手首に嵌めている黒数珠を光らせた。
腰の<百鬼道>の魔導書も<血魔力>を有して輝く。
「わたしも後衛かな。ゼクスで<光魔吸>を使う。そして、エヴァとディアを守る」
「「「はい」」」
すると、額の魔印を輝かせたミスティ。
ゼクスの肩から降りて、黒色の鈍く光る手でゼクスに触る。
と、ユニコーン的な細長い一角がカッコいいゼクスの頭部がご開帳。
頭部の頭蓋骨は鋼と似た物質で皮ではないが……。
その頭部が放射状に押っ広げ。
開かれた頭部の内側は細い骨組み機構でメッシュ的な部分もある。
中身の脳は、前にも見ているが、CPU的なモノは少し変化していた。
マスドレッドコアに近いか。
クリスタル状のメモリ板のようなモノと、緑黄色の結晶のようなモノが上下にビッシリ詰まっていた。バイオニューロンチップが構成するニューロンコンピューター風。
それでいて、それらの精密機械のようなモノの上下の間を、蒼い炎と髑髏の形の細かい魔炎が龍のごとく行き交っていた。
不思議だが、非常に面白い。
皆のテンションの高まりを表現するようなBGMを響かせていた戦闘型デバイスの上に浮かぶ人工知能システムのアクセルマギナが、
「――興味深いです。CPUと予測する部分を守るナノセキュリティー防御層を兼ねていそうな魔力の網が濃密です……あ、CPU的なモノは一種の囮? エネルギー源の転換装置でカシュレッド放射が可能?」
「う、カシュレッドは知らない魔力の名だけど、鋭いわね……」
高度な会話だが少し分かる。
ミスティとアクセルマギナとビーサは頷き合う。
一方、キサラ、ヴィーネ、エヴァ、レベッカ、ディアはワケワカメといった顔付きで、可愛い。
イモリザならば、銀髪の形を〝?〟に変えていただろう。
レベッカとディアとエヴァは相棒と遊び出す。
キサラとヴィーネは真面目な表情だ。
ミスティとゼクスとビーサとアクセルマギナを順に見ては、会話から宇宙文明の魔機械に関する事柄を学ぼうとしている。
そんな二人の姿を見て……。
仮に、キサラとヴィーネが乗る宇宙船が未知の惑星に不時着したとしても、彼女たちならば生存が可能だと思えた。
「そして、エレニウム系のエネルギーはありますが、メリトニック粒子はない。しかし、
ゼクスが、なぜか光魔ルシヴァルのアンドロイド高級将校になっているが、まぁミスティは天才だからな。
ミスティは、アクセルマギナの機械音声の分析を聞いて喜んだ。
胸元から眼鏡を取り出し、素早く装着。
その眼鏡の端に細い指を当てて、
「ふふ、素直な称賛は嬉しい。ありがとう、アクセルマギナちゃん!」
「はい、人族も千差万別。その血筋が優秀ということでしょう」
「あ、わたしは、人族の血もあるけど、高度な文明を誇ったギュスターブ族の血脈だからかな。そして、ゼクスもわたしたちと同じ
と発言しつつ人差し指と中指を揃えた。その博士ポーズが似合う。
素敵お姉さん風のミスティだ。
惚れてまうやろー、というか惚れているが。
「はい」
その
「そうですね。共に戦った間柄ですから分かります。素晴らしい
「ビーサもゼクスを褒めてくれて嬉しい、ありがとう!」
「当然です。七魔将リフルと闇神リヴォグラフの眷属モンスター、ラ・ディウスマントルの眷属モンスター、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの骨魔人造軍団を叩き潰した間がら、戦友です!」
ミスティはディアと目配せ、そして、
「ふふ、うん。ビーサとアクセルマギナにラ・ケラーダを送るわ――」
「ふふ、はい――」
ディアも行った、面白い。
そして、珍しい。ミスティのラ・ケラーダのポーズか。ゼクスも同じポージング。
片腕の肘の関節部が骨ではなく人工筋肉っぽい。
そのゼクスの両腕に胸元と脇腹の金属が渋い。
先の空旅の最中にも出た光学迷彩話ではないが……。
ナノ技術の衝撃遮蔽メタマテリアル、電磁メタマテリアルなどの、プラズモニックナノ粒子系の誘電が優れた多層膜が施されてあるような両腕だ。
前腕部にはパイルバンカーが装着中。
それらの前腕の細かな溝から微かに放射状の魔力が散っていた。
人型機動兵器と呼べるゼクスのラ・ケラーダの姿を見ていると、
「ンン、にゃお~」
黒豹ロロディーヌも、ディアの足下で、自らの触手を前に出す。
肉球の膨らみは桃色と白色が混じる。クリームパン的な肉球ちゃんだ。
そして、ラ・ケラーダか? 面白いな、相棒の肉球のラ・ケラーダは!
「ふふ、ロロちゃんかわいすぎ」
「ん、皆でラ・ケラーダ?」
「ふふ、では――」
「はは、ヴィーネも似合う。ビーサも似合うが、ラ・ケラーダ! で、それはいいから、さぁ、ディア、行こうか」
「はい」
急ぎ、黄金と銀の扉に移動した。
そして、素早く魔力をセンティアの手に込める。
「ん、センティアの手にぶら下がる角灯が綺麗」
「うん、<覚式>の異獣が融合する動きは、いつ見ても不思議」
「猿賀と雉芽ですね、翼を持つ魚系種族と猿系種族の知的生命体は比較的ラロル星系に多い。この惑星セラがあるナパーム星系の辺境にも多いのかも知れませんね」
ビーサがそう発言。
「わたしたちの惑星を照らす太陽がある太陽系以外にも、惑星セラのような岩石惑星がある?」
「あるだろう。当然、無限に近い数存在する。って、宇宙話は切りが無いから後にしろ。扉を開けるぞ」
「「はい」」
「ん」
「戦いとなっても大丈夫だから」
「はい、お兄様! がんばります」
ディアの杖を持つ姿はまだまだ学生だと思わせる姿だ。
守らなくてはいけない。
素直に眷属化をすれば楽は楽だが……。
それはそれで、な……。
そして、眷属化と言えば、クレインが先か。
告白されたしな、エヴァの師匠で、アキレス師匠との繋がりもある。
アキレス師匠的に、どうなんだって気持ちもあるが……。
ま、眷属にすると約束はしたからな。
ペレランドラたちもそろそろ魔塔ゲルハットに来るだろう。
ルマルディも眷属になりたいだろうし。
そのルマルディは、この【塔烈中立都市セナアプア】に戻ってきても大丈夫なはずだ。
ただ、心理面がな。元同僚と争った経緯は……。
ま、サイデイルも重要な拠点だ。
サイデイルに戻ってからでもいいか。
そんな思考は一瞬で終了。
先と同じくセンティアの手の籠手から半透明のセンティアの手が出ると、黄金と銀の扉に浸透。そして、開いた。
開いた先には大部屋。
お、魔塔ゲルハットか。
前方の扉は魔塔ゲルハットにあった扉の形。
が、部屋の中央に淡い姿の魔女っ子。
怪しい老婆と、魔界騎士風の男性が出現して点滅。
「皆、俺と相棒が先に出る。魔塔ゲルハットだと思うが――」
「にゃお」
「ん、気を付けて」
「はい」
「わたしたちも出ます――」
皆の声を背中に感じながら黒豹ロロディーヌと駆けた。
俺たちはセンティアの部屋から出る。
部屋の中央で点滅していた魔女っ子は消える。
老婆も消えた。魔界騎士風の男性も消える。
すると、部屋の内部に魔素の反応、一瞬で、デボンチッチ?
あ、アギトナリラとナリラフリラの管理人たちだ。
不思議な小人と妖精たち――。
「『『高位魔力層のご主人様♪』』」
「『『ご主人様、お帰りなさいませ♪』』」
念話と実際のマハハイム共通語の言葉で挨拶してくれた。
「よう! ただいまだ」
「やったぁぁぁ」
「センティアの部屋、塔烈中立都市セナアプアの拠点と開通!」
「やったわね、マスター」
「おう」
「おめでとうございます!」
「ふふ、目的達成!」
「ん、これでセンティアの部屋でペルネーテとセナアプアを行き来可能?」
「はい、そのはず。移動手段的に、まだ確立はされていないと思いますが、パレデスの鏡以外での転移的な移動手段をゲットしたことになります。魔塔ゲルハットから【幻瞑暗黒回廊】を通して他の施設に転移が可能です」
「うふふ、ワクワクするわね。で、マスター。ディアとの操作感覚はどう?」
「たぶんだが、この場所は覚えたと思う」
そう言いながら、ディアを凝視。
「はい。不思議ですが、お兄様の言うとおり<覚式ノ従者>として、なにか、心にこの場所、空間が刻まれた感覚があります。その感覚は、これまで移動して到着してきた浮遊岩よりも強いです」
「なら、確立と見て良さそうね――」
「はい――」
「ふふ――」
「やったぁ」
皆でハイタッチ。眷属たちと仲間の細い腕と腋が美しい。
「よーし、魔塔ゲルハットにも【幻瞑暗黒回廊】が通っていたってことだ。そして、この魔塔ゲルハットのセンティアの部屋がある周囲は、魔法の部屋が幾つも改築されているような、他から隔離された空間でもあるということか」
「ここにも罠があるの?」
アギトナリラとナリラフリラの管理人たちは踊っているから平気かも知れない。
「アギトナリラたち。ここは魔塔ゲルハットの地下だよな?」
「「はい♪」」
「「罠はあります」」
「「ですが、高位魔力層のご主人様とその一族は大丈夫です♪」」
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