八百十一話 冒険者パーティ【ノーザンクロス】と泡の浮遊岩

 デートと発言した女性は仲間たちに注意されている。


 その間に――。

 地面に突き刺した王牌十字槍ヴェクサードを回収。

 

 怪人ヴェクサードさんの幻影は消えている。

 あまり実感はないが、戦いの効果は得ていたはずだ。


 すると、


「デュラート・シュウヤ様~」

「――シュウヤ様」


 横から、下の崖のほうに偵察に出ていたマルアとフィナプルスが戻ってきた。


「ん、おかえり。骨騎士、骨魔人造軍団はいなかった?」

「モンスターは見当たりません。霧と煙で視界は悪いです。岩ばかりで人骨も少なかったです。元魔法学院なのかと疑問に思いました。浮遊岩に住まう人々の遺物も少なくて、ちょっと怖かったです」

「右の方では硝子とクリスタルが密集した岩場と泉を擁した宿場町が数カ所ありました。右上の浮遊岩の縁際では、塩田のような施設、泡のような霧を噴出させている細長い岩場地帯もありました」


 マルアとフィナプルスがそう発言。


「泡の浮遊岩は塩の精製所でもあったのか」

「にゃお~」


 相棒のロロディーヌはフィナプルスに挨拶。

 背骨付近から小さい翼を出した。


「ロロ様の翼はカッコいいです」

「ンン」


 フィナプルスの真似をした相棒。

 喉声で返事をしてから後脚の爪先で首下を掻く。


「マルアとフィナプルスとリサナ。偵察ありがとう。そして、よく戦ってくれた」

「はい」

「はい♪」

「シュウヤ様の役に立てて嬉しい」


 フィナプルスを使う機会は少ないからな。

 頷いてから、


「おう、戻ってくれ」

「「はい」」


 マルアが戻ったデュラートの秘剣を戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞う。

 フィナプルスは両手を拡げて背中の一対の天使が持つような翼を畳む。


 可憐な仕種だが――フィナプルスは頭頂部を見せながら、魔界四九三書のフィナプルスの夜会目掛けて突進。その姿は、一瞬、『ストリートファイター』の『エドモンド本田』を彷彿とするスーパー頭突きに見えて少し怖かったが――。

 チュポンと音が聞こえるようにフィナプルスの夜会に入って消えた。


「わ、シュウヤの腰、大丈夫よね?」

「おう、バッチコーイだ」


 竜頭金属甲ハルホンク衣装を自慢するように腰を突き出す。

 イマジネーションと、ハルホンクが喰った素材で創った半袖衣装と黒いズボンを締めるベルトに傷はない。フィナプルスが帰還したベルトにぶら下がるフィナプルスの夜会は揺れていた。すると、その魔界四九三書の表面に……。

 フィナプルスと、フィナプルスの夜会の中に住まうルエルとリャイシャイの笑顔が見えたような気がした。


 和解したドルライ人とアニュイル人たちか。

 平和の想いが心を満たす。ラ・ケラーダを送ろう。すると、


「わたしも戻ります~♪」


 リサナは踊りつつ波群瓢箪の中に入る。

 波群瓢箪の全体の幅が少し縮んだ。

 波群瓢箪が、いつもより大きいように感じていたが、成長している証拠か。

 

 感心しながら戦闘型デバイスに波群瓢箪を仕舞った。

 さて、助けた方々の名を聞こうか。

 

「皆さん。名乗っておきます。俺の名はシュウヤ。黒猫の名はロロディーヌ、愛称はロロ。単眼球は、この紅玉環に仕舞いました。名はアドゥムブラリです。よろしく」

「はい、わたしの名はゲツラン。よろしくお願いします。そして、先ほどは、『わたしとデートを』などと発言して、すみませんでした! 舞い上がってしまって」


 謝る必要はないが、頷いて、


「気になさらず。命を失うかも知れない戦いに勝利したんですから、喜ぶのは当然」


「「おぉ」」


 周囲の冒険者たちが小さく歓声を発して、


「ゲツランが惚れるわけだ。男からもカッコいいと思わせる男がシュウヤさん! あ、俺の名はキヴ。<斧戟魔迅師>の戦闘職業を持ちます。冒険者ランクはAです」

「同じく俺の名はキワン。魔法主体の槍使い、<礫豪槍魔師>。冒険者パーティの〝イノセントアームズ〟の活躍は皆さんから聞きました」

「はい、わたしの名はメクフッド。<風魔杖師>の戦闘職業を持ちます。そして、アレスとガレスの仇をありがとう!」

「はい、アレスがリーダー。冒険者パーティの名は【ノーザンクロス】といいます」


 冒険者パーティ【ノーザンクロス】か。アレスさんとガレスさんの名が出ると、ゲツランさんは顔色が悪くなり、瞳から涙が溢れると泣いてしまった。


 肩で息をするようなゲツランさんを支えようと、


「ゲツラン……」


 ゲツランさんの背中に手を当てた男性のキワンさん。

 女性のメクフッドさんは、ハンカチをゲツランさんに差し出していた。


 <斧戟魔迅師>を持つキヴさんが、


「アレスとガレスが粘ってくれたお陰で、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの興味を引いたようだった。あの二人のお陰で、俺たちは助かったと言える」

「うん、ゲ・ゲラ・トーの種は怖すぎる」


 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは種の攻撃を繰り出していたのか?


「種ですか?」


 そう聞くと、キワンさんが、


「はい、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは特殊な種を吐いた。その特殊な種を喰らうと、体が種の苗場と化してしまう。そして、銀の花など、死の花を咲かせて、魔力を周囲に放つ。その魔力は骨魔人造軍団の栄養となるようでした」


 骨魔人造軍団の骨騎士を潰して砂状にしても、何回も蘇(よみがえ)ってきた理由の一つか。


「捕まったわたしたちは、ある種の実験材料」

「はい、アレスとガレスが犠牲に……」


 ゲツランさんとメクフッドさんがそう発言。

 前衛の二人は惨い殺され方だったようだな。

 

「闇と光の糸で押さえられていた俺たちは止めることができず、恐怖と絶望しかなかった」

「だから、皆様には感謝しています」

「ご主人様、エヴァとレベッカが倒した骨の魔術師が持っていた魔杖は回収しました」


 とヴィーネが拾ってくれていた魔杖を手渡ししてくれた。

 素早く戦闘型デバイスの上に浮かぶアクセルマギナに手渡すようにアイテムボックスの中に魔杖を入れる。名は魔杖ラベゼンか。

 

「便利なアイテムボックスね。鋼のケースとマグトリアの指輪が気になる」


 皆、アイテムボックスの上に浮かぶアイコンを注視していた。

 鋼のケースをもっといじくりたいが、マグトリアの指輪はだれがいいだろう。

 かなり優秀。言語魔法、紋章魔法を蓄積可能。

 魔法を即座に放てるようになるからな、皆が欲しがる優秀な魔道具。

 血文字で皆意見しているが、欲しがる血文字はなかった。

 カルードやサザーも魔法を放てるようになるアイテムだ。遠慮勝ちになるのは当然か。

 そう思考していると、


「しかし、灰色の大波を見た時は死ぬかと思ったが、シュウヤさんは血の能力で防いでくれた」

「うん。わたしたちを守りつつ戦ってくれた。感動の連続よ。今夜は眠れないかも」

「俺もだ。しかし、俺たちは本当に助かったんだな……」

「うん……」

「「あぁ」」


 【ノーザンクロス】の方々は頷き合う。

 と、やや遅れて強い眼差しを寄越してきた。感謝の念は痛いほど伝わってくる。


 ――拱手。


 ゲツランさんの魔眼と装備が気になった。

 魔眼の瞳には、§などの魔法文字が無数に刻まれている。


 その魔眼を見て、コレクターのシキを思い出した。

 虹彩の模様に、暦のような、三十時間の意味がありそうな印の並びが記されている。印は消すこともできるのか、小型魔法陣も浮いては消える。

 全身を行き交う魔力操作から<魔闘術>もかなり優秀と判断できた。

 魔力を帯びたネックレス。

 白を基調とした防護服に水晶が鏤められたケープを羽織る。


 そのゲツランさんたちを見て、


「皆さんの【ノーザンクロス】。渋くてカッコいい名ですね。そして、レベッカたちから聞いていると思いますが、俺たちも、ついこの間冒険者ランクAになったんですよ」

「網の浮遊岩を解放した一件! 特別な黄金のカードをもらったと聞きました」


 頷いた。

 夜王の傘セイヴァルトを右手に召喚。


「「きゃ」」


 ゲツランさんは分かる。

 が、ディアまで小さい声を発して驚いていた。


 構わず傘を開いて柄を下げる。

 夜王の傘セイヴァルトの傘の生地の表面を【ノーザンクロス】の方々に見せた。


 黄金の冒険者カードを意識すると、


「わ! 漆黒の長柄傘から黄金の冒険者カードが出ました! 傘の生地の模様も凄く綺麗! 冒険者カード以外にもカードが色々と刻まれていて、鴉と戦旗もあります。端に鴉と旗のアクセサリーもあるんですね。とてもシックで、燕尾服にも合いそう」


 ゲツランさんがそう語る。レベッカも数回頷いていた。

 ミスティも、


「神界セウロスの神々から祝福を受けた証明……マスターは、本当に闇と光の運び手ダモアヌンブリンガー?」

「ミスティ、わたしの言葉を信じていなかったのですか?」

「あ、ううん。そういうわけではないけど、皆との出会いを考えると本当に不思議な縁だなぁとね」

「ん」

「うん」

「「はい」」

「たしかに、わたしなんて女子トイレですよ?」

「「はは」」


 皆、ディアの言葉に笑う。話を変えるか。


 夜王の傘セイヴァルトを閉じて開く。


「この夜王の傘セイヴァルト。黄金の冒険者カードなどと連携が可能なんだ」


 再び、夜王の傘セイヴァルトの傘を閉じた。

 <血魔力>を有した黄金の冒険者カードは、夜王の傘セイヴァルトの中に戻らない。


 浮遊しつつ俺の胸元に飛来。

 血を纏う黄金の冒険者カードを掴む。

 カードの表面を覆っていた血は指に吸い込まれて消えた。

 その黄金の冒険者カードを人差し指と中指で挟む。

 そのまま黄金の冒険者カードを将棋の駒でも扱うように、クイクイッと回して、黄金の冒険者カードの表と裏を【ノーザンクロス】の方々に見せた。


 ゲツランさんは『うんうん』と声を出すように頷いて、俺の冒険者カードを凝視、


「見たことのない模様にAランクとΩ? レベッカさんとは少し模様が異なるのですね」

「神界セウロスの神々が奇跡を……知恵の焔が齎した現象!」


 キヴさんが、


「ラオンイングラハム家のドミタス様の言葉にあったという『秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様と通じた知恵の焔が天に届く反応を示す者、偉大なポイエーシスとなり神界セウロスに至る道の恩恵を齎す存在。同時に〝知慧の方樹〟を得るに至る神麓ヤサカノ森の存在なり』も凄い話だ」


 と発言。

 キワンさんも、


「神々が注目するシュウヤさんたち。そんな英雄、伝説の方々と俺たちは会話を……」

「キワンさん、そんなに畏まらなくても、戦友、同志だと思ってください。皆と同じ冒険者です」


 キワンさんとキヴさんは頷く。


「気さくな方だ」

「ということで、【ノーザンクロス】の皆さん、ここからは普通に話したいが」

「はい!」

「俺たちに気兼ねなさらず!」


 皆、いい笑顔。

 頷くと、ヴィーネが俺の冒険者カードに寄る。

 

 冒険者カードを凝視して、


「黄金の冒険者カードの進化とは個人で違うのですね」


 ヴィーネも自分の黄金の冒険者カードを見せてきた。


「ご主人様のカードの裏面にあるルシヴァルの紋章樹の模様には、<光魔の王笏>の印があります。わたしたちにはない。そして、ご主人様のカードには、眷属たちを意味するような細かなマークと、わたしを意味するような白銀色の印があります」


 ヴィーネの黄金の冒険者カードを見ると、確かに同じ。


「美しい銀髪を持つヴィーネらしい印だな。そして、俺とヴィーネの特別な愛の繋がりを表す」

「愛……凄く嬉しい言葉だ……」


 ヴィーネは喜んで俺の傍に来た。肩に頬を寄せる。

 グレイトな横乳さんの感触も得た。

 

 俺の小宇宙のコスモが滾る。

 そんな俺の気持ちを理解しているヴィーネさん。

 横乳を二の腕にわざと押し付けて、


「ご主人様に贈る特別なご褒美は……まだまだあるのだ」


 熱気を込めた小声で、俺の耳を湿らせる。

 俺の小宇宙のコスモが煩悩宇宙として奮い立ってしまうがな。

 すると、キサラがヴィーネに対抗して、


「シュウヤ様、わたしの意味するだろうマークも見てください」

 

 細い指先で黄金の冒険者カードに指を当てる。

 同時にヴィーネとは反対の腕を胸で挟んできた。

 ノースリーブ衣装の乳房の膨らみがダイレクトに……柔らかい胸が二の腕を包む。二の腕と肘は祭り状態だ。ワッショイ! ヘブライ語と似たワッショイ! まさにハーレム七神器。

 

 至高の膨らみが齎す桃源郷。

 が、このままでは、おっぱいのポロリもあるよ状態になってしまう。


 そう考えたところで、


「二人とも、シュウヤの鼻の下を伸ばしちゃダメでしょ!」


 ツッコミ大魔王レベッカさん。

 ツッコミは来ないが、蒼い双眸はメラメラと燃えていた。

 

 一方、エヴァとビーサとミスティは微笑む。

 そのエヴァとミスティは、レベッカの肩に「まぁまぁ」と落ち着くような手振りで触ってから、俺の傍にきた。

 

 ヴィーネとキサラは俺の腕から離れる。

 柔らかい幸せはどこへ行く、とか考えたところでエヴァとミスティが交代。


 エヴァとミスティは素早く俺の腕を抱きしめてくれた。

 そのエヴァが、


「ん、シュウヤ、がんばった。皆のため、ディアの兄探索のため、冒険者のため、塔烈中立都市セナアプアのため。魔塔ゲルハットはおまけ。ぜんぶ知ってる」


 エヴァには敵わないな。


「うん。エロで誤魔化そうとしていることが多々あることはエヴァから聞いている。そして、魔導人形ウォーガノフ研究ばかりなわたしも、隠れエロだから、この役目は地味に嬉しい」


 ミスティは別段隠れエロでもないと思うが、嬉しいことを。あ、それとも大人の玩具を開発して一人で楽しんでいたのか!?


 いかん、変なことを考えてしまった。


「ん、すぐえっちなことを考えるんだから!」


 エヴァに心を読まれた。


「え、わたしの顔で? マスター、えっちなこと、楽しみたいの?」


 ミスティは、大胆に細い足を寄せて、太股で俺の左足を擦る。


「そりゃ、楽しみたいが」

「ちょっと! ここではダメ!」

「ふふ――」


 レベッカとヘルメも寄ってきた。

 ゼクスも寄ってくる。


 常闇の水精霊ヘルメは「ふふ」と笑顔を見せながら速やかに体を液体化させた。


 液体ヘルメは自身の水をパッと散らす。七色の水飛沫か。


 辺りに勝利の女神が祝福したような虹ができた。


 同時にヘルメは皆に水を振る舞ったのか、皆の尻が輝いた。


 七色の光を発して散っていたヘルメの液体は集結しながら俺の左目に帰還。


 すると、キヴさんたちが、


「羨ましい。そして、水の精霊様の言葉は本当だった……」

「あぁ、皆さんの尻の輝きはさておき、美女たちと全員が恋人の話は本当のようだ」

「うん……シュウヤさんは、もてる」


 ゲツランさんがそう発言。あまり動じていない。


「実に羨ましい。そして、<血魔力>があるギルドマスターと特別な繋がりを得た話も納得だ」

「ギルマスのキッカさん。強くて美人さんで最高の女性だろう! 密かに話ができたら、と考えていたんだがな。シュウヤさんと密かに結ばれていたとは、ショックだ」

「是非も無し。しかも、美女に囲まれて自然体のシュウヤさん。強者の風格のままだ。凄すぎる。あらゆる意味で英雄だ……」

「男として素直に憧れる」

「あぁ、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーがキサラさんを攻撃したとき怒ったシュウヤさんは、格好良かった」

「……キヴ、俺もだ。風槍流を軸にした槍武術を随所に活かす戦術も実に見事。痺れたぜ。そして、シュウヤさんとシュウヤさんの偽物の戦いも、またなんというか……神懸かっていた」


 キワンさんは魔槍の穂先を傾ける。


「キワンは槍使いだから、得るものは多かったか」


 キワンさんの戦闘職業は<礫豪槍魔師>だったか。


「あぁ。見るだけで槍武術が成長したような気がする。運否天賦うんぷてんぷと言うが、シュウヤさんは、その運さえも引き寄せているような臨機応変な戦い方だった」

「骨魔人造軍団を潰した戦いだな。あれは……〝天を衝き、地を衝く槍の王、すべての悪を一手に引き受けて、その悪を滅する〟そんな言葉が自然と浮かんだ」

「キワンは詩人か! ま、強者だからこそ強者の美女たちが慕うのだろう……」

「キヴさんとキワンさん。照れますからそこまでに。エヴァとミスティも離れて」

「ん」

「分かった」

「――ちょ」


 変な声を発したのはレベッカ。

 俺にツッコミを入れようとしていたようだ。

 

「どうした?」

「な、なんでもない!」

「両腕はフリーだぞ?」

「え……し、知らない~」


 不自然に声が高まるレベッカさん、素直じゃないな。素早くレベッカとの間合いを詰めて、左手をレベッカの腰に回す。


「――きゃ」

「レベッカも二の腕を楽しめ」

「ばか……でも、強引さが素敵」


 レベッカは俺の腕と腰をぎゅっと両腕で抱く。プラチナブロンドの髪が揺れて項が見え隠れ。同時にシトラスの香りが漂う。

 

 その間に黄金の冒険者カードを――。


 <血鎖の饗宴>とまではいかないが、それの応用の<血魔力>で包んで浮かせていた夜王の傘セイヴァルトの生地の中に仕舞い――。

 レベッカを左手に抱えながら夜王の傘セイヴァルトを右手で掴んだ。

 素早く穂先を意識。傘の石突から銀色の穂先が出る。


 すると、キワンさんが、


「黄金の冒険者カードを仕舞える夜王の傘セイヴァルトの槍。珍しい武器ですね……」

 

 頷いて、


「槍と傘は応用が利く」

「はい、銀の穂先で骨魔騎士グランドルを貫いて、その傘を開くことで、骨と鋼のような体の内側から、骨魔騎士グランドルの体を粉砕していたことは覚えています」


 最初の時か。頷いた。


「すべての武具に通じるが、戦い方は、心得次第」

「シュウヤさんの言葉には深みがある。新たな槍の師匠を得た気持ちです。ありがとう」

「はは、とんでもない」


 キワンさんとキヴさんはゲツランさんと笑い合う。


「キワンの気持ちは分かる。大軍相手にも怯まない夜王の傘セイヴァルトを扱えるシュウヤさん。その風槍流を主軸とする様々な武術は凄かった。惚れました」


 熱く素直に語るゲツランさん。

 美人さんだから素直に嬉しい。


 が、レベッカはゲツランさんの態度と告白に嫉妬しているのか。

 

 俺の両腕を離さないように爪を立てていた。

 半袖の薄着versionだから腕から血が滲む。

 が、レベッカの好きなようにさせた。

 

 夜王の傘セイヴァルトを離す――。

 レベッカの背中を撫でつつ改めて【ノーザンクロス】の方々を凝視。


 ゲツランさんの漆黒の腰ベルトと連結した剣帯には魔剣がぶら下がる。


 その魔剣の黒の柄頭から銀色の魔力が薄らと放出中。鞘を構成する溝の間を薄い黄緑色の魔力が走っていた。


 魔剣と鞘も、キッカが愛用する魔剣・月華忌憚と同じような特別な装備かな。


「俺たちのことは、どの程度聞いたかな」

「大体は。センティアの部屋で【幻瞑暗黒回廊】の移動を繰り返している最中とか」


 頷いてから、


「そうだ。センティアの部屋が次に向かうのは『泡の浮遊岩』と予想はしていた。本当は魔塔ゲルハットに到着するのを望んでいたんだ」

「網の浮遊岩の解放者の下りも聞きました。そして、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを吹き飛ばしての登場には、驚きを覚えましたよ」


 キヴさんの言葉に頷いてから、破壊された祭壇を見上げる。

 センティアの部屋が祭壇の背後から出てきたような印象だ。


「破壊された祭壇の周囲は、センティアの部屋の影響で溶けているところもあるし、相当な衝撃だったようだ」

「センティアの部屋が現れた瞬間が凄かった! 天地雷鳴、硝子の玉座と巨大な魔法陣を破壊してゲ・ゲラ・トーをセンティアの部屋が吹き飛ばし、そのゲ・ゲラ・トーを倒した! と思いました。しかし、ゲ・ゲラ・トーの体は瞬時にくっ付いて、シュウヤさんたちに攻撃を……」

「そこから俺たちとゲ・ゲラ・トーと骨魔人造軍団の戦いとなったんだな」

「「はい」」


 皆、頷き合う。俺は、ヴィーネとキサラに、


「キッカには血文字で報告をした?」

「はい。仲間を集結させている最中らしく、網の浮遊岩の施設を破壊するようです。そのキッカたちは遺品の回収を優先。他にも上院と下院の評議員たち、盗賊ギルド、上界下界の管理委員会に報告を行ったようですね」

「忙しそうだ」

「はい。そして、泡の浮遊岩の戦いの詳細を聞いたキッカは『素晴らしい偉業! 本当に泡の浮遊岩を解放するとは! 光魔ルシヴァルとして誉れの極み! 近日中に冒険者ギルドか、わたしたちのところに来てくだされば、すぐにSランク昇級の儀式を行います。のちほど閣下に血文字を送ります』とのこと」


 Sランク昇級とは……。

 網の浮遊岩の解放者、泡の浮遊岩の解放者か。

 するとレベッカが離れて、


「昇級は冒険者ギルドのほうが忙しそうだから、後回しね。それでシュウヤ、空から浮遊岩を見ていたようだけど、骨騎士たちは?」

「俺が見た範囲だと、いないと思う。廃墟ばかり、骨の魔塔のようなモノが崩れまくっていた。細長い岩から水蒸気のような魔力が噴出していたな。温泉のような泉もあちこちにあったんだ。それで、急いで帰ってきた。塩が取れるのは知らなかった」

「温泉……貝殻の水着とか考えてそう」

「正解だ。相棒もおっぱいクロマティを発動していた」

「ンン、にゃぁぁ」


 相棒は俺の足下で転ける。俺が指摘するとは思わなかったのかな。

 面白い黒猫ロロ

 ま、お腹を撫でろって意味だと思うが。


「甘えたロロちゃん! かわいすぎ~」

「ん!」


 相棒はレベッカたちのほうに振り向いて、腹を晒す。


「ンン」

「あ、ロロちゃんが、わたしたちを見た!」

「にゃ、っか」


 驚いた。黒猫ロロが新しい言葉を!

 レベッカのことか?


「え、可愛い! 今、わたしの名を呼んだ?」

「ん、わたし!」

「いえ、わたしのはず――」


 レベッカたちは寝転がる相棒に突撃。

 相棒の腹とレア声に萌えてキャッキャッと弾ける女子高生か? ディアも混じるからそう見えた。


 すると、キヴさんたちが、


「シュウヤさんの話を聞くと、本来の泡の浮遊岩の復活のようです」

「はい、崩れた骨の魔塔は骨魔鍛造機などの魔法施設。暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーが倒れた証明」

「この場に来るまで骨魔人造軍団が守っていたが、消えたのなら幸いだ」

「骨魔鍛造機とは?」

「未知の魔導技術だと他の冒険者たちは語っていました。正式名称は知りませんが、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーが泡の浮遊岩を利用していた名残でしょう」


 と語る【ノーザンクロス】の方々。

 

「では、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに本来の泡の魔力水は押さえられていた?」

「はい。突兀から迸る泡のような魔力は〝泡魔水〟。突兀ごとに属性が異なる泡魔水が迸る。温泉だけでなく、泡魔水を活かした研究が色々と進んでいたと聞いています。エセル界の遺跡もあったようですね。上院評議員ネドーの浮遊岩なので詳しくは不明です。そして、魔法学院とは別の宿泊施設もありました」


 へぇ。


「ゲツランさんに皆さん、泡の浮遊岩のことは大体把握できた。ありがとう」

「はい」


 ディアに視線を向けて、


「ディア、センティアの部屋で、再度魔塔ゲルハットに帰還できるか試したいが」

「はい。わたしは大丈夫です」


 エヴァとミスティは『ディアは大丈夫』と頷く。

 

「移動は了解したけど、【幻瞑暗黒回廊】はセンティアの部屋が塞いでいるの?」

「分からない」

「センティアの部屋が転移したら【幻瞑暗黒回廊】が露出する?」

「そうかも知れない。【幻瞑封石室】と似たような封印の石室が周囲にあればエミアさんたちに封印をお願いしたいが、ここは天井がない段差のある壊れた祭壇で、開けた場所」

「うん。ないなら仕方ない。露出した【幻瞑暗黒回廊】から【異形のヴォッファン】などの闇神リヴォグラフの眷属集団が現れるかも知れないし、【ノーザンクロス】の方々には、避難してもらっておいたほうがいいのかしら」


 ミスティの言葉に頷いた。

 ゲツランさんたちも顔を見合わせて頷いていた。


「そのほうがいいだろう。が、目に見える形で【幻瞑暗黒回廊】は現れないかも知れない。魔法学院ロンベルジュのように秘密の部屋だらけなら、分かりやすいと思うが……」

「ここも魔法学院ロンベルジュと同じような〝開かずの間〟があった?」

「たぶんな。【魔素を遮断する秘密の部屋】などの魔法改築された部屋が無数にあったんだろう」

「ディアが突破した〝開かずの間〟ね。【幻瞑暗黒回廊】に辿り着くまでが大変」

「はい」

「ならば、リフルが管轄していた魔迷宮が出現したドリサン魔法学院にも、【幻瞑暗黒回廊】はまだ残っている?」

「残っているはずだ。七魔将リフルを屠ったことで闇神リヴォグラフの<暗黒瞑想>の効果は消えているとは思うがな」


 すると、


「シュウヤさんたち、冒険者ギルドに報告はいいのですか?」

「キッカたちとは特別な繋がりがあるから、下界か上界の冒険者ギルドには行かないでも報告は可能なんだ」

「あ、はい。では、センティアの部屋で……」


 ゲツランさんとは、個人的に親しき仲になりたい思いはある。

 がそれはそれ、今は今。

 

 【ノーザンクロス】たちとの出会いもまた一つの縁だ。


「おう。またどこかで。デートは正直できるか分からない」

「は、はい。いつかデートをお願いします」


 ゲツランさんは残念そうな顔付きだが、仕方がない。

 皆に視線を巡らせてから、


「了解。【ノーザンクロス】の方々。避難は必要ないかも知れないですが、念のため、この泡の浮遊岩から避難をお願いしたい。そして、キッカと皆に連絡をしておきます。冒険者ギルドで受けた依頼も完遂されるはずです」


 泡の浮遊岩の緊急依頼なら【ノーザンクロス】も達成したことになる。



「分かりました」

「はい、ありがとう」

「シュウヤ殿とイノセントアームズの皆さん、ディアさん、水の精霊様とマルアさんとフィナプルスさん、ありがとうございました――」

「「ありがとうございました」」


 【ノーザンクロス】の方々は踵を返した。


「相棒、すまないが、あのノーザンクロスの方々を下界に送ってあげてくれ」

「ンン、にゃ~」


 走る相棒。

 黒猫から黒豹に――。

 そして、ストライドの長い黒馬に変身。

 走りながら大きな黒獅子へと体を変化させた。

 そのグリフォン的な相棒ロロディーヌ、触手を無数に繰り出すと、【ノーザンクロス】の方々を捕らえて一瞬で背中に運ぶ。


 下界に向かったのか、見えなくなった。

 

「ロロちゃんならすぐに運んでくれるから、いい判断」

「はい。神獣ロロ様は速い」

「そうだな」


 暫し、皆と談笑しつつ相棒が戻ってくるまで待った。

 すると、空に大きい黒虎の姿を確認。


 黒獅子ではなく、巨大な黒虎versionか。迫力満点。

 塔烈中立都市セナアプアの下界の人々は、巨大な黒虎の姿を見て『巨大な魔獣が襲来だぁ』と悲鳴をあげていたかも知れない。

 着地した巨大な黒虎ロロディーヌ。

 黒豹の姿に戻りつつ俺の足下に走り寄ってきた。

 そのまま勢い良く頭部を俺の足に衝突させてくる。

 衝撃が強くて痛いが、我慢、腰を下げて、甘えてきた相棒の胴体を撫でてあげた。


「にゃお~」

「相棒、お帰り」

「ん、ロロちゃんはシュウヤが好きなのね」


 黒豹ロロは耳をピクッと動かして、エヴァの言葉を聞いている。

 俺から離れて、隣のヴィーネとエヴァの足に頭部をぶつけていった。


 レベッカとキサラとディアとミスティとビーサにもぶつけていく。


「ふふ」

「ロロちゃん~♪」


 レベッカは黒豹ロロディーヌの尻尾を掴むと、


「にゃご」


 とレベッカは肉球パンチを膝の裏に喰らう。いつもの展開だが和む。


 そんな皆に向けて、


「なぁ、マグトリアの指輪だが、皆使いたいよな?」

「はい。ご主人様が決めたほうがいいかと思います」

「ん」

「うん」

「んじゃ、エヴァが使うといい――」


 戦闘型デバイスから取り出したマグトリアの指輪をエヴァに渡した。


「早!」

「え」

「……はい」

「シュウヤらしい判断力だけど、女としては……」


 エヴァ以外は不満顔。

 が、仕方ないだろう。エヴァの喜ぶ顔は大好きだ!


「ん、シュウヤ、ありがと!」


 とエヴァに頬にキスされた。


「いつものことだ――」

 

 エヴァを抱きかかえて横回転。

 皆から逃げた。


「ん、ふふ、皆から逃げるの?」

「おう。宇宙にロマンチック街道を探しに、エヴァと二人でコスモを滾らせる」

「ん! えっちんぐぱわー!」

『ふふ』

「――なにがロマンチック街道よ! エヴァもえっちんぐぱわーとか言って調子に乗ってるし! ロロちゃん、懲らしめて!」


 背後からレベッカを乗せた黒虎ロロディーヌが突進してきた。

 ヤヴァ――。


「にゃごおお」

「きゃ」


 抱えていたエヴァの体に、ロロディーヌの触手が絡む。

 一瞬でエヴァは相棒の背中に跨がっているレベッカの前に運ばれていた。

 俺も触手に捕まった。

 ――ぐわんっと視界が揺れた瞬間――。

 相棒の背中に跨がっているエヴァとレベッカの背後に運ばれる。

 わしゃわしゃと相棒の触手で髪の毛をもみくちゃにされた。

 が、構わず目の前のレベッカの腰に左手を回して、レベッカを背後から抱きしめた。


 細いレベッカを堪能するように脇腹を片手でくすぐって項をフガフガしたった。


「ちょ、あんっ、くすぐったい、ばかぁぁ」

「ンンン――」


 相棒はそのまま急上昇――。


「あわわ、ロロちゃん、センティアの部屋、泡の浮遊岩から離れちゃだめ――」

「相棒は空が好きだからなぁ」

「ん、ロロちゃん、ごー!」


 エヴァは片手を可愛く前に突き出していた。

 

 これはこれで楽しいようだ。

 下から<荒鷹ノ空具>の白銀の翼を活かすヴィーネが追ってくる。

 キサラ、ビーサ、ミスティ、ディアは壊れた祭壇から見上げている。


 少しレベッカに悪戯しながら相棒の好きなように空中散歩を楽しんでもらおうかな。

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