八百三話 眷属化と智恵の焔

 キッカさんは立ち上がる。

 中分け、六四分けの髪の毛が左右に靡く。

 背中と足下から<血魔力>を放出。

 双眸も血色が強まった。

 吸血鬼ヴァンパイア顔だ。

 

「覚悟を決めた面か」

「はい」

「……光魔ルシヴァルとなれば種族が変化する。裏仕事人の仲間との話し合いは?」

「要らないです。皆もそうだろう?」

「そうね。ギルドマスター、戦友のキッカの判断。跪くのは初めてだったから驚いたけど、その厳しい仕事顔と<血魔力>で本気中の本気と分かる」

「あぁ、ヴァンパイアハーフのことはあまり気にしていなかったが、どうやらマヨハルト家にも通じる重要事項のようだからな。そして、シュウヤ殿は漢も魅了する。ギルマスの判断に異議は無い!」

「うん。怪夜王セイヴァルト夫婦からの王の証しに加えて【天凛の月】の総長でしょ? そんな方にわたしたちは救われた。そして、皆も気付いていると思うけど……」


 金色の髪の女性の副ギルドマスターのエミア・ゼピィルスさんがそう発言。

 手元には憲章オリミール・朱玉守が浮かぶ。

 最初に見せていた石板も浮いていた。


「あぁ、憲章オリミールの知恵の焔だな。神界セウロスの神々も、ちゃんと、このセナアプアでも、俺たちを見ているということだ」

「たしかに、今までにないほどの反応だった」

「そうだな。ラオンイングラハム家の会議の場にご出席されることがある秩序の神オリミール様の【秩序の掟】の賢者ソーシス様のお話を思い出した。『秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様と通じた知恵の焔が天に届く反応を示す者、偉大なポイエーシスとなり神界セウロスに至る道の恩恵を齎す存在。同時に〝知慧の方樹〟を得るに至る神麓ヤサカノ森の存在なり』と語っておいでだった」


 智恵の焔は先ほどの憲章アイテムから出ていた俺たちのカードを溶かして新調した現象か。


 知慧の方樹の名が出てくるとは驚きだ。

 

 ロロディーヌの前身、神獣ローゼスから聞いていた秘宝の一つが知恵の宝珠。


 もう一つの玄樹の光酒珠げんじゅのこうしゅたまはロロディーヌが得て、真の力を取り戻した。


 しかし、偉人さんのような賢者様が来訪するギルド裏仕事人のドミタス・ラオンイングラハムさんのラオンイングラハム家は名家なのか?


「ンン」

 

 相棒はエジプト座りで喉音を鳴らした。

 

「さて、キッカさん。眷属化を行うとして、俺にはペルネーテ、ホルカーバム、サイデイルで活動中の眷属たちがいることは覚えておいてくれ。そして、その眷属たちと血文字で遠距離からいつでも連絡が可能となる。その血文字が使えるようになるのは処女刃での血の儀式を経てからとなるが」

「それは手紙のような<血魔力>系のスキル?」

「スキルではないから光魔ルシヴァルの種族特性だな」

「分かりました。凄い能力です。が、その処女刃と血の儀式が少し気になります」

「それは後ほど。で、眷属には<従者長>と<筆頭従者長>、二つあるんだが」

「どちらでも構わないです」

「なら、<筆頭従者長>に迎えよう」

「分かりました」


 頷いてから冒険者ギルドのメンバーに向けて、


「皆さんは少し離れていてください」

「「はい」」


 キッカさんと俺は左に移動。

 そこで、


「では、キッカさん、行きますよ」

「は、はい、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。光魔ルシヴァルの血の世界に誘おう! <光闇ノ奔流>と<大真祖の宗系譜者>を内包した、光魔ルシヴァルの<光魔の王笏>を発動する――」


 同時に<筆頭従者長>を強く思った。

 俺の体から大量の血が迸る。

 同時に、持っていた黄金の冒険者カードが光を帯びて俺の血の中を浮遊する。

 更に、天から降り注いだ先ほどと同じ焔が俺たちを貫いた。攻撃ではない焔は……。


「え!」

「「智恵の焔――」」

「……これほどの神意……秩序の神オリミール様が!?」

「知恵の神イリアス様の恩恵か?」

「分からないわ……光魔ルシヴァルの儀式に神意の介入?」

「ん、今までにない」

「はい……」

「ねぇ、わたしたちのカードも輝いてる?」

「「あ」」

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