七百九十八話 新手のダークエルフ!?

 魔元帥ラ・ディウスマントルの左手の甲が膨らんだ。

 橙色が強まって丸い盾のような印象になる。

 点在していた暗黒魔力も背中に集結させると巨大なマントのように靡かせた。


 肌にひしひしとした圧を受けた。

 精神も削られるような印象だ。

 が、ラ・ディウスマントルは攻撃をしてこない。

 

 <血鎖の饗宴>を警戒したか。

 その血鎖の群れを退かせた。

 俺と相棒の前に血鎖で薔薇畑を作るように<血鎖の饗宴>を展開。

 ラ・ディウスマントルは俺たちの間にある血鎖の群れを見てから俺を凝視し、


「罠のつもりか?」

「さあな」

 

 魔元帥ラ・ディウスマントルは炎のような双眸を細めて鋭くさせて俺たちを睨む。

 その双眸は胸の菱形と同じ橙色の炎。

 鎧の中心の胸元には、菱形の塊があり、その菱形の塊からプロミネンス的な炎が体の外へとぼうぼうと放出されていた。


 その菱形から毛細血管的な橙色の炎が体中へと巡っている。


 体は透けているわけではないが……。

 細い炎が体を巡る血流のように見えるのは不思議だ。


 炎の力を有している?

 炎が弱点にも思えるが……巨大なマントのような暗黒魔力とは対照的だ。 

 そのラ・ディウスマントルは暗黒魔力を巨大なマントを超える勢いで背中側から放出した。

 

 同時に漆黒の軍服的な肉鎧も煌めいた。

 漆黒色と橙色のコントラストが綺麗なラ・ディウスマントルはゆらりと飛翔。


 <血鎖の饗宴>の薔薇畑を避けるように右側に移動した。


 浮遊移動するラ・ディウスマントルの体と繋がる魑魅魍魎の魔力も尾のように揺らめいた。

 

「魑魅魍魎の魔力が源?」

「ん、石室にある魔法陣がラ・ディウスマントルと繋がる大本かも」

「うん。細身のモンスターもその魔法陣の周囲から異常に湧く――」

「ご主人様、石室の場を確保します――」

「させぬわ――」


 ラ・ディウスマントルの背から出た暗黒魔力が皆に向かう。

 【幻瞑暗黒回廊】から出ている魑魅魍魎の魔力はラ・ディウスマントルに向かった。


「こっちは任せろ――」


 <血鎖の饗宴>を操作。

 血鎖の群れが槍衾的に斜め上に伸びる。

 その槍衾的な<血鎖の饗宴>が、波のような暗黒魔力を貫きまくった。


 ラ・ディウスマントルが繰り出した波のような暗黒魔力を宙空で縫い止めることに成功。


 血鎖の攻撃で暗黒魔力は蒸発しつつ小さくなる。


「チッ」

 

 舌打ちしたラ・ディウスマントル。

 皆に向けた暗黒魔力を斜め下の自身の背中に引き戻す。

 

 依然として、その背中からマントのように出ている暗黒魔力の勢いは強い。すると、石室の前に移動した黒馬のロロディーヌが口を拡げて、


「にゃごぉ――」

 

 と螺旋状の炎を発した。

 螺旋状の炎は石室の真上にあった半透明な魔法陣を砕くように破壊。

 

 そのまま相棒の螺旋状の炎はドームの屋根を突き抜けて魔塔の一部を破壊してしまった。


 驚いているラ・ディウスマントルは、


「魔界セブドラとの繋がりを……しかし、明らかに魔獣ゲルトーサとは違う。戦神の匂いも濃い……」


 そう発言。

 同時に、埃と一緒に無数の血肉と骨の残骸が落ちてくる。


 エヴァは金属の傘でディアを守る。


「残骸は任せて」


 レベッカが宙空に向けて蒼炎弾を幾つも飛ばした。

 それらの落下してきた残骸を蒼炎弾で燃やす。


 そのレベッカが、


「こっちも!」


 と槍状の蒼炎を飛ばす。

 【幻瞑暗黒回廊】から出ている魑魅魍魎の魔力を、その蒼炎の槍が貫いて燃焼させた。


 続けて腰からグーフォンの魔杖を出した。

 その杖から炎をラ・ディウスマントルに向ける。


 ラ・ディウスマントルは素早く――。

 背中側の暗黒魔力で身を包むと、レベッカの炎を防ぐ。

 

 ラ・ディウスマントルは蝙蝠の羽根のように暗黒魔力を展開しつつ宙を飛翔。

 逃げたラ・ディウスマントルに<鎖>を放って追撃。

 

 ラ・ディウスマントルはターン。

 左に向かい<鎖>を避ける。


 さらに<鎖>を向かわせるが素早い。 

 レベッカは更に腰からレムランの竜杖を出した。

 ミニドラたちがそれぞれ炎を繰り出していったが、ラ・ディウスマントルは軽々と避ける。

 レベッカの蒼炎弾もミニドラの攻撃も暗黒魔力の形を変えて弾いていった。


 その間にも、石室から覗かせる【幻瞑暗黒回廊】から出た魑魅魍魎の魔力がラ・ディウスマントルに向かうが、その魑魅魍魎の魔力はキサラの血に燃えた紙人形爆弾が吹き飛ばしてくれた。


 しかし【幻瞑暗黒回廊】から直ぐに湧く魑魅魍魎の魔力。

 その魑魅魍魎の魔力の勢いは衰えない。

 

 魑魅魍魎の魔力は加速。

 やはりラ・ディウスマントルに向かう。

 

「こっちにも半透明な魔法陣があったわ!」


 センティアの部屋と石室の反対方向にあった半透明な魔法陣をゼクスに乗ったミスティが光る剣で切断。

 

 途端に魑魅魍魎の魔力は勢いを失うが、魑魅魍魎の魔力が分岐しつつ頭蓋骨に変成を始める。


 そのキサラが、

 

「出現はさせません――天魔女流<刃翔鐘撃>」


 魑魅魍魎の魔力から骨のモンスターに変化しそうだったが、その魑魅魍魎の魔力と頭蓋骨を、キサラがダモアヌンの穂先から出た髑髏の刃で貫いた。頭蓋骨は燃えると、分岐していた魑魅魍魎の魔力は爆発して散る。


 まだ魑魅魍魎の魔力は残っていたが、ヴィーネの、


「<速連射>――」


 無数の<血魔力>が混じる光線の矢が【幻瞑暗黒回廊】から出ていた魑魅魍魎の魔力に突き刺さった。


 すると、光線の矢から発せられた緑色の蛇模様が、魑魅魍魎の魔力に浸透。

 魑魅魍魎の魔力が内部から緑色の光を放ち爆発すると、緑色の薔薇模様が周囲に誕生。

 魑魅魍魎の魔力から爆発が連鎖した。

 石室の色合いを変えるように爆発しまくる。


 爆発の連鎖は石室から覗かせる【幻瞑暗黒回廊】の内部にまで浸透した。


 最後に石室から覗かせていた【幻瞑暗黒回廊】の奥底から緑色の閃光が走って、ドドドドドドッと鈍い重低音を響かせてから爆発の連鎖は止まった。


 少し遅れて振動音が響いた。

 石室と、この魔塔も揺れて、天井の残骸の一部が落下。

 その残骸はラ・ディウスマントルに向かうが、暗黒魔力が残骸を潰すように弾いた。

 

 そんなラ・ディウスマントルにエヴァが操作した金属の刃が向かう。


 同時に石室から覗かせる【幻瞑暗黒回廊】から出ていた魑魅魍魎の魔力が異常に少なくなった。


「く――」


 宙空で回転しつつエヴァの扱う金属の刃を避けていたラ・ディウスマントルから洩れた声は『しまった』と言ったようなニュアンスだった。


 同時にラ・ディウスマントルの背中から魔塔の天井と惑星セラの世界をも浸透させる勢いで展開していた暗黒魔力が揺らめくと、背中に収斂していく。


 すると、【幻瞑暗黒回廊】に強い魔素反応。


「皆、その石室から離れろ」

「「え?」」


 用心のため右手に魔槍杖バルドークを召喚。


 ラ・ディウスマントルの態度はすべて罠だったのか?

 魔法陣の破壊を促していた?


 その石室に手が掛かる。

 爪が異常に長い怪物か?


 いや、魔人の新手か。

 サッと現れたのは、魔族?


 ヒール靴の……え、ダークエルフ?

 仮面を被っている。


「え? ヴィーネ?」

「「え?」」


 銀仮面を頭部にかぶせているヴィーネも驚いている。

 そのヴィーネと似ていた。ダークエルフっぽい。

 

 緑薔薇の蛇模様の衣装はすこぶる素敵だ。

 あ、髪の毛は蛇だ。

 

「ぬ?」


 上で漂うラ・ディウスマントルも驚いている。

 膨大な魔力を内包した女性のダークエルフは、


「ふふ」

 

 微笑みながら周囲を観察。


「ここはどこなのかしら……」


 女性のダークエルフはそう呟いた。


 片方の目は漆黒。

 もう片方の目は灰色。

 魔法の仮面越しだが、明らかに魔眼と分かる。

 

 そして、目元にある傷は唇まで続いている。

 腕の近くには燃えた状態の魔術書が開いたまま浮いていた。


 もう片方の腕には包帯のような布を巻いている。

 そんな女性のダークエルフに、


「貴女は……」


 俺を見るダークエルフさん。

 美人さんだ。


 そんな美人のダークエルフさん。

 俺をジッと見て睨むと、急に微笑む。


「あ、貴方……ふふ、ミセア様のお気に入りの異質なる混沌のシュウヤね」

「あ、はい」


 ダークエルフはチラッとヴィーネとそのヴィーネが持つ翡翠の蛇弓バジュラを見て、『へぇ』と言うように頷いて、


「……そういうことね」


 と納得顔。

 再び俺に魔眼の双眸を寄越した。


「あの、貴女は魔毒の女神ミセア様の?」

「そうよ。名はキュルレンス」

 

 魔毒の女神ミセア様の眷属さんか。

 すると、ラ・ディウスマントルが、

 


「……我の領域を魔毒の女神ミセアの眷属共が穢したのか……許せんな――」


 ラ・ディウスマントルのマント的な暗黒魔力の端が生物的に蠢くや蜘蛛の多脚のように宙空に拡がる。

 

 それらの蜘蛛の脚のような暗黒魔力は槍の穂先に変化を遂げるや、異質な音を立ててキュルレンスさんへと向かう。


 キュルレンスさんは涼し気な表情のままだ。

 キュルレンスさんは俺とヴィーネを見たまま動じない。


 ラ・ディウスマントルの攻撃に気付いていない?

 急ぎ、夜王の傘セイヴァルトを左手に召喚。

 

 その夜王の傘を広げた――。

 傘を使いキュルレンスさんを守ろうと前進。


 右手の魔槍杖バルドークの<投擲>も選択肢にいれながら、先に<超能力精神サイキックマインド>を使うか――。

 すると蛇の髪が蠢くキュルレンスさんは、


「混沌の槍使いシュウヤ。必要ないわ――」

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