七百八十一話 センティアの手と一種の姫武将?
天井から降りてきた幻影の女性と猿と雉は床に着地。
その瞬間――。
俺とディアのセンティアの手から魔線が迸る――。
その魔線は幻影の女性と猿と雉と繋がって、ドクドクと脈打つ。
俺の胸元が強く輝いた。
<光の授印>か。
俺とディアのセンティアの手の籠手は振動を起こし、勝手に動こうとした。
幻影たちと繋がった影響を受けたのか。
更に魔力を失う。
体力的な生命エネルギーも吸われているような感覚を受けた。
魂か?
俺なら幾ら吸われても構わないが――。
ディアは違う。
「あぁ……魔力と力が……」
ディアも魔力と生命エネルギーのようなモノを幻影たちに吸われているようだ。
幻影たちから『アァァァ』と苦しむ声が響くと、その幻影たちから、闇の血のようなモノが燃えるように放出されていった。
「閣下!」
「にゃご!」
「俺が対処する、皆、待機!」
幻影たちが気になるが――。
急ぎ、血魔剣を左手に逆手で召喚。
「「はい」」
「ん」
「分かったけど……」
「ディア、痛いだろうが、我慢しろよ」
「え、は、はい」
血魔剣を右へと動かした。
赤い剣身でディアの頭部や髪を切らないように血魔剣を回転させる。
その髑髏の柄巻が向かう先はディアのセンティアの手だ――。
血魔剣の柄巻でセンティアの手の籠手を強く叩いた。
叩かれたディアは、
「――イギッ」
痛がるが、ディアのセンティアの手から魔線が消えた。
代わりに俺の魔線の振動が強まる。
センティアの手の締め付けが強まった。
骨が折れたような音も響くと、捻れたか。
「お、お兄様……ありがとうございます。でも、お兄様の腕が……」
「構わない、離れるなよ」
「……はい……」
ディアは、俺の胸にキスをするように頬と唇を突ける。
両腕を腰に回してホールドしてきた。
ディアの眼鏡が、ハルホンクの衣装と衝突して、またズレていた。
そのズレた眼鏡のレンズが曇る。
そのディアを守ることを意識するが……。
俺のセンティアの手から出ている魔線は、依然として、幻影たちと繋がったままだ。
すると、幻影たちが揺らぐ。
同時にセンティアの手の籠手の締め付けが緩まる。
幻影の女性は閃光を発した。
閃光は収まると本物の黒髪の女性となった。
本物の和風の戦装束が似合う女性。
どこか呆けた顔だ。
その和風の女性は片目がない。
猿と雉も生きている。
本物の動物だ。
しかし、片目の黒髪の女性と動物たちが誕生した瞬間、生命の息吹を得たような躍動感があった。
なんとなくだが……。
魔造虎が魔力を得た直後の動きに似ていた。
長い黒髪の女性は日本人かな。
長襦袢も見え隠れ。
和風の戦装束が似合う。
その戦装束の表面を漂う魔法の衣は煌びやかだ。
煌びやかな魔法の衣は、風を孕んだように靡く。
綸子模様の魔法の衣か。
神界の武将が着る衣装とか?
ヘルメと<神剣・三叉法具サラテン>たちの衣と少し似ている。
右手には魔力を内包した巨大な筆を持つ。
判官筆のような武器とパレットのような絵の具も周囲に浮いていた。
左手はないようだ。
切れた袖口が血に濡れて揺れていた。
巨大な筆は槍にも見える。
戦神ラマドシュラー様の姿を思い出した。
一種の姫武将?
大きい猿と雉を従えていると分かる。
犬がいたら、女性版桃太郎って出で立ちだ。
黒髪の女性と猿と雉は、俺たちからエネルギーを得たようだ。
『むむむ?』
『器様、黒髪の女性は仙女でしょうか』
『<天地の霊気>と似た魔力を感じます』
『……異獣牙森ノ鏡の仙人の勢力が着る装束に近いですね』
<神剣・三叉法具サラテン>たちの思念が聞こえてくる。
神界セウロスの関係者?
俺とディアのセンティアの手の魔力が弱まった。
籠手の甲にぶら下がる角灯も光を失うと、中の猿と雉は動きを止める。
その猿と雉の見た目はガチャポンのフィギュアにも見えた。
「お兄様、あの女性はわたしたちと同じ黒髪です。このセンティアの手と関係する存在と分かりますが、お兄様やわたしと血の繋がりが?」
「分からないが、あるかも知れない」
「ンン、にゃ」
「もしそうならびっくりね」
「はい……シュウヤ様が知る転生者、或いは転移者かも知れないのですね」
「ん……黒髪の女性は、センティアの部屋に封じられていた?」
エヴァがそう発言すると、黒髪の女性から微笑む声が響いてきた。
後光もあるし、何か神秘的だ。
「猿と雉はモンスター?」
「おそらく。微笑む声は可愛らしいですが、猿と雉は要注意かと」
「気を付けましょう」
「ん」
ヘルメは俺の頭上で待機。
他の皆は、床を足で確認しつつ歩いて、俺とディアから離れた。
「にゃお」
相棒も地面に降りた。
俺とディアを守るように黒豹に変身しつつ、少し前に出る。
「ガルルゥ」
唸り声を発した。
その
相棒が威嚇するが、センティアと目される黒髪の女性は気にせず。
沈黙しながら微笑んできた。
センティアの部屋の壁はゆっくりと回転を続けている。
そして、天井は光を放ち続けていたが、センティアの手の防具の造形は消えていた。
エヴァが語ったことは正解か?
すると、ゆっくりと回り続けていた壁の回転が止まる。
センティアの部屋の壁が消えた。
すると、右にいるビーサが、
「シュウヤ、宇宙に転移を?」
そう発言。
ラービアンソードに魔力を通した状態。
「その可能性はあるが……」
「【幻瞑暗黒回廊】と似た場所のようにも思えます」
ディアの発言を聞きながら――。
四方の元壁の宇宙空間を見た。
センティアの部屋には空気があるが……。
ハートミットの最新鋭艦と同じような外装機能を備えているとか。
部屋その物にフォースフィールド的な魔力層が展開している?
だとしたら、センティアの部屋自体がなんらかの移動装置で、宇宙船のコックピットの可能性もあるわけか。
「閣下」
「おう」
頷いたヘルメは、
「《
両手から水を放つ。
その水は、俺とディアと相棒と距離を取った皆を守るように宙空に展開された。
「ん、精霊様ありがとう」
右に移動したエヴァ。
ゼクスの肩に乗っているミスティも移動した。
ビーサは口元に特殊ブリーザーを装着中。
そのビーサと頷き合いつつ――。
念のため<血道第四・開門>――。
<霊血装・ルシヴァル>を発動。
左手の血魔剣はそのままで、右手に無名無礼の魔槍を召喚。
戦闘の準備を整えたが……。
一応は、アイムフレンドリーを意識。
「こんにちは、貴女はセンティアさんでしょうか。俺はシュウヤです」
自己紹介。
黒髪の女性は頷いてから、
「<覚式>の使い手の名はシュウヤか。妾の名はセンティア。東邦のセンティアと呼ばれていた」
「センティアさん。ここはどのような」
そう聞いた直後――。
猿と雉が魔力を放って動く。
猿は右手で目を左手で口を塞ぐ。
雉は翼をバタバタさせて、ほろうちを行った。
更に、猿と雉は自らの体から閃光を放つ。
眩しさは直ぐに消える。
と、猿と雉は、炎の鎧を装着した兵士に変身を遂げた。
魔法の槍も持つ猿人と鳥人。
その猿人と鳥人は――。
黒髪の女性を守るように前進。
「<覚式>の使い手様、俺は異獣、名は猿賀です」
「<覚式>の使い手様、私も異獣、名は雉芽です」
そう名乗ってきた。
異獣の雉芽の鳥人は雉の翼を背に持つ。
エセル界の翼人とは違う。
頭部は雉系で鼻が長い。
そして、東邦のセンティアさんが、
「ふふ、妾が選んだ<覚式>の使い手と、その従者よ……従者のほうは力不足ではあったようだが、見事な<覚式>であり、センティアの手に対応した光の魔力であった」
「センティアの手でセンティアさんの封印を解いた?」
「そうだ。妾は【異形のヴォッファン】の連中に封じられた。相反する異獣の力を逆に利用されてな……この部屋と化していたのだ。が、なんとか、片手と片目を犠牲にして永い時間を凌いでいたのだ」
「【異形のヴォッファン】とは?」
「闇神リヴォグラフの眷属集団である」
「このセンティアの部屋は、今どこにあるのでしょうか」
「【幻瞑暗黒回廊】のどこかであろう」
「このセンティアの手に宿る片目と片腕を、貴女に戻しますか?」
「<覚式>の使い手よ。もう、そのセンティアの手は、ソナタたちの物ぞ……」
「分かりました」
「そして、その妾の片目と片腕が宿るセンティアの手を使えば、【幻瞑暗黒回廊】の移動も楽になるであろう」
「楽に……」
「ふむ、【幻瞑暗黒回廊】を移動したことがあるからこそ、今の妾たちの位置なのだが、移動した覚えがないのかえ? おかしいのぅ」
「あ、わたしが……【幻瞑暗黒回廊】を移動したことがあります」
「そうであったか。従者よ、しっかりとした従者であったのだな、すまなんだ」
「あ、いえ……では、わたしが移動してきた【幻瞑暗黒回廊】なら自由に移動と転移が可能に?」
「そうである。が、【幻瞑暗黒回廊】は厳しい場所である。さて、妾たちはここまで」
「え」
「妾がここにいれば、【異形のヴォッファン】がお前たちも巻きこむ、然らば――」
と、センティアさんたちが消えた。
異獣の猿賀と雉芽もセンティアさんの後を
追うように残像を起こすと消えた。
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