七百七十七話 ディアとポポブムと神獣ロロディーヌ

 ミスティは背後から聞こえたディアの声を聞いて、


「あ、ディア――」


 先生の表情となって俺から離れた。


「ミスティ先生は、お兄様の恋人なのですか?」

「うん、恋人であり愛している人。この場にいる女性の殆どがマスターの恋人で愛する人。血の家族の一員なの」

「……」


 ミスティも遠慮なくズバッと語る。


 ディアはショックを受けたように体を震わせた。

 ディアの茶色と黒色が交じる瞳が揺れる。


 ディアは、ミスティと俺を交互に見ては……。

 ヴィーネ、レベッカ、エヴァ、ビーサ、キサラを順繰りに見ていった。


「皆さん、美しい……」


 そう語ると、更に顔に影を作った。


 皆は微笑むが、ディアの気持ちを理解したようで、なんとも言えない表情を浮かべて近寄ってくる。


 ディアは緊張したような表情を浮かべる。

 そして、チラッと俺を見る視線には悲しみが宿っていた。


 一瞬、ルビアを思い出す。


 そのディアとミスティを見てから、ディアの近くに近寄った。

 ディアは眼鏡に指を当てて角度を整えてから、俺を見る。


「お、お兄様……」

「ディア。前にも言ったが、俺はお兄様ではないからな?」

「は、はい。お兄様とは別人だと分かっています。でも、同じ黒髪に黒い瞳は似ている。格好も似ていたので凄く親しみが湧くんです。ですから、<覚式ノ従者>として、お師匠様をお兄様と呼びたい……」


 俺の瞳には<魅了の魔眼>もある。

 更に行方不明で死んだかもしれないお兄さんと俺の顔が似ていることもあるからな。

 

「呼び方は好きにしたらいいさ」

「ありがとう、優しいお兄様……」


 安心したように笑顔を浮かべてくれた。


「いいさ。それで今日のことだが」

「はい――ミスティ先生から聞きました。武術のご指導は今度で、今日は【幻瞑暗黒回廊】に向かうのですね」

「そうだ。その前に話がある」

「なんでしょうか」

「魔法学院の授業のことだ。ディアが学べる時間を俺たちが奪う形となった。済まない」

「ふふ、律儀なお兄様。大丈夫です。寧ろお礼を言いたいぐらいです」

「そうなのか」

「そうです。授業は退屈な筆記ばかり。実戦のほうが、はるかに学べる機会が多い。それに……クラスメイトの虐めを受けずに済みます。だから、この実戦を行える特別な授業を受けられる機会をくれたお兄様とミスティ先生に強く感謝しているんです」


 感謝か。

 そして、虐めか。前にも少し聞いたが……。


「虐めか。ミスティも把握しているんだよな?」

「勿論、子供だからと見下すことはしないわ。心の矮小さは、子供も大人も関係ないからね。大貴族の娘のシルヴィの高飛車さは直情的だから分かりやすいけど、ユウ・レンバトスのグループは陰湿過ぎる」

「そんな陰湿なのか」

「うん。でも、社会の縮図でもあるかも知れない」

「陰湿さが?」

「そう。土地を巡る争いは、王侯貴族やアウトサイダーの成り上がり商人たちの争いにも通じるから」

「虐め問題が国同士の争いと関係するのか」

「うん。ラドフォード、オセべリア、レフテン、サーマリアなどの各貴族の配下には地上げ屋と絡む中小の闇ギルドもいる。それらの闇ギルドは権力と結びついた新興宗教と盗賊ギルドにも通じているし、更に、そういった手駒を使い、人種差別を利用した政治支配と集団ストーカーも行う」

「貴族と商会か」

「うん。支配層と直結したグループが表立って活動すると批判を浴びて自らの首を絞めることになるから、闇ギルドの実力が問われることとなる」


 俺たちも闇ギルドの一つだからなんとも言えないが、そんなことはしていない。

 メルに視線を向けると、


「そういう依頼は山ほど来ます。ですが、第二王子派は、オセべリア王国を大切に思っている。他国に基幹産業を売るような売国貴族は粛清対象です」


 自国ファースト、それにつきる。


「その売国が問題よ。欲望はつきることがないから、お金、ハニートラップ……魔薬取り締まりの融通、奴隷提供の問題。あ、これは虐め問題から少し離れた国防の問題か」


 ミスティは話を続ける。


「で、虐めの件だけど、たとえば、金で雇った捨て駒に、衛兵隊と第二青鉄騎士団に、虐めの標的が悪さをしていると、わざと嘘の通報をするの、虐めの標的は悪さをしていないのに。アス家の貴族屋敷とアス家が持つ絹製品と穀物を扱う大商会も被害に遭った」

「はい。あまり意味はありませんが」

「そうね、大貴族同士の牽制といったところかしら。力を持つのを示す意味。衛兵隊と第二青鉄騎士団に同じ宗教組織の人員を潜り込ませていたりするから。そういった腐った連中は協同で、決まった時間に、虐めの対象の回りに衛兵隊を巡回させて『いつも見張っている』と謎のアピールを行う。マスターが、前に血文字で語っていたけど、ガスライティング、モビング、アンカリング、ほのめかし、などね」


 日本にも同じようなことはある。

 くだらん連中だ。阿呆の極み。


「あぁ、血文字で色々話をしたな」

「うん。でも、見えている範囲なら可愛いもの。わたしたち講師側や上級顧問の見えない陰で、標的の悪口を流す。更には、標的の体に向けて闇魔法でダメージを与えるとかの嫌がらせもあるから」

「それは行う側が、かっこ悪すぎる。命令する側も実際にやる側も腐ってんなぁ」


 ま、捨て駒にそんな命令する側が、イカレているんだがな。


「うん。闇ギルドでも、面子をかけて命を削る戦いをしない腐っている連中が好む手段。これを大人がやるんだから、呆れて物が言えないレベルよね。貴族対貴族なら、互いに力を持つから、その程度で済むんだけど、標的が弱者の場合は……」

「そうもいかないか……」

「うん。大抵は住んでいる家と家族も狙われる。殺さない程度に痛めつけるやり方で」

「殺さない程度? 例えば?」

「四階建ての安い住み処に標的が住んでいる場合、住居の上下左右の階の住人を、貴族や商会が買収し、その上下左右の階から、標的の家を挟むように、闇魔法で体にダメージを与える方法を行うとかね。徐々にストレスをあたえて苦しめて立ち退きを自ら行うように仕組む。そうして、地上げ屋が安く家を買い、その土地を再開発する。そういう集団ストーカーを行う裏の大本には、大商会と宗教団体と癒着している国の一部が関わっていたりするの。だから国防と関わってくる。他国からのスパイでは、ヤーグ・ヴァイ人などの存在があるから、白の九大騎士ホワイトナインも大変よ。外側のはっきりとした敵ではなく内側にいる腐った連中を見定めるのは大変だから」

「陰湿だが、納得だ」


 エヴァのような能力者は重要か。

 そして、俺の知る日本でもあったな。

 壁をすりぬける攻撃方法は、電磁波、電子レンジ違法改造、色々とある。

 電磁波の中には、記憶力を阻害するような脳に直接ダメージを与えたり悪夢を見させたりする方法もあった。


「はい。ですから、アス家は、多少なりとも貴族の一門。わたしはまだマシなほうなんです」

「それはそうだけどねぇ……」


 ミスティがそう発言すると、レベッカが、


「その虐め問題だけど、分かる……魔法試験、魔法を撃つ訓練、平原で行う対モンスター討伐試験内容や先生の質問の成否結果の善し悪しで虐めが激しくなったことがあった」


 そう語った。

 その表情には、ディアのような悲壮感はないが、相当辛かったはずだ。


「ん、レベッカ、がんばった」

「ありがと。だから、ディアが苦しんでいるなら応援する。よかったら友達になろう? ベティさんのお店で売ってる美味しい紅茶をあげるし、お菓子もあげる。あ、わたしの名はレベッカ。魔法学院ロンベルジュの卒業生なの」

「ん、わたしも友達になりたい」

「あ、はい。先生から少し聞いています。嬉しいです。レベッカさんとエヴァさんの友達になります!」

「うん」

「ん、よろしく」

「はい!」


 いい笑顔だ。


「ってことで、話を切り替えよう、明るいほうにな!」

「はい!」

「うん。じゃ、早速、ディアちゃん。これと、これに、これをプレゼントしちゃう!」


 マジュンマロンと似た菓子か。

 他にも、セナアプアで買った色々なお菓子類がレベッカの前に出現。


 ベティさんやクルブル流のサーニャさんなど、皆へのお土産を買っていた。


「わわ、お菓子が山盛り!! いい匂い~!!」

「ふふふ!」

「お菓子大魔王レベッカが選んだ品だ。味は確かなはず」

「自慢じゃないけど、この量は少ないほうだから、全部あげる」

「ふふ、この量で少ないんですか? でも、ありがとうレベッカさん!」

「レベッカの胃は異次元説がある」

「シュウヤ、余計なことは言わないの!」


 人差し指の動きが可愛いレベッカさんだ。

 俺も俺で色々とミスティにお土産がある。


 塔雷岩場の聖櫃アークの魔宝石は、マジマーンの聖櫃アークに試すから省く。


「ミスティ、アクセルマギナなどの説明は、血文字で行っているからあまり必要はないと思うが、まずは、お土産と修理の品を渡しておく」

「あ、うん、そのホログラムの人工知能ちゃんね」

「おう。まずは――」


 魔機械の壊れた『ジェット・パック』の〝エセルジャッジメント魔貝噴射〟。

 緊急次元避難試作型カプセル――。

 バイコマイル胞子の結晶が大量に詰まったアルガルベの容器。


 塔雷岩場の蛍光灯風の長ネギっぽい形のクリスタル。

 反磁性体のような魔力を出している黒っぽい鉱石。

 地底湖の天井にあった銀色の鉱物を出した。


「こんなにたくさん……嬉しい」

「互いのためとはいえ、ミスティとは離れていたからな。エセルジャッジメント魔貝噴射のほうは修理して俺たちでも使用可能にするか、ゼクス用のオプションに使えるかも知れない」

「うん、分かった。そして、これが塔雷岩場の古代遺跡の素材、古代の宇宙人が遺した金属類にクリスタルバー! 本当に長ネギ風で、面白い!」


 ミスティは興奮しながらクリスタルバーをチェック。

 俺から言わせれば長ネギ風クリスタルだが。

 

 ビーサも注視している。

 エヴァとレベッカとヴィーネは、そのビーサに第一世代ミホザの名がある知的生命体のことを告げていく。


 俺は、レベッカのように小躍り中のミスティに、


「はは、礼はいいから調べたらいい」

「うん! それじゃ早速、<金属融解・解>を使う――」


 ミスティは鼻血が出そうな勢いだ。

 輝いた指で、長ネギ風のクリスタルを触る。


 クリスタルは一瞬で溶けて白色の粘土状の素材に変わる。

 その白色の粘土素材の一部を金属容器に収めた。

 

 一部の白色の粘土は薄く伸ばし、精錬しつつ加工しているが、手際が良い。

 瞬時に横に魔導人形ウォーガノフのゼクスを展開しては、そのゼクスの表面に合うように形を整えた。

 

 ボディーアーマーか。

 更に、その加工したボディーアーマーごとゼクスの本体を冷ますように、冷たい風を放つアイテムから冷たい風をゼクスへと盛大にぶちまけている。


「ミスティ、工房じゃなくて大丈夫なのか?」

「うん、あくまでも簡易。試作だから平気」


 更にミスティは銀色の鉱物を触ると、


「へぇ……これ、聖十字金属に近い? あ、黒い粒々もある。光属性の中に闇属性が交じっているのかな。溶かしつつ、あ、もしかして――」


 用紙にメモって、


「皆、少し眩しいかも知れない。失敗するかも」


 皆に警告。

 サングラスが必要ってか。

 

 ミスティは<金属融解・解>のスキルを使う。


 銀色の鉱物が溶けた。

 ミスティが光属性と闇属性と言っていたように……。

 銀色の溶液に触れた黒い粒が溶けてできたであろう黒い溶液が、閃光を発して銀色の溶液ごと消えて小さくなった。


 テルミット反応っぽい光が出る。

 眩しい光を気にしないミスティは精錬を続けた。


「うん、難易度は高い。他の金属精錬スキル持ちの方も苦戦するでしょうね」


 そう語るミスティ。

 自身の光魔ルシヴァルの血を、その光を放つ精錬中の金属に混ぜる。


 精錬中の金属は、更にケミストリが激しくなった。

 沸騎士たちが現れる瞬間のような沸々とした音を響かせる。


 更に縮小を続けた。

 閃光も鈍ると、小さい銀と黒のインゴットが出来上がる。


 その小さい銀と黒のインゴットの中心には、ミスティの額にあるマークとルシヴァルの紋章樹が刻まれてあった。


 光と闇の属性がある鋼とか?

 光魔ルシヴァルの鋼を作ったとか?


 小さい銀と黒のインゴットを速やかに仕舞う。

 ミスティはチラッと俺を見て、


「光と闇を有した極めて珍しい金属。仮の名前だけど、〝光闇の奔流〟は保管しとく」

「おう、俺の<光魔の王笏>に内包されているスキル名と、かぶせてきたか」

「うん。精錬は極めて難しいけど、光と闇に強くなると思うし、価値はある。ゼクスの防具の表層にまぶす方法を今度試す。ゼクスの<光魔吸>もあるし、使える。あ、パイルバンカーの先端に嵌めたら攻撃に使えると思う」

「おぉ、パイルバンカーか。前に血文字でアイディアを提案したが、ゼクス用に作ったのか」

「ふふ、うん」


 ミスティは笑顔を浮かべて、次の黒っぽい鉱石を指先で触る。

 その指先の動きが、少しいやらしく見えたが――。


 一瞬で、黒っぽい鉱石は溶けて、黒い鋼に精錬。


「へぇ、これも質の高いレア金属」


 ミスティは感心したように語る。

 俺はその金属を見て、


「それは魔柔黒鋼ソフトブラックスチール?」

「たしかに似ている。けど、違うわ。ここの間に、細かな空気層と魔力溜まりがあるでしょ?」


 ミスティは金属に指先を当てる。

 魔察眼で確認するが……。


 なんとなく分かる程度だ。


「あるとは分かる」

「ん」


 エヴァは分かっているようだ。


「ここにタイミングよく魔力を流すと――」

「あ、溶けてくっ付いて、また溶けてくっ付いた。硝子状?」

「うーん、少し似ているかな~」

「話には聞いていましたが、ミスティは素晴らしい金属精錬技術を持つ!」


 機械音声のアクセルマギナが発言。


「ふふ、ありがとう。アクセルマギナちゃん。貴女を構成する中身が非常に……気になるけど、それは今度。で、この黒い金属は、魔力の伝導率が高いはず。エヴァの足の素材に流用できるはず。白皇鋼ホワイトタングーン緑皇鋼エメラルファイバーとも相性がいいと思う」

「うん。もう使ってある黄緑魔鋼ハイマルスチールと一緒」


 エヴァはワンピースの端を持ち上げて、金属の足を見せていた。


 白い太腿がチラッと見えた。


「うん。さすがエヴァっ子、いい判断。溶液は少し残して黒い鋼は保存~」


 そう喋ると、黒い鋼をアイテムボックスに保存していた。

 ミスティはまた、メモに素早く黒い鋼の考察を書き込む。


 そして、残した黒い溶液に魔力を込めると、黒い溶液は蜷局を巻きつつ小さい簡易の魔導人形ウォーガノフとなった。


 その小さいゴーレムは、胸元が開いた状態で、もろそう。


「先生のゴーレム生成技術は素晴らしい!」

「うん、前よりも生成速度が速くなってる」

「ゼレナード戦のあとも、実験を重ねつつ、ゼクスを改良しているから。イシュラの魔眼の欠片で索敵と相手を撹乱さくらんさせる能力を獲得したし、星魔樹稜骨をゼクスの内部と外部の機構に組み込んだ経験は大きい」

 

 ミスティの言葉に皆は感心するようにミスティと小さいゴーレムを凝視。


 ディア以外の皆が、ビーサに惑星セラにはミホザの騎士団が封印した古代神殿が世界各地に存在することを説明していく。


 塔雷岩場、俺とハートミットが探索したフォルニウムとフォロニウムの兄弟火山の付近にあった小屋の地下、マジマーンの幻の四島など、色々な過去のことを伝えた。


 ミスティは、白色の粘土素材が入った金属容器から白色の粘土素材を少し取り出して、小さいゴーレムの胸元に、その白色の粘土素材を嵌め込んでいた。


 小さいゴーレムは、その白色の粘土素材と融合。

 ストラップ状の金属人形に早変わり。


「やった、成功。あとで小型魔導船の設計図に一手間加えよう! うふふ、ゼクスと合体できる小型魔導船とか、浪漫があるわ……でも、戦闘中に使えば簡易の盾&おとりになるし、ばらしてゼクスの武器素材にしてもいい……」

「ん、ミスティ、烈戒の浮遊岩で回収しておいた金属がある」


 エヴァは黒と銀が混じる金属の塊を机に出す。

 ミスティは、ストラップ状の金属人形を懐に仕舞った。


「全部いいの?」

「ん、全部あげる。魔導車椅子にもなる金属の足には、少し使っているから大丈夫。ゼクスの部品に使えるかも知れない」

「ありがとうエヴァ。もらっとく。アイテムボックスに仕舞うわね」

「ん」


 ミスティはアイテムボックスに、その黒と銀が交じる金属の塊を仕舞っていた。


 微笑み合うエヴァとミスティ。


 そのミスティは、金色の鋼と蟲の骨が融合したような素材を出した。

 

「お礼ってわけじゃないけど、エヴァの足に流用できる素材を造っておいたの。できたら試してみて」

「ん、あ、血文字で言ってた、鉄角都市のお土産?」

「そう! 覚えていたのね。【古びたアンシャロンの市場】で手に入れた鬼蟲とレムハットの古金貨を融合させた素材よ」

「嬉しい! 少し試してみる」


 エヴァは、紫色の魔力を体から放出して浮かぶ。

 紫色の魔力<念動力>だ。


「ん――」


 空中に浮かぶエヴァは両方の骨の足に付着していた金属を操作、溶かした金属が一瞬で背もたれが立派な魔導車椅子へと形成された。その浮いている魔導車椅子に座って前進するエヴァは、骨の足の先端を少し出す。

 金色の鋼と鬼蟲の骨に付着させていた。


「ん」


 エヴァは眉を中央に寄せると金色の鋼と蟲の骨の素材は溶けると、骨の足に吸い寄せられるや、金色の金属の足となった。鬼の形の魔印のようなマークが踝にある。

 

 カッコいい。


「ん、凄い。白皇鋼ホワイトタングーンと同じか、それ以上の魔力が宿っている!」

「良かった。実は、アキちゃんの蜘蛛糸とゼクスの心臓部のコアに黄金酒をかけて出来た新素材も組み合わせた素材なの。その鬼蟲黄金の素材も、他の金属と合うから色々と組み合わせて使ってみて」

「分かった。ありがとう」

「ふふ」


 そこから、緊急次元避難試作型カプセルは慎重に調べると語り、笑顔満面で烈戒の浮遊岩の鉱脈について話をしてから、皆で団欒。


 ◇◇◇◇


 ディアとも皆は打ち解けた。


「魔法学院ロンベルジュに向かうとして」

「はい」


 ディアが、


「【センティアの部屋】までの誘導はたぶん、なんとかなると思います。ただ、【幻瞑暗黒回廊】の突破を再現するとなると、自信はなかったりするんです」

「分かってる。だからこそのマスターとわたしたち」

「はい」

「ん、シュウヤなら大丈夫。ロロちゃんもいるし、ヴィーネはヒューイちゃんと合体して翼を生やすこともできる」

「そうです」


 ヴィーネの背中にくっ付いたままの<荒鷹ノ空具>のヒューイは沈黙したままだ。まだ大きな翼にはなっていない。

 その【幻瞑暗黒回廊】をイメージすると……。

 宇宙のワームホールを進むような印象がある。

 罠もあるだろう。

 

 魔界セブドラや冥界シャロアルに通じた狭間ヴェイルの一種だとは思うが。

 楽しみではあるが、恐怖も感じる場所。

 その思いを持ちながら、


「その【幻瞑暗黒回廊】の内部で二十四面体トラペゾヘドロンが使えるか試す」

「クナの助言の〝相反する異獣の触媒力が強まるセンティアの部屋〟で試すこともある」

「そして、その【センティアの部屋】で、俺たちのセンティアの手を用いる」

「お兄様の<覚式ノ理>とわたしの<覚式ノ従者>の能力が高まると聞きました」

「まだ仮定。とにかく、分からないことが多い。だからこそ単独で【幻瞑暗黒回廊】を突破したディアが頼りとなる。優秀な魔法使いのディアが、俺の弟子が必要なんだ」


 ディアは照れたように顔を赤くした。


「……嬉しい、お兄様に褒められた」


 笑顔を意識して、


「気を抜くなよ?」


 ディアは、恥ずかしいのか、口を両手で隠して頭部を激しく左右に振ると、


「お任せください。お兄様と先生と、皆様がいるから平気です!」


 眼鏡がズレそうでズレない。

 あ、少しズレたか。その眼鏡を直す仕種が可愛い。

 

「魔法学院ロンベルジュに行こうか。相棒、外で変身を頼む」


 香箱スタイルで待機していた黒猫ロロさんは、両耳をピクピクと動かして、俺を凝視。そして、「ンァあぁん~」と、珍しい変な声を発して、あくびをして、両前足を前に背筋を伸ばしてから、


「ンン、にゃお――」


 と鳴きつつ母家の出入り口に向かった。


「ロロちゃん、速い! ――え!」


 出入り口付近で黒豹に変身したロロディーヌ。

 ディアは当然驚く。

 その黒豹ロロが出入り口から外に出た途端――。

 黒豹ロロは体を拡大させた。

 巨大な神獣ロロディーヌに変身したんだろう。


 スロープのある外の空間が一瞬で相棒の黒い毛に染まる。

 出入り口の縁が、神獣ロロの体と黒い毛に押されてミシッと音を響かせた。母家ごと押し倒す雰囲気か?


 出入り口からリビングへと黒い毛が出ている。


 巨大な黒豹ロロのうんちスタイルだったら怖い。


 黒い毛は相棒の後脚から生えている毛かな。

 巨大な菊門は見えないが、尻尾付近の黒毛かも知れない。


 当然、ディアは更に驚いた。


「ンンン、にゃお~」


 大きな挨拶するような声が響く。

 出入り口を埋めていた黒い毛が離れた。


 良かった。


 盛大にうんちが玄関にふってきたら大変だった。

 神獣ロロは庭に向かう。あ、ポポブムへの挨拶か。

 そこで、アジュールに視線を向ける。


「アジュール、魔法学院ロンベルジュに向かう。メイドたちと屋敷を頼むぞ」

「主、承知した!」

「ん、イザベルとアンナとクリチワ、紅茶をありがとう。わたしたちは魔法学院ロンベルジュに行ってきます」

「「「いってらっしゃいませ」」」

「うん、メイドさんたち、またね。美味しい紅茶もありがとう!」

「「「はい!」」」


 皆は出入り口に歩いていった。

 ミスティはディアに、


「ディア、マスターとロロちゃんのことは説明したけど、やっぱり驚くわよね」

「はい、一瞬で姿を自由に……黒豹ちゃんから……今は」

「ディアさん。ロロちゃんは神獣! めちゃくちゃ強くて可愛い! 今日はよろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 皆の話を聞きながら――。

 

 エヴァとキサラを追い抜いて一足先に外に出た。

 風を感じた。中庭の空気感は前と変わらないが、いい風だ!


 相棒は巨大な神獣ロロディーヌから大きい黒猫の姿に体を収縮させる。

 そのまま石畳を蹴って厩舎に向かった。


 厩舎の前には餌が入ったバケツを持つミミがいる。

 荷台を背負ったままのポポブムもいた。


「ぷぼぷぼ――」


 ポポブムが鳴いて興奮。

 大きい黒猫に向けて必死に走るポポブムが可愛い。


 ヘルメは? と、中庭を見渡す。

 いたいた。千年植物サウザンドプラントと他の植木に水をあげていた。


 そのヘルメは楽しそう。

 傍にいるメイドたちと千年植物サウザンドプラントと一緒に何かを歌っている。

 

 大きい樹木も昔のままだ。

 渡り鳥も枝に止まってヘルメたちの歌を聴いている。


 幻想的な絵画のような光景だ。


 ずっと見ていたくなるが、とりあえず、ポポブムたちのところに走った。


「よう、ミミ! ポポブム!」

「あ、ご主人様!!」

「ぷぼぷぼ~」


 驚いたミミ。

 バケツを落としてしまったが、神獣ロロが素早く触手でバケツを拾う。


「ナイス、ロロ」

「ンン」


 触手で、俺とミミの髪の毛をわしゃわしゃと揉み揉みされたが、許した。

 同時に傍にいるポポブムの頭部を舐めていた。

 

 大きい黒猫ロロはポポブムの体を洗うようにグルーミングを行う。

 

「ぷぼぷぼ――」

「ロロ、ポポブムとの再会中に悪いが、魔法学院ロンベルジュに向かうぞ」

「にゃおお~」


 神獣ロロは体から無数の触手を放射状に展開する。

 触手の一部は宙に弧を描くと俺に直進。 

 その飛来してきた相棒の触手手綱を左手で掴む。


 一瞬で、視界が変わる。

 相棒の首下付近に近付くと、


「ヘルメ、歌と水やりは中止だ。来い――」

「はい~」

「精霊様と神獣様にご主人様~、いってらっしゃいませ~」

「いってらっしゃいませ~」

「主~~、屋敷は守る!!」


 ミミたちの声が下から響いた。

 ヘルメが近くにきたから、そのヘルメの手を握りつつ、相棒の後頭部に着地。

 相棒の長い耳の片方が湾曲すると、俺とヘルメの体を包んできた。


 机的な感覚だが、巨大な耳は柔らかい。

 表面は少しざらっとしているのもいい。

 

「きゃぁぁぁ」

「ロロちゃん、かもーん」

「ん、あぅ、そこキツクしないで――」

「さすがに、慣れました、あぅ――」

「はぅ――」


 キサラの声が可愛い。

 母家から出てきた皆の体にも相棒の触手が絡んだようだ。


「ンン」


 神獣ロロディーヌは自身の背中と頭部に皆を運び終えた。

 そして、中庭を駆けて跳躍――。

 

 正門を瞬時に越えた。

 懐かしい武術街の通りだ。

 右のほうにはマドリコスの道場がある。


 リコは元気かな。

 友のレーヴェも……。

 が、レーヴェには悪いが、桃色髪のリコと会いたい。

 八槍神王第七位が用いた特殊な<刺突>を思い出す。


 また勝負したいとか思っていると、


「ロロちゃん、右斜め前のほう! あまり空は飛ばないようにね」

「にゃおお」

「そうだった。ここはオセべリア王国だからな」

白の九大騎士ホワイトナインのレムロナさんは王都グロムハイムに行っていないけどね」

「ん、和平が上手くいくといいけど」


 エヴァとレベッカは、第二王子たちに一時協力していたんだったな。

 ヴィーネは、相棒の片方の耳にしがみついていた。

 肝心のディアは震えながらキサラとミスティの腕を握りしめていた。


 相棒は速度をそれなりに出しているからな。

 ディアは怯えてしまっていた。

 そんなディアを見ていると、ひ弱そうな女子高生の眼鏡っ子って印象しかないが、単独で【幻瞑暗黒回廊】を突破した実力は本物。


 体を巡る魔力の流れも、確かなモノがある。

 そのディアの実力と運を信用しよう。


 そんなことを考えつつ――。

 触手手綱の肉球を親指で押した――。


「にゃおお~」

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