七百六十二話 サキアグルの店主
白い螺旋状の建物と魔塔が並ぶ通りか。
魔法ギルドを意味する天秤と杖と腕のマークの看板を持つ魔塔がある。
「ペルネーテの魔法街と少し似ているのよね、既視感がある」
「前にユイとエヴァとデートしたお店もある。化粧品の有名な『ポル・ジャスミン』の店はあそこよ。ルマルディを追っていた迷想不敗ペイオーグと知り合いとか店主は言っていた」
レベッカが指す場所は通りの反対側。
肌色の魔塔でお洒落なブティックを思わせる。
「化粧品類が売られている魔塔なんだな」
しかし、【空極】の渾名がある迷想不敗ペイオーグとは、女性なのか?
「うん」
レベッカが頷きを返す。
武闘派評議員の懐刀とか聞いている。
ペレランドラ一派vsネドー一派の争いに介入してこなかった勢力だ。
三つの浮遊岩の乱にも参加していない。
不気味に沈黙を保っている。
ルマルディを追い続けている?
キッシュからそんな連絡は受けていない。
ロターゼとアルルカンの把神書と一緒に、サイデイルの空魔法士隊という感じの空軍として活躍中と、サラたちからも聞いている。
だから迷想不敗ペイオーグがルマルディを追っているわけではないと思うが、
「じゃ、降りようか――」
一足先に、巨大な黒猫ロロディーヌから降りた。
皆も降りると、相棒が俺を追うように数本の触手を寄越す。
髪をわしゃわしゃとかき回してきた。
「ロロちゃん、いたずらっ子」
「ふふ、撫でているだけよ」
「シュウヤ様が大好きなのですね」
皆に『あぁ』と頷いてから、
「俺のほうが相棒に飼われている?」
と言って笑いながら、相棒の触手を払った。
ロロディーヌは、その払われた触手で、俺の手を叩き返してくる。
「ふふ、巨大な神獣ちゃんだし、わたしたちも同じように飼われているのかも知れないわね」
「にゃお~」
俺の手を面白がって叩く相棒の触手を掴んだった。
お返しに触手の裏にある肉球を揉み拉くと、ロロディーヌは、
「ンン――」
そう喉声を鳴らしつつ触手を首下に収斂。
楽しそうな仕種で子猫の姿に戻る。
トコトコと歩いて……。
サキアグルの魔道具店を見上げていた。
尻尾を傘の尾のように立てている。
「にゃ~」
「ん、ロロちゃんも、お店に興味があるの?」
相棒はエヴァに向けて、尻尾を左右に揺らし、
「にゃお~」
そう返事をすると、小型模型が飾られている台に飛び乗った。
頭部を前に出して模型に桃色の小鼻の孔を付けると、その小鼻の鼻孔を拡げては窄めて――クンクン――フガフガ――フニョフニョ。
と言ったように模型の匂いを嗅ぎ出す。
『この、つちと、くさは、にゃんだ~』
そんな
その
大剣使いの模型はヘルムとプレートメイルの鎧を装着中。
姿は厳ついが、美人さんの店主は、戦士系の戦闘職業なんだろうか。
レベッカに聞こうと思ったが――。
そのレベッカは、窓を見ている。
窓に映っているのは、白黒のサンドピクチャー的な水墨画のような風景画と立体的なチョークの粉で描かれた魔法陣が合わさった不思議アニメーション。
ノスタルジー溢れる。
窓が特別か。
「いつ見てもここの窓硝子は不思議。魔法の額縁を活かす造りなんだと思うけど」
「ん、店主は魔法絵師の能力もあると前に聞いた」
「そうなのよ。戦士なのに意外過ぎる。天才肌って印象」
レベッカとエヴァが語り合う。
サキアグルの魔道具店の外装の一部は、巨大な魔法の額縁らしい。
魔法の額縁に映る魔法のアニメーションは、魔法の威力の大きさを示すような霧状のマークと波状のマークでトポロジーの収縮を繰り返していた。
あの水墨画と魔法絵師のマークはペルネーテの魔法街にはない。
ネオンの明かりはそう変わらないが……。
さすがは塔烈中立都市セナアプアか。
都市ごとに建物や文化が異なるから面白い。
店に入るとして、
荒鷹ヒューイは? と空を確認。
荒鷹ヒューイは頭上高くを飛翔中。
すると、エヴァがヒューイ目掛けて片腕を伸ばす。
同時に紫色の魔力を体から放出。
魔導車椅子ごと、自身の体を紫色の魔力で包んで浮いていた。
その浮いたエヴァがヒューイを見つつ、
「ん、ヒューイちゃん、わたしたちはお店に入るよ~」
「ピュゥゥ」
荒鷹ヒューイは、鷹の声を発して返事を寄越す。
が、飛翔を続けた。
エヴァの声に応えて降りてくる気配はない。
腕を伸ばしていたエヴァは、ニコッと微笑んだが、仕方ないという感じで少し表情を暗くした。
そのエヴァは俺を見て、
「ん」
「ヒューイ的に俺たちを守っているつもりなんだと思う。んだが、俺が呼んどこう」
「ん、お願い」
エヴァはヒューイが結構好きらしい。
「ヒューイ! 戻ってこい!」
「ピュ、ピュゥ~」
ヒューイは急降下――。
右肩の
「ングゥゥィィ!」
「チキチキッ」
「ングゥゥィィ、クチバシ、キンシゾォイ!」
早速、
『シュレ、魔力を!』
『了解した、主!』
左手の掌にある<シュレゴス・ロードの魔印>から桃色の魔力が少し出ると、その桃色の魔力は蛇のように指を走った。
その桃色の魔力が絡む指先を荒鷹ヒューイに向けた。
ヒューイは、笑顔を浮かべるように嘴を拡げて、指先の桃色の魔力を吸い取るように食べてくれた。
そのヒューイは、桃色魔力を平らげると、また笑うように嘴を拡げて、
「キュキュッ!」
笑顔を見せる。
はは、可愛い。
∴の三つの眉毛を輝かせる。
その眉毛は麻呂った感じだが、勾玉的な形でもあるか。
「もっと食べていいぞ」
「キュゥ♪」
荒鷹ヒューイは、俺の掌から再び出た桃色の魔力を、アイスでも食べるように、嘴で俺の指ごと突いて食べていた。
少し痛いが、甘噛み的な噛みつきだ。
ヒューイなりの愛情表現か。
「よ〜しよ~し」
「嬉しそうにしているヒューイちゃんがまた可愛い!」
「ん、ヒューイちゃん、ハルちゃんに悪戯しちゃだめ、でも可愛い」
エヴァは優し気にそう語ると足元を魔導車椅子から金属の足に変化させた。
レベッカは頷いて、両手の指先をヒューイと
「ロロちゃんとヒューイちゃん~♪ にしてもシュウヤ、モテすぎなのよ! ムカつく! わたしもヒューイちゃんとイチャイチャしたい!」
鼻息が荒いレベッカさんが吼えた。
「レベッカには、ミニドラゴンたちがいるだろう」
「う、それはそうだけど」
「使者様の桃色の魔力が美味しそうに見えました~」
イモリザなら、たしかに桃色の蛸足魔力を食べても違和感はない。
「でも、掌の魔印と沙・羅・貂たちの傷の開き方といい、シュレゴス・ロードの桃色の魔力も不思議よね~。特にシュレちゃんは、シュウヤのことをここぞって時に守ろうとするし、ヒューイちゃんの餌にもなる。形が少し変だけど」
「はい、ご主人様の<霊呪網鎖>を助ける形だったと聞いています」
「そうね」
「ん」
ヴィーネは軒先にぶら下がるグランパ的な人形を睨んでいたが、
「はい」
俺を見て返事を寄越す。
キサラは両手首の黒色の数珠に<血魔力>を移して、細かな実験を繰り返しつつ頷いた。
「ンン、にゃお」
台に乗ったままの
やや興奮気味のご様子。
模型にマタタビの匂いでもあったのか?
その
端を後脚で蹴って跳んで肩に乗ってきた。
そのまま、俺の頬に頭部をぶつけてから、くるっと横に一回転。尻尾で俺の頬を擽ると、軒にぶら下がるグランパのような人形を凝視。
風で揺れているグランバのような人形に向けて前足を伸ばした。
が、その前足は俺が押さえた。
肉球パンチを返されたが構わず――。
「――おう。ま、今は店に行こう」
「「はい」」
サキアグルの魔道具店へと歩き出した。
「エヴァはユイとレベッカと一緒にここの店にも?」
「ん、そう、来た」
そう語るエヴァの踝に付く小さい車輪が滑らかに回る。
そのエヴァたちと一緒に、茸と石製の扉を押して、店に入った。
――異常に軽い扉。
見た目は重そうな扉だったが、ぷにょっとしたシリコン的な感覚。
少し不思議だった。
「多重茸とエレグラの実ですね」
「装備品の重さが軽くなるって素材か」
「はい」
「ドミドーン博士が装備していた鎧に使われている素材」
「あの鎧かぁ、紅虎の嵐たちも褒めていた鎧」
「オセべリア王国の貴族の<
そんな会話を耳にしながら店内を進む。
『閣下、天井の魔素の動きが変です。
『へぇ』
すると、その天井か店の中から心地いい魔風が吹き抜けた。
床は大理石風。
ホルカーバム産か?
他にも石の産地はあると思うが、表面は光沢があって、高級な石という印象だ。
店内は奥行きがある。
天井には銀色の魔法陣の光源があった。
その銀色に光る天井スレスレを色彩豊かな魔法のランプが行き交う。
ランプに見えるが違うのか?
明るい部分から、色取り取りの魔風が宙に放出されていた。
え? その小型ランプ的な物に、小人と妖精のような存在が乗っていた。
小人と妖精は両手にヘルメのような魔法の繭を作って、その両手から、周囲に向けて魔風を起こしている。
不思議な種族たちだ。
しかし、魔法のランプ的なモノは小型の乗り物なんだろうか。
センティアの手とはまた違うが。
小人と妖精のような存在たちは残像を生む。
転移するように、消えたり現れたりしているのは、
もしかして、あの小人と妖精は違う時空に棲んでいるんだろうか。
小さいおっさん的な都市伝説を想起する。
「不思議な雰囲気ですね」
「アギトナリラとナリラフリラの管理人とはまた違う」
「
「精霊様が扱う闇蒼霊手ヴェニューちゃんたちっぽい?」
「デボンチッチや精霊様とも違うような気がします。見知らぬ異種族たち」
「はい、
「神界セウロスの花大精霊コトハルが扱う花妖精コチャハナにも似ているぞ」
「その花妖精コチャハナとはなんだ?」
「器様、
「へぇ」
貂がそう語る。
前にも貂から【雷臥・アモイ】などの仙境が神界セウロスにはあると聞いていたっけか。
「不思議不思議~、ルンバ♪ ルンバ~♪」
「ルンバ~? ふふ、ルンバ~」
手を握り合ったマルアとイモリザが行進。
ランプ的な乗り物に乗る小人と妖精のような存在を見ながら中央に移動。
中央には、丸い壇がある。
そこの円卓には弦楽器とレコード盤が付いていた。
自動的に弦楽器が、絡繰り人形的な機関で動く。
レコード盤が回るとクラシック系の壮大な音楽が響いた。
針は頭蓋骨の歯で、音楽と一緒に魔力が周囲に溢れだす。
弦楽器の音楽はロックテイストで、クラシックと融合した音楽となった。
不思議な円卓の机。
「ンン、にゃお、にゃ~、にゃ、にゃおぉぉ~」
「キュ♪」
「ゾォイ♪」
「デュラート・シュウヤ様のハルちゃんさんが変な声♪」
「使者様つおい~♪ いぇい♪ いぇい♪ いぇいぇぇい♪ おっおっおぅぅ♪」
「謡や謡や、ささいな飛紙……」
『ふふ、楽しい音楽です』
相棒軍団が自然とリズムを刻む。
視界に浮かぶ小型ヘルメは平泳ぎしていたが、華麗にバレルロールを決めていた。
沙も華麗にターンしながら前進。
「――自然と謳と踊りのリズムになるとは、面白い眷属たちじゃ」
そう喋る沙も踊っていた。
サフランの幻影を跳ばして、そのサフランの幻影を神剣で斬っている。
沙に続いて、羅と貂も剣舞に加わった。
円卓の回りを凄まじい速度で回りつつ美しい剣舞を披露する。
速度を落として時折止まっては、俺たちに刃先を向ける沙・羅・貂は美しい。
「凄まじい……サイキック剣術」
ビーサは影響を受けてラービアンソードの鋼の柄巻を掌で回転させていた。
さすがに魔力は通していないが、直ぐにでも魔力を通す勢いだ。
俺としては、ビーサのラービアンソードの青緑色と白銀色が混じったブレードは美しいから見たいと思ったが、机と棚を注視。
魔法書のレプリカがディスプレイラックに収まっている。
積み重なった古い地図は、文鎮のような重しで押さえられていた。
複数ある網の籠には、骨類、真空パックされたモンスターの肉、苔、人の皮膚、髪の毛、等が大量に入っている。
モンスターの眼球がキャビアのように盛られたステンレスボウルもある。
ホラー映画かよ、不気味すぎるが、錬金術の素材なのかな。
茶色の液体が入った硝子瓶がディスプレイスタンドに収まり並ぶ。
白色の巨大な大皿には、巨人の頭部が置かれてあった。
巨人の頭部はモジャモジャした緑色の髪だ。
一つ眼に、太い剛毛な眉毛、巨大な牛の鼻に、巨大蛙のような口。
「これは凄い! ロロリッザ王国に出現するサイクロプス!」
ヴィーネが反応。
何回か聞いているロロリッザ王国。
アイテムボックスにある〝ペーターゼンの断章〟で、はるか北のことは少し知っている。
「ヘカトレイルやペルネーテにはない代物だな」
「ん、スロザの
「うん。わたしもここで始めて見た時は驚いた。すべてが錬金術のポーション造りに使える素材になるそうよ」
「……」
「これが巨人」
「一つ目の怪物は魔界にたくさんいました! そして、わたしも一つ目~」
マルアがそう発言。
隻眼か。マルアは血骨仙女の眼を得ることは可能なんだろうか。
「アドゥムブラリのほうが面白い単眼球体です」
キサラがそう真顔で発言。
その真面目なニュアンスは面白かった。
キサラは植物園でのアドゥムブラリの一件が忘れられないようだな。
〝ヒュギリ・ドリン〟と不思議な絵の効力は、たしかに威力があった。
そのあとのキサラのキスのほうが俺としては利き目が高かったが。
そう考えつつ他の品も見る。
次は各属性を備えた色違いの魔宝石。
極大魔石も、専用の魔機械の上で、浮いた状態で陳列されていた。
反重力系の魔力を出せる魔機械か?
単なる磁力による超伝導かな。
それともカーボンナノチューブが魔石類に塗られてあるとか?
光を当て、熱力学を活かした空力作用で魔石類を浮遊させているのかな。
それらの大小様々な極大魔石の値段は……。
白金貨百五十枚が最低料金か、高い。
大きいほうの極大魔石に値段は記されていない。
極星大魔石はさすがに売られていないようだ。
そのアイテムボックスに仕舞ってある極星大魔石に付いては……。
クナに渡すべきかまだ迷っている。
魔塔ゲルハットに巨大転移陣を造ってもらうための素材としては十分だろう。
んだがなぁ、クナは自分の体に鞭を打ちそうで怖い。
それにクナはルシェルと闇のリストの仕事中だしな。
各地のセーフハウスの転移陣の確認もある。
暗殺一家の【チフホープ家】の連中と接触したことはルシェルから血文字で情報を得て知っているが、クナも〝暗黒のクナ〟としての人脈を活かしているようだ。
ま、もうじきミスティと同じく連絡は来るだろう。
「魔法、魔術、スキルなどに用いる触媒も豊富ですね」
「サイキック強化が行えそうな魔商品の素材にも見えます」
ビーサがそう発言。
レベッカが頷いて、
「うん、色々とある。素材は本物で貴重な物ばかり。でも、そこに陳列された魔法書はほとんどがレプリカだから、奥に行きましょう」
「おう」
皆で店の奥に移動。
すると、小さい立ち椅子に乗って高い棚から荷物を降ろしている女性がいた。
受付用の台がない。
倉庫のような大きな棚が並んでいるだけだが。
その女性が品を降ろし、俺たちに気付いた。
「あら、レベッカちゃん!」
「店主~、この間話をしていた皆を連れてきたわ!」
店主なのか。
ワンピース系の衣服。
ガーターベルトとお尻さんが魅力的だ。
エヴァも、
「ん、こんにちは」
「こんにちは、エヴァちゃん!」
挨拶していた。
「皆さんは、初めまして♪ あ、レベッカちゃんから【天凜の月】の盟主様のことを、色々と聞いているわ」
「そうでしたか、お恥ずかしい」
「お恥ずかしいって、シュウヤ、そんな畏まる必要はないわよ~、ふふ」
そうレベッカが笑っていた。
「ん、シュウヤらしい」
「ふふ、英雄さんの槍使いは、孤客な人見知りって一面もあるのかしら」
そう喋る美人店主は鋭い感性の持ち主かも知れない。
「はい、そうかも知れないです。同時に、店主が美人な面もあるかと思います」
「もう! すぐそっちにいく」
「当然だろう。俺も野郎だからな」
「ふん、開き直って! でも美人さんだし、分かってしまうのが、もう!」
ぷんぷんと、可愛く怒る。
「ご主人様が魅了されるのも同じ女として分かるぞ……確実に強い雌だ」
ヴィーネが嫉妬する前にダークエルフの本能で話をしていた。
「うふ♪」
魅力度が高いサキアグルの店主。
双眸は、黒と茶が混ざった色合い。
鼻筋は高く、小振りな唇で、右端には切り傷がある。
頬にある笑窪は可愛い。
その店主は、俺を見て、「では、【天凛の月】の盟主様との出会いを祝して――」と、華麗に頭部を下げてきた。
俺も礼を返して、
「初めまして、名はシュウヤです。肩の黒猫はロロディーヌ。愛称はロロ」
「にゃ」
「ふふ。礼儀正しい男と猫ちゃんは好きよ。あ、わたしの名はサキアグル。魔道具店の店名と同じ」
「ンン――」
肩から床に降りた相棒は店主に近付いた。
が、頭部を当てるような甘える行動はせずに、エジプト座りで待機。
ここからだと
ヒューイは置物の如く
とりあえず、サキアグルの店主に、
「はい、サキアグルの店主。レベッカがお世話になったようで」
そのサキアグルの店主は右耳だけに銀色のイヤーカフを装着中。
耳飾りはダブルフェイスのと少し似ているように見えるが、気のせいだろう。
サキアグルの店主は頷いて、
「その通り――」
と発言。
そして、イヤーカフと髪飾りが似合うサキアグルの店主はレベッカを見ながら、
「レベッカちゃんは、大切なお得意様の一人。今後とも仲良くしたいわ。そして、前回の宣言通り、大口のお客様を連れてきてくれたからね」
ウィンクをレベッカに送る。
レベッカは魅了でも受けたように、胸に両手を当ててから、
「うん、ここは品がいいし、色々あるし、綺麗で穴場だし、美人さんが店主だし、化粧品までつけてくれる、お気に入りの店なの!」
レベッカは、俺に対しての嫉妬心は直ぐに消えたようだ。
テンションが高い。
俺も楽しくなってきた。
レベッカのハキハキとした分かりやすい性格には、自然と人をほぐす効果でもあるのかな。
そして、美人なサキアグルの店主と会えて、俺も嬉しい。
そのサキアグルの店主の身長は……。
ヴィーネぐらいか。
やや高い印象がある。
鋼のブーツだからか。
黒髪の房の一つが、肩から背中に流れていた。
銀色の蛇の形をした髪留めが、その黒髪に似合う。
左耳は普通の人族のようだ。
が、イヤーカフが似合う右耳の魔力は感知できない。
魔素をまったく出していない。
あの右耳には秘密があるということか。
衣服は、Iラインシルエットが魅力的。
ワンピース系の防護服で、肩にスリットが入っている。
鎖骨とスリット入りの肩と二の腕の生地は透けていた。
あ、二の腕の生地だけが青紫色に変化。
へぇ、カッコいい特殊な防護服。
センスがいいし、時折見せる鋭い視線、なにもんだ、この店主。
太腿のガーターベルトも綺麗だ。
メルのような足技も豊富そう。
「でも店主、前と衣装が違って素敵よ! その素敵な衣装と言うか、新しい防護服はどこで手に入れたの?」
「ふふ、ありがとう。褒めてくれて嬉しいわ。このワンピースは、ね……。【ローグアサシン連盟】が持つ浮遊岩の
一瞬、俺をチラッと見る視線が、なんとも言えない。
「へぇ……胸元のインナーと魔法のブローチも新しいし、さり気ない衣装で、参考になる」
レベッカもお洒落さんだからな。
「そう言うレベッカちゃんも、センスがいいわ。上服の【天凛の月】の衣装も、かなりのお洒落さんよ?」
「ありがとう♪」
またまたテンションが上がるレベッカさん。
微笑むサキアグルの店主は、エヴァに視線を向けて、
「可愛いエヴァちゃんも元気そうね」
「ん、店主、綺麗」
「あらあら、エヴァちゃんだってとてもビューティーな女性よ? その紫色の瞳なんて、色々な男を虜にしちゃうと思うけどなぁ。そこの盟主様も、優しくエヴァちゃんを見ているし?」
エヴァは褒められて恥ずかしそうに視線を逸らしていた。
ヴィーネとキサラが前進して、頭部を下げる。
サキアグルの店主は、「へぇ」と小声で感心しつつヴィーネを凝視。
「あ、さっき鋭い言葉を話していた女性エルフさん。そして、珍しい肌色! もしかして、ダークエルフかしら?」
「はい、その通り。鋭いな、サキアグルの店主! わたしの名はヴィーネだ。よろしくお願いする」
「ふふ、はい、こちらこそよろしくお願いします。いいわねぇ。強い女を感じる」
「サキアグルの店主も強いと分かるぞ」
「うふ。ありがとう。今日は新しい風が吹くような予感がしていたけど、予感は的中♪ いい日だわ、うふふふ」
ヴィーネと何か通じ合うモノがあるのか。
クナっぽいが、キュイジーヌさんっぽさもあるし、メルっぽさもある。
「こんにちは、わたしの名はキサラです」
「あぁ、貴女がキサラさん。こんにちは♪ 最近噂に聞く【天凛の月】の幹部さんよね。ユイさんと同じく最高幹部の一人で、強い女性と聞いてるわよ♪」
「ありがとうございます」
レベッカとエヴァとユイはここでちょいと活動しているからな。キサラはこの魔道具店に来なかったようだ。
ま、当然か。
キサラはダモアヌンの魔槍を持つ。
仕込み真杖と匕首もある。
するとイモリザが、
「どうも! イモリザでごわす!! <魔骨魚>ちゃんたち、挨拶~」
一瞬、膝から崩れそうになった。
<魔骨魚>を宙に幾つも生み出したイモリザは、銀髪の形を
それらの<魔骨魚>たちにレベッカが蒼炎を纏わせていた。
<魔骨魚>たちが蒼炎で怪しく輝いて見えるが、どこか可愛らしい。
サキアグルの店主は驚いて、身を退いて構える。
肩口から薄らと魔力が出る。
イモリザの姿を見て、警戒を強めたサキアグルの店主。
靴は金属系で魔力を内包しているグリーブ。
魔力が出た肩口に手を当てていた。
……動きはサラっぽいな。
<魔闘術>もかなりのモノだろう。
戦士的な動きだ。
サキアグルの店主が手を当てている肩口から出ている魔力は青白い。
レベッカの蒼炎とはまた違う。
陽炎的な魔剣の柄が見え隠れしている。
表の模型の人物が持っていたような大剣は見当たらないが、あの陽炎の魔剣がサキアグルの店主の得物か。
フェイクで<武器召喚>で大剣を使う?
周囲のランプ的な乗り物に乗る小人と妖精たちは逃げていた。
「……」
そんな陽炎の魔剣に手を掛けた店主に向けて、レベッカが微笑むと、
「店主、イモちゃんは髪の毛も体も特殊だけど、大丈夫。敵対はしないから」
「ん、イモちゃんは
「シュウヤ様の秘密兵器の一人ですね」
イモリザは両腕でポーズを決める。
腰の動きが可愛い。
『いいヘルメ立ちです』
イモリザを刮目していたサキアグルの店主は深呼吸。
深く息を吐いてから、
「……そのようで、取り乱しました。しかし、<魔察眼>で把握できないくらいに、体内魔力が異彩を放っている。今もですが……その、イモリザさん、ごめんなさいね。しかし、体が普通と違うのですか……邪神と関係した怪しい眷属にも見える」
鋭い。
「はい♪ 昔のわたしの一部は邪神ニクルスの第三使徒でした。今は、使者様の<光邪ノ使徒>なんです! <使徒三位一体・第一の怪・解放>も持ちます!」
イモリザは指先の爪の数本をフランベルジュの剣刃に変えていた。
「指先の爪を剣に! 使者様? といい、ますます不思議。そして、イモリザちゃんも凄く強そう。轆轤迷宮の深遠にわたしたちのパーティーと一緒に挑まない?」
「使者様が向かうなら協力します! <魔骨魚>ちゃんたち、戻れ~」
そう<魔骨魚>たちに指示を出すと、<魔骨魚>たちは消えた。
店主は、俺をチラッと見た。
「俺たちにもイノセントアームズというパーティーがありますし、イモリザは俺の眷属、無理です。そして、その浮遊岩の迷宮は興味深いですが、今のところ、向かう予定はないです。これからとある魔力豪商との交渉も控えていますからね」
「ん」
「はい、ご主人様も【天凛の月】の盟主ですから」
「そうですか、残念です」
サキアグルの店主はそう語る。彼女は冒険者でもあるってことか。
すると、マルアが、
「初めましてー、マルアです!」
「初めまして、わたしはミレイヴァル」
「キュッ」
「妾は沙!」
「わたしは羅」
「ふふ、貂!」
「三人揃って<神剣・三叉法具サラテン>である!」
「でちゅ!」
沈黙していたイターシャも名乗った。
「ふふ、美人揃い! はい、皆様こんにちは。ところで、今日の目的の品は、魔法書なのかしら?」
「全員ではないですが、はい、魔法書です」
「そうなの。だから、店主、魔法書を見せて」
美人さんの店主は俺をチラッと見る。
店主の右耳のイヤーカフが輝いた。
だが、耳からは魔力が出ない、オカシイ。
ま、気にせず、アイムフレンドリーを意識。
サキアグルの店主はウィンク。
片目から魔力の紋様が出た。
<導魔術>も使える?
声といい、色々と魅力的過ぎる。
「ふふ、分かりました。難易度の高い大海賊キャットシー・デズモンドの魔法地図を買ってくれたレベッカちゃんたちには、とっておきの魔法書を用意しましょう!」
そう発言したサキアグルの店主は上を見る。
片手を上げた。
片手から魔力が迸る。
天井を行き交う小人と妖精たちを使役しているのか?
その一部の小人と妖精たちはサキアグルの店主に呼応。
揃って踊り出しているグループと、レベッカや俺たちを見て、ひそひそ話を展開するグループに分かれた。踊り出しているグループはマスゲーム的。
美人なサキアグルの店主はニコニコして半身を後退。
上げていた手の中指と親指を擦って、指パッチンで小気味いい音を鳴らす。
すると、サキアグルの店主の体から魔力が迸る。
小人と妖精たちが天井に吸い込まれて消えるや、天井に刻まれている銀色の魔法陣が輝きを放った。
その天井の一部がズレた。
サキアグルの店主の前に、天井が段々とズレて降下してきた。
隠し階段の規模を超えている。
クナが隠し部屋を出現させたときのような印象だ。
魔力を備えた棚が横にも拡がって、ウォールユニットがオートムーブで展開された。
「「おおぉ」」
「なによこれ、凄すぎる! 店主、隠していたのね!!」
「当然。【天凛の月】の盟主様が相手ですから、すべての品を見せるわ」
段々とした平たい棚に色々なアイテム類が詰まっている。
魔法書以外にもある、鋼のケースか。
雷属性の魔力がある鳥の置物が棚に丸ごと嵌まっている。
魔造虎系か?
「チキチキ!」
「ングゥゥィィ、マリョク、マリョク、イッパイ、アルゾォイィィ!」
「えっと、肩の竜と鷹は本物だったの」
ハルホンクの反応と荒鷹ヒューイの声を聞いて、サキアグルの店主は驚いていた。
すると、
「エレニウムストーン、まだ詳細は不明ですが、ミホザの第一世代のレアパーツ的な物もあるようですね。素晴らしい品揃えです」
アクセルマギナが機械音声で知らせてくれた。
ビーサは黙って品々を見ている。
『ドラゴ・リリック』にあの鳥のような魔宝石を嵌めたら、『ドラゴ・リリック』内のリアルな世界に鳥が出現する?
そして、その鳥を掴んで出して、ハルホンクに喰わせたら、俺の防具のハルホンクが進化する可能性もあるわけだ。
サキアグルの店主は笑顔だが……。
その笑みには妖艶な雰囲気がある。
殺し屋が訪れる武器ディーラーのような印象だ。
少し緊張を覚えてしまう。
その店主は、俺を見て、ニコッと微笑むと、
「まずは左の魔法書から説明するから♪」
皇級:無属性の
王級:火属性の
王級:火属性の
王級:火属性の
皇級:火属性の
王級:水属性の
王級:水属性の
王級:風属性の
烈級:雷属性の
王級:雷属性の
烈級:土属性の
王級:土属性の
土属性の
「次は、鋼のケースね。鍵が掛かって開かない。鍵開け師も無理。わたしの知人の優秀なアイテム鑑定人でも分からない。大切なお客様にだけ見せるようにしているの。でも、正直お勧めはしないわ。開けたら呪いがあるかも知れない。触っても平気だからあまり心配はしてないけど。では、次――この鳥の人形だけど――」
刹那、鳥の人形が蠢いた。
人形から鳥の形をした魔力が浮かぶと、迅速にヴィーネに向かう。そのままだれも反応できず。
ヴィーネの肩にいた
刹那、
と、
棚には、鳥の人形の魔宝石が陳列されていたが、それが煌めき跳ねるように飛んできた。
宙空で羽をばたつかせていた
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