七百五十六話 【武式・魔四腕団】と賢者ゼーレとの戦い

 同時に<鎖>を消去。

 震動する神槍しんそうガンジスの双月刃が、兵士の防護服ごと片足を穿うがった。


 その兵士は「ぐォ」と声を発して体を錐揉きりもみ回転させつつ斜め後方へと吹き飛んだ。


 背後の仮面防具を装着している兵士たちと衝突。

 兵士の隊列が崩れた。


「ぎゃぁ」

「がッ――」

「落ち着け!」

「「はい!」」


 乱れた隊列を直ぐに立て直す兵士たち。

 一部の兵士の仮面防具が光る。


 兵士たちは武器を構えた。


 上腕に魔剣を持つ兵士は腰を落としつつ、


「用心しろ、威力のある下段突きだった」

「あぁ、豪槍流系統の一門の出のようだな」


 二人の兵士は、じわりと間合いを詰めてきた。

 両下腕にメイスと魔杖を握る。


 魔杖の柄頭つかがしらには、灰色の魔宝石がまっていた。


 魔宝石から無詠唱で魔法の弾を射出できるタイプと予測。


「にゃご~」

「よくやった神獣!」

「陛下、このまま敵を殲滅しますか」


 相棒&アドゥムブラリとミレイヴァルだ。

 相対した兵士を倒していた。


 が、まだまだ敵兵士の数は多い。


「戦いを仕掛けてくるなら倒そうか。だが状況は不透明だ。俺たち側からはけしかけなくていい」

「はい」


 すると、仮面防具を装着している敵兵士が、


「不透明だと? 白々しい。そして、今の槍の一撃で我々に勝ったつもりか!」

「勝ったも負けたもねぇ。俺たちは、降りかかる火の粉を払っているのみ。アキエ・エニグマから魔塔ゲルハットの権利書をもらったから、どんな魔塔なのか見てみようと寄っただけだ」


 そう俺は発言した。


「アキエ・エニグマの一派めが勝手なことを」

「勝手はお前らだろうが。ま、アキエ・エニグマは知り合いだから、そうなのかも知れないが。しかし、その【魔術総武会】の派閥に入った覚えはないぞ? そして、俺たちは【天凛の月】でもあるんだが、その点を理解したうえでの行動なんだな?」

「【天凜の月】か」

「アキエ・エニグマが裏切った理由の大本か。大魔術師の方々に大きな損害を出した」

「【天凛の月】のお陰で【白鯨の血長耳】側が推す評議員グループが争いに勝利したと聞くが、【白鯨の血長耳】が順当に勝利したとも言える」

「あぁ。【天凜の月】も、ぽっと出の闇ギルドに過ぎんだろう」

「そもそもが、闇ギルドの殺し屋集団。ゼーレ様と、そのゼーレ様がお造りになった我ら【武式・魔四腕団】とは比べモノにならん。潰そうぞ!」

「そうだとも、中庭には【魔術総武会】セナアプア支部の大魔術師様たちの殆どが集結しているのだからな」


 仮面防具が似合う兵士たちは語る。


「俺たちを潰そう? 一方的過ぎて訳が分からないが……まぁそういう連中も世の中にはいるよな」

「「な!?」」

「ゼーレ様を愚弄ぐろうする気か!?」

「そうだよ。で、お前らは戦わないのか? もう俺の眷属けんぞくたちの戦いは止まらないぞ」


 背後で行われている戦いを、俺は分かりやすく、親指をちょいちょいと動かして指した。


 仮面防具を装着している兵士たちは、空でも見るように頭部を揺らす。


「我らの存在を見ても逃げずに対峙たいじする度量を持つようだ」

「そこの槍使いの女と、いかついかぶとを被る黒虎も強い。ジェル、ボベ、アバがあっさりと倒された」

「背後の者たちも、また強者か」

「我らの魔念鋼布マジシャンズキャッチを裂いて、仲間たちも氷の魔法を浴びている……」

「あぁ、あの大魔術師アキエ・エニグマが【第六天魔塔ゲルハット】の権利書を託した集団だ。修道女の槍使いに、トンファー使い、エルフの亜種の弓使い、瓢箪ひょうたんから生えた美人……皆、強者か……ゼーレ様に……」


 すると、色違いの仮面防具を装着している人物が、


狼狽うろたえるな! 我らには、その賢者ゼーレ様と大魔術師様たちが付いている!」

「リーグアフマン隊長のおっしゃる通り! こいつらが、魔塔ゲルハットの権利書を持つのなら好都合である」

「おう。このまま、この者らを【魔術総武会】に刃向かったアキエ・エニグマの一派として処分しようぞ! 我らを造り上げた破天荒のゼーレ様に貢献するのだ」


 脳筋系だから意外に交渉で退かせられると思ったが……。

 隊長がいるなら無理そうだな。


「副長ラジェ・マクマトーとピレス・ハットマン! よく言った! ゼーレ様が造り上げた我ら【武式・魔四腕団】の能力を、他の大魔術師様たちに示すいい機会である!」


 色違いの仮面防具はリーグアフマン隊長か。

 額が少し赤い。


 角はない。


「「おう!」」

「いくぞ、<武会・魔改強破陣>――」


 前に出た隊長がスキルか魔法を発動。

 その【武式・魔四腕団】の隊長に続いて兵士たちも魔力を外に放出しつつ、


「「<武会・魔改強破陣>――」」

 

 同じスキルか魔法を発動させた。

 仮面防具と足下も輝いている。

 ローブがはだけて肉鎧をのぞかせたが、肉鎧も黒く輝いた。


 【武式・魔四腕団】の独自スキルか独自魔法か。

 空魔法士隊とはまた違う、連係魔法かスキルか?

 

 すると、隊長が、


「ミグー・オロロン。ゼーレ様たちはこやつらの存在に気付いていると思うが、念のため報告を」

「はい!」


 背後にいたミグー・オロロンという名の兵士が身を翻して中庭に向かう。

 そのミグーが、大魔術師たちに向けて、


「皆様方! アキエ・エニグマの仲間が乗り込んできましたぞ!」


 そう叫ぶ。

 中庭にいた大魔術師たちは、出入り口付近で騒ぎを起こしている俺たちを見た。


 刹那、シオンだと思う大魔術師が、視線を外した他の大魔術師たちに向けて威力のありそうな火炎魔法をぶっ放した。


 更に、地面に散乱していた魔術書もシオンの魔法と連係したように火柱を立てるや、その火柱は風を受けたカーテンのように揺らいだままシオンの周囲に集結。


 シオンの攻防一体を兼ねた火炎魔法か。


「――閣下、中庭に火精霊イルネスちゃんとバオルーちゃんたちが集結しています! 上級魔法の《炎熱波エンファルヒート》を超えた魔法のようです!」


 背後で忙しそうなヘルメが魔法の解説をしてくれた。


「ありがとう、ヘルメ。周囲の敵兵士に集中してくれていい」


 火精霊イルネスならレベッカの言語魔法の詠唱で聞いた覚えがある。


「はい――」


 ゼーレを含む中庭にいる大魔術師たちは、左手から出した魔力でシオンが放った火炎魔法を華麗に防いだ。

 

 一方、老人の大魔術師ダルケル・ロケロンアは、目の前に碁盤のような四角い物体を召喚しつつ宙を漂って中庭の右に避難。


 俺の視界から外れた。


 黄色い角のミニドラゴンを使役している方は左側へと避難し視界から外れる。

 同様にエルフの方も見えなくなった。

 

 トトリーナ花鳥の弁当を買った大魔術師たちも、シオンとアキエ・エニグマの一派と敵対しているんだろうか。


 それともフレネミーの関係なのかな。


 老人の大魔術師と同じく、シオンに対して攻撃はしていないようだが。【魔術総武会】セナアプア支部の幹部たちの力関係はまったくもって分からない。


 上院下院の評議員たちが持つ魔法学院と密接につながっていることは理解していたが……。


 眷属と仲間は鋼鉄馬車から降りてきた兵士たちが放つ攻撃をしのいで各個撃破中。


 その眷属たちが吸収している魔素の具合から判断できた。


 一方、マジシャン風の長い魔杖を持つ女性大魔術師も、他の大魔術師たちと同じく左手から発した魔力でシオンの火炎魔法を防いでいる。

 そして、右手に持つ長い魔杖で魔弾の杭の遠距離攻撃をシオンに向けて繰り出していた。


 その反撃の合間に、長い魔杖を本当の手品師の如くクルクルと回していた。

 可憐な仕種で魅了される。

 今も、その長い魔杖の先端から、長細い魔弾の杭をシオンに繰り出していった。


 その細長い杭の攻撃は、他の大魔術師たちが繰り出す反撃の魔法と同じくシオンを守る火のカーテンに吸い込まれて消えていた。


 大魔術師たちから集中攻撃を受けているシオンも片手に長い魔杖を召喚。


 自らを守っている火炎魔法を強めた。


 シオンの顔色からして、結構焦っているような表情だと分かる。


 他の大魔術師たちも、それぞれ個性のある反撃の魔法をシオンに繰り出した。


 一瞬、その魔法の攻防から中庭の空間が霞んだように見えた。

 すると、シオンは何かを使用しつつ、


「セウロスの神々よ、我の魔力を糧に力を示せ――《四属性ロガイ・ハイル攻防魔壁マジクハイガード》」


 シオンの周囲に、炎と雷と土と風の魔法結界が瞬く間に生成された。

 

 見たことがない洗練された魔法の類。

 言語げんご魔法と紋章もんしょう魔法が合わさっている?

 多重属性たじゅうぞくせいを用いた魔法結界か。

 使用されたであろう魔力の量は多くないが、極めて精度せいどが高い魔法だと分かる。


 皇級、神級か?


 他の大魔術師たちの魔法攻撃がゼロコンマ数秒ごとに激しくなっていったが、そのシオンが展開した多重結界を破ることはできていない。

 

 中庭は尺玉しゃくだまが弾けたような魔法合戦となった。


 さて――。

 中庭の大魔術師たちの魔法合戦よりも、目の前の兵士たちだ。

 仮面防具を装着した兵士たちを睨みつつ、背後の皆に向けて、


「皆、大丈夫だな? 見て分かると思うが、中庭で動きがあった。そして、この前方の兵士たちは、俺が対処する。皆は、各自の判断で前進してくれ」

「ンン、にゃ」

「了解したが、神獣ロロディーヌ次第だ。しかし、この神獣は強さが増しているぞ!」


 ロロディーヌ用の戦兜いくさかぶとと化したアドゥムブラリが語る。


 かがやいたつばめと壺ヤナグイのマークが変化中。

 

 一瞬、三日月の形になった。

 伊達政宗の兜に見えたが、模様はまた変化。

 

「閣下! 敵の一部には氷の彫像となってもらいました」


 さすがは常闇の水精霊ヘルメ。容赦がない。

 半身を退いて、ヘルメが戦っていた右後ろを見ると、鋼鉄馬車の幾つかと複数の兵士たちが氷の彫像と化していた。


 そして、エヴァたちと視線が合う。


「ん、任せて」

「はい、四本腕が放ってきた魔法の網はすべて処断しました」

「追撃してきた兵士を倒しましたが、様子を見ている兵士には、手を出していません」


 翡翠の蛇弓バジュラとガドリセスを扱っているヴィーネがそう発言。

 俺は頷いて、


「了解した。そのスタンスでいい」


 一方、前方の<武会・魔改強破陣>で能力を上げたであろう兵士たちは、


「皆! 背後のシオンも、ゼーレ様たちに向けてはっきりと敵対の意志を表明した! こやつらと連係を取るつもりだろう。者共、アキエ・エニグマと同様に捕らえるぞ!」

「「おぅ!!」」


 え? 驚いた。

 あのアキエ・エニグマが捕まっているだと?

  

 驚きながらも<魔闘術の心得>を意識――。

 神槍ガンジスを右手から消去。

 

 同時に左手に逆手に鋼の柄巻を召喚。


 その鋼の柄巻に魔力を通した。

 放射口からブゥゥンと音をたてて青緑色のブレードが迸る。


「槍使いが魔杖を扱うだと? 鎖の攻撃といい異質な野郎だ! 皆、俺に続け――」

「「はい!」」

「リーグアフマン隊長に続け!!」


 再び<血液加速ブラッディアクセル>を意識。

 そして、<魔闘術>の加速も活かす。

 

 前傾姿勢で前進した。

 すると、リーグアフマン隊長の右側にいた兵士が反応。


 俺の加速に対応。

 上腕と下腕で持つ魔杖から色違いの魔弾を放ってきた。

 

 俄に加速を緩めて右腕を傾けた。

 その傾けた右手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出――。


 ――俺の<鎖>が、魔弾の軌跡ごと魔弾を粉砕。


 更に相棒&アドゥムブラリが近い左側に移動。


「にゃお~」

「主、あの鋼鉄馬車はカラクリ箱か? 兵士が次々と出てくるぞ」

「鋼鉄馬車を倒してもいいが、逃げる兵士は追うなよ」

「ふ、まったく、神獣、左の鋼鉄馬車を潰すのだ――」

「にゃご~」


 俺は右手首から伸びた<鎖>のコントールを行う――。

 <鎖>のティアドロップの先端を、蛇の頭のように動かした。


「何だァ? 蛇の魔法防御スキルか!?」


 叫ぶリーグアフマン隊長は歩法の速度を緩めた。

 やおらの動きのまま四腕が持つ武器の角度を変えている。

 

 しかし、仮面防具越しだから変な声だ。


 そのリーグアフマン隊長と兵士たちの動きを見ながら――。

 <鎖>を縦横無尽に動かした。


 ――次々に飛来してくる魔弾を弾いていった。


 更に、左側で相棒&アドゥムブラリが倒し損ねた兵士たちも、俺に向けて魔弾を放ってきた。


 戦力を俺に集中させたか。

 

 爪先半回転を実行――。

 

 左から迫る魔弾を横回転して避けつつムラサメブレード・改も振るった。

 魔弾を青緑色のブレードで切断しつつ回避を続けた――。


 そこにヘルメの《氷槍アイシクルランサー》が見えた。

 更に、ミレイヴァルの『レンブラントの光線』的な迅速な突き技が左の兵士たちを穿つのを確認。


 聖槍シャルマッハを回すミレイヴァル。

 可憐だ。

 

 直線状に煌びやかな軌跡を残したミレイヴァルは後退。

 

 ヘルメは、《水流操作ウォーターコントロール》で操作しているような《水幕ウォータースクリーン》を俺の左右の斜め前に展開しつつ、俺の背後に後退してきた。


「陛下――」

「閣下――」


 俺は二人の掛け声に頷いてから、自身の背中をミレイヴァルとヘルメの背中に合わせた。

 そして、俺に飛来してきた魔弾をムラサメブレード・改で斬った。


 魔弾を幾つか吸収していたヘルメの《水幕ウォータースクリーン》だったが、魔弾の威力と数によって消失。


 仮面防具を装着した兵士たちは言うだけはある。

 すると、


「ぶはぁ~、器と背中を合わせている! 羨ましいぞ! <御剣導技>――」


 背後で戦う沙の声だ。

 俺は迫る魔弾をムラサメブレード・改で斬りつつ、


「――沙、一時しのぎだ、我慢しろ。そして、ヘルメとミレイヴァル。背後の沙は放っておいても大丈夫だ。皆と連係しつつ、こいつらを倒すとしよう」

「「はい」」


 そのタイミングで――。

 ミレイヴァルとヘルメの背中を自らの背中で押して二人と離れた。


「なにぃぃ――他は知らぬが、妾は大丈夫ではない!」

「――沙、兵士の首を神剣に乗せたまま喋る言葉ではないですよ!」

「ふふ、<仙鐘剣風>――」


 沙・羅・貂の余裕感あふれる声が聞こえたが、構わず、右手首から出していた<鎖>を意識。


 右手首の<鎖の因子>のマークへと<鎖>を少し収斂させた。


 その<鎖>を左前方から連続的に魔弾を繰り出していた兵士の一人に向ける。

 

 鞭のように<鎖>を振るった。

 蛇のように動いた<鎖>の先端が、兵士の左上腕と左下腕を突き抜ける。

 

 更に<鎖>の先端を横へと操作した。

 脇腹を突き抜けた<鎖>で、その兵士の体を絡め取る。


 ――よし。


 <鎖>が絡む兵士を肉の壁に利用しよう。


 ところが、その<鎖>が絡む兵士は、


「ぐあぁ、俺に構うな、利用されるなら死を望む――」

「「おう!」」


 他の兵士たちは、躊躇ちゅうちょなく<鎖>が絡む兵士を攻撃しまくる。 


 容赦ない攻撃で、<鎖>が絡む兵士は肉の塊となって散った。


 刹那、リーグアフマン隊長は、


「あの鎖には注意を払え!」


 そう部下たちに警戒けいかいうながすや、前進。

 その隊長は、魔剣を振るって俺から伸びた<鎖>を斬ろうとした。


 当然、<鎖>は斬れない。

 が、威力のある攻撃で<鎖>は大きくはじかれた。

 更に、隊長の動きに合わせたのか、右側の兵士たちが魔法の網を俺に放ってくる。


 続いて左側の兵士たちが、


「<武式・魔導牙>――」


 メイスから魔法の牙を繰り出してきた。

 

 俄に<鎖型・滅印>を実行――。

 右腕、左腕での正拳突きから、掌底。

 エルボー、膝蹴り、ターン、から片手を伸ばすと同時に、<鎖の因子>から<鎖>を射出していった。


 独自の<鎖>の歩法を模索――。


 前進しつつ両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出しまくった。


 ――皆からは、踊りながらマグナム系の二丁拳銃をぶっ放しているように見えるかも知れない――。


 銃身の長いビームガンがあともう一丁あれば――。

 光魔ルシヴァル流ガン=カタに挑戦したいが――。

 

 <鎖型・滅印>の<鎖>の連射攻撃が――。

 俺に飛来してくる魔法の牙と魔法の網をすべて貫いて破壊した。

 

 縦横無尽に宙空を行き交う<鎖>の連続射撃は強力だ。

 

 そして、時折<血鎖ちぐさり饗宴きょうえん>を混ぜた。

 

 <鎖>の機動に気を取られていた兵士たちの一部は俺の血鎖に飲み込まれるように全身が穴だらけとなって消滅。


 次の瞬間――。


 俺はわざと・・・魔力を切らしたような仕種しぐさを取った。

 

 <鎖>を消去しつつ鋼の柄巻つかまきの握り手を変えた。

 <生活魔法>の水と<血魔力>の血を足下に散らす。


「血を流したぞ! 力を消費したようだ。掛かれ!!」


 俺の行動を見てチャンスと判断した兵士たち。

 その先頭の兵士は、魔剣の切っ先を俺に向けて前進してきた。


 狙いは俺の胸元。

 魔剣は紫色と黒色の魔力を発している。


「マコーネルに続け!」


 マコーネルの背後の兵士たちに指示を出すリーグアフマン隊長。

 魔剣の切っ先を俺に向けていた。


 正門を守る他の兵士たちも、隊長の指示に従うように、俺に向かってきた。


 四本腕の武器もあるし、数で潰すのは正論。

 

 が、俺も伊達だてに場数は踏んでいない。

 <鎖>を消して前進――。

 同時にマコーネルと呼ばれていた兵士が持つ魔剣を凝視。


 そして、あえて自らの右腕を差し出すように右手を突き出した。


 ――鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の右の手甲が、兵士の魔剣の切っ先と衝突した。


 次の瞬間――。

 

 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼から、雷属性を帯びた魔風が迸る。

 同時に、突きを出したマコーネルの腕に稲妻が走った。


 その腕は小規模な爆発を起こして血飛沫が迸る。

 

 マコーネルが持っていた魔剣は悲鳴をあげるような音を立て、真上にはじかれた。


「なッ!?」


 俺も驚いたが――。

 マコーネルも驚きの声を仮面防具越しに寄越す。


 そのマコーネルは、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の手甲から迸った魔風と雷撃を受けて体が仰け反った。


 頭巾もはだけて仮面防具と胸元の鎧に体を晒した。

 その防具の間から覗かせる体は、異質。


 ムカデのような奇怪な蟲で体という体が縫われているようだ。

 フランケンシュタイン系の改造魔人か。

 そんなマコーネル目掛けて――。

 

 逆手で握るムラサメブレード・改を振るい上げた――。


 マコーネルの左の上腕と下腕を青緑色のブレードが切断。


「ぎゃぁぁ」


 マコーネルは悲鳴を上げて身を退こうとする。

 ――タフなマコーネルを逃すつもりはない。

 

 ムラサメブレード・改を消去するのと同時に腰を下げた。

 構えを<刺突>モーションに移行しながら右手に聖槍ラマドシュラーを召喚する。

 そして、腰をねじった左足の踏み込みから――。

 その捻った体幹のパワーを右手が握る聖槍ラマドシュラーに乗せた<刺突>をマコーネルの胴体に繰り出した。


 右手ごと突き出た聖槍ラマドシュラーの片鎌槍に近い螺旋らせん状の穂先が、マコーネルの鎧と胴体を貫いた。


 片鎌槍に近い螺旋状の穂先は、マコーネルの背中とローブも突き抜けていることだろう。


「ぐ――」


 マコーネルはそのまま絶命。

 

 そして、俺は右手ごと一本の槍と化した右腕が伸びきった状態だ。

 この槍使いの弱点をわざとらしく晒したが、他の兵士は寄ってこない。

 

 聖槍ラマドシュラーを右手から消去。

 マコーネルの死体の胸には、刺々しいフライパンの形をした血濡れた穴が残る。


「ええい、怯えるな、押せ、押せ!」


 右側の兵士が叫びつつ、メイスを振り回してきた。


 その機動を読みつつ半身を退いてメイスの攻撃を避けた。

 だが、その兵士は仮面防具を光らせて速度を一段階引き上げる。


 加速した左上腕が持つ魔剣の刃が目に迫った。

 俄に頭部を傾けて、その魔剣の突き技を避ける、が――右耳を魔剣の刃に抉られた。


 痛みを我慢しつつ右手に聖槍ラマドシュラーを再召喚。


 聖槍ラマドシュラーの柄を上げて、メイスの攻撃を防いだ――。


 次に柄を下げて魔剣の袈裟けさ斬りを防いだ。


 そうやって、聖槍ラマドシュラーの柄の角度を何度も変えて、メイスと魔剣の連続した突きと払いの攻撃を、連続的にはじいていった。


 その度に、柄から目映まばゆツバメの形をした火花が散る。


 火花がいい眩目けんもくとなった。 

 ――リズムよく左足と右足を交互に引いて半身を維持しながら風槍流『風軍』を用いた後退を実行――。

 

 すると、リーグアフマン隊長が、


「守勢だ。素早いが、数で押し潰せば勝てる!」

「「おう」」

 

 <武会・魔改強破陣>で己を強化した兵士たちは前進するや、四本の腕を振るって攻撃してくる。


 四つの武器の攻撃機動は大体把握した。

 左手のムラサメブレード・改の<水車剣>の斬り上げと斬り下げで、魔剣の突きを払い退けてから<飛剣・柊返し>を実行――。

 

 兵士は、流れるような連続斬りを、四つの武器の一つと腕の一つを犠牲にしながら防いできた。刃が付いた分厚いメイスと腕は青緑色のブレードで溶けている。

 

 そのムラサメブレード・改を消す。同時に腰を捻りつつ左足の膝で打撃を繰り出すフェイクを兼ねた踏み込みから――。

 

 聖槍ラマドシュラーで<攻燕赫穿>を繰り出した。


 穂先の蛇鎌刃は戦神流の<攻燕赫穿>の威力を物語るように強くかがやきを放つと、穂先からツバメの形をした魔力がほとばしる。


 その燃えた燕の魔力は穂先側に逆流し、蛇鎌刃の溝を埋めるや、瞬く間に、新しい聖槍ラマドシュラーの穂先を形成。

 そして、その新しい穂先となった聖槍ラマドシュラーは兵士の胴体を突き抜けた。

 胸に聖槍ラマドシュラーを生やした兵士の胴体は、数千度の熱を帯びた金属のように溶けると、ジュッと音を響かせつつ蒸発するように消えた。


 更に、聖槍ラマドシュラーの穂先から無数の燕の魔力が出現して、爆発する。その爆発は不知火のような炎の衝撃波となって周囲にひろがった。


 俺を攻撃しようと集結していた仮面防具を装着した兵士たちは、その<攻燕赫穿>の衝撃波と火山の爆発的な炎をもろに喰らうと、体が溶けた。


 そして、燃えながら派手に吹き飛んだ。


 炎に耐えた防御力が高い兵士は左右の角柱と衝突し、背骨が折れたのか、体がへの字の形に変形しているが、まだ生きていた。


 体の皮膚が焼けただれた兵士は、門にくっ付いたまま生きている。


 【武式・魔四腕団】はタフで中々の強さだ。

 さて、


「皆、俺は中庭に入って大魔術師たちと交渉を行う。背後を頼むぞ」

「「はい!」」

「盟主、任せな~」


 カットマギーの声を背中で受けつつ正門を潜るように進んだ。

 

 出入り口付近に結界的なモノはないようだ。中庭にはそれらしい石灯籠はあるが、光が消えているのもある。


 すると、中庭の中央でシオンと激突中の大魔術師たちが、


「――なんだ?」

「おい、正門を押さえていたゼーレの【武式・魔四腕団】が崩壊しているぞ!」

「ほぉ、これまた珍しい。【魔術総武会】の魔塔に真正面から堂々と入りこむとは」

「あぁ、おもしれぇヤツが現れた! しかも、俺と同じ槍使やりつかいじゃねぇか。と言うことは……あれが噂に聞く【天凜の月】の盟主の槍使やりつかい。やはり、アキエ・エニグマの語った事は本当だったのか?」


 そう語るのは大魔術師とは思えない男。


 赤黒い大きい左腕。

 その左腕が鋼色の魔槍を持つ。


 魔槍の穂先は巨大なやじりの形。

 形から、海の生物のエイにも見えた。

 柄頭つかがしらも鏃の形。


 巨大な鏃の中央には、赤黒い魔力の塊があり、その赤黒い魔力の塊を基点に、赤黒い魔力が血管のように巨大な鏃の中を走っていた。


 その血管的な魔力は、赤黒い大きい左腕とも魔線で繋がっている。

 

 伝説レジェンド級か。

 または神話ミソロジー級の魔槍だろう。


 あの魔腕も特別か。

 カットマギーの新しい右腕を近くで見ているから、同じような魔腕と分かる。

 

 俺としては魔槍が気になった。


 巨大な鏃の中を行き交う魔力の動きは、葉脈の中を走る液体にも見えた。


 巨大な鏃の中にある七つの丸い魔力を結ぶ魔線の繋がり具合が、北斗七星に見えてくる。


 かなりの芸術品だ。


 魔槍に魅了されていると、手前の大魔術師の一人が、


「な、わたしの【武式・魔四腕団】が……許せぬ……」


 そう発言した。

 

 ゼーレとはあいつか。

 細身の初老男性。

 ローブ姿で長い杖を持っていた。

 

 その厳ついゼーレはシオンへの攻撃を止める。


 俺を凝視しつつ、


「……<魔鋼槍・形態>」


 そう呟くと魔の甲冑を装着する。


 両腕に魔槍杖バルドークのような槍と杖が合わさった長柄を握っていた。


 ローブ姿からいきなり戦士に変身か。

 もう見た目からは大魔術師に見えない。

 大魔剣師に見える。


 造形的に【影翼旅団】の魔鋼のパルダと似ているか?


 その鋼魔人に変身したゼーレは、飛翔しつつゆっくりと俺に近寄ってくる。


 他の大魔術師も二人近寄ってきた。


 大きな左腕で魔槍を扱う男の大魔術師と、細い手で長杖を持つ女性大魔術師だ。


 女性大魔術師は燕尾えんび服が似合う。

 かなりの美形。

 正直美人さんとは敵対したくない。


 が、戦いとなったら仕方ないな。

 俺は鋼の柄巻の握り手を意識――。


 ムラサメブレード・改の柄巻にある三つのボタンを掌で把握。


 月と樹。

 獣。

 血色の水滴。

 

 それらの三つのボタンは使わず。

 鋼の柄巻に再度強力な魔力を通した。


 青緑色のブレードがいつもより長い。

 ブレードと放射口から、ブゥゥゥゥンという鳴り響く音も長く聞こえた。


 変身したゼーレは、


「小僧、その代償は高くつくぞ――」


 そう発言しては、両腕の下に鋼の魔腕を五つ生み出す。

 魔腕の二十五本の指を蛇腹機動で動かしつつ、ゆらりと近寄ってきた。

 

 俺は青緑色のブレードから加速エネルギーを得たように加速――。


 ゼーレも加速した。


 俺の<血液加速ブラッディアクセル>の加速に対応している。


 そのゼーレは五つの魔腕の指から魔弾を射出してきた。


 速やかに両腕の<鎖の因子>から<鎖>を射出――。


 ゼーレが繰り出した魔弾の群れを<鎖>で迎撃し、粉砕。


 それらの魔弾が消し炭となって消える間もなく、<鎖>を再射出。


 <鎖>はゼーレが生み出した魔法防御層に阻まれた。

 構わず<鎖>を消して前進――。


「――チッ! <無雷魔速>の使い手か?」


 ゼーレがそう発言。

 俺は槍圏内に入る直前、右手と左手に神槍と聖槍を出現させるフェイクを行いつつ<導想魔手>を繰り出した。


「――ぬ!」


 驚いたゼーレに見えたが――。

 <導想魔手>の魔力の拳を凝視し、五つの魔腕から出した魔力の壁を利用して、<導想魔手>の魔力の拳を防ぎつつ後退――。

 更にゼーレは魔力の拳の<導想魔手>に向けて、魔槍杖のような武器から魔刃を繰り出して反撃。


 無言だから分からないが、連続的に魔刃を繰り出すスキルか?

 <導想魔手>を構成する魔線の群れが切断された。


 その<導想魔手>を囮に使う――。


 ――《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を発動。


「カッ、なめめるな――<ラ・ゼルの魔波>――」

 

 甲冑かっちゅう姿のゼーレが、魔法かスキルを発動。

 

 五つの魔腕まうでから魔線が宙にほとばしった。

 魔線は宙空に亀裂を生む。


 異空間に干渉するような魔線か?

 刹那、チリチリと宙空から音が響くと――。

 

 ゼロコンマ数秒も立たず《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》の魔法陣は消えた。

 

 見えざる手で、強引に《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》が潰された印象だ。

 すさまじい魔法の質。

 

 直ぐにムラサメブレード・改を<投擲とうてき>――。


 甲冑姿のゼーレの頭部に、ムラサメブレード・改の青緑色のブレードが突き刺さるかと思われた。

 が、しかし、急降下してきた存在がいた。

 それは、巨大なやじり穂先の魔槍を持つ大魔術師――。


 ムラサメブレード・改の青緑色のブレードは、その魔槍と衝突して、<投擲>は防がれた。

 ムラサメブレード・改は地面に転がった。


 槍使いの大魔術師が、大きな魔腕で扱う魔槍か。

 その巨大なやじりの穂先は刃こぼれせず、強く輝いていた。


 槍使いの大魔術師は、その場で巨大な鏃の穂先を持つ魔槍を振るって足下を払うと、


「――いくぜぇ? 魔槍エッジガルバのにえとなってもらおうか――」


 渋い声を響かせるや、槍使いの大魔術師は体から魔力を放出。


 ゼーレから離れて、槍の歩法を用いた前傾姿勢で突進してくる。


 すかさず<超能力精神サイキックマインド>を発動――。


 槍使いの大魔術師は双眸そうぼうを光らせた。


 衝撃波の<超能力精神サイキックマインド>を見えているように反応するや、

 

 ――巨大な鏃の魔槍を盾代わりに利用。

 <超能力精神サイキックマインド>の衝撃をうまく殺しつつ左へと横回転しながら後退した。


 石畳の上で回転を制動なく止めて、ポーズを決める槍使いの大魔術師。

 あの槍使いの大魔術師の男も強いな――。

 

 俺は<投擲>した鋼の柄巻を<鎖>で回収。

 続けて、ゼーレに向けて<鎖>を繰り出し、《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を連射。

 

 甲冑姿のゼーレは、


「魔法能力も高い――」


 そう発言しつつ五つの魔腕から瞬時に真新しい魔力の防御壁を展開させた。

 

 魔力の防御壁で、俺の<鎖>と――。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》の連射を防いできた。


 <鎖>を消す。

 ――《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》の連射は止めない。


 そこに――。

 マジシャン風の女性大魔術師が長い魔杖から<鎖>と似た魔法を放ってきた。


 爪先半回転を実行。

 マジシャン風の女性大魔術師が繰り出した魔法は蛇の動きに近い。


 避けた俺を追尾してきた。


 即座に聖槍ラマドシュラーを召喚して、その聖槍を意識しつつも――。


 俺を追跡してきた<鎖>的な魔法に向けて<導想魔手>をぶち当てた。


 ドッと鈍い音が響いた。

 <鎖>と似た魔法は<導想魔手>で相殺した。


「へぇ、アルルン系の<ヒナタ釘>を潰すなんてやるぅ~」


 マジシャン風の女性大魔術師は、感心したような声を発して攻撃を止めた。


 宙空から近寄って来ない。

 両手で楽し気に長い魔杖を回していた。


 ジョディやシェイルと似た機動で、宙を軽やかに移動する。


 あのマジシャン風の女性大魔術師は、かなり強いと分かる。

 

 他の大魔術師たちからの攻撃は今のところはない。

 静観組とシオンに攻撃を加える組に分かれている。


 俺は甲冑姿のゼーレに対して行う《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》の連射を止めず、


「なぁ、アキエ・エニグマが捕まったとは、本当なのか?」


 その甲冑姿のゼーレは、


「ほざくな!」


 と叫ぶ。

 【武式・魔四腕団】が潰されたことが、よほど頭にきているようだ。


 そのゼーレ。

 怒ってはいるが、冷静さもある。

 

 俺の繰り出し続けている《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を無数の魔弾で相殺しながら近寄ってきた。


 魔槍杖のような武器で突き技を繰り出してくる。

 

 その穂先は黄金色の刃だ。


 俺は聖槍ラマドシュラーの穂先で、その黄金色の刃を受けた直後――。


 握り手に力を入れて聖槍ラマドシュラーを横に動かした。

 片鎌槍と似た穂先に、ゼーレの黄金色の刃の穂先を引っ掛けることに成功。


 そのまま魔槍杖のような武器の黄金色の刃の穂先を横にずらした。

 続いて<水神の呼び声>を発動。

 

 更に、至近距離から《氷竜列フリーズドラゴネス》をぶっ放した。


 ゼーレの眼前に半透明な靄が出現。


「な!?」

 

 凄まじい猛吹雪となったが、《氷竜列フリーズドラゴネス》は消えた。

 が、ゼーレの魔法防御の半透明な靄も消えた。


 驚いてはいるようだが、ゼーレの見た目は厳ついが、賢者と呼ばれているように、俺の《氷竜列フリーズドラゴネス》も通じない。


 が、この雪景色の視界を利用する。


『シュレ、牽制しろ――』

『主、了解した――』


 左手から半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードほとばしる。


 無数に分岐した桃色の蛸足タコアシは、ルシヴァルの紋章樹をかたどって、甲冑姿のゼーレを襲う。


 が、ゼーレは五つの魔腕から出したビーム的な魔線で、ルシヴァルの紋章樹をかたどった桃色の蛸足の攻撃を見事に防いだ。


 更に、


「<即是・剣塵界ジエル・エルバ>――」


 ゼーレは側転機動のまま魔腕のすべての指から七色の魔力刃を放出させた。

 それらの七色の魔力刃の背景には仏教画がある。


 その<即是・剣塵界ジエル・エルバ>ははやい――。


 半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードと俺の左の前腕は防ぐ暇もなく、一瞬で細切れになった。


 ――イテェェェェ。

 ――鬼神きしんキサラメ骨装具ほねそうぐ・雷古鬼の手甲だけが七色の魔力刃を弾いていた。


 <血魔力>を意識。

 俺の前腕は刹那の間に回復する。

 ――鬼神きしんキサラメ骨装具ほねそうぐ・雷古鬼の手甲は自然に手の甲に装着された。


 ゼーレの魔法剣術は凄すぎる。

 だが、ここからだ――。

 獄星の枷ゴドローン・シャックルズを召喚――。


「出ろ、タルナタム!」


 タルナタムが現れると同時にコントロールユニット的な半透明の魔法陣が出現――。


 同時に戦闘型デバイスを意識し武器を出す。


 鬼神きしんキサラメ骨装具ほねそうぐ・雷古鬼の加速を受けているのか、俺の体に装着中の鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼から魔線が出てタルナタムに繋がる。


 タルナタムの一腕に紺鈍鋼の鉄槌。

 タルナタムの二腕に魔槍グドルル。

 タルナタムの三腕に魔剣ビートゥ。

 タルナタムの四腕は、掌から八支剣。


 そのタルナタムは四腕を迅速に振るう。

 ゼーレが繰り出した七色の魔力刃を一気呵成いっきかせいに斬り落としていく。

 

 俺はゼロコンマ数秒も立てず――。

 右手の武器を神槍ガンジスに変更。

 左手に聖槍アロステを召喚。


 続いて――<無影歩>。


「ぬおぉ!?」


 表情は分からないが、ゼーレはさすがに驚いていると分かる。


 五つの魔腕の速度が落ちる。

 魔腕の二十五の指が繰り出していた<即是・剣塵界ジエル・エルバ>の勢いも落ちた。


 チャンスか。

 <血液加速ブラッディアクセル>の加速を維持しつつ――。

 <仙魔術>系の<白炎仙手>を実行――。


 周囲に発生した霧の中から<白炎仙手>の白い水炎の貫手ぬきてが突出――。

 

 ゼーレは退きつつ――。

 七色の魔力刃を出していた指を縮ませた五つの魔腕と、自身の腕が持つ魔槍杖のような武器で、<白炎仙手>の貫手を防いできた。


「――主の敵! <カリカルの王剣八枝>」


 感覚を共有しているタルナタムがスキルを発動。

 四腕を分裂させる勢いの剣技が、ゼーレの魔槍杖のような武器と五つの魔腕と衝突。

 タルナタムの体の動きは鈍いが、腕を振るう速度は速い。


 四腕を器用に扱う連続斬りスキルか。

  

 しかし、ゼーレはすべての魔腕と魔法防御スキルを使い、タルナタムの<カリカルの王剣八枝>の防御に成功していた。


 その刹那の間にゼーレの側面に回り込む。


 槍圏内から――。

 <無影歩>を解除しつつ――。

 左手の聖槍アロステで<光穿>を繰り出した。


 間髪を入れず右手の神槍ガンジスで<光穿・雷不>を繰り出した。


 ゼーレが魔槍杖のような武器の柄を掲げた。

 その柄と聖槍アロステの十字矛<光穿>が衝突。


 光る十字矛の突きスキルは防がれた。


 構わない――。


 もう一つの<光穿>の神槍ガンジスの一撃を受けきったと思われたゼーレの魔槍杖のような武器は、柄が削れて割れるように壊れた。


「な!? 武器破壊だと!」


 方天画戟と似た神槍ガンジスの双月刃は魔力を得ると振動を起こす。

 その振動した双月刃に触れた武器は破壊されることが多い。


 そして、神槍ガンジスの斜め後方の空間から轟音ごうおんが鳴り響いた刹那――。

 その轟音を一点に集約させた空間から閃光が発生。

 閃光は神々しい光雷の矛雷不となりつつ直進――。


 光雷の矛雷不はゼーレの魔法防御を貫いてゼーレの体を貫いた。


 光雷の矛雷不が速すぎて僅かに八支刀が見えただけ、目で追えなかった。

 同時に、横の壁から激しい衝突音が響いた。 

 光雷の矛雷不は、魔塔ゲルハットの中庭の一部を焼いて横の壁と衝突したようだ。


 壁を貫いたようだが、光雷の矛雷不は消えていた。


 よっしゃ――。


 ゼーレを倒した。

 神槍ガンジスの螻蛄首にある蒼い毛の槍纓が揺らめいた。


 その神槍ガンジスの柄を右肩に乗せつつ周囲を見渡す。


「主! 敵を倒した! 背後の神獣と仲間たち、いっぱいの敵と戦っている! 加勢する?」

「いや、皆は大丈夫だ。タルナタムもよく戦ってくれた、ありがとう。そして、ここで待機」

「あい分かったァ!」


 中庭の大魔術師たちはシオンに対する攻撃を止めていた。

 皆、俺たちを凝視。


 しかし、シオンの体はボロボロだ。

 血だらけ。

 折れた長杖に寄っかかるようにして、なんとか立っている。

 

 アイテムボックスも破壊されたのか、足下に溶けたようなアイテムが散らばっていた。


 その大魔術師たちは、俺を見て、


「マジかよ。あの軍団を短期間に造り上げたゼーレが……」

「あの槍は神界に関わる神槍か? 聖槍だろうか」

「蒼い毛の槍えいに、螻蛄けら首と太刀打タチウチ辺りのくぼみが気になるな」


 ドワーフの大魔術師もいる。

 肩に魔竜王のような古代竜の頭部をかたどったポールショルダーを装備していた。


「しかし、早々に賢者ゼーレが倒されるとは……」

「あぁ、止める間もなかった。早業だ」

「オセべリア王国の大騎士序列一位グレートナイト・オブ・ワンや神王位の上位連中を思い出すわい」

「ふむ、大魔術師三人に対して大立ち回り。いやはや、強者な槍使いじゃな」

「あぁ? 中立を気取っているダルケルの爺さんも仕掛けたらどうなんだ?」

「はてはて? お? 神槍以外にも、気になる物が腰にあるのじゃが……」

「チッ、はぐらかすな」


 魔槍エッジガルバと呼ぶ魔槍を肩に預けた槍使いの大魔術師か。

 口はヤンキー系だな。グルド師匠と気が合うかも知れない。


「ふむ。ラジヴァンよ。わしは最初から中立じゃ。そして皆、そろそろシオンへの攻撃は、その辺で終わりにしたらどうなのじゃ」


 そう発言したのは、右の宙空にいた大魔術師ダルケル・ロケロンア。

 そこに影から分身を従わせつつ出現した大魔術師がいた。それは灰色ローブの大魔術師の老人。


「ダルケルよ、セナアプア支部の幹部会で決まったことだ。今更蒸し返すでない。【魔術総武会】の本会議でも許可が出たのだぞ」

「ロッジ。そう言うがのぅ……アキエ・エニグマの仲間と思しき凄腕な神槍使いによって、あの賢者ゼーレはあっさりと倒された。更に言えば、神槍使いがアキエ・エニグマの仲間ならば、さっさとシオンを助けに向かうことが筋ではないか? 今も、傍観したまま、我らの観察を強めている」

「……それはたしかに、妙ではある」


 すると、その老人の反対側の中庭の左の空間が不自然に揺らいだ。

 

 左にいる魔槍を扱う大魔術師の仕業か?


 そこから、


「ひゅぅぅ~、お宝の匂いがするぜぇ――」


 ひょうきんな声が響く。

 と、いきなり目の前に茶色の髪が目立つ大魔術師が転移してきた。


 魔腕を持つ槍使いではない。


 その高速の大魔術師の腕が、俺の腰に伸びる。

 凄まじい速度と転移スキルだ。


 狙いは察知。

 

 その茶髪の大魔術師目掛けて、神槍ガンジスで<刺突>を繰り出す。


 だが、茶髪の大魔術師はスキルを用いたのか<縮地>的な加速で俺に近付いた。

 神槍ガンジスの<刺突>を避けると俺の腰に指を――。


 直ぐにフィナプルスの夜会に魔力を通した。

 刹那、ローブ姿の黒髪のフィナプルスが出現。


 フィナプルスはレイピアを振るい上げた。


「げぇぇあぁぁ」


 茶髪の大魔術師は片腕が真っ二つ。


 茶髪の大魔術師は身を翻した。

 そして、傷だらけのシオンの後方に転移していた。


 茶髪の大魔術師は片手で地面を突いて肩で息をする。

 と、茶髪の大魔術師は、無事な片腕の表面に魔印を生む。


 同時に腕の周囲に環の魔法陣が出現。

 地面にも綺麗な魔法陣が現れると、切断された腕が回復。


 俺の前で浮遊する黒髪のフィナプルスは背中の翼を拡げた。


 フィナプルスは浮遊しつつ大魔術師たちを見据えて、


「名の知れぬ大魔術師たち……わたしに触れたところで無駄ですよ。シュウヤ様とわたしの契約は絶対事項。そして、仮にフィナプルスの夜会と魔女ノ夜会集の理に触れたのなら、その腕程度の傷では済まされない……魂ごと、その膨大な魔力を、わたしとシュウヤ様が頂くことになることを知りなさい」


 フィナプルスは天使さんの姿だから迫力がある。


「フィナプルス、元気そうだ」


 フィナプルスは振り返って、パッとした笑顔を見せた。


「――はい。新しい豊潤でフィナプルスの夜会は幸せです」


 そう語ると俺の背後に回る。

 更に、フィナプルスの背後の正門から、


くのだ、神獣ロロディーヌよ!」

「にゃお~」


 相棒&アドゥムブラリだ。

 ロロディーヌはフィナプルスを見上げつつ、俺の隣で足を止めた。

 兜状態のアドゥムブラリは飾りに赤い色が増えて点滅している。


 アドゥムブラリは魔力を吸収して強くなったか。

 黒虎のような姿になっているロロディーヌは、


「ンン、にゃお~」


 フィナプルスに挨拶しつつ、尻尾で俺の背中を押してきた。


「相棒とアドゥムブラリ。背後の仮面防具の兵士たちは、まだいるようだぞ」

「主と戦っている連中のほうが、面白そうだからな」

「にゃご」

「あ、あの方々は」

「トトリーナ花鳥の……」


 女性エルフの大魔術師とミニドラゴンを使役している大魔術師が俺たちに気付いた。

 老人の大魔術師ダルケル・ロケロンアと同様に、中立か?

 シオン側かも知れない。


 女性エルフの大魔術師は、俺を見ながらも背に隠した何かからシオンに向けて透明な魔力を送っていた。


 シオンに回復魔法を掛けている?

 

 すると、


「ほぅ~、インテリジェンスアイテムを被る魔獣とは、珍しい! ふぉふぉ――」


 そう発言したのは、青白いローブを着ている老人の大魔術師。

 頭上と後方に小さい籠を無数に浮かばせている。

 小さい籠には、鳥やミニドラゴンが入っていた。

 

 テイマー系か?

 

 その老人は、右や左へ転移を繰り返しつつ徐々に近付いてくる。

 更に、その後方にいた大魔術師ダルケル・ロケロンアも転移を始めた。

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