七百三十三話 烈戒の浮遊岩


 キスした本人のカットマギーは急に照れたような面を浮かべて、


「あ、い、今のキスは違う……違うの」

「違う? キスはキスだぞ」

「そ、そうだけど……あまりわたしの顔を見ないで……」


 そうボソボソと小声で語るカットマギー。

 杖に体重をかけて蹌踉けながら俺から離れた。


「さて、キスももらったことだし、外に出るぞ。ユイ、カットマギー、ビロユアン。カボルを見ててくれ」

「了解」

「はい」

「ケケケ、上界の街も広いからねぇ。迷子にならないように」

「目当ての浮遊石に向かう際は迷うかも知れないが、相棒は嗅覚が鋭い。ま、大丈夫だろ」

「にゃお~」


 元気に返事をする黒虎ロロディーヌ。

 しかし、嗅覚が鋭いからこそ食い物の匂いに釣られるし、遊びも好きだからなぁ。


 そう考えながら笑顔の皆とアイコンタクト。

 そして、ユイに向けて、

 

「ユイ、魔塔ゲルハットの確認と買い物の時は合流しよう。待ち合わせと魔人ソルフェナトスの詳細は血文字で」

「分かった。じゃ、ビロユアンとカットマギー。この辺りの縄張りを説明するとして、幹部のトロコンたちのことも紹介するから」

「はい」

「ユイさん、よろしく頼みます」

「うん。あ、ビロユアン、そこの机にある小さい地図を持ってきて。カットマギーはその杖でちゃんと歩けるの?」

「少々お待ちを、ユイ様」

「ケケケ、ちゃんと歩けるさ」


 カットマギーの笑い方にはあまり変化がないようだ。


「エヴァ、烈戒の浮遊岩まで道案内を頼む」

「ん、分かった」

「ロロも外に行こう」


 相棒とアイコンタクト――。


「にゃお~」


 相棒は先に宿り月から出た。

 すると、階段付近からシウが現れる。


「シュウヤ兄ちゃん!」

「よう、外が騒がしかったか」

「うん。変な声と太鼓のような音が響いたの。今も揺れている? ロロちゃんの大きな声も響いているし。あ、また地震も起きた。さっきもあるじ! あるじ! って、野太い声が連続して響いてきたから驚いた! すごく面白い声だったんだぁ。あ、ちながみみとの会議は終わったの?」

「戦いとなったが勝利した」

「……」


 シウは眉間に皺を寄せて顔が強張った。

 あ、しまった。


 俺はシウに駆け寄って、


「下界のペグワースたちは大丈夫だ」

「ほんとう?」

「あぁ、まだペレランドラの名を一切出していないし、襲われるリスクは低い。それにペレランドラは俺と同じ一族となって強くなった。そして、メチャクチャ強いクレインも傍にいる。リツさんもナミさんも強いほうだろう。ゼッファとキトラもかなりの強者。ペグワースたちも安心して仕事をこなせるだろう」

「あ、あの大柄獣人さん! 楽器のような鈍器はすごかった!」

「おう、安心したか?」

「うん!」


 笑顔のシウは可愛い。

 と、シウは玄関のほうを見る。


 腰にぶら下げた鑿が揺れていた。


「ロロちゃんは外に出て騒いでいる? あ、まさか……」

「心配性だな。外は味方だよ。俺たちは急ぎで、とある浮遊岩に向かう」

「そっかぁ。外の変な声は味方かぁ。今も悲鳴のような声が聞こえるけど……うん、分かった。その、とある浮遊岩には、【天凛の月】のおしごとで向かうの?」

「そうだ。【血長耳】の世話人ガルファに頼まれた。烈戒の浮遊岩で魔界セブドラの諸侯と繋がりがありそうな魔人が俺を待っているらしい」

「え、魔人……魔族の中には超怖い存在がいるって聞いたことある! そんな魔人と戦うの?」


 シウは唾を飲み込む。


「超怖い存在が、わざわざ俺を呼ぶってことだから交渉っぽい。ま、戦うなら戦うが」

「……シュウヤ兄ちゃん、怖い顔」

「すまん、俺は槍使いだ。風槍流に自負がある。強者とサシで勝負するのは好きなんだ」

「うん。でも、同時に優しいってことも知ってるよ。あ、シュウヤ兄ちゃん。とうぎしゃでもあるの?」

「闘技者か。実はペルネーテの武術連盟で登録済み。神王位二百三十位から開始。と、ネモ会長が喋っていたことは覚えている。んだが、ペルネーテで登録しといてなんだが、そのペルネーテを含めた各地にある闘技場に入ったことはない。そんな気まぐれ野郎が俺だ」

「そうなんだ! 強者なのに、いがい~。親方はね、神王位戦を巡る戦いは〝戦神ヴァイス様もみとめている〟。殺し合う凄惨さもあるが真剣に強さを競う戦いでもあるって、力説してた。一種の〝聖戦〟って親方から何度も聞いた。神々の像を造る時のアイディアになるって」


 戦神教の教えも色々とありそうだ。


「像造りの職人だからな、実際に凄腕たちの戦いは参考になるだろう」


 が、幼いシウに凄惨な現場は見せちゃ……。

 否、この考えも一方的か。幼いからと、一方的に上から目線で倫理を決めつけて、くだらない規制とか、大人の自己満足でしかない。

 

 オブラートに包んだところで現実は現実なんだからな、真実は一つ。


 シウは不思議そうに俺の表情を見てきた。

 すると、そのシウの視線が、俺の背後のユイたちへと向かう。


「あれ、知らない人たちがいる! 新しい人たち?」

「そうだ。一人は捕虜、否、交渉相手で名はカボル。隻眼の男の名はビロユアンで猫好きの元空戦魔導師。もう一人の片手片足の女の名はカットマギー。残りの二人は仲間。先ほど【天凛の月】に加入したばかりで、新しい幹部だ」

「へぇー、くうせんまどうしってすごい!! 空魔法士たいの隊長よりつよい存在って聞いたことある! 衣装も他と違うとか、すごおお」


 この反応だと、空戦魔導師は塔烈中立都市セナアプアでは憧れ的な存在か。


「おう。ビロユアンは猫を三匹飼っているらしい。魔猫って種類の猫は二匹とか聞いた」

「ふふ。シュウヤ兄ちゃんみたいなんだ。わたしも猫ちゃん大好きだから嬉しい~。あ、ここの裏庭と階段の下に猫ちゃんたちがいるの! 昨日の夜、うるさかったけど、窓際に猫ちゃんが来て、あけて、あけて、って窓を掻いてたんだ~」

「それは知らなかった。野良猫集団か街の飼い猫集団でもいるのかな」


 と、ユイのほうを見る。

 ユイは三人と話をしながら頷いている。

 ビロユアンは興味深そうに厨房がある裏のほうを見る。

 

 猫の餌チェックか?

 同じ猫好きとしてビロユアンとは気が合いそうだ。


 カボルとカットマギーは興味はなさげだ。

 シウはユイたちの下に走る。

 ビロユアンの近くに移動しているから、気になるようだな。


 エヴァとレベッカとヴィーネにキサラは、そのシウを見て、


「シウちゃん、またね」

「ん、おしごとしてくる」

「シウちゃん。一人では外には出ないようにしてください」

「シウ。この【天凛の月】の宿屋兼酒場を頼む」


 ヴィーネはマジ声で語る。


「わ、分かった!」


 シウは敬礼。

 真面目になって応えている姿が可愛い。

 俺たちはそのシウを見てから外に出た。


 ――え?


「ンンン、にゃお~、にゃおおお~」


 大きく鳴いた相棒が出迎えた。

 しかも、見た目が巨大な黒猫状態――。


 ――驚いた。

 巨大黒猫ロロさんは、香箱スタイルでジッと俺たちを見やる。

 トロコンを含めて、【天凛の月】の兵士たちは皆驚いて平伏状態。


 拝んでいる者もいた。

 騒ぎの原因はコレか。


「わわわわわ、ロロちゃんが!」

「な、なんと、巨大な可愛い猫!」

「ん……ちゅ、すごい」

「は、はい、なんということでしょう」


 キサラの反応から、とある有名なリフォーム番組を思い出した。

 しかも、腹の辺りでタルナタムが埋もれていた。

 

 四腕がバタバタ動いている。

 武器も落としているし……。


「相棒、離してやれ」

「にゃ~」


 エジプト座りに移行する――。

 巨大黒猫ロロから風が起きた。

 巨大黒猫ロロは胴体から翼を生やす――。


 巨大な黒猫から翼が出る姿は新しい……。


「ロロちゃん、可愛い~」

「主、しんじゅー、強い!」


 と、タルナタムはそう叫びつつ武器を回収するや近寄ってきた。

 三腕の武器を振り回しながらだ。

 六つの眼球と連動したような動きの武器の扱いは一流。

 掌から八支剣は出していないが、三剣、四剣の名が付いた魔界の剣法があるっぽい。


 そんなタルナタムに向けて、


「タルナタム、魔人が待つ烈戒の浮遊岩へと向かうぞ」

「ワカッタ! 戦ウナラ、スグニ、ヨベ!」


 タルナタムは瞬時に縮小。

 ゴドローン・シャックルズのネックレスになった。

 そのゴドローン・シャックルズを掴む。

 

 戦闘型デバイスの真上に浮かぶゴドローン・シャックルズ。

 タルナタムが装備していた武器類に新しく手に入れた魔法袋の名も浮かぶ。


『ふふ、タルナタムはアイテムに戻れるとは、素晴らしい!』

『そうだな、戦いの幅が広がる』

『はい。そして、可愛い巨大神猫ちゃんも驚きですが、素敵ですね』

『あぁ、相棒らしくて可愛い』


 早速、その神猫ロロディーヌに皆は乗り込む。

 レベッカとエヴァは黒毛の布団にダイブ。

 俺もダイブしたった。

 

 やっこい……。

 ふわふわした黒毛の感触がいい!

 柔軟剤とはまた違う、黒毛と地肌から相棒のいい匂いが……。

 グットスメルともまた違う。

 へそ天はどこだぁって気分だ。

 そんな柔らかい黒毛布団から離れて、触手手綱を掴みつつ、エヴァと名残惜しいがロロディーヌの黒毛から離れた。


「エヴァ、指示を頼む」

「ん、繁華街エセルの左。上界の左のほう――」

「にゃお~」


 相棒はエヴァの腕が差す方向を進む。

 触手手綱の先端から伸びた触手が俺の首に付着――<神獣止水・翔>で感覚を共有。

 

 飛翔速度を上げた。


 しかし、魔人ソルフェナトスが現れた烈戒の浮遊岩とはどんな浮遊岩なんだろう。


 そう考えながら神猫ロロディーヌの操縦を意識。

 すると、『あめだま』『くもくも』『にくにく』『おいしい』『あめんぼ』『あめだま』『にくにく』『かたい』『ぽっぽ』『たべる』『にゅーる』


 俺の浮遊岩の疑問をロロディーヌらしい思考で返してくれた。


 食い物だと思うが『にゅーる』ってなんだ。


「ンン――」


 喉声で返事をしてくる相棒。

 

 その相棒は幾つもの通りの真上を駆け抜けるように飛翔――。

 すると、斜め左上空から魔素の反応。


 空魔法士隊の一隊か?

 ――敵か?

 まさかな、リゼッチドロウズボウルの選手たちかも知れない。

 

 ――が、いきなり、両手に持った杖の先端から閃光。 


 マジか――。

 

 魔力の弾丸を放ってきた。

 魔槍杖バルドークを右手に召喚。

 

「敵だ――」

 

 マズルフラッシュ的な光が綺麗だったが――。

 いきなりの先制攻撃か。

 旋回して魔弾を避けた相棒――。

 俺たちに飛来した魔弾は、下の住宅街、店、通りの一部と衝突。

 

 ――爆発していた。


 相棒の速度に追いついてくる空魔法士隊の一隊は速い。

 背後から追い掛けてくる――。

 即座に<鎖>。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》――を放つ。


 先頭の空魔法士らしき者と背後の空魔法士らしき者の体を<鎖>が貫き倒す。


 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》は右後方の空魔法士らしき者に向かうが、その空魔法士らしき者の目の前で魔力の塵となった。

 

 その空魔法士らしき者に《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》は吸収された。


「迎撃します」

「はい――」


 キサラは飛翔。

 ヴィーネは翡翠の蛇弓バジュラを持ちつつ相棒の背中を走った。

 

 そして、レベッカは少し前に出ながら、


「なんでここで、まったく――」

「ん、わたしは前にいるから」

「うん」


 エヴァに返事をしつつ蒼炎弾を<投擲>。

 空を直進する蒼炎弾は空魔法士らしき者には当たらず。

 

 斜め下には一般の方々が多いからな――。

 誤爆を考えると難しいだろう。


 すると、相棒の背中の端に移動したヴィーネ。

 翡翠の蛇弓バジュラを構える。


 その翡翠の蛇弓バジュラから一瞬で光線の弦と光線の矢が出現。


 弓道で喩えるならば三重十文字が極まった構えだ。

 ヴィーネは光線の矢を幾つも射出する。

 魔弾を放つことに夢中だった空魔法士らしき者は光線の矢を防げず。

 

 ――頭部と胴体に正確無比な光線の矢が突き刺さった。

 空魔法士らしき者は仰け反って跨いでいた杖ごと後方回転――。

 

 背後の空魔法士らしき者と衝突。

 同時に荒鷹ヒューイがエヴァから離れて、


「キュゥ~」


 ヴィーネの背中に付着。

 瞬く間に<荒鷹ノ空具>の翼となった。

 

 翼を得たヴィーネは飛翔しつつキサラの後方に回る。

 カッコいい機動だ。

 

 ダモアヌンの魔槍に跨がっていたキサラ。

 両手から鴉を発生させるや鴉の群れを繰り出した。

 扇状から半円の空域が黒く染まる勢いで増殖した鴉の群れ――。


 <血魔力>が混じる鴉の群れ――。

 数十人の空魔法士らしき者たちの視界を一度に奪う。

 

 それらの視界を奪われた者たちの体に光線の矢が突き刺さった。


「キサラ、ナイスフォローだ!」


 俺も両手から<鎖>を放つ。

 一気に空魔法士らしき者たちを貫いて倒しまくった。

 

「ンンン――」


 相棒が野太い喉声を響かせる。


『あいぼう』『かける』『はやく』『とぶ』『う゛ぃーね』『きさら』


 俺は頷いて、


「皆、ロロの背中に戻ってこい。相棒は速度を出す――」

「「はい」」


 キサラとヴィーネが相棒の背中に着地した瞬間、


「にゃごぉぉ」


 と鳴いて、グンッと速度を上げたロロディーヌ。

 速い――頭部の幅が縦と横に少し伸びた。

 耳の形も少し変化。

 ここからだと分かり難いが黒豹っぽい先鋭とした頭部に変化させたかな。

 

 その神獣ロロディーヌは加速。

 しかし、数人の空魔法士らしき者はその加速についてきた。

 手綱の握りに力を込めつつ皆とアイコンタクト。

 

 前を向く。

 魔塔の群れと浮遊岩が行き交うところが見えた。


『相棒、あの障害物を利用しよう――』

「ンン――」

「――よーし、カーチェイスもとい、神獣チェイスと行こうか!」

「にゃごぉ」


 魔塔の群れの間を突き進む相棒――。

 大小様々な浮遊岩が上下左右に並びながら順繰りに俺たちに迫る。


 樹木が生えて水飛沫を発している浮遊岩が多い。

 天然の空島的な浮遊岩だ――。

 

 怖いが、急加速した相棒は浮遊岩と浮遊岩の間を上手くすり抜けて、魔塔の表面スレスレを飛翔しつつ急上昇――背後の空魔法士らしき者たちは、相棒が避けた浮遊岩と魔塔に衝突――。


 爆発するように追ってきた連中は散った。


 ――よっしゃ。


「やった! ロロちゃんカッコいい!」

「はい、見事な飛行です!」


 あっさりと撒いた。

 神獣ロロディーヌは速度を落として、頭部を上向かせる。

 俺たちも傾いたが、触手が足に絡んでいるから転けることはない。


「――にゃごおぉぉ~」


 誇らし気に鳴く相棒だ。

 そうして、一つの長細い筒のような浮遊岩に着地した。

 ここからの景色が……これまた絶景――。


「綺麗……」

「あぁ」

「ん、浮遊岩の下に生えている樹は不思議、落ちない」


 浮遊岩が一つの惑星で次元軸からずれているんだろうか。

 重力が異常に軽いとか?

 エセル界では荷物を軽くするアイテムが手に入ることは知っている。


 すると、無数の浮遊岩に生えていた樹の群れから、焦げ茶色の葉と黄色の葉が大量に舞い出した。


 季節は夏の陽夏の終盤。

 もうじき秋の、枯れ秋の季節。


 季語は冬だが、まさに紅葉散る。


 陽の明かりで反射する葉が美しい。

 そんな紅葉を散らしつつ進む飛行艇も綺麗だ。

 飛行船とはまた違う、近未来的な乗り物。


 しかし、先ほどの連中は……。


「今の追跡してきた連中はネドー派の残党だろうか」

「制服は空魔法士隊だと思いますが……」

「ロロちゃんを知っているような狙い方」

「だとしたらカリィの仲間が持つという<千里眼>的な能力を持つ者が敵側に?」

「ありえるが、神獣ロロディーヌの飛翔は目立つからな。今回は神猫バージョンだったが」

「……うん。やっぱり残党の線が濃厚かな。評議員たちはわたしたちが知る以上に多い」

「そうですね。そして、闇ギルドに入ることもしない空魔法士たち……ただの盗賊の愚連隊と変わらない」

「ん、空を飛べるから厄介……」

「そういう半端な愚連隊連中に見せた偽旗作戦とか? ま、可能性は無限大だ。気にしても仕方ない。先を急ごう――」

「うん、そうね。シュウヤの影響で色々と考えるようになっちゃった」

「おぃおぃ~、俺のせいにするなよ」


 と、笑っているレベッカに半笑いで返す。


「ふふ、うん」

「ん、皆、行こう! ロロちゃん、あの飛行船の先にある赤い魔塔の先を進んで――」

「にゃおお~」


 神獣ロロは加速。

 赤い魔塔を一瞬で通り過ぎた。


「次は、右端の樹の右!」

「ンン――」


 エヴァの腕が差す右の方向に曲がる。


「きゃ」

「ひぃ」


 キサラが珍しく悲鳴。

 ヴィーネは俺に抱きつく。

 俺の片腕が、そのヴィーネのおっぱいさんの谷間にフィット。

 ――たまらん! 

 柔ら柔らのおっぱい王国の谷間には!

 いったい、何が、棲む! おっぱい探検隊出発!


 ――が、探検隊は途中で断念。

 あえて腕を外し、直ぐにその左腕をヴィーネの腰に回した。


「あ――」


 ヴィーネを抱きしめた。


「……ご主人様……」


 ヴィーネは俺の鎖骨辺りにキス。

 より体を俺に密着させてきた。


 ヴィーネのスタイルの良さがよく分かる。

 しかし、なんか震動が。

 ヴィーネの乳房がこれでもかという勢いで揺蕩っている。


「……んぁん」


 震動し揺れるおっぱいに心を奪われた。

 感じているヴィーネの表情も魅力的。

 しかし、なぜ? おっぱいが揺れているんだ。

 ケシカランさせている存在を注視。

 そのおっぱいを揺らしているパワーの源は……。

 白シャツの表面を漂う魔法のケープの半透明な魔力の波だった。

 

 魔力の波と密着したおっぱいは今も揺れ続けている。

 しかし、揺れ方がレアだ。

 超音波震動を起こしている半透明のウォーターベッドがヴィーネのおっぱいを包んでいるような印象。

 

 内実は魔法防御能力の一部だと思うが。

 素晴らしい芸当を備えた魔法のケープということだ。

 ……ハルホンク偉い。


「ングゥィィ」


 と俺の心の声に答えるエロな肩の竜頭装甲ハルホンク

 ヴィーネは少し驚いて俺の右肩を凝視していた。 

 

 が、構わないのかヴィーネは優しいキスを寄越す。

 唇の襞は柔らかい。労るように上唇を両唇で挟むと、ヴィーネは舌を出して俺の下唇を舐めてくる。

 そこから激しいキスに移行かな、と思いきや、ヴィーネは吐息を漏らしつつ唇を離した――意外だ。

 いつもは激しいぐらい求めてくるんだが……ヴィーネは微笑む。

 俺の唇を凝視しつつ上目遣いを寄越した。蠱惑的な瞳だ……。

 そして、優し気な表情を浮かべる。


「ご主人様……心が温まります」


 俺も心が温まった。


「――ちょ、なにえっちなことしてんの!」

 

 レベッカが正面から抱きついてきた。

 右腕でレベッカの腕を絡めて立ち関節技、否――素早く腕を絡めつつレベッカの細い体を抱く。

「――あぅ」

 レベッカの腰をギュッとした。

 細い腰で柔らかいし、匂いも好きだ。

「もう! でも嬉しい……」

 怒ったふりをして喜ぶレベッカは脇に顔を寄せて鼻で白シャツごと俺の胸を刺激する。レベッカのほっぺの冷たさを脇に感じたが、人差し指に魔力を込めて「――アンッ」と可愛い喘ぎ声を響かせたように、蕾のような乳首の先端を人差し指でツンと押したことが気持ち良かったようだ。再び、その先っぽの釦を指で弾く。ついでにおっぱい研究会の百三十五手の秘孔を実行――乳房を膨らませるようにマッサージを入念に行いながら蕾をツンツクしていく。


「アゥ、アン、エロ、な、あ、また、エ、ッチ――バカ、アンッ、だけど許す!」

 

 レベッカは俺の腕を払うことをせずに――。

 俺の背中に腕を回して自らの額を胸に押し当てながら、小さい突起した蕾を俺の下腹部辺りに押し付けてくる。股間が反応した瞬間に――。

 神獣ロロディーヌがレベッカのような細く美しい樹を曲がった。

 左右に建物が並ぶ通りを進む――。


「ん、そこの七重浮遊岩を左に曲がったら真上に烈戒の浮遊岩があるはず。周囲がボロボロで攻撃されたあとが激しいから直ぐに分かる。あと、右側に崩れた小さい魔塔が三つあるところ――」


 エヴァが指示を出すと――。


「ンン――」


 相棒は加速する。直ぐに分かった。

 あれが烈戒の浮遊岩か。大きな浮遊岩だが、荒れ果てた荒野。その荒野に胡坐で鎮座中の存在を視認。魔人も俺たちを視認した。マントのような装束を着ている。長細い右手と左手で触れる範囲の地面に、魔槍、魔剣などの武器類が突き刺さっていた。魔察眼で確認すると――何かの能力か魔線でそれらが魔人と繋がっていると分かる。鎧はマントで見えないが靴は確認できた。アーゼンのブーツと少し似た装備。

 伝説レジェンド級以上は確実か。

 甲の部分は黒光りした鋼の刃が重なっていた。

 蹴り技に注意って感じだが、拳はナックル状の骨刃が拳の真上に浮いている。

 周囲の凹凸は階段か? 遺跡があった名残か。

 激しい戦いが起きた痕も残っているが、自然なままのなだらかな丘とその丘の手前に魔機械風のスイッチが嵌まる石版が積まれたような縦長の址もある。坂の底のほうの暗がりに光を帯びた石板が微かに見えた。

 周囲にも旋帯文石と似た大小様々な石版がある。すると、魔人が、


「おい! 巨大な獣で威嚇するつもりか? さっさと降りてこい!」


 叫ぶが先制攻撃はして来ない。話ができるタイプだ。


「皆、ここで様子見。俺が先に降りるとする」

「うん、蒼炎弾は用意しとくから」

「ん、気を付けて、武器がいっぱい」

「シュウヤ様、背後の遺跡のような出入り口は何か関係があるかも知れません」

「わたしとキサラは背後に移動して、隙あらば攻撃か遺跡の出入り口を調べますか?」

「争いたくはないが、二人は移動のみ。俺が攻撃を受けたら調べておいてくれ」

「「はい」」

「ロロ、皆を乗せたまま待機な。戦いとなったら状況を見て判断していい」

「にゃ」


 相棒の声を聞いてから飛び降りた。

 烈戒の浮遊岩に着地。


「おぉぉぉ、そ、その腰の奥義書は……」

「やっぱ魔軍夜行ノ槍業が目的か」


 腰の魔軍夜行ノ槍業が震動する。

 呼吸するような音と心臓の音が、魔軍夜行ノ槍業から響いてきた。


「そうだ! フハハハハハ、待っていたぞ……異世界を突く槍使い!!!」


 やけに嬉しそうな魔人だ。

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