七百二十九話 氣が満ちた旭日の魔塔エセルハード
巨大ムカデが増えたから警戒心が高まったのか相棒は魔力を高める。
頭部を蟲使いたちと巨大ムカデに向ける。
大きいモンスターなだけに神獣ロロディーヌも脅威に感じたか。
「ンン――」
喉を鳴らすや樹木と触手が絡むカットマギーと隻眼のビロユアンを俺の背後に寄越す――。
そして、相棒は中型の黒豹に姿を縮小させつつ飛来。
「にゃご~」
と鳴いて俺を守るように前に出た。
その
「ガルルルゥ」
威嚇するように喉を鳴らす。
四肢に力が入り硬い床に爪が突き刺さっていた。
同時に長い尻尾が俺の足に絡まると撫でてきた。
そんな尻尾が可愛い相棒から、俺を労る心が伝わってくる。
『ありがとな』と、心の中で返事。
すると、身構えた蟲使いたちの背後から、
「黒い竜が黒豹に!!」
黒装束を着た連中が叫び出す。
更に<破邪霊樹ノ尾>で雁字搦めとなったカットマギーの姿を見るや、
「あれはカットマギーさんなのか!?」
「捕らわれている!?」
「え……狂言の魔剣師を……」
「狂獣の英雄ハルセルグを凌ぐと言われた魔狂源言ノ勾玉を有したカットマギー様が、どういうことだ」
「狂剣タークマリア様……お導きを……」
「おい、待て、あの六眼で四腕の魔人の中に狂怒ノ霊魔炎の魔力があるぞ……」
「では、あの六眼と四腕の魔人は、狂眼タルナタム様の名残?」
「え? 狂剣タークマリア様の眷属様が、どういう……」
「仮面がないことに加えて姿も小さいが、確かに我ら狂言教の秘宝である狂怒ノ霊魔炎の魔力を持つ……」
「あ、カットマギーさんに魔狂源言ノ勾玉の魔力がない!!!」
「「「えええ」」」
「……不可解すぎる」
「どちらにせよ、あの槍使いに、狂言教の十三長老の一人が捕らわれたということだ」
「……【天凛の月】にはダモアヌンの魔女も付いている」
「幻の四天魔女か……複数の神々を信奉する黒魔女教団の名は聞いたことがあるが……」
「【天凛の月】の盟主は吸血鬼系の能力者であると同時に神界と魔界の勢力とも通じているということだろう」
「あ、正義の評議宿繋がりか? ならば血長耳から仕事を引き継いだ【義遊暗行師会】のメンバーも、あの中にいるということか? もしや【天凛の月】の盟主の槍使いは、正義の神シャファとも通じている?」
「……辻褄が合う。【天凛の月】の前身の【月の残骸】には地下オークションで有名な八頭輝の名目があった」
「……【八巨星】と違い形骸化しているが、その【八頭輝】の名が付く闇ギルド【シャファの雷】も【天凛の月】と【白鯨の血長耳】と関わりがある?」
「当然あるだろう。【星の集い】とも同盟が続いているんだ」
「……【血月海星連盟】の名は聞いたことがある。秘密裏に【シャファの雷】が加わっていたとでも?」
「ありえる。ペントハウス内にいるんだろう」
「闇ギルド以外の神界側の勢力だとしたら、戦神教も動いているかも知れない」
「闇ギルドどころじゃねぇ――」
「逃げろ――」
黒装束を着た兵士たちはそんなことを語ると逃げ始めた。
闇ギルドの【シャファの雷】の盟主とは地下オークションの前後に会ったことはある。
が、セナアプアの血長耳の緊急幹部会には、いなかったはず。
正義の神シャファ様とはたしかに通じているが……。
神殿に行ったし、正義のリュートをもらった。
そして、シャファの戦巫女のイヴァンカは元気にしているかな。
黒髪の空魔法士隊のメンバーたちは慌てふためく。
神獣ロロディーヌと俺を見れば当然か。
元日本人っぽい面が多い空魔法士隊の面々。
血長耳の兵士にペントハウス、俺たちを睨む視線には憎しみが隠っている。
その空魔法士たちも、黒装束の者と同様に怯えた表情を浮かべると身を翻す。
背中を見せて逃げ始めた。
そんな逃げる敵を追撃するキサラ。
すると、宙空にいたヘルメが《
逃げる敵ではなく、蟲使いの操る巨大ムカデの頭部に《
先ほどは甲羅に弾かれた《
巨大ムカデの頭部の周辺には魔法陣が無数に浮かんで、点滅しては消滅。
逃げずに俺たちと対峙する四人の蟲使いも反応。
ヘルメに向けてシックル刃を飛ばしつつ――。
己の防御を優先するように小さい蟲を操作して防御陣を敷いた。
一方、ヘルメの《
「ジュゥゥゥゥ」
と不気味な音を立てつつ、口から泡を無数に出した。
ヘルメに向かう無数の泡。
毒の霧とは違うようだが匂いは強烈そう。
ヘルメは素早い機動で泡から逃げる。
同時に《
その《
泡を四方から閉じ込めた。
《
泡を封じ込めることに成功。
凄い魔法技術。
ヘルメは飛翔しながら《
巨大ムカデの頭部と衝突を繰り返す無数の《
《
巨大ムカデの頭部は一瞬で縮小したように削られる。
と、頭部を失い、腹の一部と多脚も《
ヘルメは群青色と蒼色と黒色に輝く魔力を全身から放ちつつ連射していた《
瞬く間に右腕と左腕の形を――。
魔槍の穂先の形に変えた。
ヘルメはその魔槍を掲げるポーズをとる。
と、パッと人型から蛹に変形。
蛹というか槍か。
<
<闇水雹累波>。
<
とは違う大技か?
槍状のヘルメは巨大ムカデの頭部に向けて突進――。
俺の<血鎖の饗宴>を使った血鎖の一本槍みたいだ。
頭部を失った巨大ムカデは反応するが鈍い――。
一つの槍と化したヘルメは磁石に引き寄せられるように――巨大ムカデと衝突するや――その巨大ムカデの胴体を派手にぶち抜いた。
上の体節の多くを失った巨大ムカデはゆらりゆらりと揺れた。
ぶち抜かれた傷から人族の内臓らしき物が散った。
続けて、その傷から露出していた内臓が発火し燃焼。
下半身の内臓は小規模な爆発を起こす。
続いて、ガスが引火でもしたように内臓が大爆発して巨大ムカデは散った。
空間が揺らぐほどの無数の魂的な大量の魔素が大気に混じる。
その背後の宙空で元の姿に戻っていたヘルメ。
――ヘルメ立ちを敢行。
響めいた血長耳の兵士たちから拍手が湧き起こる。
感動より戦慄する者もいた。
皆の気持ちは分かる。
可憐な人型のヘルメ。
柔よく剛を制するを超えた人型のヘルメが、巨大な怪物を潰す圧殺劇だったからな。
が、蟲使いたちは怒る。
「バルミュグ様から頂いた大蠱毒ソーグネスを!」
「我らの面目が丸つぶれだ」
「おめおめと下界に帰れぬ――」
「あぁ、レグハルス、ガーミン! 狙うぞ――」
「「おう」」
四人の蟲使いは、そんなヘルメにシックル刃や蟲の魔刃を飛ばす。
ヘルメは蒼い色の繭を両手に作ると、自らに飛来するシックル刃と蟲が蠢く魔刃を凝視。
そして、自らの両腕を斜め下に振るう――。
両手の蒼い色の繭が煌めいた。
そのヘルメの手の繭から大量の《
――《
蟲の魔刃も破壊――。
逆に蟲使いたちを急襲する《
蟲使いたちは巨大ムカデの背後に隠れた。
当然、《
ヘルメの強力な《
ヘルメはカットマギーから影響を受けたか。
一見、魔刃は単純でシンプルだが、魔法も奥が深いと認識したっぽいな。
その《
繭の中身は電子殻的。
陽子と電子と中性子っぽい<珠瑠の花>の紐らしきモノ、異常に細い魔線的なモノが、目まぐるしく回転している。
そんな手が繭と化したヘルメはくびれた腰を活かすように――。
宙空で横回転しつつガーデン内を見渡す――。
両手の繭を元に戻しては、俺たちの近くに急降下――。
すると、巨大ムカデの背後に隠れていた蟲使いの一人が、
「調子に乗るな、精霊めが!」
そう叫ぶとヘルメを追うように突進してきた。
俺は右手に魔槍杖バルドークを召喚。
皆に合図を示すように全身から<血魔力>を放出。
同時に<水月血闘法>を強めつつ<生活魔法>で周囲に水を散らす。
<水月血闘法・鴉読>を意識した。
俺の魔力のうねりを感知した相棒。
呼応するように魔力を外に放出しつつ振り返る。
その
黒毛がふさふさしている長い耳はやや後ろに反っている。
紅色の虹彩と、縦に細まった黒色の瞳。
野生の黒豹の瞳のようで鋭さもあるが、無垢さもあるから可愛い。
桃色が混じった黒鼻は黒豹的で白髭は少し下がり気味。
口は閉じたままだ。
その相棒から、
『あいぼう、てき、たおそう』
と心の声が聞こえたような気がした。
――俺は相棒に向けて頷く。
相棒も「ンン」と微かに喉を鳴らす。
横歩きしつつ頭部の向きを蟲使いたちに戻した。
「皆、そこの捕虜を頼む」
レベッカとエヴァはタルナタムの背後だ。
「ん、タルちゃんと防御重視!」
「主、我ハ、皆ヲ、マモル!」
「がんばって! シュウヤとロロちゃん! きしょいの倒せ!」
「ンン――」
相棒と一緒に前傾姿勢で駆けた。
ヘルメを攻撃しようと前進していた蟲使いは、俺と相棒の速度を見て、足を停めた。
足からムカデの脚的な気色悪い蟲を大量に出す。
床から不可解な煙も立つ。
蟲使いは枯れ枝のような右腕の掌から蟲が集結した長い歪な刃を出した。
その蟲の歪な刃と相棒の触手骨剣が衝突――。
蟲使いは嗤うと細かな蟲を飛ばしつつ右腕の歪な刃の角度を変える。
蟲の刃の表面を触手骨剣の刃が流れた。
剣術が巧みとは予想外――。
そして、蟲使いは激臭い。
構わず、火花が散る瞬間に――。
槍圏内から<刺突>を繰り出した。
ローブの中身が気になる蟲使いは――。
左手から蟲の形をした魔力を出す――。
その掌で水と<血魔力>を纏う魔槍杖バルドークの<刺突>を防いできた。
どんなスキルだろうと防ぐだろうことは予測済み。
<柔鬼紅刃>――を繰り出した。
血に輝く水鴉の水蒸気を発した嵐雲の穂先が蠢く――。
穂先の鋼の一部が剥かれるように解けつつ紅斧刃に変形するや蟲使いの右足へと向かう。
新・紅斧刃と呼ぶべき<柔鬼紅刃>に反応できない蟲使い――。
右足を隠すローブの一部ごと膝頭と思われる部位を紅斧刃が真っ二つ。
蒸発した音が迸る。
俺の光魔ルシヴァルの血が効く証拠か。
「――ぐぁ」
と短い悲鳴を上げる蟲使い。
魔力を発して背後に跳ぶ。
ローブから覗かせる頭部は闇の魔力と蟲が集結したようなモノ。
闇の眷属だと分かるが、蟲とガスの生命体のような奴だ。
すると、相棒が、
「にゃごあぁぁ」
炎を吐く。
炎は一直線にその蟲使いに向かう。
退いた蟲使いは、懐からムカデが繋がる歪な内臓を出した。
その扇状に変形した内臓の盾で、相棒の炎を防ごうとした。
が、その臭そうな内臓の盾をレイピア的な
内臓の盾は一瞬で蒸発して消える。
そのまま相棒のレイピア的な炎は蟲使いの頭部を突き抜けた。
背後の巨大ムカデの下半身をも突き抜ける――ガーデン内の遺物と壁を溶かし――黒装束を着た兵士の胴体をも貫いて夜空に赤い光線的な模様を作るや、雲さえも突き抜けた。
その雲は赤く変色すると蒸発するように霧散した。
細長い炎だが、夜明けの光に見えるほどの凄まじい
すると、その頭部が消えた蟲使いの体は破裂するように散った。
――よっしゃ。
蟲使いの一人を倒した。
そんな俺たちに、無傷の巨大ムカデの攻撃が迫った。
「相棒――」
「ンン」
俺と相棒は左右に分かれた。
俺と相棒がいた床に巨大ムカデが放った大きい骨刃が衝突。
避けた俺たちに追撃の骨刃が飛来――。
構わず床を強く蹴って骨刃を掻い潜りつつ巨大ムカデと蟲使いたちに突進した。
無傷な巨大ムカデは頭部を寄せてくる――。
口から鮫の歯牙的なモノを出してきた。
これまた異臭が激しい――。
俺を喰おうってか――。
相棒は異臭を嫌って離れた。
そんな巨大ムカデの頭部に<
――衝撃波を頭部にぶちかました。
――巨大ムカデは頭部が仰け反る。
「グァァン」
鈍い音は、痛がる声か?
刹那――屈むような体勢で巨大ムカデの腹に滑り込む――。
そこから<水月暗穿>を実行――。
アーゼンのブーツが巨大ムカデの腹に深くめり込んだ。
「ぐぐぐ――」
と歪な声を発した巨大ムカデは持ち上がった。
「「おぉぉ」」
皆の歓声だ。
小さい俺が巨大怪物を蹴り上げたことに驚いたようだ。
――そこから弧を描くような水月連携斬りを狙う。
下から真上に振り上げた魔槍杖バルドークの紅斧刃が――。
巨大ムカデの腹と多脚を掻っ捌きつつ頭部に向かった――。
<柔鬼紅刃>の効果が切れる。
嵐雲の穂先となったところで――。
魔槍杖バルドークを引き、昇竜をイメージしつつ<導想魔手>を蹴った。
そのまま魔槍杖バルドークを上げつつ真上に向けて<血穿>――。
血を纏う嵐雲の穂先が巨大ムカデの頭部をぶち抜いた。
俺は<血穿>の反動を利用し下に回転。
逆さまの視界に、上部分が両断されて二手に分かれた巨大ムカデの肉塊が見える。
その燃えた肉塊に向けて<湖月魔蹴>を繰り出して、吹き飛ばしつつ方向転換――。
巨大ムカデの下部分の多脚はまだ動いている。
直ぐ足下に<導想魔手>を生成するやその<導想魔手>を蹴った。
巨大ムカデに向けて急降下――。
「ピュゥゥゥ」
荒鷹ヒューイの声が響く。
そのまま上空から襲撃する鷹をイメージするように<攻燕赫穿>を繰り出した。
加速した魔槍杖バルドークの穂先から燕の形をした赫く火炎魔力が迸る。
二つに分かれた巨大ムカデの上部分は、火炎魔力の熱を受けて火柱となって燃えた。
そのまま両側の火の門柱の熱を感じながら<攻燕赫穿>の魔槍杖バルドークと共に下に向かう。
赫く嵐雲の穂先が巨大ムカデの下部分を貫いた。
巨大ムカデの下部分が燃焼し爆発。
穂先から出た赫く燕はムカデの残骸を燃やしつつ床と衝突した。
火の鳥的な赫く燕も大爆発。
床は振動したが、頑丈な床で大丈夫だった。
赫く燕は周囲に戦神の効果があるような威力の魔風を散らしながら飛び散った。
一気に赫く炎が着地した俺を基点に円形に拡がる。
が、魔槍杖バルドークの穂先の衝突は危ないかも知れない――。
咄嗟に魔槍杖バルドークを消去。
しかし、戦神流の炎が混じった魔風の効果か?
周囲の蟲と蟲の残骸が作り出した嫌な臭いを浄化した。
蟲使いたちは蟲を出して炎が混じる魔風を防御しようとする。
が、蟲使いのローブは焼け焦げた。
更に、蟲使いが操る細かな蟲たちも引火したように燃える。
二人の蟲使いの頭部は闇の魔力が集積している。
体は蟲が集合しているが老人の体付き。その体も燃えていった。
皆にも赫く細かな火が伴う魔風が向かっていた。
相棒は気にしていない。
が、ヘルメは《
そのヘルメが、
「閣下、お見事! では、この二人をペントハウス内に運びます――」
そう発言。
エヴァとレベッカが魔風から守っていたカットマギーとビロユアンに<珠瑠の花>の輝く紐が絡む。
「ガルファさんには【天凛の月】預かりの捕虜だと、伝えておいてくれ」
「はい」
「ケケケ、わたしを捕虜扱いするとは――」
ヘルメはカットマギーの言葉に反応したか分からないが、そのままペントハウスに運ぶ。
すると、
「――凄い、ロロちゃん!」
「――うん、カッコいい! お腹に燕の剣がある!」
興奮したエヴァとレベッカ。
視線を蟲使いたちに戻すと
黒豹系のまま姿を大きくさせていた。
残っていた巨大ムカデと蟲使いの一人を倒してくれた。
触手骨剣が赤く赫いている。
腹の黒毛辺りも赫いていた。
あの輝きは戦神の炎の効果?
よく見たら、燕の形をした炎の刃も黒毛から飛び出ていた。
それらを使ってどうやって倒したのかは見られなかったが……。
レベッカとエヴァは興奮している。
「ンン――」
そんな神獣ロロディーヌは多脚を口に咥えたまま飛翔。
ムカデの残骸と甲羅の大きい蟲を触手骨剣で突いて宙空へと運ぶ。
食べるのか空中アイスホッケーの玩具にするのか。
まだ残っている蟲使いは唖然としたまま相棒の行動を見ていた。
「……神獣」
と呟きつつ数歩後退。
恐慌していることは確実。
が、俺を見て懐から魔法書的なモノを出す。
魔法書から巨大な角を有した
腕を蟲の刃に変えた蟲使いは、
「お前たちはバルミュグ様の脅威になる、死んでもらおう」
『羅、やるぞ――』
『はい』
「<瞑道・瞑水>――」
水の衣を纏った俺は前進――。
左手に独鈷魔槍を召喚しつつ<塔魂魔突>を繰り出す。
巨大な角を有した
蟲使いは横に移動しつつ再び魔法書から今度は小金色の巨大昆虫を出す。
「次はケルヴェルの黄金魔虫だ」
「知るかよ」
武器を魔槍杖バルドークに変えつつ――。
蟲使いとケルヴェルの黄金魔虫との間合いを詰めた。
そのまま<刺突>のモーションからいきなり<無影歩>――。
「――がッ」
驚く蟲使い。
<無影歩>を解除しつつ<
ケルヴェルの黄金魔虫は俺の残像的な影に突っ込む。
「わ、消えたと思ったら、シュウヤの影分身?」
「ん、分かんないけど、カッコいい!」
そして、腰と背中から<血鎖の饗宴>を出す。
スラスター的な血鎖の推進力を活かしつつ<闇穿・流転ノ炎渦>を繰り出した。
闇の炎の渦が魔槍杖だけでなく右腕にも巻き付いて、痛みと痺れを味わったが構わない。
闇の炎の渦の力で螺旋力が増した嵐雲の穂先がケルヴェルの黄金魔虫を貫いた。
そのまま蟲使いの半身を闇の炎の渦が襲う。
しかし、蟲使いは退きながら魔法書から違う魔虫を出そうとした。
<脳脊魔速>を発動。
前傾姿勢で突っ込みつつ<牙衝>を繰り出す。
妙な動きで加速した蟲使いの足を穿つ。
「ガァ――」
<脳脊魔速>にも対応していたようだ。
この蟲使いはかなりの強者か――。
見た目は気味が悪いが強者に尊敬の意思を送るように両手を無手にした。
合掌しては素早く両手を広げつつ――。
<血想剣・魔想明翔剣>――。
両手に血を纏う古竜バルドークの長剣。
宙空に血を纏う古竜バルドークの短剣。
宙空に血を纏うレンディルの剣。
宙空に血を纏うトフィンガの鳴き斧。
宙空に血を纏うダ・バリ・バムカの片腕。
宙空に血を纏うセル・ヴァイパー。
宙空に血を纏う聖槍アロステ。
宙空に血を纏う雷式ラ・ドオラ。
古竜バルドークの長剣の二剣流のまま――。
<超翼剣・間燕>を実行しながら前進。
無数の斬撃が蟲使いを斬り刻む――。
蟲の肉片すらも細かく切断――。
背後の遺物と石塔に壁に続く縁の金具なども切断――。
蟲使いを倒した。
<脳脊魔速>が切れる。
「ん、やった!」
「にゃおおお~」
「シュウヤ、最後の最後に切り札を使ったわね!!」
「あぁ、だが、喜ぶのはまだ早い」
撤退した者たちは縁際に集結中。
動きの速い者は飛行船に跳び乗って逃げる仲間を守るように魔法防御のアイテムを次々に発動させていた。
飛空船を守るように魔法陣が宙空に展開。
同時に飛行船の後部のエンジンから魔力が迸った。
前方と横からも水飛沫的な魔力を放つと魔塔エセルハードから離れ出す。
飛空船に乗る黒装束を着た者たちと空魔法士隊の者たちは、甲板に備わる銃座と魔杖で、防御陣の隙間からキサラと血長耳の兵士たちに向けて攻撃を開始した。
機関砲染みた風の弾丸がキサラを襲う。
キサラは直ぐに宙空に避難。
華麗な飛行から動きを停めるとダモアヌンの魔槍を構えた。
そして、全身に纏う<血魔力>を活かすようにダモアヌンの魔槍を<投擲>――。
あれは<
<
神々しい血と髑髏の魔力を放つダモアヌンの魔槍は飛行船の後部を貫いた。
飛行船は派手に爆発炎上。
多数の黒装束を着た兵士たちが爆発に巻き込まれて散った。
空を飛べる奴は個別に飛翔。
魔塔エセルハードから離れるが、集魔シャカさんと魔弓ソリアードの追撃を受ける。
それらの血長耳の幹部以外にも――。
血長耳の射手と魔法使いたちから追撃が始まる。
被弾した黒装束を着た兵士たちは次々と落下。
ガーデン内でも逃げ出す者が続出。
黒髪の空魔法士の一部は武器を捨て始めた。
その直後、ヴィーネが魔杖を活かしたフェイクからガドリセスを振るう場面が視界に入る。
翡翠の
空戦魔導師の片足に
大太刀を落とした空戦魔導師は鞘を振るって体勢を立て直すが――。
ヴィーネはアズマイル流剣法の剣技を見せる。
あの技は知っている、<血饌竜雷牙剣>だ。
ルシヴァルの<血魔力>で覆った古代邪竜ガドリセスの血濡れた刃が空戦魔導師の喉に突き刺さった。
激強い空戦魔導師の頭部が千切れ飛ぶと、大柄な空戦魔導師は正面を向いたまま背後に倒れた。
洋風のTHE・SAMURAIって感じの異常な格好良さの空戦魔導師だった。
南無。
一騎打ちを制したヴィーネ。
傷を受けて血を流しているが、その傷と血でさえも美しい。
まさに、武の女神だ。
ダークエルフの種としての特徴が色濃く出た青白い皮膚がまた渋い。
と、俺たちを見やるヴィーネ。
ガドリセスを鞘に仕舞う所作が素敵すぎる。
すると、逃げなかった黒髪の空魔法士たちは戦意を喪失。
両手を頭部に当てながら……。
両膝で床を突く。
「【亀牙】の空戦魔導師キレイスが勝てないんじゃ、当然か」
「……あぁ」
「イノウエさんも、シンさんも、マシロ隊長も、皆死んじまった……」
「ヤスさんはどうするんだ。血長耳は、もう……」
「……俺、ここで死んじゃうのかな」
「……いまさらだ……」
と、口々に語る黒髪の空魔法士たち。
共通語だが、〝ヤスさん〟は日本語だった。
気になるが、敵は敵か。話ができれば救いの手は、だが、恨みがあるから、この場に乗り込んできた。
日本を知るから同情はしたい。が、難しいか……。
白い魔力を扱う血長耳の幹部が、それらの降伏した黒髪の空魔法士たちに近寄っていった。
「もうガーデン内に敵はいない?」
「あぁ」
「ふふ、勝った!」
イモリザとアクセルマギナも空から逃げる者たちを追撃。
左側の戦いも終わったか。
イモリザとアクセルマギナにマルアが俺たちのほうに来る。
「使者様~~、大勝利~~」
「デュラート・シュウヤ様~」
「マスター。敵の掃討完了です!!」
イモリザとアクセルマギナとマルアはハイタッチ。
すると、傍にきたヴィーネが、
「ご主人様、空戦魔導師キレイスが持っていた腕輪とアンクルに大太刀です」
「おう。大太刀はヴィーネが使う?」
「要りません。わたしには古代邪竜ガドリセスと仕込み魔杖があります。それに、大太刀ですから扱いが難しそうです。ご主人様が持つ戦闘型デバイスのような運用ができれば、また違うかと思いますが」
それもそっかと頷いてから、ヴィーネからアイテム類を受け取る。
戦闘型デバイスに浮かぶ大太刀の名は〝源流・勇ノ太刀〟。
カッコいい。
「キュゥ」
荒鷹ヒューイも戻ってきた。
エヴァが出迎えようと魔導車椅子にチェンジ。
ヒューイは俺の肩に乗ってきた。
そのヒューイに、
「がんばったようだな」
「キュッ」
荒鷹ヒューイの∴の形をした麻呂っている眉毛が輝く。
親指でなぞってあげた。
俺が触れると嬉しそうに頭部を指に合わせて動かしてくれる。
ヒューイは可愛い――。
「ヒューイちゃん、シュウヤが好きなのねー」
「ん、少し、嫉妬」
そのエヴァの嫉妬顔のほうが可愛いが、言わなかった。
黒猫の姿に戻った相棒が、そんなエヴァの足下に頭部を寄せている。
「ん、ロロちゃん! だいちゅき~」
と、嬉しくなったエヴァに抱っこされた相棒はエヴァの頬をペロッと舐める。
「あ~、いいな~、わたしもだいちゅきだから? チュッとして~」
レベッカの上ずった声が面白い。
俺はペントハウス内にいる方々を見た。
錬金術師のマコトが魔法の机のような物を召喚していた。
クナが使っていた魔法の机とは違う。
マコトの周囲に回復薬が入った硝子瓶が浮いている。
宙に浮かぶ机に載った様々な道具と素材類は生き物の如く蠢いていた。
マコトは両手から異質な炎を発している。
異質な炎は炉の役割を担うのか?
その両手の間にある異質な炎の中へと、素材を魔力で浮かせつつ入れていた。
錬金術師の調合。
素材は草と液体と骨と金属のようだが、ここからではよく見えない。
魔法の紙も異質な炎と混じった?
燃えにくい紙から魔法の文字が四方に迸る。
<古代魔法>?
すげぇな。
その魔法の文字も溶けて異質な炎の中で融合する。
異質な炎で燃焼が加速したモノは丸くなって更に赫く。
マコトは片手の掌から異質な色違いの炎を出しつつ、その赫く丸いモノを片手で持つように掌の上に浮かせていた。
そして、反応の手の指先を、その赫く丸いモノに向ける。
指先から魔力を発しつつ、その指先に赫く丸いモノを引き寄せてから、赫く丸いモノを掴まずに……。
瓶の中にそっと赫く丸いモノを吸い込ませていた。
その瓶を傷だらけの血長耳の兵士の口に当てて中身の赫く丸いモノを飲ませると――その血長耳の兵士は俄に立ち上がった。
ガルファさんたちや評議員たちなどの皆に敬礼。
その血長耳の兵士の傷は治っていた。
肌に艶も出ているし、若返り効果もあるとか?
最高級のポーションかも知れない。
しかし、薬の調合方法が面白かった。
錬金術師にも色々とあるようだ。
クナとはまた違う製法だと分かる。
錬金術師マコト・トミオカ。
乱剣のキューレルの片腕を移植しただけはあるようだ。
もっと近くで見たい。
同時に魔法の包帯的なアイテムが、傷がある血長耳の兵士たちの体に自動的に巻かれていた。
「皆、色々と回収する物もあると思うが、一先ず、ペントハウスに戻るか」
「はい」
「ん」
「うん、休憩しよう~、魔力を使いすぎたわ。血もほしいかな~」
「ワカッタ」
「何よ、そのタルナタムのような口振りは!」
「キノセイダ――」
と、レベッカを揶揄いつつ走る。
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