七百十四話 ネーブ村の魚介鍋とキサラのシャウト

 

「嬉しいな、クレインのような強い女性に慕われるのも……」

「ふふ、眷属化の前に訓練にも付き合うさ」


 クレインは頬が斑に赤くなっている。


「……大胆。勇気がありますね、皆の前で……」

「……先生……」

「わたし、女性が男性に告白するところを見たのは初めてです……ドキドキしちゃいます。けど……」


 ドロシーは意気消沈。

 ドロシーは女子高生ぐらいの年齢で恋人もいたと思うが……。

 学生同士の恋活は不慣れだったのかな。


 そんな娘を見て、母親のペレランドラが、娘の肩を持ちつつ、


「まだ時間はあります。魔法学院での成績はトップクラスでしたのでしょう? エインからは、飛行術が特に上手と聞いていました。それらの能力と若さに美貌でシュウヤさんを攻めなさい。男は攻められると弱いの。特に優しい男性はね?」


 ペレランドラ、語尾の視線が怖い。

 俺の股間を凝視していた。

 ペレランドラは親子で美人さんだから嬉しいが、こればっかりは……。


「はい、分かりました、がんばります」


 ヴィーネが一歩前に出ては、


「クレインに続いてドロシー……。クレインのように強い尊敬できる女なら大歓迎である。が、ドロシーはそうは思えない。それに、セナアプアに留まるか離れるか、まだ決めていないのだろう?」


 冷然とした態度で、そう発言。

 クレインの告白でイライラもあるんだろう。


「……今は、留まるほうに……」

「だとしても、ご主人様は忙しいのだ。今は勉学に励むことを優先するべきだ」


 ヴィーネの言葉に皆頷く。

 さて、そろそろ、皆と血文字交換かな。

 そして、話を切り替えるつもりで、吸血鬼に詳しかったクレインを見ながら、


「少し聞くが、クレインは過去にヴァンパイアの知り合いがいたりする?」

「……いたさ。が血を吸われた過去はないよ。男の経験もない。ずっと独り身だ」

「え……先生」


 髪の毛の整えが終わったエヴァだ。

 紫色の瞳が揺れている。


 驚きつつクレインを見ていた。

 ミディアムなのは変わらないが、少しウェーブが掛かっている。

 可愛いが、髪の毛の魔力のうねりが凄い。

 魔法防御効果とか体調を含めてあらゆる効能がありそうな気配だ。

 キサラはリツさんの指を凝視している。

 リツさんは、白照拳のような拳法を獲得済みなんだろうか。


「なんだい、エヴァ……」

「ん、ううん。お酒を飲み過ぎて記憶がない。と前に聞いたことがあったから」

「そ、そんなこともあったような気がする……シュウヤ、今のは忘れるんだ、いいね?」

「過去なんてどうでもいいから、吸血鬼のことを教えてくれ」

「そ、そうかい。分かった。外れ吸血鬼。南マハハイムで有名な……黒髪ではない銀髪の吸血鬼。名はアルヘンっていう銀髪の吸血鬼。その男と砂漠都市ゴザートで共闘した覚えがある……今はどうしているのやらだ」 

「へぇ、吸血鬼と共闘とかレアだ。クレインもキサラと同様に経験が豊富だから面白い」

「ふふ、わたしの経験で良ければ色々と教えるさ」

「おう。さて、クレインの過去の話も気になるが、血文字で皆と情報交換するか」


 キサラとヴィーネとエヴァに目配せした。


「はい、もう既に幾つか意見交換済みです」


 ヴィーネの言葉に頷く。

 エヴァの手元にもレベッカとカルードの血文字が浮いていた。

 リツさんは、風を出す魔道具を使いエヴァの髪を乾かしていく。

 まだ最後の仕上げがあったようだ。


 その様子を見ながら血文字での光魔ルシヴァル会議に参加。


 まず【迷宮都市ペルネーテ】の戦力。

 ミスティ、ヴェロニカ、メル、ベネットの眷属たち。

 マジマーン、レイ、ラファエル、エマサッド、ベニー、ゼッタ、カズン、他、【天凜の月】の幹部たちだ。

 ベニーは治療中だが。


 つづいては――。

 【魔鋼都市ホルカーバム】。

 カルードと鴉さんが率いる闇ギルド。

 ポルセンとアンジェ。

 メリッサの所属する盗賊ギルド【ベルガット】。


 アンジェはノーラと合流予定。

 そのアンジェはノーラを探し中。

 ホルカーバムは西も含めればかなり広い領域だ。

 ノーラは吸血鬼討伐依頼か、普通に冒険者の依頼を受けているとは思うが……。

 ま、これは追い追いだ。


 そして――。

 【樹海のサイデイル】。

 女王キッシュ、ハンカイ、ママニ、フー、サザー、ビア、ヴェハノ、サラ、ブッチ、ベリーズ、デルハウト、シュヘリア、オフィーリアとツラヌキ団、ナナ、アリス、エルザ、ダブルフェイス、エブエ、ドミネーター、バーレンティン、キース、イセス、ネームス&モガ、ジュカさん、ジョディ、シェイル。

 ノーマさんのお店はあまり繁盛せず。

 これはまだよく知らないが、【八蜘蛛ノ小迷宮】の蜘蛛娘アキ。

 そこにはスゥンさん、サルジン、ロゼバトフ、ソロボ、クエマがいる。

 ソロボとクエマからの報告では、オーク氏族の攻撃が増えてきたのもあって、迷宮に呼ばれたはいいが、当初の予定の迷宮に入り込む穴から逆に偵察しに行ってオーク氏族がどんな氏族か調べる予定が、グレイトゴブリン、ナイトホークとか呼ばれている地底の怪獣的なモンスターの侵入を受けて、蜘蛛娘アキから、守護者級の存在としてがんばってくださいと、なぜか迷宮に留まることになったとか。


 俺がサイデイルに帰還できたら蜘蛛娘アキが暴走するのを止めてくださいと、ソロボからお願いされてしまった。


 スゥンさんは、蜘蛛娘アキの要請もあってか迷宮に蓄えた魔力と魂を使い魔石錬成に必要なシステムを迷宮に組み込むことに協力中らしい。

 スゥンさんとクナと蜘蛛娘アキに接点がいつあったのかは謎だが、密かに蜘蛛娘アキはクナから魔法書をもらっていたようだ……。


 ま、これはクエマからの血文字報告。

 蜘蛛娘アキとスゥンさんは血文字が使えないからクナ絡みの詳細は違うかも知れないが……。


 魔石錬成と聞くとアイテムボックスに納めることが可能になるから便利そうだ。樹海だからこそ可能な迷宮に発展させるのも一興か?

 しかし、白色の貴婦人のような地下を想起するからあまり良い印象は抱かない。魔迷宮のサビード的な闇将でもないし。


 本格的に冒険者ギルドが討伐依頼を出したら、どうすんだよって話だ。マッチポンプなんて性に合わねぇ。

 やはり今度、蜘蛛娘アキに注意しに戻るか……。


 そして、八支流の一つ、サスベリ川に存在する【名もなき町】。

 その【名もなき町】の有名な高地にある【闇の妓楼町】でクナとルシェルが活動中。


 そういった皆の血文字が一瞬で宙を激しく行き交う。 

 もう何度も見ていると思うが……。

 圧倒的な情報量の光景を見たペレランドラ親子とリツさんとナミさんに【魔金細工組合ペグワース】の面々は驚いていた。何回見ても飽きないって感じかな。


 構わず情報交換を瞬時に行った。


 レベッカとユイから塔烈中立都市セナアプアでの状況を把握。

 【天凜の月】のレンショウ、カリィ、トロコン、ゼッファ・タンガ&キトラと【魔塔アッセルバインド】のリズの連合チームが【ネビュロスの雷】と【岩刃谷】の残党の後始末と、仕掛けてきた闇ギルド【剣刃プルス】と闇の結社【テーバロンテの償い】を蹴散らしていた。


 【天凜の月】は上界の【繁華街エセル】の縄張りが拡大。

 上界の地下層と上界と下界を移動できる浮遊岩の拠点をゲットしたと。【魔塔アッセルバインド】の向かいの商店の修理費を渡したことも報告を受けた。


 三日間は短いがやはり色々あるか、

 俺はネーブ村の説明を開始した。

 レフテン王国の【王都ファダイク】の南。

 ハイム川といった位置を改めて告げてから……。


 音守の司ゲッセリンク・ハードマンとの出会い。

 神殿の光神の封印扉。

 その封印扉の先にあった部屋には、地下に通じる音階段があり、地下は魔封層と呼ばれる地下空間だった。

 そして、ネーブ村にも冒険者ギルドがある。

 大金の白金貨がちゃんとあったことにも驚いた。


 ネーブ村は田舎だが、レフテン王国の【王都ファダイク】の南にあるように、隊商の依頼も多くて、流通網はしっかりと機能していることも報告。


 その分、盗賊、匪賊の襲来が多いと水のモルセルから得た情報も伝えた。


 で、大金を得る切っ掛けでもある冒険者ギルドで依頼を受けたこと。

 依頼者のゲッセリンクの一族が代々守っていた神殿の音階段から魔封層に突入。

 その一部封印が破れていた魔封層と呼ばれていた地下空間では、地底神セレデルの勢力、骨剣魔人ブブルーの勢力と荒神系の荒魔獣モボフッドの勢力が衝突していたこと。


 俺は荒魔獣モボフッドの強い集団を倒しきって依頼の品を回収。

 エヴァやキサラたちは骨剣魔人ブブルーの依頼の品を回収。

 同時に、エヴァたちが見つけた欠けた女神像。

 その欠けた女神像は戦巫女イシュランの像だった。

 その戦巫女イシュランは戦神ラマドシュラー様を信奉し、戦神ラマドシュラー様の魂の一部を宿していた。


 その像が持つ聖槍ラマドシュラーを引き抜いた際に新しい槍技を獲得したことも伝えた。


 順番が前後するが、一気に伝えていく。

 和風の旅館『水鴉の宿』のゼンアルファ婆と槍使いの水のモルセルとの出会い。

 ゼンアルファ婆はマジックアイテムを使う預言者だった。

 ゼンアルファ婆が、俺のことを〝黄昏を地で征き歩く騎士〟と呼んでいたことも。

 ネーブ村の空き地では猫たちの集会があった。

 その空き地で、六幻秘夢ノ石幢の四面にあった獄魔槍譜ノ秘碑を魔軍夜行ノ槍業と独鈷魔槍で突いては、グルド師匠から新しい<魔槍技>を獲得した。

 ヒューイが楽しそうに飛んでいたことから、水鴉との出会いと誘い。


 その水鴉は、俺たちを地下に誘った。

 そこは、水鴉の噴水祭壇という水鴉の祝福の儀式の場所で、水鴉の守り手の友となった水のモルセルと再び出会った。


 陽夏の五十五日に行われる水鴉が一年に一度出現する水鴉の祝福の儀式。

 水鴉の噴水祭壇は不思議な魔力の溜まり場で、一種の神々が祝福した修業場所でもあった。


 その水鴉の噴水祭壇の魔力を目当てに地底神セレデルの一派が襲来。

 その骨剣魔人ブブルーなどの骨系モンスターとの闘いでは、ヒューイやリサナ、沸騎士たちに魔造虎の黄黒虎アーレイ白黒虎ヒュレミが活躍したこと。


 俺は死霊法師デスレイ風の大柄の骨魔術師と遭遇し、激闘に発展。

 その大柄の骨魔術師は、蛇の胴体と蜘蛛の脚を模る銀の冠を装備していた強者で、冠は大柄の骨魔術師を利用して、姿を巨大化させる蛇蜘蛛の怪物であり、強かったが倒すことができたこと。

 アクセルマギナはその大柄の骨魔術師を魔法生命体ルガルスース系列と評したとも伝えた。 

 銀の冠は、怪人ヴェクサードさん曰く蛇蜘蛛グレナダブルルの力を宿した蛇蜘蛛の冠だった。


 そして、大柄の骨魔術師を利用して変身した蛇蜘蛛を倒した際に、獄星の枷〝ゴドローン・シャックルズ〟のアイテムをゲット。


 その大柄の骨魔術師戦で、新しい<魔闘術>系の、戦闘術の開祖にもなったスキル<水月血闘法>を獲得しては、キサラを<筆頭従者長選ばれし眷属>にしたと報告。


 血文字の会議を終えると、まったりタイム。


「そろそろ夕方かな。明日まで観光しちゃうか」

「ん、賛成」

「はい」

「では、わしらが石像に案内しよう。途中の危険な場所は皆に任せた」


 ペグワースさんがそう発言。


「分かった」


 皆とネーブ村の観光を実行。

 冒険者ギルドで依頼は受けていないが――。

 構わずペグワースたちが見つけた石像を見て回った。


 未知の神像の度にシウとペグワースから解説を聞く。

 ヴィーネとキサラにクレインとエヴァからもセウロスの神々の像の解説を聞いた。

 北方にも石像は多かったようだ。

 ロロリッザ王国には生命の神アロトシュを信奉する者達が多いとも聞く。

 アーカムネリス聖王国の上のほうの国か。

 いつか旅をしてみたい。


 廃れた戦神ソーン。

 亜神ホルズス。

 他にもあったが、それらの神々の名は初耳だった。

 ラマドシュラー様のような存在はまだまだ多いようだ。


 そうした石像が多い村を歩く度に、秘境ゾーンに近付いた。

 通り道に冒険者の数が増えていく。


「ここからは危険が多い。わしらが見ていない場所も多い」


 そのまま砂浜とは反対の山のほうに向かった。

 森には、見知らぬトンボ、蛙、バッタ、眼球が大きい兔、顎が異常にデカイ椿象。

 異常に多い雀たちが立ち止まる樹の群れを抜けると、朽ちた石像群の谷間が続く。

 鳥のさえずりが木霊する階段状の石碑もあった。

 落ちてくる石ころも不思議と心地いい。鳥の綺麗な声もいい。

 すると、キサラが微かな声で歌う。

 手首の数珠が擦れつつ数珠の一つ一つが衝突するや鈍い音が響く。キサラが歩き歌う度にビートを刻む数珠――。

 数珠は血色に煌めくフィルイン――。

 キサラは声と体で数珠のビートに応えようとダンスを実行――。


『ふふ、良い音楽とダンシング――』


 左目に棲む小型ヘルメが踊った。

 ゲッセリンクの時は二人でダンスしていたからな。


『あぁ、自然的なロック感……キサラの声はシャナとはまた違うが、心が湧くな』

『はい』


 リズムを刻む名ドラマーが数珠にいそうだ。

 <血魔力>効果だろうか?

 キサラは徐々に高い声に――。

 聞いたことのないハスキーボイスだ。

 ダモアヌンの魔槍からフィラメントが出るとギターではなく、未知のシャウト――。

 それは脳を、心を、一段階引き上げるような素晴らしい天使系シャウトだ――。

 皆もこれには感嘆。シウが叫ぶ――ドロシーが興奮して失神――観客に有無を言わせない的な偉大なアーティストのような声だ。


 俺たちを圧倒する。

 リツさんとナミさんにエヴァもヴィーネも体を震わせた。聴きいった表情には恍惚感さえある。


 眷属化したキサラの<魔謳>効果はハンパない。


 ドロシーは母親のマージュに頬を抓られて起きた。

 そうしてキサラのライブを堪能しつつ上り下りする度に樹海と似た環境に近付いた。


 途中、暗がりになったところで――。

 ヴィーネとイチャイチャ。

 それを歌手的なキサラが止めて、キサラとキス。

 そのキスをエヴァが止めて、エヴァともイチャイチャ。


 が、エヴァが悲鳴を上げた。

 イチャイチャがストップ。


 エヴァが悲鳴を上げた理由は――。

 谷間の底で、巨大な蝦蟇と巨大なナメクジが戦っていたからだ。


 巨大な蝦蟇は体中にイボを発生させると、そこから幾つもの小さい蛙を飛ばす。

 小さい蛙が俺たちに雨のように降り掛かった。


 <魔闘術の心得>を意識してから素早く跳躍――。


『ヘルメ、<精霊珠想>――』

『はい』


「ヒューイ、俺が防ぐ。相棒は皆を守れ――」

「にゃおおお」

「ピュゥ」


 左の視界が<精霊珠想>で神秘的な世界となる。

 七福神の衣装を着る闇蒼霊手ヴェニューたちが泳ぐ。


 左手を後方に向けて<神剣・三叉法具サラテン>を意識――。


『ぬほほほーい、器よ、ナイス判断である!』

『沙、羅、貂は、皆のフォローを優先。左後方に魔力の群れがある。正面右の蛙とナメクジのデカブツは相手にするな』

『はい』

『承知した』

『任せてください』


 沙・羅・貂は、三人とも実体化。

 仙女系の衣が似合う。

 栄光の霊透樹の効果か衣の色合いが前より派手になった。

 が、シンプルにも変化する。

 面白いし綺麗な三人は、それぞれ特徴のある神剣を振るう。

 型、剣舞を披露するつもりか。


 三人娘は神剣を振るって踊る――。

 と、リサナとは違う音楽が響く。


『器よ、<御剣導技>だけではない、妾たちの秘密を少し見せてやろう』

『――ふふ、キサラの眷属化と歌に興奮したのか、おしっこを洩らしていた沙が調子に乗っていますね』

『な、なんてことを、妾の羞恥を洩らすな、ばかテンが!』


 その思念に吹いた。

 俺が昔、サラテンをバカテンとかと思っていたことを思い出す。


 しかし、笑いはすぐに消えた。


『キサラさんと器様に捧げます――』


 そう思念を寄越す羅が、強く魔力を発した。


 衣の裾と袖から出た数本の繊維と水が合体。

 手元に、幻想的な弦楽器を召喚していた。

 羅は、神剣を宙に泳がせつつ、爪を輝かせた。


 その水の弦楽器を弾く。

 和楽器の繊細な音が周囲を清らかにする。


 更に自身の水衣から出た紐状の水と、衣の表面を靡く水の布的なモノが衝突を繰り返した。


 紐は、神剣ともぶつかると、独特で不可思議な反響音を鳴らす。


 羅は、剣舞を行いつつ弦楽器と連動して音楽を奏でていた。

 三人の鼓動と連動しているようだ。

 素晴らしい剣舞――。

 <御剣導技>だけではないか。

 スキルの剣舞だ。カッコイイし、美女だし、キサラといい、俺は恵まれていると、熟々神々への感謝の想いが強まった。


 ラ・ケラーダのポーズを作る。

 神々よ――ありがとうございます。


 その<神剣・三叉法具サラテン>たちは、皆に向けて魔力の粒子的な粒を振りかけてくれた。


 羅か貂の能力か?

 魔力を撒いた三人は、階段が地続きで繋がる左後方の森に突入。


「ん、わたしは下のほうのモンスターを見とく!」

「分かりました――」

「ロロちゃん、尻尾で前が見えない~」

「ゴブリンみたいなのがきたー」

「目がぎょろぎょろした、剣が腕の魚人モンスターもいる!」

「わぁ、シュウヤさんが空を――」

「おぉ、戦神シュウヤ! 戦巫女を使役しているぞ! なんたる光景か!」

「……親方、デッサンを開始します!」

「前方のモンスターは、わたしがさっさと処分しよう」

「では、わたしはエヴァさんと中衛を。ひゅうれいや、謡や謡や、ささいな飛紙……」

「わたしも書く!」

「ん、シウちゃん、わたしの背後にきて」

「うん、でも、キサラちゃんの声が綺麗~~」

「シュウヤさんの左半身が水の鎧? 蒼い色合いの外套……凄く綺麗……」

「ふふ、わたしもシュウヤさんに眷属化をお願いしようかな……カッコイイ」

「……わたしもお願いしようかしら……光魔ルシヴァルってより、シュウヤさんの瞳を見ていると……鼓動が早まるのよね」

「そうそう。あ、吸血鬼には魔眼があるって」

「うん。でも、いいわ、素敵だし。あの腹筋は見たでしょう?」


「ヴィーネっちの剣術がすごーーーー」

「あぁ……あの弓はなんだろう、光る矢って……」


「――わしは粘土で形を。ハブ、魔道具の黄泉定規を出せ」

「はいです!」


 ペグワースたちが騒がしい。

 ナミさんとリツさん、ペレランドラ親子に女子の会話が気になるが――。

 シウはエヴァとキサラが守っているから大丈夫か。

 下の皆に返事は送らず――。

 左手に召喚した聖槍ラマドシュラーを振るう。


 片鎌槍系の穂先が小さい蛙を捉えて潰した。

 蛙を潰したら紫色の魔力が周囲に散る。

 その魔力が塵状の別のモンスターに変化した。


「――ガス生命体マルハークに分類。神経系の毒ガスに近い」


 アクセルマギナが解説した刹那――。

 水の外套っぽい形の<精霊珠想>のヘルメが反応。

 肩の<精霊珠想>の部位からヘルメの無数の手が飛び出た。

 そのヘルメの手が、紫色の塵状のモンスターを貫いては、紫色の塵状のモンスターを摘まんで引き裂く。

 更に<精霊珠想>の内部に紫色の塵を取り込んで吸収。


 常闇の水精霊ヘルメは紫色の塵を食べていた。

 塵、魔力か。ヘルメは大丈夫なようだ。

 更に<精霊珠想>中のヘルメは形を変えた。

 <仙丹法・鯰想>は使っていないが、ぐにょりと湾曲したヘルメの液体から、闇蒼霊手ヴェニューたちが宙に突出。


 無重力状態の丸い液体から羽化した妖精たちって印象だ。

 ヴェニューたちは各自極彩色の魔力を宙に放出しつつ――。

 ふわふわ、ぷにゅーん、ふあふあと、デボンチッチ的に飛翔しつつ消えていた。


 俺は左手が握る聖槍ラマドシュラーで、他の小さい蛙を突いた――。

 潰れた小さい蛙から噴出した紫色の塵が周囲を覆う。

 が、直ぐに<精霊珠想>が俺をカバー。

 同時に右の小さい蛙を<刺突>でぶっさし――。

 返す機動で、下から振るった聖槍ラマドシュラーの石突で他の小さい蛙を打ち上げた。

 直ぐに左手から<鎖>を発動。

 潰れかかっていた小さい蛙を<鎖>が貫いた。

 その<鎖>を操作――。

 他の小さい蛙たちを連続的に<鎖>が貫いて倒す。


 斜め左から迫った小さい蛙には――。

 間合いが近付くのを待ってから――。


 右手に持ち替えた聖槍ラマドシュラーの<刺突>で――処分。

 右手ごと槍と化した聖槍ラマドシュラーを引いては、<導想魔手>を蹴る。


 宙で身を翻しながら――。

 三匹連なっている小さい蛙が紫色の魔力を吐く。

 爆発する前にも吐けるのか――。

 が、自然と反応する――<攻燕赫穿>を繰り出した。

 聖槍の穂先から出た赫く燕は、その穂先と一体化。

 赫いた穂先が一匹の小さい蛙を潰して貫くや、更に、穂先から赫く燕が前方に向けて迸る。

 二匹の小さい蛙を貫いた赫く燕。


 小さい蛙は何も出すことなく消える。

 小さい蛙の数が多い場所を把握――。

 その群れに向けて<血鎖の饗宴>を発動――。


 血鎖の群れが、放射状に展開。

 小さい蛙の群れを潰して燃やしていく。


 が、雨のように小さい蛙の飛来が続いた。

 <導想魔手>を足場にしつつ宙を飛翔しては、周囲を確認。


 <神剣・三叉法具サラテン>たちが向かった先にもモンスターはいるが、心配いらないだろう。

 下の皆もロロディーヌの尻尾で遊ぶぐらいに余裕だ。

 エヴァとヴィーネが楽しそうに尻尾を撫でつつ、皆のフォローに回る緩い戦いだ。

 しかし、大本の谷底で戦う巨大蝦蟇が、巨大ナメクジにやられそうだ。

 だから、小さい蛙を吐き出す量が尋常じゃない。


 しかも飛来する小さい蛙は、内部に塵状のモンスターを内包しているし――。

 再び聖槍ラマドシュラーを構えて<光穿>――。

 左手に魔槍杖バルドークを召喚。


 <豪閃>で回転しつつ小さい蛙を数匹屠る――。


 更に、聖槍ラマドシュラーを消した。

 両手持ちに移行した魔槍杖バルドークを横に引いた。

 嵐雲の形の穂先を寝かせる。

 腰を捻りつつ魔力を腰に溜めて中段に構えた。


 飛来する小さい蛙たち。

 そいつら目掛けて<魔狂吼閃>を発動――。

 魔槍杖バルドークを振るった。

 螺旋した紅斧刃の真上に紋章魔法陣が浮かぶ。


 金色の骨手の幻影。

 魔竜王の小さい頭部の幻影。

 邪獣セギログンの幻影。

 虎邪神シテアトップの幻影。

 魔法使い風のリザードマンの幻影。

 青蜜胃無スライムの幻影。


 魑魅魍魎の魔力嵐の一閃が宙に迸る。

 小さい蛙たちは蒸発するように消えた。


 微かに残った小さい蛙たちは、


「ングゥゥゥ――」


 竜頭金属甲ハルホンクが反応するが、喰わせる必要もない。

 皆も蛙たちを迎撃して、すべてを倒しきった。

 巨大な蝦蟇は、巨大ナメクジに倒されていた。

 その巨大ナメクジは、頭部を揺らすと、陰的な魔力を放射状に噴出するや、シュバッと音を立て、黒く点滅しつつ姿が消えた。


 魔素で巨大ナメクジの動きを追えたが……。

 必要ないか。

 あのナメクジモンスターを退治する依頼は受けていないからな。


 Sランクだと思うが……。

 ネーブ村の冒険者ギルドには依頼の紙は貼られていなかったはず……。

 すると、


『器! 帰還する――』

『器様~、蛙と蜥蜴の魔獣がいました!』

『そのすべてを倒しました。魔力を大量に得ました!』

『おう――左手に戻ってくれ』

『『はい』』


 左手の運命線のような傷に<神剣・三叉法具サラテン>を収納。

 テンの獲得した魔力が俺の体に展開される。

 すると、反動か<シュレゴス・ロードの魔印>から桃色の蛸足魔力が少し出た。


 サラテンたちは、かなりの量を倒したと分かった。

 そのあとは坂道を下る。


 蜃気楼のような霧が漂う森が奥に見えた。

 見た目は森だが地下迷宮に通じている?

 ハイム川から流れた水気が山間に衝突してできた霧だろうか。


 魔霧の渦森の霧とも違う。


 ネーブ村の近辺の至るところに地下迷宮の出入り口があるようだ。

 その森の中で、豹の頭と蜥蜴の頭に胴体が蛇のモンスターが見えた。

 豹蜥蜴蛇のモンスターと戦う冒険者たちがいる。


 水のモルセルはいないが、冒険者の数もそれなりにいた。

 この辺りは、狩り場か。 


 蜃気楼のような霧が多い森の中に進むつもりはないが……。

 曲がり、下がった坂を下る。

 と、周囲に魔力が多いから調べていくと……。

 大きいハートの形をした葉っぱがたくさん生えた群生地帯になった。


 ハートの形が微妙に異なる。

 表面の葉脈が氷の結晶的な模様で綺麗だ。

 しかも葉脈が鼓動するように微かに上下する。

 非常に美しい葉。キサラが一枚のハートの葉を採取。

 エヴァも気に入って探し始めた。

 ヴィーネとクレインも七色に輝くハートの葉をゲット。


 ネーブ村の薬草かも知れない。


 採取祭りとなった。

 本格的に夜になったところで帰還。


 夜の砂浜で料理タイムとなった。

 戦闘型デバイスを意識。

 フォド・ワン・ユニオンAFVを出して――。

 リラクゼーション・システムを発動。

 トーラスエネルギーのエネルギーカーテンを皆が楽しむ間に――。

 ガードナーマリオルスを出す。

 更に、久しぶりにキッチンに立つ槍使いを披露した。

 採取したハートの葉を食材に使用。

 食材袋から、各地の市場で手に入れていた香辛料と食材を使いつつも、現地で採取して余っていた、巨蟹と目白鮫の食材を主力に使う。

 目白鮫をすり潰して、かまぼこ風の白身団子を幾つも作った。


 それらの団子を、塩と野菜のゆで鍋に入れて、ことこと煮込む。

 数十分後、温かい魚介スープの完成だ。

 名付けて、『ネーブ村の魚介鍋』。


 普通の名前だが。


「ん、『ネーブ村の魚介鍋』、すっごく美味しい!」

「おぉ、塩加減が絶妙だ。まさに秘境の味というやつだろう!」


 ペグワースが興奮している。

 髭に汁がいっぱい付着。


「はい……なんて味でしょう。魔力を得るように、不思議と活力が……」

「……美味しい。シュウヤさんは料理人のスキルがあるのでしょうか」

「お母様……わたし、料理もできる男の人って、いい……」

「そうね、やはり塔烈中立都市セナアプアに留まることが正解なのかしら……」

「お母様……」

「上界の高級料理屋にも、引けを取らない味です。とくに葉と白身団子に蟹の味噌が……美味しい」

「うん……ナミや皆の語るように、産地の素材もあるとは思う。この汁よ、薄い魔力の束が掛かったように……煌めいて、葉の力かしら……不思議。これ、髪の素材に使えるかも知れないわ……」

「ングゥゥィィ!」

「ハルホンクちゃんの声は面白いですね、真鏡現世で夢世界を見たら面白い姿が見えるかも知れません。あ、この白身の団子が柔らかくて、葉でさっぱりした味わいに変化しますね。本当に美味しい」


 料理の感想は嬉しいが、ナミさんの鏡関係の仕事の話のほうが気になった。


「……うん、美味しいねぇ。シンプルな味だが深い。草を刻んで、その草をそのまま入れている時は怪しく思ったが……ベファリッツの宮廷料理を超えているよ。こんな味は初めてだ……。シュウヤ、槍使いを改めて、料理使いに渾名を変えるかい?」

「変えないし、俺は槍使いだっての」

「はは、たしかにそうだが、それぐらいの美味しささ。こりゃ、酒が合う。どうだい、シュウヤ。一緒に酒を……」

「おう、いいねぇ。クレインは笑顔も可愛いから嬉しいな」

「ん、先生、シュウヤに近付きすぎ!」


 エヴァに両手が俺の頭部をホールド。

 頬を持たれたまま、顔を寄せられた。

 ――前にもあったな。エヴァの紫色の瞳が揺れて可愛い。

 エヴァは鼻息を荒くして、鼻の孔を少し膨らませている。これまた可愛い。

 すると、


「にゃごおおお」


 相棒はかまぼこ風の白身団子が滅茶苦茶気に入ったようだ。

 食べながら興奮して触手が幾つも宙に出ていた。

 皆が美味しく食べてくれるから、嬉しかった。


 俺も食べていく。

 竜頭金属甲ハルホンクにもあげた。


「ングゥ、ングゥゥィィ、ングゥゥ♪」


 味は塩味だが、魚介の出汁がやはり利いているか。

 そして、臭みが完全に消えているのは、ハート型の葉の効果かな。


 そんなこんなで……ロロディーヌが呆れるほどの夜も楽しんでから……。


 次の日。

 朝食は、宿の主人のゼンアルファ婆とお爺さんが用意してくれた。


「バルスの卵閉じとナツメグとホグマル肉焼き。ヒンヤリと良い匂いがするトレンボーの葉も添えてある。卵陽夏五十八日の朝食さね」


 これまた激うまだった。

 ホグマル肉とはイノシシ肉っぽい。

 臭みもなく、程よいピンク色に塩とナツメグなどの香辛料が染みこんでいる。

 魔力が循環している不思議肉。


 調理法を聞いたが、教えてくれなかった。

 なんでも、ホグマルというモンスターに痛みを覚えさせずに……。

 自然昇華させる形で倒した素材が元らしいが……。

 そんなことが可能なのか。

 ゼンアルファ婆とお爺さんが作った料理のようだが、堪能した。

 トレンボーの葉は胃腸を整えてくれる薬草の一種だ。

 そして、俺たちが採取したハートの形をした葉をゼンアルファ婆に見せたが……。


「知らない葉だねぇ。見たことがないよ。どこにあったんだい? 魔力の内包量からして、ただの薬草とは思えないが……」


 と、聞かれる始末。

 ま、ハートの形をした草については後々だ。

 鑑定できたらと思うが、ま、こればかりは仕方ない。


 今度、また食材に使うかな。


「さて、名残惜しいが帰還だ。ヒューイ、肩に来るか? だれかの翼になるか戻ってこい」

「ピュゥゥ」

「あ、肩に。ご主人様の言うことを遠くからもちゃんと聞いているのですね」

「ん、ヒューイちゃんお利口!」

「キュゥ」


 と、ヒューイは甘えた声でエヴァに応える。

 麻呂った∴の眉毛が輝く。嘴から出た舌が可愛い。


「ヒューイちゃん、可愛い~」

「うん~、こっち向いて~」


 ドロシーとシウが興奮した。


「ングゥゥィィ、ピンクノ、魔力、タベル?」

「シュレの魔力は出さない」

「ングゥゥゥ……」

「悪いな、ハルホンク」


 ヒューイは<シュレゴス・ロードの魔印>の桃色の魔力が好きだからなぁ。

 その際に桃色の魔力を食べたハルホンクは餌付けされたか。


「にゃおおお~」


 相棒が素早く神獣ロロディーヌの姿にチェンジ――。

 すると、ユイとレベッカから連絡が入った。


『――今、連絡が来た。白鯨の血長耳の緊急幹部会が行われる会場は、結局エセル大広場のエセルハードの魔塔に決定。その最上階の見晴らしがいい部屋。時間は夜。皆が集まり次第開催。エセルハードは上界の魔塔で、かなり標高が高いとか。形は一階の土台を含めて分厚い壁が囲う円錐状の建物で、二階から螺旋状に先が細まった箱の建物が連結しているんだって。一階はカフェと魔道具店や魔薬商店が並ぶ。浮遊岩も外と内にあるみたい。外の浮遊岩のほうは商人用で、内のほうは幹部たち用とか』

『うん。今さっき血長耳の幹部のレレイさんって可愛い女性が伝えにきてくれたの』

『了解、今から帰還するところだ。俺たちの待ち合わせ場所は、上界の宿り月でいいかな』

『そうね。あ、ペレランドラ親子たちを護衛するために【狂騒のカプリッチオ】が下界の港に回ったから、クレインさんは、そのコンビと連携して頂戴』

「分かった。ありがとう。と、ユイとレベッカに伝えてくれるかい?」


 と血文字を見ていたクレインが指摘。

 ペレランドラとドロシーにリツさんとナミさんに【魔金細工組合ペグワース】の面々も頷いて、


「わたしたちからもありがとうございます。と伝えてください」

「分かった」

『ペレランドラ親子たちが礼を言っている』

『『ふふ、なぁに、〝いつものことだ〟』』


 と、ユイとレベッカは二人揃って血文字の冗談で返してきた。

 血文字で、俺の物真似を披露しようとしたのか、少し血文字の形が違う。


 皆も今の血文字を見ていたようで、吹いて笑う。

 ヴィーネの吹いた笑いは珍しいから可笑しかった。


 さて、


「相棒。皆を乗せてくれ」

「にゃお~」


 相棒から出た触手の群れが皆の体に絡む。

 瞬く間に神獣ロロディーヌの背中に乗った皆。


 鬣が馬っぽい黒豹を大きくしたような頭部の相棒は横を見る。

 神獣ロロディーヌ視線の先には、軒、その屋根の端には、老猫がいた。


「にゃ~」

「ンン、にゃ」


 と声を掛け合った神獣ロロと老猫。

 挨拶を終えた相棒はプイッと頭部を逸らして、板の間を歩き出す。

 水鴉の宿の板を壊さないように端から飛び出た――。


 直ぐに胴体から翼を出すや――宙を加速。

 塔烈中立都市セナアプアに直行だ。

 

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