七百四話 久しぶりの水泳&水中訓練

 ヒューイが自慢気に見せる爪の武器は強力そうだ。

 そんなヒューイが新しい金色と水色の魔力が迸る爪の武器で、蔦が絡む細い岩を掴む――。

 否、細い岩は蔦ごと真っ二つ。

 ユイが神鬼・霊風で斬ったように、ばっさりと岩は切断されていた。


「ピュゥゥ」


 と調子よく鳴いたヒューイは斜め上から溢れる旭日が目立つ穴から外に出た。

 モルセルが向かった洞穴ではないが、ま、陽が射しているし、俺も向かうか。


 蔦と蔓が周囲に生えまくっているが……。

 ヒューイがあっさりと外に出たように、俺でも簡単に外に出られそうな穴だ。

 岩の地面を駆けては蹴る――。

 宙に<導想魔手>を生成――。


 その<導想魔手>を蹴って宙空を進む。

 ――体を前に運ぶか。狙いは斜め上の天井。

 左手首から<鎖>を射出――<鎖>は真っ直ぐ天井に向かい、天井の岩に突き刺さった。

 <鎖>の強度を確認することもせずに――。

 手首の<鎖の因子>のマークに<鎖>を収斂させた反動で天井に移動し、両足で天井に着地。

 下に昏さと明るさが同居する洞窟が見える。

 視界は当然、逆さま。

 構わず<鎖>を消去。自然に落下――。

 その間に、身を捻って足下に生成した<導想魔手>を蹴った。


 飛翔しながら前に回転――。

 移り変わる視界で位置を確認しながら――。

 旭日が出ている穴に向かった。


 ――その眩しい穴から外に出る――。

 視界には海のような青空に、深緑の谷もあったが一瞬で終了。

 崖か、ネーブ村から外れたハイム川沿いにある崖の地帯。

 海食洞の一つか。リアス海岸っぽい。

 外には魔素があちこちにある。

 ヒューイはハイム川の上を飛翔。

 ハイム川から飛び出た巨大なトビウオのようなモンスターがヒューイ目掛けて突進。

 翼の形がトゲトゲで色合いが毒々しい。

 あんな魚モンスターもいるのか。


 ヒューイは足の爪に装着した新しい爪の武器でサクッとトビウオを真っ二つ。 

 <導想魔手>を蹴ってはハイム川の水面を見ながら、そのハイム川の波の高さを見つつタイミングを見て《水流操作ウォーターコントロール》を実行――。

 

 サーフィン的に波に乗る――。

 ハイム川をローラーヒーローになったように走った。

 飛び出すぜぇ、オゥオゥ――♪

 ルラララァァ――ネーブ村で見たァァ夏の旭日ゥゥェェ――♪

 

 光のローラー♪ 燃えるぜぇ――ミラクルスピンだ!


 右手に独鈷魔槍、左手に雷式ラ・ドオラ――。

 水飛沫を浴びながら前進――前進――♪


 俺がノッていることが分かったのか――。

 右手の戦闘型デバイスから戦闘音楽が鳴り響く。

 

 ――風防的なガラス面に浮かぶアクセルマギナとガードナーマリオルスのホログラムも踊っていた。

 

 夏らしい音楽を響かせて突進する俺を餌だと思ったハイム川のモンスター。

 そんなトビウオ三匹をあっという間に<双豪閃>で捉えて斬る。 

 ――トビウオを二つの矛で真っ二つ。

 そのまま、両手の武器を消しては竜頭金属甲ハルホンクを意識。

 真っ裸になってハイム川に突入――。

 耳が圧を受けたような感覚をひさしぶりに味わいながら――。


 ――久しぶりの水泳と行こうか!!

 クロール――。

 バタフライ――。

 

 端から見たら、魚人現る。と逃げる人続出な速度で泳ぐ。

 再び、潜水――。

 そして、そのまま速度を活かすように何もしない――。


 水中の音がホワイトノイズに思える。

 

 刹那、その水中で<旭日鴉の導き>を発動。

 親指の印が光るや、その親指から光を帯びた精霊的な小さい水鴉が一羽出現。

 小さい水鴉は俺の周囲を回る。

 

 すると、周囲の水を弄っているのか?

 《水流操作ウォーターコントロール》の魔力の濃度が高まる。

 と、俺の水中での泳ぐ速度が上がったような気がした。


 そのまま水鴉と一緒に水中を突進――。

 途中でクロールから平泳ぎ――。

 やはり、俺の光魔ルシヴァルの力だけではなく、水鴉の魔力も加わって泳ぐ速度が速まっている。

 これも水系の能力の一つか。

 竜頭金属甲ハルホンクを意識しては半ズボンと半袖衣装の軽装にチェンジ。

 

 水中にいたマグロのような魚が逃げていく。

 塩分濃度的に、汽水ってより海水に近いか。

 蟹のモンスターが川底を歩く姿が見えた。

 

 トビウオのモンスターの群れが加速しながら右の前方を泳ぐ。

 俺に近寄っては来なかった。

 その水中で、風槍流『風読み』の基本歩法から右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 やや遅れて左手に神槍ガンジスを出す。

 避け動作の『風軍』から――。

 二槍流の強者のソウザを想起。

 両足にアーゼンのブーツを召喚。

 硬いブーツの底で川底の砂を踏む。


 俺の近くを通った小魚の群れが魔力の放出と水流の乱れを受けて吹き飛んでいった。


 ――そのソウザが使った歩法を真似る。

 二槍を振るった。


 <豪閃>――<豪閃>。

 <双豪閃>に近い竜巻が水中の流れをぶった切る。

 蓄積された砕屑物が周囲に散った。

 ソウザの<闘薙ぎ>を真似たがスキルは無理か。

 <超脳・朧水月>を意識しては……。


 水流を作るように回転を強めて<水月血闘法>――。

 周囲に小さい血色の魔力が混じる竜巻的な渦が起こった。

 

 ソウザの二振りの魔槍の攻撃を避けることを想定しつつ、

 <水月血闘法・鴉読>を実行。


 周囲の渦から四方に水鴉が幾つか散る。

 <旭日鴉の導き>の力で俺は水中で加速――。

 両手で握る魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの<牙衝>を繰り出した――。


 シュザッと水面を劈く月刃と乱雲の穂先が、川底を派手に突くや、その両手が握る神槍と魔槍杖で底に旗でも打ち立てるように――棒高跳びの動作を実行。


 槍を支えに体を持ち上げつつクルッと体を一回転。

 水中を斬るかのような両足のアーゼンのブーツの踵を活かす踵落としを繰り出した。


 前方の砕屑物を砕くように着地――間は作らず。

 直ぐに底を突いた神槍ガンジスと魔槍杖バルドークで――。


 一対の歪な大きい翼を作るように両腕を背中側へと動かした。

 砂を掬う機動だったから派手に砂が舞う。


 よし――。

 この神界と魔界の双月と乱雲の矛の側面で――。

 ――豪快に、川底を叩くとしようか!


 そう気持ちを込めた俺は――。

 背中に回した二振りの槍を前方目掛けて振るい落とした。

 ――二振りの槍は宙に歪な月を描く。

 薙ぎ払い系のダブル<豪閃>に近い――。


 中国語なら『胡』の要領だ。

 

 双月と乱雲の矛が川底を叩いた。

 ドッと鈍い音が水中に響く。

 

 ――さて、遊びと修業は終了だ。

 水中に舞う砕屑物を吹き飛ばすように魔力を噴出――。

 トビウオの如くハイム川から出たところで、水面近くの<導想魔手>を足場に使い跳躍。


 そのまま飛翔中のヒューイを視認。


「戻るぞ――」


 と発言するや両手から神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを消去――。


「ピュゥゥ」


 ヒューイは俺が水鴉を出して踊るように飛翔しながら呼んでいることに気付いた。


「ピュゥゥ」


 また鳴いて、素早く寄ってくると、


「――ルルゥゥ♪」


 初の声を鳴らしてくれた。

 螺旋回転しながら水飛沫を飛ばしてくる。

 ――楽しそうなヒューイ。

 

 麻呂った∴の眉毛が動くから面白い。

 

「あはは――」


 俺も思わず笑った。

 すると、雀にも似た小さい水鴉は親指の印の中に吸い込まれて消える。

 ルシヴァルの紋章樹の枝に止まる水鴉。


 <旭日鴉の導き>か。

 同時にルシヴァルの紋章樹と絡む竜紋も輝く。

 遠い位置で活動中のバルミントの鼓動を感じることができる……。


『バル、元気か?』


 念じたが、念話的なモノは返ってこなかった。

 が、親指の竜紋が微かに光る。

 ヒューイは、不思議そうに俺のその親指を見ていた。

 

 麻呂った∴の一つ一つの点的な眉毛の動きがリアルで面白い。

 不思議そうな面を浮かべるヒューイちゃんだ。


 俺たちはダブルレインボーの二重の虹が架かるネーブ村の入り江に向かう。


 崖に建つハードマン神殿に旭日が射す。

 素晴らしい景観を作っている。

 神殿の天辺の虹の魔線を神殿の内部に引き込む光景も素晴らしい――。


 ネーブ村の宙を突進。

 砂浜には下りない。

 空から雰囲気のある『水鴉の宿』に戻った――。

 この宿、日本で喩えるならば、奈良の『長谷寺』か鳥取の『三仏寺奥院』だろうか。

 

 そして、だれかが尺八の音を奏でている。

 岩が重なった石像がある岩壁のほうかな。

 

 尺八を吹くのは、お爺さんか。

 衣装は和風の坊さんだ。

 ゼンアルファ婆と同じく特別な能力者なんだろうか。

 

 エヴァたちは外に出ていた。

 クレインは『水鴉の宿』の壁に背を預けながら、片手を額に当ててハイム川のほうを眺めている。

 さすがに起きたか。俺に気付くと手を振る。

 ヴィーネは、ペレランドラ親子とリツさんとナミさんと一緒だ。

 その皆は、パイまんじゅうを片手に、中心にある水桶を囲む。

 魔金彫師ペグワースの一行はいない。

 もう出かけたか。

 シウもいない。ドロシーはパイを美味しそうに食べている。

 美味しそうだ。

 求肥とあんこを詰めた和風のパイっぽい。

 黒ごまとか入っているんだろうか。


 水桶の傍には、日向ぼっこ中の相棒と猫たち。

 崖造りの板を敷く風情のある大きな中庭か。


 ……楽しげな雰囲気だ。


 エヴァは魔導車椅子に座ったまま、宿の屋根に近い位置から外を見ていた。

 旭日が彩るネーブ村の景色を楽しんでいるようだ。

 そのエヴァが俺に気付く。

 と、いつもの天使の微笑を見せてくれた。


 が、日射しが眩しくて、手を額に当てていた。

 そのエヴァの近くへと直進――。

 少し遅れてヒューイも飛翔しながらついてくる。


「――よ、エヴァ、おはよう。ただいまか。クレインは起きたようだな」

「ん、いきなりガバッと起きて、トンファー体操をやり始めて大変だった。わたしも突き合った」


 エヴァの口の端にパイまんじゅうの小さい生地が付いていた。

 その俺の視線で気付いたのか、エヴァはニコッと微笑んでから、「ん、これ美味しかった」と言いながら自身の口の端に付いていたパイの生地を摘まんで、口の中に入れていた。

 

 唇から離れる細い指が可愛い。

 そのエヴァに向けて、


「エヴァは師匠と模擬戦したってことかな」

「そう。先生は強い……」


 負けたらしい。


「エヴァも本気は出してないだろう」

「ん、うん。それはそうだけど、基本の棒術と体術がやはり違う」

「ま、それは仕方ない。師匠のクレインはめちゃくちゃ強い」

「シュウヤには負けるさね、でも、ありがとう」

 

 下のクレインだ。

 頬を朱に染めていた。

 俺が視線を向けると、直ぐに逸らしては、頬を指でポリポリと掻いていた。

 すると、エヴァが俺の手を握って、


「ん、シュウヤ。ヒューイとどこに行ってたの!」

「気持ちは読めるだろう。ま、これを見てくれ――」

「ん――」


 と、親指を翳して、<旭日鴉の導き>を発動。

 小さい水鴉を出現させた。


「わ、小さい鳥。光ってる雀? あ、透き通った水色の鴉ちゃん?」

「そうだ。スキルは<旭日鴉の導き>を獲得。他にも……かくかくしかじか」


 と、説明しながらエヴァと一緒に下りた。

 中庭的な板の間に尺八の音が和風の雰囲気を醸し出す。


 皆の和気藹々とした声もいい感じだ。

 ロロディーヌは、どでぇっと腹を晒している。

 背中を板と板の細い溝に嵌めて両前足を真上に、両後ろ脚を真下に伸ばしていた。

 その姿を見て笑う。

 仰向けの体勢の相棒は、俺の笑った声を聞いて、瞳孔を少し大きくさせて視線を巡らせる。

 『どこにゃ!』といった感のある視線の動きが面白い。

 俺は『ここだぞ』というように「相棒、日向ぼっこ中だったか」と、話しかけながら近寄った。

 黒猫ロロは直ぐに起き上がると――。


 頭部を左右に揺らしつつ、走り寄っては俺に向けて跳躍。


「ンン――」


 と肩に着地しては、俺の頬に頭部をぶつけてくる。

 ゴロゴロとした音が愛しい黒猫ロロさんだ。


「ただいま」

「にゃ!」


 甘えていたが、急に天邪鬼モードのスイッチが入ったらしい。

 プイッと頭部を逸らしつつ、長い尻尾で俺の首筋を叩く。


 その黒猫ロロに向けて、


「淋しかった?」

「にゃ~」


 その発した音は小さくて可愛い。

 相棒は、また尻尾で俺の首と耳朶に悪戯してきた。


 まったく――。


「ふふ、ご主人様、お帰りなさいませ」

「おう。早速だが、冒険者ギルドに向かう面子だが、どうしようか」

「ん、もう決めてある」


 と、ヴィーネの背後にいたエヴァが発言。


「そうです!」


 キサラの気合い溢れる声だ。

 クレインとアイコンタクトしたキサラは、駆け寄ってくる。

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