六百九十八話 水鴉の噴水祭壇

 黒漆のような夜に雪でも降ったかのような寒い洞穴だ。

 天井は凹凸が激しく黒漆のような色合い。

 湿り気味で肌寒く、光を帯びた虫も多くて、明るいが、広い巌窟でもあるから全体的には暗いか。

 

 蜻蛉や天道虫に羽虫、蛍など……。

 光る鴉には、この寒さと湿気は関係ないらしい。

 ネーブ村には蛍が多かったからな。

 光る鴉は天井から垂れた岩の間を縫うように進む。

 光る鷹にも見える鴉は見えなくなった。


 巌窟の横幅は二十メートルを超えていた。

 五階建ての建物のように高く天井付近の隅は黒ずんで横の壁には壁画と文字が刻まれている。

 

 少し前方を歩いて周囲を窺う。

 背丈の高い葉が多いが、細長い岩も目立つ。

 細長い岩は、普通の石筍とは違うようだ。

 岩の穴から蜜でも出ているのか、細かな虫たちが、その穴に密集して岩の形を変えている。

 見た目はタケノコ風だが、虫たちが動いているせいで不気味なモンスターにも見えた。しかし、悪夢の女神ヴァーミナ様には悪いが、今日は寝られそうもない。

 常闇の水精霊ヘルメがいない状態の俺だから、寝たら<夢闇祝>が反応するだろう。

 悪夢の女神ヴァーミナ様は俺と接触したがっていたからな。

 が、ナミさんがいる。ナミさんの戦闘職業は<夢取鏡師>。

 鏡研ぎ師の一種。夢を扱うことが可能なスキルを持つ。

 評議員ペレランドラの悪夢を祓ったと聞いた。

 だから、悪夢を祓う? <夢闇祝>は祝とつくスキルでもあるから悪夢とは少し異なるか。

 ナミさんに、この件の話をしたら面白い答えが聞けるかも知れない。

 しかし、夢を扱うスキルだから悪夢の女神ヴァーミナ様に喧嘩を売る形になるかも知れない。更に言えば……。

 サイデイルで匿っているナナのこともある。

 かつて、夢か精神世界でヴァーミナ様と接触した際……。


 

 ◇◇◇◇

 

 

『それじゃ、助けた闇属性を宿すナナについての情報をください』

『善くぞ救ってくれた。まだ子供ながら我を信仰する悪夢教団ベラホズマの一派からは崇められているほどの存在ぞ』

『……ヴァーミナ様の眷属?』

『近いが、正確ではない。恐王ブリトラと妾の力を二分する、特異で貴重な幼子ぞ……』

『……そのナナを狙う相手が色々といるようですが』

『当然だろう。恐王ブリトラの眷属を体内に宿す子供でもあるのだからな……ブリトラの眷属を取り出し、使役できれば、計り知れない力となって本人を守るだろう。更に、妾の力も加わった闇が濃厚な血肉を飲み喰えば、さぞや至福を得られるであろうて……』


『妾の力を宿す何かと触れた者の子孫だろう』


 

 ◇◇◇◇

 

 と、ヴァーミナ様はナナのことを語っていた。

 悪夢教団ベラホズマの一派から崇められていたナナを誘拐しようとしていたキーラ・ホセライの【御九星集団】。

 キーラはアシュラー教団の東部局長だった。

 そのキーラは地下オークションで色々とアイテムを手に入れては、教団の東部局長の地位を捨て、独自の【御九星集団】を率いてアシュラー教団と袂を分かつことになった。アドリアンヌと関係が深いカザネたちのアシュラー教団と敵対関係だ。

 

 ナミさんの所属する【夢取りタンモール】がキーラの【御九星集団】と敵対しているのかはまだ不明だが……。

 

 そして、クナが、名もなき町の【闇の妓楼町】に向かった理由は複数ある。


 【天凜の月】の仕事と闇のリストと接触。

 それはピアニストのヒストアンさんだ。

 

 ボーイッシュで、黒と白のヘテロクロミアの虹彩が綺麗だった。

 ピアノがピアスに変わったことも不思議だったな。


 更に、転移陣構築と地下室改良に伴う素材の入手。

 <従者長>ルシェルの魔法と新装備だけではない。


 ナナの誘拐に絡んだサーマリア王国とオセベリア王国の戦争で利益を上げた【闇の枢軸会議】の中核組織、【闇の八巨星】の手掛かりの一端を追うことでもある。

 その【闇の枢軸会議】と【闇の八巨星】に関わる組織は塔烈中立都市セナアプアの評議員たちと密接に絡んでいる。ま、メル&キッシュ&クナの四次元チェス的に先を見据えた行動の一環だ。


 だから、俺の夢を扱うことで余計な争いにナミさんを巻き込む可能性もあるかもだ。

 

 さて、それは追い追いだ。


 今は、光る鴉のほうが気になる。

 あれは水鴉なんだろうか。

 

 宿には鴉の石像があった。

 光の紋章的なモノが胸元に刻まれていた鴉の石像だったから……。

 光属性の光神の託宣とか?

 <神剣・三叉法具サラテン>の沙は、動物を模った精霊と予想していた。

 

 その光る鴉の目的は、俺と荒鷹ヒューイを地下に誘導すること?

 救いを求める救難信号?

 黄金の魂道的なことだろうか?

 光る鴉を餌に、俺たちをおびき寄せる罠?


 沙も指摘したが『水鴉の宿』の主人のお婆さんは怪しかった。

 初見で俺の属性と血に関することを指摘してくる鋭さ……。

 確実に普通ではない。

 しかし、何処か優しさを感じたお爺さんとお婆さんだったな。

 魔眼もなかった老夫婦。

 

 俺の属性を知り得た理由は虎獣人ラゼールを超えた神懸かり的な嗅覚とか?


 それとも……ま、お婆さんに関して深くは追求するまい。

 一見は平和なネーブ村だ。

 

 パンドラの箱かも知れないからな――。

 

 そう思考しながら……横の壁に向かう。

 魔力を宿した鴉の形をした象形文字的な文字が無数に刻まれてあった。

 壁の模様を指の腹でなぞる。

 窪みと線が至る所にあるが、意味がある?

 が、とくに反応はない。

 光る鴉はここに奉られる存在?

 

 すると、その光る鴉が消えた洞窟の奥からゴォォォッという水音が谺する。

 深淵の呼び声を彷彿とする不気味な声だった。


 鳥肌が立つ。

 先ほどと同じく否が応でも昔を想起する。

 

 ハイム川と近いし、ネーブ村の陸側は山のような渓谷ばかり。

 カルデラか滝のような地下水脈はあるだろう。

 巨大な縦穴とかな……。

 

 モルセルさんが語っていた地下迷宮の一部かな。

 洞穴の真上にいる荒鷹ヒューイを見ながら――。

 

「ヒューイ、奥の魔素がモンスターだったら戦うことになる。だから、念のため俺の翼になるか?」


 荒鷹ヒューイは無言で両翼を拡げた。

 岩つららを掴んでいた両足を離して下降しつつ翼を傾け滑空。


 俺の近くに飛来したヒューイは、

 

「キュゥゥゥ」


 と鳴いて前方に向かった。

 翼になるつもりはないようだ。


「戦うつもりか。なら信用しよう。<無影歩>もなしで戦うぞ」

「キュゥゥ」

 

 飛行中のヒューイは返事を寄越す。

 <無影歩>を理解しているかは不明だ。


 ヒューイは背丈の高い植物と樹木を両足に生えている爪で切断するや、前方の長細い岩を、その立派な両足の爪で掴んで岩に着地した。

 

 大鷹か鷲といった姿のヒューイの足は力強い。

 着地した長細い岩は今にも折れそうだ。

 案の定、両足の爪が掴んでいた石筍をへし折って前方に飛翔を開始。


 低空を飛んだヒューイは再び両足を前に出した。

 その両足から出た爪が岩を捉えて着地。

 両足の鋭い爪の一つ一つが岩の表面に食い込んでいる。

 食い込み方が、力強すぎて、えぐい。


 その鋭い爪が銀色の刃に見えた。

 

 荒鷹ヒューイは振り向く。

 キリッとした表情だ。

 獲物を捕まえた気分らしい。


 ∴のマークと合体している眉毛は麻呂っていて、とても可愛らしい。が、基本は大鷹。


 鷲に分類される猛禽類。

 凜々しさと可愛さを合わせ持つヒューイだ。

 そのヒューイは、両翼を内側に畳むようにコンパクトに仕舞う。

 

 大鷹だけに迫力があった。

 同時に、自らの感情を毛の動きだけで表現するフクロウにも見えた。

 

「――キュ!」


 ヒューイは、そう鳴きながら胴体を少し横に捻る。

 

 求愛のダンスをする鳥のように、両翼を拡げたポーズを取っていた。

 片翼の角度を微妙にずらしつつ……。


 鷹らしい鋭い鋼のような視線を、その翼越しに寄越す。

 ヒューイなりのヘルメ立ち?


 鷹としてのポージングに誇りでもあるような面だ。

 嘴が立派過ぎて、逆に面白い。


 面白く可愛いが……。

 ヒューイの観察はここまで。

 光る鴉は奥に向かう、光る鴉の魔素は感知できないが行き着く先はだいたい予想できる。

 迷うことはないだろう。そして、複数の魔素の反応を掌握察から得ていた。

 

 と、右腕の戦闘型デバイスの風防硝子に出現しているホログラムのアクセルマギナが、


「葉が茂って邪魔ですが、魔素遮断タイプの生物に備えて偵察用ドローンを出しますか? それとも、小型オービタルを用いたバイク剣術で強引に駆け抜けますか?」


 と、聞いてきた。

 アクセルマギナは、俺の趣向がバイカーだと思っているようだ。


 バイカーブルゾン的なジャケットに衣服の変更はしない。

 ま、小型オービタルで爆走しつつ鋼の柄巻を振るうのも一興だがな。

 

「必要ない。ヒューイを活かす」

「分かりました」

 

 だが、魔素遮断タイプのモンスターには要注意か。

 ミホザの遺跡を調べた際に遭遇したヒトデモンスターを思い出した。

 いつ何時も未知のモンスターの襲来は考えられる。

 床や天井に壁、植物に擬態したモンスターとか。

 空間と一体化した透明なモンスターとかな。

 自分自身に注意を促すように無数の魔素の反応を把握しようと……。

 掌握察の魔素を強弱させて操作していくが、魔素には樹と虫も混ざるから掌握察が鋭すぎても、それはそれで把握が難しい。掌握察は<導魔術>の技術の範疇だが、その技術の扱いは非常に難しい。


 <分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を同時に行えば魔素の正体は分かるが。

 その<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>は使わず前へ歩きながら……。

 

 奥に向かう前に防具を意識しようか。

 

 右肩の表に竜頭金属甲ハルホンクの防具を出す。

 肩の内部からポコッと音が鳴るように出現した竜頭金属甲ハルホンク


「ングゥゥィィ」


肩の竜頭装甲ハルホンクが、素の肩から装甲の竜頭が現れる感覚は特異なモノ。

 端から見ればモグラ叩きゲームのモグラが、穴から飛び出るようにも見えるかも知れない。


 そのハルちゃんに向け、

 

「よ、ハルホンク」

「アルジ! クサクサ、タベル?」


 肩のハルホンクに新装備のイメージを送りつつ、

 

「いや、ベジタリアン気分ではないからタベナイ。衣装チェンジだ」


 そう発言すると肩の竜頭装甲ハルホンクの魔竜王の蒼眼が輝くと、

 

「ングゥゥィィ、ワカッタ、ゾォイ!」


 と竜としての口を上下に拡げた。

 顎の骨格は結構リアル、金属の竜らしい歯牙がびっしりと生えている。

 口から暗緑色の液体金属が勢い良く吐き出された。


 暗緑色の液体金属は、瞬時に俺の首と鎖骨を越えて左腕に展開。

 二の腕と手の甲に、真新しい防具を作り上げた。

 打撃の可動を考えて肘の防具はなし。

 下半身の靴は紐がないスリッポン系をイメージ。

 

 左腕を上げて新装備を確認。


 暗緑色の湖面。

 その湖面を漂う白色の枝と葉。


 ――イメージ通りだ。

 

 さすがは暴喰いハルホンク、魔界で覇王ハルホンクと呼ばれた存在。

 神話ミソロジー級のハルホンクのコートだ。

 竜頭金属甲ハルホンクは吸収した素材を活かし、自由自在に新防護服を展開することが可能だ。

 

 魔界王子デルカウザーの魔除けアミュレットも喰らった。

 その呪いを自らの糧に成長しては、ルシホンクの魔除けアミュレットも作った。

 

 イリアスの祝福の印は吐いて取り込めなかったが……。

 イリアス神の聖遺骸布を模した外套の一部は取り込めた。


 だから神界セウロス系以外なら大概のアイテムを取り込めるはずだ。

 そして、前方の岩に留まったヒューイを見て、

 

「光る鴉は奥に消えたが、ヒューイ、このまま奥に向かおうか」

「キュッ」


 岩から離れたヒューイ。

 爪先から出た鷹の爪で長い葉を切り刻む。

 時々、ホバリングを行うヒューイ。

 翼に集めた魔力で何らかの斥力を得ている。


 神獣ロロディーヌと同じ要領かな?


 大鷹としての荒鷹ヒューイを見てから、魔槍杖バルドークを右手に召喚。

 地面を蹴って、洞窟の奥に向かった光る鴉を追った。

 

 ――下に傾斜した洞窟を進む。

 ――左右の幅が洞穴らしく狭まってきた。

 天井の虫と清水も減った。

 

 奥から谺する水流の音は強まる。

 奥に滝があることは確実。

 そして、傾斜を感じさせない勢いで地面から生える樹木が多くなった。

 

 葉が茂って視界も悪い。

 ヒューイは葉が多くとも気にしていない。

 魔力を纏うと、飛行状態のままカーテン状にぶら下がる蔦に突っ込んだ。


 一瞬、蔦に絡まるかと思ったが、その蔦のカーテンを切り刻む。

 荒鷹ヒューイは嘴と両翼から魔力の刃を出していた。


 そして、両足から生えた鋭い爪も活かすように岩を掴んで着地。

 その岩を蹴っては、再び、低空飛行――岩場が多いからヒューイの低空飛行は楽そうだ。

 

 ヒューイの様子を見上げながら先を進む――。

 <導想魔手>は使わず――。

 洞窟の地面を走っていた。

 地面は硬い岩が大半だが、段々と柔らかい土と苔が増えてくる。

 

 傾斜した奥に進む度に、下の岩の間から生えた樹も増えた。

 樹海のような雰囲気となった。

 モンスターだと思った魔素は、樹に生えた葉の反応か?

 葉には、大きい魔素の反応もある。

 

 邪魔なカンナ風の葉が視界を覆った。

 直ぐさま、アーゼンのブーツを装着し直しては、魔槍杖バルドークを振るう――。

 

 そのカンナ風の葉を刈った。


 昔、こうやって――。

 ゴルディーバの里の下にある森の中の雑草をタンザの黒槍で切ったなぁ。

 

 ――穂先で宙に円を描くように得物を回す。

 ――横に振るって草を刈る修業。

 

 この草を刈る動作が――。

 風槍流の技に通じている。

 

 ――ありがとうございます。

 ――アキレス師匠。


 前方にステップする動作を加えた風槍流『風研ぎ』を活かす。

 アーゼンのブーツの足下から火花が散る。

 葉の根元を焦がす勢いの踏み込みから魔槍杖バルドークを振るった。

 豪槍流の<豪閃>は使わず――。


 掌握察を使いながら――。

 カンナ風とシダ系の長い葉を薙ぎ払って進む。

 脛をしきりに撫でつけてくるシダ系の葉。


 このメメント草っぽい葉の形も見たことがない。


 すると、変わった樹木とそれに生えた葉が見えてきた。


 鱗粉的な粉を周囲に発している蔦とシダ系の葉を擁した細長い樹木。

 

 樹の根に近いほうが赤色。

 樹の上に向かうにつれ、銀色と黒色と赤色の蔓とシダ系の葉が目立つ。


 それらの蔓とシダ系の葉は、樹に巻き付いた三色の蛇か龍にも見えた。

 

 蛇か龍といった動きはないが……。

 鱗粉を宙に撒き散らしているし、銀色と黒色と赤色の混ざった毒々しい葡萄的な蕾を無数に生やしているからモンスターと認識。

 

 ――突撃はしない。

 荒鷹ヒューイは全身に魔力を纏う。

 魔力を纏った大鷹らしい翼を羽ばたかせた。

 加速してはホバーリングを行って、天井を伝う樹木の群れと、その樹木が発している鱗粉を避けつつ、魔力の刃を続けざまに繰り出す。

 続けて、魔力を纏う翼から羽の形をした魔刃を飛ばす。

 

 羽の形をした魔刃で、鱗粉を撒き散らす細長い樹木を切断し、蔓とシダ系の葉を散らす。

 

 それら樹木と植物の切断面から血のようなモノが迸り、周囲に散っていた。


 俺も攻撃しておくか。


 魔槍杖バルドークを振るって、蔓とシダ系の葉に細長い樹木をぶった斬る。

 

 ヒューイが切断した樹木らと同じく――。

 斬った樹木と蔦とシダ系の葉から散った粘液っぽい血のようなモノが――。

 付近の岩に付着するや毒々しい色合いに変化した。


 それらの血のようなモノは激臭を放つ。

 魔槍杖バルドークを振るうことを最小限に留めた。


 鱗粉的なモノを出す細長い樹木を凝視。

 

 すると、前方の宙に舞う鱗粉に触れたトンボとバッタのような虫が、瞬時に、粘液状の網に捕らわれた。


 虫を捕まえた粘液状の網は、銀色と赤色のシダ系の葉が吸い寄せる。

 そのシダ系の葉は、粘液状の網の虫ごと急激に丸まって蕾と化した。


 蕾は一瞬で銀色と赤色の花と化す。

 綺麗だが、鱗粉が強まった。

 アメーバ的な泡飛沫が周囲に散る。

 樹木モンスターに派手な動きはないが、食虫植物モンスターであることに変わりはない。

 鱗粉が網に変化したから、珍しい部類だろうか。


 宙に展開した網はカメレオンの舌のような機動でシダ系の葉に戻っていた。

 網の表面には、粘液を分泌する腺毛のような器官が付いていたりして……。


 転生した直後の地底生活でも……。

 巨大な茎の中に複数の眼球を擁していた気色悪いモンスターと遭遇したな……。


 <投擲>で倒すことはできたが、あの時は怖かった。

 思い出したらSAN値が削られる。

 

 植物地理学者なら興味を抱きそうだ。

 考古学者風のドミドーン博士がいるように、この世界にも魔力を活かした植物地理学の研究はあるはず……。

 

 そんな考えのもと、観察を止めた。

 シダ系の葉と蔓を擁した細長い樹木モンスターを切り刻む。

 動かないから楽は楽だが……。

 多脚ブレードを持ったホームズンという種族を思い出す。


 種族ってより、俺たちからしたらモンスターと変わらない。

 果樹園に攻めてきた魔神帝国の兵士たち。

 独立都市フェーンを思い出しつつ――。


 ――魔槍杖バルドークを振るいまくって草刈り機と化した。

 が、いい加減、草が多すぎる――。

 

 新技を試すとしよう。

 <刺突>のモーションから腰を沈めて――。

 <獄魔破豪>を繰り出した。

 <血魔力>が噴き出した俺自身が螺旋する魔槍杖バルドークと一体化するように渦を宙に作りつつ突貫――血色の魔力が周囲に迸る。

 直線状の丈の長い草は炭化。

 床の一部を巻き込みながら一直線に魔槍杖バルドークは突き進む。


 周囲も血の炎的な魔力で草と樹が一掃された。

 凄まじい威力だが、相手はただの草と樹と地面……。いや、草と樹はモンスターと言えるか。

 グルド師匠の不満を表すように魔軍夜行ノ槍業が揺れた。

 そして、<闇穿・流転ノ炎渦>と似た技か。

 だから、<闇穿・流転ノ炎渦>を獲得した際に、グルド師匠は独自とか何とか言っていたんだな。


 グルド師匠は、無言のままだ。

 ま、気にしないって感じで、その魔軍夜行ノ槍業を叩く。

 と、魔軍夜行ノ槍業の揺れは静かになる。


 そうして、先に進むと……。


 次第に滝の音が弱まった。

 丈の長い草と葉が減って代わりに苔が増える。

 

 左右に洞穴を発見。

 左右の洞穴はどちらも奥が深そうで傾斜していない。


 三択か。どれにしようかな?

 と、ヒューイは迷うことなく、真っ直ぐ下降。

 

 なら俺も真っ直ぐだ。


 前方の斜面を選択――。

 アーゼンのブーツを消しながら、その苔の斜面を駆け下りた。

 素足で、ギュイーンと滑り降りる――。


 急遽足下に<鎖>で板を造った。

 

「ははは――ヒャッハー」


 坂降りサーフィンを楽しむ――。

 レファとの滝壺に落ちる遊びを思い出す。

 

 と、坂の傾斜が変わった。段々平らに近くなる。

 苔のふかふかは気持ちいい――。

 この芝生的な感覚に……ペルネーテの二十階層の森林地帯を思い出した。

 血獣隊と冒険した場所。すると本格的に傾斜は終了。


 平坦となった。洞穴の幅は段々狭まっているが――奥行きはある……な。

 前方にはトスカナ式のシンプルな石柱の間に、太陽と月に水飛沫に鴉のデザインが凝られた石柱が幾つか並ぶ。

 

 ハードマン神殿の頂上付近にあった石像っぽさもある。


「ミホザの遺跡とは違うようです」

「だろうな。聖櫃アークが眠っている遺跡ではないってことだろう。ハートミット艦長からの連絡もないし」


 まだバルスカルって野郎を追っている最中かな。

 白いキューブの聖櫃アークを盗んだ野郎だ。


 眼帯が似合うおっさんで端正な顔立ちだった。

 肩に魔鳥を乗せて、巨大な魔力を内包した機械の腕を持つ。

 鋼の柄巻と似た柄と、紫色のブレード……。

 帝国に所属した銀河騎士か銀河戦士の軍人ってよりは、ハーミットことハートミットと同じく宇宙海賊の傭兵っぽい印象だった。八皇って称号を持つ一人とか?


 他にも八槍神王的な八宇宙海賊王とかもいるかもな。

 

「はい」

 

 と、アクセルマギナの機械音声が、少し心地よく聞こえた。

 同時に、左手に絡まっていた<鎖>を消去。

 肌に感じる水気も強まった。

 気温も急激に下がると――柱の奥から魔素を感知。

 

 剣戟音も響いてきた。

 冒険者が戦っているのか。


 ここはネーブ村と繋がる地下迷宮ってことか。

 ヒューイは岩場に隠れるように待機した。それで正解だ。

 ヒューイも強いとは思うが、要心は大切だからな。

 

 しかし、凛烈たる寒気だ。


 まだ陽気な夏の季節だったと思うが……。

 枯れた秋の季節を通り越して一気に厳冬の季節って感じだ……。


 吐く息が白くないことが不思議。

 服装を牛白熊バージョンに変えるか迷うが、今回はこの装備で行くとしよう。

 

 魔槍杖バルドークを携えながら柱に向かった。

 柱の奥は水が噴き出る『ジャイアンツ・コーズウェイ』風の岩柱と鴉の石像が重なって天辺に形成された祭壇だった。

 しかも、その泉の中心には長方形の石碑があり、石碑に光る鴉が止まっている。

 俺たちを誘導した、あの光る鴉だ。

 

 その小さい祭壇付近で骨騎士と戦うモルセルさんがいた。

 

 モルセルさんは祭壇を守っているのか?

 水のモルセルという渾名は、このことからだろうか。

 てっきり魔槍と見た目の装備からくる水属性の使い手っぽさからだと思っていたが。

 

 骨騎士は氷の両手剣を持つ。

 続いて、氷のメイスを持つ骨騎士。

 白いマントを羽織った骸骨集団が、祭壇の右下と左下の奥のほうから出現してくる。


「左右からスケルトンソルジャーが来ます!」

 

 アクセルマギナのスピーカー音が谺する。

 同時に右腕の<光邪ノ使徒>のイモリザの肉肢が疼いた。

 

 属性的にツアンの出番ということか。


 それとも、閃光のミレイヴァルを出すか?

 そして、モルセルさんにはパーティーメンバーがいないのか?

 どういうことだろ。

 

 そう疑問に思いながらヒューイに口笛を吹いた。


「ヒューイ、知り合いだ。向かうぞ」

「ピュゥ~」


 ヒューイも岩から離れて俺の傍に来る。

 低空飛行のヒューイの麻呂顔を確認してからモルセルさんに駆け寄った。


 口笛の音と、魔素の気配から俺たちのことを察知していたであろうモルセルさん。

 俺たちを見て、

 

「評議員の護衛か!」


 そう発言しながら――。

 袈裟斬り軌道の氷の刃を鼻先で避けた。

 水色の魔力を纏う魔槍で<刺突>らしき技を繰り出す。

 骨騎士はカウンター気味に胴体に<刺突>系の技を胸元に喰らうと、その胸元に丸い風穴が空いた。


 胸元に丸い穴が空いた骨騎士は蹲って動かなくなった。

 モルセルさんは、水色の魔槍を手元に引く。

 その槍の引き際の弱点を狙うように、他の骨騎士が氷の両手剣を振るう。


 モルセルさんの眼光は鋭い。

 半身の姿勢で、その氷の両手剣の刃を躱してから――。

 その退いた半身を前へと押し戻すように体を駒的に横回転させた。

 

 前進ではない。

 後退の爪先半回転でもなく、爪先回転に近い技術でくるくるッと回って骨騎士と距離を取った直後――踵に刃でも仕込んであるかのようなブレーキングから素早く反転し、加速したモルセルさんは魔闘脚で前進。


 風槍流っぽいがステップの幅と体重移動が少し俺の〝爪先半回転〟or〝爪先回転〟と違う。

 骨騎士との間合いを電光石火の勢いで詰める。

 

 骨騎士は両手剣を水平に振るって、迫るモルセルさんを斬ろうとした。

 モルセルさんは屈んで氷の刃を避ける。が、耳を切られたモルセルさん。


 構わず――モルセルさんは右回し蹴りを骨騎士の胸元に喰らわせた。

 蹴りの衝撃で、ぐぐっと重低音を纏ったように、体がくの字になった骨騎士は吹き飛ぶ。

 その吹き飛ぶ骨騎士が握っていた氷の両手剣が転がり落ちた。

 

 そして、蹴りを放ったモルセルさんは隙があるように見えた。

 が、そのモルセルさんは、近くの骨騎士の攻撃する動きを把握しているように――半身を退き重心を下に傾け膝を落としつつ、鼻先に迫っていた両手剣の氷刃を手の甲の防具で叩いて、両手剣を横に弾いた。


 直後、他の骨騎士がモルセルさんに両手剣を突き出す。

 モルセルさんは、水色の魔槍の柄を盾代わり。

 見事、その氷の両手剣の突きを防ぐと、その水色の魔槍の柄を斜め前に押し捻って骨騎士が持つ氷の両手剣を下側に押さえる。

 刹那、モルセルさんは、水色の魔槍の柄と杭刃の角度を斜め上に変えた。

 両手剣の力の方向をずらされた骨騎士は両腕が硬直したように動きが鈍る。

 そこに、モルセルさんは、右肘の打撃を骨騎士の左肩に衝突させるや、前進しつつ回転させた水色の柄頭を、その体勢が崩れた骨騎士の頭蓋骨に衝突させていた。


 モルセルさんの槍を扱う技術は高い。

 骨騎士たちが繰り出すすべての攻撃を、水色の魔槍で弾く。

 

 しかし、敵の数が多いし増援もあるから、助太刀するべきだろう。

 

 そして、あの光る鴉は物質的な力はあまりないのか?

 力を失いかけている?

 祭壇的な小さい泉を守るモルセルさんに対して何もしない。

 

 俺は武器を魔槍杖バルドークから聖槍アロステにチェンジ。

 アーゼンのブーツを装着し直しては――階段を上がり、駆けた。

 狙いはモルセルさんを横から両手剣で突き刺そうとしている骨騎士。

 

 瞬く間に、その骨騎士との間合いを零とした。

 右足の踏み込みから聖槍アロステの<光穿>を骨騎士の背後からぶち込む。


 光の魔力を帯びた十字矛が骨騎士の背中をあっさりと貫通。

 骨騎士の背中周りと聖槍アロステからも眩い閃光が溢れる。

 

 同時に骨騎士の体に無数の亀裂が走った。

 その亀裂が派手に裂けた。

 

 骨騎士は蒼白い炎に浄化を受けたように爆発。

 というか爆発は光の塵になり、それらの塵が収縮しつつ消えた。


「モルセルさん、勝手な助太刀済みません――」

「とんでもない。見事な光技だ。助かった――」


 そう俺に発言しつつ――。

 骨騎士の振るった氷の両手剣を屈んで避けた。

 そして、膝を上げたモルセルさん。

 見知らぬ槍武術か。

 膝甲の防具で、両手剣の剣腹を下から衝いて浮かせて両手剣を弾いた。


 同時に水色の魔槍を斜め前に振るう。

 トンカチでもぶち当てたように石突の横が骨騎士の胴体と衝突。

 骨騎士は吹き飛んで転げ落ちながら岩階段と他の骨騎士とぶつかっては体がバラバラとなった。

 モルセルさんは槍の間合いを確保したまま――次の骨騎士に向けて――。

 

 水色の魔槍の柄を握る左手を押し、右手を引く運用で水色の魔槍を振るった。


 水色の魔槍の穂先は骨騎士の右肩を切断。

 モルセルさんは、その斬りは浅いと判断したのか。


 手早く水色の魔槍を脇に携えたモーションに移行。

 腰だめの間合いから<刺突>――。

 水色の魔槍の穂先が骨騎士の胸元を穿つ。

 更に、モルセルさんは、その骨騎士を、突いて、突いて、突きまくる。


 水色の螺旋した魔力の波が宙に誕生した。

 瞬く間に、骨騎士の胸元に五つの穴を作るや、水色の魔槍の柄を俄に持ち上げた。


 持ち上がったのは水色の魔槍の石突――。

 その石突が、骨騎士の顎を粉砕するや否や、頭蓋骨をも破壊した。


 風槍流『顎砕き』の最後の振り上げと似た槍武術。

 

 体も吹き飛んだ頭部なしの骨騎士――。

 背後の骨騎士たちを巻き込んで、岩階段を転げ落ちた。

 

 が、まだ岩階段には他の骨騎士がいた。

 骨騎士たちがモルセルさんに迫る。

 骨騎士の本命は、祭壇に止まる光る鴉ではなく、モルセルさんなのか?


 そう疑問に思いながら、モルセルさんに向け、

 

「一掃に協力します」


 と、骨騎士へ向けて聖槍アロステを振るった。

 

 骨騎士の首を聖槍アロステで捉えて刎ねた――。

 宙に飛んだ頭蓋骨はカラカラ嗤うが、蒼色の炎に包まれて爆発。

 

 一方、頭部なしの骨騎士の体はまだ動いていた。

 首の断面に蒼色の炎を宿したまま俺に振り向こうとする。

 

 俺は右手に鋼の柄巻を召喚。

 鋼の柄巻に魔力を通しつつ右に振るった聖槍アロステを、首なし骨騎士の左足目掛けて振るい落とす。

 首なし骨騎士の左足をアロステの十字矛が切断。

 片足を失った首なし骨騎士が、バランスを崩し倒れ掛かったところに――。

 ブゥゥゥンという音を叩き付けるように袈裟懸けの青緑色のブレードを浴びせた。


 首なし骨騎士を斜めに斬る。

 両断された肋骨から溶けて透けるように消失。

 

 次の近付く骨騎士たちには――。

 <超能力精神サイキックマインド>を喰らわせる。


「ドガッ」


 鈍い音を響かせながら四方八方に吹き飛んだ骨騎士たち。

 刹那、その吹き飛んだ骨騎士たちにヒューイが襲い掛かった。

 

 頭蓋骨を両足の爪が掴んで上昇。

 頭蓋骨と脊髄と肋を引っこ抜くと飛翔していく。

 その頭蓋骨を両足の爪で握り潰し破壊。

 

 再びターンを敢行し他の骨騎士へと襲撃に向かう。

 突貫中の荒鷹ヒューイは「ピュゥゥ」と大鷹らしい声を発した。

 そのまま俺の<血鎖の饗宴>を纏った槍の如く特攻するかと思ったが、大きな両翼から羽の形をした魔刃を散らす。

 羽の魔刃を喰らった骨騎士は一瞬で胴体が切り刻まれて倒れた。

 

 荒鷹ヒューイは強い。

 が、遺跡の奥の通路から骨騎士の増援が出現した。


「ヒューイとモルセルさん、俺は右の前に出ます」

「了解した」

 

 と、前進――。

 左の噴水祭壇をチラッと見てから岩が重なった階段を下りながら――。

 アーゼンのブーツを消去。

 素足から<血鎖の饗宴>を下に向けて展開――。


 無数の血鎖の群れが波頭的な絨毯、いや、血に飢えた猛獣のような動きで骨騎士たちを飲み込んだ。

 骨騎士たちの大半は血鎖の海の中で蒼白い閃光を発しつつ消えた。


 よーし!

 <血鎖の饗宴>を消去。

 が、骨騎士の不気味な声が左と右の奥から谺する。


 わらわらと奥から現れている骨騎士モンスターの数は軍団規模か?

 岩の階段を上がり戻った。

 左側から迫った骨騎士をモルセルさんが倒す。

 ヒューイもモルセルさんを助けている。

 ミレイヴァルやイモリザは出さず――振り向いた。


 下から『ジャイアンツ・コーズウェイ』的な階段状の岩を上がる骨騎士を把握。先頭の骨騎士が持つ武器は氷の両手剣。

 

 その切っ先で俺の胸を貫こうとしてきた。

 聖槍アロステを斜め上に、柄を握る手を斜め前に出し聖槍アロステの角度を変える――螻蛄首で氷の両手剣の切っ先を受けた。


 即座に自分の足の踵を魔竜王の骨と鱗のスパイク防具に変更。

 そして、聖槍アロステの柄を押し上げ、氷の両手剣を前に弾きつつ、骨騎士の肩口に浴びせ蹴りの<湖月魔蹴>を喰らわせた。


 踵のスパイクの威力を物語るように骨騎士は肩から散る。

 骨の残骸も吹き飛んだ。

 残骸は、下から上がってきた複数の骨騎士と衝突していくと、その骨騎士たちは転がり落ちていく。

 

 『ジャイアンツ・コーズウェイ』的な階段の下で骨騎士たちの残骸が積み重なって新たな障害物となった。


 骸骨集団の目的は、モルセルさんの命か?

 それとも噴水祭壇を汚すことか?


 目的は不明だが、少しは時間が稼げるか。


『妾たちが右の穴に赴いて、すべてを斬り伏せてこようか』

『それもありだが、奥も広いし大軍だが、今はこの狭さを利用だ』

 

 と沙に念話を送りつつ波群瓢箪を出す。

 雛壇的な平たい岩階段に置いた波群瓢箪からリサナが出た。


 全身から桃色の魔力を放つリサナの両手には扇子があった。

 

 三角帽子から突き出た鹿の角。

 顔はヘルメやレザライサと似ていて美人さん。


 半身が半透明。

 骨と血管を伝う魔力の血流は不思議だ。

 

 半透明よりもドレス的なホルターネックがたまらない。

 そして、ダイナミックな巨乳さんが見事に揺れている!

 

 肌に密着したキャミソールはインパクト大だ。

 その魅惑的なリサナは両手に持った扇子を拡げて、ポージングしつつ着地。

 

 扇子から小さい魔法陣を生み出して、音符の魔線をあちこちに造る。

 扇子を捻りつつ右手と左手で宙に八の字を描くように躍る。


 可憐だ。

 ゴシック系の音楽も鳴り響く。

 

「リサナ。早速だが、階段の下から迫る骨騎士たちを倒してくれ」

「はい――♪」


 リサナが体から放出した桃色の魔力粒子が宙に展開。

 桃色の魔力粒子の中と表面には、カタツムリとナメクジっぽいデボンチッチ的な不可思議なモノたちが泳ぎつつ演奏を奏でている。

 

 同時に、周囲を桃色に染めていった。

 刹那、骨騎士がリサナに向かう。


 リサナは両手の扇子を使わず――。

 操作した波群瓢箪を、その骨騎士に<投擲>するように放った。

 重い波群瓢箪と衝突した骨騎士は一瞬で重低音を響かせ潰れると重い波群瓢箪の攻撃を喰らった床の岩場も大きく陥没してしまう。


 と、波群瓢箪は周囲に衝撃波を飛ばした。

 衝撃波は風の魔刃的な魔法だった。

 衝撃波を喰らった骨騎士の一部は切断されて吹き飛ぶ。


 白マントを羽織る魔法使いタイプの骨モンスターは、杖から出した防御魔法で風の魔刃の攻撃を防いでいた。


 俺は岩階段を上がって、モルセルさんの元に戻る。

 そのモルセルさんも左側から上がってきた骨騎士を倒しきっていた。


 笑顔を向けてくる。

 が、骨騎士の増援は止まらない。


 右側はリサナが活躍中だから骨騎士はいないが、左側だ。

 その左の下から不気味な音が谺する。

 

 左の岩階段に足を掛けた骨騎士たち。

 骨騎士に、メイス持ちが増えた。

 

 それらの骨騎士たちは俺たちを睨む。


「ウゴォォ」


 と不満そうな音を立ててきた。

 白マントと白法衣を着た杖を持つ魔法使いタイプもいる。

 ペルネーテの迷宮に出現した死霊法師デスレイ的な存在か。

 だが、不死系の骨類ってだけで見た目の造形は大幅に異なる。


 沸騎士たちとも違う。

 

 獄界ゴドローンから来訪した魔神帝国の一派、地底神の勢力に属した骨騎士か。

 または魔界セブドラ側の骨騎士だろう。


 その骨騎士たちに向けてモルセルさんは、水色の魔槍を差し向けつつ、


「シュウヤと言ったか、もう一度礼を言う。ありがとう。あの重そうな巨大な壺を軽々と扱える美人さんも凄い。だが、左側から来る骨剣魔人ブブルーの勢力も多そうだ。また頼む」

「はい」

「しかし、この水鴉の噴水祭壇に関する依頼はギルドには無いはずだ。そもそもどうやってここに辿り着いた? あ、ラミエルのおっさんから情報を得たのか?」

「いえ、領主様はまだ。そこの光る鴉に導かれて……」


「光る鴉?」


 と怪訝そうな顔を作るモルセルさん。

 片方の眉を下げて、不思議そうな面を寄越す。

 その疑問げなモルセルさんに、石碑の上に止まったままの光る鴉のことだ。と意味を込めて――噴水祭壇の中心へと視線と顎を向けた。

 俺の視線と頭部の動きに釣られたモルセルさん。

 

「それは……」


 と発言しつつ噴水祭壇の中心を見る。

 噴水祭壇を再び見たが、祭壇の中心にいたはずの、光る鴉は消えていた。

 そのモルセルさんは、チラッと下から迫る骨騎士たちを見据えてから、俺に視線を寄越し『大丈夫か?』という面で、

 

「光る鴉……いないが」


 と聞いてきた。

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