六百七十四話 双剣フゼルとの戦い&救出

「ヒューイ、行くぞ、俺についてこられるか?」

「キュゥ」


 悲鳴が聞こえた塔は――。

 浮遊岩の上に立つ塔と塔が連なる先――。

 戦闘型デバイスから偵察用ドローンは出さない。

 小さい浮遊岩を蹴って上昇――。

 宙空で足場の<導想魔手>を生成。

 その<導想魔手>を蹴って高く跳ぶ。


 魔塔の群れか。浮遊岩もチラホラと――。


 しかも、無機質な鋼の管を生み出す浮遊岩と魔塔があった。

 更に、水が湧く浮遊岩に水蒸気を噴霧する魔塔。

 林冠を要した背の高い椰子が茂る浮遊岩。

 急流と岩がぶつかって滝を作る浮遊岩。

 タロイモがぶら下がる浮遊岩。


 ――自然豊かな浮遊岩。

 ――鋼鉄を生む魔塔と浮遊岩。


 それらの空中都市を構成する様々なモノが無造作に生えたタンポポと、その種のように見えた。


 エセル界に通じるからこその浮遊岩だと思うが――。


 タンポポってより、鋼の管を生み出す浮遊岩と魔塔は、スチームパンク擬きの文明を有した異星人っぽい文化か?


 さて、散らばる浮遊岩に<鎖>を刺して移動するか?

 と、迷ったが、止めておこう。


 踏み台として利用させてもらう――。

 ――大きい浮遊岩を蹴って、魔塔に向かう。


「きゃぁぁぁ」


 と、悲鳴がまた塔と浮遊岩が重なるほうから響く。

 斜めに伸びた魔塔の中には魔素が複数――。


 かなりの数だ。

 手練れそうな雰囲気を持つ魔素も多い。


 ヒューイの翼を使った空中戦闘の修業は無理そうだ。


「――ヒューイ、もうすぐ戦闘が始まるかも知れない。無理せず、上空で待っててくれ」

「――ピュゥ」


 荒鷹ヒューイが魔塔の上空を舞う。


 <無影歩>を発動。


 手前の崩れかけた魔塔に着地――。


 幸い着地した箇所は頑丈だった。

 視線を上げて、頑丈そうな斜面を選びつつ――。

 窓の間を抜けるように、前へ前へと駆け登った。


 また、跳躍。


「近付かないで! 皆はどこ? あなたたちは!?」


 女性の声が近くから響く。

 魔素の反応の位置――。

 割れた窓から下を覗いた。

 塔の中は広々とした廃墟。

 その中央で、半裸の女性が寝かされていた。


 女性は学生?

 制服は切られて足に傷を負っている?


 制服の一部は床に散乱。

 どこかの魔法学院の生徒か。


「……お母様が知ったら、この状況を知ったら……あなたたち、どうなるか」

「どうなるか、だと? お前の護衛がどうなったか、覚えてないのか?」


 仮面を被った男が向けた視線の先には……。

 両手を結ばれたまま倒れている空魔法士の制服を着た者たち。

 冒険者風の衣装を着た者たち。


 皆、死んでいるようだ。

 装備からしても一流。

 マントを羽織る男の装備品は一級品か。


「え……ロッソネル様、エイン様まで……あぁ」


 泣いた女子生徒。


「見ての通り、強かった空戦魔導師と冒険者に空魔法士隊の【武空】とやらは、死んでいる」

「そ、そんな」

「ルイ、楽しむとしようぜ、仕事はまだある」

「さっさとやっちゃってよ、暇つぶしに楽しむわ!」

「ひぃぃ、あな、たは! 女性でしょう!」

「だから、何?」

「大人しくしてろや――」

「うあぁ」


 女子生徒は腹を蹴られて、大人しくなった。


「また、気を失うか?」

「ぅぅ、む、むこうに、行って……おかあさま……」

「その母親の評議員ペレランドラを恨むんだな」

「評議会の意向に逆らうから、こうなるんだ」

「イコ、本気で蹴るなよ、良い機会をくれた雇い主に感謝して、向こうにいってろ」

「あぁ……」

「……へへ」

「こっちに来ないで、これ以上近付いたら、舌をかみ切って死にます」

「おぃおぃ、お嬢様よ、無理はするなよ」

「……」


 女子生徒は躊躇う。


「……ぬくぬくと育った評議員のお嬢様が、舌をかみ切れる訳がない」

「おっと、口は押さえさせてもらうぜ――」


 女子生徒は口を紐で拘束される。


「さて、たっぷりと、ペレランドラ様に、この状況を理解してもらおうか」

「……」

「まだ逃げようとしてやがる。逃げても、この繁華街の端には、【武空】はこねぇよ」


 複数人の男とふざけて嗤っている女に囲まれていた。


 怒りで血管がぶち切れる。

 心臓は怒りで高鳴るが……。 

 冷静に、ゆっくりと怒りは手放すとしようか。


 ――窓をぶち抜く勢いで侵入。

 女性の近くの男たちを<超能力精神サイキックマインド>で吹き飛ばす。

 <無影歩>を解除――。


 着地。


「げぁあ――」

「ひぁぁ――」

「――何?」

「まだ護衛がいたのか、殺せ――」


 ――前傾姿勢で前進しつつ風の刃の魔法攻撃を避けた。

 そのまま間合いを潰した男の喉をジャブで潰してから、顎をスマッシュでぶち抜く。

 続けざまに<鎖型・滅印>を意識――。

 左のボウガンを持つ射手の頭部を<鎖>でヘッドショット。

 同時に、右の剣士の頭部を梵字が宿る<鎖>が貫いた。

 続いて、頭部を潰した剣士の斜め後ろにいた短剣使いとの間合いを零とした。


 短剣使いの股間を蹴り上げた。


「ぎゃふ――」


 股間が潰れた短剣使いは、体が浮く。

 その浮いた短剣使いの胴体目掛け――。

 魔槍杖バルドークの<血穿>を繰り出す。

 ――血を纏う嵐雲の穂先が短剣使いの胴体を貫いた。

 更に紫色の柄から出た<血魔力>が腕に纏わり付く。



 体がくの字になった短剣使いは魔槍杖バルドークの穂先にぶら下がった。その背中からバルドークの咆哮染みた螺旋する血飛沫が迸る。


 瞬く間に、その血を吸い寄せた。

 しかし、風の刃が飛来――。

 俺は、即座に頭部を傾け、その風の刃を避けた。

 同時に右手の魔槍杖バルドークを消去。


 しかし、連続的に飛来する風の刃は迅速だ。

 頬ッと耳ッと右腕ッに喰らう。

 傷口から血が迸った。

 痛いが我慢しつつ足下に<生活魔法>の水をばら撒く――。


 半歩、左足を引いて、爪先半回転を実行――。

 続けて、右足で、半歩退がる。

 背筋を反らして風の刃を避けた。

 が、避けられなかった風の刃を背中と右太腿に受ける。


 竜頭金属甲ハルホンクの防護服越しの衝撃だったからあまりダメージはない。

 そのまま爪先回転で一回転――。


 右足で地面を蹴り、横に移動して、風の刃を避ける。

 動きを止めた直後。


 右手を、斜め右前の女性魔法使いに向ける。

 風の刃を繰り出してきた女性魔法使いだ――。


 右手首の<鎖の因子>から<鎖>を出す。

 女性魔法使いは、風の刃で俺の<鎖>を弾いてきた。


 動きが加速した女性魔法使いは、距離を取りつつ左に移動。

 狙いを変える!

 その女性魔法使いの奥にいた剣士の胴体を一対の<鎖型・滅印<鎖>>が貫く。


 女性魔法使いを追うかと思ったところで、視界の右端に、飛来する短剣を把握――。


 左足と右足でステップを踏むリズムを変えつつ、歩法を弄る。

 臨機応変の風槍流の妙を使う――。


 飛来する短剣を避けつつ――。

 <鎖>を消して、正面の槍使いに近付いた。


「なんだこいつは、踊るように避けやがる」

「しかも、ダメージを受けても回復してやがるぞ――」

「俺が倒す――」


 そう宣言した槍使いの武器は短槍――。


 その短槍の矛が、間合いを詰めた俺の頭部に迫る。

 左手に神槍ガンジスを召喚しつつ――。

 召喚した右手の魔槍杖バルドークを斜めに上げて、槍使いの<刺突>を受けた――。

 同時に、左手の神槍ガンジスの<光穿>を繰り出す。


 眼前で盾代わりの紅色の嵐雲の矛と杭の刃が衝突。

 火花が散った。

 目の前の短槍の杭の刃の勢いは急激に落ちる。


「げぇ――」


 槍使いが苦悶の声を上げた。

 神槍ガンジスの方天画戟が、槍使いの胴を鎧ごと貫いていたからだ。


 方天画戟風の神槍ガンジスの矛を払うように消去。

 続けて、右から俺の肩口を狙った剣を<導想魔手>で受け止めた。


 槍を出した直後、『槍の引き際』の槍使い共通の隙をついたつもりだったのか、驚愕したような表情を浮かべた剣士、


「な!? <速閃>が――」


 ――スキルの攻撃か。

 <導想魔手>を消すと同時に――。

 <超能力精神サイキックマインド>で、その剣士と剣を吹き飛ばす。


 ――続けざまに両手から<鎖>を出した。

 吹き飛ぶ剣士の頭部と腹を<鎖>が貫いて倒す。


 両手を最小の動作で動かしながら、側転。

 移り変わる視界の中、逃げた女性魔法使いが、俺に放った風の刃の動きは把握している。


 その風の刃を<鎖>で迎撃――。

 手首の龍の入れ墨っぽい<鎖の因子>のマークから出た<鎖>が伸びる。

 その<鎖>を出した俺に対して、短剣を<投擲>してきた短剣使いがチャンスと見たのか――。


 笑顔を作りながら間合いを詰めてきた。


「――喰らえや、<速王・剣羅>」


 そう喜び叫ぶ短剣使いを、左手で掴むように手首を向けた。

 <鎖の因子>のマークをスコープに見立て――。


 その<鎖の因子>から<鎖>を射出。

 短剣使いの頭部を<鎖>が狙う。

 しかし、連続的に繰り出す短剣の刃で、俺の<鎖>は弾かれた。


 短剣の刃から迸る火花と散る怪しい魔力。

 魔法の短剣か――。

 ならば、と――魔闘術の配分を変えつつ<鎖>を消去。

 血魔力<血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>。


 ――<槍組手>と<魔人武術の心得>も活かす。

 ――短剣使いとの間合いを電光石火の勢いで詰めた。


「え?」


 槍と<鎖>を主軸にする俺だ。

 自ら得意とする近距離戦から更に間合いを詰めてくるとは思わなかったようで驚く短剣使い。

 その顔面に<導想魔手>の拳を繰り出す――。

 同時に<鎖>を出すフェイク。

 強者の短剣使いはフェイクに掛かりながらも<導想魔手>の拳を見事に魔法の短剣で防ぐ。


 が、<鎖>のフェイクに掛かって動作が遅れた。

 その足を刈るように下段蹴りをぶち当てた。


 蹴りの衝撃で体が回転した短剣使い。

 続けて、左手の掌底の<悪式・霊禹盤打>で首を落とすイメージで、首を薙ぐ。

 同時に<死の心臓>の貫手で――「ぐふぇぁぁ」と、短剣使いの心臓を貫いた。


「あのイコ・ビスクロルを……糞が、わたしの<風鋼刃>も防ぐし……こんな強者、見たことないよ!」


 先ほどから無詠唱で風の刃を繰り出し続けている女性魔法使いの言葉だ。 

 魔槍杖バルドークの紫色の柄で、その<風鋼刃>を弾く。

 バルドークが震えるように振動。

 重さもあるし速度もある風の刃を無詠唱とか、ヤヴァい。

 その女性魔法使いを睨む。


 同時に<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>。

 魔法の障壁で<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>は防がれた。


「魔法使いでも、ある――え?」


 女性魔法使いの頭部が爆ぜた。

 梵字が煌めく<鎖>が魔法の障壁ごと魔法使いの頭部を貫いていた。

 優秀な女性魔法使いだったが――。

 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>の中に<鎖>を交ぜていたことに気付かなかった。


「どこぞの闇ギルドの手合いだろう。油断するな――」


 敵の声が響いた。

 他の魔法使いが、詠唱を終えていた。

 火球と雷球が迫る。

 <鎖>を消しつつ――回転を続ける。

 ――状況を把握。

『ヘルメとシュレ』

『はい!』

『主!』


 <シュレゴス・ロードの魔印>。

 ヘルメの<精霊珠想>を発動。

 俺の左手と左目から出た魔力の盾で火球と雷球を防ぐ。


「手と目から桃色と青色の魔力が出たぞ」

「お前は空戦魔導師か!」


 女性剣士が近寄ってきた。


『ヘルメとシュレ、戻っていい』

『はい!』

『主――』


 思念を送りつつ――。

 片方の<鎖>で、その女性剣士の胴をぶち抜こうとした。


「それは見たよ!」


 と、素早い女性剣士が振るったグラディウスの剣と<鎖>は衝突。

 魔力の火花が散った。

 優れた武器だな。


 んだが、<鎖>は一方通行ではない。

 <鎖の念導>で<鎖>を操作――。


 女性剣士の腕に<鎖>を絡ませた。


「え?」


 驚く女性剣士。

 俺は、魔槍杖バルドークの矛を傾ける。

 嵐雲の矛でぶっ叩くように薙ぐか?

 が、そこに、


「ミサ! 離せや」


 仲間を助けようと、近寄ってきた剣士。

 俺は女性剣士から、狙いを、その近寄ってきた剣士に変えた。

 そのまま魔闘術の配分を変えた半歩前進の『風研ぎ』を実行――。

 一瞬で、間合いを詰めた剣士の剣が、俺の頬を削るのを感じながら魔槍杖の紅色の嵐雲の矛を前に出していた。


 カウンターの嵐雲の矛が剣士の腹をぶち抜く。

 俺と相手の血飛沫の視界となった。


「ぐあぁぁ」

「きゃぁぁ」


 俺の<鎖>が腕に絡まる女性剣士は転倒。

 続けて、


「囲め」

「あの鎖はなんだ」

「槍に用心しろ」

「仲間を呼べ」

「回復が異常だ」

「足技もあるが、回復スキル持ちだろ」

「或いは魔族の血を引く者?」

「光装を用意しろ」

「吸血鬼か!」

「いや、吸血鬼が人族を助ける訳がないだろ」

「だいたい、ここは上界だぞ」

「下界なら分かるが、吸血鬼一族が忍び込む理由がない」

「だったら、なんだ」

「いいから、さっさと動け」

「囲んで、一気に潰せ」


 と集結してくる傭兵か不明の者たち。

 近寄ってきた者たちに向けて――。


 <超能力精神サイキックマインド>をぶち当てた。

 吹き飛んだ者たちは、魔塔の壁と衝突。


 壁が崩れて瓦礫に埋もれる吹き飛んだ者たち。

 が、<超能力精神サイキックマインド>に耐えた強者がいた。


 その男の眼前にネックレスが浮かんでいる。

 凄まじい魔力を内包したネックレスだ。


 荒神か、魔界の神か、不明だが、神話ミソロジー級か。


「ングゥゥィィ……」


 竜頭金属甲ハルホンクが反応。

 ルシホンクの魔除けアミュレットと似たような装備ってことか。


 そのネックレス持ちの男は、


「……空極のような強さの魔槍使い。お前の名は?」


 と、聞いてきた。

 ネックレスから蜂蜜色の髪を持つ幻影が出現。

 赤い双眸と背中には、黒い翼を持つ。

 足は十字架で磔……。


 どっかで見たことがある。


 魔界セブドラの神の一柱か。

 長い腕が六つもある。

 六つの掌にある目を翳す。


 と、その神らしい幻影は消失した。


「シュウヤだ。で、そのネックレスには、特別な、何かが、組み込まれているようだが」


 俺の質問にイラッとしたような面を見せる強者風の男。


「……シュウヤ? 聞いたことがない」

「お前の名は?」


 強そうな相手だ。噂の【八指】とか?


「俺はフゼル。双剣フゼルという名がある。シュウヤは、評議員ペレランドラの用心棒か?」

「違う。通りすがりの、槍使いだ。お前は【八本指】、【八指】とかではないのか」

「ほぅ、闇社会で有名な【八指】か。嬉しいが違うな。で、槍使いシュウヤとやら、なぜ部外者が、そこのペレランドラを助ける? 評議員から金でももらうためか?」


 女子生徒はペレランドラか。


「金か。もらえるなら嬉しいが、違う。しいて言えば、小さなジャスティスだ」

「あぁ?」

「――糞、なによ、この鎖は!」


 転倒していた女性剣士だ。

 転がりつつ腕に絡む<鎖>を消そうと、床に腕ごと<鎖>の一部を叩き付けていた。

 そして、魔道具で<鎖>を消そうと試みる。

 が、俺の<鎖>は消えない。

 侵食系の魔道具なら<鎖>は消せるかもしれないが……。

 たぶん、普通のアイテムで<鎖>を消すことは無理だ。


 俺は<超能力精神サイキックマインド>を防いだ男を睨む。

 この男、双剣フゼルは、他とは違う。


 その双剣フゼルは銀色の双眸で、俺を睨む。


「正義? それだけで評議員の娘を助けるとか……」


 そう愚痴を吐くように呟く<鎖>を外そうと必死な女性剣士。


 ……たしかに、昔なら放っていたかもしれない。


 相棒の約束だけを果たせれば、良かったからな……。

 が、今は自分の行動に自信がある。


「……今の行為を見ただろう。この槍使いは、それだけ力と行動に自信があるということだ」


 双剣フゼルが、仲間の女性剣士に対して、俺の気持ちを代弁するように語った。


 双剣フゼルか。


 かなり強いと分かる。

 片方の目には魔力が溜まっていた。


 魔察眼ではないだろう。魔眼か。


 双剣フゼルは魔眼で俺を観察している。

 鑑定眼なら効かないはずだが……。


 この世は広い、何があるか、分からない。

 魔眼持ちは危険だ。


 俺も警戒しつつ――地面に倒れた女子生徒を見た。

 女子生徒は足を痙攣させているようだが、魔素はある。

 死んでいない。


 が、痙攣といい不安に感じた。

 俺は右手で腰の閃光のミレイヴァルを触る。

 <霊珠魔印>を意識――。

 銀チェーンが俺の腕に一瞬で絡まると、魔力を込めた。

 と二の腕のマーク<霊珠魔印>と同時に胸元も輝く。


「なんだぁ?」


 双剣フゼルは一歩、二歩、退いた。


 一方、青白い光を発した金属の杭。

 杭は塵となってミレイヴァルを模ると、瞬時に実体化。

 現れたばかりのミレイヴァルは、状況を把握しようと、即座に聖槍シャルマッハを持ちつつ回転。


 彼女の甲の十字架も光り輝く。

 ミレイヴァルの黒髪の艶は魅力的だ。

 そして、聖槍シャルマッハを<鎖>を消そうとする女性剣士に向ける。

 やや遅れて、強者のネックレス持ちの双剣フゼルにも差し向けた。


 俺は魔槍杖バルドークを右手に召喚。


「陛下――破迅団団長ミレイヴァルが見参」

「左目と左手といい、人を召喚できる魔神具持ちなのか。……驚きだ」

「……大魔術師とでもいうの?」


 双剣フゼルと女性剣士は驚く。


「――ミレイヴァル。悪いが、左で倒れている女の子を守ってくれ。制服を着ている。俺はこの男に集中する」

「はい――」


 ミレイヴァルは聖槍シャルマッハを動かしつつ素早く倒れている女子生徒の下に向かった。

 俺は驚く二人を見てから――<鎖>を操作。


「きゃ――」


 女性剣士の片腕に絡む<鎖>を手首に収斂――。

 同時に腕に<鎖>が絡まる女性剣士も、俺に引き寄せられる。


 驚く女性剣士も咄嗟に剣を差し向けたが遅い――。

 ――<血鎖の饗宴>を発動。

 血の鎖の波頭が引き寄せた女性剣士を呑み込んだ。 

 女性剣士は爆発したように散った。

 <血鎖の饗宴>が、その衝撃を完全に吸収。


 不思議なネックレスを懐に仕舞った双剣フゼルが、


「――吸血鬼か!」


 と発言しながら光のナイフを<投擲>してきた。

 <血鎖の饗宴>でその光のナイフを迎撃しても良かったが――。


 瞬時に<血鎖の饗宴>を消去。

 飛来する、光のナイフを、指で挟んだ。


「――な!?」


 ナイフ越しに強者の双剣フゼルを睨んだ。


『やっと妾だな?』

『いや、すまん、出すつもりはない』

『ぐぬぬ、槍使いとしてか』

『おう』


 左手に棲まう神剣サラテンの沙に謝って返事をした。


「なぜ、持てる……神聖教会の司祭から祝福を受けたアードのナイフだぞ?」

「悪いが、俺は吸血鬼ヴァンパイアじゃない。光魔ルシヴァルって種族だ」

「……チッ、光に耐性を持つとか、知らぬ種族だ。それでいて魔族の古い血脈の者……厄介過ぎる。いや、噂で聞く邪神の眷属なのか……」


 双剣フゼルがそう語る。

 すると、右腕の肘付近が動いた。

 イモリザだ。


 が、出さない。


「違うが、ま、似たようなもんだ、これはもらうぞ?」

「……」


 敬礼していたアクセルマギナの中にアードのナイフを納めた。

 即座に戦闘型デバイスの風防の真上にアイコンとして、アードのナイフが浮かぶ。

 すぐに、サンドアート風の演出でアイコン類は消えた。


 その間に、相対した双剣フゼルは二剣流の構えをとりながら……。

 じりじりと間合いを詰めてきた。


 歩法で分かるが、かなりの手練れだ。


「<油蝉>――」


 双剣フゼルが加速。

 先に仕掛けてきた。

 湾曲したような剣の軌道の下段払い――速い――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を超えた速度。

 その下段払いを魔槍杖バルドークの竜魔石が防ぐ――。

 続けて、俺の胸元に双剣フゼルの剣刃が迫った。

 即座に魔槍杖バルドークを傾けて、柄の上部で、そのフゼルの剣刃を防ぐ。

 が、次の速剣の突きに対応が遅れた。

 竜頭金属甲ハルホンクの防御を貫かれた。

 痛いッ――胸を突かれた、が、浅い。


 風槍流『枝預け』の要領で魔槍杖バルドークを押し出す。

 再び、迫る剣を弾く。


「<魔加速>状態の<油蝉>を防ぐとはな――」


 そう喋った双剣フゼル。

 更に加速して体が左右にぶれる。

 分身的な能力か? そのぶれた双剣フゼルは、幾つも短剣を<投擲>してきた。


 爪先回転で、その短剣の群れを避ける。


 俺の避ける機動を読んだ双剣フゼル。

 ――長剣の払いがきた。

 俺の胴を薙ぐ軌道の剣刃――。


 双剣フゼルは魔人か?

 狂眼トグマは直角的で動きが速かったが、それに勝るとも劣らない。

 <魔加速>と喋っていたが、<縮地>を使っているのか? 


 凄まじい速度だ――。

 左手から<鎖>を出す。

 <鎖>で、双剣フゼルの長剣を弾く。

 <鎖>で方向がずれた長剣を引く双剣フゼルは構わず――。


「<連斬り>――」


 と呟きつつ左右の剣を迅速に振るってきた。

 空間ごと撫で斬る勢いだ。


 ――素直に受けない。

 バックステップで退いた。

 双剣フゼルは、片手の武器を消去、丸薬を飲む。


 と、また片手に武器を召喚――。


 手首とネックレスが光る。

 手首と胸の魔道具が連動しているのか?


 装備の出し入れが可能か。

 俺と似たようなアイテムボックス。


 双剣フゼルは――追撃してくる。


 即座に左手に神槍ガンジス。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚。


「ぬおおおおおお――」


 吶喊してくる双剣フゼルを、二槍流の構えで出迎えた。


 左手の神槍ガンジスで<刺突>。

 右手の魔槍杖バルドークで<刺突>。

 が、迅速に振るった双剣で、嵐雲の穂先と双月の矛は弾かれる。 


 ――魔剣か。

 そして、光魔騎士シュヘリアのような技術。

 その二振りの長剣から魔の紋が出て宙空で炸裂。


「<双鬼・連>――」


 双剣フゼルは、下から、ぶれる速度で二振りの剣を振るってくる。

 剣刃から四つの剣刃のような風の刃が出現。


 俺は神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを短く持ちつつ――。


「<水雅・魔連穿>――」


 を繰り出した。

 方天画戟と似た穂先の神槍ガンジスが振動。

 槍の連続した突技――。

 <双鬼・連>の四つの剣刃を潰す。


「まだまだァァァ<改式・ラゼラル>」


 双剣フゼルが握る魔剣の刃から螺旋した魔力の刃が飛び出てきた。

 俺は即座に神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを引く。


 <刺突>のモーションを取る。

 間髪容れず<女帝衝城>を繰り出した――。


 神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの二つの<刺突>。

 その突きのモーション中――。

 血濡れた神槍ガンジスと魔槍杖バルドークから――。


 血の茨を彷彿する魔槍の群れが迸った――。

 更に、俺の血を触媒とした女帝槍レプイレスさんの幻影が出現。

 女帝槍レプイレスさんは血濡れた魔槍の群れを従えるように、周囲に茨道、いや、茨的な、マントを羽織るように、双剣フゼルを襲撃――。


 小さい城と衝突したような双剣フゼルは体を貫かれていく。


 双剣フゼルの両手首のアイテムと魔剣を破壊。

 が、ネックレスは防御層を張って双剣フゼルの心臓部を守る。

 <女帝衝城>の一部を防ぐとは、凄い防御能力。


 刹那、女帝槍レプイレスさんの幻影は消える。


「ぐあぁぁぁ」


 が、ダメージの大きい双剣フゼルは倒れた。

 しかし、瞬く間に双剣フゼルの体は修復。


 復活。ネックレスの力か。 

 その神々しい力を発揮していたネックレスは力を消費したのか点滅。


 俺は即座に回復した双剣フゼルに近付く。


 <水月暗穿>の蹴りを繰り出した。

 とっさに、跳躍した双剣フゼル。

 トレースキックを避けつつ、宙空から、魔力の刃を繰り出した。

 即座に魔槍杖バルドークの<刺突>。

 魔力の刃を相殺。

 双剣フゼルは「く、まだまだだ!」とネックレスを輝かせると、背中から魔力の腕を出して、その腕から魔力の刃を飛翔させてくる。


 <導想魔手>で防御。

 魔力の刃を受けながら<闇の千手掌>――。

 巨大な<闇の千手掌>が、魔力の刃を呑み込みながら双剣フゼルの足と衝突。


 双剣フゼルは<闇の千手掌>を蹴って宙に避難。

 俺も追い掛けた。

 双剣フゼルは、再度ネックレスの力で魔力の刃を打ち出そうとしてきた。

 俺は<導想魔手>で、その双剣フゼルの胴体をぶん殴る。

 続けて、<超能力精神サイキックマインド>を発動。


 双剣フゼルの体を掴む。

 ネックレスの輝きが急激に失われていく。

 と、ネックレスは消えた。

 俺は、<超能力精神サイキックマインド>で双剣フゼルの首を絞めつつ持ち上げた。


 頭部がはち切れるほどの痛みを味わったが、構わねぇ。


「――ぐはぁ、なん、だ、これは……」


 双剣フゼルが喋るとは思わないが……。

 そのまま<超能力精神サイキックマインド>で双剣フゼルの首を絞めながら着地。


「お前の雇い主は?」

「……」


 俄に、口を噤む双剣フゼル。

 片頬を上げるように嗤うと、口端から血が流れた。


 闇の世界に生きる一流どころだ、喋るつもりはないか。


 <超能力精神サイキックマインド>を消去。

 同時に魔槍杖バルドークを振るって、双剣フゼルを股ぐらから両断。


 二つに分かれた双剣フゼル。

 さすがに死体は元通りに戻らない。


 血飛沫を吸い寄せながら――。

 死体を<超能力精神サイキックマインド>で吹き飛ばす。 


 即座に女子生徒は生きているか、確認。

 ミレイヴァルは、半裸の女子生徒の首に手を当て、脈があるか見ていた。


「生きている?」

「はい、大丈夫です」

「よかった」


 急ぎ女子生徒に回復薬ポーションを振りかけた。

 そして、《水癒ウォーター・キュア》も実行。

 癒やしの水球が弾けて半裸の女子生徒に降り掛かる。


 ミレイヴァルが、水のシャワーを浴びている女子生徒を見ながら、


「陛下、今の敵は……」

「かなりの強さだった双剣フゼル。ここは、この間、話をしたセナアプアって場所なんだ。だから、強者は他にもいるだろう」

「そうですか、血長耳の本拠でもあるセナアプア……」

「そうだ。で、ミレイヴァル、アイテムに」

「ハッ」


 アイテムと化した閃光のミレイヴァルを腰に戻す。

 回復した女子生徒は起きない。


 寝ている女子生徒の顔を見てから、彼女が見ていた仲間の死体を見る。

 冒険者風の男たちの、彼女の仲間たちの装備品を回収。

 この方は、リーダー格だった?


 分からないが、


『閣下、死体を含めて、その女子生徒をわたしが運びますか?』

『いや、いい』


 皮布で女子生徒の体を覆ってから魔塔から外に出た。

 相棒たちのほうに向かう。

 ヴィーネとユイは気を利かせて<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を実行してくれていた。

 しかし、ここは大都市。

 吸血鬼の縄張り宣言でもある<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>は、リスクがあるが……。


 ま、仕方ない。

 そもそも、この塔烈中立都市セナアプアに棲み着いている十二支族はいるんだろうか。

 下界は雰囲気の暗いところがあったから、ヴァンパイアは居るとは思うが……。


 そんな事を考えながら――。

 匂いを追った。

 手前の魔塔は真新しい。

 荒鷹ヒューイが降りてきた。


「ヒューイ、皆のところに戻ろう」

「きゅ」


 <導想魔手>を蹴る。


 魔塔が多い。

 下の地形は入り組んでいた。

 長い杖に跨がる立派な魔法使い。

 大小様々な杖に跨がる従者的な空魔法士たちが見えた。

 近くの家屋で喧嘩している声も響く。


 その向かいの古びた魔塔の窓には――。

 半透明の子供の霊が見えた。

 更に奥の魔塔は崩れ掛かっている。

 古びた魔塔も多い。

 魔素の集団がぶつかり合うように消えている魔塔もある。


 他にも戦いが起きている?


 宿り月がある地域も魔塔は多かったが、ここは治安が悪いようだ。

 角を曲がる。


 と、また雰囲気が少し変わる。

 魔塔が多いが、急に人通りと露店が増えた。


 肉のいい匂い。

 商店街か?

 焼き鳥を売る商店。


「ピュ~」


 低空飛行を続けていた荒鷹ヒューイも好い匂いに釣られたか。

 あ、皆の姿が見えた。


 キサラが手を振っている。

 ヴィーネとユイは、左右の魔塔の天辺。

 周囲を警戒していた。


 が、人通りも多いから、大丈夫なはず。

 街並みが変化。


 ペルネーテも地域ごとに変わっていたな。

 宗教街とか、俺の家がある武術街とか。

 貴族街も港も、それぞれに特色があった。


 エヴァとレベッカが立つ前の建物は、小さい浮遊岩が積んだような魔塔の一角。


 塔は、ピサの斜塔のように、斜めに若干傾いている。

 蒸気を発している鋼管もある。


 斜塔はそんなに高くない。

 三階建てぐらいか?


 斜塔のある大通りには、古びた石像が無造作に並ぶ。

 ペルネーテの円卓通りのような賑わいだ。


 屋台では薬とパンを売るドワーフ。

 日用品を売る人族は肉まん的な物を、魚人は薬品を売る。


 冒険者らしき人物が、


「魔塔シャルナーの謎に一緒に挑まないか!」


 と、叫んでいた。


「武術連盟公認、神王位上位同士のチケットを売るよ~」

「上院評議員連盟が主催する天下覇塔の称号が得られる予選大会のチケットを売ります~」

「八槍神王第三位テレーズ・ルルーシュが記したサインを売るよ~」


 大通りには、他にも……。


 〝愛があるからこそ戦いがある〟

 〝預言者ラーゼが残した浮遊遺跡群で女神アリアの集会を行う〟

 〝一緒に世界の平和を〟


 とか、長広舌を振るう司祭と助祭がいた。


 人の出入りが激しい食事処。

 隣は肉屋に、ラーメン屋的な看板が目立つ店、その隣は万屋。

 万屋の隣は、空魔法士隊のマークを掲げる魔道具店。

 古本屋的な雰囲気のある店に、定食屋。


 商店街っぽい。


「シュウヤ、その子は生きているのね」

「おう、生きている」

「魔法学院の?」

「詳しくは知らない。評議員ペレランドラの娘とか、誘拐した奴らは語っていたが」

「「え!」」

「……とりあえず、【魔塔アッセルバインド】の事務所に入りましょう」

「評議員ペレランドラって結構な大物よね」

「女性評議員の代表格かと……」

「了解、エヴァ、この子を……」

「あ、うん、先生は中で待ってる」

「分かった」


 と、エヴァに寝ている女子生徒を託してから……。

 皆に続いて事務所に足を踏み入れた。

 会長さんは……。

 そして、リズさんとカリィの戦いか。

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