六百六十四話 音なしの又兵衛の野菜切り※
神獣ロロディーヌに乗って瞬く間に安全圏に到達。
暫しの空旅となった。
心臓と髑髏のバッジを見ながら……。
フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタル。
が、一瞬、西に示した反応を宇宙海賊のハートミットに聞こうかと思ったが……。
まぁいいか。
と、血文字連絡タイムとなる。
キッシュの血文字が浮かぶ。
ルッシーとクナが協力して地下室を造り上げたと報告を受けた。
その地下室にヘカトレイル行きの転移陣をクナが設置。
しかし、手に入れた大地の魔宝石は魔力の仕組みが違ったようだ。
頻繁には転移はできない。
が、便利は便利だ。
〝名も無き町〟の灯台の下にあるセーフハウス。
そこにはヘカトレイル行きの転移陣がある。
今までは自宅のゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡を潜って、セーフハウスに移動し、そこにあるヘカトレイル行きの転移陣を利用していた。
空旅があるからそこまで必須ではないが、そのクナのセーフハウスにあるゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の片方は回収だ。
ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡をアイテムボックスに入れておけば、今後の旅先で、そのゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡を使えば、いつでも旅先から、サイデイルの自宅に設置してあるゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡に戻ってこられる。
鏡と鏡で双方向の移動が可能な、まさに『どこでもドア』。
便利だ。
パレデスの鏡は、回収せずに、ベルトザム村にあるパレデスの鏡と同じく、転移先の拠点としても利用できる。
続いてユイの血文字が浮かぶ。
『【魔塔アッセルバインド】との交渉は成功。【白鯨の血長耳】とも連携して、セナアプアに【天凜の月】の事務所もできた。でも、他の闇ギルドの荒くれ者が、事務所に乱入して、搬入したばかりの魔法袋と、仕入れた輸送品が破壊されてしまったの。でも、レンショウさんが出て、その荒くれ者を、すべて倒してくれた』
荒くれ者だと?
勇気があるな。ユイとか、カリィがいるのに、けしかけるとか。
『いきなり、けしかけてきたのか。相手は?』
『マスクとマントで体を隠していた者たち。雇われたと述べただけ。背後関係は分からない。エヴァが尋問しても、同じだった』
『雇い主に抜かりはないか。敵対する勢力が、俺たちの実力を見ただけかな』
『たぶんね。わたしたちの能力の判断でしょう。【ロゼンの戒】と【幽魔の門】の密偵でも背後は無数にあって分からない』
大手盗賊ギルドの情報網を頼っても、東は戦争中。
情報を握ることは難しいだろう。
そんな闇社会の専門家のユイとの頼もしい血文字連絡を繰り返しつつ、その間にジョディは……赤心臓のアルマンディンを皆に見せていた。
すると、シェイルの治療について語り始める。
亜神夫婦の力と俺のスキルの<白炎仙手>と<霊呪網鎖>が要だと。
ん?
その亜神夫婦のところで一瞬表情が曇ったように見えたが気のせいか。
ジョディは楽しげにハキハキと語る。
その様子を見ていた細身の
だが、途中からは上の空。
ジョディの着る防護服を凝視していた。
聖ギルド連盟からもらった服か。
和と洋が上手くミックスしたような印象を抱かせるジャケット系の服は
興味深そうに観察している。
俺とヴィーネとママニは――。
眷属の皆と意見交換的な血文字会議を実行中。
すると、その主な議題の一つであった
「ばぶぅ~」
と、鳴いた。
赤ちゃんはビアに向けて手を伸ばしてヘルメから離れようとした。
飛行形態を自慢しているビアに興味を持った?
「ビアお母さんが好きなのでちゅね~」
と、ヘルメは
赤ん坊を両手で受け取ったビア。
んだが、俺に視線を寄越す。
俺は『大丈夫だ』と示すように頷きながらミスティに血文字でセンティアの手の件を報告。
ヴェロニカとメルにベネットにユイにエヴァからも血文字が次々ときた。
ビアは、そんな血文字は無視。
おどおどと、赤ちゃんを落とさないように慌てふためく。
少し、可笑しかった。
ビアは、三つの胸を利用するように、両手で赤ちゃんを丁寧に抱っこ。
「――ばぶぅ!」
赤ちゃんがそう鳴きながら、ビアの細い顎をパンチするように撫でた。
ビアはびっくりして赤ん坊を見やる。
ビアは厳しい表情を崩して微笑むと……。
感極まったように、涙を溜めて、瞳を潤ませる。
「……元気な赤子よ! お前の澄んだ瞳は美しい」
「ばぶぅぅ」
赤ちゃんは、手をビアの顎から離して、ビアの鼻先に向ける。
小さい指は豆粒のようだ。
それらの可愛らしい指で、届かない鼻を諦めて、ビアの顎と唇に長い舌を触っていた。
「――ふはは、将来、美人になることは確定だな!」
「ばっば、ばっばぁ」
と、鳴いた
小さい指も向けてきた。
すぐに微笑む。と、ラミアの赤ちゃんは「ばぁば!」と元気よく発言。
「ははは! お前も主が好きなのか! うむぅ、この可愛さだ、主も気に入るだろう。が、主の眷属になれるかはまた別なのだぞ」
「……ばぁば?」
赤ちゃんがそう鳴きつつビアを見上げる。
ビアは厳しい表情だ。
だが、依然と瞳はうるうるしている。
「……お前の心意気次第なのである!」
赤ちゃんはビアの激烈な声を聞いて驚いていた。
というか皆も驚いて、ビアと赤ちゃんを見る。
ママニは微笑んだような気がした。
赤ちゃんが泣くだろうに。
と、思ったが赤ちゃんは瞳孔を散大させたまま、ビアを凝視。
「ぶっぶぅ! ばっぅん~ぶぅぅ~」
と、赤ちゃん語を話す。
ビアは赤ちゃん語を聞いて、頷く。
ビアは、
そのビアは、厳しい顔色はあまり崩さない。
泣くことを、我慢するかのように……。
頭部を左右に揺らしてから、
「……うむぅ。お前は我の祖先! いい声である!」
と、発言。
「きゃきゃぅ~ばぶぅ~」
ビアは健気な赤ちゃんを見て、ついに涙腺が崩壊。
「うむうむ……ホルテルマ・ギヴィンカゲレレウ・トップルーン・スポーローポクロン……元気な伝説の蛇騎士長なのだな……」
と、涙だけでなく鼻水を垂れ流しつつ語る。
「ばぶぅ?」
「我は……我は、この子を……ドフェル、トイルル、ヴェラゼレウ……愛しき家族たちよ、我は……」
そうだよな……
骨の塔まであったし……。
リザードマンとグルドン帝国に……。
ヴェハノも、家族の骨を握りしめて、涙を流していた。
「ばぁぶぅ?」
赤ちゃんが、泣くビアの顔に向けて、手を伸ばす。
「うぬ、済まぬ、赤子よ。泣き顔を見せてしまった」
「……ばぶぅ」
「我も、まだまだ赤子であるな!」
「きゃきゃきゃ」
「ふはは、喜ぶ顔もいい顔である! 赤子よ! 我もこう見えて、嘗ては、武装騎士長の一人であったのだぞ」
「ばぶぅあ?」
「ふむ。グリヌオク・エヴィロデ・エボビア・スポーローポクロンが過去の名前だ。今は光魔ルシヴァルの<従者長>のビアである! そして、戦闘職業は<血騎蛇角帥>という名だ」
「ばばぶぅぅ、きゃきゃ」
「よしよし、いいこだ。成長したら<蛇薔薇斬り>を教えてやる」
ビアの言葉を聞いた
「ばっば、ばっばぁぁ! ばぶぅ? きゃきゃきゃ」
赤ん坊は大興奮。
「――ぶあぁぁぁ、し、じだぁ、が、が、んぐぅ――で、は――」
「――きゃきゃきゃ」
ビアの長い舌を引っ張って遊ぶ
ビアも暫くそのまま遊ばせていた。
ビアのガスノンドロロクンの剣に絡む黒い龍ことガスノンドロロクン様も興味深げに
ビアは優し気に赤ちゃんを見ては頭を撫でていた。
そして、三つの乳房に赤ん坊から「ばぶぅ」と攻撃を受けている。
涙を拭いたビアは『うむぅ』と頷いて、ブラジャー系の防護服をずらす。
ぽろろんと、音は鳴らないが、三つの乳房を露出。
すると、その乳房に赤ちゃんを寄せた。
三つの乳房だ。
赤ちゃん用のお乳は大量か?
種族的に同じビアが、赤ちゃんの面倒を見るべきか。
ヘルメも水をあげていたが……。
さて、血文字で皆に連絡。
旅の委細はヴィーネとママニ。
赤ちゃんで忙しいがビアにも任せた。
そのビアが背中に装着した<荒鷹ノ空具>。
眷属&仲間が飛行形態を得られるようになったのは大きい。
その<荒鷹ノ空具>の大鷹のヒューイ。
大鷹で偵察的な行動と手紙を持たせれば手紙的な運用も可能。
成長とかがあるのなら……。
俺は神獣使いでもあるし、期待は高まる。他にどんなことができるのか、気になった……。
早速、ステータスで成長具合と他のスキルも確認しようか。
他にも、火口から飛び出てきたデボンチッチ風の魔石……。
その火口で手に入れた魔槍と宝箱にアイテム類は気になるが……。
まず、ステータス――。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:覇槍神魔ノ奇想:血魔道ノ理者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍印瞑師:白炎の仙手使い:血外魔の魔導師:血獄道の魔術師
筋力29.4→33.8 敏捷30.1→34 体力27.7→29.5 魔力32.8→37.9 器用27→30.5 精神33.5→36.9 運11.5
状態:普通
全体的に上がった。
色々と喰ったお陰か。
ミスランの法衣もすぐに展開が可能。牛白熊のクリーチャーフィギュアを喰ったから?
見た目もいい、白い金属繊維の防護服。デルカウザーの
ハルホンクは、ルシホンクのアミュレットを造った。
これが何気に大きいか?
牛白熊かもしれないが。
更に、グルドン帝国の軍勢とヒトデの大軍とリザードマンの軍隊を倒した。
フサイガの森でも蝶族のモンスターを倒しまくった。
フォロニウム火山の火口付近では赤いドラゴンを倒した。
火山湖では、兜頭巾ことメガロンを倒した。
メガロンの分体か不明だったが、ミミズのような火のモンスターも倒しまくった。
<サラテンの秘術>の<神剣・三叉法具サラテン>も使ったな。
その結果だろう。
次は、スキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<
恒久スキル:<天賦の魔才>:<吸魂>:<不死能力>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>:<水神の呼び声>:<魔雄ノ飛動>:<光魔の王笏>:<血道第四・開門>:<霊血の泉>:<光魔ノ蓮華蝶>:<無影歩>:<ソレグレン派の系譜>:<吸血王サリナスの系譜>:<血の統率>:<血外魔・序>:<血獄道・序>:<月狼の刻印者>:<シュレゴス・ロードの魔印>:<神剣・三叉法具サラテン>:<魔朧ノ命>:<鎖型・滅印>:<霊珠魔印>:<光神の導き>:<怪蟲槍武術の心得>:<魔人武術の心得>new:<
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>
まずは<塔魂魔突>を調べよう。
※塔魂魔突※
※塔魂魔流技術系統:基礎秘伝突き※
※上位系統は亜種を含めれば数知れず※
※霊魔系高位戦闘職業と<魔人武術の心得>が必須※
※『塔魂魔槍譜』の秘伝書を学ぶことにより獲得できるとされる※
※『勁』と『力』の槍と『八極魔秘訣』の『魔拳』は通じる※
※『雲心月性、不怕千招会、就怕一招精』※
※『槍が来たりて来たりて、呪われた狩りを行う善と悪の古き神々に関わることなく、胸に虚無宿ることなくアムシャビスの紅光が宿るように塔魂魔槍の『勁』と『力』が宿る。反躬自省のまま『八極魔魂秘訣』を獲得し『魔拳打一条線』を得るに至り『一の槍』を極め絶招に繋がる』※
師匠のセイオクスさんに感謝。
俺の気持ちに応えるように、腰の魔軍夜行ノ槍業も揺れる。
魔界ルグファントの八怪卿の魔槍使いたち。
八大、八強、八怪、八鬼、八間、八雄……嘗ては異形の魔城の守り手だったらしいが……。
師匠たちが眠る八大墳墓も目指さないとな。
神槍ガンジスとも繋がる魔人武王とのいざこざがキーポイントか。
次は――<魔人武術の心得>。
※魔人武術の心得※
※近接系と魔法使い系の高位戦闘職業が必須※
※<組手>系と<霊魔>系のスキルが必須※
※<魔雄ノ飛動>があれば、より高みに到達できるだろう※
<怪蟲槍武術の心得>と似たような感覚だが、違う。
格闘にも槍にも剣にも……深海と深宇宙的な武の奥深さがある。
続いて――。
<
※
※時空属性とサイキック能力と
※銀河騎士プロトコルを経験した、ムラサメブレード・改の解放者※
※体内に蓄積したエレニウムエネルギー、またの名を『サイキックエナジー』を多大に消費する※
※他にもバイコマイル胞子などの外部因子で<
連打すると――。
※アウトバウンドプロジェクトのために極秘開発された
……<
ヘルメの<精霊珠想>やシュレの魔力のように応用力がある。
次は<超翼剣・間燕>。
※超翼剣・間燕※
※超翼剣流技術系統:上位亜種斬り※
※<
※古の銀河騎士マスターの一人、ホウゲン・キイチが編み出した銀河八天狗流を源流とするサイキック剣術※
ホウゲン・キイチ。
まさか、鬼一法眼か?
あの日本人っぽい、ザ・侍的な印象の銀河騎士マスター……。
続いて<銀河騎士の絆>。
※銀河騎士の絆※
※「須く弱き者を尊ぶ、かの者たちの守護者の証し」※
※種族:光魔ルシヴァルの根底の<光闇の奔流>と、受容性の高い精神力と
※
※<
※あまねく銀河の礎となることを祈る※
※いついかなる時も正義と善の味方となりて、不正と悪に立ち向かうべし※
アオロ・トルーマーさんとゼン・ゼアゼロさん……。
偉大な銀河騎士たちと繋がることができる偉大なスキル。
俺の一つの指針を現す偉大なスキルなのかもしれない。
次はこれか。
<女帝衝城>。
※女帝衝城※
※女帝槍流技術系統:最上位秘伝範囲突き※
※『女帝魔槍譜』の秘伝書を学ぶことにより獲得できるとされる※
※すべての高能力と霊魔系高位戦闘職業と<魔人武術の心得>が必須※
※女帝槍レプイレスの触媒力と使い手の触媒が必須※
※『槍が来たりて、善と悪の古き神々に関わることなく、胸に虚無宿ることなく、触媒の女帝槍の『霊』と『臓』が宿る。反躬自省のまま『魔霊触媒秘訣』を獲得し『魔城』を得るに至り『魔槍女帝槍』を極め絶招に繋がる』
最上位秘伝範囲突きか。
血塗れの魔槍の群れ。
魔槍の槍衾が、茨道と小さい城を形成するような連続した範囲攻撃。
次は<闇穿・流転ノ炎渦>。
※闇穿・流転ノ炎渦※
※闇槍流技術系統:最上位亜種突き※
※魔竜王槍流技術系統:最上位亜種突き※
※<刺突>系に連なる槍スキル。闇属性の炎が魔槍杖バルドークと腕に付加。覇王ハルホンクと融合した使い手と魔竜王の魂が必須※
奥義のような感覚だ。
<闇穿>系の最上位という感じかな。
<闇穿・魔壊槍>が、いかにぶっ飛んだ大技なのか分かるような気がする。
次は<光魔ノ秘剣・マルア>。
※光魔ノ秘剣・マルア※
※光魔流仙妖魔黒髪秘剣系統:亜種秘術※
※デュラートの秘剣と元仙妖魔のマルアが必須※
デュラートの秘剣か。
黒髪で防御も可能だし、デュエット剣術も可能。
次はそのデュエット剣術の――。
<陰・鳴秘>。
※陰・鳴秘※
※光魔流仙妖魔黒髪秘剣系統:音叉斬り※
※デュラートの秘剣をマルアと一緒に振るうと、威力が高まる※
続いて、<飛剣・血霧渦>。
※飛剣・血霧渦※
※飛剣流技術系統:選ばれし銀河騎士マスター独自剣武術:光属性&時空属性が必須※
※ムラサメブレード・改に備わるギミック機構が必須※
これを喰らった相手は、リンゴを皮むきしたような状態になることが多い。
強力な技だ。
その次は気になっていた<荒鷹ノ空具>――。
※荒鷹ノ空具※
※光魔ルシヴァルの化身事※
※荒鷹ヒューイが使い手への忠誠の証しとして翼のアイテムと化した※
※荒神ヒューイの欠片が光魔ルシヴァルの<血魔力>とシュレゴス・ロードの魔力と融合※
そして、<覚式ノ理>。
※覚式ノ理※
※高い魔力と高い精神力と時空属性が必須※
※東邦のセンティアが最後の使い手に託した<覚式>の最上位スキル※
※センティアの手を装着して親和性が高ければ、<覚式ノ従者>の空間と繋がり、転移も可能※
予想通りだ。
あの女子生徒、アス家らしいが。
ミスティには、連絡済み。
ま、後々だ。
そうして、安全地帯で着地。
「主、赤ん坊を一時預ける。我は先に行く」
「おう」
「ンン、にゃ」
ビアは自宅の二階から飛翔。
「さて、俺たちは下から普通に行くか」
「はい」
「にゃ~」
「ぷゆゆ!」
ぷゆゆだ。
キャットウォークの端から、こちらを覗いている。
白い歯を、ニカッと見せていた。
「にゃお~」
と、相棒は壁にあるキャットウォークに向けて跳躍。
キャットウォークを蹴っては段差を上っていく。
「ぷゆ!?」
ぷゆゆは急いで逃げた。
屋根上にある小さい扉を開ける音が響く。
「ふふ、和みますね」
「あぁ」
ヴィーネの言葉に頷く。
隣のヴェハノはぷゆゆを見て驚いていたが気にしない。
ママニとアイコンタクト。
「では」
「おう」
階段を下りる。
自宅の一階でサナさん&ヒナさんと異世界日本語を交えたマハハイム共通語の勉強を兼ねた会話を楽しむかなと思ったが……。
リデルのリンゴパイを食べているのか、語学勉強か? と、思いきや……。
リデル、ナーマさん、ドワーフの農業担当のドナガンと一緒に、エンドウ豆風の、大きな野菜から、カラフルな豆を取り出す作業中だった。
果樹園製のエンドウ豆か。
大きさ的に穀物か。
魔力が濃厚……。
……酒のつまみにいいかもだが、マンゴーフルーツの大きさを超えたお豆さんだ。
この豆を茹でて食べるだけでも、お腹がいっぱいになりそう。
んだが、塩を振りかけて食べてみたい!
あの素朴な味は美味しいからなぁ。
サナさんは戦魔ノ英傑を使って、その巨大なエンドウ豆を切断――。
【戦魔ノ槍師】こと通称〝戦魔〟。
その音なしの又兵衛は柄を短く持って、十字穂先を振るってエンドウ豆の房を器用に斬る。
床に落ちたカラフルな豆類。
敷いた蓙には、豆が重なった。
切断した房も調理用素材らしい。
天然の素材として使えるっぽい。
ドナガンが紙紐で大きな房を纏めていた。
「――あ、シュウヤさん! お帰りなさい」
「あぁ、また、派手に野菜を……」
「はい! わたしも、まさか野菜を切ることに鳳凰院家の御守様を使うとは思わなかったけど、楽しいです♪」
と、サナさんは本当に楽しそう。
戦魔が野菜切り。
嘗て、戦国の世を生きた鳳凰院家の槍使いこと……。
音なしの又兵衛。
彼か彼女か不明だが……。
野菜を切るとは思わなかったはず?
今も又兵衛は――。
エンドウ豆を真っ二つ。
房がパクッと開いたように見える切れ味。槍を刀の如く使えるんだから、相当な槍使いだよ。
……正直……。
戦いたい衝動に駆られた。
が、しない。
緑色もあるが、カラフルな豆を凝視。
魔法の豆か。
カラフルな大きい豆を地面に植えたら……。
イギリスの童話で有名な『ジャックと豆の木』風に、天空に伸びたりして。
ペルネーテの迷宮でも……。
元々は迷宮十五階層の魔王種の交配種を二十階層の穴にぶっ込んだ。
白き霧を出していた穴を塞いだ。
その際に、蝶の羽を持った綺麗なエルフのような幻影も出現したっけ……。
イシテスは、その幻影を、混沌の女神リバースアルア様と呼んでいた。
その結果、三眼の種族のトワさんとドークさんを救うことができたし……。
イシテスも助けることができた。
だが、ペルネーテの迷宮の二十階層の地形を変えてしまった。
とんでもないことを……。
しちゃった?
そんなことを考えつつ中庭を歩く。
そして、ジャックの豆の木を想起したように……。
巨大なルシヴァルの紋章樹は、前より大きくなっていた。幹は太い根元にあるルシヴァル神殿の祭壇の前には<霊血の秘樹兵>が立つ。
彼らの存在も際立つが……前よりも神性さが強まった印象を受けた。
嘗て、戦神教の樹海支部が、この場に乱入してきた気持ちが理解できるぐらいに……。
ルシヴァルの紋章樹から荘厳さを感じた。
光魔ルシヴァルの宗主の俺が……。
こんな面持ちでいいのか?
と、不安を覚えたから、ヘルメを見る。
ヘルメは微笑んでくれた。
ヘルメ立ち――。
はは、常闇の水精霊ヘルメは変わらない。
「ばぅ~、きゃっきゃきゃ~」
俺も喜んだ。
水の女神のような姿を見て、すこぶる安心した。
左には、独立都市フェーンに続く地下の道だ。
嘗て、魂の黄金道が示していたハーデルレンデの象徴があった場所にある岩の群れ。
そんなサイデイルの光景を楽しみながら……。
訓練場の柵を触りつつ歩く。
高台だから、風が気持ちいい――。
キッシュたちの家屋は下だ。
そして、ルシヴァルの紋章樹のある訓練場には……。
いつものメンバーはいない。
オークコンビはキッシュのところか、西の砦か城下町の守りかな。
ムーもいない。
訓練場にはぷゆゆと相棒だけか。
そんな黒豹の相棒の頭には小さいルッシーが乗っている。
「けらいたちー! しゅごじゅー!」
と、ルッシーの声が響く。
ぷゆゆと相棒とルッシーの謎の会話が気になった。
宙空に漂う光魔ルシヴァルのデボンチッチたちが、微かな歌声を響かせてきた。
相棒も鼻歌的な音頭を響かせる。
ぷゆゆも踊る。
訓練場の柵越しに、そんな相棒たちの様子を見ながら高台の右端に移動。
そこで、
「――ロロ、下に、キッシュたちのとこに行くぞ~」
相棒は俺の声を聞いて、耳をピクピクッと動かして振り向く。
可愛い。
「ンン――」
相棒はすぐに駆けてくる。
その間に「ばぁば!」と抱っこしていた
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