六百六十三話 ミッション:インポッシブル

 フォド・ワン・ユニオンAFVは、Armoured Fighting Vehicle。

 未来的な、総合装甲車。

 大砲は角張っているが、ルーフとピラーは滑らかだ。

 エンジンを隠すボンネットの一部にはローレンツ力がありそうな電磁装甲がある。

 空気抵抗はあまり無さそうな印象を受けた。


 いや、盛大にあるか。

 複合装甲を備えていそうなフェンダーとホイールは大きい。


 ダンプカー的な幅の太いタイヤが六つ。

 前輪に三つとサイドシルを挟んで後輪に三つのタイヤがある。 

 フェンダーも太いが、その半透明な部分の多いフェンダーの溝の間から、ドライブシャフトとトランスミッションを兼ねた脚関節的なジョイントが出っ張って見えている。


 フェンダーの半透明な金具が白色に光るとドライブシャフトが隠れてしまった。

 フェンダーの半透明だった金具は魔道具のプラグか?

 光学迷彩風の遮蔽機能でもあるのか?

 【八皇】の宇宙海賊のハートミットも、光学迷彩系の装備を持っていた。

 

 今はフォド・ワン・ユニオンAFVは、タイヤと、その装甲的なフェンダーが覆って、中身は見えないが……。

 

 あの中身の太いサスペンションを備えたジョイントは、ロボットのような駆動が可能とか?

 タイヤが足になる?

 まさか、トランスフォーマー的に二足歩行への変形が可能とか?


 そんな思考をしつつ、右手首の戦闘型デバイスを見た。


 風防の上に映るアクセルマギナ。

 アクセルマギナは恍惚とした表情だ。 

 アップデート情報を受け取っている状況のようだ。

 

 その彼女の軍人衣装の表面には、螺旋した魔線が行き交う。

 黄金比を意味するようなマークも出現。

 双眸にも、五芒星の魔法陣と乱数表が映る。

 黄金分割の計算を実行中?

 フォド・ワン・ユニオンAFVを解析中?


 すると、そのアクセルマギナは、ハッとした表情を浮かべた。

 そして、俺に敬礼を寄越す。


 ガードナーマリオルスも敬礼を寄越す。

 小さいガードナーマリオルスは可愛い。


 そのガードナーマリオルスの隣に立つ可憐なアクセルマギナに、


「この、装甲車か戦車は、フーク・カレウド博士が造った?」


 当たり前のことを尋ねた。

 俺のその問いに、アクセルマギナは頷く。


 と、


「フォド・ワン・ユニオンAFV。深宇宙の未知の惑星にでも耐えられるよう最新探査機全天候型アークユニオンを元に、フーク・カレウド博士・アイランド・アクセルマギナが独自に造り上げた惑星探査装甲車。開発コードネーム『フォド・ワン』」


 美形な声に変わりはないが、早口の機械の音声だ。


「分かった。次は、開発秘話とかはあるかな、経緯とかの情報も」

「……ファリ&レバドック博士のグループと対立という項目があります」

「それでいい」

「はい、では。ファリ&レバドック博士のグループは、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスが持つべき装甲車は、装備を最重要視すべきという意見でした。しかし、フーク・カレウド博士は反対。装備よりユーティリティを追求し……」


 次の瞬間――。


 喋っていたアクセルマギナが消失。

 下からガードナーマリオルスがホログラム映像を展開。


 なぜかナパーム統合軍惑星同盟の軍服を着ているが、フーク・カレウド博士が映る。

 この間のガードナーマリオルスが見せてくれた荒いホログラム映像とは違って、その映像は綺麗だ。


 フーク・カレウド博士は黒髪に茶色が混ざった髪色。

 瞳は紺碧色に黒色が混じる。

 そのフーク・カレウド博士が、急に笑顔を見せた。


 ズームのピントがずれる。

 博士の笑顔は、カメラマンに対しての愛情?

 フーク・カレウド博士は綺麗だからな……。


 ――ピピピッと、戦闘型デバイスからガードナーマリオルスの音が響く。


 すると、フーク・カレウド博士は片腕を横に伸ばして――。

 ホワイトボード的なディスプレイに映っていた難しそうな乱数と表を打ち消す。


 腕を振るったフーク・カレウド博士の視線は厳しい。

 アクセルマギナと同じ軍服姿だ。軍人としての側面があったのか。


 そして、他の開発者たちに向かって、


『――貴方たちはナパーム宇宙要塞シタデルに隠りすぎ。広範囲バイコマスリレイを使っても届かない……未知が多い【深宇宙の領域】を知らなすぎる。広大な宇宙が〝宇宙……それは最後のフロンティア〟と、呼ばれて幾星霜と経つけれど……【辺境】の【ヴォイドの闇】では、何が起きるのか……フォド・ワン・ガトランスマスター評議会の<深い智識ディープコモンセンス>と<星想ノ精神フォズニックマインド>を持つ銀河騎士マスターのアオロ・トルーマー様や、<超感力>を持つ銀河騎士マスターのドゥリ・オファ様でも、その予測は不可能……だからこそ、アウトバウンドプロジェクトには、わたしたちナパーム統合軍惑星同盟の……ううん! そう、全銀河の命運がかかっているのよ? だから……』


 そこでガードナーマリオルスのホログラム映像が切れた。

 必死だった博士か。

 戦闘型デバイスの風防の上に、アクセルマギナが出現。

 一瞬、アクセルマギナと博士の姿が重なって見えたが……。

 ――気のせいか。


「そうして、肯綮(こうけい)に中って皆を説得し、フォド・ワン・ユニオンAFVが開発されました」


 と、その喋りが、博士に見えてしまったが、アクセルマギナだ。

 そのアクセルマギナを見ながら、


「博士は軍人と科学者の面もあって、さらに政治家としての能力もあったようだ」


 アオロ・トルーマーさんがフーク・カレウド博士に頼った理由だな。


「はい。代替パーツが要らないカレウド博士肝いりのユーティリティを追求した独自機能カスタマイズを組み込んだ設計が『フォド・ワン』のフォド・ワン・ユニオンAFVとなります。その影響で……マスドレッドコアを通じて汎用戦闘型アクセルマギナと合体が可能となりました」

「おおお、合体とか! 浪漫があるな! で、あの砲台はレーザー?」

「レーザーパルス180㎜キャノン砲。キャノン砲は単体でも、汎用戦闘型アクセルマギナで運用が可能です」

「アクセルマギナは、キャノン砲を独自に扱えるのか」

「はい」


 強化外骨格的なアーマーを持つ汎用戦闘型アクセルマギナだ。

 人としての肉体も多かったが普通の人族ではない。


 アクセルマギナなら重い武器だろうと運用は可能だろう。

 盾の上にキャノン砲を乗せて、撃ったら、きっと、これまでにないぐらい輝いて見えるはず?


 と、フォド・ワン・ユニオンAFVの戦闘装甲車を見る。


 しかし、白鯨の血長耳の風のレドンドにソーニャとパパルが見たらなんて言うだろう。

 迷宮戦車と同程度の大きさだが、びびるだろうな。

 だが、迷宮戦車を引っ張る大魔獣デスパニを含めたらフォド・ワン・ユニオンAFVのほうが小さいから、そうでもないか。


 んだが、レーザーのキャノン砲だ。

 この装甲車を見たら驚くはず。

 あの大砲の威力は見ていないが、かなりの威力があるだろう。

 ビアは唖然とした。


 大鷹は混乱したのか、水飛沫の中に突入。


 岩壁の出っ張りに着地した大鷹は滝行を開始。


 鋭い目つきの猛禽類。

 <荒鷹ノ空具>の大鷹さんの頭部に……。

 これでもか、と、滝の水が衝突。

 毛が水を弾くが、ずぶ濡れな大鷹さん。


 シュールだ。


 ヘルメは半身が水状態。

 ハルホンクも珍しく沈黙。


 フォド・ワン・ユニオンAFVに近付いていく。

 ついでにアクセルマギナの表記の一つを注視。


 俺の意識に合わせて表記が拡大される。


 エレニウム総蓄量:71300→201300

 ――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン大:140000:未完了

 報酬:格納庫+600:フォド・ワン・ガトランス・デスティニー:解放

 必要なエレニウムストーン大:150000:未完了

 報酬:格納庫+700:フォド・ワン・トータルセンスアーツ:解放

 必要なエレニウムストーン大:160000:未完了

 報酬:格納庫+750:タイタンウィング:解放

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 ――――――――――――――――――――


 タイタンウィングとはなんだろう。

 すると、フォド・ワン・ユニオンAFVが自動的に近付いてきた。


 未来的な装甲車は回転しつつ後部が変形。

 タイヤとジョイントの一部が本体の内部に格納。

 車高が下がったし、あの機構は変形も可能ってことか……。

 

 そして、フック付きの鋼板の後部が、上下に分割。

 下に分かれた鋼板の一つはタラップと化した。


 タラップは俺たちのほう伸びて地面に付く。


「閣下の乗り物が自動的に?」

「ぬぬぬ、驚くべき光魔ルシヴァル! 変形しているぞ! 生きた鋼鉄魔龍か!」

「ビア、魔龍じゃない、アイテムの一つだ。だいたいお前も光魔ルシヴァルだろう」

「そうであった!」


 興奮したビア。

 蛇腹の鱗の色合いが変化した、初めて知ったぞ……。

 ま、仕方ない。

 いつも、三つの魅力的なおっぱいを自然と見てしまうからな。


 と、ビアから視線を外して――。


 フォド・ワン・ユニオンAFVを再びチェック――。


 タラップを上がった機体後部の左右の縁には銃口が外に向けられた二基のハープーンガンが設置されていた。


 後部銃手の銃座。

 簡易的なターレットか。


 しかし、弾が長い。

 あの弾だとリロードに時間が掛かりそう。

 弾倉からして、火力は期待できるとは思うが。

 んだが、俺は無詠唱で魔法を放てるし、

 ヘルメも水と闇は無詠唱だ。

 眷属も仲間も魔道具で魔法を撃てる。

 だから、あまり必須ではない武器とも言える。


 しかし、何もないよりはマシか。


 後部の鋼板の上部のほうはガルウィングドア的な機動を見せてから止まった。

 その鋼板上部の左右の縁の孔からワイヤーが出る。


 ワイヤーは地面に刺さった。

 ワイヤーから螺旋した魔線が放射状に迸る。

 魔線は、瞬く間に、フォド・ワン・ユニオンAFVを囲った。

 魔力の防御層か。

 エネルギーバリアか?


 あぁ、だから物理的なハープーンガンが活きるのか――。

 と、<邪王の樹>を意識して樹槍を生成。

 防御層の内側のバリアに向け――。


 《氷矢フリーズアロー》を放つ――。


 バリアと《氷矢フリーズアロー》が衝突。

 波紋が幾つも出た。

 が、バリアに吸収されたように《氷矢フリーズアロー》は消失した。

 やや遅れて樹槍を魔法を防いだバリアの内側に向けて<投擲>――。


 <投擲>した樹槍はあっさりとバリアを通り抜けた。

 そのまま外の小さい湖となった水面を走るように突き進み、岩壁と激突。


「魔法専用の防御層があるのですね」

「だから足下に射手用の小さい盾があるのだな」


 ビアがハープーンガンの下にある弾倉を覆う鋼板を指摘。


「その通り、物理的な弾幕は防げません。トーラスエネルギーの防壁機構の技術が組み込まれた対エネルギー兵器専用の防御膜です」


 と、素早くアクセルマギナが解説。

 さすがはAIさんだ。

 感心しつつ、装甲車の内部を覗く。

 十数人は余裕で入れるだろう。

 積載容量は不明だが相当な人数が入れそうだ。

 荷物を繋ぎ止める金具とワイヤーもあちこちにある。


「中に入ろうか」

「はい」

「うむ……」


 わくわくしながらタラップを踏んで機体の内部に入った。

 天井に180㎜キャノン砲の魔機械部品とは違う、折りたたみ式の小型銃座がある。

 俺がその銃座に視線を向けると――。

 折りたたみ式の魔機械が蒸気的な魔力を噴出させつつ展開。

 天井の右側が出っ張る。

 と、その出っ張りの縁から硝子が伸びつつ湾曲して丸いカプセルを作る。

 カプセルのような中には、銃座としての背もたれ付きのチェアと銃のハンドルの持ち手に、一対の長細い銃身が硝子の間を抜けて出て、あっという間に、ボールターレットの銃座が出来上がった。


 レザーパルスキャノン砲の右の位置か。


「おぉ、寝袋がついた不可解な眼球が持ち上がった! あの一対の鋼の棒は魔眼か!」

「……硝子に覆われた箇所から、閣下のびーむらいふるとは違う、鉄の長い筒が二つ外に出ています!」


 見上げたビアとヘルメは、ボールターレットの銃座を理解していない。

 が、素直に銃座はカッコイイ。

 揺り籠的なハンモックの背もたれも気持ち良さそう。


 あの銃座から外の何かを撃ちたい。


 すると、ガードナーマリオルスがカメラをどこかに向けて点滅する光線を風防の上から出している。


 その点滅する光線が向かうのはレーザーパルス180㎜キャノン砲とボールターレットの近くの孔。

 あ、ガードナーマリオルスが納まる位置か。


「もしかして、あの孔は、ガードナーマリオルス用?」

「用ではないですが、ガードナーマリオルスも嵌まることは可能。わたしの合体時と同じように、ガードナーマリオルスも、あのポッドに嵌まれば、このフォド・ワン・ユニオンAFVの武器類の命中精度が上がるようです。ただ、ダメージを負うリスクがあります。クルベス級スター・マクマルソー簡易偏向シールド発生装置なども、取り付けが可能です」

「あぁ、戦闘機にも付けられるシールドか」

「そうです。シールドは、フォド・ワン・XーETAイータオービタルファイターにも取り付けは可能で、ガードナーマリオルスにも取り付けられます」


 アクセルマギナの説明を聞きながら下に視線を戻す。


 机はARのレーダーマップ。

 これは簡易地図ディメンションスキャンを拡大発展させた感じだ。

 周囲の景色が立体的に浮かぶ。

 その中央のお洒落なカフェテーブル的なレーダーマップ机から離れて壁際に移動。ヘルメは、ぴゅっとマップに水をかけているが……。

 蛇人族ラミアの赤ん坊が「わきゃきゃ」と喜んでいるので、そのままにした。

 ビアは長い舌でARのマップを突くように頭部を向けている。

 内部から地図の裏側の構造を見ようと必死なビアさんは机に蛇腹が衝突しまくっていた。


 机が揺れて、机の強度が心配になったが……。

 机は大丈夫なようだ。


 端の壁際には、取り外し可能っぽい座席と銃座が並ぶ。

 ボタン付きのスティックに、コッキング・ハンドル。

 機銃はブローニングM2重機関銃っぽい形。

 更に、光学センサー付き&光像式照準器が備わるミニディスプレイもある。

 座席の机と一体化したプラグ付きのダイナモメーターのような機械が見え隠れ。

 指紋センサー的なマークが浮かぶARディスプレイもあった。


 すると、ビアが近くに来た。


「主、不可思議な棒がある!」

「おう。これは多分、照準を動かす?」

「はい」


 アクセルマギナが元気のいい声で肯定。


 未来的な装甲車フォド・ワン・ユニオンAFVか……。


 正面の主力兵装が180㎜キャノン砲。

 対空の副兵装が、ボールターレット。

 と、ガードナーマリオルス&アクセルマギナの合体兵装?

 横の武装は機関砲。

 後部の武装はハープーンガン。


 十人は余裕で乗れるし、いいねぇ。


 フォド・ワン・ユニオンAFVはすべてがカッコイイ。


 すると、背後のタラップとガルウィングドアが格納される形で閉じた。

 外側に出る銃座のハープーンガンも機体の中にコンパクトに収納。


 同時に機体内部からのLED的な照明が俺たちを照らす。

 フォド・ワン・ユニオンAFVの内部は明るい。


 内部がコンパクトになった気がした。

 振り向きつつ、


「外装に、カメラはなかったように見えたが」

「映像は装甲面全体とリンク状態。勿論、あらゆるセンサーが備わっています。魔素を遮断するクリーチャーやセンサーを誤魔化す知的生命体の攻撃には対処は不可能ですが」


 ナノテクの反応制御技術の一部か。

 ハートミットの宇宙戦艦の内部もそうだった。


 と、前に移動。

 コックピットの手前には汎用型ロボットが収まりそうなスペースもある。

 隣には、バイクのスペースもあった!

 小型オービタルは確実として、ハーミットこと、ハートミットが乗っていた桜花型ラメラルも収まるだろう。

 アイテムボックスがあるから、このスペースはあまり意味がない?

 ん? レーダー机が邪魔だと思うが……射出機カタパルトもある。


 もしかして……と、俺が意識した途端、レーダー机は床に収まった。


「な? 面妖な机が消えたぞ!!」


 ビアが興奮。


 縦の魔線が点滅したカタパルトは、そのまま機体後部に向かう。

 閉じたタラップとガルウィングドアも一瞬で拡がった。


 小型オービタルに乗って、『アムロ、行きまーす』ができるってことか!


 そんな俺の思考にツッコミが来るように、後部のガルウィングドアが閉まる。

 ……先にコックピットを調べよう。


 レーダー机は格納されたままだが、ま、いいか――。

 と、正面を見る。


 座席は五つ。

 左の操縦席は豪華だが、艦長用とか?

 右にも操縦席はある。


 そして、巨大なディスプレイからは、外の景色が見えている。

 ――ワクワクが止まらんぞ。


「操縦を試すとしよう」


 専用の座席には、コントローラー的なハンドル。

 ボタン付きのスティックもある。


「はい」


 座席に座った。

 シートベルト的なモノも自然と装着。

 背後にいるヘルメとビアに、


「皆、座ってくれ。少しだけ運転を試す」 

「はい」

「承知――」


 ハンドルを握ると目の前のディスプレイが更に明るくなった。

 頭部の左右にサイドミラー代わりの透けたディスプレイが出た。

 裸眼ARか。

 その高精細なARディスプレイに、大鷹が映る。

 <荒鷹ノ空具>だ。


 大鷹は水飛沫を発しながら飛翔中。

 フォド・ワン・ユニオンAFVの内部に入った俺たちを心配しているのかな。 


 ハンドルには、アクセルとブレーキを意味するボタンがある。


遺産高神経レガシーハイナーブがあるマスターには必要ありませんが、マニュアルを表示しますか?」

「一応出してくれ。カレウドスコープと連動させる必要は?」

「連動を必要とする機能はあります。が、操縦だけなら必要はないかと」

「分かった」


 と、ディスプレイの右の一部に車の運転を意味するマニュアルが展開。

 高精細なアニメーションも入っている。


「ぬおお、またまた面妖な! 生物が動いているぞ」

「ングゥゥィィ!」

「面白いです――」

『おにゅーな異世界か!』


 ビアとヘルメが興奮。

 沙も興奮。

 続けて、ビアが、


「神獣様の触手と同等の力が鋼のロープなのか!! 自然と我の体に巻き付いてきたぞ!」

「<珠瑠の紐>のような効果はありませんが、蛇人族ラミアの赤ちゃんが泣いてしまいます!」

「単なるシートベルトだ。赤ちゃんには水をあげるんだ。んじゃ、前進する――」


 俺はアクセルを押した。

 フォド・ワン・ユニオンAFVは進む。

 ハンドルを傾けると、曲がった――。


 おお、楽しい――。

 フォド・ワン・ユニオンAFV、直進だ――!


 滝の急流を弾き飛ばし、崩壊した岩場を吹き飛ばしながら進む。

 と、壁が――。

 ブレーキを押したらすぐに止まった。


「さて、楽しんでばかりはいられない。このフォド・ワン・ユニオンAFVの本格的な運用は今度だ」

「主、我は怖い! 鋼鉄魔龍の胃袋が動くとは!」


 この惑星で生きているビアだから、無理もないが、鋼鉄魔龍の胃の中だと思い込んでいるようだ。


「きゃきゃきゃ」


 泣くかと思ったら蛇人族ラミアの赤ちゃんは喜ぶ。

 ヘルメの<珠瑠の紐>から離れようと、スティックの棒を握る蛇人族ラミアの赤ちゃんだ。


 刹那、対応する銃座が自然と動く。

「ズバババババババ」とその銃座から銃弾が射出された。


 外の岩が削れて新たな洞窟が……。

 周囲は孔だらけ。

 滝から流れ落ちる急流が溜まった小さな湖が幾つもできては崩落した岩で潰れる。


「「……」」

「ばぶぁぁぁ、きゃきゃきゃ!!」


 と、興奮した蛇人族ラミアの赤ちゃん。

 銃を撃ったと理解しているのかは不明だ。


「……閣下?」


 と、母的な立場のヘルメさん。


 不安そうな流し目だ。

 キューティクルな睫毛は綺麗。


 そして、知らんがな。といつもなら反応するところだが……。


蛇人族ラミアの赤ちゃんの能力だろう。まだ、坊やだからな。ニュータイプなのだよ。そう……将来は重力の井戸の底を知る、いや、アフロヘアが似合う……」


 無難にボケる。

 しかし、ヘルメとビアは首を傾げて「?」という感じの顔つきだ。


 レベッカなら、軽快なツッコミが来そう。

 しかし、彼女はセナアプアだ。

 そして、ビアが横に置いたガスノンドロロクンの剣は静か。


 ビアと同意見らしい。

 ガスノンドロロクン様も縮こまっていた。


「よちよち、静かにしまちょ~ね~。閣下が変な渾名をつけてまちゅが、わたしは却下でちゅから~」


 そう語るヘルメさん。

 おっぱいに「ばぶぅ」という可愛い攻撃を受けたヘルメだ。


 そのまま蛇人族ラミアの赤ちゃんにおっぱい水を飲ませていた。

 母親になっているが……気にしない。


「主、上の戦場に戻ろう」

「そうですね、大鷹ちゃんも飛び回っています」

「おう。んじゃ、外に出ようか」


 と、一瞬でシートベルトは消える。

 席から立ち上がって、カタパルト状態の後部のタラップから外に出た。


「シュウヤ、行きます――」


 と、そのカタパルトに乗ったように、足下に<生活魔法>を発動――。

 颯爽な気分でカタパルトから滑るように外に出た。


「ヘルメも行きます――」


 俺の気分に乗ったヘルメも素早く飛翔しながらついてきた。

「うきゃきゃ~」


 テンションの高いニュータイプな蛇人族ラミアの赤ちゃんも楽しげだ。


 俺はビアがフォド・ワン・ユニオンAFVの後部のタラップから下りるところを待った。


 ビアが下りると、タラップは自動的に持ち上がる。

 上部のガルウィングドアも下に向かって動き、装甲車の後部は閉まった。

 すぐに、そのフォド・ワン・ユニオンAFVを戦闘型デバイスに仕舞う。


 巨大な装甲車が瞬く間に魔力粒子となって消える。

 その光景は不思議だが、アクセルマギナで見慣れている。


 すると、大鷹が飛来。

「ピュゥゥ」


 と、鳴いた。

 大鷹は両脚の爪を見せてくる。

 両脚から伸びた爪は鋭そうだから、少し躊躇。

 鷹匠が持つような手袋を想起するが、ま、防護服は弄らずとも――。

 竜頭金属甲ハルホンクの肩の甲で、受けるか――。

 右肩を少し前に出し――。


「来い――」

「――ピュゥゥ」


 またも、甲高い声で鳴く大鷹。

 俺の右肩にある竜頭金属甲ハルホンクに着地――。

 竜頭金属甲ハルホンクの頭を見事に両脚で掴む。


 その大鷹の脚爪は竜頭金属甲ハルホンクに食い込んではいないが、


「ングゥゥィィ……」


 と、ハルホンクは不満そうに鳴いた。

 魔竜王の蒼眼と髭が動くと、蒼眼が剥ける。


 その眼球がアドゥムブラリっぽくコミカルに動くから面白い。


 その肩に来た大鷹を間近で凝視。

 パチパチと双眸を瞬きする大鷹ちゃんは、可愛い。

 勿論、猛禽類だから双眸は鋭い。

 んだが! その鋭さが、可愛いのであ~る。

 と、なぜか偉ぶった気持ちで心の黄金比バランスを崩す。


 灰黒色の嘴は、鋼鉄っぽい印象だ。

 その嘴の尖端は爪と同じく尖っている。

 大鷹の腹は鳩的な白っぽい毛で柔らかそうではあるが凜々しさもある。

 血を帯びた灰黒色の翼からオーラ的な桃色の魔力を発していた。


 桃色から、波群瓢箪に棲むリサナの桃色の魔力粒子を思い出す。

 翼の表面には<シュレゴス・ロードの魔印>と似たマークがある。

 俺の掌にあるシュレのマークと少し違う?


 ヒューイ・ゾルディックと混じったシュレの魔力と俺の<血道第四・開門>と<霊呪網鎖>によって変化したモノと推測。


 その大鷹は、俺に挨拶するように頭部と鳩胸的な胸元を揺らし、


「――ピュ!」


 嘴を開けて挨拶してきた。


「元気がいいな」

「ングゥゥィィ!」

「ギャ!? チキッチキ!」


 下からの竜頭金属甲ハルホンクの声に驚いた大鷹。

 嘴で竜頭金属甲ハルホンクを突く。


「鳴き声が少し変化した?」

「閣下、やはり大鷹を眷属に!」

「おう。さっき<荒鷹ノ空具>ってスキルも得た――センティアの手は一旦しまう」


 アクセルマギナがセンティアの手を回収。

 瞬く間にアイコン化したセンティアの手。


 アクセルマギナの周囲に浮かぶアイテム類は豊富。

 センティアの手の他にも、フォド・ワン・プリズムバッチ、神槍ガンジス、魔槍杖バルドーク、雷魔の肘掛けなどが浮かぶ。

 それらのアイテムのアイコン類は、背景の宇宙的なOS模様の一つとなるように、サンドアートの芸術を彷彿とするように収縮する。戦闘型デバイスの解像度が異常に高いからこその動きと分かるが、美しい。


 だからこそ、風防の上のホログラム映像は常にコンパクトで綺麗だ。


 そんな戦闘型デバイスを眺めている間も……。

 肩の大鷹は、まだチキチキと不満そうに鳴きつつ、竜頭金属甲ハルホンクを突く。

 大鷹に嘴で突かれる度に竜頭金属甲ハルホンクの魔竜王の蒼眼が剥けて、コミカルにクルクルと回った。「ングゥゥィィ、ソコ、キモチイィィ」「チキチキッ――」と大鷹は竜頭金属甲ハルホンクを突く。


 ハルホンクは表面に蚤でも棲み着いていたのか?

 まぁ、グルーミングを受けているようだから、放っておくとして……。


 チキチキと興奮した大鷹に向けて、


「お前は、荒神ヒューイだった存在か?」


 そう聞くと竜頭金属甲ハルホンクを突くのをやめた大鷹。


「ピュ?」


 と、鳴きつつ振り向く。

 チキチキを急に止めるところが、また可愛い。

 大鷹は、頭部を傾けると、そのまま竜頭金属甲ハルホンクから離れた。


 トコトコと肩を歩いて息を感じる距離で俺を凝視。


 再び、嘴が動く。


「ピュ」


 鳴いた。

 『そうだ』という意味だろう。


「なら、名前はヒューイでいいかな?」

「ピュィ!」


 さっきよりも力強い。

 了承を得た。ちっこい舌とちっこい牙が可愛い。


「早速、<荒鷹ノ空具>を試す――」

「ピュ」


 ヒューイは小さい∴のマークを輝かせる。

 と、骨と金属の飛行機の翼のような形に変化した――。


 人工的な翼の機械?


 魔機械という部類だと思うが……。

 肉のような繊維と毛が多い。

 ヒューイ独自の能力が<荒鷹ノ空具>か。

 その<荒鷹ノ空具>の翼は、瞬く間に俺の背中に回る。


 翼の中心部から背筋を矯正するようなゴムバンド的な器具が伸びた。

 そのゴムバンド的なモノが、俺の背中と腰に巻き付いて竜頭金属甲ハルホンクの半袖衣装と一体化――。


「まぁ、大鷹が閣下に翼を!」

「なんと!!」


 二人を更に驚かせるように直ぐに跳躍。

 背中に装着した翼の力で浮遊。


 飛翔を開始。

 これが<荒鷹ノ空具>の能力。


「速い! わたしも――」

「おう」


 と、ヘルメも一緒に宙空でダンスを行うように飛翔を楽しんだ。


「実際に翼が生えたわけじゃないが――」

「ふふ、はい。宇宙海賊さん的に、魔キカイという部類の魔道具と似てますね」

「そうだな――」


 と、間近を飛翔するヘルメを抱きしめた。


「ぬぬ! 精霊様と主が羨ましい!」


 下でビアが叫ぶ。

 ヘルメを片手で抱きつつ下に着地。


 そのヘルメは俺を抱きしめながら、


「――閣下は、これで<導想魔手>なしで飛翔が可能になったということ」

「他にも使える――」


 ヘルメを離しつつ<荒鷹ノ空具>を使った。

 俺の背中から離れたヒューイの翼は、ビアの背中に向かうと、ビアの背中に装着。

 <荒鷹ノ空具>の翼を得たビアはすぐに浮き上がった――。


「――キショエエエエッ」


 驚くビアは咆哮を発しながら逆さまになった。


「あぁぁぁあ、主ぃぃぃぃ――」


 ビアは叫ぶ。

 恐怖を覚えたのか、ビアは蛇腹の一部からオシッコ的な液体を撒き散らす。


「主ぃぃぃ、た、たすけてぇぇぇ」


 ビアはそう言うが、逆さまのまま飛翔を続ける器用なビアだ。

 蛇の尻尾が頭のように見えて、少し変だが。


 お? そのビアは宙空でターン。

 <荒鷹ノ空具>の翼の感覚を得たようだ。

 蛇人族ラミアの姿で翼を羽ばたかせる姿は、違う種族に見えた。


「主! これは素晴らしい! 我は飛翔機能を得た初の<従者長>なり!」


 飛翔しながらビアはガスノンドロロクンの剣を真上に掲げた。

 元気を取り戻したガス剣に絡む黒い龍。

 そのガスノンドロロクン様から黒い稲妻が四方に迸る。


 周囲の水飛沫が吹き飛んでいた。


「ヘルメ、俺たちも浮上だ」

「はい――」


 <導想魔手>を蹴る。

 視界に移るは滝の水飛沫と崩れた岩から放出される急流。

 その急流と水飛沫を<超能力精神サイキックマインド>で吹き飛ばす。


「――ふふ、閣下が作る水の景色は素晴らしい――」

『うむ。飛沫が散る光景は神界の【薙ぎの霜灘】を思い出す』


 ヘルメと沙の感想をバックに跳躍を繰り返す。

 出っ張りの岩を蹴って身を翻しつつ高く跳んだ。

 逆さまで飛翔したまま足下に<導想魔手>を生成――。

 その<導想魔手>を蹴って高く飛翔しつつ、回転しながら先を飛翔するビアを抜かした。


 俺が滝壺に飛び下りた地点に着地。


 リザードマンの集団が出入り口に向かっている。

 その出入り口近辺ではリザードマンたちが乱舞していた。

 巨大な相棒の姿と、触手の群れが見え隠れ。

 神獣ロロは殿として、派手に暴れているようだ。

 下から矢が俺たちに迫る。


 その射手のリザードマンに――。

 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を喰らわせつつ――。


 一応、ヴィーネに――。


『今、向かう――』


 と、血文字連絡しつつ宙空を直進。

 刹那、狭い範囲が爆発――。


 紅蓮の炎を吐いた神獣ロロディーヌの炎だ。

 だが、リザードマンの魔法使い集団は健在だ。

 宙空に繰り出した防御層でリザードマンたちを守る魔法使い集団。


 が、防御層も完璧じゃない。

 右手前の重装歩兵的なリザードマン部隊は、相棒の炎をもろに受けていた。


 魔法の鎧の一部だけ残って炭化。

 あの魔法の鎧は、優秀と分かるが……。

 回収はしていられない。


 ――飛来する矢の群れを召喚した魔槍杖バルドークで弾く。

 相棒に衝突しそうな、巨大な魔法の岩には――。

 拳にした<導想魔手>をぶつけて、壁に、その魔法の岩を運ぶ――。

 壁に魔法の岩を衝突させて粉砕。 

 歴史的な蛇人族ラミアの壁画が崩れてしまったが、仕方ない。


 その壁の一部が崩れて、出入り口の幅を狭めることに成功。

 水飛沫が飛来する天井から、蔓と苔が落下。


 構わず、続けて、《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を――。

 その巨大な魔法の岩を繰り出した魔法使いのリザードマンがいるほうに繰り出す。

 が、魔法使いのリザードマン部隊は優秀だった。


 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》は宙空で威力が減退。

 複数の魔法使いのリザードマンが杖を掲げて、斜めの方向に魔法の防御層を展開していた。

 が、その魔法使いの集団たちの背後の空からビアが急襲。

 ガスノンドロロクンの剣を振るい――。

 魔法使いの集団の一部を倒すと――。


 ビアは狙いを変えるように飛翔する。

 飛翔能力を得たビアは速い――。


 直進しながら<麻痺蛇眼>。

 続けざまに体から<血魔力>を放出した――。


 加速するビアはヴェハノのような蛇腹を活かす。

 蛇腹でリザードマンを押し潰して着地するビア。

 そして、トン、タン、ターン、と――軽やかに横回転を連続的に行う。

 回りに回った旋風剣――。

 ガスノンドロロクンの剣がぶれて見えた。その剣に絡む黒い龍のガスノンドロロクン様が遠心力の影響か伸びる。

 剣の刃先が黒色に変化して見えた。


 ビアは、蛇人族ラミアの皮で作られた部族の旗が目立つリザードマンの部隊を次々と斬り伏せていく。


 横に迫ったリザードマンをガスノンドロロクンの剣で両断。

 同時に尻尾を振るって近付くリザードマンを吹き飛ばす。

 そのビアの爪先半回転のような機動の蛇腹を活かす旋回技が徐々に遅くなる――。

 と、ビアは<血魔力>のオーラを周囲に発しつつ動きを止めた。 


 迫力を持った表情のビアは、鬼気迫る。

 その彼女の表情は、すぐに理解した――。

 狙いは蛇人族ラミアの生皮の旗を持つリザードマン部隊のリーダー格だろう。

 ビアは「故郷の恨みを……」と発言すると、ガスノンドロロクン様と連携する。

 リーダー格っぽいリザードマンに向けて、


「「<武法・龍ノ牙>――」」


 ビアはガスノンドロロクンの剣を振るってスキルを発動。

 ガスノンドロロクンの剣から黒い龍が拡大しながらリザードマンの部隊を急襲。

 リザードマンの集団は、リーダー格ごと黒い龍に押し潰される。

 いや、潰れつつ感電しながら死んでいた。


 ――すげぇ技だな。

 それだけゾルディックの<ラ・ジェームの環>に凄まじい防御性能があったということか。

 俺の<血鎖の饗宴>をあっさりと封じる辺りからそうだろうとは思っていたが……。


 更に、ヘルメが蛇人族ラミアの赤ちゃんを抱きながら氷槍の雨を降らせた。


 そのリザードマンの魔法使い部隊は半壊。

 俺も参加しようか。


 直ぐに、右手と右手が握る魔槍杖バルドークに魔力を込める。

 魔槍杖バルドークから「カラカラ」と嗤う声が響く。


「ングゥゥィィ!」


 竜頭金属甲ハルホンクも元気な声を出した。

 刹那、まだ健在なリザードマンの魔法使い目掛けて――。

 盛大に魔力を込めた魔槍杖バルドークを<投擲>――。

 <魔狂吼閃>を彷彿する勢いで、瞬く間に宙を駆け抜ける魔槍杖バルドークは、魔法使いの魔法防御層を喰らうように貫いた――。


 そして、魔法使いのリザードマンの胴体を嵐雲の矛が、見事、ぶち抜いた。

 地面に突き刺さったバルドークから衝撃波が発生。


 周囲のリザードマンの部隊を吹き飛ばす。


 そして、両手に鋼の柄巻と血魔剣を召喚。

 素早く<血魔力>を両手の武器に込めた。


 ブゥゥゥゥン、ブゥゥゥン――。

 と、小気味いいブレードが伸びる音が周囲を支配。

 その鋼の柄巻と血魔剣を<投擲>――。


 くるくる回りつつ飛翔する青緑色のブレードと血色のブレード――。

 二振りのブレードは、次々とリザードマンを輪切りにしていった。


 続けて<超能力精神サイキックマインド>を発動。

 <投擲>した武器を素早く回収。

 ガードナーマリオルスが、独鈷魔槍を俺に差し出すような映像を寄越すが、受け取らず――《氷矢フリーズアロー》と<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>でリザードマンを地面に縫わせつつ、


「相棒――左はもらう。お前はそのまま出入り口の前後で、皆を乗せろ――」

「ンンン――」


 相棒は長い尻尾を振るって、鎧が派手なリザードマンを吹き飛ばす。

 撤収はせずに、俺たちを見ていた。


 俺に遅れて飛翔するヘルメとビアの姿を見ているようだ。

 神獣ロロはヘルメとビアを見守る。


 はは、優しい神獣だ。

 巨大で野獣溢れる姿の相棒だが……。

 その面は愛情に溢れていると分かる。


 相棒なりの、今までヴェハノたちを守っていた行動からくるものだとすぐに察知。

 俺は走っているリザードマンたちに向けて――。


 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を連発。

 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>も続けて連射。


 よーし、複数のリザードマンを倒した。

 と、<鎖>を繰り出す。大量だ――喜んでいる――暇はない――。

 梵字が宿る<鎖>と<鎖>で中距離の位置にいた射手リザードマンをぶち抜いた。


 右手にいた足軽リザードマンに<血鎖の饗宴>を喰らわせるか、と思ったが、相棒の黒触手から出た骨剣が、そのリザードマンの胴体を捉える。


 その攻撃を繰り出した相棒に向けて、


「――ヘルメとビアなら大丈夫だ。ビアは、今だけ飛翔できる――」


 と、発言。

 蛇人族ラミアの赤ちゃんもヘルメの<珠瑠の紐>でちゃんと守られている。

 相棒は上下の顎から鋭い牙を覗かせていたが、


「ンン、にゃ」


 そう鳴くと、縦に割れた黒色の獣としての瞳を、一瞬黒猫ロロ的に真ん丸く変えた。 

 安心したような面を作る。

 と、また直ぐに、肉食獣としての面に戻す。


 俺とアイコンタクト。

 互いに頷き合う。


「――ガルルゥ」


 と、唸った相棒。

 尻尾で、安全圏を作りつつ身を翻す。

 ロロディーヌは体勢を低くして四肢に力を溜めた。

 俺はその背後を守るように<血鎖の饗宴>を繰り出す。


 <血鎖の饗宴>で簡易的な壁を作り出した。

 波群瓢箪を出すか? 


 そう思考していると、


 魔力と膂力を四肢に溜めた相棒は、その四肢で地面を強く蹴った――。

 足下からドッと鈍い音を響かせながら迅速な突進で出入り口に向かう。

 風と礫も周囲に飛ばした。

 周囲のリザードマンの死体が、その風と礫を喰らって乱舞。


 俺はヘルメとビアを連れて、その相棒の後ろ姿を追った。


 洞窟を出た直後――すぐに皆を把握。

 相棒の背中の上にヴェハノ、ママニたちがいる。

 琥珀も一緒だ。


 すると、アクセルマギナは戦闘音楽のテンポを変えた。

 ――いい演出だ。


 ヴィーネは、神獣ロロから出た触手に片足が絡まった状態。


 逆さまな状態から翡翠の蛇弓バジュラを構えていた。

 番えた光線の矢を、その逆さまのままの状態で器用に放つ。 


 一瞬で、俺たちの近くを通り過ぎていく幾つもの光線の矢。

 光線の矢が俺の両頬の真横を通り抜ける瞬間、スローモーションと化した気がした。


 ――怖かったが、格好良いヴィーネさんだ。


 その銀髪が下に垂れつつもさまになる翡翠の蛇弓バジュラを構えたヴィーネが、その翡翠の蛇弓バジュラ越しに、


「ご主人様――」

「おう」


 ヴィーネの片手の甲に銀色の蝶が移っている。

 直後、相棒の触手がヘルメとビアに絡まるのを確認。


 しゅるるっという音は聞こえないが、ヘルメとビアは相棒の背中に運ばれていく。

 俺は<導想魔手>を蹴って相棒の触手を素早く避けた。


「ンンン――」


 巨大な喉声で『なに、避けているにゃ』とツッコまれた気がした。


 俺は身を捻って背後を確認――。

 ――ヴィーネとジョディの殿に俺も参加するつもりだ。


 リザードマンの額に、光線の矢が突き刺さるのを視認。

 続けざまにヴィーネの放った光線の矢が、短剣持ちのリザードマンの頭をぶち抜く。

 すると、魔法の鎖が複数のリザードマンの胴体を貫いていた。


 あれは<光魔のアルルン>か。


「あなたさま、おかえりなさいませ――」

「おう、ジョディとヴィーネ。このままリザードマン、いや蛇人族ラミアの故郷から離脱する――」

「「はい」」


 美女たちの声を左から感じつつ――。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を連続的に射出。


 俺たちを追うリザードマンの動きを鈍らせた。

 幸い空を素早く飛翔できるリザードマンは少ない。


 浮いていた魔法使いのリザードマンもいるが、動きは鈍い。

 浮いた直後に、ヴィーネの翡翠の蛇弓バジュラの餌食となっている。

 問題は射手のリザードマンだろう。

 投げ槍専門の大柄リザードマンもいるが――。


 ――<鎖>でヘッドショット。

 大柄リザードマンを倒したが、飛来する矢の群れの中には――。


 ワイバーンが吐いたような毒の液体が付着した鏃の魔矢もあれば――。

 禍々しい魔力が篭もった凶悪な魔矢もある――。

 魔矢を避けつつ――。

 ――<超能力精神サイキックマインド>で、その魔矢の群れを粉砕。

 洞窟の出入り口で幅が狭いのもあって俺たちを追うリザードマンは少なくなった。


「ヴィーネとジョディ、撤収だ」

「「はい」」


 相棒が寄越した触手を片手で握った。

 巨大な神獣ロロディーヌに曳航を受けるように、俺は宙を進む。


 眼下にフォルニウム火山の中腹が見える。

 破壊された蛇人族ラミアの像に、然らば、と告げるように視線を送る。

 遠くに骨の塔が見えた。気になるが、ま、もう用は済んだ。

 シェイルの治療のために、サイデイルに戻る。

 そのシェイルの治療のための旅だったが……。

 まさに『ミッションインポッシブル』だったな。

 そして、今の俺を遠くから見たら――。

 ヘリコプターから出たロープを握ってぶら下がった姿に見えるかもしれない。

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