六百五十一話 ドラゴン退治に秘剣のワルツと火口
ングゥゥィィを連発するハルホンク。
俺が風を孕む速度で飛翔しているから――。
「ングゥゥィィ、カゼ、ウマイ、ゾォイ!」
「ぶらぁぁぁ、俺様に唾をかけるなァ!」
アドゥだ。
単眼球にべったりとハル汁が付着していた。
そんな指環からぷっくりと出たアドゥムブラリを消してから、次はどのアイテムをハルちゃんに喰わせるか考えながら直進。
すると、巨大なドラゴンを発見。
赤い鱗が太陽光を反射して眩しい。
巨大な赤いドラゴンは豪快に翼を動かすと旋回していく――。
頭を斜め下に、翼の角度を下に変えると速度を俄に上げて、直進。
ガーゴイル系と蝶のモンスターの集団に特攻――。
巨大なドラゴンは、炎を孕む乱気流を生み出すような勢いだ。
その勢いと行動は巨大なシャチが魚の群れを追い立てて喰うようにも見えた。
そんなシャチどころではない巨大な赤いドラゴンは、豪快に大きな口を広げると、ガーゴイル系と蝶のモンスターを一瞬で喰らい平らげる。
口元から迸る血飛沫の量が凄まじい。
――激烈な食いっぷりだ。
あの巨大な赤いドラゴンが、この辺りの食物連鎖のトップか?
更に、その赤い巨大なドラゴンは横回転。
長い尻尾を振るい、群がるガーゴイル系モンスターと蝶のモンスターを薙ぎ払う。
尻尾には炎を宿した突起物が生えていた。
何十体とガーゴイルは破壊される。ガーゴイルの硬い欠片が細かな弾丸の礫となった。
死蝶人と似た蝶族は、その影響をもろに受ける。
M 61バルカンで射撃を受けたように、体は穴だらけとなっていた。
蛾のような幼虫を生み出した蝶族もいたが、南無。
ガーゴイル系は岩の体だ。
硬いし、その破片には魔力もあるから、凄まじい破壊力を備えた礫の群れとなる。
前世のクラスター爆弾的な爆発を想起する。
1つのクラスター爆弾の中身は、数百個の子爆弾。
凶悪な兵器だ。
しかし、関係はないが、凶悪といえば『ケミカル・トレイル(chemical trail)』のほうも凶悪かもしれない。
ミクロは見えないし人は自然と空気を吸い込むんだからな。
「ガオァァァァァァァァ」
巨大な赤いドラゴンは咆哮。
強烈な声の振動が、俺の意識を呼び戻す。
その巨大な赤いドラゴンは体勢を傾けた。
火口と隣接するフサイガの麓を燃焼させていた火口谷に向けて下へと直進――。
火山の噴煙の中から湧くように出現する岩石型モンスターを巨大な角が貫いて倒す。
――生存競争の一端か。
その巨大な赤いドラゴンは岩石型モンスターをかみ砕くと振り向く。
角で貫いた岩石型モンスターをもぐもぐと食べながら俺たちを凝視。
魔竜王を彷彿する凶悪なドラゴン面だ。
俺たちが美味しそうな餌に見えたか?
『閣下、ロロ様はいません。わたしが出ますか?』
「今は見ておけ、俺が対処する」
『はい――』
巨大な赤いドラゴンは、巨大な口をこれでもかといった勢いで広げる。
牙という牙と上下の顎の乱杭歯が凄まじい。
そんな牙だらけの口から真っ赤な巨大な火球を生み出すと、その火球を俺たちに飛ばしてきた。
右手に聖槍アロステを召喚――。
《
アロステの前方に龍頭を象った列氷が発生――。
それら龍頭一つ一つが半透明な魔法の照準となるように並ぶと重なり多頭を持つ氷竜と成り、節々から氷の刃を生やしつつ、その体を螺旋回転させながら突貫――。
その螺旋氷竜と、巨大な火球が触れた刹那、大爆発。
凍った空気が円状に拡大――。
渦を起こすように氷の嵐が吹き荒れながら巨大な赤いドラゴンも凍り付く。
氷の彫像と化した。が、まだ生きているかもしれない。
右手の聖槍アロステに魔力を込めて<投擲>――。
聖槍アロステの十字矛が氷ドラゴンの彫像の胸元を穿つ。
直ぐにドラゴンの背後に突き抜けた聖槍アロステを<鎖>で回収。
胸元に穴が空いたドラゴンは火口に落下。
突き出た岩に突き刺さったが、凍ったドラゴンは崩壊しなかった。
続けて<邪王の樹>を意識。
樹槍を無数に作っては<投擲>しまくる――。
次々と巨大な氷のドラゴンに突き刺さった。
魔槍グドルルを召喚、<投擲>――。
独鈷魔槍を召喚、<投擲>――。
雷式ラ・ドオラを召喚、<投擲>――。
ドラゴンは原形が分からず、歪な凍り付いた鱗と肉と肉の塊となって散る。
<投擲>した槍は<鎖>で引き戻す。
<鎖の因子>のマークにある手首に収斂させた。
コンマ数秒もかけず手元に戻った槍は、戦闘型デバイスのアクセルマギナが吸収するようにアイコン化させる。
真上に伸ばした右手に――。
魔槍杖バルドークを召喚――。
丹田で練った魔力を爆発させるように
右肘のイモリザにも喰わせず魔槍杖バルドークへと移す。
「喰エ、ナイ、喰エ、喰エ、ングゥゥィィ!」
右肩の
俺の魔力が喰えると思ったようだ。
少し声の質が可笑しかった。
代わりに俺の魔力を吸い上げた魔槍杖が煌めく。
嵐雲を彷彿する穂先の表面に髑髏の群れが湧いた。
「カラカラ」
と嗤い声を響かせる魔槍杖バルドーク。
よーし、<投擲>祭りと行こうか!
イメージはキサラ!
<
半身を前方に投げ出す要領で――。
左手で空を掻くように動かし――。
体幹に巡る魔闘術を強く意識した筋肉マッスルの<投擲>を実行――。
<投擲>を喜ぶように唸り声を発した魔槍杖バルドークは宙を突き進む――。
凍ったドラゴンだった塊に直撃。
ところが、凄まじい魔力を込めた魔槍杖バルドークは氷のドラゴンだった肉塊を突き抜けなかった。
表面の凍った鱗は貫いたが内部は凍っていない?
分厚い肉の内臓に突き刺さった状態か。
魔槍杖バルドークは呼吸でもするように揺れた。
嵐雲の穂先が突き刺さった部分は、巨大なドラゴンの心臓か?
魔槍杖バルドークが刺さっても、内側の巨大な内臓は動いていると分かる。
やはり心臓だろうか。
それとも、内臓に違う生命体が住んでいる?
魔槍杖バルドークは、巨大な心臓から魔力を吸い取っているようにも見えた。
<鎖>で突き刺さった魔槍杖を回収はせず――。
「――ンンン」
「ガォ」
背後から相棒と琥珀の声が響く。
――遊びを終えたか。
そんな飛翔してくる相棒を追う複数の魔素を感知。
ガーゴイル系?
引き連れてきたか、
まぁ、まずは……。
魔槍杖バルドークが突き刺さるドラゴンの内臓が先だ。
中身は巨大なドラゴンの心臓と予測。
が、古代竜系の未知のモンスターかもな。
そして、突然変異で、強力な何かに急成長される前に仕留めよう。
血魔力<血道第三・開門>――。
<
<導想魔手>を蹴って前進――。
視界に内臓の塊に刺さった魔槍杖バルドークが迫る――右腕を伸ばし――。
その魔槍杖バルドークの柄を、掴まない――。
横回転。
戦闘型デバイスのアクセルマギナを巻き込まないように注意しながら<血鎖の饗宴>を発動――。
回転中の体から出た血の鎖が宙空で曲がりつつドラゴンだった塊へと向かう。
ドラゴンの塊に刺さる魔槍杖バルドークの周りに血の鎖をぶち当てていった。
が――<血鎖の饗宴>も途中で止まる。
あの巨大なドラゴンの内臓は、硬いうえに柔らかく再生速度も高いときた。
反撃といったモノはないが、不気味だ。
魔槍杖バルドークが突き刺さったままになる理由か――。
――<血鎖の饗宴>を消去。
コンマ数秒もかけずに――。
<魔闘術の心得>と体幹を意識。
全身の血潮が燃え滾る。
この全身の筋肉を活かすとしようか!
同時に身を捻った。
回し蹴りだ――。
「アチョァァァッァア――」
奇声染みた声と<血魔力>が回転機動の俺に絡まるが構わねぇ――。
<血魔力>を乗せたアーゼンのブーツで魔槍杖バルドークの竜魔石を蹴った!!
凄まじい勢いで魔槍杖バルドークが直進。
ブーツの甲で捉えた竜魔石から悲鳴は聞こえないが、そんな音が魔槍杖バルドークから響く。
魔槍杖バルドークは、ドラゴンの心臓部らしき塊の内部を破壊しながら突き抜けた。
裂かれた心臓部らしき塊は散った。
魔槍杖バルドークはそれら散った血肉を吸収しながら遠のく。
魔槍杖から遠吠え的な声が響いた。
刹那、ドラゴンの塊の破片が、魔槍杖バルドークの吸収から逃げるように一カ所に集結。
集結してできたのは、極大魔石?
大きく欠けた極大魔石に変化。
魔法陣が積層型に自動的に積まれていく。
ドラゴンの設計図面的な魔法陣となった。
いや、毛細血管的な半透明の魔力が同時に展開されているから、意識を持った極大魔石なのか?
古代竜系の突然変異か?
「――喰エ、喰エ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星――」
音速染みた速度で直進した魔槍杖は、極大魔石を貫いた。
また反転しては、極大魔石を貫く。
『ほぅ、彼奴とハルちゃんヌは、通じておるのか! <御剣導技>の技と似た機動ぞ!』
サラテンの沙が珍しい。
俺以外を褒めることはめったにしないんだが。
『魔槍杖バルドークがあったから
『……まさか、本当に<御剣導技>ではなく、器は<御槍導技>を学んでいたのか?』
『いや、スキル化はまだだ』
『そ、そうか……』
沙は自信を失ったようなニュアンスで念話を伝えてきた。
ハイテンションガールでないと、逆に心配になるんだが……。
が、大人しく、相棒的な魔槍杖バルドークを
宙の足場である<導想魔手>を蹴った。
血の加速を活かすように前傾姿勢の飛翔――。
魔石は粒状となっても、何かの意思があるように五芒星と六芒星を象っている。
そして、ドラゴンの形の魔法陣を幾つも発生させていた。
その中心を狙う。
飛翔していた魔槍杖バルドークを掴んだ。
喜ぶように振動する紫の柄。
魔槍杖バルドークは吸収していたドラゴンの魔力と血を俺に寄越してきた。
「ありがとな――」
同時に<豪閃>を発動。
魔法陣ごと魔石と魔線を力で薙ぎ払う。
奇妙な魔石の群れは嵐に巻き込まれたように一気に数を減らした。
<豪閃>から逃げた魔石もいる。速度が加速する奇妙な魔石だ。
<血鎖の饗宴>を発動――。
散って逃げる魔石を血の鎖の群れが追跡。
血の鎖が魔石を破壊し喰らった。
<血鎖の饗宴>は消去。俺の狙いは違う魔石――。
そのままデュラートの秘剣を引き抜く――。
――<光魔ノ秘剣・マルア>。
<水車剣>で魔石をぶった切る。
続けて、デュラートの秘剣を振るい回す――。
再生途中の丸い魔石を横から切断。
次は魔線を発した魔石――。
デュラートの秘剣で魔石を狙った刹那、
『デュラート・シュウヤ様――』
マルアの思念が響く。
『あちきと一緒――』
デュラートの秘剣の柄が伸びて分裂?
え? 分裂した柄はマルアの片腕に変化?
イモリザ? いや、黒髪が長い陰を作るようにマルアが出現した。
柄は二つだが、一つのデュラートの秘剣を握り合う形か?
これが秘剣なのか!
<導想魔手>に立つマルアと俺。
細いマルアの体から温もりを得る。
黒髪からも香のいい匂いが漂う。
そのマルアが『<陰・鳴秘>』とスキルを発動――長い黒髪から音楽が鳴る。
俺はマルアのワルツにアンプロンプチュで合わせつつ、マルアの機動に促されるまま、愛の意味を感じるワルツのリズムに乗るように挙動を合わせた――。
洒落ではないが、デュエットの剣。
二人で――デュラートの秘剣を振るう――。
デュラートの秘剣から黒髪色の音波の剣筋が幾重にも飛翔。
最後の魔石をすべて切断。
※ピコーン※<陰・鳴秘>※スキル獲得※
「おお、スキルを得られた」
「ふふ、デュラート・シュウヤ様。お見事です」
「即興で合わせただけなんだが」
「武術の素養が高いからこそ。そして、あちきのデュラートなんだから、当然です」
吐息と温もりをじかに感じるような間近で、美人なマルアに褒められると照れる。
片目の手術のことを話してみるかと、考えたところで――。
背後で相棒の気配が強まった。
――魔槍杖バルドークを消去。
<光魔ノ秘剣・マルア>を意識。
瞬く間にデュラートの秘剣の柄に黒髪ごと吸い込まれるマルア。
すげぇ魔剣、いや、光魔ノ秘剣だ――。
『閣下、剣術も槍武術並みに進化してきましたね』
『あぁ、だが、まだまだ高みは遠い。精進あるのみ』
『ラ・ケラーダ! ですね』
『おう、さすがはヘルメだ』
ヘルメも相棒だよな、と熟々思った時――。
「――にゃごあぁぁぁ」
相棒が壮大な紅蓮の炎を吐く――。
ガーゴイル系と蝶のモンスターは、紅蓮の波頭に飲み込まれる。
『ひぃぃぃ』
ヘルメがびびる。
俺もびびる。
沙は沈黙。
シュレも沈黙。
魔軍夜行ノ槍業と閃光のミレイヴァルとフィナプルスの夜会は互いに衝突。
相棒と琥珀を追ってきたモンスターは全滅。
四十度の方向に向けての、指向性のある紅蓮の炎だったが、威力は申し分ない。
まさに、半端ねぇ! パねぇ紅蓮の炎だ。
しかし、相棒を追うモンスターもモンスターだろう。
神獣ロロディーヌが凄まじい存在感を放っているから仕方ないのか?
生命の基本は警戒だと思うが……。
昆虫的な本能が優るとどうしようもないんだろうか。
ということで、【フォロニウム火山】の制空権は取ったかな。
しかし――さすがに熱い。
下には、火口湖がありそうだ。
火口原湖に姥蛇ジィルの数珠を投げるにしても、もう少し近寄らないとな。
背後の敵を掃除した、相棒は近付いてこない。
頭部に琥珀を乗せた神獣ロロディーヌは、いつもよりも魔力を盛大に放出しながら周囲を旋回中。
あの
触手の数もそうだが、凄まじい量だ。
まぁ、あのバリアのような魔力粒子があるから、宇宙線も大丈夫だった。
大気圏の摩擦も大丈夫。
だから、溶岩だろうと平気だと思う。
ま、大丈夫だとしても……。
俺と同じく熱いことは熱いし、痛いのは嫌いってことだろう。
そして、迸る神獣魔力の粒子が、一段とロロディーヌの迫力を増していた。
あのまま、どっかの村に着地したら……。
神様だと勘違いされそうだな。
実際に魔力の筋染みたモノが空間に作用しているようにも見えた。
怖いぞ、相棒よ。
あの魔力の放出具合は、<
縄張り的な網? 魔力の円の傘にも見えた。
そんな
「ンン、にゃお? にゃ、にゃ~!」
「ガォ? ガォ~」
「にゃごぉぉ」
といった、見た目とは対照的に、まったり、ほのぼのとした声が聞こえてくる。
何か、母親が子供を注意しているような印象だった。
ふと、バルミントのことを思い出す。
さて、汗を拭いながら――。
足場の<導想魔手>に立ちながら火口を覗く。
凄まじい熱波が全身を突き抜ける。
前髪が焦げたし、耳朶がめちゃくちゃ熱い。
熱波には火属性の攻撃魔法的な威力は有にある。
肌がヒリヒリする。
んだが、ここはさすがに高度が高い。
時折、周囲から来る風がいい感じの清涼剤だ。
しかし、熱すぎるから<生活魔法>の水を――。
徐々にゆっくりと撒く――。
同時に<水神の呼び声>も発動。
――瑞々しい涼しい空気に満たされる。
水神アクレシス様に、感謝。
視界の端に出現した常闇の水精霊ヘルメが喜びのダンス。
相棒の炎を怖がるヘルメちゃんだが、俄に元気となった。
『――ここは炎神エンフリート様と関係した精霊ちゃんがいっぱいです! もしかしたら火の精霊が直に棲まうところもあるかもです。あ、火の魔宝石も豊富にあるはず!』
『ヘルメ、元気になったな』
『はい! 閣下の<生活魔法>と<水神の呼び声>のお陰でしょう。閣下には<仙魔術・水黄綬の心得>もありますから、素晴らしい効果を生み出します! この水気に満ちた宙空ならば、わたしでも、外に出ることは可能です』
『いやいや、ここは火口の真上。危ないことはしないでいい。緊急的な危ない敵が出た場合は、少しだけ出てもらうかも知れないが』
『はい』
さて、これを投げる――。
無魔の手袋で摘まんだ、姥蛇ジィルの数珠を……。
下の真っ赤な溶岩の海に向けて……けったいな呪いの品よ――あばよ!
と、<投擲>――。
火口湖というか、溶岩の海の中に吸い込まれるように消えていく。
……ふぅ……長年の目標を達成した気分となった。
……清々しい気分だ。
なんだろうか。
先ほどのドラゴンと、奇妙な極大魔石を倒した時よりも、強い安堵感を得た。
んだが……念のため、少し降りてみるか……。
『ヘルメ、あの真っ赤な海と呼ぶべき巨大な溶岩を間近で見る。左目から出て相棒の近くに避難しとけ』
『水の膜で閣下に貢献できます』
『ありがたいが、ヘルメは俺の大事な常闇の水精霊でもある、弱っていると分かっているのに無理はさせられない』
『閣下……愛しています』
『んなことを真顔で言うな、照れるだろう』
『ふふ、あ、前に、お話をしていたようなオカシナことは、しないでくださいね』
『溶岩にダイブか?』
『はい。閣下は〝不死身だが何事も体感しなければ分からないことがある〟と、そして〝光魔ルシヴァルの可能性を試したくないのか〟と、更に〝灰から血肉がちゃんと再生するのか〟〝モンスターや魔人に盛大な火炎魔法を喰らうよりはいいだろう〟から〝相棒の紅蓮の炎が誤爆した場合に備えるのも〟……と、仰ってました』
そんなことも言ったなぁ。
『あはは、言ってた。が、基本は、痛いのは嫌だ。あくまでも考えただけ。素で溶岩には飛び込まない。<血鎖の饗宴>を用いた血鎖鎧でなら、飛び込むかもしれないが』
『……あまり変わっていないような。しかし、閣下は閣下です……仕方ありません。分かりました。では、のちほど――』
『おう』
ヘルメは左目から出る――。
飛翔するヘルメは上半身は人型、下半身は液体のままだ。
巨大な
「相棒も、琥珀と一緒にその空域を確保しといてくれ」
「ンン、にゃお」
さて、熱いが――。
デュラートの秘剣をアクセルマギナに仕舞う。
ハルホンク、素っ裸に移行だ。
「ングゥゥィィ!」
素っ裸でスースー。
火口の真上で、裸の男という構図だ。
これはこれで、画になるのか?
ならないな――。
直ぐに<血鎖の饗宴>を発動――。
<導想魔手>から下りた。
金玉がきゅんっとなった――。
<生活魔法>も抑える。
火口原湖付近は温度差があるからな。
密閉した魔力か、何かの反作用で、水蒸気爆発的な現象が起きるかも知れない。
溶岩の海のような感じだが……。
溶岩に溶けていない岩の棚があちらこちらにあるぞ。
岩の棚は熱に強い特別な岩として、階層的な構造か?
溶岩の滝もある。
しかも、
「ングゥゥィィ! ピカピカ!」
と、
姥蛇ジィルの数珠が怖いが、アイテムがあるのは、あそこか――。
急降下――。
一旦、足下に<導想魔手>を敷いてクッションに。
そして、<
イメージ通り衝撃波ではなくクッションとして<
下から大小様々な魔素を至るところに感じた。
火口原湖の下に棲まうモンスターか。
この環境だから棲息可能なモンスターかな。
魔界セブドラと関係した眷属って線もあるか?
デボンチッチは見かけないが……。
ヘルメの予想通り、神界セウロスと関係した炎神エンフリートの精霊とかもありえるか?
だが、デボンチッチを見かけないから聖域って感じではないのかもな。
熱波が体を突き抜ける。
沸々と気泡が弾ける音。
耳朶が震えるほどの振動波もある。
周囲の溶岩壁が関係した気圧の変化か。
下の火口原湖には、小山を形成する勢いで噴き上がる溶岩もある。
溶岩流がプロミネンス的に噴き上がって、礫を飛ばす。俺のほうにも来た礫。
それら礫を余すことなく<
活動目まぐるしい下の火口原湖は海のように広く、巨大な魔素も蠢くが、その数は熱もあって上手く把握ができない。
向こう側の溶岩壁には……。
歪な溝の形成が見られた。
溶岩が流れている。
斜め背後には、溶岩が流れていない巨大な洞穴もあるようだ。
そこにも魔素の反応があった。
『器よ。神々の残骸もあるかもしれぬ。ぬ、真下、右に、モンスターが大量ぞ!』
『あぁ』
沙が反応した魔素の形は判別できない。
ま、少なくとも、リザードマンではないな。
左手にデュラートの秘剣を召喚。
柄から出たマルアの黒髪が左手に絡む。
これはこれで、呪いの武器みたいだ。
ん、黒髪が柄の部位になって柄頭が少しだけ伸びた。
「短槍のような運用も可能か」
「……」
マルアは黒髪の一部でハートマークを作る。
右手には聖槍アロステを召喚。
宙空の階段を駆け下りる。
階層ごと気圧が変化。
キラキラ光る場所を目指す。
熱波群がる真っ赤な世界が出迎えた。
点在する岩の中で、大きい岩を選び、着地――。
刹那、近くの岩が爆発――。
俄に聖槍アロステで<光穿>を発動。
飛来する岩を光の十字矛が貫いた――。
シュアァァッ――。
とした蒸気的な熱風が身を焦がす。
「アツイ、アツイ、モエル、モエルノ、モエンジェス! ゾォイ!」
モエンジェスの意味が分からない。
「ハル君、コスモが滾っているな?」
「ングゥゥィィ!」
岩には、無数のアイテムが転がっては、聖剣エクスカリバー的に剣が岩に刺さっているのも多い。
溶けかけた剣の欠片、溶けて岩と同化している指輪と腕輪に冠。
と――そこの下の溶岩が抜け落ちた。更に下から真っ赤な魔力の礫が弾け飛んでくる!
すぐに大剣、もとい、短槍としてのデュラートの秘剣を振るった。
<陰・鳴秘>を意識する――が、あのデュエット剣術の時とは、柄の形が違うし、マルアも傍にいない。
勝手が違うから剣術の基本を意識――。
脇を締めての腕をコンパクトに振るうことを心がけた。
幅も拡がっていたデュラートの秘剣の刃が、真っ赤な魔力の礫を潰すように両断。
――ズシャッとした音が響くと、二つに割れた魔力の礫はデュラートの秘剣が吸い取る。
吸い取った効果か――。
デュラートの秘剣の刃文からルシヴァルの紋章樹に咲いた胡蝶蘭の幻影が出現。
『ふふ……嬉しい。愛をありがとう、デュラート……』
マルアの喜びの念話だ。
切なくなって、胸が一杯になった。
が、マルアの微笑む顔を想起すると同時にデュラートの秘剣から深い愛を感じたから嬉しくなった。
指輪と腕輪に冠は溶岩に落ちてしまったが仕方ない。
巨大な頭蓋骨と胸骨に刺さった柄頭が溶けた魔槍を発見。
あれは握ってみたい。んあ――?
人の口と耳と歯が多重に重なって卵のように重なり溶けたヤヴァそうな物もある。
……あれは触ってはだめな奴だ。
次は巨大な骨の手。その骨の手の表面をメタンハイドレートのような物質が覆い、その物質が青白い炎を発していた。その燃えた掌の上に淡い魔宝石が浮く。
浮かぶ淡い魔宝石をヘルメが見たら、反応はしただろうな。
あとで回収候補のアイテムかな。
脳内メモ帳に付箋を貼る。
ピコーンって音は鳴らない。
他にも、巨大な魔素が詰まった溶けた宝箱もある。
あの中身も気になるなぁ。
中は溶解した
溶岩が好きなシェイプシフター系の罠宝箱モンスターかもしれない。
淡い魔宝石と同じく中身が気になったが、岩は陥没するし、溶岩のうねりに巻き込まれていくアイテムも多いから急がないと回収は無理そうだ。
しかし、このアイテムの数を見ると、俺と同じように、呪われた秘宝クラスのアイテムを火口に放り投げた奴らがいるのか。
それとも……魔素の反応から典型的なドラゴンがお宝を集めていた展開とか?
お宝大好きな魔人とか?
シキ、通称コクレターのような蒐集家とか?
そんな予想を立てていると――。
火口湖の中央で巨大な魔素が蠢いた。
途端――反応があった火口がせり上がる。
深紅と紅蓮とバーミリオンが交差する溶岩を纏う怪物?
人っぽい?
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